説明

被覆ガラスの製造

フロートガラスのリボンをコーティングする方法を開示する。この方法は、ガラスリボンを形成する工程と、該リボンが高温である間にリボンの端縁まで延びないリボンの主表面上に第1の透明導電性コーティングを堆積させる工程と、該被覆リボンを徐冷炉内で制御条件下冷却する工程と、リボンの端縁を切断して、切断されたリボンの全幅に亘って延在した均一なコーティングを有するリボンを製造する工程と備え、前記リボンの未被覆端縁が大気温度より高い温度である間に該端縁に第2の導電性コーティングを堆積させることを特徴とする。本発明は、ガラスリボンの厚みが少なくとも8mm、特にガラスの厚みが少なくとも10mmである被覆ガラス製品の製造への特定の適用であることが分かる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロートガラス製造処理中に被覆ガラスを製造するための新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1952年にピルキントン社により開発されたフロートガラス法は、現在高品質ガラスの製造ために世界標準となっている。フロートガラスは、多くの場合、建築物及び車両に組み込まれる前にさらに処理される。
【0003】
この方法を用いて0.4mmと薄いガラス及び25mmと厚いガラスを製造する。正確に混合された原料のバッチを加熱炉内で溶融する。約1000℃の溶融ガラスを、加熱炉から溶融スズの浅いバスに化学的に制御された雰囲気で連続的に注ぐ。ガラスがスズ上に浮かび、展開し、水平面を形成する。厚みは、凝固ガラスリボンをバスから引き出す速度によって制御される。製造されたガラスのリボンをガラス焼なまし炉に通し、ここで制御された条件下で冷却する。徐冷後、ガラスがほぼ平行な面を有するファイヤーポリッシュ製品として出現する。
【0004】
ガラスの伝熱及び光透過特性は、透明なコーティングをガラスリボンの少なくとも一方の表面上に堆積させることにより変えることができる。かかるコーティングは、フロートガラス製造処理中に堆積させてもよい。かかるコーティングを堆積させるのに用いるプロセスは、通常オンラインコーティングプロセスと呼ばれる。かかるプロセスは、商業生産において十分に確立され、大気圧化学蒸着法(以下、便宜上、「APCVD法」とする)を用いて実施してもよい。APCVD法においては、流体混合物をガラスリボンが高温となった点で該リボンの表面に向け、ガラスの熱が流体混合物中の成分の反応及びコーティングのガラスリボン表面への堆積を引き起こす。かかるプロセスは、特にフロート浴に有用である。該フロート浴を、スズの酸化を回避するために減圧下で維持し、また実質的に大気圧で維持する。ガラスは、通常750℃〜400℃の高い温度にある。
【0005】
かかるプロセスは、特許文献1に記載されたような既知の方法及び装置を用いて行うことができる。前記装置は、通常フロート浴部分を横切って延在する一つ以上の分配ビームを備える。該プロセスは、ガラスリボンの全幅をコーティングするように設計され、分配ビームが通常、前記リボンの全幅に亘って延在するように表わされる。しかしながら、実際には、分配ビームがリボンの端縁まで延在しない。なぜなら、液体混合物中の成分がフロート浴内でスズと反応及び/又は汚染する可能性があるからである。リボンの先端が未被覆のままであり、前記リボンが徐冷炉を離れた後に切断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第785868号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フロートガラス製造プロセスで通常直面する1つの問題は、徐冷炉を通過する際のガラスリボンの破損である。これらの破損は、有用なガラスの収率を低減し、プロセスの経済性を損なわせる予想できない事項である。これらは、おそらく未被覆ガラスの製造中に起こる。その理由は、ナール(knurl)としばしば称するリボンの先端がリボンの中心よりも薄くてリボン内に熱応力及び機械的応力をもたらすからである。リボンにおける破損の問題が、被覆ガラスリボンを製造した際に悪化する。リボンの熱損失割合が、該リボンの被覆部分よりもリボンの未被覆端縁で大きい。このことは、リボンが徐冷炉を通過すると、これら2つの部分間に温度差をもたらし、望ましくないリボンの破損をもたらし得る熱応力を生じる。
【0008】
加熱手段を設けてリボンの未被覆端縁の温度を上昇させることによって、破損の数を減少させる試みがなされている。かかる試みは、特にガラスリボンの被覆部分が4mmを超える厚さを有する場合に全く成功していない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記徐冷炉における破損の問題がガラスリボンの未被覆端縁に導電性材料を含む層を堆積させることによって軽減され得ることを発見した。従って、本発明の第一の態様は、ガラスリボンを形成する工程と、該リボンが高温である間にリボンの端縁まで延びないリボンの主表面上に第1の透明導電性コーティングを堆積させる工程と、該被覆リボンを徐冷炉内で制御条件下冷却する工程と、リボンの端縁を切断して、切断されたリボンの全幅に亘って延在した均一なコーティングを有するリボンを製造する工程とを備える被覆ガラスリボンの製造方法を提供するもので、前記リボンの未被覆端縁が大気温度より高い温度である間に該端縁に第2の導電性コーティングを堆積させることを特徴とする。端縁コーティングを塗布する時点でのガラスリボンの温度は、少なくとも300℃が好ましく、少なくとも400℃がより好ましく、少なくとも500℃が最も好ましい。端縁コーティングを高温で塗布することは、リボンが少ししか冷却されず、その結果少ししか応力を受けないことを意味する。また、端縁コーティングをこれらの温度でより容易に且つ急速に堆積させることができる。リボンがフロート浴から出現する際の温度は通常600℃に近く、第2の端縁コーティングをフロート浴で堆積させると該浴を汚染する恐れがあるので、リボンがフロート浴から出現した後に第2の端縁コーティングを堆積させるのが好ましい。好ましい実施形態では、リボンがフロート浴と徐冷炉との間の間隙を横切るように通過する際に、第2のコーティングを堆積させる。リボンが徐冷炉内にある間に、第2のコーティングを堆積させてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
APCVD法を用いてフロートガラス処理中に種々の酸化物をガラスリボン上に堆積させていた。複数の分配ビームをフロート浴内で用いて多層コーティングを堆積させる。また、複数のコーティングビームの供給は、コーティングの厚み、又はコーティング内の個々の層の厚みを増加させることが可能である。
【0011】
このようにして製造した被覆ガラスは、特に断熱性、太陽光制御性、自浄性及び反射防止性を含む種々の特性を示す。導電性であるコーティングをこのようにして堆積させることができ、これら被覆生成物がCRT及びフラットスクリーンパネルディスプレイ、並びに冷蔵庫のドアのような加熱ガラス製品を含む種々の用途に用いられることを発見した。
【0012】
コーティングの塗布は、リボンの端縁における未被覆ガラスのものと比較して熱損失割合を低減する。このことは、特に長波長赤外光を反射するように設計された低放射率コーティングにあてはまる。フロートガラスの放射率が約0.84であるのに対し、低放射率コーティングを有するガラスの放射率は、通常0.15〜0.25の範囲である。特定のコーティングの放射率εは、完全な放射体で、且つ放射率単位元(ε=1)を有するものとして規定される黒体と比較して、当該コーティングがエネルギーを吸収し、放射する傾向に言及する。放射率が放射線の波長で変化するので、前記表記値は通常5ミクロン〜55ミクロンの波長範囲の平均である。低放射率コーティングは、本明細書全体にわたって言及するように、より長波長の熱エネルギーの貧弱な吸収放射体であり、1未満のεを有する。
【0013】
本発明の方法において、端縁コーティングは、リボンの中央部における被覆ガラスのものと同等の放射率のコーティングであることが好ましい。リボンの端縁におけるコーティングが中央部におけるコーティングと同じであってもよいが、経済及び実用性の理由から通常同一でない。例えば、多層コーティングの提供は、高価で、また非実用的な場合がある。さらに、APCVD法は、ガラスの熱を利用して堆積反応を促進するので、ガラスの温度がより低いときに形成されたコーティングが、ガラスがより高温度であるときに同一反応によって堆積されたものと同一でない場合がある。
【0014】
ガラスリボンの端縁でのコーティング厚みは、該ガラスリボンの中央部における被覆ガラスのものに近い放射率を有するリボンの被覆端縁を提供するように変えることができる。コーティング及びその厚みは、リボンの被覆端縁の放射率を0.8から0.2〜0.7の範囲の値まで低減するようなものであることが好ましい。
【0015】
多種多様な導電性透明コーティングをガラス基板に塗布し、これら全てが本発明の方法においてリボンの端縁をコートするのに潜在的に有用である。かかるコーティングの一つのグループは、フッ素がドープされた酸化スズ、酸化スズ、アンチモンがドープされた酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ(ITO)、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛及びガリウムがドープされた酸化亜鉛のような金属酸化物及びドープされた金属酸化物を含む。
【0016】
これら材料の一つ以上を含み、層の厚みを制御した多層コーティングが、種々の有用な特性を有する被覆ガラスを提供する。このような製品が市販されており、通常ハード被覆製品と呼ばれる。これは、真空スパッタリングのようなオフラインコーティング法によって製造された所謂ソフト被覆製品から区別される。
【0017】
これら端縁コーティングは、既知の方法及び既知の化学品を用いて堆積させることができる。例えば、酸化スズコーティングは、四塩化スズと水、四塩化スズと低級アルコールと水、ジメチルスズジクロライドと水、ジメチルスズジクロライドと水と酸素、モノブチルスズトリクロライドと水と酸素、又はモノブチルスズトリクロライドとエチルアセテートと酸素のようなシステムを用いたAPCVD法によって堆積させることができる。フッ素がドープされた酸化スズコーティングは、フッ化水素酸、トリフルオロ酢酸又はヘキサフルオロプロピレンオキシドのような揮発性のフッ素前駆体を酸化スズの堆積用のAPCVD法に導入することによって堆積させてもよい。フッ素がドープされた酸化スズコーティングの堆積に好ましい化合品としては、モノブチルスズトリクロライド、酢酸エチルとフッ化水素酸と塩化第2スズ、メタノール、水とフッ化水素酸が挙げられる。酸化亜鉛コーティングは、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛及びsec−ブトキシ亜鉛のような揮発性有機亜鉛化合物を酢酸エチルのようなエステル又は酸素とともに用いて堆積させてもよい。
【0018】
使用し得る他の既知の方法は、金属の前駆体を含む液体をリボンの端縁表面に噴霧するスプレーコーティングシステムである。上述した化学品のどれでもスプレーコーティング法に使用することができる。特に好ましいスプレーコーティング法は、モノブチルスズトリクロライド、酢酸エチル及びフッ素化水素を用いてフッ素がドープされた酸化スズコーティングを堆積させるものである。
【0019】
更なるタイプの既知方法は、気体又は液体を被覆すべき表面に隣接して位置する火炎中で燃焼する燃焼化学蒸着(CCVD)法である。再び、上述した化学品をCCVD法に使用することができる。CCVD法においては、前駆体を火炎中で分解する。このことは、APCVD法で有用でない酢酸スズ又は酢酸亜鉛等の前駆体が有用になり得ることを意味する。ガラスの温度が比較的低い場合に、CCVD法がAPCVD法よりもより効果的となり得る。
【0020】
ガラスリボンの端縁を被覆するのに用い得る更なるタイプのコーティング法は、ゾルゲルコーティング法である。ゾルゲル法においては、液体媒体を表面上に塗布し、次いで加熱して溶媒を蒸発し、コーティングを形成する。
【0021】
端縁コーティングの厚みは、概して5nm〜500nmの範囲であり、より通常には100nm〜300nmの範囲である。
【0022】
これら方法は、フロート浴中を通過する間にガラスの端縁を被覆するのに用いることができるが、徐冷炉の間隙、すなわちリボンがフロート浴から徐冷炉に通過する際又は徐冷炉の浴自体においてガラスを被覆するのに用いるのが好ましい。被覆ガラスが徐冷炉を通過したとき、被覆端縁を切断し、破棄する。端縁に塗布するコーティングの質は重大ではなく、またその均質性の変動は一般に本方法の性能に影響を与えない。同様に、ガラスリボンの被覆端縁での可視光透過が、該リボンの中央部における被覆ガラスのものより少なくすることができる。
【0023】
本発明の方法は、ガラスリボンの厚みが少なくとも8mm、特にガラスの厚みが少なくとも10mmである被覆ガラス製品の製造への特定の適用であることが分かる。本発明は、この厚みの被覆ガラス、特に低放射率被覆ガラスを少ないリボンの破損でフロートガラスプロセスにおいてオンラインで製造することを可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスリボンを形成する工程と、該リボンが高温である間にリボンの端縁まで延びないリボンの主表面上に第1の透明導電性コーティングを堆積させる工程と、該被覆リボンを徐冷炉内で制御条件下冷却する工程と、リボンの端縁を切断して、切断されたリボンの全幅に亘って延在した均一なコーティングを有するリボンを製造する工程とを備え、前記リボンの未被覆端縁が大気温度より高い温度である間に該端縁に第2の導電性コーティングを堆積させることを特徴とする被覆ガラスリボンの製造方法。
【請求項2】
前記リボンをフロートガラス製造プロセスの一部として製造することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リボンが、少なくとも8mmの厚さを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の透明コーティングが、10nm〜500nmの範囲の厚さを有することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の透明導電性コーティングを、化学蒸着法を用いてフロート浴中で堆積させることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のコーティングを前記ガラスリボンの端縁に塗布し、該リボンの温度が少なくとも300℃であることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記リボンの温度が500℃〜600℃であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2のコーティングを前記フロート浴と徐冷炉との間の間隙においてガラスリボンに塗布することを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2のコーティングを、熱分解スプレー蒸着法を用いて塗布することを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2コーティングを、化学蒸着法を用いて塗布することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記第2のコーティングを、燃焼化学蒸着法を用いて塗布することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記第1の透明コーティングが、低放射率コーティングであることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の導電性コーティングで被覆されたガラスの放射率が、前記第2の導電性コーティングで被覆されたガラスの放射率と実質的に同じであることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の導電性コーティングの放射率が0.2〜0.7であることを特徴とする請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の導電性コーティングが酸化スズからなることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の導電性コーティングがフッ素がドープされた酸化スズからなることを特徴とする請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2011−519813(P2011−519813A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507996(P2011−507996)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050479
【国際公開番号】WO2009/136201
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(591229107)ピルキントン グループ リミテッド (82)
【Fターム(参考)】