説明

補修材

【課題】取扱いや保管がしやすく、被補修物への補修作業を容易に行なうことのできる補修材が求められている。
【解決手段】補修材1は、(メタ)アクリレートのポリマー粉末と(メタ)アクリレートモノマーの重合を引き起こす重合開始剤とを含んで成る粉剤3を合成樹脂エマルジョン接着剤4により補強用布体2に付着させた固形シート体7を備えている。この固形シート体7と、固形シート体7に添加されて重合する(メタ)アクリレートのモノマー液8とから、補修材1が構成される。合成樹脂エマルジョン接着剤4は酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤などである。補強用布体2はガラス繊維織布などである。補修材1は、固形シート体7の底面に、(メタ)アクリレートのモノマー液を通さない不通液シートが添付されたものも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリレートまたはアクリレート(以下、これらを(メタ)アクリレートと略称する)を主剤として含むものであって、被補修物の接着、肉盛り、造形などの補修に使用される補修材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の補修材としては、重合開始剤および(メタ)アクリレートポリマーを共に含有している粉剤と、(メタ)アクリレートモノマーの液剤とから成る補修材が知られている。
そして、下記の特許文献1には、過酸化ベンゾイルが併存しているメタクリル酸メチルのポリマー粉末と、ポリ酢酸ビニルを添加したメタクリル酸メチルのモノマー液とから成る成型材料が記載されている。この成型材料は、ポリマー粉末とモノマー液を混合して所望形状に成形し、重合・硬化させて歯科用の成型材料を得るようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−140128号公報(明細書の段落[0015]〜[0024])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1記載の成型材料は、(メタ)アクリレートのポリマー粉末と重合開始剤とを含んで成る粉剤と、(メタ)アクリレートのモノマー液と、酢酸ビニルとを備えているが、この成型材料で使用されるポリ酢酸ビニルは粉末側でなくモノマー液側に添加されている。その使用目的は硬化時の成形体収縮率を所定値以下に下げて成型寸法誤差を小さく抑えることであり、補強用布体へ粉剤を付着させるためではない。そして、この成型材料は補修・補強を行なうために使用されるものでないから、補強用布体は用いない。従って、粉剤は必ず型内に入れなければならないが、粉剤を入れる際に散らばったり手指が触れて汚れたりするおそれがあって、取扱いと保管に多大な注意を必要としていた。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、取扱いや保管がしやすく、被補修物への補修作業を容易に行なうことのできる補修材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る補修材は、(メタ)アクリレートのポリマー粉末と(メタ)アクリレートモノマーの重合を引き起こす重合開始剤とを含んで成る粉剤を合成樹脂エマルジョン接着剤により補強用布体に付着させた固形シート体を備えている構成にしてある。
【0007】
また、前記構成において、固形シート体の底面に、(メタ)アクリレートのモノマー液を通さない不通液シートが添付されているものである。
【0008】
そして、前記した各構成において、合成樹脂エマルジョン接着剤が、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤であるものである。
【0009】
更に、前記した各構成において、補強用布体が、ガラス繊維を原料として織成された織布であるものである。
【0010】
また、前記した各構成において、(メタ)アクリレートのポリマー粉末と(メタ)アクリレートモノマーの重合を引き起こす重合開始剤とを含んで成る粉剤を合成樹脂エマルジョン接着剤により補強用布体に付着させた固形シート体と、当該固形シート体に添加されて重合する(メタ)アクリレートのモノマー液と、から成るものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る補修材によれば、ポリマー粉末と重合開始剤とを含んで成る粉剤を合成樹脂エマルジョン接着剤により補強用布体に付着させた固形シート体を使用するので、固形シート体が定形性を有していることから、粉剤が補強用布体からポロポロ落ちて散らばるということがなく、商品として取扱いや保管がしやすい。また、ハサミやカッターナイフでカットしても型崩れしにくく、必要な時に必要な分だけ使用できるので無駄がない。無論、補強用布体を有しているので、被補修部位の機械的強度を高くすることができる。そして、補強用布体に均一に粉剤を分配させた場合、被補修物の表面に粉剤を万遍なく広く分布させることができる。また、モノマー液も万遍なく添加しやすく添加量の調整が楽である。そして、固形シート体はモノマー液の添加により柔軟化して自在に変形できるため、被補修部位の形状に拘束されることなく、補修、および肉盛りなどの造形を容易に行なうことができる。また、被補修部位に馴染みやすいから、補修跡の表面が滑らかであり、補修跡は見た目に自然で美しく被補修物の基体と一体化したような外観を呈する。
【0012】
また、固形シート体の底面に、(メタ)アクリレートのモノマー液を通さない不通液シートが添付されているものでは、固形シート体の保管および陳列時において破損や型崩れを抑制でき、ハサミなどで固形シート体をカットする際も型崩れの抑制ができる。従って、固形シート体の下に敷く合成樹脂シートやテーブルを別途準備しなくても、モノマー液を固形シート体に含浸させた後に、指先を汚すことなくそのまま被補修部位に貼り付けて補修作業ができる。固形シート体に添加して含浸したモノマー液は不通液シート上で収受されて漏れないので、固形シート体内に留まって無駄なく使用される。また、不通液シートが固形シート体の片面に密着している状態でモノマーが重合し硬化するので、仕上り面に光沢が得られてきれいになるという効果もある。
【0013】
そして、合成樹脂エマルジョン接着剤として酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤を用いた固形シート体は、当該接着剤が入手容易で安価であり、補強用布体の繊維表面にポリマーの粉剤を付着させる付着力も大である。また、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤は、モノマー液を添加された固形シート体が被補修部分に接着されたのち、モノマーの重合により硬化して得られたポリマーの機械的強度、表面光沢、耐候性が高く、他の種類の合成樹脂エマルジョン接着剤を用いた場合よりも格段に優れていた。
【0014】
更に、前記した各構成において、補強用布体としてガラス繊維を原料として織成された織布を用いたものでは、当該ガラス繊維織布が入手容易で安価であり機械的強度および耐候性も比較的大きい。また、ガラス繊維織布で構成されているFRPに馴染みやすいので、FRPの補修・補強に好適となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る補修材の固形シート体を構成する材料を示す概略外観図である。
【図2】前記補修材を示しA部拡大部分を有する側面図である。
【図3】底面に不通液シートを添付された補修材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態を説明するが、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
本発明に用いるポリマー粉末を構成する「(メタ)アクリレート」の種類は、CH2=C(−R)COOX(RはHまたはMe)で表される(メタ)アクリル酸エステルであってXがアルキル基であるものであれば、特に限定されない。そのうち、アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。また、メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどが例示される。これらのうち、入手容易な点で汎用のメタクリル酸メチルやメタクリル酸エチルが、本発明において最も好ましく使用される。また、これらの(メタ)アクリレートは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0017】
本発明に用いる(メタ)アクリレートの「ポリマー粉末」は、(メタ)アクリレートモノマーの重合により得られたポリマーを粉砕手段により微粉化させたものである。ポリマー粉末の粒径は、取扱いが容易であること、モノマー液との混合によりスラリー状になりやすいこと、モノマー重合後はその重合体と強固に結合することを満たすものであれば特に限定されないが、粉末の取り扱いやすさおよび粉末の製造容易性の観点から、例えば50〜100μmの平均粒径であることが好ましい。ポリマーを粉砕する手段としては特に限定されないが、例えば破砕機と粉砕機が挙げられる。
【0018】
上記したポリマー粉末の原材料として、例えば(メタ)アクリレート樹脂製品の成形不良品など廃プラスチックを粉砕化して用いると、資源の有効利用と原料コストの低下を図ることができる。このような廃プラスチックを破砕してポリマー粉末を得る場合は、破砕対象物の形状、材質などに応じて、それらに適合する破砕・粉砕手段を選択することが望ましい。前記した破砕化および粉砕化を行なう場合は、まず2軸破砕機で粗砕きして大粒の粒体を得、次に1軸破砕機で細粒化するとよい。続いて、粉砕機により所望粒径のポリマー粉末が得られる。ここで用いる粉砕機としては特に限定されないが、例えばハンマーミル、ローラーミル、ディスクミル、ボールミルなどが挙げられる。それらのうち、ハンマーミルを用いて平均粒径50〜100μmの粉体が得られる。
【0019】
本発明に用いる「重合開始剤」は、(メタ)アクリレートモノマーのラジカル重合を引き起こす触媒であって安定性の高いものであれば特に限定されない。この重合開始剤は、重合後の例えば(メタ)アクリレートポリマーに併存している。かかる重合開始剤としては、例えば過酸化ベンゾイル(BPO)、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシドなどの有機過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル(ABCN)などのアゾ化合物、またはジハロゲンなどが挙げられる。これらのうち、過酸化ベンゾイルとアゾビスイソブチロニトリルが、安価で入手容易ならびに高い安定性の観点から、本発明において望ましく使用される。重合開始剤を用いてラジカル重合を終えた(メタ)アクリレートのポリマーには重合開始剤が安定に残存している。従って、そのポリマーの成型品を用いることにより、重合開始剤を新たに添加することなく、ポリマーに併存していたものをそのまま再利用することができる。但し、重合開始剤が足りない場合は、新たな重合開始剤を追加してもよい。
【0020】
本発明の「粉体」は、上記のように(メタ)アクリレートのポリマーから得られたポリマー粉末と、このポリマー粉末に付随している重合開始剤との混合物、または、この混合物に新たな重合開始剤を加えた混合物を主成分として含むものである。本発明の粉体には、例えばシリカ、炭酸カルシウム、アスベストロービングなどの充填材を適量加えることも可能である。
【0021】
本発明に用いる「補強用布体」としては、モノマー重合後の補修部分の機械的強度を高く保持できる基体となり得るものであれば特に限定されないが、例えばガラス繊維織布、炭素繊維織布、アラミド繊維織布、ビニロン繊維織布、繊維織布などが挙げられる。
【0022】
本発明に用いる「合成樹脂エマルジョン接着剤」としては、前記した粉体を補強用布体の繊維表面にしっかり付着させて担持できるものであって、且つ、補修時にモノマーの重合により得られたポリマー構造の機械的強度を損なわせることのないものであれば特に限定されない。このような合成樹脂エマルジョン接着剤としては、例えば酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、アクリル樹脂エマルジョン接着剤、エチレン−酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、エポキシ樹脂エマルジョン接着剤などが挙げられる。前記の粉体と合成樹脂エマルジョン接着剤の使用割合は、例えば粉体100重量部に対し合成樹脂エマルジョン接着剤20〜25重量部である。
【0023】
補強用布体の繊維表面にポリマーの粉剤を合成樹脂エマルジョン接着剤で付着させると、補修用の「固形シート体」が得られる。このように(メタ)アクリレートのポリマー粉を接着剤で補強用布体に付着させたものはこれまでに開発されていない。
この補修材の固形シート体について図を参照して説明する。図1に示すように、繊維2A,2Aで平織りされた補強用布体2にポリマーの粉剤3を付着させる態様としては、例えば粉剤3と合成樹脂エマルジョン接着剤4の液を混合し、この混合物をスプレーガンで補強用布体2に吹き付けた後に乾燥、またはロールや刷毛で塗布した後に乾燥させる態様、あるいは補強用布体2の表面に粉剤3をまぶし、これを合成樹脂エマルジョン接着剤4の液中にドブ漬けして取り出した後に乾燥させる態様などが挙げられる。これらの場合、合成樹脂エマルジョン接着剤4には予め水5などの分散媒を加え適度な粘度の水溶液として用いることが好ましい。
【0024】
前記のように得られた固形シート体7は、図2に示すように、(メタ)アクリレートのモノマー液8で湿潤すると柔軟化して自由に変形し得る。一方、固形シート体7の粉剤3中には重合開始剤が含まれている。そこで、固形シート体7にモノマー液8が添加されると、粉剤3中の重合開始剤の触媒作用によりモノマーの重合反応が始まり、室温で短時間のうちに重合が進み、重合して得られたポリマーが各種素材に接着しながら硬化する。
かかる(メタ)アクリレートのモノマー液としては、常温で液体のものであれば特に限定されないが、そのうち、アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。また、メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどが例示される。これらのうち、入手容易な点で汎用のメタクリル酸メチルやメタクリル酸メチルが、本発明において最も好ましく使用される。また、これらのモノマーは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。これらのモノマー液には、適宜の副資材を加えることができる。かかる副資材としては、ヒドロキノン、フェノチアジン、ヒドロキノン誘導体、フェノチアジン誘導体などの重合禁止剤、ジアルキルフタレート、エポキシ系フタレート、ジオクチルセバケート、塩素化パラフィンなどの可塑剤、BHT,MDP,DLTDT,TNTなどの抗酸化剤、フェニルサリチレートなどの紫外線吸収剤、または着色剤などが挙げられる。
すなわち、前記したモノマー液8と、上記した固形シート体7とから、本実施形態の補修材1が構成される。
【0025】
また、本実施形態では、図3に示すように、(メタ)アクリレートのモノマー液を通さない「不通液シート6」を、固形シート体7の底面7Aに添付することも可能である。かかる不通液シートとしては、例えば、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、低密度ポリエチレン、低密度ポリプロピレン、延伸ポリプロピレン、またはポリエチレンテレフタレートなどの材質から成るシートまたはフィルムが挙げられる。当該不通液シートは、モノマー液と反応せずモノマー液に溶解することなく、かつ、手の力で容易に変形するものであれば十分である。この不通液シートの厚さは特に限定されないが、取扱いやすさおよび入手容易の観点から例えば厚さ0.01〜0.03mm程度のものが好ましい。
【0026】
上記のように固形シート体7およびモノマー液8から成る補修材1を用いて被補修物に補修作業を行なう作業例を説明する。まず、被補修物における被補修部位およびその周辺の表面を粗目のサンドペーパーなどで削って、汚れ、塗装、及び油分を十分に落としておく。一方で、被補修部位の大きさに合わせて、固形シート体7および不通液シート6をハサミやカッターナイフで必要な大きさにカットする。そして、固形シート体7を載せるために別途用意した、モノマー液と反応しないポリエチレン製などの合成樹脂シート、あるいは皿の上に、不通液シート6を下にした状態の固形シート体7を置く。この場合、不通液シート6を取り外した後の固形シート体7を合成樹脂シートや皿の上に直に置いても構わない。次に、固形シート体7の上面7Bにモノマー液8を滴下し、シート全体に万遍なく浸透させるように十分な量を振りかけていく。すると、固形シート体7は変形自在に柔らかくなる。気温が高いと重合硬化反応が促進されるので、前記の作業は素早く行うことが好ましい。固形シート体7および不通液シート6を合成樹脂シートごと手にとって、固形シート体7を被補修部位に湿布のように貼り付ける。合成樹脂シートの表面を指先で押さえて、固形シート体7全体を被補修部位に馴染ませる。固形シート体7が固まるのを待って合成樹脂シートおよび不通液シート6を固形シート体7から剥がすと、補修作業が完了する。尚、被補修部位の強度を更に持たせたい時は、複数の固形シート体7,7,7,・・・を重ねて貼り付けることで、強力な補強を行なうことができる。
【0027】
上記したように、本発明の補修材において、固形シート体は商品としての定形性を確保することができる。合成樹脂エマルジョン接着剤によってポリマー粉末を補強用布体に付着させているので、粉剤が補強用布体からポロポロ落ちたりせず、ハサミやカッターナイフでカットしても型崩れしない。また、必要な時に必要な分だけ使用できるので無駄がない。すなわち、この固形シート体は取り扱い方法が単純で煩わしさがなく、誰でも簡単にFRP製品などの補修を個人差のバラツキなく行える。また、固形シート体長期間の保存が可能で、開封後も特別な管理が不要である。固形シート体は平面状に成型されたものであっても切れ込みを入れておきモノマー液をかけると曲面が得られるので、容易に曲面の補修・補強ができる。この場合、切れ込みを入れるための型紙を予め作っておくと便利である。モノマー硬化後は、その表面に塗装やメッキなどの仕上げ処理を行なうができる。モノマー硬化後は(メタ)アクリレート樹脂になるから毒性が無く安全である。上記のスプレー方式は、従来の刷毛や塗布ロールを用いるハンドレイアップ方式と比べ、種々材料・ツールの準備、材料の計量、混合、含浸などの手間が省けるので、トータルコストが安く済む。一方、食品衛生法上では、ガラス繊維が露出しないことを条件としてFRPの使用が食品を扱う機械に認められている。従って、本発明に係る固形シート体も同じ条件下で食品用機械への使用が認められるものと考えられる。また、本発明に係る固形シート体は安全性が高いことから、食品を扱う機械類の補修にも適用可能である。
【0028】
そして、不通液シートを固形シート体の片面に添付した場合は、次のような利点が考えられる。固形シート体の保管および陳列時においても、破損・型崩れを抑制でき、ハサミなどで固形シート体を切断する際も型崩れの抑制ができる。また、固形シート体を載せる合成樹脂シートやテーブルを別途準備しなくても、モノマー液を固形シート体に含浸させた後に、指先を汚すことなくそのまま被補修部位に貼り付けて補修作業ができる。不通液シートが固形シート体の片面に密着している状態でモノマーが重合して硬化するので、仕上り面に光沢が得られてきれいになるという効果がある。
【実施例1】
【0029】
続いて、本発明を以下の実施例により更に詳しく説明する。
この実施例1の固形シート体の原材料は、1)粉剤:重合開始剤を併有しているメタクリル酸エチル樹脂の粉末、2)補強用布体:厚さ0.25mmで平織りのガラス繊維織布、3)合成樹脂エマルジョン接着剤:酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、4)接着剤希釈用の水、5)不通液シート:ポリエチレンフィルム、を用いた。前記のガラス繊維織布は、株式会社エポック製の商品名ガラスクロステープを用いた。このガラス繊維織布は19本のタテ糸と19本のヨコ糸を平織りして幅100mm、厚さ0.25mmに織成されたものであり、嵩密度18.7g/m3で標準引張強さ110kgf/25mmである。そして、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤は、コニシ株式会社製の木工用速乾水性形接着剤(商品名コニシボンド、品番#40007)を用いた。この酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤(以下、接着剤と略称する)は、懸濁重合により水(45wt%)中に酢酸ビニル樹脂(55wt%)の微粒子が分散したエマルジョンである。また、前記の不通液シートは、厚さ0.02mmのポリエチレンフィルム(GCデンタルプロダクツ社製)を用いた。
【0030】
そこで、まず接着剤1重量部に対して水5重量部を加え、十分に撹拌して混合し、「接着剤希釈液」を得た。次に、ポリメチルメタクリレートの成型物を粉砕して粉剤(平均粒径約21μm)を得た。この粉剤中には、その重合時に加えた過酸化ベンゾイルが0.3wt%程度含まれている。粉剤中の過酸化ベンゾイルは安定である。前記の接着剤希釈液1重量部に対して粉剤0.75重量部を加え、撹拌して十分に混練し、「シート成型素材」を得た。
【0031】
上記のようにして得たシート成型素材をスプレーガンのカップに入れる。そして、予め用意した平らなプレート上にガラス繊維織布を置き、ガラス繊維織布の上面にシート成型素材をスプレーガンで吹き付ける。シート成型素材の吹き付け量はガラス繊維織布表面の単位面積当たり0.15〜0.18g/cm2とすることが好ましい。不通液シートが貼り付いた下側プレートを準備し、成型素材を吹き付けたガラス繊維織布を上下反転して、吹き付け面が不通液シートの上になるようにセットする。ゴムへラなどで撫でて、成型素材を吹き付けたガラス繊維織布と不通液シートを馴染ませて密着させる。ガラス繊維織布の大きさに合わせたシート体成型用の角穴を開けた上側プレートを下側プレート上に重ねる。ガラス繊維織布の反対側の面にも、スプレーガンでシート成型素材を吹き付ける。上側プレートを下側プレート上に重ねた状態で、乾燥器により固形シート体を乾燥させながら角穴内で成型する。乾操器の設定温度は、不通液シートの収縮などの変形を極力防ぐために60℃とする。90分間ほど加熱して乾燥させた後、固形シート体が型崩れしないように注意しながら、上側プレートを下側プレート上から取り外す。更に、上側プレートの角穴から乾燥物を取り出すと、不通液シート(この例ではポリエチレンフィルム)が片面に貼り付いた状態の固形シート体が得られた。このようにして得た固形シート体は、実施形態で述べたような被補修物の補修に有効に使用できた。
【実施例2】
【0032】
この実施例2は、メタクリル酸エチル樹脂および過酸化ベンゾイルを含むポリマー粉末に替えて、「アクリル酸メチル」および過酸化ベンゾイルを含むポリマー粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理して固形シート体(厚さ約1mm)を製作し、その固形シート体の片面に不通液シートが貼り付いたものを得た。この不通液シート付き固形シート体も被補修物の補修に有効に使用できた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の補修剤は、FRPをはじめ各種素材に化学結合あるいは物理的付着により接着するので、補修材料、補強材料、造形材料、絶縁材料として幅広く利用でき、例えば鉄、アルミニウム、銅、マグネシウム、チタンなどの金属およびそれらの合金類、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂などのプラスチック類、ガラス、モルタル、石英などの無機物など、幅広い材料に接着可能であり、それらの補修に適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 補修材
2 補強用布体
3 粉剤
4 合成樹脂エマルジョン接着剤
6 不通液シート
7 固形シート体
8 モノマー液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレートのポリマー粉末と(メタ)アクリレートモノマーの重合を引き起こす重合開始剤とを含んで成る粉剤を合成樹脂エマルジョン接着剤により補強用布体に付着させた固形シート体を備えていることを特徴とする補修材。
【請求項2】
固形シート体の底面に、(メタ)アクリレートのモノマー液を通さない不通液シートが添付されていることを特徴とする請求項1に記載の補修材。
【請求項3】
合成樹脂エマルジョン接着剤が、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の補修材。
【請求項4】
補強用布体が、ガラス繊維を原料として織成された織布であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の補修材。
【請求項5】
(メタ)アクリレートのポリマー粉末と(メタ)アクリレートモノマーの重合を引き起こす重合開始剤とを含んで成る粉剤を合成樹脂エマルジョン接着剤により補強用布体に付着させた固形シート体と、当該固形シート体に添加されて重合する(メタ)アクリレートモノマーのモノマー液と、から成ることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の補修材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−121981(P2012−121981A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273375(P2010−273375)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成22年11月10日から11月12日まで開催された独立行政法人中小企業基盤整備機構主催の「中小企業総合展2010 in Tokyo」に出展
【出願人】(510323565)
【Fターム(参考)】