説明

被覆防食パネル及び該被覆防食パネルを使用した護岸工事方法

【課題】 コンクリート打設後、取り外すことなくコンクリートと一体化される被覆防食パネル及び被覆防食パネルを使用した護岸工事方法を提供することである。
【解決手段】 プレキャストコンクリート製の被覆防食パネルであって、平板部と、該平板部から前方に迫り出した迫り出し部と、該迫り出し部に連続するヘッド部と、該迫り出し部の背面に形成された梁と、該平板部の背面に配設された少なくとも縦方向に伸長する複数の第1トラス鉄筋と、該ヘッド部の背面から後方に伸長する複数のループ鉄筋と、を具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川等の護岸工事に埋設型枠として使用され、コンクリート打設後はコンクリートと一体化される被覆防食パネル及び該被覆防食パネルを使用した護岸工事方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部等における河川・運河は、水辺に人々の憩いの場を提供する住環境開発を行うため、親水公園や護岸テラスが設けられるようになってきている。親水公園や護岸テラス等の工事においては、船上での作業が多く、また護岸構造物を構築するときの型枠の設置や取り外しに水中工事を伴うため、安全上の問題や工期の問題等が発生し易い。
【0003】
従来の護岸工事方法では、圧入した鋼管矢板の前面側に鋼製型枠及び曲面を有する支保工を設置し、水中コンクリートを打設後、十分な養生期間を置いた後、鋼製型枠及び支保工を撤去するようにしていた。
【0004】
例えば、施工延長120メートルの護岸工事を実施する場合には、鋼製型枠+支保工+コンクリートの現場打ちを40メートルを1サイクルとして3回繰り返すことにより、工事を完成していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の護岸工事方法では、鋼製型枠及び曲面を有する支保工を設置してコンクリート打設後、9日程度の養生期間をおいてから鋼製型枠及び支保工を撤去していたため、例えば120メートルの護岸工事に60日程度の長期間の工期を必要としていた。
【0006】
また、従来は鋼製型枠及び曲面を有する支保工を設置してから水中コンクリートを打設し、十分な養生期間をおいた後鋼製型枠及び支保工を撤去するようにしていたため、コンクリートが水中で分離され易くジャンカが生じ易いという問題があった。
【0007】
ジャンカとは、打設されたコンクリートの一部に粗骨材が多く集まって出来た空隙が多く脆くなった構造物の不良部分をいう。ジャンカは、コンクリートを打設するときの材料の分離、締固め不足、型枠下端からのセメントペーストの漏れなどによって生じる。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コンクリート打設後、取り外すことなく埋設型枠としてコンクリートと一体化される波返し機能を有する被覆防食パネル及び被覆防食パネルを使用した護岸工事方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明によると、プレキャストコンクリート製の被覆防食パネルであって、平板部と、該平板部から前方に迫り出した迫り出し部と、該迫り出し部に連続するヘッド部と、該迫り出し部の背面に形成された梁と、該平板部の背面に配設された少なくとも縦方向に伸長する複数の第1トラス鉄筋と、該ヘッド部の背面から後方に伸長する複数のループ鉄筋と、を具備したことを特徴とする被覆防食パネルが提供される。
【0010】
好ましくは、前記梁は上面及び背面を有する縦断面概略三角形状のブロックから形成されており、該梁の前記上面には該梁に埋め込まれたクレーン吊り下げ用アンカーと吊りボルト用インサートが露出している。
【0011】
好ましくは、平板部には固定金具挿入用の複数の固定穴が形成されており、固定穴は平板部の背面側で逆円錐状に拡大している。好ましくは、平板部の背面には横方向に伸長する複数の第2トラス鉄筋が更に配設されている。
【0012】
請求項6記載の発明によると、請求項2記載の被覆防食パネルを使用した護岸工事方法であって、複数の鋼管矢板又は鋼矢板を設置する矢板設置工程と、パネル吊り用ブラケットを該鋼管矢板又は該鋼矢板の各々の上面に取り付けるパネル吊り用ブラケット取り付け工程と、該鋼管矢板又は鋼矢板の各々に固定金具を取り付ける固定金具取り付け工程と、前記被覆防食パネルを該鋼管矢板又は鋼矢板の前面に取り付ける被覆防食パネル取り付け工程と、コンクリートを所定の高さ位置まで打設する第1コンクリート打設工程と、該第1コンクリート打設工程で打設したコンクリートの上面及び該被覆防食パネルの背面に鉄筋を組み立てる鉄筋組み立て工程と、該鉄筋組み立て工程で組み立てた鉄筋の背面に型枠を設置する背面型枠設置工程と、該鉄筋を埋め込むようにコンクリートを打設する第2コンクリート打設工程と、該固定金具のボルトを該被覆防食パネルの平板部に形成された固定穴から撤去するボルト撤去工程と、該固定穴をコンクリートで埋め込む固定穴埋め込み工程と、を具備したことを特徴とする護岸工事方法が提供される。
【0013】
好ましくは、前記被覆防食パネル取り付け工程は、吊りボルトを前記梁の上面に露出した吊りボルト用インサートに締結し、クレーンで該クレーン吊り下げ用アンカーを介して該被覆防食パネルを吊り下げた状態で、定着プレートを該パネル吊り下げ用ブラケットの上面に配設してから、該定着プレートを介してナットを該吊りボルトに螺合し、該被覆防食パネルをクレーンで吊り下げたまま該ナットを回転して該被覆防食パネルの高さの調整を行うとともに、油圧ジャッキを使用して水平方向の調整を行って該被覆防食パネルの取り付け位置を決定し、取り付け位置決定後、該定着プレートを該パネル吊り用ブラケットに溶接する、各工程を含んでいる。
【0014】
好ましくは、前記固定金具取り付け工程で使用される固定金具は、ボルトと、ボルトに溶接されたプレートと、高ナットにより該ボルトに連結された全ねじボルトとから構成され、該固定金具取り付け工程は該プレートを前記鋼管矢板又は鋼矢板の前面に溶接する工程を含む。
【0015】
代替実施形態の固定金具は、第1高ナットと、第1高ナットに溶接されたプレートと、第1高ナットに螺合した第1全ねじボルトと、第2高ナットと、第2高ナットにより第1全ねじボルトに連結された第2全ねじボルトとから構成され、該固定金具取り付け工程は該プレートを前記鋼管矢板又は鋼矢板の前面に溶接する工程を含む。
【0016】
好ましくは、前記平板部は該平板部の背面側で逆円錐状に拡大している固定金具挿入用の複数の固定穴を有しており、前記被覆防食パネル取り付け工程は、該固定穴に挿入された該固定金具の該全ねじボルトに座金を介してナットを締結することにより、該平板部を該鋼管矢板又は鋼矢板に対して固定する工程を更に含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明の被覆防食パネルは、コンクリート打設時に型枠として作用してコンクリート打設後に取り外す必要がないため、従来必要であった鋼製型枠及び支保工の設置及び撤去が不要となり、施工性が向上されて工期の短縮及び品質の向上を図ることができる。
【0018】
更に、被覆防食パネルの背面側にトラス鉄筋が突出しているため、コンクリート打設後にトラス鉄筋を介して被覆防食パネルが充填コンクリートと一体化され、高品質の護岸構造を提供することができる。
【0019】
また、コンクリート表面の施工むらがなく被覆防食パネルが表面に露出するため、仕上がり面を美しくできる。更に、打設したコンクリートの表面はコンクリートと一体化された被覆防食パネルにより覆われているため、従来工法で問題であったジャンカが発生することはない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態の被覆防食パネルの背面側斜視図である。
【図2】第1実施形態の被覆防食パネルの表面側斜視図である。
【図3】第2実施形態の被覆防食パネルの背面側斜視図である。
【図4】第3実施形態の被覆防食パネルの背面側斜視図である。
【図5】第3実施形態の被覆防食パネルの表面側斜視図である。
【図6】図6(A)は第3実施形態の被覆防食パネルの一部側面図、図6(B)は被覆防食パネルの一部背面図、図6(C)は図6(B)の平面図である。
【図7】本発明の護岸工事方法の施工工程を示すフローチャートである。
【図8】鋼管矢板に取り付けられた第1実施形態の被覆防食パネルの縦断面図である。
【図9】第1実施形態の被覆防食パネルを二つ積み重ねた状態の側面図である。
【図10】図10(A)は第1実施形態の固定金具を構成する高ナットと高ナットに溶接されたプレートの正面図、図10(B)はその側面図である。
【図11】鋼管矢板に溶接された第1実施形態の固定金具の側面図である。
【図12】図12(A)は第2実施形態の固定金具を構成するボルトとボルトに溶接されたプレートの正面図、図12(B)はその側面図である。
【図13】鋼管矢板に溶接された第2実施形態の固定金具の側面図である。
【図14】図14(A)は鋼管矢板の上面に溶接されたパネル吊り用ブラケットを介して第3実施形態の被覆防食パネルが吊り下げられた状態の一部断面側面図、図14(B)は鋼管矢板を省略した図14(A)の左側面図である。
【図15】被覆防食パネルの吊り下げ構造を示す斜視図である。
【図16】第1実施形態の固定金具を使用して被覆防食パネルを鋼管矢板に固定した状態の断面図である。
【図17】第2実施形態の固定金具を使用して被覆防食パネルを鋼管矢板に固定した状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、本発明第1実施形態の被覆防食パネル2の背面側斜視図が示されている。図2は被覆防食パネル2の表面側斜視図である。この形状の被覆防食パネル2は本明細書中でウエイブ(wave)パネルと称することにする。ウエイブパネル2は波返し機能を有し、波打ち際や堤防・護岸のすぐ前面に設置される。
【0022】
ウエイブパネル2は、プレキャストコンクリート製であって、平板部4と、平板部4から前方に迫り出した迫り出し部6と、迫り出し部6に連続するヘッド部8とから構成される。図2に最も良く示されるように、迫り出し部6の前面6aは平板部4の前面4aに連続する湾曲面に形成されており、迫り出し部6の背面6bは平面に形成されている。
【0023】
迫り出し部6の背面6bには縦断面概略三角形状の一対の梁10が一体的に形成されている。これらの梁10は迫り出し部6を補強する補強部として作用する。梁10は図示されるように離間して2個設けるのが好ましいが、3個程度設けるようにしてもよい。横方向に連続した1個の梁を迫り出し部6の背面6bに形成するのは、重量増加の観点よりみて好ましくない。
【0024】
梁10は上面10a及び背面10bを有する縦断面概略三角形状のブロックから形成されており、上面10aには梁10に埋め込まれたクレーン吊り下げ用アンカー18と、吊りボルト用インサート20が露出している。平板部4の背面4bには縦方向に伸長する複数のトラス鉄筋12が約50mm程度突出するように配設されており、トラス鉄筋12の一部は平板部4を構成するコンクリート中に埋め込まれている。
【0025】
ヘッド部8の背面から複数のループ鉄筋14が後方に伸長するように配設されており、ループ鉄筋14の一部はヘッド部8を構成するコンクリート中に埋め込まれている。迫り出し部6の背面6bにも縦方向に伸長する複数のトラス鉄筋16が配設されており、トラス鉄筋16の一部は迫り出し部6を構成するコンクリート中に埋め込まれている。
【0026】
平板部4にはウエイブパネル2を図8に示す鋼管矢板26に固定するときに使用する複数個(本実施形態では6個)の固定穴22が形成されている。各固定穴22は、図16及び図17に示すように、平板部4の背面4b側で符号22aで示すように逆円錐状に拡大している。
【0027】
図3を参照すると、本発明第2実施形態の被覆防食パネル(ウエイブパネル)2Aの背面側斜視図が示されている。本実施形態のウエイブパネル2Aは、平板部4の背面4bに縦方向に伸長するトラス鉄筋12に加えて横方向に伸長する複数のトラス鉄筋24が約50mm程度突出するように配設されている。
【0028】
トラス鉄筋24の一部は、平板部4を構成するコンクリート中に埋め込まれている。本実施形態の他の構成は、図1及び図2に示した第1実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
【0029】
図4を参照すると、本発明第3実施形態の被覆防食パネル2Bの背面側斜視図が示されている。図5は被覆防食パネル2Bの表面側斜視図である。被覆防食パネル2Bは、本明細書では波返しパネルと称することにする。波返しパネル2Bは波返し機能を有するパネルであり、波打ち際や堤防・護岸のすぐ前面に設置される。
【0030】
波返しパネル2Bはプレキャストコンクリートから形成されており、平板部4Aと、平板部4Aから前方に迫り出した迫り出し部6Aと、迫り出し部6Aに連続するヘッド部8Aとから構成される。図5に最も良く示されるように、迫り出し部6Aの前面6aは平板部4Aの前面4aに連続する湾曲面に形成されており、迫り出し部6Aの背面6bは平面に形成されている。
【0031】
迫り出し部6Aの背面6bには一対の梁10Aが一体的に形成されている。梁10Aは、上面10a及び背面10bを有する縦断面概略三角形状のブロックから形成されており、上面10aには梁10Aに埋め込まれたクレーン吊り下げ用アンカー18と吊りボルト用インサート20が露出している。
【0032】
平板部4Aの背面4bには、図3に示す第2実施形態と同様に、縦方向に伸長する複数のトラス鉄筋12と横方向に伸長する複数のトラス鉄筋24が約50mm程度突出するように配設されている。トラス鉄筋12及び24の一部は平板部4Aを構成するコンクリート中に埋め込まれている。
【0033】
ヘッド部8Aには、その背面から複数のループ鉄筋14が後方に伸長するように配設されている。ループ鉄筋14の一部はヘッド部8Aを構成するコンクリート中に埋め込まれている。
【0034】
図5に最も良く示されるように、平板部4Aには図8に示すように鋼管矢板26に波返しパネル2Bを固定するための複数個(本実施形態では6個)の固定穴22が形成されている。各固定穴22は、図16及び図17に示すように、平板部4の背面側で逆円錐状22aに拡大している。
【0035】
図6(A)を参照すると、波返しパネル2Bの一部側面図が示されている。図6(B)は図6(A)の左側面図、図6(C)は図6(B)の平面図である。図6(B)に最も良く示されるように、各梁10A中にはクレーン吊り下げ用アンカー18と吊りボルト用インサート20が埋め込まれている。図6(C)に示すように、クレーン吊り下げ用アンカー18及び吊りボルト用インサート20は梁10Aの上面10aに露出している。
【0036】
次に、図7乃至図17を参照して、上述した被覆防食パネル2,2A,2Bを使用した本発明実施形態の護岸工事方法について説明する。まず、図7のフローチャートのステップS10で、河川等の川岸に沿って鋼管矢板26を設置する。鋼管矢板26に替えて鋼矢板を設置するようにしてもよい。
【0037】
近年では、この鋼管矢板26の設置は騒音防止のために圧入により実施する。一般的に、この鋼管矢板26の設置から被覆防食パネルを使用した護岸工事の開始まで相当の長期間が経過するため、ステップS11で鋼管矢板26に付着した藻等を土べらで落とすケレン作業を実施する。
【0038】
護岸耐震補強工事の場合には、鋼管矢板26の前面に高圧噴射法にてセメント系の固化材を注入して地盤改良工事を実施するが、この固化材が鋼管矢板26表面に付着して硬化すると通常の土べら落としでは落ちないので、固化材を鋼管矢板26表面から落とすはつり作業を実施する。
【0039】
次いで、ステップS12で墨出し及び鋼材加工を行ってから、ステップS13へ進んで鋼管矢板26にスタッドジベル28を溶接するスタッドジベル取付工事を実施する。このスタッドジベル取付工事は、鋼管矢板26を圧入により設置する場合には、地上でスタッドジベル28を鋼管矢板26に溶接すると鋼管矢板26を圧入できないので、水中で実施する。鋼管矢板26を打ち込んで設置する場合には、予め地上でスタッドジベル28を溶接してから、鋼管矢板26の打設を実施する。
【0040】
図8を参照すると、鋼管矢板26に取り付けられたウエイブパネル2の縦断面図が示されている。以下、図8を合わせて参照しながら、本発明実施形態の護岸工事方法について更に説明する。
【0041】
スタッドジベル28を鋼管矢板26に溶接後又は溶接前に、ステップS14でパネル吊り用ブラケット取付工事を実施する。このパネル吊り用ブラケット取付工事では、図14及び図15に示すように、パネル吊り用ブラケット34を鋼管矢板26の上面26aに溶接する。鋼管矢板26は、上面26aを構成する蓋により閉じられている。
【0042】
より詳細には、パネル吊り用ブラケット34の後端部には浮き上がり防止プレート38が溶接されている。よって、パネル吊り用ブラケット34の鋼管矢板26への溶接は、浮き上がり防止プレート78を鋼管矢板26の側面に溶接し、パネル吊り用ブラケット34を数箇所で鋼管矢板26の蓋26aに溶接する。
【0043】
図15に最もよく示されるように、パネル吊り用ブラケット34は細長い一対の鋼製のチャンネル(溝形鋼)72をエンドプレート74及び接続用プレート76で結合して形成されている。よって、一対のチャンネル72の間には開口が形成されている。
【0044】
次いで、ステップS15へ進んで固定金具32を鋼管矢板26に取り付ける固定金具取付工事を実施する。尚、ステップS13のスタッドジベル取付工事、ステップS14の吊りブラケット取付工事、及びステップS15の固定金具取付工事の順序は問うものではない。
【0045】
第1実施形態の固定金具32について、図10及び図11を参照して説明する。第1実施形態の固定金具32は、図10に示すように、第1高ナット56と、第1高ナット56の側面に符号60で示すように溶接された一対の三角形プレート58を含んでいる。
【0046】
図11に示すように、三角形プレート58を符号62で示すように鋼管矢板26にスミ肉溶接する。第1高ナット56に第1全ねじボルト64を螺合し、更に第2高ナット66に第1全ねじボルト64と第2全ねじボルト68を螺合して、第1全ねじボルト64と第2全ねじボルト68とを連結することにより、第1実施形態の固定金具32が完成する。
【0047】
次に、第2実施形態の固定金具32について、図12及び図13を参照して説明する。固定金具32は、図12に示すように、ボルト64Aと、ボルト64Aの側面に符号60で示すように溶接された一対の三角形プレート58を含んでいる。
【0048】
図13に示すように、三角形プレート58を符号62で示すように鋼管矢板26にスミ肉溶接する。そして、高ナット66にボルト64A及び全ねじボルト68を螺合して、ボルト64Aと全ねじボルト68を連結することにより、第2実施形態の固定金具32が完成する。
【0049】
ステップS10〜ステップS15はウエイブパネル設置工事前の準備工事である。準備工事完了後、ウエイブパネル設置工事を開始する。このウエイブパネル設置工事では、まずステップS16で工場で製作したウエイブパネル2を工事現場に搬入する。
【0050】
ウエイブパネル2の堆積時及びトラック、船等を使用しての運搬時には、図9に示すように、2枚のウエイブパネル2を平板部4で積み重ねる。中央部を支持部材48で支持し、両端部を支持部材50,52で支持して、2枚のウエイブパネル2の平板部4の間にスペーサ54を介装する。
【0051】
このように2枚のウエイブパネル2を積み重ねると、迫り出し部6に応力が集中して、ウエイブパネル2の迫り出し部6にクラックが入り易いが、迫り出し部6の背面に一対の梁10が一体的に形成されているため、梁10が補強部として作用し迫り出し部6にクラックが入ることが防止される。ウエイブパネル2はトラックに積載して運搬されるため、その最大サイズは2.5m×7m程度である。
【0052】
ウエイブパネル2を工事現場に搬入してから、ステップS17に進んでウエイブパネル2を鋼管矢板26に取り付けるウエイブパネル取付工事を実施する。このウエイブパネル取付工事では、まず、図14及び図15に示すように、吊り用ボルト38を波返しパネル2Bの梁10Aの上面10aに露出した吊りボルト用インサート20に締結する。
【0053】
次いで、クレーンでクレーン吊り下げ用アンカー18を介して波返しパネル2Bを吊り下げ、この吊り下げた状態で定着プレート40をパネル吊り用ブラケット34の上面に配設してから、定着プレート40を介してナット41を吊りボルト38に螺合する。
【0054】
次に、波返しパネル2Bをクレーンで吊り下げたまま、ラチェットでナット41を回転して波返しパネル2Bの高さ方向位置の微調整を行う。水平方向の微調整は、図15に示すように、パネル吊り用ブラケット34に溶接された受け部材82と波返しパネル2Bのヘッド部8Aの背面との間に油圧ジャッキを当てがい、油圧ジャッキを作動することにより実施する。
【0055】
波返しパネル2Bの取り付け位置が決定すると、定着プレート40をパネル吊り用ブラケット34に溶接する。更に、クレーンをクレーン吊り下げ用アンカー18から外して、クレーン吊り下げ用アンカー18にピースアングル81をボルト及びナットを使用して固定する。そして、ピースアングル81の側面に固定用アングル(山形鋼)80を溶接するとともに、ピースアングル80の反対側端部を鋼管矢板26の蓋26aに溶接する。
【0056】
定着プレート40のパネル吊り用ブラケット34への溶接に加えて、固定用アングル80で鋼管矢板26と波返しパネル2Bとを結合するため、波返しパネル2Bの上端部が鋼管矢板26に対して強固に固定される。
【0057】
波返しパネル2Bを鋼管矢板26に位置決めして取り付けると、図16及び図17に示すように、固定金具32が波返しパネル2Bの平板部4Aに形成された固定穴22中に挿入される。よって、座金プレート84を介してナット86を全ねじボルト68に締結することにより、波返しパネル2Bの平板部4Aが鋼管矢板26に対して固定される。
【0058】
固定穴22は平板部4Aの背面側でその径が拡大する逆円錐形状22aに形成されているため、固定金具32の全ねじボルト68の固定穴22中への挿入を容易に行うことができる。
【0059】
上述した説明では、波返しパネル2Bを鋼管矢板26に取り付ける取り付け工事について説明したが、ウエイブパネル2の鋼管矢板26への取り付け工事も波返しパネル2Bの取り付け工事と同様である。
【0060】
ウエイブパネル2の鋼管矢板26への取り付け工事が終了すると、図7のステップS18へ進んで約10m毎に隣接するウエイブパネル2の間に目地板を設置する目地板設置工事を実施し、更にステップS19へ進んで複数枚配設したウエイブパネル2の端部に妻枠を設置する妻枠設置工事を実施する。
【0061】
次いで、ステップS20へ進んで第1回目のコンクリート打設工事を実施する。この第1回目のコンクリート打設工事は、図8に示すグランドレベルGLの高さまで実施する。このコンクリート打設工事はコンクリートポンプ車を使用し、更に水中コンクリートを用いて実施する。
【0062】
第1回目のコンクリート打設工事が終了すると、鋼管矢板26にスタッドジベル28が溶接されており、ウエイブパネル2の平板部4の背面にトラス鉄筋12が突出しているため、鋼管矢板26及びウエイブパネル2が充填コンクリートと一体構造となる。
【0063】
第1回目のコンクリート打設時にウエイブパネル2の平板部4に形成した固定穴22が平板部4の背面側で逆円錐形状22aに拡大しているので、コンクリートの固定穴22中への回り込みが向上する。
【0064】
第1回目のコンクリート打設工事完了後、コンクリートの表面からレイタンスを除去するレイタンス処理(ステップS21)を実施し、ステップS22へ進んで1回目のコンクリート打設工事で打設したコンクリートの上面及びウエイブパネル2の背面に現場鉄筋44を組み立てる鉄筋組み立て工事を実施する。
【0065】
この鉄筋組み立て工事では、ウエイブパネル2のループ鉄筋14と現場鉄筋44のループとを重ね合わせ、重ね合わされたループ部に複数本の横方向鉄筋を通し、横方向鉄筋を針金等によりループ部に結束することにより実施する。
【0066】
鉄筋組み立て工事が終了すると、ステップS23へ進んで組み立てた鉄筋の背面に型枠を設置する背面型枠工事を実施する。背面型枠工事実施後、ステップS24へ進んで第2回目のコンクリート打設工事を実施する。図8で46は第2回目のコンクリート打設工事で打設されたコンクリートを示している。
【0067】
次いで、ステップS25で数日間養生した後、ステップS26へ進んで背面の型枠と妻枠を撤去する背面型枠・妻枠撤去工事を実施する。次いで、ステップS27へ進んで固定金具32の全ねじボルト68を撤去するボルト撤去工事を実施する。
【0068】
このボルト撤去工事では、図16及び図17に示したナット86を緩めて座金プレート84を取り外し、更に特殊工具により全ねじボルト68を回転して高ナット66から取り外す。ボルト撤去工事完了後、ステップS28へ進んで固定穴22をコンクリートで埋め込む固定穴埋め込み工事を実施して、ウエイブパネル2の設置工事が完了する。
【0069】
以上説明した本発明実施形態によると、被覆防食パネル2,2A,2Bはコンクリート打設時に埋設型枠として作用してコンクリート打設後に取り外す必要が無いため、従来必要であった鋼製型枠及び支保工の設置及び撤去が不要となり、施工性が向上されて工期の短縮及び品質の向上を図ることができる。
【0070】
更に、従来工法で60日程度必要であった工事期間を30日程度に短縮することができ、約50%の工期の短縮化を図ることができる。また、型枠工事が低減されるため、労働者不足や労働者の高齢化に対応することができる。
【0071】
更に、コンクリート表面の施工むらがないため仕上がり面が美しくなる。また、打設されたたコンクリートの表面はコンクリートと一体化された被覆防食パネル2,2A,2Bにより覆われているため、従来工法で問題であったジャンカが発生することはない。
【0072】
上述した実施形態の護岸工事方法によると、鋼管矢板26を設置して、この鋼管矢板26に被覆防食パネル2,2A,2Bを装着しているが、被覆防食パネルの高さが4.5m以内で迫り出しが小さいタイプでは、鋼管矢板26に変わって鋼矢板を設置して、鋼矢板に被覆防食パネルを装着するようにしてもよい。
【0073】
また、上述した実施形態では、被覆防食パネル2,2A,2Bをクレーンで吊り下げながらパネル吊り用ブラケット34を介して被覆防食パネル2,2A,2Bの上端を鋼管矢板26に固定しているが、この吊り工法に変わって前面ブラケットを使用する被覆防食パネルの取り付け方法も代替実施形態として本発明の護岸工事方法の範囲内である。
【0074】
この代替実施形態の護岸工事方法では、ステップS15の固定金具取り付け工事の前または後に、鋼管矢板26の前面に前面ブラケットを取り付ける前面ブラケット取り付け工事を実施する。
【0075】
そして、前面ブラケット上に被覆防食パネル2,2A,2Bを載置してから、被覆防食パネルを鋼管矢板26に対して位置決めし、固定用ブラケットを介して被覆防食パネルの背面側を鋼管矢板26の上面に溶接する。請求項6のパネル吊り用ブラケットは固定用ブラケットを含むものである。
【符号の説明】
【0076】
2,2A 被覆防食パネル(ウエイブパネル)
2B 被覆防食パネル(波返しパネル)
4,4A 平板部
6,6A 迫り出し部
8,8A ヘッド部
10,10A 梁
12,16,24 トラス鉄筋
14 ループ鉄筋
18 クレーン吊り下げ用アンカー
20 吊りボルト用インサート
22 固定穴
26 鋼管矢板
28 スタッドジベル
32 固定金具
34 パネル吊り用ブラケット
38 吊りボルト
40 定着プレート
66 高ナット
58 三角形プレート
68 全ねじボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート製の被覆防食パネルであって、
平板部と、
該平板部から前方に迫り出した迫り出し部と、
該迫り出し部に連続するヘッド部と、
該迫り出し部の背面に形成された梁と、
該平板部の背面に配設された少なくとも縦方向に伸長する複数の第1トラス鉄筋と、
該ヘッド部の背面から後方に伸長する複数のループ鉄筋と、
を具備したことを特徴とする被覆防食パネル。
【請求項2】
前記梁は上面及び背面を有する縦断面概略三角形状のブロックから形成されており、該梁の前記上面には該梁に埋め込まれたクレーン吊り下げ用アンカーと吊りボルト用インサートが露出している請求項1記載の被覆防食パネル。
【請求項3】
前記平板部には固定金具挿入用の複数の固定穴が形成されており、該固定穴は該平板部の背面側で逆円錐状に拡大している請求項2記載の被覆防食パネル。
【請求項4】
前記平板部の背面には横方向に伸長する複数の第2トラス鉄筋が配設されている請求項1〜3の何れかに記載の被覆防食パネル。
【請求項5】
該迫り出し部の前面は該平板部の前面に連続する湾曲面に形成されており、該迫り出し部の背面は平面に形成されている請求項1〜4の何れかに記載の被覆防食パネル。
【請求項6】
請求項2記載の被覆防食パネルを使用した護岸工事方法であって、
複数の鋼管矢板又は鋼矢板を設置する矢板設置工程と、
パネル吊り用ブラケットを該鋼管矢板又は該鋼矢板の各々の上面に取り付けるパネル吊り用ブラケット取り付け工程と、
該鋼管矢板又は鋼矢板の各々に固定金具を取り付ける固定金具取り付け工程と、
前記被覆防食パネルを該鋼管矢板又は鋼矢板の前面に取り付ける被覆防食パネル取り付け工程と、
コンクリートを所定の高さ位置まで打設する第1コンクリート打設工程と、
該第1コンクリート打設工程で打設したコンクリートの上面及び該被覆防食パネルの背面に鉄筋を組み立てる鉄筋組み立て工程と、
該鉄筋組み立て工程で組み立てた鉄筋の背面に型枠を設置する背面型枠設置工程と、
該鉄筋を埋め込むようにコンクリートを打設する第2コンクリート打設工程と、
該固定金具のボルトを該被覆防食パネルの平板部に形成された固定穴から撤去するボルト撤去工程と、
該固定穴をコンクリートで埋め込む固定穴埋め込み工程と、
を具備したことを特徴とする護岸工事方法。
【請求項7】
前記被覆防食パネル取り付け工程は、
吊りボルトを前記梁の上面に露出した吊りボルト用インサートに締結し、
クレーンで該クレーン吊り下げ用アンカーを介して該被覆防食パネルを吊り下げた状態で、定着プレートを該パネル吊り下げ用ブラケットの上面に配設してから、該定着プレートを介してナットを該吊りボルトに螺合し、
該被覆防食パネルをクレーンで吊り下げたまま該ナットを回転して該被覆防食パネルの高さの調整を行うとともに、油圧ジャッキを使用して水平方向の調整を行って該被覆防食パネルの取り付け位置を決定し、
取り付け位置決定後、該定着プレートを該パネル吊り用ブラケットに溶接する、
各工程を含むことを特徴とする請求項6記載の護岸工事方法。
【請求項8】
前記被覆防食パネル取り付け工程は、該定着プレートを該パネル吊り用ブラケットに溶接後、クレーンを該クレーン吊り下げ用アンカーから外して該クレーン吊り下げ用アンカーにピースアングルを固定し、
該ピースアングルの側面に固定用アングルの一端部を溶接するとともに、該固定用アングルの反対側端部を該鋼管矢板又は鋼矢板の上面に溶接する各工程を更に含む請求項7記載の護岸工事方法。
【請求項9】
前記固定金具取り付け工程で使用される固定金具は、第1高ナットと、該第1高ナットに溶接されたプレートと、該第1高ナットに螺合した第1全ねじボルトと、第2高ナットと、該第2高ナットにより該第1全ねじボルトに連結された第2全ねじボルトとから構成され、
該固定金具取り付け工程は該プレートを前記鋼管矢板又は鋼矢板の前面に溶接する工程を含むことを特徴とする請求項6又は7記載の護岸工事方法。
【請求項10】
前記固定金具取り付け工程で使用される固定金具は、ボルトと、該ボルトに溶接されたプレートと、高ナットにより該ボルトに連結された全ねじボルトとから構成され、
該固定金具取り付け工程は該プレートを前記鋼管矢板又は鋼矢板の前面に溶接する工程を含むことを特徴とする請求項6又は7記載の護岸工事方法。
【請求項11】
前記平板部は該平板部の背面側で逆円錐状に拡大している固定金具挿入用の複数の固定穴を有しており、
前記被覆防食パネル取り付け工程は、該固定穴に挿入された該固定金具の該全ねじボルトに座金を介してナットを締結することにより、該平板部を該鋼管矢板又は鋼矢板に対して固定する工程を更に含むことを特徴とする請求項9又は10記載の護岸工事方法。
【請求項12】
該鋼管矢板に又は鋼矢板スタッドジベルを溶接するスタッドジベル取り付け工程を更に具備した請求項6〜11の何れかに記載の護岸工事方法。
【請求項13】
該被覆防食パネル取り付け工程実施後且つ該第1コンクリート打設工程実施前に、目地板を設置する目地板設置工程と、妻枠を設置する妻枠設置工程とを更に具備した請求項6〜12の何れかに記載の護岸工事方法。
【請求項14】
該第1コンクリート打設工程実施後且つ該鉄筋組み立て工程実施前に、レイタンスを処理するレイタンス処理工程を更に具備した請求項6〜13の何れかに記載の護岸工事方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−172496(P2012−172496A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38785(P2011−38785)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(511010071)CRS株式会社 (1)
【Fターム(参考)】