裏込め地盤の耐震補強工法および構造
【課題】地震時に構造物の背面に造成された裏込め地盤に生じる動的な土圧および水圧を低減することができ、施工性に優れた裏込め地盤の耐震補強工法および構造を提供する。
【解決手段】構造物1の背面に沿うように形成された略同一粒径のゴムチップ5aと砕石5bとを混合した混合材5からなる緩衝層6に、地震により生じる裏込め地盤3の動的な土圧が受圧板8を介して伝わり、この緩衝層6が適度な空隙を有しつつゴムチップ5aの弾性変形により動的な土圧を吸収するとともに、空隙による優れた透水性により裏込め地盤3の水圧上昇を低減させて液状化現象を防止する。
【解決手段】構造物1の背面に沿うように形成された略同一粒径のゴムチップ5aと砕石5bとを混合した混合材5からなる緩衝層6に、地震により生じる裏込め地盤3の動的な土圧が受圧板8を介して伝わり、この緩衝層6が適度な空隙を有しつつゴムチップ5aの弾性変形により動的な土圧を吸収するとともに、空隙による優れた透水性により裏込め地盤3の水圧上昇を低減させて液状化現象を防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏込め地盤の耐震補強工法および構造に関し、さらに詳しくは、地震時に構造物の背面に造成された裏込め地盤に生じる動的な土圧および水圧を低減することができ、施工性に優れた裏込め地盤の耐震補強工法および構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設構造物の耐震補強としては、構造物や基礎地盤の物理的な補強のほかに、裏込め部分における地震時土圧の低減と埋め立て地盤から作用する過剰間水圧の消散工法などの方法が挙げられる。地震時土圧の低減方法としては、一般に締固めや固化材の攪拌混合による地盤改良、砕石などの透水性に優れた材料を柱状に配置するバーチカル・ドレーンにより過剰間水圧を消散させる方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
その他に構造物の背面にゴムチップを配置して緩衝層を形成することも検討されているが、地下水位以下や海上での施工においては、ゴムチップの比重が小さいため、安定して所定位置にゴムチップを配置することが困難であり施工性に問題があった。
【特許文献1】特開2001−11848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、地震時に構造物の背面に造成された裏込め地盤に生じる動的な土圧および水圧を低減することができ、施工性に優れた裏込め地盤の耐震補強工法および構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明の裏込め地盤の耐震補強工法は、構造物の背面に造成される裏込め地盤の耐震補強工法であって、粒径が略同一のゴムチップと砕石とを混合した混合材を、前記構造物の背面の上下方向少なくとも一部に沿って配置して緩衝層を形成することを特徴とするものである。
【0006】
ここで、前記混合材を、前記構造物の背面に沿って該構造物の下端部から上端部まで連続するように配置して緩衝層を形成することもでき、緩衝層の背面に沿って受圧板を配置することもできる。また、混合材を複数の通水性を有する袋状の収容体に予め収容しておき、該混合材を収容した収容体を積み上げて緩衝層を形成することもできる。また、緩衝層の背面を傾斜させて緩衝層の層厚が下方側でより大きくなるようにしてもよい。
【0007】
また、本発明の裏込め地盤の耐震補強構造は、構造物の背面に造成される裏込め地盤の耐震補強構造であって、前記構造物の背面の上下方向少なくとも一部に沿って、粒径が略同一のゴムチップと砕石とを混合した混合材からなる緩衝層を設けたことを特徴とするものである。
【0008】
ここで、緩衝層を構造物の背面の下端部から上端部まで連続的に設けてもよく、緩衝層の背面に沿って受圧板を設けてもよい。また、緩衝層を、混合材を収容した通水性を有する袋状の収容体を複数積み上げて形成する構造にすることもできる。緩衝層の層厚が下方側でより大きくなるように緩衝層の背面が傾斜している構造にすることもできる。ゴムチップおよび砕石の粒径は例えば2mm以上60mm以下にする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構造物の背面に土砂等を裏込めすることにより造成した裏込め地盤に、構造物の背面に沿うように形成された略同一粒径のゴムチップと砕石とを混合した混合材からなる緩衝層が、地震の際に適度な空隙を有しつつゴムチップが弾性変形することによって、裏込め地盤に生じる動的な土圧を吸収するとともに、ゴムチップと砕石との空隙による優れた透水性により裏込め地盤の水圧上昇を低減させるので裏込め地盤の液状化現象を抑制することができる。
【0010】
また、混合材にゴムチップよりも比重の大きい砕石を混合しているので、海水面や地下水面以下に緩衝層を形成する場合であっても、安定して混合材を所定位置に配置することができ施工性が向上する。
【0011】
また、緩衝層の背面に沿って受圧板を配置することにより、背面土圧の均等かつ効率的な伝達と吸収が可能になる。構造物が新設の際は、この混合材を構造物と受圧板との間に充填した構造にすることで、構造物自体の断面縮小化や構造物の基礎地盤の地盤改良範囲の縮小化が可能になりコストダウンに寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の裏込め地盤の耐震補強工法および構造を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示するように、ケーソンや擁壁等の構造体1の背面に土砂等の裏込め土4を裏込めして造成された裏込め地盤3が本発明の耐震補強の対象となる。この構造物1は海底のマウンド2上から海上に立設され、その背面に沿って層厚(水平方向の長さ)をほぼ一定にした緩衝層6が形成されている。緩衝層6の上面にはグラベルマット6aが敷設され、背面には受圧板8が沿うように設置され、この受圧板8の背面側が裏込め地盤3になっている。
【0014】
この緩衝層6は、ほぼ同じ粒径のゴムチップ5aおよび砕石5bの混合材5が通水性を有する袋状の収容体7に収容され、この収容体7を複数積み上げることにより形成されていて適度な空隙を有している。空隙率が50〜60%程度確保できれば、混合材5には粒径の程度が異なるゴムチップ5aや砕石5b、その他の混合物が若干混合していてもよい。ゴムチップ5aおよび砕石5bの好ましい粒径は、例えば2mm〜60mmであり、この範囲であると、より適度な空隙とゴムチップ5aの弾性変形を確保でき、優れた緩衝効果を得ることができる。
【0015】
尚、ゴムチップ5aと砕石5bの体積混合割合は、後述する実施例で示すように、予め混合割合を変えた混合材5を用いて緩衝層6の試験サンプルSを作製し、試験サンプルSで測定した緩衝効果(土圧低減効果)を把握しておき、その測定結果と施工現場での必要仕様とに基づいて決定するようにする。
【0016】
ゴムチップ5aは、例えば、使用済みタイヤを破砕したもの(タイヤチップ)を用いることができ、これによれば、使用済みタイヤを有効利用することができる。砕石5bは、コンクリート再生砕石など種々の砕石やこれらに類するものでよく、ゴムチップ5aと砕石5bの比重は、それぞれ1.10〜1.20、2.60〜2.80程度である。
【0017】
収容体7は、例えば、ジオテキスタイルと呼ばれる土木等の用途に使用される高分子材料からなる織布や不織布、編物等で構成される。その他、通水性を有し、混合材5を保持できるものであれば、収容体7として用いることができる。
【0018】
次に、この裏込め地盤3の耐震補強構造を構築するための本発明の耐震補強工法を例示する。
【0019】
まず、構造体1を新設し、その背面に新たに裏込め地盤3を造成する場合は、図2に例示するように工場や施工現場において、予め構造体1の背面から間隔をあけて受圧板8を立設し、構造体1の背面と受圧板8との間の幅方向両端部に仕切り壁を設けて、混合材5を配置する箱状のスペースを設けておく。この仕切り壁は、緩衝層6による緩衝効果を妨げないように剛性の低いものとする。
【0020】
そして、構造体1の背面と受圧板8との間にゴムチップ5aおよび砕石5bの混合材5を予め収容した収容体7を上下に積み重ねて充填することにより緩衝層6を形成する。本発明では混合材5は、収容体7に収容せずに直接、構造体1の背面と受圧板8との間に投入して充填するようにしてもよい。
【0021】
受圧板8は図3に例示するように、上下に複数分割したものを順次、上方に連結するようにして施工を進めることもできる。
【0022】
このように、構造体1の背面に沿って構造物1の下端部から上端部まで連続するように混合材5を配置して緩衝層6を形成した後、受圧板8の背面に裏込め土4を裏込めして裏込め地盤3を造成する。
【0023】
この耐震補強工法では、混合材5にゴムチップ5aよりも比重の大きい砕石5bを混合しているので、海水面や地下水面以下に緩衝層6を形成する場合であっても、安定して混合材5を所定位置に配置することができ、施工性が著しく向上する。
【0024】
混合材5は施工現場で収容体7に収容してもよいが、予め工場等で収容しておくと、周囲に混合材5を撒き散らすことがなく、施工時間の短縮を図ることもできる。また、混合材5を収容体7に収容し、この収容体7を積み上げて緩衝層6を形成すると混合材5を周囲に拡散させることなく、かつ迅速に作業を行なうことができる。また、混合材5を収容体7に収容しておくと施工後に地中で不用意に拡散することがなく、地震時の動的な土圧および水圧の緩衝効果が損なわれにくくなる。
【0025】
裏込め地盤3は、地震により加振されると裏込め地盤3の裏込め土(裏込め砂)4の粒子間の水圧が急上昇して液状化現象が生じ易い。また、動的な土圧が構造物1に作用して構造物1に過大な負荷がかかるが、本発明の耐震補強構造によれば、地震の際に、構造体1と裏込め地盤3とに挟まれた緩衝層6では、ゴムチップ5aと砕石5bとの間に適度な空隙を確保しつつ、ゴムチップ5aが弾性変形する。この弾性変形によって動的な水平土圧は吸収されて低減し、かつ緩衝層6の有する適度な空隙による優れた透水性により裏込め地盤3の水圧上昇が低減されるため、液状化現象を抑制することができる。さらに、構造体1に作用する土圧も低減する。
【0026】
緩衝層6の背面に設けた受圧板8は、地震時の揺れによる土圧を緩衝層6に分散させて伝達するので、緩衝層6の広い範囲で動的な土圧を吸収することが可能になる。即ち、受圧板8を設けることで、背面土圧を均等かつ効率的に緩衝層6に伝達、吸収させて一段と優れた緩衝効果を得ることができる。受圧板8は、土圧を緩衝層6に分散して伝えることができれば特に限定されず、例えば、鉄板や矢板鋼板を用いることができる。受圧板8は透水性を持たせるために、有孔構造にすることもできる。
また、上記のように新設の構造物1の背面と受圧板8との間に混合材5を充填した構造にすることで、地震時に構造物1に作用する水平土圧の低減と裏込め地盤3の過剰間隙水圧の消散、これらに起因する転倒モーメントや端し圧が低減し、構造物1の底面幅や壁厚の縮小、基礎地盤の地盤改良幅の低減など基礎地盤を含めた断面構造全体の縮小化により、構造物1などの構成部材の製造コストや施工に必要なコストを抑えることも可能になる。
【0027】
本発明では、緩衝層6の背面に受圧板8を設けない耐震補強構造にすることもでき、受圧板8を設けない場合や受圧板8にすき間や貫通孔を設けた場合は、地震の際に裏込め地盤3に含まれている水分が、適度な空隙を有している緩衝層6の混合材5の粒子間を通過して表面に流出することができる。このように緩衝層6がドレーンとして機能する場合は、裏込め地盤3の水圧上昇が抑制されることによる液状化現象防止効果を得ることができる。
【0028】
次に、既設の構造物1の背面の裏込め地盤3を耐震補強する場合について説明する。
【0029】
図4に例示するように、構造物1の背面に裏込め石4aがある場合や控え工がある場合には、まず、構造物1の背面を安定勾配で掘削して、緩衝層6を形成するスペースを確保する。次いで、図5に例示するように構造物1の背面から所定間隔あけて受圧板8を立設し、構造物1の背面と受圧板8の間に混合材5を収容した収容体7を順次、積み上げて緩衝層6を形成する。緩衝層6を形成した後、受圧板8の背面側には裏込め土4を埋め戻して耐震補強構造を構築する。
【0030】
図6に例示するように、構造物1の背面に裏込め石4aや控え工がない場合は、構造物1の背面から所定間隔をあけて受圧板8と山留め18とを打設して、構造物1と山留め18の間の裏込め土4を掘削、除去して緩衝層6を形成するスペースを確保する。次いで、構造物1と山留め18の間のスペースに混合材6を投入、充填して緩衝層6を形成する。構造物1の背面に裏込め石4aや控え工がない場合にも、構造物1の背面を安定勾配で掘削して、緩衝層6を形成するスペースを確保し、構造物1の背面から所定間隔あけて受圧板8を立設し、この構造物1の背面と受圧板8の間に混合材5を収容した収容体7を順次、積み上げて緩衝層6を形成することもできる。
【0031】
緩衝層6は、上述した種々の実施形態のように構造物1の背面に沿って構造物1の下端部から上端部まで連続的に形成するだけでなく、必要な緩衝性能が得られるのであれば、構造物1の背面の上下方向一部に沿って形成することもできる。
【0032】
例えば、ケーソンの背面に裏込め土を裏込めした裏込め地盤の縮小モデルを、振動台試験機によって加振した際の最大土圧を測定すると、図15、16のようなデータが得られる。この測定に用いた縮小モデルは、ケーソンの背面に沿って上下方向全長(600mm)に裏込め土として砕石を裏込めしたモデルA(緩衝層なし)、ケーソンの背面に沿って上下方向全長(600mm)に裏込め土として粒径約20mmのゴムチップのみを裏込めして緩衝層を設けたモデルB(緩衝層有り)、ケーソンの背面の上下方向上半分(300mm)を粒径約20mmのゴムチップのみからなる緩衝層を設け、上下方向下半分(300mm)を砕石のままとしたモデルC(上半分緩衝層有り)の3種類である。
【0033】
この振動台試験機による測定は、それぞれのモデルのケーソン背面に土圧計を設置し、水平方向に約680galの加速度で加振し、その際に測定された最大土圧を図15、16に示している。図15におけるプロットは丸形がモデルA、ひし形がモデルB、図16におけるプロットは丸形がモデルA、三角形がモデルCのデータを示している。
【0034】
図15の結果から緩衝層を設けたモデルBでは、モデルAに比べて最大土圧が約50%程度低減でき、図16の結果からもモデルCの緩衝層を設けたケーソンの上半分の範囲(ケーソンの底面から300〜600mm)では、モデルAに比べて最大土圧が約50%程度低減できることが分かる。また、モデルCの緩衝層を設けていない下半分の範囲においてもモデルAに比べて最大土圧が10%程度低減可能であることが分かる。このモデルCの下半分の範囲の土圧低減は、上半分の範囲を砕石からゴムチップに置き換えたことによる軽量化に起因すると考えられる。
【0035】
このように、構造物1の背面の上下方向一部に緩衝層6を設けても相当の土圧低減効果を得られることが分かり、このデータは、本発明のようなゴムチップ5aと砕石5bとの混合材5からなる緩衝層6にも当てはまると考えられる。したがって、必要な緩衝性能が得られるように、緩衝層6を構造物1の背面の上下方向一部に沿って形成することもできる。
【0036】
構造物1の背面の一部に沿って緩衝層6を形成するには、例えば、図7に示すように既設の構造物1の背面を構造物1の上下方向中途の必要深さまで安定勾配で掘削して緩衝層6を形成するスペースを確保する。次いで、掘削により確保したスペースの底部に一段目の受圧板8を構造物1の背面から所定間隔をあけて設置し、受圧板8と構造物1の背面の間に混合材5を投入、充填した後、受圧板8の背面側に裏込め土4を埋め戻して一段目の施工を完了する。以後、同様に二段目、三段目の施工を繰り返す。このように、上下方向に複数に分割して段階的に混合材5を投入、充填して、図8に例示するような構造物1の背面の上半分に沿った緩衝層6を形成することができる。
【0037】
この実施形態では、緩衝層6の形成範囲を所定の緩衝性能を得るために必要な最低限の範囲にすることができるので、コストを抑えて短工期で施工を行なうことができる。緩衝層6の形成範囲は、構造物1の背面の上半分の範囲に限定されず、下半分の範囲や上下方向中央の一部の範囲など、必要に応じて任意の範囲に緩衝層6を形成することができる。また、受圧板8を複数に分割せずに一体化したものを用いて緩衝層6を形成することもでき、受圧板8を設けずに混合材5を投入、充填して緩衝層6を形成することもできる。
【0038】
また、新設や既設の構造物1に関わらず、図9に例示するように、緩衝層6の層厚が下方側でより大きくなるように緩衝層6の背面が傾斜している耐震補強構造にすることもできる。この緩衝層6は、下方側でより大きな土圧が生じる裏込め地盤3の圧力分布に合わせて層厚を下方側でより大きくしているので、無駄なく効率的に緩衝効果を得ることができる。
【0039】
この耐震補強構造も、上記に例示した種々の実施形態の工法により構築することができる。緩衝層6の背面に沿って受圧板8を設けることもでき、混合材5を収容した収容体7を複数、順次積み上げて緩衝層6を形成することもできる。
【実施例】
【0040】
粒径をほぼ同じ(平均粒径10mm)に揃えたゴムチップ(比重約1.15)および砕石(比重約2.70)を用いて表1に示すように、ゴムチップと砕石との体積混合率のみを変えた緩衝層の試験サンプルSを4種類(実施例1、2、比較例1、2)用意し、各試験サンプルSについて下記に示す土圧測定を実施して土圧低減効果を確認した。その結果を図12〜14に示す。表1のゴムチップ混合率とは、ゴムチップおよび砕石の合計体積に対するゴムチップの体積割合である。
【0041】
【表1】
【0042】
[土圧測定]
土圧測定装置9は図10に示すように、剛体の載荷板12(直径19.5cm)の上に荷重計13を備え、その上にポール15を立設し、ポール15には重錘14(重量294N(30kg))を挿通し、ポール15の上端部には、重錘14を落下させる落下装置17を設けて構成されている。図11に示すように、内径20mm、高さ60cmのアクリル樹脂円筒と鋼製枠からなるモールド10の底部に土圧計11を設置し、その上に予め均一に混合した試験サンプルSを所定の層厚(9cm、18.5cm、37cm、50cm)にセットするとともに、試験サンプルSの上面に土圧測定装置9の載荷板12を載置し、荷重計13およびに土圧計11に測定データを入力する制御装置16を接続する。次いで、荷重計13に対する落下高さ60cmにして重錘14を自由落下させて、荷重計13および土圧計11により荷重を測定した。荷重計13による測定荷重は試験サンプルS上面の土圧(反力)であり、土圧計11による測定荷重は試験サンプルS下面の土圧(伝達力)である。
【0043】
尚、試験サンプルSは、モールド10にゴムチップと砕石との混合材を高さ80cmの一定条件で落下、充填し、表面を均して作製する。その際に計測、算出した空中密度および空隙率を表1に記載している。また、アクリル樹脂円筒の内壁にはシリコングリースを塗布して摩擦を低減した。
【0044】
図12は、比較例1(砕石のみからなる試験サンプル)を基準にして各試験サンプルSの層厚と試験サンプルS上面の土圧低減率の関係を示している。図13は、比較例1を基準にして各試験サンプルSの層厚と試験サンプルS下面の土圧低減率の関係を示している。図14は、横軸をゴムチップ混合率にして図13を書き換えたものであり、比較例1を基準にして各試験サンプルSのゴムチップ混合率と試験サンプルS下面の土圧低減率の関係を示している。図12、13におけるプロットは、丸形が実施例1(ゴムチップ混合率25%)、三角形が実施例2(ゴムチップ混合率50%)、四角形が比較例1(ゴムチップ混合率0%)、ひし形が比較例2(ゴムチップ混合率100%)を示し、図14におけるプロットは、丸形が試験サンプルSの層厚50cm、三角形が層厚37cm、四角形が層厚18.5cm、ひし形が層厚9cmの場合を示している。
【0045】
図12〜14の結果から、ゴムチップと砕石を混合した実施例1、2は、ゴムチップのみからなる比較例2には及ばないが、ある程度の土圧低減効果を有し、ゴムチップの混合率を変えることにより所望の土圧低減効果を得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の裏込め地盤の耐震補強構造を例示する側面断面図である。
【図2】図1の裏込め地盤の耐震補強構造を構築する耐震補強工法を例示する説明図である。
【図3】図2の耐震補強工法の別の例を示す説明図である。
【図4】裏込め石が設置された既設の構造物の背面の裏込め地盤を耐震補強する際の工法を例示する説明図である。
【図5】図4の次の工程を例示する説明図である。
【図6】裏込め石や控え工が無い既設の構造物の背面の裏込め地盤を耐震補強する際の工法を例示する説明図である。
【図7】構造物の背面の上下方向一部に沿って緩衝層を形成する工法を例示する説明図である。
【図8】図7の工法により完成した耐震補強構造を例示する側面断面図である。
【図9】本発明の裏込め地盤の耐震補強構造の別の実施形態を例示する側面断面図である。
【図10】土圧測定装置を例示する斜視図である。
【図11】土圧測定装置による土圧測定方法を示す説明図である。
【図12】土圧測定による試験サンプルの層厚と試験サンプル上面の土圧低減率との関係を示すグラフ図である。
【図13】土圧測定による試験サンプルの層厚と試験サンプル下面の土圧低減率との関係を示すグラフ図である。
【図14】土圧測定によるゴムチップ混合率と試験サンプル下面の土圧低減率との関係を示すグラフ図である。
【図15】振動台実験による緩衝層(モデルB)の土圧低減効果を例示するグラフ図である。
【図16】振動台実験による緩衝層(モデルC)の土圧低減効果を例示するグラフ図である。
【符号の説明】
【0047】
1 構造物
2 マウンド
3 裏込め地盤
4 裏込め土
4a 裏込め石
5 混合材
5a ゴムチップ
5b 砕石
6 緩衝層
6a グラベルマット
7 収容体
8 受圧板
9 土圧測定装置
10 モールド
11 土圧計
12 載荷板
13 荷重計
14 重錘
15 ポール
16 制御装置
17 落下装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏込め地盤の耐震補強工法および構造に関し、さらに詳しくは、地震時に構造物の背面に造成された裏込め地盤に生じる動的な土圧および水圧を低減することができ、施工性に優れた裏込め地盤の耐震補強工法および構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設構造物の耐震補強としては、構造物や基礎地盤の物理的な補強のほかに、裏込め部分における地震時土圧の低減と埋め立て地盤から作用する過剰間水圧の消散工法などの方法が挙げられる。地震時土圧の低減方法としては、一般に締固めや固化材の攪拌混合による地盤改良、砕石などの透水性に優れた材料を柱状に配置するバーチカル・ドレーンにより過剰間水圧を消散させる方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
その他に構造物の背面にゴムチップを配置して緩衝層を形成することも検討されているが、地下水位以下や海上での施工においては、ゴムチップの比重が小さいため、安定して所定位置にゴムチップを配置することが困難であり施工性に問題があった。
【特許文献1】特開2001−11848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、地震時に構造物の背面に造成された裏込め地盤に生じる動的な土圧および水圧を低減することができ、施工性に優れた裏込め地盤の耐震補強工法および構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明の裏込め地盤の耐震補強工法は、構造物の背面に造成される裏込め地盤の耐震補強工法であって、粒径が略同一のゴムチップと砕石とを混合した混合材を、前記構造物の背面の上下方向少なくとも一部に沿って配置して緩衝層を形成することを特徴とするものである。
【0006】
ここで、前記混合材を、前記構造物の背面に沿って該構造物の下端部から上端部まで連続するように配置して緩衝層を形成することもでき、緩衝層の背面に沿って受圧板を配置することもできる。また、混合材を複数の通水性を有する袋状の収容体に予め収容しておき、該混合材を収容した収容体を積み上げて緩衝層を形成することもできる。また、緩衝層の背面を傾斜させて緩衝層の層厚が下方側でより大きくなるようにしてもよい。
【0007】
また、本発明の裏込め地盤の耐震補強構造は、構造物の背面に造成される裏込め地盤の耐震補強構造であって、前記構造物の背面の上下方向少なくとも一部に沿って、粒径が略同一のゴムチップと砕石とを混合した混合材からなる緩衝層を設けたことを特徴とするものである。
【0008】
ここで、緩衝層を構造物の背面の下端部から上端部まで連続的に設けてもよく、緩衝層の背面に沿って受圧板を設けてもよい。また、緩衝層を、混合材を収容した通水性を有する袋状の収容体を複数積み上げて形成する構造にすることもできる。緩衝層の層厚が下方側でより大きくなるように緩衝層の背面が傾斜している構造にすることもできる。ゴムチップおよび砕石の粒径は例えば2mm以上60mm以下にする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構造物の背面に土砂等を裏込めすることにより造成した裏込め地盤に、構造物の背面に沿うように形成された略同一粒径のゴムチップと砕石とを混合した混合材からなる緩衝層が、地震の際に適度な空隙を有しつつゴムチップが弾性変形することによって、裏込め地盤に生じる動的な土圧を吸収するとともに、ゴムチップと砕石との空隙による優れた透水性により裏込め地盤の水圧上昇を低減させるので裏込め地盤の液状化現象を抑制することができる。
【0010】
また、混合材にゴムチップよりも比重の大きい砕石を混合しているので、海水面や地下水面以下に緩衝層を形成する場合であっても、安定して混合材を所定位置に配置することができ施工性が向上する。
【0011】
また、緩衝層の背面に沿って受圧板を配置することにより、背面土圧の均等かつ効率的な伝達と吸収が可能になる。構造物が新設の際は、この混合材を構造物と受圧板との間に充填した構造にすることで、構造物自体の断面縮小化や構造物の基礎地盤の地盤改良範囲の縮小化が可能になりコストダウンに寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の裏込め地盤の耐震補強工法および構造を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示するように、ケーソンや擁壁等の構造体1の背面に土砂等の裏込め土4を裏込めして造成された裏込め地盤3が本発明の耐震補強の対象となる。この構造物1は海底のマウンド2上から海上に立設され、その背面に沿って層厚(水平方向の長さ)をほぼ一定にした緩衝層6が形成されている。緩衝層6の上面にはグラベルマット6aが敷設され、背面には受圧板8が沿うように設置され、この受圧板8の背面側が裏込め地盤3になっている。
【0014】
この緩衝層6は、ほぼ同じ粒径のゴムチップ5aおよび砕石5bの混合材5が通水性を有する袋状の収容体7に収容され、この収容体7を複数積み上げることにより形成されていて適度な空隙を有している。空隙率が50〜60%程度確保できれば、混合材5には粒径の程度が異なるゴムチップ5aや砕石5b、その他の混合物が若干混合していてもよい。ゴムチップ5aおよび砕石5bの好ましい粒径は、例えば2mm〜60mmであり、この範囲であると、より適度な空隙とゴムチップ5aの弾性変形を確保でき、優れた緩衝効果を得ることができる。
【0015】
尚、ゴムチップ5aと砕石5bの体積混合割合は、後述する実施例で示すように、予め混合割合を変えた混合材5を用いて緩衝層6の試験サンプルSを作製し、試験サンプルSで測定した緩衝効果(土圧低減効果)を把握しておき、その測定結果と施工現場での必要仕様とに基づいて決定するようにする。
【0016】
ゴムチップ5aは、例えば、使用済みタイヤを破砕したもの(タイヤチップ)を用いることができ、これによれば、使用済みタイヤを有効利用することができる。砕石5bは、コンクリート再生砕石など種々の砕石やこれらに類するものでよく、ゴムチップ5aと砕石5bの比重は、それぞれ1.10〜1.20、2.60〜2.80程度である。
【0017】
収容体7は、例えば、ジオテキスタイルと呼ばれる土木等の用途に使用される高分子材料からなる織布や不織布、編物等で構成される。その他、通水性を有し、混合材5を保持できるものであれば、収容体7として用いることができる。
【0018】
次に、この裏込め地盤3の耐震補強構造を構築するための本発明の耐震補強工法を例示する。
【0019】
まず、構造体1を新設し、その背面に新たに裏込め地盤3を造成する場合は、図2に例示するように工場や施工現場において、予め構造体1の背面から間隔をあけて受圧板8を立設し、構造体1の背面と受圧板8との間の幅方向両端部に仕切り壁を設けて、混合材5を配置する箱状のスペースを設けておく。この仕切り壁は、緩衝層6による緩衝効果を妨げないように剛性の低いものとする。
【0020】
そして、構造体1の背面と受圧板8との間にゴムチップ5aおよび砕石5bの混合材5を予め収容した収容体7を上下に積み重ねて充填することにより緩衝層6を形成する。本発明では混合材5は、収容体7に収容せずに直接、構造体1の背面と受圧板8との間に投入して充填するようにしてもよい。
【0021】
受圧板8は図3に例示するように、上下に複数分割したものを順次、上方に連結するようにして施工を進めることもできる。
【0022】
このように、構造体1の背面に沿って構造物1の下端部から上端部まで連続するように混合材5を配置して緩衝層6を形成した後、受圧板8の背面に裏込め土4を裏込めして裏込め地盤3を造成する。
【0023】
この耐震補強工法では、混合材5にゴムチップ5aよりも比重の大きい砕石5bを混合しているので、海水面や地下水面以下に緩衝層6を形成する場合であっても、安定して混合材5を所定位置に配置することができ、施工性が著しく向上する。
【0024】
混合材5は施工現場で収容体7に収容してもよいが、予め工場等で収容しておくと、周囲に混合材5を撒き散らすことがなく、施工時間の短縮を図ることもできる。また、混合材5を収容体7に収容し、この収容体7を積み上げて緩衝層6を形成すると混合材5を周囲に拡散させることなく、かつ迅速に作業を行なうことができる。また、混合材5を収容体7に収容しておくと施工後に地中で不用意に拡散することがなく、地震時の動的な土圧および水圧の緩衝効果が損なわれにくくなる。
【0025】
裏込め地盤3は、地震により加振されると裏込め地盤3の裏込め土(裏込め砂)4の粒子間の水圧が急上昇して液状化現象が生じ易い。また、動的な土圧が構造物1に作用して構造物1に過大な負荷がかかるが、本発明の耐震補強構造によれば、地震の際に、構造体1と裏込め地盤3とに挟まれた緩衝層6では、ゴムチップ5aと砕石5bとの間に適度な空隙を確保しつつ、ゴムチップ5aが弾性変形する。この弾性変形によって動的な水平土圧は吸収されて低減し、かつ緩衝層6の有する適度な空隙による優れた透水性により裏込め地盤3の水圧上昇が低減されるため、液状化現象を抑制することができる。さらに、構造体1に作用する土圧も低減する。
【0026】
緩衝層6の背面に設けた受圧板8は、地震時の揺れによる土圧を緩衝層6に分散させて伝達するので、緩衝層6の広い範囲で動的な土圧を吸収することが可能になる。即ち、受圧板8を設けることで、背面土圧を均等かつ効率的に緩衝層6に伝達、吸収させて一段と優れた緩衝効果を得ることができる。受圧板8は、土圧を緩衝層6に分散して伝えることができれば特に限定されず、例えば、鉄板や矢板鋼板を用いることができる。受圧板8は透水性を持たせるために、有孔構造にすることもできる。
また、上記のように新設の構造物1の背面と受圧板8との間に混合材5を充填した構造にすることで、地震時に構造物1に作用する水平土圧の低減と裏込め地盤3の過剰間隙水圧の消散、これらに起因する転倒モーメントや端し圧が低減し、構造物1の底面幅や壁厚の縮小、基礎地盤の地盤改良幅の低減など基礎地盤を含めた断面構造全体の縮小化により、構造物1などの構成部材の製造コストや施工に必要なコストを抑えることも可能になる。
【0027】
本発明では、緩衝層6の背面に受圧板8を設けない耐震補強構造にすることもでき、受圧板8を設けない場合や受圧板8にすき間や貫通孔を設けた場合は、地震の際に裏込め地盤3に含まれている水分が、適度な空隙を有している緩衝層6の混合材5の粒子間を通過して表面に流出することができる。このように緩衝層6がドレーンとして機能する場合は、裏込め地盤3の水圧上昇が抑制されることによる液状化現象防止効果を得ることができる。
【0028】
次に、既設の構造物1の背面の裏込め地盤3を耐震補強する場合について説明する。
【0029】
図4に例示するように、構造物1の背面に裏込め石4aがある場合や控え工がある場合には、まず、構造物1の背面を安定勾配で掘削して、緩衝層6を形成するスペースを確保する。次いで、図5に例示するように構造物1の背面から所定間隔あけて受圧板8を立設し、構造物1の背面と受圧板8の間に混合材5を収容した収容体7を順次、積み上げて緩衝層6を形成する。緩衝層6を形成した後、受圧板8の背面側には裏込め土4を埋め戻して耐震補強構造を構築する。
【0030】
図6に例示するように、構造物1の背面に裏込め石4aや控え工がない場合は、構造物1の背面から所定間隔をあけて受圧板8と山留め18とを打設して、構造物1と山留め18の間の裏込め土4を掘削、除去して緩衝層6を形成するスペースを確保する。次いで、構造物1と山留め18の間のスペースに混合材6を投入、充填して緩衝層6を形成する。構造物1の背面に裏込め石4aや控え工がない場合にも、構造物1の背面を安定勾配で掘削して、緩衝層6を形成するスペースを確保し、構造物1の背面から所定間隔あけて受圧板8を立設し、この構造物1の背面と受圧板8の間に混合材5を収容した収容体7を順次、積み上げて緩衝層6を形成することもできる。
【0031】
緩衝層6は、上述した種々の実施形態のように構造物1の背面に沿って構造物1の下端部から上端部まで連続的に形成するだけでなく、必要な緩衝性能が得られるのであれば、構造物1の背面の上下方向一部に沿って形成することもできる。
【0032】
例えば、ケーソンの背面に裏込め土を裏込めした裏込め地盤の縮小モデルを、振動台試験機によって加振した際の最大土圧を測定すると、図15、16のようなデータが得られる。この測定に用いた縮小モデルは、ケーソンの背面に沿って上下方向全長(600mm)に裏込め土として砕石を裏込めしたモデルA(緩衝層なし)、ケーソンの背面に沿って上下方向全長(600mm)に裏込め土として粒径約20mmのゴムチップのみを裏込めして緩衝層を設けたモデルB(緩衝層有り)、ケーソンの背面の上下方向上半分(300mm)を粒径約20mmのゴムチップのみからなる緩衝層を設け、上下方向下半分(300mm)を砕石のままとしたモデルC(上半分緩衝層有り)の3種類である。
【0033】
この振動台試験機による測定は、それぞれのモデルのケーソン背面に土圧計を設置し、水平方向に約680galの加速度で加振し、その際に測定された最大土圧を図15、16に示している。図15におけるプロットは丸形がモデルA、ひし形がモデルB、図16におけるプロットは丸形がモデルA、三角形がモデルCのデータを示している。
【0034】
図15の結果から緩衝層を設けたモデルBでは、モデルAに比べて最大土圧が約50%程度低減でき、図16の結果からもモデルCの緩衝層を設けたケーソンの上半分の範囲(ケーソンの底面から300〜600mm)では、モデルAに比べて最大土圧が約50%程度低減できることが分かる。また、モデルCの緩衝層を設けていない下半分の範囲においてもモデルAに比べて最大土圧が10%程度低減可能であることが分かる。このモデルCの下半分の範囲の土圧低減は、上半分の範囲を砕石からゴムチップに置き換えたことによる軽量化に起因すると考えられる。
【0035】
このように、構造物1の背面の上下方向一部に緩衝層6を設けても相当の土圧低減効果を得られることが分かり、このデータは、本発明のようなゴムチップ5aと砕石5bとの混合材5からなる緩衝層6にも当てはまると考えられる。したがって、必要な緩衝性能が得られるように、緩衝層6を構造物1の背面の上下方向一部に沿って形成することもできる。
【0036】
構造物1の背面の一部に沿って緩衝層6を形成するには、例えば、図7に示すように既設の構造物1の背面を構造物1の上下方向中途の必要深さまで安定勾配で掘削して緩衝層6を形成するスペースを確保する。次いで、掘削により確保したスペースの底部に一段目の受圧板8を構造物1の背面から所定間隔をあけて設置し、受圧板8と構造物1の背面の間に混合材5を投入、充填した後、受圧板8の背面側に裏込め土4を埋め戻して一段目の施工を完了する。以後、同様に二段目、三段目の施工を繰り返す。このように、上下方向に複数に分割して段階的に混合材5を投入、充填して、図8に例示するような構造物1の背面の上半分に沿った緩衝層6を形成することができる。
【0037】
この実施形態では、緩衝層6の形成範囲を所定の緩衝性能を得るために必要な最低限の範囲にすることができるので、コストを抑えて短工期で施工を行なうことができる。緩衝層6の形成範囲は、構造物1の背面の上半分の範囲に限定されず、下半分の範囲や上下方向中央の一部の範囲など、必要に応じて任意の範囲に緩衝層6を形成することができる。また、受圧板8を複数に分割せずに一体化したものを用いて緩衝層6を形成することもでき、受圧板8を設けずに混合材5を投入、充填して緩衝層6を形成することもできる。
【0038】
また、新設や既設の構造物1に関わらず、図9に例示するように、緩衝層6の層厚が下方側でより大きくなるように緩衝層6の背面が傾斜している耐震補強構造にすることもできる。この緩衝層6は、下方側でより大きな土圧が生じる裏込め地盤3の圧力分布に合わせて層厚を下方側でより大きくしているので、無駄なく効率的に緩衝効果を得ることができる。
【0039】
この耐震補強構造も、上記に例示した種々の実施形態の工法により構築することができる。緩衝層6の背面に沿って受圧板8を設けることもでき、混合材5を収容した収容体7を複数、順次積み上げて緩衝層6を形成することもできる。
【実施例】
【0040】
粒径をほぼ同じ(平均粒径10mm)に揃えたゴムチップ(比重約1.15)および砕石(比重約2.70)を用いて表1に示すように、ゴムチップと砕石との体積混合率のみを変えた緩衝層の試験サンプルSを4種類(実施例1、2、比較例1、2)用意し、各試験サンプルSについて下記に示す土圧測定を実施して土圧低減効果を確認した。その結果を図12〜14に示す。表1のゴムチップ混合率とは、ゴムチップおよび砕石の合計体積に対するゴムチップの体積割合である。
【0041】
【表1】
【0042】
[土圧測定]
土圧測定装置9は図10に示すように、剛体の載荷板12(直径19.5cm)の上に荷重計13を備え、その上にポール15を立設し、ポール15には重錘14(重量294N(30kg))を挿通し、ポール15の上端部には、重錘14を落下させる落下装置17を設けて構成されている。図11に示すように、内径20mm、高さ60cmのアクリル樹脂円筒と鋼製枠からなるモールド10の底部に土圧計11を設置し、その上に予め均一に混合した試験サンプルSを所定の層厚(9cm、18.5cm、37cm、50cm)にセットするとともに、試験サンプルSの上面に土圧測定装置9の載荷板12を載置し、荷重計13およびに土圧計11に測定データを入力する制御装置16を接続する。次いで、荷重計13に対する落下高さ60cmにして重錘14を自由落下させて、荷重計13および土圧計11により荷重を測定した。荷重計13による測定荷重は試験サンプルS上面の土圧(反力)であり、土圧計11による測定荷重は試験サンプルS下面の土圧(伝達力)である。
【0043】
尚、試験サンプルSは、モールド10にゴムチップと砕石との混合材を高さ80cmの一定条件で落下、充填し、表面を均して作製する。その際に計測、算出した空中密度および空隙率を表1に記載している。また、アクリル樹脂円筒の内壁にはシリコングリースを塗布して摩擦を低減した。
【0044】
図12は、比較例1(砕石のみからなる試験サンプル)を基準にして各試験サンプルSの層厚と試験サンプルS上面の土圧低減率の関係を示している。図13は、比較例1を基準にして各試験サンプルSの層厚と試験サンプルS下面の土圧低減率の関係を示している。図14は、横軸をゴムチップ混合率にして図13を書き換えたものであり、比較例1を基準にして各試験サンプルSのゴムチップ混合率と試験サンプルS下面の土圧低減率の関係を示している。図12、13におけるプロットは、丸形が実施例1(ゴムチップ混合率25%)、三角形が実施例2(ゴムチップ混合率50%)、四角形が比較例1(ゴムチップ混合率0%)、ひし形が比較例2(ゴムチップ混合率100%)を示し、図14におけるプロットは、丸形が試験サンプルSの層厚50cm、三角形が層厚37cm、四角形が層厚18.5cm、ひし形が層厚9cmの場合を示している。
【0045】
図12〜14の結果から、ゴムチップと砕石を混合した実施例1、2は、ゴムチップのみからなる比較例2には及ばないが、ある程度の土圧低減効果を有し、ゴムチップの混合率を変えることにより所望の土圧低減効果を得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の裏込め地盤の耐震補強構造を例示する側面断面図である。
【図2】図1の裏込め地盤の耐震補強構造を構築する耐震補強工法を例示する説明図である。
【図3】図2の耐震補強工法の別の例を示す説明図である。
【図4】裏込め石が設置された既設の構造物の背面の裏込め地盤を耐震補強する際の工法を例示する説明図である。
【図5】図4の次の工程を例示する説明図である。
【図6】裏込め石や控え工が無い既設の構造物の背面の裏込め地盤を耐震補強する際の工法を例示する説明図である。
【図7】構造物の背面の上下方向一部に沿って緩衝層を形成する工法を例示する説明図である。
【図8】図7の工法により完成した耐震補強構造を例示する側面断面図である。
【図9】本発明の裏込め地盤の耐震補強構造の別の実施形態を例示する側面断面図である。
【図10】土圧測定装置を例示する斜視図である。
【図11】土圧測定装置による土圧測定方法を示す説明図である。
【図12】土圧測定による試験サンプルの層厚と試験サンプル上面の土圧低減率との関係を示すグラフ図である。
【図13】土圧測定による試験サンプルの層厚と試験サンプル下面の土圧低減率との関係を示すグラフ図である。
【図14】土圧測定によるゴムチップ混合率と試験サンプル下面の土圧低減率との関係を示すグラフ図である。
【図15】振動台実験による緩衝層(モデルB)の土圧低減効果を例示するグラフ図である。
【図16】振動台実験による緩衝層(モデルC)の土圧低減効果を例示するグラフ図である。
【符号の説明】
【0047】
1 構造物
2 マウンド
3 裏込め地盤
4 裏込め土
4a 裏込め石
5 混合材
5a ゴムチップ
5b 砕石
6 緩衝層
6a グラベルマット
7 収容体
8 受圧板
9 土圧測定装置
10 モールド
11 土圧計
12 載荷板
13 荷重計
14 重錘
15 ポール
16 制御装置
17 落下装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の背面に造成される裏込め地盤の耐震補強工法であって、粒径が略同一のゴムチップと砕石とを混合した混合材を、前記構造物の背面の上下方向少なくとも一部に沿って配置して緩衝層を形成する裏込め地盤の耐震補強工法。
【請求項2】
前記混合材を、前記構造物の背面に沿って該構造物の下端部から上端部まで連続するように配置する請求項1に記載の裏込め地盤の耐震補強工法。
【請求項3】
前記緩衝層の背面に沿って受圧板を配置する請求項1または2に記載の裏込め地盤の耐震補強工法。
【請求項4】
前記混合材を複数の通水性を有する袋状の収容体に予め収容しておき、該混合材を収容した収容体を積み上げて前記緩衝層を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の裏込め地盤の耐震補強工法。
【請求項5】
前記緩衝層の背面を傾斜させて前記緩衝層の層厚が下方側でより大きくなるようにした請求項1〜4のいずれかに記載の裏込め地盤の耐震補強工法。
【請求項6】
構造物の背面に造成される裏込め地盤の耐震補強構造であって、前記構造物の背面の上下方向少なくとも一部に沿って、粒径が略同一のゴムチップと砕石とを混合した混合材からなる緩衝層を設けた裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項7】
前記緩衝層を前記構造物の背面の下端部から上端部まで連続するように設けた請求項6に記載の裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項8】
前記緩衝層の背面に沿って受圧板を設けた請求項6または7に記載の裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項9】
前記緩衝層が、前記混合材を収容した通水性を有する袋状の収容体を複数積み上げて形成されている請求項6〜8のいずれかに記載の裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項10】
前記緩衝層の層厚が下方側でより大きくなるように前記緩衝層の背面が傾斜している請求項6〜9のいずれかに記載の裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項11】
前記ゴムチップおよび砕石の粒径が2mm以上60mm以下である請求項6〜10のいずれかに記載の裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項1】
構造物の背面に造成される裏込め地盤の耐震補強工法であって、粒径が略同一のゴムチップと砕石とを混合した混合材を、前記構造物の背面の上下方向少なくとも一部に沿って配置して緩衝層を形成する裏込め地盤の耐震補強工法。
【請求項2】
前記混合材を、前記構造物の背面に沿って該構造物の下端部から上端部まで連続するように配置する請求項1に記載の裏込め地盤の耐震補強工法。
【請求項3】
前記緩衝層の背面に沿って受圧板を配置する請求項1または2に記載の裏込め地盤の耐震補強工法。
【請求項4】
前記混合材を複数の通水性を有する袋状の収容体に予め収容しておき、該混合材を収容した収容体を積み上げて前記緩衝層を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の裏込め地盤の耐震補強工法。
【請求項5】
前記緩衝層の背面を傾斜させて前記緩衝層の層厚が下方側でより大きくなるようにした請求項1〜4のいずれかに記載の裏込め地盤の耐震補強工法。
【請求項6】
構造物の背面に造成される裏込め地盤の耐震補強構造であって、前記構造物の背面の上下方向少なくとも一部に沿って、粒径が略同一のゴムチップと砕石とを混合した混合材からなる緩衝層を設けた裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項7】
前記緩衝層を前記構造物の背面の下端部から上端部まで連続するように設けた請求項6に記載の裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項8】
前記緩衝層の背面に沿って受圧板を設けた請求項6または7に記載の裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項9】
前記緩衝層が、前記混合材を収容した通水性を有する袋状の収容体を複数積み上げて形成されている請求項6〜8のいずれかに記載の裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項10】
前記緩衝層の層厚が下方側でより大きくなるように前記緩衝層の背面が傾斜している請求項6〜9のいずれかに記載の裏込め地盤の耐震補強構造。
【請求項11】
前記ゴムチップおよび砕石の粒径が2mm以上60mm以下である請求項6〜10のいずれかに記載の裏込め地盤の耐震補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−150896(P2008−150896A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341320(P2006−341320)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年6月20日 社団法人 地盤工学会発行の「第41回地盤工学研究発表会 平成18年度発表講演集(2分冊の1)」に発表
【出願人】(501241911)独立行政法人港湾空港技術研究所 (84)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年6月20日 社団法人 地盤工学会発行の「第41回地盤工学研究発表会 平成18年度発表講演集(2分冊の1)」に発表
【出願人】(501241911)独立行政法人港湾空港技術研究所 (84)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
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