説明

装置

【課題】血液粘度および血栓形成能を体内のメカニズムに基づき、再現性良く、短時間で安価に測定することができ、且つ血液粘度および血栓形成能を同時に測定できる装置、この装置を用いた血液粘度および血栓形成量の測定方法を提供すること。
【解決手段】開口部に毛細管が接続されている血液保持容器と、その毛細管から血液保持容器内の血液を一定流量で排出させるための加圧装置と、血液粘度および血栓形成量を検出するための検出装置とを有する装置、およびそれを用いた血液粘度および血栓形成能の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液粘度や血栓形成能の測定に用いることができる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心疾患、脳血管疾患といった生活習慣病が死亡原因の上位を占めている。心疾患としては心筋梗塞が、脳血管疾患としては脳梗塞が代表的な症例であり、それらの症状は重症となることが多い。心筋梗塞、脳梗塞などのような動脈血栓症の予防及び治療のためには、患者の血液の血栓形成能を定期的に測定し病態を把握することが望ましい。また、糖尿病、心・血管系疾患の患者の血液粘度は健常者より高いため、血栓症の予防のためには、血液粘度を定期的に測定することが望ましい。
【0003】
動脈血栓は、血流の早い動脈で損傷した血管壁を基盤として形成される。その発生機序は、血管の狭窄部または分岐部において発生するズリ応力により活性化された血小板の、損傷した血管内皮下組織への粘着、血小板同士の凝集、更には血液凝固因子系の活性化が起こり血栓へ進展すると考えられている。そのため、血栓形成の予防及び治療のためには血小板の機能を正常域に保つことが重要である。臨床においては血小板の機能の評価が随時なされ、それらの亢進が確認された場合は抗血小板薬の投与が行われると共に、抗血小板薬の有効性のモニタリングが実施されてきた。
【0004】
これまで血小板の機能評価としては、凝集能の測定が広く臨床で行われてきた。血小板凝集能の測定は、多くの場合、低ズリ速度下で多血小板血漿に惹起物質を添加することにより血小板凝集を惹起させ、この凝集に伴って上昇する透過度を測定する、いわゆる吸光度法によって行われてきた。この吸光度法においては多血小板血漿が使用されるため、その測定結果には赤血球など他の細胞との相互作用は反映されない。また、吸光度法においては惹起物質を添加し、比較的大きな凝集塊を形成させる必要があることから、吸光度法は、血小板機能低下症の診断には有効であったが、軽度の血小板機能亢進の検出には不向きであった。したがって、吸光度法の結果から、糖尿病、高脂血症などの血栓形成性疾患における血小板機能の的確な判断を行うことは極めて困難であった。
【0005】
一方、血小板が体外でズリ応力のみで惹起され凝集することが確認されてこの方、ズリ応力により惹起される血小板凝集(以下「SIPA」ということがある。) が注目され、SIPAと疾患との関係が徐々に解明されてきている。このSIPAの測定には、改良したコーン・プレート型の粘度計を用い、多血小板血漿に一定のズリ応力を負荷することで、血小板を凝集させ、それに伴って変化する透過度を測定する方法が採られている。しかしながら、この方法も前述の吸光度法と同様に、血小板の凝集に伴って変化する透過度を測定するため、全血を用いることが出来ず、赤血球など他の細胞との相互作用が反映されるものではなかった。
【0006】
そのため、全血を用いズリ応力による惹起に起因して形成される血小板凝集塊を検出する方法、並び装置の開発が望まれ、これまでに下記のような方法や装置が開発されてきた。
【0007】
特許文献1および2には、一定の吸引圧下で吸引細管を通して吸い上げられた血液が、吸引細管の下流側の開口部で血小板凝集惹起剤または血小板活性化因子との接触し、生成する血栓により変化する吸引血液量を直接または間接的に測定することにより、出血時間を測定する装置が開示されている。特許文献2においては、装置構造の一部を変更することにより、血液粘度の測定も可能にしている。
【0008】
しかしながら特許文献1および2に開示の装置においては、血小板凝集が、ズリ応力のみならず血小板凝集惹起剤または血小板活性化因子を用いて行われている。したがって、その装置を用いて得られた結果は、生体内を反映したものであるとは言い難い。
【0009】
特許文献3および4には、負圧により細管を通して吸い上げられた血液が、血小板の凝集により変化する吸引血液量を直接または間接的に測定することにより、血小板の凝集能を測定する装置が開示されている。特許文献3においては、血液にかかる圧力が一定に保たれる構造を有しており、特許文献4においてはそれが一定に保たれる構造を有していない。
【0010】
しかしながら特許文献3および4に開示の装置においては、下記のような課題が残されている。
(1)負圧下で吸引しており、圧力調整が行われない場合、吸引圧の変動により流量が変動し、それに伴ってズリ速度が変動するため一定条件下での測定が出来ない。
(2)圧力調整が行われても、検体により血液粘度が異なることより、検体毎での流量が変化するためズリ速度一定下での測定ができない。
(3)一定圧下での吸引による測定においては、ズリ応力一定下で行われており、血液粘度の検体差が反映されない。
【0011】
特許文献5および6には、加圧により血液が送液されているチューブの側壁を、針を用いて穿孔し、この穴から出血する際、血液にかかるズリ応力により血小板凝集塊を発生させ、これに起因して変化するチューブ内の血液にかかる圧力を測定することにより、血液の血栓形成能を測定する装置が開示されている。
【0012】
しかしながら特許文献5および6に開示の装置においては、穿孔の大きさによりズリ応力が変化することより、再現性を得るためには穿孔の大きさを一定にする必要が有る。しかしながら、針を用いて穿孔を設けており、その大きさを一定に保つことは甚だ困難であった。
【0013】
非特許文献1に開示されている、商品名「Gorog Thrombosis Test」などは、大きさの異なる2個のボールが内部にセットされているコニカルチューブに血液を送液し、血液が1番目のボールとチューブの隙間を通過する際に受けるズリ応力により血液中の血小板が活性化され、1番目と2番目のボールとの間のスペースで発生する血小板凝集塊が、2番目のボールとチューブとの隙間に詰まることにより変化する血液の流量を測定することにより、血小板の凝集能を測定する装置である。
【0014】
一方、血液の流動性を評する装置としては、一般的な流体の粘度を測定する回転粘度計(円錐−平型粘度計,円錐−円錐粘度計,Couette粘度計等)及び細管粘度計(Ostwald粘度計等)が用いられている。また、以下に示した毛細管を用いた血液粘度測定装置及び流動性評価装置が知られている。
例えば、特許文献7および8に開示されている、商品名「MCFAN(Micro Channel Array Flow Analyzer)」などは、圧力差一定下でシリコン単結晶の基板状に形成された微細回路に血液を通過させ、血球の通過の挙動を顕微鏡で観察することで、赤血球変形能、白血球活性度、血小板凝集能等の流動特性を評価する装置である。
【0015】
特許文献9に開示の装置は、一対の上昇管と、上昇管の間に接続される毛細管からなる非ニュートン流体(血液)用粘度計であり、一方の上昇管の血液が毛細管を通り他の上昇管に移動する速度を測定することにより、血液粘度を測定する装置である。
【0016】
これまでの血小板凝集能測定装置では、以上のような問題が残されており、臨床で広く使用するには至っていなかった。血栓症の予防および治療のためには、血小板の機能評価に用いられる方法およびその装置が、体内での血栓の生成メカニズムに基づくものであることが重要である。更に、再現性、操作性、測定時間、装置の価格、1測定当りの単価も重要な要因である。そのため、臨床の現場においては、これら要因を考慮した方法および装置が要望されている。
【0017】
血栓症のより確実な予防および治療のためには、血液の血栓形成能および血液粘度の両項目を同時に評価することが望まれるが、前述の装置は何れも一度にそのどちらか一方のみしか測定できず、血栓の形成能および血液粘度の両項目を評価する場合は、分けて測定する必要が有り手間と時間を要した。更に各々の装置を揃える必要性が有った。そのため、1台の機器で血栓形成能および血液粘度を同時に短時間で測定できる装置が要望されていた。
【0018】
【特許文献1】特開昭59−176676
【特許文献2】特開平1−201157
【特許文献3】特開昭62−162965
【特許文献4】特開平10−90254
【特許文献5】WO8802116
【特許文献6】特表平8−504273
【特許文献7】特開平2−130471
【特許文献8】特開平11−118819
【特許文献9】特表2003−515123
【非特許文献1】Blood Coagulation and Fibrinolysis 2003; 14: 31-39
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、例えば、血液粘度および血栓形成能を体内のメカニズムに基づき、再現性良く、短時間で安価に測定することができ、且つ血液粘度および血栓形成能を同時に測定できる装置、この装置を用いた血液粘度および血栓形成能の測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前述の従来技術の問題点に鑑み鋭意研究を重ねた。その結果、開口部に毛細管が接続されている血液保持容器と、その毛細管から血液保持容器内の血液を一定流量で排出させるための加圧装置と、血液粘度および血栓形成量を検出するための検出装置とを有する装置であれば、前述の従来技術の課題を解決し得ること、特に、毛細管が、その内径が血液保持装置接続側からその反対側に向かって漸次細くなっている尖錐構造を有するものである場合や、内径の異なる複数の管が連続した構造を有し、その内径が血液保持装置接続側からその反対側に向かって細くなっているものである場合、優れた効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
即ち、本発明は下記の(1)〜(11)の構成を有する。
(1)開口部に毛細管が接続されている血液保持容器と、その毛細管から血液保持容器内の血液を一定流量で排出させるための加圧装置と、血液粘度および血栓形成量を測定するための検出装置とを有する装置。
【0022】
(2)毛細管が、その内径が血液保持容器接続側からその反対側に向かって漸次細くなっている尖錐構造を有する、前記第1項に記載の装置。
【0023】
(3)毛細管の先端部の内径が20〜1500μmの範囲である、前記第2項に記載の装置。
【0024】
(4)毛細管が、内径の異なる複数の管が連続した構造を有し、その内径が血液保持容器接続側からその反対側に向かって細くなっている、前記第1項に記載の装置。
【0025】
(5)少なくとも先端部の毛細管の内径が20〜1500μmの範囲である、前記第4項に記載の装置。
【0026】
(6)毛細管が、2つの異なる内径の管が連続した構造であり、先端部の毛細管の内径が20〜1500μmの範囲であり、その長さが0.01〜100mmの範囲である、前記第4項または第5項に記載の装置。
【0027】
(7)毛細管の先端に血栓捕捉部材が取付けられている、前記第1項〜第6項の何れか1項に記載の装置。
【0028】
(8)血栓捕捉部材が血液受容器を介して毛細管に取付けられている、前記第7項に記載の装置。
【0029】
(9)血液受容器が50〜1000μlの範囲の容積を有する、前記第8項に記載の装置。
【0030】
(10)血液の流量が、毛細管の最小口径部位における血液のズリ速度が800〜80000s−1の範囲となる流量である、前記第1項〜第9項の何れか1項に記載の装置。
【0031】
(11)前記第1項〜第10項の何れか1項に記載の装置を用いた、血液粘度および血栓形成能の測定方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明の装置を用いれば、例えば、血液粘度および血栓形成能を体内のメカニズムに基づき、再現性良く、短時間で安価に測定することができ、且つ血液粘度および血栓形成能を同時に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明装置の例を図1に示す。この概略図を用いて本発明を説明するが、本発明の装置はこの図に示されたものに限定されるものではない。なお、図1は本発明装置を横から見た場合の概略図である。
図1の装置は、血液保持容器1、毛細管2、血液受容器3、血栓捕捉部材4、加圧装置5、検出装置6、廃液容器11を基本とする部材より構成される。これらの部材のうち、血液保持容器1、毛細管2、血液受容器3、および血栓捕捉部材4、廃液容器11は、図3に示したように一体化され、装置から取り外し可能な構造であることが好ましい。また、必要に応じ検出装置6で測定されたデータを記録する記録計7、データを表示するディスプレイ8、プリンター9、加温装置10を装置、に取り付けることができる。
【0034】
血液保持容器は、検体である血液を収納する容器であり、内部の血液が加圧装置による加圧され、一定流量で血液保持容器の開口部に接続された毛細管から排出される構造のものであれば特に限定されない。
血液保持容器の形状は特に限定されるものではなく、球状、角柱状、円柱状などいずれの形状でもよく、円柱の場合その底面は、円錐状や半球状であってもよい。なお、検体を攪拌子で攪拌する場合には、底面は平面であることが好ましい。
【0035】
血液保持容器の容量は検体である血液の量に依存する。患者への負担や測定後の血液処理の面などから、検体の量は少量であることが望ましい。検体の量は0.5〜10mlの範囲であることがこのましく、さらに好ましくは1〜5mlの範囲である。なお、血液保持容器の容量に対する検体の充填率は、80〜100%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、95〜100%であり、特に好ましくは100%である。充填率がこの範囲であれば、空隙の存在に起因するクッション効果が最小限で済むことから、血液保持容器からの血液の排出量を一定に保つことが容易になる。なお、実用的な面からは、ごく僅かの空隙の存在は許容されるものであり、その場合の充填率は、95〜99.99%であることが好ましく、より好ましくは、98〜99.9%の範囲である。
【0036】
血液保持容器の材質は、血小板及び血液凝固因子に対する刺激が少ないものであることが好ましい。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン・テレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル・エーテル・ケトンなどが挙げられる。また、血小板及び血液凝固因子に対する刺激が少ないMPCポリマー等をコーティングした材料も使用できる。さらに、前述の樹脂と、熱伝導性の高いセラミックスなどの無機材料もしくはアルミニウムなどの金属との複合材料、または、アルミニウム等の熱伝導性の高い材質を部材の一部に使用する事も可能である。
【0037】
毛細管は、血液保持容器の開口部に、血液が漏れることが無いように接続される。その形状は特に限定されるものではない。毛細管は、内径が一定のものであってもよく、先窄みの形状であってもよい。
本発明の装置は、血液粘度と血栓形成能とをそれぞれ、もしくはその両方を同時に測定することができる。血液粘度のみを測定する場合、毛細管の形状は、血小板が活性化されにくい形状であればよい。
【0038】
血栓形成能のみを測定する場合、毛細管の形状は、毛細管内の血流によって血小板が惹起される形状であればよく、形成された血栓が毛細管から抵抗なく容易に排出される形状でも、毛細管内に滞留、蓄積する形状であってもよい。
【0039】
血液粘度と血栓形成能とを同時に測定する場合、毛細管の形状は、先窄みの形状であることが好ましく、血液保持容器の開口部に接続される側(以下「入口」ということがある。)からその反対側(以下「出口」ということがある。)向かって一定の割合で漸次細くなっている尖錐形や、図4に示したような、途中までは尖錐形でありその先に内径が一定である管が接続された漏斗状や、図5に示したような、内径の異なる複数の管が連続しその内径が入口から出口に向かって細くなっている形状であることが特に好ましい。
【0040】
毛細管の形状について、血液粘度と血栓形成能とを同時に測定する場合を例に詳述する。本発明の装置は、血液を一定流量で毛細管に通し、血液が毛細管の血液粘度測定部位を通過している間の血液にかかる圧力の変動をモニターすることにより血液粘度を測定し、血液が当該部位通過後、血栓形成部位を通過することにより発生した血栓形成量を測定することで血栓形成能を測定するものである。
【0041】
毛細管の血液粘度測定部位とは、毛細管の中で発生するズリ応力が低く、ズリ応力による血小板の活性化が発生しない部位のことである。前述の例で言うならば、毛細管が尖錐形である場合には、入口から出口付近にかけての毛細管のほとんどの部分である。毛細管が漏斗状である場合には、入口から途中までの尖錐形の部分である。毛細管が内径の異なる複数の管が連続した形状である場合には、入口側の最も内径の大きい部分から出口側の最も内径の小さい管の手前までの部分である。
【0042】
血液粘度測定部位の内径は、血液の流量と血液のズリ速度によって決定される。ズリ速度は血小板を活性化させない速度であることが好ましく、また、血液は非ニュートン流体であり、ズリ速度により粘度が変化することもあり、その速度は0.1〜800s−1の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜500s−1の範囲であり、特に好ましくは10〜300s−1の範囲である。検体である血液の量は、患者への負担を最小に止めるためには出来る限り少量であることが望ましく、仮に検体の量が3mlであった場合、血液の流量を0.3〜0.6ml/分、ズリ速度を10〜300s−1の範囲とすると、血液粘度測定部位の内径は、およそ500〜2200μmの範囲とすることが好ましい。
【0043】
血液粘度測定部位の長さは、特に限定されるものではないが、前述の通り血液粘度の測定は、血液が毛細管の血液粘度測定部位を通過している間の血液にかかる圧力の変動をモニターすることによりおこなわれることから、血液粘度の特性が十分確認できるだけの時間が確保できる長さであることが好ましい。血液の流量を先と同様に0.3〜0.6ml/分の範囲とし、その内径を500〜2200μmの範囲とした場合、圧力検出系の性能にも依るが、その長さは30〜1000mmの範囲であることが好ましい。
【0044】
毛細管の血液粘度測定部位の形状が、尖錐形である場合、血液を一定流量で流した場合、管の内径が連続的に細くなるに従ってズリ速度は連続的に大きくなる。そのため、一度に、広範囲のズリ速度下での血液粘度を連続的に測定することが可能である。毛細管が内径の異なる複数の管が連続した形状である場合、特定のズリ速度下での血液粘度を安定的に測定することが可能である。
【0045】
血栓形成部位とは、毛細管の中で発生するズリ応力により血小板が活性化され、ひいては血栓を形成させる部位のことである。前述の例で言うならば、毛細管が尖錐形である場合には、その先端部分である。毛細管が漏斗状である場合には、漏斗の脚にあたる内径が一定の管の部分である。毛細管が内径の異なる複数の管が連続した形状である場合には、出口側、先端部分の最も内径の小さい管の部分である。
【0046】
血栓形成部位の内径は、血液の流量と血液のズリ速度によって決定される。必要なズリ速度は血小板を活性化させる速度以上である。血液が体内を循環する際のズリ速度は、大動脈で300〜800s−1、小動脈で500〜1600s−1、狭窄した動脈及び動脈の分岐部では狭窄の程度にもよるが800〜80000s−1程度である。従って、体内を反映させた条件下で測定するため、ズリ速度は800〜80000s−1の範囲であることが好ましく、より好ましくは1000〜10000s−1の範囲であり、特に好ましくは2000〜6000s−1の範囲である。
【0047】
血栓形成部位の内径は任意に決めることが出来る。しかし、毛細管の内径を大きくすると、血液の流量を高く設定する必要が生じ、検体量も増えることから、自ずとその上限は制限される。また、血栓形成部位の内径がある一定値以下になると、血液成分の流動性及び組成が変化する。従って、血栓形成部位内径は20〜1500μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜600μmの範囲であり、特に好ましくは200〜400μmの範囲である。
【0048】
血栓形成部位の長さは、ズリ応力に暴露される時間を決定する因子である。血小板をズリ応力により活性化させるためには、ある一定時間以上ズリ応力に暴露させる必要性があるが、ズリ応力に必要時間以上に暴露されると、溶血による組成変化や圧力損失が増大する。血栓形成量を検出する装置の性能にも依るが、本発明において血栓形成部位の長さは、0.01〜100mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜40mmの範囲である。
【0049】
血液の流量は、血液のズリ速度と毛細管の内径が決定すれば自ずと決定される。また、前述のように流量を高く設定すると多量の血液が必要となり、それはそのまま患者の負担増となることから、血液の流量は出来る限り少量であることが望ましい。本発明において好ましい血液の流量は、0.01〜10ml/minの範囲であり、より好ましくは0.1〜1ml/minの範囲であり、特に好ましくは0.3〜0.8ml/minの範囲である。
【0050】
以上、毛細管の形状などについて、血液粘度と血栓形成能とを同時に測定する場合を例に説明した。血液粘度と血栓形成能とをそれぞれ単独で測定する場合の毛細管の形状などは、前述の記載に準じて決定されればよい。
【0051】
毛細管の材質は、血小板及び血液凝固因子に対して刺激が低い材質で有ることが好ましい。具体的には、ポリプロピレン,ポリエチレン・テレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル・エーテル・ケトン、ステンレスなどが挙げられる。また、血小板及び血液凝固因子に対する刺激が少ないMPCポリマー等をコーティングした材料も使用できる。
【0052】
加圧装置は、血液保持容器内の血液を、その開口部に接続された毛細管を通して一定流量で排出させるための装置であり、血液を一定流量で排出させる能力を有するものであれば、何れの装置であっても本発明に使用することができる。加圧装置の構成は特に限定されるものではないが、加圧装置で発せられた力が血液保持容器内の血液に伝達される機能を有していればよい。その構成は具体的には、動力源、動力伝達媒体などであり、血液保持容器と接続する必要がある場合には接続部も挙げることができる。
【0053】
動力源は特に限定するものではなく、モーター、ポンプ、コンプレッサー、高圧ボンベなどが挙げられる。なお、動力源には、検体の流量を調整できるように、調整機能が付いていることが望ましい。動力伝達媒体は特に限定するものではなく、水、気体、プランジャーなどが挙げられる。血液保持容器との接続部は特に限定するものではなく、加圧下でも密閉を維持できものであれば良い。
【0054】
本発明において血液の流量は、完全に一定であることが望ましいが、採用する加圧装置の種類によっては、微細な周期で流量が変動する場合がある。そのような場合であっても例えば、その変動が設定流量の±10%の範囲であれば、本発明の効果を大きく損なうものではないが、本発明においては±5%の範囲であることが好ましく、より好ましくは±2%の範囲である。この範囲であれば、流量の変動に起因するズリ速度変動の血栓形成量への影響や、血液粘度測定時の圧力へ影響も極僅かであり、実用上問題ない。
【0055】
前述のように、本発明装置の使用においては、血液粘度、血栓形成能の測定のため、血液保持容器内の血液の排出は一定流量であることが好ましい。しかしながら、その使用目的によっては、その開始から終了まで一定流量でなくてもよく、排出中の血液の流量を変動させても良い。例えば、血小板が活性化されるズリ速度の閾値を求める目的のためには一定勾配で流量を増加させればよく、複数のズリ速度下での血小板の活性化を評価する目的ためには一定間隔で流量を変動させてもよく、体内での血液の流れを反映させる目的のためには瞬間的に流量を低下させるなどしてもよい。
【0056】
なお、血液を排出する際の流量は、毛細管内の血液の流量に直接影響するものであるから、その決定においては、使用する毛細管の形状等を十分考慮して決定されることが望まれる。
【0057】
検出装置は、血液粘度及び血栓形成能を検出する機器であり、血液粘度を検出する装置と血栓形成量を検出する装置とは、同一の物であってもよく、異なる物であってもよい。
血液粘度の検出装置としては、例えば、血液保持容器内の血液を一定流量で排出した際の当該血液にかかる圧力を測定する装置や、毛細管の入口及び出口での圧力差を測定する装置を挙げることができる。具体的には、圧力計測器などが挙げられる。
【0058】
血栓形成量の検出装置は、形成された血栓の量を直接的に測定するものであってもよく、間接的に測定するものであってもよい。直接的な測定装置としては、例えば、毛細管の出口に血液受容器を設置し、血液受容器内の血液から回収された血栓の量を直接測定する装置や、毛細管の出口、または、毛細管の出口に接続された、開口部を有する血液受容器の開口部に血栓捕捉部材を取り付け、この捕捉部材に捕捉された血栓の量を直接測定する装置を挙げることができる。
【0059】
間接的な測定装置としては、例えば、毛細管の出口、または、毛細管の出口に接続された、開口部を有する血液受容器の開口部に、比較的目の細かい血栓捕捉部材を取り付け、この捕捉部材の目詰まりの程度を測定する装置を挙げることができる。捕捉部材の目詰まりを測定する装置は特に限定されないが、具体的には、血液保持容器内の血液を一定流量で排出した際の当該血液にかかる圧力を測定する装置などを挙げることができる。
【0060】
したがって、検出装置として具体的には、圧力を測定する圧力計測器、加圧装置のトルクまたは電流を測定する計測機器、捕捉部材の通過液量を測定する流量計測器、捕捉部材の通過液の重量を測定する重量計測器、捕捉部材の通過液の液滴間隔を評価できる画像又はセンサーなどの計測機器が挙げられる。
【0061】
検出装置は、記録計と接続されていることが好ましい。記録計は、検出装置で検出されたデータを記録する装置であり、記録機能を有しているものであれば特に限定されない。その記録の手段は特に限定されるものではなく、アナログデータとしてペン等で紙への記載する装置、デジタルデータとしてパーソナルコンピューター等にデータを蓄積する装置などが挙げられる。なお、パーソナルコンピューターなどの装置でデジタルデータとして記録する場合、データを印刷することができるプリンターが接続されていることが望ましい。
【0062】
さらに検出装置は、ディスプレイと接続されていることが好ましい。ディスプレイは、検出装置で検出されたデータを表示する装置であり、検出されたデータをリアルタイムで表示できる機能を有しているものであれば特に限定されない。その表示の手段は特に限定されるものではなく、ペン等で紙への記載し表示する装置、CRTもしくは液晶などを用いて表示する装置が挙げられる。
【0063】
本発明においては、毛細管の出口に血液受容器が結合されているものであることが好ましい。血液受容器は、毛細管から排出された血液に加えられるズリ速度を低下させるものであり、毛細管内で活性化された血小板が凝集し、凝集塊を成長させ、最終的には血栓を形成させる容器である。
【0064】
血液受容器の構造は特に限定されるものではなく、角柱状、円柱状、円錐状、球状などのいずれの形状でもよい。また、前述のように、血液受容器は開口部を有するものであってもよく、さらに、その開口部には血栓捕捉部材が取り付けられたものであってもよい。血液受容器の容量は特に限定されるものではないが、血液保持容器中の血液を収納し得る程度の容量があればよい。なお、血栓形成量の検出装置が、血栓捕捉部材の目詰まりを測定する装置である場合、血液受容器の容量は、血液受容器が検体である血液で満たされてもまだ血液保持容器に血液が残存し得る程度の容量であてもよい。
【0065】
血液受容器の材質は、血小板及び血液凝固因子に対して刺激が低い材質であることが好ましく、ポリプロピレン,ポリエチレン・テレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル・エーテル・ケトンなどが使用できる。また、血小板及び血液凝固因子に対する刺激が少ないMPCポリマー等をコーティングした材料も使用できる。
【0066】
血栓捕捉部材は、毛細管内または血液受容器内で生成した血小板の凝集塊をはじめとする血栓を捕捉する部材であり、白血球、赤血球及び凝集塊を形成していない血小板は通過させ、血栓のみを捕捉する構造のものであれば特に限定されない。構造としては、多孔性膜、細孔を有する薄板などが挙げられ、細孔を有する薄板を使用することが好ましい。血栓捕捉部材の細孔のサイズは、20から30μmの範囲であることが望ましい。捕捉部材の細孔の形状は、特に限定されるものではなく、丸型角型などいずれの形状でもよい。
【0067】
また、血小板の惹起物質に対する反応性をみることを目的として、惹起物質をしみこませた多孔性膜を、血栓捕捉部材として用いることができる。惹起物質は、血小板を活性化させるものであれば特に限定されない。具体的には、アデノシンジホスファターゼ,コラーゲン、エピネフリン、トロンビンなどが挙げられる。
【0068】
なお、血液粘度測定のみを行う場合や、血小板を活性化させる目的のみで本発明の装置を使用する場合には、血栓捕捉部材を取り付けなくてもよい。
【0069】
血栓捕捉部材の材質は、強度があり、血小板及び血液凝固因子に対して刺激が低い材質で、かつ均一な細孔を形成させやすいものであることが好ましい。具体的には、ニッケル、ニッケル合金、銅などが挙げられる。
【0070】
本発明の装置においては、毛細管出口、血液受容器開口部、または血液受容器開口部に血栓捕捉部材が取り付けられている場合には血栓捕捉部材を介して血液受容器開口部に、廃液容器が取り付けられていてもよい。廃液容器は、粘度および血栓形成能の測定に用いた血液を収納し廃液するための容器であり、排出される血液を収納でき、漏洩しない構造のものであれば特に限定されない。その形状は特に限定されるものではなく、球状、角柱状、円柱状などのいずれの形状でも良いが、排気のための開口部を廃液容器上部に有するものが望ましい。
【0071】
廃液容器の容量は、当該容器上部の開口部から血液の漏洩を防止するため、血液保持容器の容量の105から130%の範囲であることが望ましい。廃液容器の材質は、安価で成型しやすい材質で有ることが好ましく、ポリプロピレン、ポリエチレン・テレフタレートなどを使用できる。
【0072】
本発明の装置においては、必要に応じて加温装置が取り付けられていてもよい。加温装置は、血液保持容器の血液を一定温度に保たせるための機器である。加温装置は、熱源、熱伝導媒体、温度調整部、温度センサーなどのパーツより構成されているものが好ましい。また、熱伝導媒体は、水または熱伝導性の高い金属などが挙げられる。
【0073】
本発明の血液粘度および血栓形成能の測定方法は、本発明の装置を用いるものであれば、特に限定されるものではない。測定条件等は測定の目的に応じ、適宜決定すればよい。
【0074】
本発明の測定方法に使用する血液は、抗血液凝固剤を添加した血液であっても、非添加の血液であってもよい。抗血液凝固剤を血液に添加した場合には、抗血液凝固剤が血液の凝固を抑制するため、血栓形成能の一部である血小板の凝集能のみを測定することとなる。抗血液凝固剤は、血液の凝固系のみを抑制し、カルシウムを減少させない薬剤が望ましい。具体的には、未分画ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバンなどが挙げられる。
【0075】
本発明の測定方法においては、本発明の効果を損なわない範囲において、検体である血液に、血小板の惹起物質に対する反応性をみる目的で、血小板を活性化させる惹起物質を添加することができる。惹起物質は、血小板を惹起させるものであれば特に限定されない。具体的には、アデノシンジホスファターゼ,コラーゲン、エピネフリン、トロンビンなどが挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0077】
本実施例で使用した装置を図2に示した。この装置は、血液保持容器1(容量3mL、材質:ポリテトラフルオロエチレン)、毛細管2-1(ID1000μm×200mm、材質:ポリエーテル・エーテル・ケトン)、毛細管2-2(ID250μm×35mm、材質:ポリエーテル・エーテル・ケトン)、血液受容器3(容量0.3mL、材質:ポリプロピレン)、捕捉部材4(開孔径25μm、材質:ニッケル)、加圧装置5、検出装置(圧力計)6、記録計7より構成されている。加圧装置はシリンジポンプを用い、加圧媒体としては水を用いた。
【0078】
実施例1
被験者Aより注射筒を用いて4ml採血し、この血液を用いて血栓形成能の測定を行った。採血後、注射筒内の血液3mlを血液受容器に充填した。充填後、シリンジポンプを起動してサンプルを0.46ml/分の流速で毛細管への通液を開始すると同時に、圧力(データは圧力を電圧に変化して表示されている)の記録も開始した。結果を図6に示す。血液は約0.5分で毛細管2−1および2−2を通過し、約1分後に血栓捕捉部材に達した。シリンジポンプを起動して約5分後より圧の急激な上昇が確認され、圧の上昇に伴って血栓捕捉部材を通過する血液量の減少が確認された。なお、本実施例に用いた血液には抗血液凝固材は添加しなかった。
【0079】
実施例2
3日後、再度被験者Aから4ml採血し、この血液を用いた以外は実施例1に記載の方法に準じ、血栓形成能の測定を行った。結果を図7に示す。シリンジポンプを起動して約2.6分後より圧の急激な上昇が確認され、圧の上昇に伴って血栓捕捉部材を通過する血液量の減少が確認された。
【0080】
実施例3
実施例1と同日、被験者Bから4ml採血し、この血液を用いた以外は実施例1に記載の方法に準じて血栓形成能の測定を行った。結果を図8に示す。圧の急激な上昇及び血栓捕捉部材を通過する血液量の減少は確認されなかった。
【0081】
実施例4
実施例2と同日、被験者Bから4ml採血し、この血液を用いたことと、血液の流速を0.9ml/分とした以外は実施例1に記載の方法に準じて血栓形成能の測定を行った。結果を図9に示す。圧の急激な上昇及び血栓捕捉部材を通過する血液量の減少は確認されなかった。
【0082】
実施例5
血液の代わりにグリセリン水溶液を用いた以外は実施例1に記載の方法に準じて操作を行った。試験に用いたグリセリン水溶液の濃度は40%(3.18mPa・s)及び55%(6.58mPa・s)であった。結果を図10に示す。グリセリン水溶液が毛細管1を通過する際の圧力がことなることより、粘度の差を確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明装置の概念図。
【図2】実施例に用いた本発明装置の略図。
【図3】カートリッジの概念図。
【図4】毛細管の略図。
【図5】毛細管の略図。
【図6】実施例1における血栓形成能測定結果。
【図7】実施例2における血栓形成能測定結果。
【図8】実施例3における血栓形成能測定結果。
【図9】実施例4における血栓形成能測定結果。
【図10】実施5におけるグリセリン水溶液粘度の測定結果。
【符号の説明】
【0084】
12:尖錐形管部
13:内径一定管部
14:内径最大管部
15:内径が2番目に大きい管部
16:内径が2番目に小さい管部
17:内径最小管部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部に毛細管が接続されている血液保持容器と、その毛細管から血液保持容器内の血液を一定流量で排出させるための加圧装置と、血液粘度および血栓形成量を測定するための検出装置とを有する装置。
【請求項2】
毛細管が、その内径が血液保持容器接続側からその反対側に向かって漸次細くなっている尖錐構造を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
毛細管の先端部の内径が20〜1500μmの範囲である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
毛細管が、内径の異なる複数の管が連続した構造を有し、その内径が血液保持容器接続側からその反対側に向かって細くなっている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
少なくとも先端部の毛細管の内径が20〜1500μmの範囲である、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
毛細管が、2つの異なる内径の管が連続した構造であり、先端部の毛細管の内径が20〜1500μmの範囲であり、その長さが0.01〜100mmの範囲である、請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
毛細管の先端に血栓捕捉部材が取付けられている、請求項1〜6の何れか1項に記載の装置。
【請求項8】
血栓捕捉部材が血液受容器を介して毛細管に取付けられている、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
血液受容器が50〜1000μlの範囲の容積を有する、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
血液の流量が、毛細管の最小口径部位における血液のズリ速度が800〜80000s−1の範囲となる流量である、請求項1〜9の何れか1項に記載の装置。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の装置を用いた、血液粘度および血栓形成能の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate