説明

補修用被覆体及びこれを用いた既設管の補修方法

【課題】筒状体を最適に拡径した状態で既設管に設置して補修用被覆体による拡径圧を確実に既設管に与えることができ、既設管の径の大小に対応し汎用性のある補修用被覆体及びこれを用いた補修方法を提供すること。
【解決手段】既設管路1を補修する補修用被覆体10において、被覆体10は筒状体20と環状弾性部材12とを有し、筒状体20は板部材22a、22bから構成され、板部材22a、22bは一方の端部相互26、28が仮固定され、板部材22a、22bの他方の端部相互32、34は重ねられており、板部材22bの端部34近傍には係止片44が設けられ、他方の板部材22aの端部32近傍には、複数の係止孔42が設けられ、仮固定は係止孔42と係止片44の係合時には仮固定が維持され、くさび部材50による拡径動作中に仮固定が解除され得る保持強度を有する仮固定具により行われる補修用被覆体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管路の管路内周面を被装して補修する補修用被覆体及びこれを用いた既設管の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、下水道管等の管路には、ヒューム管、陶管、硬質塩化ビニル管等が広く使用されている。これら管路は、長期間の使用により地圧や地盤沈下等によって管路の継目部がずれて隙間ができたり、上載荷重等によって管路の一部にクラックが発生している場合がある。
【0003】
この対策として管路の内周面を補修用被覆体によって被覆する管路補修方法がある(例えば、特許文献1)。この管路補修方法に使用される補修用被覆体100は、例えば、図16に斜視図を示すように、環状弾性部材101及び可撓性を有する板部材110によって構成されている。
【0004】
板部材110は、例えばステンレス鋼のような耐腐食性に優れる金属材料或いは合成樹脂製であって、一端部が他端部の内側となるように互いに重なる筒状、即ち渦巻状に変形された後、環状弾性部材101内に挿入される。
【0005】
板部材110は、図17に展開斜視図を示すように、板部材110の両側端に沿って環状弾性部材101を収容するように外側に湾曲した縁部112を有し、この縁部112により既設管路内を流れる下水や管路内洗浄の際、環状弾性部材101を保護し、かつ板部材110補剛を図ることにより管路の強度向上を図っている。
【0006】
また、板部材110の一方端部側には、所定寸法を隔てて複数の係止孔113が列設され、他端部側に所定寸法を隔てて係止孔113に係止可能な係止片114が接起し加工により板部材110の内方へ突出するように形成され、これら係止孔113と係止片114とにより板部材110を拡径した状態に維持する係止部115(図16参照)を構成している。
【0007】
このように構成された補修用被覆体100を用いて既設管路131(図18参照)を補修する場合、まず、補修用被覆体100を拡径させるための拡開機120に装着する。拡開機120は、図18に示すように、円筒状の本体121と、この本体121の外周に固定され、圧力流体、例えば圧縮空気を供給することにより風船状に膨張する膨張部122とを有しており、この膨張部122を収縮させた状態で板部材110の内側に挿入することにより補修用被覆体100が装着される。
【0008】
次いで補修用被覆体100及び拡開機120を予め管路内周面132が洗浄され、必要に応じて表面に付着したモルタルや侵入した木根等を取り除くための表面処理が施された既設管路131内の図示していないクラック発生部や継ぎ目等の補修箇所まで移動させる。
【0009】
地上に配置されたコンプレッサーからホース123を介して圧縮空気等を供給して膨張部122を膨張させる。膨張部122の膨張により補修用被覆体100の板部材110が拡開され、いずれか一組の係止孔113に係止片114が係合可能になる程度に拡開される。その結果、板部材110の外周に配置される環状弾性部材101は円筒状に拡げられ、管路内周面132に止水体103が圧接して弾性変形することにより管路内周面132と板部材110との間を隙間なくシールする。
【0010】
次に膨張部122に供給された圧縮空気を排出して膨張部122を収縮させる。膨張部122が収縮すると、環状弾性部材本体102及び止水体103の復元力によって板部材110を縮径させる力が板部材110に作用し、係止片114がいずれか一組の係止孔113に係合する。したがって、環状弾性部材本体102及び止水体103は管路内周面132と板部材110とによって圧縮付与された状態に保持され、補修用被覆体100は管路内に設置される。そして、拡開機120は既設管路131内から撤去される。
【0011】
また、本出願人は、1枚の板部材を略円筒状に湾曲させ、板部材の基端部と終端部とが対向した筒状体と、その筒状体の外周面と既設管路内周面との間に介装される環状弾性部材とを有する補修用被覆体を提案している(特許文献2)。この補修用被覆体では、筒状体の基端部と終端部とで形成される隙間部に、筒状体の長さ方向両端部側から中央部側に向かって一対の挿入部材を挿入し、基端部と終端部とを離間させて筒状体を拡径させる。これにより補修用被覆体が既設管内周面に押圧され、既設管の補修が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−123277号公報
【特許文献2】特開2005−344905号公報
【特許文献3】特開2005−214246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1に記載の被覆体100を用いた場合には、図19の筒状体の断面図に示すように、図19(a)の拡径させる前の状態から、図19(b)のように拡径させた後に、図19(c)のように係止片114と係止孔113を係合させるので、係合時に若干の縮径が生じる。
【0014】
また、既設管は製造時の誤差や、長年の使用による劣化現象による拡大によって内径寸法がそれぞれまちまちであるが、特許文献2の補修用被覆体を用いた場合には、組み合わせる挿入部材の大きさにより拡径できる幅に限度があるために、補修用被覆体を拡径した状態で設置したとしても、変形後の既設管の径とのサイズが一致しなければ、既設管を内側から押圧する力を十分に得ることができない。また、既設管の径を事前に測定してからその径に合う補修用被覆体を製造し、その後補修作業を行うことが望ましいが、補修作業全体に要する工程や時間が増え現実的に困難である。
【0015】
本発明は、筒状体を的確に拡径した状態で既設管に設置し、種々の径の既設管にも対応した補修用被覆体を提供することにある。また、この補修用被覆体を使用した既設管の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の既設管の補修用被覆体は、既設管路の内周面に被装して前記既設管路を補修する補修用被覆体において、該補修用被覆体は、板部材を円筒状に湾曲させて構成した筒状体と、該筒状体に外嵌されて前記筒状体の外周面と前記既設管の内周面との間に挟装される環状弾性部材と、を有し、前記筒状体は、周方向に並べられた可撓性を有する2枚の板部材から構成され、前記2枚の板部材は、一方の端部相互が仮固定されることにより連結され、前記仮固定された側の端部相互により、くさび部材を幅方向に挿入するための隙間部が形成され、前記2枚の板部材の他方の端部相互は、所定の長さ重ねられて巻かれており、該重なり部分の一方の板部材の端部近傍には係止片が設けられ、他方の板部材の端部近傍には、周方向に間隔をおいて前記係止片が係合する複数の係止孔が設けられ、前記仮固定は、前記係止孔と係止片による係合動作時には前記仮固定状態が維持され、前記くさび部材による拡径動作中に仮固定状態が解除され得る保持強度を有する仮固定具により行われることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、まず筒状体を拡径した状態とし、その後、係止片を複数の係止孔のいずれかに選択的に係合させることにより、既設管毎の内径の差異に対応することができる。次に、くさび部材を隙間部に挿入することにより、2枚の板部材の仮固定状態が解除されつつ、2枚の板部材が周方向に離間する。これにより、筒状体を最適な状態に拡径することができる。すなわち、係止片の係合時に生じる若干の縮径をここで解消することができる。また、くさび部材を挿入すれば自動的に仮固定状態が解除されるので、仮固定状態を手作業で解除する必要はない。従って、補修作業が容易化・短時間化が図られる。
【0018】
請求項2に記載の補修用被覆体は、請求項1に記載の補修用被覆体において、前記隙間部を形成する前記板部材の端部相互には、くさび部材を幅方向に挿入する方向に向かって離間間隔が狭くなる傾斜部が設けられ、該各々の傾斜部のなす角度は、くさび部材のくさび状部の両側面のなす角度とほぼ同一であることを特徴とする。
【0019】
くさび部材のくさび状部に対応する傾斜部を前記隙間部に設けることで、くさび状部の両側面を傾斜部に対応させて当接させることができる。これにより、拡径状態の安定した維持が可能となり、作業性が向上する。
【0020】
請求項3に記載の補修用被覆体は、請求項1又は2に記載の補修用被覆体において、前記くさび部材は、そのくさび状部を上下から挟んで覆う2枚のプレート部を有し、前記くさび部材の一部を前記隙間部に挿入し、前記2枚のプレート部間に前記2枚の板部材が挟まれた領域に前記仮固定具を挿通することにより前記仮固定が行われることを特徴とする。
【0021】
このように、くさび部材と仮固定手段を一体化することで、2枚の板部材を連結する筒状体を容易に構成することができる。また、補修作業時には筒状体の傾斜部間にくさび部材の一部を挿入した状態で既設管内に補修用被覆体を導入するが、この構成によれば、2枚の板部材が仮固定されているだけでなく、くさび部材も仮固定されているので、この導入作業中にくさび部材が外れることもない。従って、既設管の確実な補修作業を図ることができる。
【0022】
請求項4に記載の既設管の補修方法は、請求項1〜3の何れか1項に記載の補修用被覆体を補修する既設管内に配置し、前記筒状体の内側に設置した膨張体を膨張させることにより、前記筒状体を拡径し、前記係止片と係止孔を係合させて拡径された状態を維持する第1拡径工程と、次いで、前記傾斜部間に前記くさび部材を挿入することにより、前記仮固定状態を解除して、2枚の板部材を周方向に離間させることにより更に拡径を行う第2拡径工程と、を含むことを特徴とする。
【0023】
この構成のように、既設管の補修方法おいて、係止片と係止部による第1拡径工程と、くさび部材による第2拡径工程を行えば、最適な状態で補修用被覆体を既設管内に設置することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の補修用被覆体によれば、筒状体を最適に拡径した状態で既設管に設置して補修用被覆体による拡径圧を確実に既設管に与えることができ、既設管の径の大小に対応し汎用性のある補修用被覆体及びこれを用いた補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】補修用被覆体の構成を説明する分解斜視図である。
【図2】筒状体の展開図である。
【図3】係止片の詳細斜視図である。
【図4】くさび部材の構成を説明する斜視図である。
【図5】隙間部にくさび部材を一部挿入した状態を示す説明図である。
【図6】係止片の別の例を示す斜視図である。
【図7】係止部の別の例を示す断面図である。
【図8】2枚の板部材の連結部分を示す詳細断面図である。
【図9】環状弾性体の断面図である。
【図10】拡開機および挿入機の要部説明断面図である。
【図11】拡開機に補修用被覆体及び挿入機を装着した状態の説明図である。
【図12】係止片が係止孔に係合する様子を示す説明図である。
【図13】くさび部材を筒状体に完全に挿入した時の状態を示す説明図である。
【図14】筒状体が拡径した状態で固定されたときの補修用被覆体を示す説明図である。
【図15】筒状体の他の実施の形態を示す展開図である。
【図16】従来の補修用被覆体を示す斜視図である。
【図17】従来の補修用被覆体の筒状体を示す展開斜視図である。
【図18】従来の補修用被覆体を既設管に設置して補修する際の説明図である。
【図19】筒状体の係合部の詳細断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。図1は、本発明にかかる補修用被覆体10の構成を示す分解斜視図であり、補修用被覆体10が設置される既設管路1が破線で示されている。補修用被覆体10の基本構成は、縮径した状態の略円筒状の筒状体20を配置させ、その外周に環状弾性部材12を外嵌させる。そして、既設管路1内において筒状体20を拡径させ、補修用被覆体10を既設管路1の内周面2に押し付け、この状態で補修用被覆体10を設置して既設管路1の補修を行うものである。
【0027】
図2は、本発明の補修用被覆体10に用いる筒状体20の一例を示す展開図である。図示のように、2枚の略矩形状の板部材22a、22bが、それぞれの端部26、28の両端において仮固定されて筒状体20が構成される。板部材22a、22bは鋼材や合成樹脂材等の所定の可撓性を有する部材で形成される。
【0028】
板部材22aの端部32近傍には、左右に複数段の矩形状の係止孔42a、42b、42cが設けられ、板部材22bの他方の端部34近傍には、図3にも示すように、切り起こし加工によって筒状体20の内方へ突出形成された係止片44が形成されている。2枚の板部材22a、22bは、係止片44を有する板部材22bが外側、係止孔42を有する板部材22aが内側となるように、所定の長さ重ねられて筒状体20となっている(図1及び図12(a)参照)。
【0029】
後述する拡開機により筒状体20を拡径させ、次いで若干縮径させたときに、係止片44がいずれか一組の係止孔42a、42b、44cに選択的に係合することで、筒状体20の拡径状態を維持することができる(第1拡径工程)。
【0030】
図2及び3で示した係止片44は矩形状のものを示しているが、係止孔42a〜42cに係合しやすいように、台形状あるいは三角形状に形成してもよい。また、係止孔42a〜42cは幅方向左右両側に1列ずつ設けられているが、左右の係止孔42a〜cの間に更に付加して3列以上としたり、中央に1列のみとすることも可能である。同様に、係止片44は左右の係止片44の間に更に付加してもよいし、中央に1つ単独で設ける構成としてもよい。各列の係止孔の数は種々調整することができる。
【0031】
また、係止片は、図6(a)で示す係止片44−1ように板部材22bの端部34に設ける構成としてもよく、図6(b)で示す係止片44−2のように、板部材22bの端部34よりも突き出した形で形成してもよい。更に、係止片は径方向外側に切り出されて形成される構成としてもよい。この場合、図7に記載のように、係止片144を有する板部材122bが内側、係止孔142a〜cを有する板部材122aが外側となるように重ねられる。係止動作は上述したものと同様である。
【0032】
2枚の板部材22a、22bの幅方向両端部には、折曲部24が形成されており、筒状体20を形成するときは、折曲部24が径方向外方に向けて折曲された状態になっている。折曲部24は、既設管路内を流れる流水等によって環状弾性部材12(図1参照)が位置ずれするのを防止し、かつ筒状体20を補強するものである。また、水や水中に混入した固形物を流れやすくするためのものでもある。折曲部24は、26と28の対向端部付近では存在せず、折曲部24に該当する部位が除かれた状態になっており、それぞれ平端部36、38(図4参照)を形成している。
【0033】
2枚の板部材22a、22bが連結する側の端部26、28の幅方向両側には、それぞれ傾斜部26a、26b及び28a、28bが形成されている。傾斜部26a、26b、28a、28bは、それぞれの板部材22a、22bの幅方向外側から中央部側に向かって、離間間隔が狭くなるように直線状に形成されている。連結端部26、28の中央部26c、28cは直線状に形成され、間隔をおいて互いに対向するように構成されている。端部26、28により隙間部30が形成され、隙間部30にくさび部材50が挿入される。
【0034】
図4に示したように、くさび部材50には、くさび状部52を上下から挟むように平板状の外側プレート部58と、内側プレート部56とが設けられている。上下プレート部56、58の挿入方向側には、左右両側に挿通孔54が設けられている。この挿通孔54は、2枚の板部材22a、22bを仮固定して連結するために、仮固定具として後述する針金53を挿通する穴である。板部材22a、22bの傾斜部26a、28a付近には、くさび部材50の挿通孔54に対応する挿通孔55が設けられている。
【0035】
くさび部材50の一部を隙間部30に挿入し、くさび部材50の挿通孔54と板部材の挿通孔55が一致する箇所で、針金53をそれぞれの挿通孔54、55に挿通する(図5参照)。挿通孔54、55に挿通する針金53は、係止孔42と係止片44による第1拡径工程時には仮固定状態が維持され、第2拡径工程でくさび部材50を筒状体20の幅方向中央側に移動させる際に、そのせん断力により破断する強度のものである。仮固定具は、針金53に限定されるものではなく、上記の保持強度を有するボルト等でもよい。
【0036】
くさび状部52は、上記挿入方向200に長さ方向を有し、傾斜部26a及び傾斜部28aにそれぞれ対向して当接される当接面52aと52bとを両面に有している。この当接面52a、52bにより、挿入方向に狭くなる挟角αを形成しており、挟角αは傾斜部26aと傾斜部28aとが互いに対向した状態で形成する角度βとほぼ等しくなるように形成されている。
【0037】
くさび部材50の隙間部30への挿入は、くさび状部52の当接面52aと52bが、傾斜部26a、26bと当接されるように行う。くさび部材50が隙間部30に挿入された状態で、外側プレート部58は筒状体20の外周側に位置し、内側プレート部56は筒状体20の内周側に位置する状態となる。
【0038】
図5は、隙間部30に挿入口側からくさび部材50の一部が挿入され、仮固定された状態を筒状体20の外側から見た図である。同図に基づいてくさび部材50による筒状体20の拡径動作について説明する。
【0039】
上述したように、くさび部材50の挿入時、くさび状部52のそれぞれの当接面52a、52bを、隙間部30の傾斜部26a、28aに当接させつつくさび部材50を挿入する。傾斜部26aと傾斜部28aの前述した形状により、隙間部30は筒状体20の幅方向外側から中央部方向に、その幅が狭くなっている。従って、くさび部材50が、隙間部30を筒状体20の中央部方向に向かって移動するに伴って針金53が破断し、傾斜部26a、28aは、当接面52a、52bに押され、隙間部30の幅が広くなる方向に移動する。これにより筒状体20の拡径が行われる。
【0040】
そして、筒状体20が最適に拡径した状態にまで拡径された時点でくさび部材50による拡径動作を停止させ、停止位置にくさび部材50をそのまま位置させることにより筒状体20の上記拡径状態が維持される(第2拡径工程)。
【0041】
筒状体20が拡径された状態では筒状体20に環状弾性体12の収縮力及び環状弾性体12に設けられた突条部16の既設管1に対する反力等が作用し、これにより、傾斜部26aと28aは互いに近づく方向に移動しようとする。そして、くさび状部52は、当接面52a、52bで傾斜部26aと28aを押しているので、当接面52a、52bの全面に応力がほぼ均一に加わり傾斜部26a、28aがくさび部材50の介在に起因して変形することが防止される。これにより、筒状体20の拡径状態の安定した維持が可能になる。
【0042】
図2の符号40−1で示した部材は、当板部材40−1であり、平板状の略長方形形状を有している。当板部材40−1は、筒状体20の隙間部30となる部分を覆い、隙間部30から環状弾性部材12が筒状体20の内周側に露出して突出するのを防止するものであり、筒状体20と環状弾性部材12との間に装着される。当板部材40−1は、筒状体20よりも厚さが薄いか或いは同等の厚さを有し、板部材22と同一の材質で形成することができる。図8に板部材22a、22bの連結部分の詳細断面図を示すように、当板部材40−1の一方の端部40aは板部材22aの外側に、例えば溶接などにより結合され、他方の端部40bは結合していないか、あるいは、板部材22a、22bが離間するときに解除される仮結合状態となっている。また、他方の端部32、34にも同様の当板部材40−2が設けられる。
【0043】
図9に本発明で用いられる環状弾性部材12の概略部分断面図を示す。環状弾性部材12は、筒状体20の拡径によって図示しない既設管路1の内周面2に押圧される環状形状を有している。具体的には、筒状体20の外周を被装する筒状のシート部14と、シート部14の両側端部外周上で各々周方向に沿って突出形成されて、補修状態では頂部が管路内周面2に密着する環状の突条部16を有している。
【0044】
補修用被覆体10による既設管路1の補修では、この両側の突条部16の間で既設管路1に発生したクラックや管と管との繋ぎ部の隙間をシールしている。この構成によりクラック等から地下水等が既設管路1内に侵入し、あるいは既設管路1内の流水が周囲に排出されるのを防止するものである。また、地震等による地盤の変化に対して緩衝作用を示すので、補修用被覆体10に耐震性を付与する効果も有する。
【0045】
以下に図10〜14に基づいて、上述の実施の形態に係る補修用被覆体10を、実際に既設管路1に設置するための動作について説明する。図10は、第一拡径工程において筒状体20を拡開させる拡開機60と、第2拡径工程においてくさび部材50の隙間部30への挿入を行う挿入機64の構成を示している。
【0046】
補修用被覆体10の設置作業はこの拡開機60と挿入機64とを使用して行われる。拡開機60は、芯体62とその外周に設けられ、外方に膨張する膨張部68を有している。また、拡開機60を走行可能とするため、走行手段66が設けられており、走行手段66は、芯体62の内周側に固定された脚78と、脚78の先端部に回動自在に備えられた車輪84とを有している。
【0047】
芯体62は、中空の円筒形状を有し、その外側には例えば圧縮空気等の供給により膨張する膨張部68を備えており、その外側に図示しない補修用被覆体10が装着される。拡開機60の本体部分の長さは、補修用被覆体10の長さに略一致する。
【0048】
挿入機64は、図示しないくさび部材50を筒状体20の隙間部30に押圧して挿入するための一対の爪部74−1、74−2を有しており、一方の爪部74−1を往復運動させるための部材として油圧シリンダー80及びこれに取り付けられたピストン79が設けられている。これら爪部74−1、74−2、油圧シリンダー80及びピストン79は、支持部72に装填されており、油圧シリンダー80と爪部74−1、74−2は、支持部72の両端部に固定されている。
【0049】
支持部72は、芯体62の内周部の上部に芯体62の長さ方向に移動可能に設けられている。ここで、油圧シリンダー80の操作は、油圧ホース76を介した作動用油の給、排油により行われる。
【0050】
次に、拡開機60及び挿入機64を使用して補修用被覆体10を既設管路1に設置する手順を説明する。
【0051】
図11は、挿入機64が設けられた拡開機60に、補修用被覆体10を外装した状態が示されている。この装着は次の手順で行われる。まず、膨張部68の外周に筒状体20を縮径した状態で外装し、次いで当板部材40を被せる。そして、筒状体20の外周に環状弾性部材12を外嵌する。
【0052】
次に、拡開機60を、例えば拡径作業観測用のテレビカメラが備えられた牽引機で牽引し、既設管路1の補修個所に搬入する。既設管路1の補修個所は内周面が予め処理され、土砂や木の根が取り除かれている。
【0053】
拡開機60が補修個所まで搬入されたときには、補修用被覆体は上述の図11に示した状態にあり、筒状体20は、図12(a)の詳細断面図に示すように、係止片44を有する板部材22bが外側、係止孔42a、42b、42cを有する板部材22aが内側に重なった縮径状態である。
【0054】
この状態から拡開機60の膨張部68を膨張させる。これにより、図12(b)に示すように、筒状体20が拡径される。次に、膨張部68を圧縮空気等の排出によって縮小させると、環状弾性体12及び止水体の復元によって、筒状体20に筒状体20を縮径させる力が作用し、図12(c)のように、係止片44が、係止可能な1組の係止孔42a、42b、42cの何れかに係合する(本図では42bに係合している)。次に、挿入機64の爪部74−1、74−2を筒状体20の幅方向中央方向に向けて移動させてくさび部材50を隙間部30に挿入する。くさび部材50を挿入すると、図13に示すように、仮固定用の針金53(図示していない)がせん断力により破断すると共に、2枚の板部材22a、22bの端部26、28は周方向に離間する。くさび部材50の挿入による第2拡径工程によれば、図5に示すW1の長さと図13に示すW2の長さの差の分拡径することができ、これにより、筒状体20は最適な状態で固定され、補修用被覆体10は管路内周面2と密着した状態で設置される。
【0055】
図14は、上述の作業が終了した状態の全体構成が示されている。図示された補修用被覆体10の拡径状態では、環状弾性部材12の突条部16が圧縮変形され、筒状体20と管路内周面2との間を水密的に接合する状態になっている。
【0056】
この状態が得られた時点で、筒状体20のくさび部材50による拡径作業を停止する。そして、挿入機64の油圧シリンダー80を操作して爪部74−1、74−2をくさび部材50、50から離れる方向に移動させる。その後、補修用被覆体10から拡開機60及び挿入機64を取り外し、補修作業が終了する。
【0057】
図15は、本発明に用いる筒状体の他の実施の形態を示す展開図である。板部材22a、22bの端部26、28は、円弧状に形成された中央部26a、28cで互いに重なっている。この重なっている領域に仮固定具としてのピン29が3本挿通されている。この3本のピン29は、上述した針金53と同様に、係止片44と係止孔42a〜42cの係合作業時には仮固定状態が維持され、傾斜部26a、26b、28a、28bから形成される隙間部30に、くさび部材を挿入することにより、破断する保持強度のものである。
【0058】
上記強度の仮固定をすることができればどのようなものを用いてもよく、例えば、中央部26c、28cが重なった領域に接着剤を塗布することによって仮固定することも可能である。
【0059】
なお、本発明は上記各実施の形態の構成に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。上記筒状体20の隙間部30は、中央側から外側に向かって広くなるものを示したが、例えば、特許文献3に記載の筒状体のくさび部材の挿入部分のように、筒状体の幅方向外側から中央部に向かって広くなる隙間部を有するものとしてもよい。この場合は、筒状体のその幅方向外側端部を仮固定して筒状体を構成する。
【符号の説明】
【0060】
1 管路
2 既設管路内周面
10 補修用被覆体
12 環状弾性部材
14 シート部
16 突状部
20 筒状体
22a、22b 板部材
24 折曲部
26、28 連結側端部
26a、26b、28a、28b 傾斜部
26c、28c 中央部
30 隙間部
32 係止孔側端部
34 係止片側端部
42a、42b、42c 係止孔
44 係止片
50 くさび部材
60 拡開機
64 挿入機
100 補修用被覆体
101 環状弾性部材
110 板部材
113 係止孔
114 係止片
120 拡開機
131 既設管路
132 既設管内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管路の内周面に被装して前記既設管路を補修する補修用被覆体において、
該補修用被覆体は、板部材を円筒状に湾曲させて構成した筒状体と、該筒状体に外嵌されて前記筒状体の外周面と前記既設管の内周面との間に挟装される環状弾性部材と、を有し、
前記筒状体は、周方向に並べられた可撓性を有する2枚の板部材から構成され、
前記2枚の板部材は、一方の端部相互が仮固定されることにより連結され、
前記仮固定された側の端部相互により、くさび部材を幅方向に挿入するための隙間部が形成され、
前記2枚の板部材の他方の端部相互は、所定の長さ重ねられて巻かれており、該重なり部分の一方の板部材の端部近傍には係止片が設けられ、他方の板部材の端部近傍には、周方向に間隔をおいて前記係止片が係合する複数の係止孔が設けられ、
前記仮固定は、前記係止孔と係止片による係合動作時には前記仮固定状態が維持され、前記くさび部材による拡径動作中に仮固定状態が解除され得る保持強度を有する仮固定具により行われることを特徴とする補修用被覆体。
【請求項2】
前記隙間部を形成する前記板部材の端部相互には、くさび部材を幅方向に挿入する方向に向かって離間間隔が狭くなる傾斜部が設けられ、
該各々の傾斜部のなす角度は、くさび部材のくさび状部の両側面のなす角度とほぼ同一であることを特徴とする請求項1に記載の補修用被覆体。
【請求項3】
前記くさび部材は、そのくさび状部を上下から挟んで覆う2枚のプレート部を有し、
前記くさび部材の一部を前記隙間部に挿入し、前記2枚のプレート部間に前記2枚の板部材が挟まれた領域に前記仮固定具を挿通することにより前記仮固定が行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の補修用被覆体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の補修用被覆体を補修する既設管内に配置し、
前記筒状体の内側に設置した膨張体を膨張させることにより、前記筒状体を拡径し、前記係止片と係止孔を係合させて拡径された状態を維持する第1拡径工程と、
次いで、前記傾斜部間に前記くさび部材を挿入することにより、前記仮固定状態を解除して、2枚の板部材を周方向に離間させることにより更に拡径を行う第2拡径工程と、
を含むことを特徴とする既設管の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−236925(P2011−236925A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106142(P2010−106142)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000219358)東亜グラウト工業株式会社 (47)
【Fターム(参考)】