説明

補強テープ、その補強テープを縫製してなる生地およびその補強テープを用いた網構造

【課題】軽量かつコンパクトであって、引張強度を向上させることができる生地の補強テープ、この補強テープが縫製された生地、ツエルト、この補強テープ部材を用いて構成された網構造を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、生地の引張強度を補強するための補強テープ1あって、前記補強テープ1の織り組織を構成するよこ糸11と、前記補強テープ1の織り組織を構成するたて糸12と、前記たて糸の一部を高強力繊維121で構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生地の引張強度を補強するための補強テープに関し、また、この補強テープを縫製してなる生地、この生地を用いたツエルト、タープ、テント、補強テープで構成された網構造に関する。より詳細には、ツエルト、テント、タープなどの縫製部分の伸びを抑えたり、引張強度を飛躍的に向上させることができる軽量かつコンパクトな補強テープに関する。
【背景技術】
【0002】
アウトドアに用いられる例えばテント、ツエルト、タープ、ハンモック等は、例えば、ナイロン生地、ポリエステル生地を縫製して作られており、天頂部やコーナー(裾)に掛けての稜線部の引張強度は、主に生地の強度に頼っている(非特許文献1参照)。このような、テント、ツエルトやタープ等は、その使用態様から、軽量かつコンパクトであり、耐光性、耐水性等の使用環境耐久性も要求されている。また、テント、ツエルト、タープ等は、その使用に際し、屋根部または壁面部を形成するように所定箇所の生地部分にテンションをかけなければならないため、生地には所定の引張強度が要求されている(タープの一例として特許文献1参照)。
【0003】
ところが、これらのテント、ツエルト、タープ等の生地に対する要求を全てにおいて満足することは困難である。すなわち、生地の目付けを上げれば引張強度を向上できるが、重く嵩張ってしまい、軽量かつコンパクトの要求を満足しない。一方、軽量かつコンパクト性を満足するように生地の目付けを小さくすると、引張強度が低下してしまい、その使用に耐えることができない。
【0004】
そのため、軽量かつコンパクトであって、引張強度もある程度満足するように、テンションがかかる部分に別のテープ生地を縫い合わせて2重にすることが行われている。この別のテープ生地として、ナイロン生地、ポリエステル生地のテープが従来から用いられているが、いずれも伸び代が大きく引張強度が不十分であり、引張強度を確保するためには、重く嵩張ってしまう問題があった。さらに、ナイロン製のテープの場合、水にぬれると伸びてしまい強度低下も著しいため、撥水処理が必要となっていた。また、テンションがかかる部分を、生地の縫い代同士を重ねてステッチで縫い合わせて構成した場合、生地自体の引張強度が増加するわけではなく、不十分であった。また、生地の縫い代(片倒し、巻き縫い等)の中に挟みこんで従来のテープ生地をステッチで止めることも行われているが、軽量性を満足させると、引張強度の面で不十分であった。また、従来のテープ生地は、格子目が密の平織りテープであって張り腰が無く、ステッチ止めするとパッカリング(縫い縮み)が発生し、品質低下の要因となっており改善が求められていた。
【0005】
また、非特許文献1に示されたツエルトは、テンションがかかる部分の裏地に高強力ポリエチレン(商品名「ダイニーマ(登録商標)」)のロープを、裏地に設けた数箇所の案内部に挿入して張り巡らすようにしている。このような場合、テンション方向の引張強度は高いものの、ロープが生地全体に縫製止めできないために、テンション方向と直行する方向の引張強度が生地自体の強度に依存し、バランスを欠いており改善が求められていた。また、案内部の縫製作業やロープ止めの縫製作業は難易度が高く、製品品質を維持するために作業を慎重に行うため製造コスト的にも改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−57273
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】株式会社finetrackのホームページ内ツエルト紹介ページ、[online]、[平成21年1月23日検索]、インターネット<URL:http://www.finetrack.com/product/detail_FAG0102.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、軽量かつコンパクトであって、引張強度を向上させることができる補強テープ、この補強テープが縫製された生地、その生地を用いたテント、ツエルト、タープ、また、この補強テープを用いて構成された網構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、生地の引張強度を補強するための補強テープであって、前記補強テープの織り組織を構成するよこ糸と、前記補強テープの織り組織を構成するたて糸と、前記たて糸の一部を高強力繊維で構成したことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、補強テープのたて糸の一部に高強力繊維を用いているため、たて糸方向(テープの長手方向)引張強度を大幅に向上させることができる。
【0011】
また、前記補強テープの織り組織を構成するよこ糸の一部を高強力繊維で構成することができる。この構成によれば、補強テープのよこ糸の一部に高強力繊維を用いているため、その部分における(テープの幅方向)引張強度を大幅に向上させることができる。例えば、高強力繊維で構成されたよこ糸部分と生地とを縫製することで、よこ糸方向の引張強度を大幅に向上させ、引っ張りによる生地の破れ、裂け等を効果的に抑制できる。
【0012】
たて糸の一部の高強力繊維は、複数のたて糸のどの位置にでも配置することもでき、高強力繊維部と他のたて糸繊維部が交互に配置する構成もできる。また、この高強力繊維は、モノフィラメントでもよくマルチフィラメントでもよい。マルチフィラメントであるほうが屈曲性の観点で好ましい。また高強力繊維は、綿、Es、ナイロン等の各種素材と複合化した複合加工糸として構成されていてもよい。
【0013】
よこ糸の一部を構成する高強力繊維は、補強テープの一部に織り込まれていればよく、複数個に別れて分布していてもよい。また、この高強力繊維は、モノフィラメントでもよくマルチフィラメントでもよい。マルチフィラメントであるほうが屈曲性の観点で好ましい。また高強力繊維は、綿、Es、ナイロン等の各種素材と複合化した複合加工糸として構成されていてもよい。通常のよこ糸端部と高強力繊維の端部との接合方法は、結い(結び)結合、熱接着、溶着接着、接着剤接合等で接合されていてもよく、糸同士が絡まって接合されていてもよい。
【0014】
上記高強力繊維は、軽量かつ嵩張らず、引張強度が大きい繊維で構成されることが好ましい。高強力繊維の軽量性としては、その比重が1.8以下が好ましく、0.99以下がより好ましく、0.97以下がさらに好ましい。高強力繊維の密度としては、1.8g/cm以下、より好ましくは0.99g/cm以下、さらに好ましくは0.97g/cm以下である。高強力繊維の引張強度は、20cN/dtex以上が好ましく、26cN/dtex以上がより好ましい。高強力繊維の弾性率としては、400cN/dtex以上が好ましく、750cN/dtex以上がより好ましい。繊維物性は、オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長200mm、伸長速度50%/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから引張強度(cN/dtex)および破断時の伸度(%)を計算して求める。また曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から弾性率(cN/dtex)を計算して求める。各値は10回の測定値の平均値を使用する。繊度測定は、単糸約2mを取り出し、該単糸1mの重さを測定し10000mに換算して繊度(dtex)とする。また、高強力繊維は、屋外の使用環境、非常用携帯性を考慮して耐摩耗性、耐屈曲疲労性、耐光性に優れることが好ましい。
【0015】
上記の高強力繊維として、例えば、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ポリアリレート繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維が挙げられる。ポリエチレン繊維としては、例えば超高分子量ポリエチレン繊維のダイニーマ(登録商標)SK60、SK71が挙げられる。アラミド繊維は、芳香族ポリアミドが分子として直鎖状の構造を持つものであり、例えばケブラー(登録商標)、ノーメックス(登録商標)等が挙げられる。炭素繊維は、アクリル繊維またはピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を原料に高温で炭化して作った繊維であり、例えば、トレカ(登録商標)が挙げられる。ポリアリレート繊維としては、例えば、ベクトラン(登録商標)が挙げられる。PBO繊維としては、例えば、ザイロン(登録商標)が挙げられる。たて糸の一部に用いられる高強力繊維は、上述のポリエチレン繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ポリアリレート繊維、およびPBO繊維の群から選択される単一の繊維または複数の繊維の組合せで構成することができる。
【0016】
また、織り方法は、特に制限されないが、強度の観点から平織り、綾織、杉綾織り等が挙げられる。
【0017】
また、補強テープの織り組織を構成するよこ糸およびたて糸は、特に制限されず、ポリアミド系繊維(例えばナイロン)、ポリエステル系繊維(例えばエステル繊維)、レーヨン繊維、ポリエステル繊維、およびポリアクリルニトリル系繊維等が挙げられる。よこ糸およびたて糸は、モノフィラメントでもよくマルチフィラメントでもよい。また、よこ糸およびたて糸は、それぞれ異なる繊維種で構成してもよく、同じ繊維種で構成してもよい。
【0018】
上記の本発明において、よこ糸およびたて糸が、レーヨン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、およびアクリル繊維の群から選択されるいずれかの繊維材料で構成されたモノフィラメントであることが好ましい。よこ糸とたて糸をモノフィラメントの平織り組織で構成することで、補強テープ自体にコシが発生し、軽量かつコンパクト、生地に縫製された際のパッカリング防止になる。また、よこ糸およびたて糸として、軽量、コンパクト、高耐久性、低吸水性、低伸度の観点から、ポリエステルモノフィラメントが特に好ましい。モノフィラメントとしては、JIS L1013に準じて測定した引掛強度が3.0cN/dtex以上であることが好ましく、5.0cN/dtex以上であることがより好ましく、かつ、JIS L1013に準じて測定した引張強度が1.5cN/dtex以上であることが好ましく、2.0cN/dtex以上であることがより好ましい。モノフィラメントの直径または断面寸法は、軽量かつコンパクト性、強度の面から0.05mm〜1.0mmの範囲が好ましく、0.05mm〜0.15mm以下の範囲がより好ましい。その断面形状は、特に制限されないが円状が好ましい。
【0019】
また、本発明において、平織り組織に粗い格子目(孔)が設けられ、高強力繊維を補強テープの幅方向に対し中央部に配置させることで、高強力繊維が邪魔にならないように、幅方向端部の格子目を用いて当該補強テープを生地に好適に縫製(例えばステッチ縫い)することができる。高強力繊維自体の摩擦性が小さい場合において、このように補強テープの幅方向中央部に高強力繊維を織り配置させることで、織り作業も簡単に行なえる。平織り組織の粗い格子目の目開きとしては、強度面、軽量性、ステッチ縫い止めの容易性の観点から0.1mm以上2mm以下が好ましく、0.1mm以上1mm以下がより好ましい。
【0020】
また、他の本発明は、上記に記載の補強テープを縫製してなる生地である。生地は、特に制限されず、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、またはこれらの複合加工繊維生地でもよい。生地を非常用のツエルト等に用いる場合には、特に軽量、コンパクト性が要求され、ナイロン繊維が好ましい。補強テープを生地に縫製する縫製部位は、特に制限されず、例えば、テンションのかかる位置に補強テープを縫製することが好ましい。縫製部位は、特に制限なく、生地の裏地でもよく、生地パネルを2枚重ねて合わせ縫いをする縫い代部分に補強テープを縫製することでもよい。
【0021】
上記の発明において、補強テープが、縫製部位の縫い代にステッチで縫い止めされる構成が好ましい。縫い代として、例えば片倒し、巻き縫い等が挙げられる。補強テープの平織り組織の幅方向両端部分のそれぞれにおいてステッチ縫いで、補強テープを生地に縫い止めすることが好ましい。縫製用の糸は、特に制限されないが、軽量であり、強度があることが要求される。
【0022】
また、上記の発明において、補強テープの長手方向両端部分のそれぞれに縫製される引掛部が生地に設けられている構成がある。生地にテンションをかけるために、生地に引掛部が設けられている。この引掛部は、引張強度性のある部材で構成され、例えば、プラスチック、合繊繊維、天然繊維、合皮、天然皮等で構成でき、その形状は、輪状、フック形状、輪状のテープ、紐またはロープ等で構成できる。引掛部と補強テープの長手方向の両端部分が直接に縫製されることで、引掛部にテンションをかけても、補強テープによって引張強度が飛躍的に向上しているため、生地の伸びを好適に抑えることができる。また、引掛部を補強テープで構成することもでき、例えば、補強テープを生地端部から外に延長し、輪状に巻き返して生地に縫製止めして構成することもできる。
【0023】
ツエルト、タープまたはテントの引張強度が必要な部位に、上記補強テープを縫製したり、この補強テープを縫製してなる生地を縫製したりすることで、引張強度が十分であり、かつ軽量のツエルト、タープまたはテントを好適に構成することができる。
【0024】
また、他の発明は、テープの織り組織を構成するよこ糸と、前記テープの織り組織を構成するたて糸と、前記たて糸の一部を高強力繊維で構成した上記の補強テープを用いて構成された網構造である。さらに、別実施形態として、たて糸の一部およびよこ糸の一部を高強力繊維で構成した上記の補強テープを用いて構成された網構造がある。網構造のクロス部分において、よこ糸の一部を構成した高強力繊維が位置して当該クロス部分を形成し、補強テープの幅(横)方向、長手(縦)方向の引張強度を十分に確保できる。
【0025】
この網構造を、袋物、ザック、バック等に形成してもよく、または生地の裏地に縫製することで、軽量かつ生地強度を飛躍的に向上させた袋物等を構成できる。また、網構造をハンモック形状にすれば、軽量かつコンパクトなハンモックを作成することができる。また、この網構造を、背のう(バックパック)に形成してもよく、背のう(バックパック)の引張強度の必要な部位に縫製することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】補強テープの例を示す図である。
【図2】補強テープを縫製したツエルトの例を示す図である。
【図3】補強テープを縫製したツエルトの例を示す図である。
【図4】引張試験方法について説明するための図である。
【図5】引張試験によって破断した生地の正面写真を示す図である。
【図6】網構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(補強テープ)
以下に、本発明の補強テープについて詳細に説明する。図1は、補強テープ1の構成例を示す図である。補強テープ1は、平織り組織である。よこ糸11およびたて糸12は、ポリエステルモノフィラメントで構成されている。よこ糸11およびたて糸12のポリエステルモノフィラメントの断面形状は円状であり、その直径は約0.15mmである。ポリエステルモノフィラメントは、JIS L1013に準じて測定した引掛強度が3.0cN/dtexであり、かつ、JIS L1013に準じて測定した引張強度が1.5cN/dtex以上である。たて糸121は、超高分子量ポリエチレン繊維のダイニーマ(登録商標)SK60のマルチフィラメントで構成され、図1(a)では、幅方向中央に5本のたて糸121が織りこまれている。図1(b)は別の補強テープの構成例であり、幅方向に2つの束に分散するようにたて糸121が織りこまれている。平織り組織の格子目が粗く、その目開きは約0.3〜1mmの範囲である。図1(c)は、平織り組織の一部(高強力繊維121を含む)を幅方向側面から視認した場合の模式図である。
【0028】
図1(a)の補強テープ1は、厚み約0.3mm、テープ幅10mm、目付け1.16g/mである。20kN万能試験機を用い、引張速度100mm/min、レンジ1000N、初荷重0N、標点間100mmの試験条件で測定した補強テープ1の引張強度(破断強力)の平均(n=3)は、537Nである。引張強度100N、200N、300Nに対する補強テープ1の伸び率の平均(n=3)は、それぞれ4.3%、7.3%、10%である。表1に試験結果を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
以上の補強テープ1によれば、軽量かつコンパクトであり、引張強度が高いため、生地のテンション部分や縫製部分に補強テープ1を縫製することで、その部分の縦方向の引張強度を効果的に補強することができる。また、補強テープ1は、モノフィラメントの平織り組織であるため張り腰があり、生地との縫製を簡単に行なえるのでパッカリング(縫い縮み)等が生じず製品品質(外観等)に優れ、さらに、縫製作業がし易いので歩留まりもよく縫製速度も速く、製造コストを低く抑えることができる。
【0031】
(高強力繊維の別構成例)
上記において、たて糸121の高強力繊維として、超高分子量ポリエチレン繊維のダイニーマ(登録商標)SK60を用いたが、ダイニーマ(登録商標)SK71でもよく、また、引張強度が20cN/dtex以上のアラミド繊維、炭素繊維、ポリアリレート繊維、PBO繊維であってもよい。
【0032】
(織り組織の別構成例)
上記において、織り組織として平織り組織について説明したが、特にこれに制限されず、綾織、杉綾織の組織構成であってもよい。
【0033】
(別実施形態)
上記補強テープとして、たて糸の一部に高強力繊維を用いた例を説明したが、これに制限されず、補強テープのよこ糸の一部に高強力繊維を織り込んだ構成もできる。
【0034】
(ツエルト)
以下に、補強テープ1をツエルトに縫製した例を図2を用いて説明する。ツエルト2は、非常用に携帯するため軽量かつコンパクトであることが要求される。ツエルト2の生地は、ナイロン66(登録商標)であり、生地には防水透湿性コーティングが施されている。ツエルト2を設営した場合、ツエルト2の屋根と壁部を形成するように引掛部21a、21bにテンションをかけ稜線21を形成する。この稜線21には、補強テープ1が縫製されている。図示していないが他のテンションがかかる縫製部分にも補強テープ1が縫製されている。
【0035】
図3に補強テープ1を縫製したツエルト2の稜線21の一部拡大図を示す。図3に示すツエルト2は2枚の生地23a、23bが縫い代部分24において巻き縫いされている。さらに、この縫い代部分24に補強テープ1がステッチ31で縫い止めされている。また引掛部22aは、補強テープ1および縫い代部分24と縫い止め32されている。ステッチの縫製作業に際し、補強テープ1自体に張り腰があるため、2本のステッチ31を1回の縫製作業で行えるため作業性がよい。また、パッカリング(縫い縮み)が生じないので外観品質もよく、ステッチの縫い状態が均一に仕上がるため全部位の縫い目強度も安定する。
【0036】
ツエルト2の生地であるナイロン66は、その性質上、水分を吸湿吸水するため膨潤し強度低下するが、テンションがかかる稜線21を補強テープ1で補強することによって、生地の引張強度低下を気にすることなくツエルト2を設営でき、特に暴風雨状況で使用する非常用のツエルト2に好適といえる。また、補強テープ1によって縦方向(稜線方向)の緊張を確実にしっかりと作用できるので、ツエルト2全体の膨潤によって撓むことがなく、風による生地破壊を著しく減少させることができる。
【0037】
(実施例および比較例)
ツエルト2において、補強テープ1ありと補強テープなしの2種類の試料で引張強度試験(破断強度)を行った。補強テープなしの場合は、2枚の生地の巻き縫いとステッチのみである。試験環境条件は、(1)通常条件(温度20℃、湿度65%RHにて調湿したもので試験する)、(2)高湿条件(温度40℃、湿度90%RHにて一昼夜調湿後、素早く20℃、湿度65%RHにて試験する)とした。
【0038】
図4に引張試験方法について示す。図4(a)にたて方向サンプル片、よこ方向サンプル片のサンプリング方法について示す。それぞれのサンプル片は、長手方向長さが20cm、幅方向長さが5cmである。図4(b)に示すように、よこ方向サンプル片の縫い代(補強テープあり、なし)部分は、サンプル幅より2cm程度長くはみ出すように残す。図4(b)に示すように、引張強度試験条件としては、引張速度100mm/min、試料の掴み間隔150mm、波チャックを使用して行った。その結果を表2および図5(通常条件における結果)に示す。図5(a)(b)は補強テープあり、(c)(d)は補強テープなしの破断の状態を示す。図5(a)のたて方向サンプル片(補強テープあり)は、チャック部分において補強テープのたて糸(ダイニーマ(登録商標))がずれたために生地が破断した状態を示す。図5(b)のよこ方向サンプル片(補強テープあり)は、チャック部分で生地が破断した状態を示す。図5(c)のたて方向サンプル片(補強テープなし)は、生地が破断した状態を示す。図5(d)のよこ方向サンプル片(補強テープなし)は、チャック部分で生地が破断した状態を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2の結果において、引張強度(N)は、生地の破断強度として示す。補強テープ1の補強ありの場合には、補強テープ1より先に生地自体が破断した結果となっており、補強テープによって生地強度を飛躍的に補強している結果となった。通常条件下において、「補強あり」と「補強なし」とを比較すると、「補強あり」では、たて方向で2.5倍以上の強度優位さが確認された。また、よこ方向では、補強テープ1に引張負荷がかかる前に生地が破断したために「補強あり」と「補強なし」の優位性があまりないように思われた。
【0041】
また、高湿条件と通常条件と比較して「補強なし」のたて方向では、20%以上の強度低下が見られたのに対し、「補強あり」のたて方向では、3%以下の強度低下であった。これは、ツエルト2の生地が吸湿吸水して膨潤し強度低下が生じたためと考えられる。すなわち、高湿条件において「補強あり」と「補強なし」では強度の優位性がさらに大きくなることが確認された。したがって、「補強あり」のツエルトであれば、「補強なし」のそれに比べて悪天候の強風下でも破壊される可能性が低い。
【0042】
以上の実施例と比較例の結果から以下のことがわかる。たて方向に対して明らかな強度優位性があり、暴風雨時のツエルトの設営において、たて方向にしっかり緊張させる事ができるため、ツエルト全体が膨潤に依ってたわむことなく、風による生地破壊を著しく減少させることができる。また、よこ方向の強度優位性は現行の薄い生地においては余り認められない。しかしながら、テント等の重量のある丈夫な生地においては、テープに負荷が及ぶ強度まで生地が保たれると「補強あり」と「補強なし」の破断強度の差が現れると推測される。したがって、たて方向の強度が重要であり、よこ方向は生地全体に力が掛かるため、たて方向ほど高強度を要求しない。つまり、本実施形態における補強テープ1の特性を十分に発揮でき、ツエルトやテント等に好適に適用できる。
【0043】
(ツエルトの別構成例)
上記において、ツエルト2の生地として、ナイロン66(登録商標)を用いたが、ポリエステル繊維等の他の繊維生地で構成することもできる。また、ツエルト以外の生地に補強テープ1を縫製し、生地の引張強度を飛躍的に向上させることができる。
【0044】
上記において、稜線21において2枚の生地を縫い合わせた構成であったが、1枚生地で構成してあってもよい。また、ツエルト2の他のテンションがかかる部分の全てにまたはそれらのうちから選択された部分に補強テープ1が縫製される構成であってもよい。
【0045】
上記実施形態では、補強テープをツエルト生地に縫製した構成例について説明したが、特にこれに制限されず、補強テープは、任意の生地の引張強度の必要な部位に縫製することが可能であり、例えば、テント、タープ等にも縫製することができる。
【0046】
(網構造)
図6に上記補強テープ1で構成した網構造の一例を示す。図6の網構造は、縦、横に配置した補強テープがそれぞれ直交するように構成される。直交する交点同士は、縫製あるいは紐等で結合されていてもよく、平織り構成されていてもよい。網構造の目は、特に制限されず、大きさは、その使用に応じて設定できる。また、網構造の外観は、図6に制限されず、例えば、網構造の目が平行四辺形のダイヤ状、多角形状、クモの巣状、目同士の大きさが一律でない等の網構造等で構成できる。この網構造をハンモックに適用することができる。長手方向の引張強度が高く、軽量かつコンパクトであるため、非常用のハンモックとして好適である。また、網構造を袋体に形成し、バッグや小物入れに適用することができる。また、この網構造を背のう(バックパック)に形成したり、その一部に縫製することもできる。
【符号の説明】
【0047】
1 補強テープ
2 ツエルト
11 よこ糸
12 たて糸
121 高強力繊維
21 稜線
22a、22b 引掛部
24 縫い代部分
31 ステッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地の引張強度を補強するための補強テープであって、
前記補強テープの織り組織を構成するよこ糸と、
前記補強テープの織り組織を構成するたて糸と、
前記たて糸の一部を高強力繊維で構成したことを特徴とする補強テープ。
【請求項2】
前記織り組織が、目の粗い平織り組織で構成し、
前記高強力繊維のたて糸が、補強テープの幅方向に対し中央部に設けられる請求項1の補強テープ。
【請求項3】
前記補強テープの織り組織を構成するよこ糸の一部を高強力繊維で構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の補強テープ。
【請求項4】
前記補強テープの織り組織を構成するよこ糸およびたて糸が、レーヨン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、およびアクリル繊維の群から選択されるいずれかの繊維材料で構成されたモノフィラメントである請求項1から3のいずれか1項に記載の補強テープ。
【請求項5】
前記よこ糸またはたて糸の一部を構成する高強力繊維が、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ポリアリレート繊維、およびPBO繊維の群から選択される単一の繊維または複数の繊維の組合せで構成される請求項1から4のいずれか1項に記載の補強テープ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の補強テープを縫製してなる生地。
【請求項7】
前記補強テープが、生地の縫製部位の縫い代にステッチで縫い止めされてなる請求項6に記載の生地。
【請求項8】
前記補強テープの長手方向両端部分のそれぞれに縫製される引掛部が生地に設けられている請求項5から7のいずれか1項に記載の生地。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項に記載の補強テープを縫製してなる生地を用いたツエルト。
【請求項10】
請求項5から8のいずれか1項に記載の補強テープを縫製してなる生地を用いたタープ。
【請求項11】
請求項5から8のいずれか1項に記載の補強テープを縫製してなる生地を用いたテント。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載された補強テープを用いて構成された網構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−203223(P2010−203223A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8351(P2010−8351)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(504113190)株式会社finetrack (5)
【Fターム(参考)】