説明

被記録媒体カセット、被記録媒体給送装置、記録装置

【課題】上段側トレイと下段側トレイの複数段構造から成る被記録媒体カセットにおいて、より一層の分離信頼性を得る。
【解決手段】用紙カセット100は、下段側トレイ50と、この下段側トレイ50の上部において給送可能位置と退避位置との間をスライド変位可能な上段側トレイ60と、を備えた複数段式の用紙カセットである。下段側トレイ50および上段側トレイ60は、用紙の分離を行う分離斜面についてそれぞれ専用の分離斜面(54、64)を有しており、各トレイに収容される用紙の種類に対応した最適な分離条件に設定することができ、ダブルフィードやノンフィードをより確実に防止でき、より一層の分離信頼性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置本体に対し着脱可能な被記録媒体カセット、特に、上段側トレイと下段側トレイの複数段構造から成る被記録媒体カセットに関する。また本発明は、当該被記録媒体カセットを備えた被記録媒体給送装置、およびこれを備えた、ファクシミリやプリンター等に代表される記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
装置本体に対して着脱可能な用紙カセットは従来から広く用いられており、またその中でも特許文献1や特許文献2に示されるように、一つの着脱自在な用紙カセット(トレイ)において下段と上段に用紙収容部を備えた2段式構造のものが知られている。尚、記録装置において用紙を収容する用紙収容部の呼称としては「カセット」、「トレイ」など種々のものがあるが、本明細書では装置本体に対して着脱可能な一つのユニット体全体を「カセット」と言い、このカセット内に設けられた複数の用紙収容部を「トレイ」と言うこととする。
【0003】
下段と上段のそれぞれのトレイは、用紙収容時に用紙先端の位置を規制する前方側内壁を備えている。この前方側内壁は、例えば特許文献1、2に示されるように第1給紙トレイ(下段トレイ)について傾斜面状に形成されており、この傾斜面状に形成された前方側内壁が用紙給送時の重送を防止するために分離手段として機能するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−273565号公報
【特許文献2】特開2007−91445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1、2記載のものは、上段トレイが分離斜面を持たず、傾斜角が固定された、下段トレイの分離斜面を利用する様に構成されている。即ち、全ての種類(用紙の材質、大きさ等、少なくとも一以上の条件によって分類される種類)の用紙について同一の分離斜面(分離条件)を利用することから、全ての種類の用紙についてダブルフィード及びノンフィードを防止できる様な傾斜角度、摩擦係数等を設定する必要があり、最適設計が困難であった。
【0006】
また、分離条件がシビアであることから、少しでも用紙の条件(特に用紙のコシや、表面の摩擦係数など)が異なると、ダブルフィードやノンフィードなどの給紙不良を容易に招く虞があった。
【0007】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、上段側トレイと下段側トレイの複数段構造から成る被記録媒体カセットにおいて、より一層の分離信頼性を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する為の、本発明の第1の態様に係る被記録媒体カセットは、被記録媒体を収容する下段側トレイと、当該下段側トレイの上部に設けられた、被記録媒体を収容する上段側トレイと、を備え、前記下段側トレイおよび前記上段側トレイは、被記録媒体の分離を行う分離斜面についてそれぞれ専用の分離斜面を有していることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、上段側トレイと下段側トレイとを備えた複数段構造の被記録媒体カセットにおいて、下段側トレイおよび上段側トレイは、被記録媒体の分離を行う分離斜面についてそれぞれ専用の分離斜面を有しているので、上下各トレイに収容される被記録媒体の種類に対応した最適な分離条件に設定することができ、ダブルフィードやノンフィードをより確実に防止でき、より一層の分離信頼性を得ることができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、被記録媒体を収容する下段側トレイと、当該下段側トレイの上部に設けられた、被記録媒体を収容する上段側トレイと、を備えて構成された被記録媒体カセットであって、前記下段側トレイおよび前記上段側トレイは、被記録媒体の分離を行う分離斜面についてそれぞれ専用の傾斜角が設定されることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、上段側トレイと下段側トレイとを備えた複数段構造の被記録媒体カセットにおいて、下段側トレイおよび上段側トレイは、被記録媒体の分離を行う分離斜面についてそれぞれ専用の傾斜角が設定されるので、上下各トレイに収容する被記録媒体の種類に対応した最適な分離角度に設定することができ、ダブルフィードやノンフィードをより確実に防止でき、より一層の分離信頼性を得ることができる。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1のまたは第2の態様において、前記下段側トレイから被記録媒体を送り出す際の分離斜面の上端位置と、前記上段側トレイから被記録媒体を送り出す際の分離斜面の上端位置とが略一致することを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、下段側トレイから被記録媒体を送り出す際の分離斜面の上端位置と、上段側トレイから被記録媒体を送り出す際の分離斜面の上端位置とが、略一致するので、下段側トレイから被記録媒体を送り出す際の被記録媒体送り出し位置(送り出し経路)と上段側トレイから被記録媒体を送り出す際の被記録媒体送り出し位置(送り出し経路)とが異ならず、いずれのトレイから被記録媒体を送り出しても、被記録媒体カセットから下流側の被記録媒体搬送経路に自然に送り込むことができる。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1の態様において、前記上段側トレイが備える分離斜面の傾斜角度が、前記下段側トレイが備える分離斜面の傾斜角度より緩やかであることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、上段側トレイが備える分離斜面の傾斜角度が、下段側トレイが備える分離斜面の傾斜角度より緩やかであるので、上段側トレイが備える分離斜面の上端位置と、下段側トレイが備える分離斜面の上端位置とを一致させることができる。即ち、仮に上段側トレイが備える分離斜面の傾斜角度が、下段側トレイが備える分離斜面の傾斜角度より急であると、上段側トレイが備える分離斜面の上端位置と、下段側トレイが備える分離斜面の上端位置とを一致させた際に、下段側トレイの分離斜面が上段側トレイの被記録媒体収容空間に進出することとなり、上段側トレイの分離斜面が無効となる。
【0016】
しかしながら上記の通り上段側トレイが備える分離斜面の傾斜角度が、下段側トレイが備える分離斜面の傾斜角度より緩やかであるので、上段側トレイが備える分離斜面の上端位置と、下段側トレイが備える分離斜面の上端位置とを一致させても、上段側トレイの分離斜面が有効となる。
【0017】
そして下段側トレイから被記録媒体を送り出す際の分離斜面の上端位置と、上段側トレイから被記録媒体を送り出す際の分離斜面の上端位置とを一致させることにより、下段側トレイから被記録媒体を送り出す際の被記録媒体送り出し位置(送り出し経路)と上段側トレイから被記録媒体を送り出す際の被記録媒体送り出し位置(送り出し経路)とが異ならず、いずれのトレイから被記録媒体を送り出しても、被記録媒体カセットから下流側の被記録媒体搬送経路に自然に送り込むことができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、被記録媒体を給送する被記録媒体給送装置であって、第1から第4の態様のいずれかに係る被記録媒体カセットを備えていることを特徴とする。また本発明の第6の態様は、被記録媒体に記録を行う記録手段と、第5の態様に係る被記録媒体給送装置と、を備えたことを特徴とする記録装置である。これらの態様によれば、第1から第4の態様のいずれかと同様な作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るプリンターの用紙搬送経路を示す側断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る用紙カセットの全体を示す斜視図。
【図3】(A)、(B)は下段側トレイの分離斜面と上段側トレイの分離斜面との関係を模式的に示した図。
【図4】(A)、(B)は下段側トレイの分離斜面と上段側トレイの分離斜面との関係を模式的に示した図(他の実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1乃至図4を参照しつつ本発明の一実施形態について説明する。図1は「記録装置」の一実施形態であるインクジェットプリンター(以下「プリンター」と言う)1の用紙搬送経路を示す側断面図、図2は本発明に係る「被記録媒体カセット」の一実施形態である用紙カセット100の全体を示す斜視図、図3(A)、(B)及び図4(A)、(B)は下段側トレイ50の分離斜面54と上段側トレイ60の分離斜面64との関係を模式的に示した図であり、図4は図3とは異なる実施例を示したものである。
【0021】
以下、図1を参照しつつプリンター1の全体構成について概説する。プリンター1は、装置底部に給送装置2を備え、当該給送装置2から、「被記録媒体」の一例としての用紙(主として単票紙)を1枚ずつ給送し、記録手段4において記録(インクジェット記録)を行い、装置前方側(図1において左側)に設けられた図示しない排紙スタッカへ向けて排出される構成を備えている。
【0022】
以下、用紙搬送経路上の構成要素について更に詳説する。
給送装置2は、用紙カセット100と、ピックアップローラー16と、ガイドローラー20と、分離手段21と、を備えている。
複数枚の用紙を積層状態でセット可能な用紙カセット100は、給送装置2の装置本体に対し、装置前方側から装着及び取り外し可能であり、下部に位置して用紙カセット100の基体を構成する下段側トレイ50と、その上部に位置する、給送可能位置と退避位置との間をスライド変位可能な上段側トレイ60と、の2つの用紙収容部を備えている。
【0023】
尚、図1においては、下段側トレイ50に収容される用紙を符号P1で、上段側トレイ60に収容される用紙を符号P2で、それぞれ示している(以下特に区別する必要がない場合は「用紙P」と言う)。
【0024】
図示しないモータによって回転駆動されるピックアップローラー16は、揺動軸18を中心に揺動する揺動部材17に設けられており、上段側トレイ60が最も装置後方側(図1において左方向:用紙カセット100の引き抜き方向側)にスライドした状態、即ち上段側トレイ60が退避位置にあるときは、下段側トレイ50に収容された用紙P1の最上位のものと接して回転することにより、当該最上位の用紙P1を下段側トレイ50から送り出す。
【0025】
また上段側トレイ60が最も装置前方側(図1において右方向:用紙カセット100の装着方向側)にスライドした突き当て位置にあるとき、即ち上段側トレイ60の給送可能位置では、上段側トレイ60に収容された用紙P2の最上位のものと接して回転することにより、当該最上位の用紙P2を上段側トレイ60から送り出す。
【0026】
下段側トレイ50にセットされた用紙P1の先端と対向する位置、及び上段側トレイ60にセットされた用紙P2の先端と対向する位置には、それぞれ分離斜面54、64が用紙積重方向に対し開き角を形成する(上方に拡開するように傾斜する)よう配置されている(詳細は後述)。そしてピックアップローラー16の回転により繰り出された用紙P1の先端が分離斜面54に摺接しつつ下流側に進むことで、或いは繰り出された用紙P2の先端が分離斜面64に摺接しつつ下流側に進むことで、次位以降の用紙との予備的な分離が行われる様になっている。
【0027】
次に、分離斜面54、64の下流側には自由回転可能なガイドローラー20が設けられ、このガイドローラー20の下流側には、分離ローラー22と駆動ローラー23とを備えて構成された分離手段21が設けられている。分離ローラー22は、外周面が弾性材によって形成されるとともに駆動ローラー23と圧接可能に設けられ、且つ、トルクリミッタ機構により、所定の回転抵抗が与えられた状態に設けられている。従って重送されようとする次位以降の用紙Pが、当該分離ローラー22と駆動ローラー23との間で止められ、即ち重送が防止される様になっている。尚、駆動ローラー23は図示しないモータにより用紙Pを下流側へ送る方向に回転駆動される。
【0028】
分離手段21の下流側には、図示しないモータにより回転駆動される駆動ローラー26と、駆動ローラー26との間で用紙Pをニップして従動回転するアシストローラー27と、を備えて構成された第1中間送り部25が設けられており、この第1中間送り部25により、用紙Pが更に下流側へと送られる。尚、符号29は、用紙Pが湾曲反転経路を通過する際の(特に用紙後端が通過する際の)通紙負荷を軽減する従動ローラーを示している。
【0029】
従動ローラー29の下流側には図示しないモータにより回転駆動される駆動ローラー32と、駆動ローラー32との間で用紙Pをニップして従動回転するアシストローラー33と、を備えて構成された第2中間送り部31が設けられており、この第2中間送り部31により、用紙Pが更に下流側へと送られる。
【0030】
第2中間送り部31の下流側には、記録手段4が配置されている。記録手段4は、搬送手段5と、記録ヘッド42と、下部紙案内39と、排出手段6と、を備えている。搬送手段5は、モータによって回転駆動される搬送駆動ローラー35と、該搬送駆動ローラー35に圧接して従動回転するよう上部紙案内37に軸支される搬送従動ローラー36とを備えて構成されている。搬送手段5に到達した用紙Pは、搬送駆動ローラー35と搬送従動ローラー36とによってニップされた状態で搬送駆動ローラー35が回転することにより、下流側へと精密送りされる。
【0031】
続いて記録ヘッド42はキャリッジ40の底部に設けられ、当該キャリッジ40は主走査方向(図1の紙面表裏方向)に延びるキャリッジガイド軸41にガイドされながら、図示しない駆動モータによって主走査方向に往復動する様に駆動される。尚、キャリッジ40はインクカートリッジを搭載しない所謂オフキャリッジタイプであり、インクカートリッジ(図示せず)がキャリッジ40から独立して設けられ、インク供給チューブ(図示せず)を介してインクカートリッジから記録ヘッド42へとインクが供給されるように構成されている。
【0032】
記録ヘッド42と対向する位置には下部紙案内39が設けられ、当該下部紙案内39によって、用紙Pと記録ヘッド42との距離が規定されるようになっている。そして下部紙案内39の下流側には、記録の行われた用紙Pを排出する排出手段6が設けられている。排出手段6は図示しないモータによって回転駆動される排出駆動ローラー44と、当該排出駆動ローラー44に接して従動回転する排出従動ローラー45とを備えて構成され、記録手段4によって記録の行われた用紙Pは、排出手段6により、装置前方側に設けられた図示を省略するスタッカへと排出される。
【0033】
以上がプリンター1の概要であり、以下、用紙カセット100について図2〜図4をも併せて参照しつつ更に詳説する。
下段側トレイ50は、その底面50aに、用紙送り方向(即ち、用紙長さ方向)にスライド可能なエッジガイド51(図1)を備えており、このエッジガイド51により後端エッジの位置が規制されるようになっている。尚、用紙送り方向と直交する方向(即ち、用紙幅方向)にスライド可能なエッジガイドも設けられており(図示せず)このエッジガイドにより、サイドエッジの位置が規制されるようになっている。
【0034】
また底面50aには、ピックアップローラー16と用紙P1との接触位置に対応する場所に高摩擦材(不図示)が配置されており、この高摩擦材により、ピックアップローラー16による用紙送り出し時に用紙束ごと下流側に送られないよう、当該用紙束が保持される。
【0035】
一方、上段側トレイ60についても下端側トレイ50と同様に、その底面60aに、用紙長さ方向にスライド可能なエッジガイド61と、用紙幅方向にスライド可能なエッジガイド62と、を備えている。またピックアップローラー16と用紙P2との接触位置に対応する場所に高摩擦材63が配置されている。
【0036】
次に、下段側トレイ50において用紙送り出し方向側の内壁は、図2に示すように櫛歯状部55となっており、同様に上段側トレイ60において用紙送り出し方向側の内壁も、櫛歯状部65となっている。そして上段側トレイ60が給送可能位置に位置決めされた状態(図2の状態)では、下段側トレイ50の櫛歯状部55と上段側トレイ60の櫛歯状部55とが、互いに入り込む様になっている。
【0037】
ここで、下段側トレイ50の櫛歯状部55の内側には、上述した分離斜面54が形成されており、また上段側トレイ60の櫛歯状部65の内側にも、上述した分離斜面64が形成されている。図3(A)、(B)は下段側トレイ50の分離斜面54と上段側トレイ60の分離斜面54とを模式的に示したものであり、図3(A)、(B)において符号αは分離斜面54の傾斜角、符号βは分離斜面64の傾斜角を示している。また、符号P1は下段側トレイ50から給送される用紙を、符号P2は上段側トレイ60から給送される用紙を示している。
【0038】
本実施形態において傾斜角βは傾斜角αより緩やかに設定されているとともに、上段側トレイ60が給送可能位置にあるとき、分離斜面54の上端位置と分離斜面64の上端位置とが、図3(B)に示す様に一致する様に構成されている。これにより、下段側トレイ50から用紙P1を送り出す際の送り出し経路と上段側トレイ60から用紙P2を送り出す際の送り出し経路とが異ならず、いずれのトレイから用紙を送り出しても、用紙カセット100から下流側の用紙搬送経路に自然に送り込むことができる。
【0039】
尚、分離斜面54、64は、本実施形態では櫛歯状部55、65を構成する各櫛歯の内側に形成されているが、全ての櫛歯に分離斜面を形成せず、用紙幅方向において一箇所或いは任意の複数箇所に分離斜面を形成しても良い。
【0040】
その様な分離斜面の用紙幅方向における配置位置としては、例えば、ピックアップローラー16の位置(分離斜面が一箇所の場合)、或いはピックアップローラー16の位置に対して対称となる位置(分離斜面が複数箇所の場合)が好適である。この様に構成することで、用紙に送り出し力を付与する位置と、分離位置とが同じになり、スキューの発生を防止できる。また、分離斜面54、64は、用紙との間で高い摩擦力を生じさせる摩擦部材(例えばゴム、コルク、エラストマ等)によって構成することができる。
【0041】
以上の通り、本発明に係る用紙カセット100は、下段側トレイ50および上段側トレイ60は、用紙の分離を行う分離斜面についてそれぞれ専用の分離斜面(54、64)を有し、しかも専用の傾斜角が設定されるので、各トレイに収容される用紙の種類に対応した最適な分離条件に設定することができ、ダブルフィードやノンフィードをより確実に防止でき、より一層の分離信頼性を得ることができる。
【0042】
尚、本実施形態では、上段側トレイ60の分離斜面64の傾斜角βが、下段側トレイ50の分離斜面54の傾斜角αより緩やかであるので、例えば上段側トレイ60にはコシの強い専用紙が好適であり、下段側トレイ50にはコシの弱い普通紙が好適となる。
【0043】
以上説明した実施形態では、下段側トレイ50と上段側トレイ60のそれぞれに専用の分離斜面54、64を設けているが、上段側トレイ60に専用の分離斜面を設けない構成とすることもできる。図4(A)、(B)はその様な実施形態の一例を示しており、符号50’、60’はそれぞれ他の実施形態に係る下段側トレイ、上段側トレイを示している。
【0044】
符号66は上段側トレイ60’の用紙送り出し方向の壁面を示しているが、この壁面66は分離斜面としては利用されない。即ち、上段側トレイ60’が給送可能位置に位置するとき(図4(B))、壁面66は下段側トレイ50’の分離斜面54’よりも更に用紙送り出し側に入り込む。そして下段側トレイ50’の分離斜面54’が、上段側トレイ60’から用紙を送り出す際の分離斜面として機能する様になっている。
【0045】
但し、下段側トレイ50’から用紙を送り出す際の分離斜面54’の傾斜角α0と、上段側トレイ60’から用紙を送り出す際の分離斜面54’の傾斜角α1と、は異なる。即ち、符号56は分離斜面54’を形成する壁部材(不図示)の揺動軸を示しており、この壁部材(不図示)が揺動軸56を中心に揺動することで、分離斜面54’の傾斜角が変化する様になっている。
【0046】
例えば、上段側トレイ60’が退避位置にあるとき(図4(A))、傾斜角α0は下段側トレイ50’からの用紙送り出しに適した傾斜角となっている。この状態から上段側トレイ60’が給送可能位置に移動すると(図4(B))、上段側トレイ60’がリンク部材57を押し(揺動させ)、そしてこのリンク部材57が分離斜面54’を形成する壁部材を押し上げる(揺動させる)ことで、分離斜面54’の傾斜角がα0からα1へと変化する(本実施形態では、α0>α1)。傾斜角α1は、上段側トレイ60’からの用紙送り出しに適した傾斜角であり、以上の通り上段側トレイ60’の位置に応じて分離斜面54’の傾斜角が変化する様に構成されている。
【0047】
即ち、上段側トレイ60’は、用紙の分離を行う分離斜面について専用の分離斜面を有していないものの、下段側トレイ50’及び上段側トレイ60’のそれぞれについて専用の傾斜角が設定されることとなるので、各トレイに収容される用紙種類に対応した最適な分離角度に設定することができ、ダブルフィードやノンフィードをより確実に防止でき、より一層の分離信頼性を得ることができる。
【0048】
以上説明した実施形態は一例であり、これに限られないことは言うまでもない。例えば、本実施形態に係る用紙カセット100においては下段側トレイ50の分離斜面54と上段側トレイ60の分離斜面64は、それぞれ櫛歯状部55、65に形成されており、即ち分離斜面が用紙幅方向に渡って途切れ途切れに形成されているが、これに限られず、連続した一様な面(壁面)で分離斜面が形成されていても良い。
【符号の説明】
【0049】
1 インクジェットプリンター、2 給送装置、4 記録手段、5 搬送手段、6 排出手段、16 ピックアップローラー、17 揺動部材、18 揺動軸、20 従動ローラー、21 分離手段、22 分離ローラー、23 駆動ローラー、25 第1中間送り部、26 駆動ローラー、27 アシストローラー、29 従動ローラー、31 第2中間送り部、32 駆動ローラー、33 アシストローラー、35 搬送駆動ローラー、36 搬送従動ローラー、37 上部紙案内、39 下部紙案内、40 キャリッジ、41 キャリッジガイド軸、42 記録ヘッド、44 排出駆動ローラー、45 排出従動ローラー、50 下段側トレイ、50a 底面、51 エッジガイド、54 分離斜面、55 櫛歯状部、60 上段側トレイ、60a 底面、61、62 エッジガイド、63 高摩擦材、64 分離斜面、65 櫛歯状部、100 用紙カセット、P、P1、P2 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体を収容する下段側トレイと、当該下段側トレイの上部に設けられた、被記録媒体を収容する上段側トレイと、を備え、
前記下段側トレイおよび前記上段側トレイは、被記録媒体の分離を行う分離斜面についてそれぞれ専用の分離斜面を有している、
ことを特徴とする被記録媒体カセット。
【請求項2】
被記録媒体を収容する下段側トレイと、当該下段側トレイの上部に設けられた、被記録媒体を収容する上段側トレイと、を備えて構成された被記録媒体カセットであって、
前記下段側トレイおよび前記上段側トレイは、被記録媒体の分離を行う分離斜面についてそれぞれ専用の傾斜角が設定される、
ことを特徴とする被記録媒体カセット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の被記録媒体カセットにおいて、前記下段側トレイから被記録媒体を送り出す際の分離斜面の上端位置と、前記上段側トレイから被記録媒体を送り出す際の分離斜面の上端位置とが略一致する、
ことを特徴とする被記録媒体カセット。
【請求項4】
請求項1に記載の被記録媒体カセットにおいて、前記上段側トレイが備える分離斜面の傾斜角度が、前記下段側トレイが備える分離斜面の傾斜角度より緩やかである、
ことを特徴とする被記録媒体カセット。
【請求項5】
被記録媒体を給送する被記録媒体給送装置であって、請求項1から4のいずれか1項に記載の被記録媒体カセットを備えている、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項6】
被記録媒体に記録を行う記録手段と、
請求項5に記載の被記録媒体給送装置と、を備えたことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−136325(P2012−136325A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289494(P2010−289494)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】