説明

被膜組成物

【課題】気相物質を効率良く膜に接触・捕集することができ、触媒反応により、気相物質を分解・除去でき、さらに、抗菌・防かび作用を有して、安全、快適、衛生的な室内環境を提供することのできる被膜組成物を提供する。
【解決手段】ゼオライトを主成分とする吸着材と、二酸化チタン、銀または銅を主成分とする無機触媒と、超微粒子シリカを主成分とするバインダーと、顔料と、溶媒とを含み、前記吸着材の質量割合が4〜30%、前記無機触媒の質量割合が1〜5%、前記バインダーの質量割合が5〜20%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜組成物に関し、特に、床、壁等の建築材料として用いるコーティング材に適した被膜組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病院、及び食品施設等では、特有の臭気や細菌・かびなどの発生による臭気が問題視されている。
【0003】
室内の脱臭技術には、消・脱臭剤法、オゾン脱臭法、プラズマ脱臭法、光触媒脱臭法などが挙げられる。
【0004】
消・脱臭剤法は、臭気に消臭・脱臭剤を噴霧・混入・拡散したり、臭気発生源に散布・拡散・滴下し、臭気成分を被服・隠蔽・中和することなどによって、臭気のレベルを低減させたり、脱臭したりするもので、噴霧法、中和法、拡散法、滴下、溶融法などがあるが、高濃度の消臭には対応できないという問題がある。
【0005】
オゾン脱臭法は、臭気中の臭気成分をオゾンの強力な酸化作用により分解することで脱臭するもので、オゾンが触媒を活性化し、その触媒が臭気成分を分解する乾式オゾン脱臭法というものもあるが、これも高濃度の臭気には対応できず、しかも、アンモニアの成分の分解能力が低いという問題がある。
【0006】
プラズマ脱臭法は、臭気を含んだ空気中で電極により放電を行うことで強力な酸化力を持つ活性化された分子、オゾン等を発生させ、それらが臭気成分を酸化、分解するものであるが、引火性の臭気には対応できず、前処理としてミストセパレータや調湿ヒーターの設置、防塵処理が必要となるという問題がある。
【0007】
光触媒脱臭法は、コーティングにより行われるもので、二酸化チタン等の触媒に紫外線を含む光を当てるとプラスの電荷を持った正孔とマイナスの電荷を持った電子が生じ、強い酸化力を持った正孔が空気中等の水を酸化してヒドロキシラジカルに変化させ、このヒドロキシラジカルが臭気成分を分解するものであるが、光触媒の表面付近でしか反応が起こらないため、脱臭効率が低く、光触媒の表面に反応物質が残留し、それを除去しないと反応速度が遅くなり、しかも、光触媒を定置する接着剤も分解してしまうため長期間光触媒を定置できないという問題がある。
【0008】
また、コーティング材として用いるものとして、例えば、特許文献1に示すような銀等の抗菌性金属を用いるものや、特許文献2に示すような抗菌性ゼオライトを用いるようなものも知られている。
【0009】
しかし、これらのコーティング材にあっても、病院、及び食品施設等で生じる特有の臭気や細菌・かびなどの発生による臭気のすべてにその能力を十分に発揮させることは困難である。
【特許文献1】特開2008−63439号公報
【特許文献2】特開2007−223995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高濃度の臭気に対応することができ、安全で、付加設備や前処理等が必要なく、病院、及び食品施設等で生じる特有の臭気や細菌・かびなどの発生による臭気のすべてに脱臭・抗菌・防かびの能力を発揮させる手段として、これらの能力を備えた有機化合物の吸着・分解機能を有するコーティング材の適用が考えられる。
【0011】
コーティング材の有害物質の低減機能を最大限発揮させるには、この気相物質をいかに被膜組成物に捕集させるかが鍵となる。
【0012】
本発明の目的は、気相物質を効率良く膜に接触・捕集することができ、触媒反応により、気相物質を分解・除去でき、さらに、抗菌・防かび作用を有して、安全、快適、衛生的な室内環境を提供することのできる被膜組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、本発明の被膜組成物は、ゼオライトを主成分とする吸着材と、二酸化チタン、銀または銅を主成分とする無機触媒と、超微粒子シリカを主成分とするバインダーと、顔料と、溶媒とを含み、
前記吸着材の質量割合が4〜30%、前記無機触媒の質量割合が1〜5%、前記バインダーの質量割合が5〜20%であることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、気相物質を効率良く膜に接触・捕集することができ、触媒反応により、気相物質を分解・除去でき、さらに、抗菌・防かび作用を有して、安全、快適、衛生的な室内環境を提供することができる。
【0015】
また、本発明の他の被膜組成物は、 ゼオライトからなる質量割合17%の吸着材と、
二酸化チタンを主成分として銀及び銅を加えた質量割合4%の無機触媒と、
超微粒子シリカを質量割合10%、アクリル樹脂を質量割合8%で有するバインダーと、
顔料と、
溶媒と、
を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明のさらに他の被膜組成物は、 ゼオライトからなる質量割合29%の吸着材と、
二酸化チタンを主成分として銀及び銅を加えた質量割合4%の無機触媒と、
超微粒子シリカを質量割合10%、アクリル樹脂を質量割合8%で有するバインダーと、
顔料と、
溶媒と、
を含むことを特徴とする。
【0017】
これらの発明によれば、さらに一層、気相物質を効率良く膜に接触・捕集することができ、触媒反応により、気相物質を分解・除去でき、さらに、抗菌・防かび作用を有して、安全、快適、衛生的な室内環境を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】硫化水素ガスの除去試験結果を示す図である。
【図2】アンモニアガスの除去試験結果を示す図である。
【図3】エチルメルカプタンガスの除去試験結果を示す図である。
【図4】酢酸ガスの除去試験結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
【0020】
本実施の形態にかかる被膜組成物は、病院、福祉及び食品施設等において、床、天井、壁等にコーティング材として塗布することにより、特有の臭気や細菌、かびの発生等の有機化合物を吸着、分解して脱臭、抗菌、防かび作用を発揮させて、安全、快適、衛生的な室内環境を提供するためのもので、吸着材と、無機触媒と、バインダーと、顔料と、溶媒とを含んで構成されている。
【0021】
吸着材としては、ゼオライトを主成分とするもので、天然ゼオライト、人工ゼオライト、アパタイト、活性炭等を各々一種類又は二種類以上混合で用いることができる。
【0022】
天然ゼオライトとしては、中国産天然ゼオライトを用いることができる。
【0023】
この吸着材の被膜組成物における質量割合は、4〜30%となっている。
【0024】
無機触媒としては、二酸化チタン、銀または銅を主成分とするもので、二酸化チタン、金、銀、銅、白金、バナジウム等を各々一種類又は二種類以上混合で用いることができる。
【0025】
この無機触媒の被膜組成物における質量割合は、1〜5%となっている。
【0026】
バインダーとしては、超微粒子シリカを主成分とするもので、超微粒子シリカ、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を各々一種類又は二種類以上混合で用いることができる。
【0027】
超微粒子シリカは、結晶質と非結晶質とが混在した状態となっており、非結晶質部分の存在により有機物質を吸着材、無機触媒に十分に接触させることが可能となる。
【0028】
このバインダーの被膜組成物における質量割合は、5〜20%となっている。
【0029】
顔料としては、有機顔料、無機顔料等を各々一種類又は二種類以上混合で用いることができる。
【0030】
この顔料の被膜組成物における質量割合は、20〜40%となっている。
【0031】
溶媒としては、水、溶剤等を各々一種類又は二種類以上混合で用いることができる。
【0032】
この溶剤の被膜組成物における質量割合は、20〜35%となっている。
【0033】
このような被膜組成物を基材の表面に塗布又は焼き付けて被膜を形成する工程を含むことにより、気相物質を効率よく膜に接触・捕集することができ、触媒反応により、気相物質を分解・除去し、室内の脱臭効果及び抗菌、防かび性能を十分に発揮できる被膜を容易に形成することが可能となる。
【0034】
また、このような製造方法により被膜を形成することで、種々の広範囲な基材に被膜を形成した建材を得ることができる。
【0035】
このような建材にあっては、吸着材がスペーサとなるため、直接触媒が基材、バインダーに触れないので、それらは分解されず、長期間触媒を定着することができる。
【0036】
次に、このような被膜組成物を用いた有害気相物質の除去試験について説明する。
【0037】
1、試験条件
(1)発生ガスの種類
硫化水素、アンモニア、エチルメルカプタン、酢酸
【0038】
(2)ガス量
8リットル
【0039】
(3)測定時間
30分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、10時間後
【0040】
(4)試料の種類
試料A:吸着材17%の被膜組成物
吸着材(天然ゼオライト(中国産)17%)
バインダー(超微粒子シリカ10%、アクリル樹脂8%)、
無機触媒(二酸化チタン3%、銀0.08%、銅0.75%)、顔料35%、
溶剤(水43%)
試料B:吸着材29%の被膜組成物
吸着材(天然ゼオライト(中国産)29%)
バインダー(超微粒子シリカ10%、アクリル樹脂8%)、
無機触媒(二酸化チタン3%、銀0.08%、銅0.75%)、顔料35%、
溶剤(水43%)
試料C:市販セラミック消臭剤
(人工ゼオライト焼付け、触媒:二酸化チタン)
試料D:ブランク(空試験)
【0041】
2、試験結果
(1)硫化水素ガスの除去試験結果
図1に示すように、本願の被膜組成物である試料A及び試料Bの場合、試料C
の場合に比し、有害気相物質硫化水素アガスの脱臭効率が非常に高いことが判
明した。この場合、試料Cの場合には、2時間後でも92%程度であるのに対
し、資料Aでは12%、試料Bでは20%となっていることが判明した。
【0042】
(2)アンモニアガスの除去試験結果
図2に示すように、本願の被膜組成物である試料A及び試料Bの場合、試料C
の場合に比し、有害気相物質アンモニアガスの脱臭効率が非常に高いことが判
明した。特に、30分後から2時間後の間に著しい効果が見られた。
【0043】
(3)エチルメルカプタンガスの除去試験結果
図3に示すように、本願の被膜組成物である試料A及び試料Bの場合、試料C
の場合に比し、有害気相物質エチルメルカプタンガスに対しても脱臭効率が非
常に高いことが判明した。この場合、試料Cの場合には、2時間後でも90%
程度であるのに対し、試料Aではほぼ0%、試料Bでは19%となっているこ
とが判明した。
【0044】
(4)酢酸ガスの除去試験結果
図4に示すように、本願の被膜組成物である試料A及び試料Bの場合、試料C
の場合に比し、有害気相物質酢酸ガスの脱臭効率が非常に高いことが判明した。
【0045】
この場合、試料Cの場合には2時間後には40%弱であるのに対し、試料A、
Bは、2時間後にはほぼ0%に近い状態となっていることが判明した。
【0046】
以上から、本願被膜組成物は、有害気相物質に対して、市販の脱臭剤に比べて非常に
に高い。
【0047】
また、無機触媒が吸着材の骨格構造内部に結合して安定化し、脱臭、抗菌、防かび作
用は長期にわたって持続する。
【0048】
さらに、施工が簡便で迅速に行えるので作業効率が向上することとなる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内におい
て種々の変形実施が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトを主成分とする吸着材と、二酸化チタン、銀または銅を主成分とする無機触媒と、超微粒子シリカを主成分とするバインダーと、顔料と、溶媒とを含み、
前記吸着材の質量割合が4〜30%、前記無機触媒の質量割合が1〜5%、前記バインダーの質量割合が5〜20%であることを特徴とする被膜組成物。
【請求項2】
ゼオライトからなる質量割合17%の吸着材と、
二酸化チタンを主成分として銀及び銅を加えた質量割合4%の無機触媒と、
超微粒子シリカを質量割合10%、アクリル樹脂を質量割合8%で有するバインダーと、
顔料と、
溶媒と、
を含むことを特徴とする被膜組成物。
【請求項3】
ゼオライトからなる質量割合29%の吸着材と、
二酸化チタンを主成分として銀及び銅を加えた質量割合4%の無機触媒と、
超微粒子シリカを質量割合10%、アクリル樹脂を質量割合8%で有するバインダーと、
顔料と、
溶媒と、
を含むことを特徴とする被膜組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−184958(P2010−184958A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28247(P2009−28247)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(308029758)財団法人福岡県すこやか健康事業団 (4)
【出願人】(509040684)特定医療法人雪ノ聖母会 (1)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(507344966)株式会社 グリーンドゥ (1)
【Fターム(参考)】