説明

被覆固形製剤

【課題】催眠・鎮静作用の薬効成分として用いられるジフェンヒドラミンまたはその酸付加塩を含有する、光に対し安定性を有し、苦みが軽減され、かつ薬理効果の発現が速やかな被覆固形製剤の提供。
【解決手段】ジフェンヒドラミンまたはその酸付加塩を含有する固形剤を、遮光剤、糖類及び水溶性高分子物質を含有する皮膜で被覆する被覆固形製剤であり、糖類としては好ましくはマンニトール及び/又は乳糖であり、水溶性高分子物質としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである被覆固形製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、催眠・鎮静作用薬の薬効成分として用いられるジフェンヒドラミン又はその酸付加塩(以下、ジフェンヒドラミン等という。)を含有する被覆固形製剤、及びその製造方法に関する。より詳細には、光に対し安定性を有し、苦みが軽減され、かつ薬理効果の発現が速やかな、ジフェンヒドラミン等を含有する被覆固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ジフェンヒドラミン等は、抗ヒスタミン作用の他に催眠作用を有することが知られている薬物であり、血液中からの消失も比較的速く、習慣性もないことから、欧米では、処方箋のいらない催眠薬として成人一回当たり50mgの投与量で使用されている。
例えば、塩酸ジフェンヒドラミンを催眠薬として服用する場合には、眠気が生じる血漿中のジフェンヒドラミン濃度は50ng/mL以上であるとされている。また、塩酸ジフェンヒドラミン50mgを経口投与したとき、その血漿中濃度の時間推移の平均値は、投与後2〜4時間にかけて50ng/mLをわずかに上回るものであるとされている(非特許文献1)。
しかしながら、服用条件によって製剤の崩壊や有効成分の溶出が遅くなると、催眠剤としての効果が充分に発揮できず、催眠剤については服用後の速やかな生体内吸収が望まれている。
【0003】
ところで、ジフェンヒドラミン等は刺激的な強い苦みを有しており、舌を麻痺させる等、服用時に不快感を与える。この苦みによる不快感を改善する方法として、油脂や非水溶性高分子化合物を含む皮膜やマトリックスにより、溶出性を遅らせ、味を隠蔽する方法があるが、この方法では、催眠薬として効果の発現に必要速やかな吸収、或いは効果発現に必要ととされる量が吸収されなくなる恐れがあった。
【0004】
また、ジフェンヒドラミン等は、光によって徐々に変色し、分解することが知られている。この分解に対しては、遮光性を有する箱や包装容器内に保管する方法により防止することが可能ではあるが、医療用製剤と異なり、一般用医薬品の場合には、通常、患者がそのような包装容器に常に保管しておくことは困難である。
【0005】
そこで、ジフェンヒドラミン等を含有する固形製剤を安定に保存する方法として、遮光性物質を含有する水溶性高分子物質、例えば、酸性〜中性の水系の環境下で溶解する皮膜形成物質の皮膜で被覆した固形製剤が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、この固形製剤にあっては、被覆する皮膜剤中に多量の遮光剤を含有させているものであり、遮光性物質の添加量が被膜の固形分全体の5質量%未満である場合には、変色の防止が十分でないことが多く、また、添加量が50質量%を超えると皮膜自体の強度が低下する等の問題があった。
【0006】
したがって、服用時の苦みを隠蔽し、かつ、光による変色・分解を防止することができると共に、速やかな放出性を有し、より安定なジフェンヒドラミン等を含有する固形製剤の開発が望まれているのが現状である。
【特許文献1】特開2003−300872号公報
【非特許文献1】Carruthersら:Clin. Pharmacol. Ther.: 23(4),375〜382,1978
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の現状を鑑み、光に対し安定であり、また服用時の苦みを軽減し、その催眠効果の発現が速やかな、ジフェンヒドラミン等を含有する固形製剤を提供することを課題とする。
【0008】
かかる課題を解決するべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ジフェンヒドラミン等を含有する固形製剤を、遮光剤、糖類及び水溶性高分子物質を含有する皮膜で被覆することにより得られる被覆固形製剤(以下、被覆固形製剤という)が、上記した課題を解決するものであることを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、
(1)ジフェンヒドラミン又はその酸付加塩を含有する固形製剤を、遮光剤、糖類及び水溶性高分子物質を含有するコーティング剤で被覆したことを特徴とする被覆固形製剤;
(2)糖類が、乳糖、白糖、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、果糖、ラクチュロース、ラクチトール、マンニトール、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、粉末還元麦芽糖水飴からなる群から選ばれる1種以上である上記(1)記載の被覆固形製剤;
(3)遮光剤が、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、カオリン、三二酸化鉄からなる群から選ばれる1種以上である上記(1)又は(2)に記載の被覆固形製剤;
(4)水溶性高分子物質が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、ゼラチン、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、ポリビニルジアセタールジエチルアミノアセテートから選ばれたものである上記(1)ないし(3)に記載の被覆固形製剤;
(5)遮光剤の添加量が、皮膜の固形分全体の0.1〜5質量%未満である上記(1)ないし(4)に記載の被覆固形製剤;
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明が提供するジフェンヒドラミン等を含有する被覆固形製剤は、遮光性物質と糖類と水溶性高分子物質を含有するコーティング剤を用いてジフェンヒドラミン等を含有する固形製剤を皮膜することにより、少量の遮光性物質により遮光性を付与することができ、光による変色・分解を防止することが可能となる。
また、服用時の苦みを隠蔽した、服用し易い被覆固形製剤であり、糖類を含有する水溶性高分子物質からなる皮膜は溶解し易いものであることから、服用後速やかな睡眠・鎮静作用を発現することが可能となる。
さらに、本発明の糖類を含有する水溶性高分子物質からなる皮膜は弾力性に富むものであって、保存安定性、取扱性に優れた被覆固形製剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、上記したように、その基本的態様は、睡眠・鎮静作用を有する薬効成分として用いられるジフェンヒドラミン等を含有する固形製剤を、遮光剤と糖類と水溶性高分子物質を含有するコーティング剤により、皮膜で被覆することにより得られる被覆固形製剤である。
【0012】
本発明において、睡眠・鎮静作用を有する薬効成分として用いられるジフェンヒドラミン等としては、例えば、塩酸ジフェンヒドラミン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、クエン酸ジフェンヒドラミン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、ラウリル硫酸ジフェンヒドラミン、硫酸ジフェンヒドラミンを挙げることができる。好ましくは、塩酸ジフェンヒドラミン及びクエン酸ジフェンヒドラミンである。
なお、遊離のジフェンヒドラミンは液状を有するものであり、この遊離塩基は、例えば、軽質無水ケイ酸等の粉体に担持させて粉粒体化して使用することもできる。
本発明においては、固形状のジフェンヒドラミン等の原末は、任意の平均粒子径のものを使用することができる。粒子径が比較的小さい場合、苦みが増すことがあるが、溶解性を考慮した場合30μm未満のものを使用するのが好ましい。
【0013】
本発明の被覆固形製剤の製造に使用する上記ジフェンヒドラミン等を含有する固形製剤の形態としては、酸付加塩の原末をそのまま、或いは、賦形剤、結合剤、崩壊剤等の一般的な製剤添加物と共に製剤化した錠剤(素錠)、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤等の形態の固形製剤が挙げられる。好ましくは、錠剤(素錠)である。
【0014】
固形製剤中のジフェンヒドラミン等の配合量は、その有効投与量、含有させるべき固形製剤の形態により異なり、一概に限定することはできないが、通常、0.1〜100質量%の範囲である。
【0015】
本発明において、遮光剤、糖類及び水溶性高分子物質を含有するコーティング剤で被覆する固形製剤の製造は、一般的な製剤技術により行うことができる。例えば、ジフェンヒドラミン等に一般的に使用されている製剤添加物を配合し、常法に従って処理することにより調製することができる。
そのような製剤添加物としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、界面活性剤、溶解補助剤、還元剤、緩衝剤、吸着剤、流動化剤、帯電防止剤、抗酸化剤、甘味剤、矯味剤、清涼化剤、遮光剤、着香剤、香料、芳香剤等を挙げることができる。
【0016】
例えば、固形製剤が、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤又は丸剤等である場合には、まず、ジフェンヒドラミン等と製剤添加物により造粒物を常法に従って、例えば、水や有機溶媒を含む溶液又は分散液を使用する噴霧造粒法、撹拌造粒法、流動造粒法、転動造粒法、転動流動造粒法等の湿式造粒法、粉粒状の結合剤を使用する圧密造粒法等の乾式造粒法等により調製する。
【0017】
顆粒剤、細粒剤又は散剤の場合には、得られた造粒物の粒径を調整し、篩い分けを行うことにより整粒し、製造することができる。
錠剤(素錠)の場合には、常法に従って、得られた造粒物を、必要であれば他の製剤添加物と混合し、圧縮成型(打錠)することにより調製することができる。
【0018】
そのような他の製剤添加物としては、例えば、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、マルトデキストリン、エチルセルロース、乳糖、ソルビトール、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ステアリン酸、オレイン酸、流動パラフィン、第二リン酸カルシウム、セバチン酸ジブチル、マクロゴール、プロピレングリコール、コーンスターチ、デンプン、アルファー化デンプン、ゼラチン、ポピドン、クロスポピドン、グリセリン、ポリソルベート80、クエン酸、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、炭酸ナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等を挙げることができる。
【0019】
本発明の被覆固形製剤の調製に使用するコーティング剤を構成する遮光剤としては、固形製剤への光の進入を防ぎ、被膜成分となる糖類及び水溶性高分子物質の皮膜形成性に影響を与えないものであれば、特に制限されない。そのような遮光剤としては、例えば、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン等の酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、カオリン、三二酸化鉄等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して使用することができる。なかでも、好ましくは、酸化チタンである。
【0020】
本発明の被覆固形製剤に使用する遮光剤の量は、固形製剤に被覆する被膜の厚みにより一概に限定できないが、コーティング剤の全固形成分中、0.5〜5質量%未満であるのが好ましい。遮光剤の添加量が0.5質量%未満の場合は、固形製剤の変色を防止するのに十分でなく、また、配合量が5質量%超えると皮膜自体の強度が低下することとなり、好ましいものではない。
【0021】
本発明のコーティング剤に使用する糖類としては、乳糖、白糖、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、果糖、ラクチュロース、ラクチトール、マンニトール、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、粉末還元麦芽糖水飴等を挙げることができる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。好ましくはマンニトール及び/又は乳糖である。
この糖類を被膜成分の一種として用いることにより、被覆固形製剤は崩壊性に優れたものとなり、有効成分であるジフェンヒドラミン等の生体内吸収性が速やかに行えるものとなる特徴を有する。
【0022】
本発明のコーティング剤に使用する水溶性高分子物質としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、ゼラチン等の水溶性高分子物質、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギトE)、ポリビニルジアセタールジエチルアミノアセテート等の酸可溶性高分子物質等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0023】
コーティング剤中の水溶性高分子物質の添加量は、通常、皮膜の固形分を基準としてその全体の40〜80質量%の範囲であり、好ましくは55〜70質量%である。
また、水溶性高分子物質と糖類との配合比は特に制限されないが、好ましくは、水溶性高分子物質と糖類との質量比が2.0〜2.4:1の範囲にあるのが好ましい。
【0024】
本発明のコーティング剤中には、皮膜の溶解性に大きく影響を与えない範囲で、可塑剤、凝集防止剤、着色料、隠蔽剤、滑沢剤等を配合することもできる。
【0025】
前記した製造法で得られた固形製剤を、遮光剤、糖類及び水溶性高分子物質を含有するコーティング剤で被覆し、皮膜を形成する方法としては、それ自体公知の方法を使用することができる。例えば、パンコーティング法、流動層コーティング法、転動コーティング法を挙げることができる。
具体的には遮光剤、糖類及び水溶性高分子物質を、水や有機溶媒に溶解、分散させコーティング剤を調製し、固形製剤にスプレーコーティングするか、またはコーティング剤を固形製剤に直接散布し行うことができる。
【0026】
例えば、素錠への被覆は、遮光剤と糖類と水溶性高分子物質を、常法に従って、水、エチルアルコール、アセトン、塩化メチレン、イソプロピルアルコール等、好ましくは、水に溶解又は分散させてコーティング剤とし、これを、例えば、パンコーティング法、通気乾燥式コーティング装置等により、素錠にスプレーコーティングする方法が挙げられる。
【0027】
上記の遮光剤と糖類と水溶性高分子物質で形成されるコーティング剤の被覆量、すなわち、固形分の被覆固形製剤の質量に対する被覆量は、被覆固形製剤の剤形にもよるが、固形分として平均0.5〜20質量%未満である。0.5質量%未満の場合は、遮光性が低下し、また、苦みの隠蔽が十分でないことがあり、また、20質量%を超えると皮膜が厚くなり、被覆固形製剤の崩壊が遅くなる。
【0028】
以上のようにして調製される本発明の被覆固形製剤は、ジフェンヒドラミン等を含有する固形製剤を、遮光性を有する遮光剤と糖類を含有する水溶性高分子物質からなる皮膜で被覆しているため、少量の遮光剤の使用にも関わらず、被覆された固形製剤の変色がなく、安定であり、かつ、糖類の使用により服用時の苦みが従来品よりも強くマスキングされたものである。
さらに、服用後速やかに被覆膜が溶解を開始できるものであり、ジフェンヒドラミン等の薬効の発現が速やかなものである。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0030】
実施例1:
[素錠の調製]
(1)平均粒径30μm未満に粉砕した塩酸ジフェンヒドラミン[金剛化学(株)製]900g、乳糖2340g[賦形剤、DMV社(株)製]、トウモロコシデンプン[賦形剤、日本コーンスターチ(株)製]1022gの混合粉体を、流動層造粒機[商品名 FLO−5;フロイント産業(株)製]を使用し、予め、ヒドロキシプロピルセルロース[結合剤、日本曹達(株)製]130gと精製水1490gに溶解させて得た水溶液(濃度8%)を用い造粒し、乾燥、篩過することにより造粒品を得た。
得られた造粒品の物性は、以下のとおりであった。
安息角(°)40.5:比容積(mL/g)ルーズ2.43:タップ1.95:水分(%)0.8%以下。
【0031】
(2)前記(1)の製造法で得た造粒品4298gと、ステアリン酸マグネシウム[滑沢剤、太平化学産業(株)製]21.6gを混合機[商品名 ボーレコンテナーミキサー;コトブキ技研工業(株)製]にて混合し、混合品を得た。
【0032】
(3)前記(2)の製造法で得た混合品4329gを、打錠機[商品名 HT−P22;(株)畑鐵工所製]し、直径7mmの素錠(固形製剤)を得た。
得られた素錠(固形製剤)の物性は、以下のとおりであった。
崩壊試験:7分以内(水、補助板なし)、硬度(kp)4〜7kp、水分量(%)1.3%以下。
【0033】
[被覆固形製剤の調製]
(4)次いで、前記(3)の製造法で得られた素錠に対し、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910[コーティング剤、信越化学工業(株)製]293g、D−マンニトール[コーティング剤、ロケットジャパン(株)製]135g、酸化チタン[遮光剤、フロイント産業(株)製]22.5g、精製水3600gからなるコーティング液を、ハイコーター[商品名、HCT−48N;フロイント産業(株)製]にて、乾燥状態で約130mg/錠となるようスプレーコーティングして被覆固形製剤(錠剤)を得た。この錠剤の径は7mmであった。
上記被覆固形製剤の物性値:硬度15〜19kp、崩壊試験10分以内
上記被覆固形製剤について、常法に従って、形態の安定性を試験したところ損傷するものはなかった。
【0034】
実施例2:
前記実施例1の製造方法において、マンニトールを乳糖に代えた他は、実施例1の製法に準拠して被覆固形製剤を得た。
【0035】
比較例1:
前記実施例1で製造した素錠を、そのまま比較対象の錠剤とした。
【0036】
比較例2:
前記実施例1で製造した素錠910gに対し、実施例1の方法に準拠して、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910[コーティング剤、信越化学工業(株)製]78.0g、精製水312gからなるコーティング液を、ハイコーター[商品名、HCT−30;フロイント産業(株)製]にて、スプレーコーティングして被覆錠剤を得た。この被覆錠剤の径は7mmであった。
【0037】
試験例1:光に対する安定性試験
実施例1及び2、並びに比較例1及び2で得られた各錠剤について、光に対する安定性を試験した。
各試験錠剤について、毎時3,000ルックスの光照射を行った。17日間の光照射後、各試験錠剤の外観を、製造直後の錠剤の外観と比較し、光安定性を調べた。
その結果は表1に示すとおりであった。
【0038】
【表1】

【0039】
表中に示した結果から明らかなように、本発明の実施例1及び2の被覆固形製剤は、比較例1の被覆を行っていない素錠や、比較例2の遮光剤を含有しない被膜で被覆した錠剤に比べ、光照射に対する安定性が優れていた。
【0040】
試験例2:味覚試験
実施例1及び2、並びに比較例1及び2で得られた各錠剤について、苦みのマスキング効果を比較した。
健康成人5名により、それぞれ1錠を口中に含み、10秒間噛み潰さずに保持し、苦みの評価試験を実施した。
評価基準は以下のとおりである。
評価点0:苦みを感じない
評価点1:わずかに苦い
評価点2:苦い
その結果は、表2に示すとおりであった。
【0041】
【表2】

【0042】
上記の結果から明らかなように、本発明の実施例1及び2の製剤は、素錠に平均粒子径30μm未満の塩酸ジフェンヒドラミンを含有させているにも関わらず、ほのかな甘みが感じられ、苦みが感じられないものであった。
これに対し、比較例1の素錠では服用時に苦みを感じ、また比較例2の錠剤では服用時にわずかに苦みを感じる場合があった。その原因としては、皮膜の破損があったものと推測される。
【0043】
試験例3:崩壊試験
実施例1で得られた被覆固形製剤(錠剤)について、その崩壊性を調べた。
崩壊性試験は、第14改正日本薬局方の崩壊試験法に準じ、崩壊試験機[富山産業(株)製]で、37℃の水を用いて測定した。
錠剤6個の崩壊時間の範囲を表3に示した。
【0044】
【表3】

【0045】
この結果から明らかなように、被膜成分として糖類と水溶性高分子物質を含有する被覆固形製剤は、崩壊性に優れたものであり、有効成分である塩酸ジフェンヒドラミンの速やかな生体内吸収性が確保されていた。
これは、コーティング剤としての糖類の配合が好ましく影響しているものであると推測された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上記載のように、本発明が提供するジフェンヒドラミン等を含有する被覆固形製剤は、遮光性物質と糖類と水溶性高分子を含有するコーティング剤を用いてジフェンヒドラミン等を含有する固形製剤を皮膜することにより、光による変色・分解を防止することが可能となる。
また、服用時の苦みを隠蔽した、服用し易い被覆固形製剤であり、糖類を皮膜成分として用いたことから、服用後速やかな睡眠・鎮静作用を発現することが可能な製剤を提供できる点で、医療上の価値は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフェンヒドラミン又はその酸付加塩を含有する固形製剤を、遮光剤、糖類及び水溶性高分子物質を含有するコーティング剤で被覆したことを特徴とする被覆固形製剤。
【請求項2】
糖類が、乳糖、白糖、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、果糖、ラクチュロース、ラクチトール、マンニトール、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、粉末還元麦芽糖水飴からなる群から選ばれる1種以上である請求項1記載の被覆固形製剤。
【請求項3】
遮光剤が、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、カオリン、三二酸化鉄からなる群から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載の被覆固形製剤。
【請求項4】
水溶性高分子物質が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、ゼラチン、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、ポリビニルジアセタールジエチルアミノアセテートから選ばれたものである請求項1ないし3のいずれかに記載の被覆固形製剤。
【請求項5】
遮光剤の添加量が、皮膜の固形分全体の0.1〜5質量%未満である請求項1ないし4のいずれかに記載の被覆固形製剤。

【公開番号】特開2007−284394(P2007−284394A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114899(P2006−114899)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(594105224)東亜薬品株式会社 (15)
【Fターム(参考)】