補正値取得方法、補正値取得プログラム、及び、印刷装置。
【課題】テストパターンに付着したゴミ等の異物を除去する閾値を自動的に算出して、ドット列毎の濃度補正を行うための正確な濃度補正値を取得する。
【解決手段】(A)所定方向に並んだノズル列からインクを噴出することにより、前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されたドット列が前記所定方向に並ぶパターンを媒体上に形成し、(B)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、(C)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、(D)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する。
【解決手段】(A)所定方向に並んだノズル列からインクを噴出することにより、前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されたドット列が前記所定方向に並ぶパターンを媒体上に形成し、(B)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、(C)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、(D)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補正値取得方法、補正値取得プログラム、及び、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルから液体を噴出して媒体上に液滴(ドット)を着弾させることで記録を行う印刷装置が知られている。このような印刷装置を用いて印刷が行われる際に、印刷された画像に濃度ムラ(例えば、白スジや黒スジ)が生じ、印刷画像の画質が劣化することがある。
【0003】
濃度ムラが生じた場合は、ドット列(ラスタライン)毎に濃度補正値を取得し、取得された該濃度補正値に基づいてドット列毎の印刷濃度を補正することにより、濃度ムラによる画像劣化の問題を解消することができる(BRS補正)。また、かかる濃度補正値を取得する方法として、媒体(テストシート等)に形成されたテストパターンをスキャナーにより読み取ってテストパターンの画像データを取得し、取得されたテストパターンの画像データにおいて、各ドット列に対応する画素列の濃度に基づいて、ドット列毎に濃度補正値を取得する方法が知られている。
【0004】
しかし、テストパターンを読み取って画像データを取得する際に、該画像データにゴミなどの異物が含まれていると、そのゴミの部分も濃度として検出されてしまい、正確な濃度補正値を得ることが難しくなることがある。そこで、まず、ゴミ等の異物が完全に除去された状態のテストパターンを用意して、該テストパターンを読み取った画像データについて、各ドット列に対応する画素列毎の濃度の最小値及び最大値に基づいて閾値を算出しておく。そして、補正値取得用のテストパターンの画像データを読み取る際に、該閾値を超えた濃度を示した画素をゴミと判別して除去することで、ドット列毎の濃度の読み取り精度を向上させて正確な濃度補正値を得る方法が提案されている。(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−305957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、あらかじめゴミ等の異物が付いていないテストパターンをスキャナーで読み取って閾値を算出するため、該閾値は、テストパターン読み取り時に使用されたスキャナーやテストパターンを印刷した媒体の性質に依存することになる。したがって、スキャナーや被印刷媒体を変更する場合には、その都度ゴミが付いていないテストパターンを印刷しなおして再度閾値を算出する必要があり、正確な濃度補正値を取得するのに手間がかかった。
【0007】
本発明では、テストパターンに付着したゴミ等の異物を除去する閾値を自動的に算出して、ドット列毎の濃度補正を行うための正確な濃度補正値を取得することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための主たる発明は、(A)所定方向に並んだノズル列からインクを噴出することにより、前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されたドット列が前記所定方向に並ぶパターンを媒体上に形成し、(B)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、(C)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、(D)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、ことを特徴とする補正値取得方法である。
【0009】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】記録システムの外観構成を示す図である。
【図2】プリンター1の構成を示すブロック図である。
【図3】図3Aは、本実施形態のプリンターの構成を説明する概略断面図である。図3Bは、本実施形態のプリンターの構成を説明する概略上面図である。
【図4】ヘッドユニットにおけるヘッドの配置を示す図である。
【図5】本実施形態のプリンターが行う印刷方法を説明する図である。
【図6】図6Aは、スキャナー150の概略断面図である。図6Bは、上蓋151を外した状態のスキャナー150の上面図である。
【図7】図7Aは、理想的にドットが形成されたときのラスタラインの様子を説明する図である。図7Bは、濃度ムラが発生したときのラスタラインの様子を説明する図である。
【図8】従来の補正値H算出のためのフロー図である。
【図9】従来例における濃度補正用のテストパターンを示す図である。
【図10】シアンの補正用パターンをスキャナー150で読み取った結果を示す図である。
【図11】図11A及び図11Bは、濃度ムラ補正値Hの具体的な算出方法を示す図である。
【図12】シアンに関する補正値テーブルを示す図である。
【図13】シアンのx番目の列領域に関して各階調値に対応した補正値Hを算出する様子を示す図である。
【図14】図14Aは、テストパターンのある列領域においてゴミが付着していた場合に、その列領域の階調値を表したグラフである。図14Bは、テストパターンのある列領域においてドット抜けが生じていた場合に、その列領域の階調値を表したグラフである。
【図15】所定の閾値を用いて不良画素を特定する方法を説明する図である。
【図16】第1実施形態における補正値Hを算出するためのフローを示す図である。
【図17】第1実施形態における閾値を算出するためのフローを示す図である。
【図18】第1実施形態における階調値を算出するためのフローを示す図である。
【図19】図19Aは、測定対象の画素列に異物フラグが設定されない場合における階調値算出処理を説明する図である。図19Bは、測定対象の画素列に異物フラグが設定される場合における階調値算出処理を説明する図である。
【図20】比較例における補正値Hを算出するためのフローを示す図である。
【図21】比較例における閾値を算出するためのフローを示す図である。
【図22】第2実施形態における補正値Hを算出するためのフローを示す図である。
【図23】第2実施形態における閾値を算出するためのフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0012】
(A)所定方向に並んだノズル列からインクを噴出することにより、前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されたドット列が前記所定方向に並ぶパターンを媒体上に形成し、(B)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、(C)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、(D)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、ことを特徴とする補正値取得方法。
このような補正値取得方法によれば、テストパターンに付着したゴミ等の異物を除去する閾値を自動的に算出して、ドット列毎の濃度補正を行うための正確な濃度補正値を取得することができる。
【0013】
かかる補正値取得方法であって、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の平均値と、から前記閾値が算出されることが望ましい。
このような補正値取得方法によれば、テストパターン上に前記交差方向に沿ってゴミが付着していた場合でも、そのようなゴミを精度良く検出し、正確な濃度補正値を算出することができる。
【0014】
かかる補正値取得方法であって、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列についての濃度の平均値と、から、前記画素列毎に前記閾値が算出されることが望ましい。
このような補正値取得方法によれば、テストパターン中の同じ濃度領域部分で実際の読み取り濃度にバラツキが生じていた場合でも、正確な濃度補正値を算出することができる。
【0015】
かかる補正値取得方法であって、前記ノズル列を有するヘッドを複数用いて、前記パターンを形成することが望ましい。
このような補正値取得方法によれば、複数ヘッドを備える印刷装置を用いて印刷を行う場合でも、正確な濃度補正値を算出することができる。
【0016】
また、(A)メモリーに記憶され、所定方向に並んだノズル列から噴出されるインクによって前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されるドット列について、それぞれのドット列に対応する補正値を取得する補正値取得プログラムであって、(B)前記ドット列が前記所定方向に並ぶパターンを前記媒体上に形成させ、(C)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、(D)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、(E)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、ことを特徴とする補正値取得プログラムが明らかとなる。
このような補正値取得プログラムによれば、テストパターンに付着したゴミ等の異物を除去する閾値を自動的に算出して、ドット列毎の濃度補正を行うための正確な濃度補正値を取得することができる。
【0017】
かかる補正値取得プログラムであって、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の平均値と、から前記閾値を算出することが望ましい。
このような補正値取得プログラムによれば、テストパターン中の同じ濃度領域部分で実際の読み取り濃度にバラツキが生じていた場合でも、正確な濃度補正値を算出することができる。
【0018】
かかる補正値取得プログラムであって、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列についての濃度の平均値と、から、前記画素列毎に前記閾値を算出することが望ましい。
このような補正値取得プログラムによれば、テストパターン上に前記交差方向に沿ってゴミが付着していた場合でも、そのようなゴミを精度良く検出し、正確な濃度補正値を算出することができる。
【0019】
また、(A)所定方向に並んだノズル列を有し、媒体上にインクを噴出することによりドットを形成するヘッド部と、(B)前記ヘッド部を制御する制御部であって、前記媒体上に前記所定方向と交差する交差方向に沿ったドット列が該所定方向に並ぶパターンを形成させ、形成された前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、ことを特徴とする、制御部と、を備える印刷装置が明らかとなる。
このような印刷装置によれば、テストパターンに付着したゴミ等の異物を除去する閾値を自動的に算出して、ドット列毎の濃度補正を行うための正確な濃度補正値を取得することができる。
【0020】
===記録システムの基本的構成===
<全体構成>
図1は、記録システムの外観構成を示した説明図である。本実施形態における記録システムは、プリンター1と、コンピューター110と、表示装置120と、入力装置130と、記録再生装置140と、スキャナー150とを備えている。プリンター1は、紙、布、フィルム等の媒体に画像を記録する印刷装置である。コンピューター110は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1に画像を印刷させるため、印刷させる画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。
【0021】
コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタードライバーは、表示装置120にユーザーインターフェイスを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどの記録媒体(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)に記録されている。または、このプリンタードライバーは、インターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
【0022】
<プリンター1の構成>
発明を実施するための印刷装置の形態として、インクジェットプリンター(プリンター1)を例に挙げて説明する。
図2に、プリンター1の構成を表すブロック図を示す。また、図3Aに、プリンター1の概略断面図を、図3Bに、プリンター1の概略上面図を示す。
プリンター1は、搬送ユニット20と、駆動ユニット30と、ヘッドユニット40と、検出器群50と、コントローラー60と、を有する。コントローラー60は、印刷装置制御部であるコンピューター110から受信した印刷データに基づいて各ユニットを制御し、媒体に画像を印刷する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は検出器群50から出力された検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0023】
<搬送ユニット20>
搬送ユニット20は、媒体S(例えば紙など)を所定の方向(以下、搬送方向という)の上流側から下流側に搬送させるためのものである。搬送モーター(不図示)によって駆動する搬送ローラー21により、印刷前のロール状の媒体Sを印刷領域に供給し、その後、印刷済みの媒体Sを巻取機構によりロール状に巻き取ったり、適当な長さにカッティングして排出したりする。搬送モーターの動作はプリンター側のコントローラー60により制御される。なお、印刷中の印刷領域では、媒体Sが下からバキューム吸着され、媒体Sは所定の位置に保持される。
【0024】
<駆動ユニット30>
駆動ユニット30は、ヘッドユニット40を、搬送方向に対応するX方向と、媒体Sの紙幅方向(搬送方向と直交する方向)に対応するY方向とに自在に移動させるものである。駆動ユニット30は、ヘッドユニット40をX方向に移動させるX軸ステージ31と、X軸ステージ31をY方向に移動させるY軸ステージ32と、これらを移動させるモーター(不図示)とで、構成されている。
【0025】
<ヘッドユニット40>
ヘッドユニット40は、紙Sにインクを噴出して画像を形成するためのものであり、複数のヘッド41を有する。ヘッド41の下面には、インク噴射部であるノズルが複数設けられ、各ノズルにはインクが入ったインク室が設けられている。
【0026】
このヘッドユニット40はX軸ステージ31に設けられ、X軸ステージ31がX方向(搬送方向)に移動すると、ヘッドユニット40もX方向に移動する。そして、ヘッドユニット40がX方向(搬送方向)を移動中にノズルからインクを断続的に噴出することによって、X方向に沿ったドットライン(ラスタライン)が媒体S上に形成される。その後、ヘッドユニット40は、Y軸ステージ32により、X軸ステージ31を介してY方向(紙幅方向)に移動し、その後、再び、ヘッドユニット40がX方向に移動しながら印刷を行う。
【0027】
このように、ヘッドユニット40のX方向への移動によりラスタラインを形成する動作と、ヘッドユニット40のY方向への移動を繰り返すことで、印刷領域の媒体Sに画像を印刷することができる。印刷領域に供給された媒体Sに画像を印刷する動作(画像形成動作)と、搬送ユニット20により媒体Sを搬送方向に搬送して新たな媒体S部分を印刷領域に供給する動作(搬送動作)とを、交互に繰り返すことで連続媒体Sに多数の画像を印刷する。
【0028】
図4は、ヘッドユニット40における複数のヘッド41の配置を示す図である。なお、実際にはヘッドユニット40の下面にノズル面が形成されるが、図4は上面からノズルを仮想的に見た図である(以下の図も同様)。
【0029】
Y方向(紙幅方向)に多数のノズルが並ぶことで、ヘッドユニット40のX方向(搬送方向)への1回の移動により、大きな幅の画像を印刷することができる。そうすることで、印刷の高速化を図れる。ただし、製造上の問題により長尺のヘッドを形成することが出来ない。そこで、プリンター1では、複数の短尺ヘッド41(1)〜41(n)をY方向に並べて配置する。図4に示されるように複数のヘッド41はベースプレートBPに取り付けられている。
【0030】
各ヘッド41のノズル面には、ブラックインクを噴射するブラックノズル列Kと、シアンインクを噴射するシアンノズル列Cと、マゼンタインクを噴射するマゼンタノズル列Mと、イエローインクを噴射するイエローノズル列Yとが形成されている。各ノズル列はノズルを180個ずつ備え、180個のノズルはY方向に一定のノズルピッチ(180dpi)で整列している。図示するようにY方向の奥側のノズルから順に小さい番号を付す(#1〜#180)。
【0031】
また、Y方向に隣り合う2つのヘッド(例えば41(1)と41(2))のうちの奥側のヘッド41(1)の最も手前側のノズル#180と、手前側のヘッド41(2)の最も奥側のノズル#1との間隔も一定の間隔(180dpi)となっている。つまり、ヘッドユニット40の下面では、ノズルがY方向に一定のノズルピッチ(180dpi)で並んでいることになる。なお、図3に示すように、異なるヘッド41の端部ノズルの間隔を180dpiにするためには、ヘッド41の構造上の問題により、ヘッド41を千鳥状に配置する必要がある。また、異なるヘッド41の端部ノズルが重複していてもよい。
【0032】
<検出器群50>
検出器群50には、ロータリー式エンコーダーや、リニア式エンコーダー(共に不図示)などが含まれる。ロータリー式エンコーダーは搬送ローラー21の回転量を検出し、その検出結果に基づいて媒体の搬送量が検出される。リニア式エンコーダーは、X軸ステージ31やY軸ステージ32の移動方向の位置を検出する。
【0033】
<コントローラー60>
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラー60は、インターフェイス部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64とを有する(図2)。
【0034】
インターフェイス部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンター1の全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子によって構成される。そして、CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して搬送ユニット20等の各ユニットを制御する。
【0035】
<プリンター1の印刷動作について>
図5は、本実施形態のプリンター1が行う印刷方法を説明する図である。図中では説明の簡略のため、ヘッドユニット40においてY方向(紙幅方向)に並ぶノズル数を10個と少なくしている。ヘッドユニット40がX方向へ移動しながら画像を形成する1回の動作を「パス」と呼ぶ。ここではプリンター1は4回のパスで画像を完成し、あるパスで形成されたラスタライン(X方向(搬送方向)に沿うドット列)の間に別のパスのラスタラインを形成する。そうすることで、Y方向の印刷解像度をノズルピッチ(180dpi)よりも高くすることができ、高画質な画像を印刷できる。
【0036】
具体的に説明すると、まず、パス1にてヘッドユニット40をX方向に移動させながら10個のラスタライン(黒丸)を形成する。その後、Y軸ステージ32によってヘッドユニット40をY方向の手前側に所定量f移動する。そして、パス2にて再びヘッドユニット40をX方向に移動させながら10個のラスタライン(白丸)を形成する。このとき、パス1で形成されたラスタラインよりも搬送方向の奥側にパス2のラスタラインが形成されるように、ヘッドユニットを所定量fでY方向に移動する。このように、ヘッドユニット40をX方向に移動してラスラインを形成する動作と、ヘッドユニット40をY方向に所定量fで移動する動作を繰り返すことによって、画像が完成する。
【0037】
なお、図5に示す印刷方法では、紙幅方向の奥側および手前側ではラスタライン間の埋まらない領域がある。そのため、ラスタライン間に隙間が生じない領域を、プリンター1がX方向に印刷可能な画像幅とする。
また、以下の説明のため、「画素領域」と「列領域」を設定する。「画素領域」とは媒体S上に仮想的に定められた矩形状の領域を指し、印刷解像度に応じて大きさが決定する。媒体S上の1つの「画素領域」と画像データ上の1つの「画素データ」が対応する。また、「列領域」とはX方向に並ぶ複数の画素領域によって構成される領域である。「列領域」は、画像データ上の複数の画素データがX方向に対応する方向に沿って並ぶ「画素列データ」と対応する。
【0038】
Y方向の奥側の列領域から順に小さい番号を付す。例えば、図5に示す印刷方法では、パス3のノズル#1に形成されたラスタライン(点線)を1番目の列領域に形成されるラスタラインとする。2番目の列領域に形成されるラスタラインはパス2のノズル#2に形成され、3番目の列領域に形成されるラスタラインはパス1の3番目のノズル#3に形成される。また、7番目の列領域に形成されるラスタラインはパス1の4番目のノズル#4に形成され、8番目の列領域に形成されるラスタラインはパス4の2番目のノズル#2に形成される。このことから、本実施形態の印刷方法では、同じ2番目のノズル#2にて形成される列領域であっても、隣接する列領域にラスタラインを形成するノズルが同じノズルになるとは限らないことが分かる。
【0039】
<スキャナー150の構成>
スキャナー150は、プリンター1により印刷された画像を読取って画像データを取得する画像入力装置である。
【0040】
図6Aに、スキャナー150の断面図を示す。図6Bに、上蓋151を外した状態のスキャナー150の上面図を示す。
スキャナー150は、上蓋151と、原稿5(例えば、プリンター1によって画像が印刷された媒体S)が置かれる原稿台ガラス152と、この原稿台ガラス152を介して原稿5と対面しつつ副走査方向に移動する読取キャリッジ153と、読取キャリッジ153を副走査方向に案内する案内部154と、読取キャリッジ153を移動させるための移動機構155と、スキャナー150内の各部を制御するスキャナーコントローラ(不図示)とを備えている。読取キャリッジ153には、原稿5に光を照射する露光ランプ157と、主走査方向(図6Aにおいて紙面に垂直な方向)のラインの像を検出する読み取り部の一例としてのラインセンサー158と、原稿5からの反射光をラインセンサー158へ導くための光学系159とが設けられている。図中の読取キャリッジ153の内部の破線は、光の軌跡を示している。
【0041】
===濃度ムラの説明===
<バンディングについて>
インクジェットプリンターで印刷を行う場合に、インクを噴出するノズル列の加工精度のばらつき等により、形成されたラスタラインの濃度にムラが生じることがある。このような濃度ムラが発生すると、印刷面に筋状の模様が形成されたように見え(バンディング)、印刷画像の画質が劣化する。
ここでは、「濃度ムラ」について説明する。なお、説明の簡略化のために単色印刷された画像中に生じる濃度ムラの発生原因について説明する。
【0042】
図7Aに、理想的にドットが形成されたとき(濃度ムラが発生していないとき)の様子の説明図を示す。同図では、理想的にドットが形成されているので、各ドットは破線で区切られた画素領域内に正確に形成され、ラスタラインは列領域に沿って規則正しく形成される。各列領域には、その領域の着色に応じた濃度の画像片が形成されている。ここでは、説明の簡略化のため、ドット生成率が50%となるような一定濃度の画像を印刷するものとする。
【0043】
次に、図7Bに、濃度ムラが発生したときの説明図を示す。本図では、ノズルから噴出されたインク滴が、噴出後に曲がって飛翔する等の原因により、図7Aにおいて2番目の列領域に形成されていたラスタラインが3番目の列領域側に寄って形成されている。その結果、2番目の列領域の濃度は淡くなり、3番目の列領域の濃度は濃くなる。一方、5番目の列領域に噴出されたインク滴のインク量は規定量よりも少なく、5番目の列領域に形成されるドットが小さくなっている。その結果、5番目の列領域の濃度は淡くなる。
【0044】
このように濃淡の違う列領域からなる画像を巨視的に見ると、ラスタライン形成方向(本実施形態においてはX方向)に沿う縞状の濃度ムラが視認される。本実施形態では、この濃度ムラを補正することを目的としている。
【0045】
<濃度ムラの補正方法>
濃度ムラによって生じる縞状の模様を解消するために、濃く視認されやすい列領域に対しては、淡く画像片が形成されるように、その列領域に対応する画素データの示す階調値を補正する。逆に、淡く視認されやすい列領域に対しては、濃く画像片が形成されるように、その列領域に対応する画素データの示す階調値を補正する。
【0046】
ここで、図7Bにおいて、3番目の列領域に形成される画像片の濃度が濃くなる理由は、3番目の列領域にラスタラインを形成するノズルの影響によるものではなく、隣接する2番目の列領域にラスタラインを形成するノズルの影響によるものである。このため、3番目の列領域にラスタラインを形成するノズルが別の列領域にラスタラインを形成する場合、その列領域に形成される画像片が濃くなるとは限らない。前述のように、あるノズルに割り当てられる列領域に隣接する列領域が、毎回同じノズルによって形成されるとは限らないからである。
【0047】
つまり、同じノズルにより形成された画像片であっても、隣接するラスタラインを形成するノズルが異なれば、濃度が異なる場合がある。このような場合、単にノズルに対応付けた補正値では、濃度ムラを抑制することができない。そこで、本実施形態では、列領域ごと(画素列データごと)に濃度ムラ補正値Hを設定する。
【0048】
なお、濃度ムラはノズルの加工精度等の問題により発生するため、列領域ごと(画素列データごと)の補正値Hは、プリンター1ごとに算出される。以下、補正値Hの算出方法について説明する。
【0049】
===従来の補正値算出方法===
まず、従来例として、一般的な補正値Hの算出方法について説明する。
図8に、従来の方法により補正値Hを算出するためのフロー図を示す。
プリンター1を用いてS101〜S105のステップを順番に実施することにより、各列領域についての補正値Hが算出される。算出された補正値Hはプリンター1のメモリー63に記憶され、実際の印刷時には記憶された補正値Hを用いて濃度補正が行われる。なお、各ステップはコンピューター110にインストールされた補正用プログラムによって実現される。
【0050】
<S101:テストパターンの印刷>
図9は、従来例における濃度補正用のテストパターンを示す図である。該テストパターンは3種類の濃度の帯状パターンから構成される。帯状パターンはそれぞれ一定の階調値の画像データから生成されたものであり、X方向(搬送方向)に沿ったドット列がY方向(紙幅方向)に複数並ぶことにより形成される。
【0051】
帯状パターンを形成するための階調値を指令階調値と呼び、濃度30%の帯状パターンの指令階調値をSa(76)、濃度50%の帯状パターンの指令階調値をSb(128)、濃度70%の帯状パターンの指令階調値をSc(179)と表す。なお、高い階調値が濃い濃度を示し、低い階調値が淡い濃度を示すとする。
【0052】
1つの帯状パターンは、図5に示す印刷方法において、ヘッドユニット40が有するノズルにて4回のパスで形成されるラスタラインで構成される。そして、色ごと(ブラック,マゼンタ,シアン,イエロー)に対応する補正値Hを算出するため、色ごとに補正用パターンが形成される。
【0053】
<S102:テストパターンの読取>
印刷されたテストパターンは、検査者によってスキャナー150にセットされる。そして、コンピューター110はスキャナー150に該テストパターンを読み取らせ、画像データとして取得する。テストパターンの読み取りは、スキャナー150のラインセンサー158を副走査方向に移動させながら該ラインセンサー158によって主走査方向のラインを読み取ることで、画像データが取得される。
【0054】
このときの読取解像度は2880dpi(X方向)×2880dpi(Y方向)であり、画像データはX方向とY方向の2次元に並ぶ画素の画素データから構成されることになる。また、画像データを構成する各画素データは256階調の階調値を有する。
【0055】
<S103:階調値の取得>
テストパターンから得られた画像データについて列領域毎に読取階調値を取得する。
図10は、シアンの補正用パターンをスキャナー150で読み取った結果である。図10のグラフでは、横軸を列領域番号とし、縦軸を各列領域の読取階調値とする。
【0056】
以下、図10に示すシアンの読取結果を例に挙げて説明する。そして、色ごとの補正用パターンの読取階調値を取得した後、帯状パターンごとに(指令階調値ごとに)、スキャナー150の読取データにおける画素列データ(データ上でX方向に対応する方向に並ぶ複数の読取画素)と、補正用パターンにおける1つの列領域(ラスタライン)を、一対一で対応させる。その後、帯状パターンごとに、各列領域の濃度を算出する。ある列領域に対応する画素列データに属する各画素データの読取階調値の平均値を、その列領域の読取階調値とする。
【0057】
各帯状パターンは、それぞれの指令階調値で一様に形成されたにも関わらず、図10に示すように列領域ごとに読取階調値にばらつきが生じる。例えば、図10のグラフにおいて、i列領域の読取階調値Cbiは他の列領域の読取階調値よりも低く、j列領域の読取階調値Cbjは他の列領域の読取階調値よりも高い。即ち、i列領域は淡く視認され、j列領域は濃く視認される。このような各列領域の読取階調値のばらつきが、印刷画像の濃度ムラである。
【0058】
<S104:補正値Hの算出>
濃度ムラを改善するために、列領域ごとの読取階調値のばらつきを低減させる。すなわち、各列領域の読取階調値を一定の値に近づける。そのために、同一の指令階調値(例えばSb・濃度50%)において、全列領域の読取階調値の平均値Cbtを「目標値Cbt」として設定する。そして、指令階調値Sbにおける各列領域の読取階調値を目標値Cbtに近づけるように、各列領域に対応する画素列データの示す階調値を補正する。
【0059】
具体的には、図10において目標値Cbtよりも読取階調値の低い列領域iに対応する画素列データの示す階調値を、指令階調値Sbよりも濃い階調値に補正する。一方、目標値Cbtよりも読取階調値の高い列領域jに対応する画素列データの示す階調値を、指令階調値Sbよりも淡い階調値に補正する。このように、同一の階調値に対して、全列領域の濃度を一定の値に近づけるために、各列領域に対応する画素列データの階調値を補正する補正値Hを算出する。
【0060】
図11A及び図11Bは、濃度ムラ補正値Hの具体的な算出方法を示す図である。まず、図11Aは目標値Cbtよりも読取階調値の低いi列領域において、指令階調値(例Sb)における目標指令階調値(例Sbt)を算出する様子を示す。横軸が階調値を示し、縦軸がテストパターン結果における読取階調値を示す。グラフ上には、指令階調値(Sa,Sb,Sc)に対する読取階調値(Cai,Cbi,Cci)がプロットされている。例えば指令階調値Sbに対してi列領域が目標値Cbtにて表されるための目標指令階調値Sbtは次式(直線BCに基づく線形補間)により算出される。
Sbt=Sb+{(Sc−Sb)×(Cbt−Cbi)/(Cci−Cbi)}
【0061】
同様に、図11Bに示すように、目標値Cbtよりも読取階調値の高いj列領域において、指令階調値Sbに対してj列領域が目標値Cbtにて表されるための目標指令階調値Sbtは次式(直線ABに基づく線形補間)により算出される。
Sbt=Sa+{(Sb−Sa)×(Cbt−Caj)/(Cbj−Caj)}
こうして、指令階調値Sbに対する各列領域の目標指令階調値Sbtが算出される。そうして、次式により、各列領域の指令階調値Sbに対するシアンの補正値Hbを算出する。同様にして、他の指令階調値(Sa,Sc)に対する補正値Ha,Hc、及び、他の色に対する補正値も算出する。
Hb=(Sbt−Sb)/Sb
【0062】
図12は、シアンに関する補正値テーブルを示す図である。ここで、前述のように、本実施形態の印刷方法では4回のパスでn個のラスタラインが形成されるとする。そのため、4回のパスでラスタラインが形成されるn個の列領域ごとに補正値Hが算出される。そして、図12に示す補正値テーブルでは、1番目からn番目の列領域の補正値Hが設定されている。このような補正値テーブルを、他の色に関しても作成する。そうして、この補正値Hテーブルを算出するための補正用パターンを印刷したプリンター1のメモリー63に記憶させる。
【0063】
<濃度補正処理について>
実際に印刷を行う際には、プリンタードライバーはプリンター1に対してメモリー63に記憶されている補正値Hをコンピューター110に送信するように要求する。プリンタードライバーは、プリンター1から送信される補正値Hをコンピューター110内のメモリーに記憶する。
【0064】
図13は、シアンのx番目の列領域に関して各階調値に対応した補正値Hを算出する様子を示す図である。横軸を補正前の階調値S_inとし、縦軸を補正前の階調値S_inに対応した補正値H_outとする。コンピューター110にインストールされたプリンタードライバーは、ユーザーからの印刷命令を受けると印刷データを生成し、印刷データをプリンター1に送信する。まず、プリンタードライバーは、ユーザーの印刷命令と共に各種アプリケーションソフトから画像データを受信すると、その画像データを印刷解像度に応じた解像度に変換し、プリンター1が有するインクの色YMCKに応じて色変換する。
【0065】
そして、プリンタードライバーは、YMCKの各色についての256階調のデータに対して補正値Hを用いて濃度補正処理を行う。即ち、画像データを構成する各画素データの256階調の階調値(補正前の階調値S_in)を、色ごと、及び、その画素データに対応する列領域ごとに設定された補正値Hによって補正する。
【0066】
補正前の階調値S_inが指令階調値のいずれかSa,Sb,Scと同じであれば、各指令階調値に対応した補正値Hであってコンピューター110のメモリーに記憶されている補正値Ha,Hb,Hcをそのまま用いることができる。例えば、補正前の階調値S_in=Scであれば、補正後の階調値S_outは次式により求められる。
S_out=Sc×(1+Hc)
【0067】
補正前の階調値S_inが指令階調値と異なる場合、補正前の階調値S_inに応じた補正値H_outを算出する。例えば、図13に示すように補正前の階調値S_inが指令階調値SaとSbの間であるとき、指令階調値Saの補正値Haと指令階調値Sbの補正値Hbの線形補間によって次式により補正値H_outを算出し、補正後の階調値S_outを算出する。
H_out=Ha+{(Hb−Ha)×(S_in−Sa)/(Sb−Sa)}
S_out=S_in×(1+H_out)
【0068】
なお、補正前の階調値S_inが指令階調値Saよりも小さい場合には、最低階調値0と指令階調値Saの線形補間により補正値H_outを算出し、補正前の階調値S_inが指令階調値Scよりも大きい場合には、最高階調値255と指令階調値Scの線形補間によって補正値H_outを算出する。
【0069】
こうして、色ごと、画素データが属する列領域ごと、階調値ごとに設定された補正値Hによって、256階調の画素データの示す階調値S_inが補正される。そうすることで、濃度が淡く視認される列領域に対応する画素データの階調値S_inは濃い階調値S_outに補正され、濃度が濃く視認される列領域に対応する画素データの示す階調値S_inは淡い階調値S_outに補正される。その結果、印刷画像に発生する濃度むらを低減することができる。
【0070】
そして、プリンタードライバーは、補正後の256階調の画素データ(S_out)をハーフトーン処理によって、プリンター1が形成可能なドットの種類に応じた4階調の画素データに変換する。例えば、3種類のドット(大ドット・中ドット・小ドット)が形成可能なプリンターであれば、8ビットの256階調のデータがハーフトーン処理によって2ビットの4階調のデータに変換される。例えば、「大ドット形成」を示す画素データは「11」に変換され、「中ドット形成」を示す画素データは「10」に変換され、「小ドット形成」を示す画素データは「01」に変換され、「ドット無し」を示す画素データは「00」に変換される。
【0071】
最後に、ラスタライズ処理によって、ハーフトーン処理されたマトリクス状の画像データをプリンター1に転送すべきデータごとに並べ替え、コマンドデータなどと共に印刷データとしてプリンター1に送信される。プリンター1は印刷データを受信すると、その印刷データに基づいて印刷を行う。
【0072】
===テストパターンにゴミが付着していた場合について===
以上に説明したように、テストパターンを印刷して各列領域について補正値Hを求めておき、印刷時に該補正値Hに基づいて濃度を補正することにより、印刷画像に発生する縞状の濃度ムラを低減させることができる。
【0073】
一方、この方法では、スキャナー150によって印刷されたテストパターンを読み取った画像データ上に不良画素があると、その不良画素を含む列領域における読取階調値の平均値が正確に算出されないという問題がある。ここで、不良画素とはその画素に形成されるべきドットの階調値が正しく表示されていない画素であり、例えば、画像読み取り時においてテストパターン上にゴミが付着していた場合や、テストパターンのラスタラインを構成するドット列にドット抜けが生じていた場合に発生する。
【0074】
図14Aは、テストパターンのある列領域においてゴミが付着していた場合に、そのゴミを含む列領域の読取階調値を表したグラフである。図14Aの上側に表されるグラフの横軸は、列領域における画素のX方向の位置を示している。縦軸は、画素の階調値を示している。実線のグラフは、各画素の読取階調値を示している。点線のグラフは、この画素列の画素データ(読取階調値)の平均値を示している。また、図14Aの下側の図はその列領域に対応する画素列と、画素列中に含まれるゴミの様子を表している。
【0075】
図14Aに示されるように、列領域内でゴミが含まれる画素では局所的に非常に高い読取階調値が示されるため、該列領域全体での階調値の平均値は、ゴミがない場合の通常の平均値(≒指令階調値S)よりも高くなってしまう。指令階調値Sに対してゴミの影響で平均値が高くなった列領域では、ゴミの影響のない他の列領域と比較してその列領域だけ極端な濃度ムラが発生しているものと認識され、必要以上に大きな補正値Hが算出されてしまうことになる。
【0076】
図14Bは、ドット抜けが生じていた場合に、その列領域における読取階調値を表したグラフである。
ドット抜けが生じた列領域では、前述の場合とは逆に該列領域における画素データの平均値が指令階調値Sと比べて低くなってしまう。したがって、ドット抜けの影響のない他の列領域と比較してその列領域だけ極端な濃度ムラが発生しているものと認識され、不正確な補正値Hが算出されてしまう。
【0077】
このように、不良画素(ごみの画像を示す画素やドット抜けの画像を示す画素等)が列領域内にあると、その列領域における画素データの平均値が影響をうけてしまい、正確な濃度補正値Hを算出することができなくなる。
【0078】
<ゴミの影響を除去する方法>
ゴミ等の影響を除去して正確な補正値を得るために、所定の閾値を適用して不良画素を特定し、列領域において特定された不良画素以外の画素データを用いて階調値の平均値を算出する方法が有効である。
【0079】
図15は、所定の閾値を用いて不良画素を特定する方法を説明する図である。グラフの横軸は、列領域における画素のX方向の位置を示している。縦軸は、画素の階調値を示している。実線のグラフは各画素の読取階調値を示しており、破線は閾値を示している。
【0080】
はじめに、ゴミ等が付着していない状態のテストパターン(以下、基準テストパターンとも呼ぶ)を用意して、該基準テストパターンをスキャナー150で読み取って、不良画素を含まない状態の画像データを取得する。次に、コンピューター110は列領域に含まれる全画素の平均値を算出し、該平均値を基準とした所定の閾値を取得する。そして、該平均値を中心とする閾値の範囲を正常範囲と設定する。
【0081】
実際の濃度補正時には、濃度補正対象のテストパターンの画像データに対して、列領域毎に読取階調値が該正常範囲内に含まれているかを判別し、この正常範囲外となる画素データは不良画素として特定される。図15においては斜線で示される範囲が正常範囲外であり、この部分の画素が不良画素として特定され画素データが除去される。そして、除去された以外の残りの画素データからその列領域について濃度(階調値)の平均値が算出される。
算出された平均値に基づいて列領域毎の濃度補正値Hを算出することにより、不良画素の影響が軽減された正確な濃度補正値Hを得ることが出来る。
【0082】
ところで、算出される閾値は、該基準テストパターンが印刷された媒体や、基準テストパターンを読み取る際に使用されたスキャナー150の個体性能(例えば読み取り時のズレの発生等)の影響を受けるため、閾値算出環境に依存した値であるといえる。つまり、スキャナー150以外の異なるスキャナーを用いる場合や被印刷媒体を変更する場合には、同じ閾値を用いても不良画素の画素データを正確に除去できない場合がある。
このような場合には、新たに閾値を算出し直す必要があり、そのためには、ゴミやドット抜けのない完全な状態の基準テストパターンを再度準備しなくてはならない。
【0083】
本実施形態のプリンター1では、印刷を行うユーザー自身の操作により濃度補正値Hを算出することを想定している。前述の方法によると、ユーザーが印刷の用途に応じてスキャナーや媒体を変更する度に、基準テストパターンを準備し、適正な閾値を算出し直して正確な濃度補正値Hを取得する必要が生じることになり、現実的ではない。
【0084】
===第1実施形態===
第1実施形態では、印刷されたテストパターン(ゴミが付着しているものでも可能である)から閾値を自動的に算出することにより、正確な濃度補正値Hを取得する。閾値を自動的に算出することができるため、前述のようなユーザーの手間を省くことができる。
【0085】
図16に第1実施形態における補正値H算出のためのフロー図を示す。
まず、テストパターンを印刷し(S201)、スキャナー150で読み取って画像データを取得する(S202)。そして、画像データの各列領域についての閾値を算出する(S203)。算出された閾値に基づいて、各列領域について不良画素を特定し、不良画素以外の画素データを用いて階調値の平均を求め(S204)、列領域毎の濃度補正値Hを算出する(S206)。
【0086】
以下、各ステップについて説明する。なお、各ステップはコンピューター110にインストールされた補正用プログラムによって実現される。
【0087】
<S201:テストパターンの印刷>
本実施形態では、図9に示した濃度補正用のテストパターンとほぼ同一のものを使用することができる。すなわち、それぞれ3種類の指令階調値(濃度30%の帯状パターンの指令階調値をSa(76)、濃度50%の帯状パターンの指令階調値をSb(128)、濃度70%の帯状パターンの指令階調値をSc(179)と表す)からなる帯状のパターンから構成される。該テストパターンはイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色についてそれぞれ印刷され、各色についての補正値が算出されることになる。
【0088】
<S202:テストパターンの読取>
(S102)で説明したのと同様に、(S201)で印刷されたテストパターンは、スキャナー150によって読み取られ、画像データとして取得される。このときの読取解像度は2880dpi(X方向)×2880dpi(Y方向)であり、画像データはX方向とY方向の2次元に並ぶ画素の画素データから構成されることになる。また、画像データを構成する各画素データは256階調の階調値を有する。
【0089】
なお、画像データを取得する手段としてスキャナー150を用いるのではなく、デジタルカメラ等他の手段を用いて画像を読み取ることも可能である。
【0090】
<S203:閾値算出>
テストパターンを読み取った画像データ(画素データ)から、不良画素を特定するための閾値を算出する。
【0091】
図17に、本実施形態における閾値算出のためのフローを示す。まず、測定対象とする帯状パターン毎(同じ指令階調値の濃度領域毎)に全ての画素について読取階調値のデータを取得する(S231)。例えば、図9の濃度50%の帯状パターン(指令階調値Sb=128)について、全画素の読取階調値を調べ、メモリー63に記憶する。そして、得られた全画素の読取階調値からその濃度領域全体についての平均階調値(平均濃度)Aallを取得する(S232)。また、平均階調値Aallと各画素の読取階調値とから、濃度領域全体についての階調値(濃度)の標準偏差σallを算出する(S233)。そして、Aallとσallとから閾値を算出する(S234)。なお、閾値は以下の(式1)により算出される。
閾値=Aall±d×σall・・・(式1)
(式1)中のdは係数であり、印刷する媒体の種類(例えば光沢紙や普通紙)等によって最適な値が決定される。
【0092】
<S204:階調値算出>
テストパターンから得られた画像データについて、テストパターンの列領域に対応する画素列毎に読取階調値を取得する。このとき、(S203)で算出された閾値を用いてゴミを検出し、ゴミが検出された画素以外の画素データを利用して該画素列の読取階調値(濃度)を算出する。
【0093】
図18に、本実施形態における階調値算出のためのフローを示す。
まず、算出対象となる所定の列領域に対応する画素列について、当該画素列の第m番目の画素の読取階調値(濃度)を取得する(S241)。第m番目の画素の読取階調値と閾値とを比較して(S242)、読取階調値が閾値の範囲外である場合は第m番目の画素に異物フラグを設定し(S243)、閾値の範囲内である場合はそのまま読取階調値をメモリー63に記憶する。続いて、第m番目の画素がその画素列中の最終画素であるか否かが判断され(S244)、最終画素でない場合は次の画素に進む(S245)。すなわち、第m+1番目の画素について読取階調値を取得するように働く。そして、(S241)〜(S245)のステップが第1番目の画素から当該画素列の最後の画素まで繰り返される。当該画素列中の全画素について読取階調値を取得したら、異物フラグが設定された画素以外の読取階調値を平均して、その画素列における階調値とする(S246)。
【0094】
なお、テストパターン上のある列領域に大きなゴミが付着していた場合には、対応する画素列中で異物フラグの設定される画素が多くなり、当該列領域の平均濃度が正確に検出できないことがある。このような場合には、画素列を構成する画素のうち50%以上の画素に異物フラグが設定されたときはエラー表示や警告を発するようにして、画素列濃度の計算を停止させるようにしておくことで、不正確な濃度データが算出されるのを防止することができる。
【0095】
図19A及び図19Bに、階調値算出処理(S204)を具体的に説明する図を示す。
図19A及び図19Bの左側には帯状パターンの読み取り画像データが示され、図19A及び図19Bの右側には当該画像データから取得される、測定対象画素列中の第m番目の画素に対する読取階調値が示されている。帯状パターンのX方向(搬送方向)画素数は説明のために実際よりも少なく表現されている(12画素分)。なお、図19Aは測定対象の画素列に異物フラグが設定されない場合であり、図19Bは測定対象の画素列に異物フラグが設定される場合を示している。
【0096】
図19Aにおいては、帯状パターンの測定対象の画素列中(着色部分の画素)にゴミが含まれていないので(同図左側参照)、第1番目から第12番目の全ての画素の読取階調値は全て閾値の範囲内となり(同図右側参照)、異物フラグが設定される画素はない。したがって、第1番目から第12番目の全ての画素の読取階調値の平均が当該画素列の階調値として算出される。
【0097】
一方、図19Bにおいては、帯状パターンの測定対象の画素列中(着色部分の画素)にゴミが含まれているため(同図左側参照)、ゴミを含む第7番目から第9番目の画素のうち、第8番目と第9番目の画素の読取階調値が閾値の範囲外となり(同図右側参照)、当該画素に異物フラグが設定される。したがって、異物フラグの設定されていない第1番目から第7番目の画素、及び、第10番目から第12番目の画素の読取階調値の平均が当該画素列の階調値として算出される。
【0098】
<S205:補正値Hの算出>
前述の(S105)で説明したのと同様に、各列領域に対応する画素列データの階調値を補正する補正値Hが算出される。
算出された補正値Hはメモリー63に記憶され、ユーザーが印刷を行う際に該補正値に基づいて濃度の補正が行われる。濃度補正の方法は、従来例の場合と同様である。
【0099】
<第1実施形態の効果>
第1実施形態の方法によれば、テストパターンに付着したゴミの影響を除去する閾値を自動的に算出することができる。
【0100】
また、テストパターンの印刷と画像データの読み取り時において、ゴミ等の付着していない完全な状態のテストパターンを準備しなくても済み、ユーザーは印刷条件(使用する媒体やスキャナー)が変わるたびにテストパターンを印刷しなおして閾値を算出する等の手間をかけることなく、濃度補正をすることが可能になる。
【0101】
特に、印刷されたテストパターン中の各帯状パターン(各濃度領域)について、該領域に含まれる画素全体の濃度の平均と標準偏差とから閾値を算出しているため、列領域方向(X方向)に沿って付着したゴミの影響を精度良く除去することができる。例えば、テストパターンのある列領域に沿って髪の毛のようなゴミが付着していた場合、その列領域に対応する画素列の読み取り階調値は他のゴミの影響のない画素列と比較して高い値が算出される。一方、閾値はテストパターンの各帯状パターン(各濃度領域)全体の平均濃度と標準偏差とから算出されているため帯状パターン全体としての濃度のバラツキは小さく、算出される閾値の範囲も狭いものとなる。したがって、帯状パターン全体から見て、少しでも濃度が高い(または低い)画素列(ゴミを含む画素列)は検出されやすくなる。
【0102】
===比較例===
前述のように、プリンター1はY方向に複数のヘッドが並び(図4参照)、それぞれのヘッドからインクを噴出することによって画像を印刷している。これらのヘッドは製造時の誤差等によってそれぞれが異なるインク噴出特性を有するため、同じ階調値で印刷を行うつもりでも、ヘッド毎に異なる階調値のドット列(ラスタライン)を形成してしまう場合がある。したがって、前述のテストパターンにおいて同じ濃度領域(帯状パターン)内であってもドット列間で濃度にバラツキが生じることがある。
【0103】
ここで、第1実施形態ではテストパターンの各濃度領域(帯状パターン)の画素全体の階調値を用いて閾値を算出していた。一方で、プリンター1のような複数ヘッドを有する印刷装置では、帯状パターンを構成するドット列間で濃度のバラツキが大きくなる場合があるから、第1実施形態においては標準偏差σallが大きな値となり、前述の(式1)により算出される閾値も大きな値として算出される。その結果、閾値の範囲が広くなるため、階調値の変化が小さい画素は検出されにくくなり、それだけゴミの検出精度が悪くなるおそれがある。
【0104】
そこで、比較例として、濃度のバラツキを小さくなるようにし、閾値の範囲が広くなりすぎないようにする方法について説明する。この比較例では、各帯状パターン中の画素列毎にそれぞれ濃度平均及び標準偏差を求めて閾値を算出する。そして、画素列毎に算出された閾値に基づいて該画素列の階調値(濃度)が算出される。
【0105】
図20に、比較例における補正値H算出のためのフロー図を示す。全体的な流れはほぼ第1実施形態の(S201)〜(S205)と同様であり、(S303)の閾値算出の方法が異なる。以下、(S303)を中心に説明する。
【0106】
<S303:閾値算出>
図21に、比較例における閾値算出のためのフローを示す。まず、測定対象とする帯状パターン毎(同じ指令階調値で形成される濃度領域毎)に全ての画素について読取階調値のデータを取得する(S331)。そして、得られた全画素の読取階調値のうち、第r番目の画素列について平均階調値(平均濃度)Arを取得する(S332)。また、平均階調値Arと各画素の読取階調値とから、第r番目の画素列について階調値(濃度)の標準偏差σrを算出する(S333)。そして、Arとσrとを用いて、第r番目の画素列の階調値(濃度)を算出するための閾値を求める(S334)。すなわち、画素列毎に異なる閾値が求められる。なお、閾値は以下の(式2)により算出される。
閾値=Ar±d×σr・・・(式2)
(式2)中のdは係数であり、(式1)の場合と同様に、印刷する媒体の種類(例えば光沢紙や普通紙)等によって最適な値が決定される。
【0107】
この第r番目の画素列についての閾値を用いて、第r番目の画素列の読取階調値を取得する(S304)。階調値の算出方法は(S204)と同様であり、閾値の範囲外の階調値には異物フラグが設定され、異物フラグが設定されていない画素の階調値の平均値を、第r番目の画素列の階調値とする。その後、(S205)と同様にして、第r番目の画素列の階調値を補正する補正値Hが算出される(S305)。
【0108】
<比較例の効果>
比較例では、濃度補正を行う列領域に対応する画素列毎に、その画素列に含まれるゴミ等を検出する閾値が算出されるため、印刷されたテストパターンの画素列間に濃度のバラツキが生じていても、各画素列についての閾値は適正な値として算出される。つまり、テストパターンの濃度のバラツキが大きいような場合でも、そのようなバラツキの影響を受けることが少ないので、閾値の範囲が大きくなりすぎてゴミの検出精度が下がるというような問題は生じない。これにより、プリンター1のように複数のヘッドからインクを噴出することで画像を形成する印刷装置を用いて印刷を行う際に、正確な濃度補正値Hを算出しやすくなる。
【0109】
一方で、比較例では各画素列について平均階調値(平均濃度)Ar、及び、標準偏差σrを算出して閾値を計算することになるため、第1実施形態と比べて計算量が多くなり、CPU62にかかる負荷が重くなったり、印刷速度が低下したりするおそれがある。
【0110】
また、閾値の算出が画素列毎に完結するため、画素列を構成する画素の数が少ない場合にはゴミの影響が大きくなるという問題がある。例えば、5画素からなる画素列のうち2画素分にゴミが含まれていた場合、その画素列の平均階調値Ar及び標準偏差σrはゴミがない場合と比較して非常に高い値となるため、閾値が必要以上に大きく算出されて、ゴミの検出精度が悪化することが考えられる。
【0111】
===第2実施形態===
第2実施形態では前述の比較例の問題を解消しつつ、複数ヘッドを用いて印刷を行う印刷装置においても濃度のバラツキの影響を最小限に抑えて適正な閾値を算出する。
【0112】
図22に、第2実施形態における補正値H算出のためのフロー図を示す。全体的な流れは第1実施形態の(S201)〜(S205)や比較例の(S301)〜(S305)と同様であり、(S403)の閾値算出の方法が異なる。以下、(S403)を中心に説明する。
【0113】
<S403:閾値算出>
図23に、第2実施形態における閾値算出のためのフローを示す。まず、測定対象とする帯状パターン毎(同じ指令階調値で形成される濃度領域毎)に全ての画素について読取階調値のデータを取得する(S431)。そして、得られた全画素の読取階調値のうち、第r番目の画素列について平均階調値(平均濃度)Arを取得する(S432)。また、全画素の読取階調値から、該濃度領域における平均階調値Aallを算出し、Aallと各画素の読取階調値とから、各画素についての階調値(濃度)の標準偏差σallを算出する(S433)。そして、Arとσallとから第r番目の画素列の階調値(濃度)を算出するための閾値を求める(S334)。なお、閾値は以下の(式3)により算出される。
閾値=Ar±d×σall・・・(式3)
(式3)中のdは係数であり、(式1)の場合と同様に、印刷する媒体の種類(例えば光沢紙や普通紙)等によって最適な値が決定される。
【0114】
つまり、本実施形態では第r番目の画素列の閾値が、濃度領域全体の階調値のバラツキと、は第r番目の画素列の階調値の平均とから算出される(S403)。そして、算出された第r番目の画素列についての閾値を用いて、第r番目の画素列の読取階調値を取得する(S404)。階調値の算出方法は(S204)と同様であり、閾値の範囲外の階調値には異物フラグが設定され、異物フラグが設定されていない画素の階調値の平均値を、第r番目の画素列の階調値とする。その後、(S205)と同様にして、第r番目の画素列の階調値を補正する補正値Hが算出される(S405)。
【0115】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態の方法でも、テストパターンに付着したゴミの影響を除去する閾値を自動的に算出することができる。
【0116】
また、第2実施形態においては、濃度補正を行う列領域に対応する画素列毎にその画素列に対応した閾値が算出される点では比較例と同様であるが、該閾値はテストパターンの帯状パターン全体の階調値の標準偏差と、帯状パターン中の各画素列の平均階調値とから算出される。つまり、閾値の基準となる平均濃度は画素列毎に求められるが、閾値の範囲を定める濃度(階調値)のバラツキはテストパターンの帯状パターン全体から求められる。
【0117】
これにより、帯状パターン中で濃度(階調値)のバラツキが大きくなる場合でも、閾値の基準となる濃度はその画素列の平均濃度であるため、画素列間の濃度のバラツキの影響を受けることが少なく、各画素列についての適正な値として閾値が算出される。したがって、プリンター1のように複数のヘッドからインクを噴出することで画像を形成する印刷装置に対しても、各画素列についてのゴミの検出精度を落とすことなく、正確な濃度補正値Hを算出することができる。
【0118】
また、画素列毎に異なる閾値を算出する必要があるものの、標準偏差σallの計算は1回で済む。そのため、比較例における閾値算出方法よりも大幅に計算量を少なくすることができ、CPU62にかかる負荷が大きくなったり、印刷速度が低下したりする問題は解消する。
【0119】
さらに、画素列中の画素数が少ない場合でも、濃度のバラツキは帯状パターン全体の階調値から算出されるので、比較例のように閾値が大きくなりすぎることはなく、ゴミの検出精度も悪化しにくくなる。
【0120】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0121】
<印刷装置について>
前述の実施形態では、ラテラルスキャンタイプのプリンター1を例に挙げて説明したが、プリンターはヘッドが固定された、いわゆるラインプリンターであってもよいし、ヘッド41をキャリッジとともに移動させるシリアルプリンターであってもよい。
【0122】
<使用するインクについて>
前述の実施形態では、CMYKの4色のインクを使用して記録する例が説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ、ホワイト、クリア等、CMYK以外の色のインクを用いて記録を行ってもよい。
【0123】
<ノズル列の配置について>
ヘッド部のノズル列は搬送方向に沿ってKCMYの順で並んでいたが、これに限られるものではない。例えば、ノズル列の順番が入れ替わっていてもよいし、Kインクのノズル列数が他のインクのノズル列数より多い構成などであってもよい。
【0124】
<プリンタードライバーについて>
プリンタードライバーの処理はプリンター側で行ってもよい。その場合、プリンターとドライバーをインストールしたPCとで印刷装置が構成される。
【符号の説明】
【0125】
1 プリンター、5 原稿、
20 搬送ユニット、21 搬送ローラー、
30 駆動ユニット、31 X軸ステージ、32 Y軸ステージ、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、
50 検出器群、60 コントローラー、
61 インターフェイス部、62 CPU、63 メモリー、
64 ユニット制御回路、110 コンピューター、
120 表示装置、130 入力装置、140 記録再生装置、
150 スキャナー、151 上蓋、152 原稿台ガラス、
153 読取キャリッジ、154 案内部、155 移動機構、
157 露光ランプ、158 ラインセンサー、159 光学系
【技術分野】
【0001】
本発明は、補正値取得方法、補正値取得プログラム、及び、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルから液体を噴出して媒体上に液滴(ドット)を着弾させることで記録を行う印刷装置が知られている。このような印刷装置を用いて印刷が行われる際に、印刷された画像に濃度ムラ(例えば、白スジや黒スジ)が生じ、印刷画像の画質が劣化することがある。
【0003】
濃度ムラが生じた場合は、ドット列(ラスタライン)毎に濃度補正値を取得し、取得された該濃度補正値に基づいてドット列毎の印刷濃度を補正することにより、濃度ムラによる画像劣化の問題を解消することができる(BRS補正)。また、かかる濃度補正値を取得する方法として、媒体(テストシート等)に形成されたテストパターンをスキャナーにより読み取ってテストパターンの画像データを取得し、取得されたテストパターンの画像データにおいて、各ドット列に対応する画素列の濃度に基づいて、ドット列毎に濃度補正値を取得する方法が知られている。
【0004】
しかし、テストパターンを読み取って画像データを取得する際に、該画像データにゴミなどの異物が含まれていると、そのゴミの部分も濃度として検出されてしまい、正確な濃度補正値を得ることが難しくなることがある。そこで、まず、ゴミ等の異物が完全に除去された状態のテストパターンを用意して、該テストパターンを読み取った画像データについて、各ドット列に対応する画素列毎の濃度の最小値及び最大値に基づいて閾値を算出しておく。そして、補正値取得用のテストパターンの画像データを読み取る際に、該閾値を超えた濃度を示した画素をゴミと判別して除去することで、ドット列毎の濃度の読み取り精度を向上させて正確な濃度補正値を得る方法が提案されている。(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−305957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、あらかじめゴミ等の異物が付いていないテストパターンをスキャナーで読み取って閾値を算出するため、該閾値は、テストパターン読み取り時に使用されたスキャナーやテストパターンを印刷した媒体の性質に依存することになる。したがって、スキャナーや被印刷媒体を変更する場合には、その都度ゴミが付いていないテストパターンを印刷しなおして再度閾値を算出する必要があり、正確な濃度補正値を取得するのに手間がかかった。
【0007】
本発明では、テストパターンに付着したゴミ等の異物を除去する閾値を自動的に算出して、ドット列毎の濃度補正を行うための正確な濃度補正値を取得することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための主たる発明は、(A)所定方向に並んだノズル列からインクを噴出することにより、前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されたドット列が前記所定方向に並ぶパターンを媒体上に形成し、(B)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、(C)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、(D)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、ことを特徴とする補正値取得方法である。
【0009】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】記録システムの外観構成を示す図である。
【図2】プリンター1の構成を示すブロック図である。
【図3】図3Aは、本実施形態のプリンターの構成を説明する概略断面図である。図3Bは、本実施形態のプリンターの構成を説明する概略上面図である。
【図4】ヘッドユニットにおけるヘッドの配置を示す図である。
【図5】本実施形態のプリンターが行う印刷方法を説明する図である。
【図6】図6Aは、スキャナー150の概略断面図である。図6Bは、上蓋151を外した状態のスキャナー150の上面図である。
【図7】図7Aは、理想的にドットが形成されたときのラスタラインの様子を説明する図である。図7Bは、濃度ムラが発生したときのラスタラインの様子を説明する図である。
【図8】従来の補正値H算出のためのフロー図である。
【図9】従来例における濃度補正用のテストパターンを示す図である。
【図10】シアンの補正用パターンをスキャナー150で読み取った結果を示す図である。
【図11】図11A及び図11Bは、濃度ムラ補正値Hの具体的な算出方法を示す図である。
【図12】シアンに関する補正値テーブルを示す図である。
【図13】シアンのx番目の列領域に関して各階調値に対応した補正値Hを算出する様子を示す図である。
【図14】図14Aは、テストパターンのある列領域においてゴミが付着していた場合に、その列領域の階調値を表したグラフである。図14Bは、テストパターンのある列領域においてドット抜けが生じていた場合に、その列領域の階調値を表したグラフである。
【図15】所定の閾値を用いて不良画素を特定する方法を説明する図である。
【図16】第1実施形態における補正値Hを算出するためのフローを示す図である。
【図17】第1実施形態における閾値を算出するためのフローを示す図である。
【図18】第1実施形態における階調値を算出するためのフローを示す図である。
【図19】図19Aは、測定対象の画素列に異物フラグが設定されない場合における階調値算出処理を説明する図である。図19Bは、測定対象の画素列に異物フラグが設定される場合における階調値算出処理を説明する図である。
【図20】比較例における補正値Hを算出するためのフローを示す図である。
【図21】比較例における閾値を算出するためのフローを示す図である。
【図22】第2実施形態における補正値Hを算出するためのフローを示す図である。
【図23】第2実施形態における閾値を算出するためのフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0012】
(A)所定方向に並んだノズル列からインクを噴出することにより、前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されたドット列が前記所定方向に並ぶパターンを媒体上に形成し、(B)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、(C)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、(D)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、ことを特徴とする補正値取得方法。
このような補正値取得方法によれば、テストパターンに付着したゴミ等の異物を除去する閾値を自動的に算出して、ドット列毎の濃度補正を行うための正確な濃度補正値を取得することができる。
【0013】
かかる補正値取得方法であって、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の平均値と、から前記閾値が算出されることが望ましい。
このような補正値取得方法によれば、テストパターン上に前記交差方向に沿ってゴミが付着していた場合でも、そのようなゴミを精度良く検出し、正確な濃度補正値を算出することができる。
【0014】
かかる補正値取得方法であって、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列についての濃度の平均値と、から、前記画素列毎に前記閾値が算出されることが望ましい。
このような補正値取得方法によれば、テストパターン中の同じ濃度領域部分で実際の読み取り濃度にバラツキが生じていた場合でも、正確な濃度補正値を算出することができる。
【0015】
かかる補正値取得方法であって、前記ノズル列を有するヘッドを複数用いて、前記パターンを形成することが望ましい。
このような補正値取得方法によれば、複数ヘッドを備える印刷装置を用いて印刷を行う場合でも、正確な濃度補正値を算出することができる。
【0016】
また、(A)メモリーに記憶され、所定方向に並んだノズル列から噴出されるインクによって前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されるドット列について、それぞれのドット列に対応する補正値を取得する補正値取得プログラムであって、(B)前記ドット列が前記所定方向に並ぶパターンを前記媒体上に形成させ、(C)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、(D)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、(E)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、ことを特徴とする補正値取得プログラムが明らかとなる。
このような補正値取得プログラムによれば、テストパターンに付着したゴミ等の異物を除去する閾値を自動的に算出して、ドット列毎の濃度補正を行うための正確な濃度補正値を取得することができる。
【0017】
かかる補正値取得プログラムであって、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の平均値と、から前記閾値を算出することが望ましい。
このような補正値取得プログラムによれば、テストパターン中の同じ濃度領域部分で実際の読み取り濃度にバラツキが生じていた場合でも、正確な濃度補正値を算出することができる。
【0018】
かかる補正値取得プログラムであって、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列についての濃度の平均値と、から、前記画素列毎に前記閾値を算出することが望ましい。
このような補正値取得プログラムによれば、テストパターン上に前記交差方向に沿ってゴミが付着していた場合でも、そのようなゴミを精度良く検出し、正確な濃度補正値を算出することができる。
【0019】
また、(A)所定方向に並んだノズル列を有し、媒体上にインクを噴出することによりドットを形成するヘッド部と、(B)前記ヘッド部を制御する制御部であって、前記媒体上に前記所定方向と交差する交差方向に沿ったドット列が該所定方向に並ぶパターンを形成させ、形成された前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、ことを特徴とする、制御部と、を備える印刷装置が明らかとなる。
このような印刷装置によれば、テストパターンに付着したゴミ等の異物を除去する閾値を自動的に算出して、ドット列毎の濃度補正を行うための正確な濃度補正値を取得することができる。
【0020】
===記録システムの基本的構成===
<全体構成>
図1は、記録システムの外観構成を示した説明図である。本実施形態における記録システムは、プリンター1と、コンピューター110と、表示装置120と、入力装置130と、記録再生装置140と、スキャナー150とを備えている。プリンター1は、紙、布、フィルム等の媒体に画像を記録する印刷装置である。コンピューター110は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1に画像を印刷させるため、印刷させる画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。
【0021】
コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタードライバーは、表示装置120にユーザーインターフェイスを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどの記録媒体(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)に記録されている。または、このプリンタードライバーは、インターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
【0022】
<プリンター1の構成>
発明を実施するための印刷装置の形態として、インクジェットプリンター(プリンター1)を例に挙げて説明する。
図2に、プリンター1の構成を表すブロック図を示す。また、図3Aに、プリンター1の概略断面図を、図3Bに、プリンター1の概略上面図を示す。
プリンター1は、搬送ユニット20と、駆動ユニット30と、ヘッドユニット40と、検出器群50と、コントローラー60と、を有する。コントローラー60は、印刷装置制御部であるコンピューター110から受信した印刷データに基づいて各ユニットを制御し、媒体に画像を印刷する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は検出器群50から出力された検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0023】
<搬送ユニット20>
搬送ユニット20は、媒体S(例えば紙など)を所定の方向(以下、搬送方向という)の上流側から下流側に搬送させるためのものである。搬送モーター(不図示)によって駆動する搬送ローラー21により、印刷前のロール状の媒体Sを印刷領域に供給し、その後、印刷済みの媒体Sを巻取機構によりロール状に巻き取ったり、適当な長さにカッティングして排出したりする。搬送モーターの動作はプリンター側のコントローラー60により制御される。なお、印刷中の印刷領域では、媒体Sが下からバキューム吸着され、媒体Sは所定の位置に保持される。
【0024】
<駆動ユニット30>
駆動ユニット30は、ヘッドユニット40を、搬送方向に対応するX方向と、媒体Sの紙幅方向(搬送方向と直交する方向)に対応するY方向とに自在に移動させるものである。駆動ユニット30は、ヘッドユニット40をX方向に移動させるX軸ステージ31と、X軸ステージ31をY方向に移動させるY軸ステージ32と、これらを移動させるモーター(不図示)とで、構成されている。
【0025】
<ヘッドユニット40>
ヘッドユニット40は、紙Sにインクを噴出して画像を形成するためのものであり、複数のヘッド41を有する。ヘッド41の下面には、インク噴射部であるノズルが複数設けられ、各ノズルにはインクが入ったインク室が設けられている。
【0026】
このヘッドユニット40はX軸ステージ31に設けられ、X軸ステージ31がX方向(搬送方向)に移動すると、ヘッドユニット40もX方向に移動する。そして、ヘッドユニット40がX方向(搬送方向)を移動中にノズルからインクを断続的に噴出することによって、X方向に沿ったドットライン(ラスタライン)が媒体S上に形成される。その後、ヘッドユニット40は、Y軸ステージ32により、X軸ステージ31を介してY方向(紙幅方向)に移動し、その後、再び、ヘッドユニット40がX方向に移動しながら印刷を行う。
【0027】
このように、ヘッドユニット40のX方向への移動によりラスタラインを形成する動作と、ヘッドユニット40のY方向への移動を繰り返すことで、印刷領域の媒体Sに画像を印刷することができる。印刷領域に供給された媒体Sに画像を印刷する動作(画像形成動作)と、搬送ユニット20により媒体Sを搬送方向に搬送して新たな媒体S部分を印刷領域に供給する動作(搬送動作)とを、交互に繰り返すことで連続媒体Sに多数の画像を印刷する。
【0028】
図4は、ヘッドユニット40における複数のヘッド41の配置を示す図である。なお、実際にはヘッドユニット40の下面にノズル面が形成されるが、図4は上面からノズルを仮想的に見た図である(以下の図も同様)。
【0029】
Y方向(紙幅方向)に多数のノズルが並ぶことで、ヘッドユニット40のX方向(搬送方向)への1回の移動により、大きな幅の画像を印刷することができる。そうすることで、印刷の高速化を図れる。ただし、製造上の問題により長尺のヘッドを形成することが出来ない。そこで、プリンター1では、複数の短尺ヘッド41(1)〜41(n)をY方向に並べて配置する。図4に示されるように複数のヘッド41はベースプレートBPに取り付けられている。
【0030】
各ヘッド41のノズル面には、ブラックインクを噴射するブラックノズル列Kと、シアンインクを噴射するシアンノズル列Cと、マゼンタインクを噴射するマゼンタノズル列Mと、イエローインクを噴射するイエローノズル列Yとが形成されている。各ノズル列はノズルを180個ずつ備え、180個のノズルはY方向に一定のノズルピッチ(180dpi)で整列している。図示するようにY方向の奥側のノズルから順に小さい番号を付す(#1〜#180)。
【0031】
また、Y方向に隣り合う2つのヘッド(例えば41(1)と41(2))のうちの奥側のヘッド41(1)の最も手前側のノズル#180と、手前側のヘッド41(2)の最も奥側のノズル#1との間隔も一定の間隔(180dpi)となっている。つまり、ヘッドユニット40の下面では、ノズルがY方向に一定のノズルピッチ(180dpi)で並んでいることになる。なお、図3に示すように、異なるヘッド41の端部ノズルの間隔を180dpiにするためには、ヘッド41の構造上の問題により、ヘッド41を千鳥状に配置する必要がある。また、異なるヘッド41の端部ノズルが重複していてもよい。
【0032】
<検出器群50>
検出器群50には、ロータリー式エンコーダーや、リニア式エンコーダー(共に不図示)などが含まれる。ロータリー式エンコーダーは搬送ローラー21の回転量を検出し、その検出結果に基づいて媒体の搬送量が検出される。リニア式エンコーダーは、X軸ステージ31やY軸ステージ32の移動方向の位置を検出する。
【0033】
<コントローラー60>
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラー60は、インターフェイス部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64とを有する(図2)。
【0034】
インターフェイス部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンター1の全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子によって構成される。そして、CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して搬送ユニット20等の各ユニットを制御する。
【0035】
<プリンター1の印刷動作について>
図5は、本実施形態のプリンター1が行う印刷方法を説明する図である。図中では説明の簡略のため、ヘッドユニット40においてY方向(紙幅方向)に並ぶノズル数を10個と少なくしている。ヘッドユニット40がX方向へ移動しながら画像を形成する1回の動作を「パス」と呼ぶ。ここではプリンター1は4回のパスで画像を完成し、あるパスで形成されたラスタライン(X方向(搬送方向)に沿うドット列)の間に別のパスのラスタラインを形成する。そうすることで、Y方向の印刷解像度をノズルピッチ(180dpi)よりも高くすることができ、高画質な画像を印刷できる。
【0036】
具体的に説明すると、まず、パス1にてヘッドユニット40をX方向に移動させながら10個のラスタライン(黒丸)を形成する。その後、Y軸ステージ32によってヘッドユニット40をY方向の手前側に所定量f移動する。そして、パス2にて再びヘッドユニット40をX方向に移動させながら10個のラスタライン(白丸)を形成する。このとき、パス1で形成されたラスタラインよりも搬送方向の奥側にパス2のラスタラインが形成されるように、ヘッドユニットを所定量fでY方向に移動する。このように、ヘッドユニット40をX方向に移動してラスラインを形成する動作と、ヘッドユニット40をY方向に所定量fで移動する動作を繰り返すことによって、画像が完成する。
【0037】
なお、図5に示す印刷方法では、紙幅方向の奥側および手前側ではラスタライン間の埋まらない領域がある。そのため、ラスタライン間に隙間が生じない領域を、プリンター1がX方向に印刷可能な画像幅とする。
また、以下の説明のため、「画素領域」と「列領域」を設定する。「画素領域」とは媒体S上に仮想的に定められた矩形状の領域を指し、印刷解像度に応じて大きさが決定する。媒体S上の1つの「画素領域」と画像データ上の1つの「画素データ」が対応する。また、「列領域」とはX方向に並ぶ複数の画素領域によって構成される領域である。「列領域」は、画像データ上の複数の画素データがX方向に対応する方向に沿って並ぶ「画素列データ」と対応する。
【0038】
Y方向の奥側の列領域から順に小さい番号を付す。例えば、図5に示す印刷方法では、パス3のノズル#1に形成されたラスタライン(点線)を1番目の列領域に形成されるラスタラインとする。2番目の列領域に形成されるラスタラインはパス2のノズル#2に形成され、3番目の列領域に形成されるラスタラインはパス1の3番目のノズル#3に形成される。また、7番目の列領域に形成されるラスタラインはパス1の4番目のノズル#4に形成され、8番目の列領域に形成されるラスタラインはパス4の2番目のノズル#2に形成される。このことから、本実施形態の印刷方法では、同じ2番目のノズル#2にて形成される列領域であっても、隣接する列領域にラスタラインを形成するノズルが同じノズルになるとは限らないことが分かる。
【0039】
<スキャナー150の構成>
スキャナー150は、プリンター1により印刷された画像を読取って画像データを取得する画像入力装置である。
【0040】
図6Aに、スキャナー150の断面図を示す。図6Bに、上蓋151を外した状態のスキャナー150の上面図を示す。
スキャナー150は、上蓋151と、原稿5(例えば、プリンター1によって画像が印刷された媒体S)が置かれる原稿台ガラス152と、この原稿台ガラス152を介して原稿5と対面しつつ副走査方向に移動する読取キャリッジ153と、読取キャリッジ153を副走査方向に案内する案内部154と、読取キャリッジ153を移動させるための移動機構155と、スキャナー150内の各部を制御するスキャナーコントローラ(不図示)とを備えている。読取キャリッジ153には、原稿5に光を照射する露光ランプ157と、主走査方向(図6Aにおいて紙面に垂直な方向)のラインの像を検出する読み取り部の一例としてのラインセンサー158と、原稿5からの反射光をラインセンサー158へ導くための光学系159とが設けられている。図中の読取キャリッジ153の内部の破線は、光の軌跡を示している。
【0041】
===濃度ムラの説明===
<バンディングについて>
インクジェットプリンターで印刷を行う場合に、インクを噴出するノズル列の加工精度のばらつき等により、形成されたラスタラインの濃度にムラが生じることがある。このような濃度ムラが発生すると、印刷面に筋状の模様が形成されたように見え(バンディング)、印刷画像の画質が劣化する。
ここでは、「濃度ムラ」について説明する。なお、説明の簡略化のために単色印刷された画像中に生じる濃度ムラの発生原因について説明する。
【0042】
図7Aに、理想的にドットが形成されたとき(濃度ムラが発生していないとき)の様子の説明図を示す。同図では、理想的にドットが形成されているので、各ドットは破線で区切られた画素領域内に正確に形成され、ラスタラインは列領域に沿って規則正しく形成される。各列領域には、その領域の着色に応じた濃度の画像片が形成されている。ここでは、説明の簡略化のため、ドット生成率が50%となるような一定濃度の画像を印刷するものとする。
【0043】
次に、図7Bに、濃度ムラが発生したときの説明図を示す。本図では、ノズルから噴出されたインク滴が、噴出後に曲がって飛翔する等の原因により、図7Aにおいて2番目の列領域に形成されていたラスタラインが3番目の列領域側に寄って形成されている。その結果、2番目の列領域の濃度は淡くなり、3番目の列領域の濃度は濃くなる。一方、5番目の列領域に噴出されたインク滴のインク量は規定量よりも少なく、5番目の列領域に形成されるドットが小さくなっている。その結果、5番目の列領域の濃度は淡くなる。
【0044】
このように濃淡の違う列領域からなる画像を巨視的に見ると、ラスタライン形成方向(本実施形態においてはX方向)に沿う縞状の濃度ムラが視認される。本実施形態では、この濃度ムラを補正することを目的としている。
【0045】
<濃度ムラの補正方法>
濃度ムラによって生じる縞状の模様を解消するために、濃く視認されやすい列領域に対しては、淡く画像片が形成されるように、その列領域に対応する画素データの示す階調値を補正する。逆に、淡く視認されやすい列領域に対しては、濃く画像片が形成されるように、その列領域に対応する画素データの示す階調値を補正する。
【0046】
ここで、図7Bにおいて、3番目の列領域に形成される画像片の濃度が濃くなる理由は、3番目の列領域にラスタラインを形成するノズルの影響によるものではなく、隣接する2番目の列領域にラスタラインを形成するノズルの影響によるものである。このため、3番目の列領域にラスタラインを形成するノズルが別の列領域にラスタラインを形成する場合、その列領域に形成される画像片が濃くなるとは限らない。前述のように、あるノズルに割り当てられる列領域に隣接する列領域が、毎回同じノズルによって形成されるとは限らないからである。
【0047】
つまり、同じノズルにより形成された画像片であっても、隣接するラスタラインを形成するノズルが異なれば、濃度が異なる場合がある。このような場合、単にノズルに対応付けた補正値では、濃度ムラを抑制することができない。そこで、本実施形態では、列領域ごと(画素列データごと)に濃度ムラ補正値Hを設定する。
【0048】
なお、濃度ムラはノズルの加工精度等の問題により発生するため、列領域ごと(画素列データごと)の補正値Hは、プリンター1ごとに算出される。以下、補正値Hの算出方法について説明する。
【0049】
===従来の補正値算出方法===
まず、従来例として、一般的な補正値Hの算出方法について説明する。
図8に、従来の方法により補正値Hを算出するためのフロー図を示す。
プリンター1を用いてS101〜S105のステップを順番に実施することにより、各列領域についての補正値Hが算出される。算出された補正値Hはプリンター1のメモリー63に記憶され、実際の印刷時には記憶された補正値Hを用いて濃度補正が行われる。なお、各ステップはコンピューター110にインストールされた補正用プログラムによって実現される。
【0050】
<S101:テストパターンの印刷>
図9は、従来例における濃度補正用のテストパターンを示す図である。該テストパターンは3種類の濃度の帯状パターンから構成される。帯状パターンはそれぞれ一定の階調値の画像データから生成されたものであり、X方向(搬送方向)に沿ったドット列がY方向(紙幅方向)に複数並ぶことにより形成される。
【0051】
帯状パターンを形成するための階調値を指令階調値と呼び、濃度30%の帯状パターンの指令階調値をSa(76)、濃度50%の帯状パターンの指令階調値をSb(128)、濃度70%の帯状パターンの指令階調値をSc(179)と表す。なお、高い階調値が濃い濃度を示し、低い階調値が淡い濃度を示すとする。
【0052】
1つの帯状パターンは、図5に示す印刷方法において、ヘッドユニット40が有するノズルにて4回のパスで形成されるラスタラインで構成される。そして、色ごと(ブラック,マゼンタ,シアン,イエロー)に対応する補正値Hを算出するため、色ごとに補正用パターンが形成される。
【0053】
<S102:テストパターンの読取>
印刷されたテストパターンは、検査者によってスキャナー150にセットされる。そして、コンピューター110はスキャナー150に該テストパターンを読み取らせ、画像データとして取得する。テストパターンの読み取りは、スキャナー150のラインセンサー158を副走査方向に移動させながら該ラインセンサー158によって主走査方向のラインを読み取ることで、画像データが取得される。
【0054】
このときの読取解像度は2880dpi(X方向)×2880dpi(Y方向)であり、画像データはX方向とY方向の2次元に並ぶ画素の画素データから構成されることになる。また、画像データを構成する各画素データは256階調の階調値を有する。
【0055】
<S103:階調値の取得>
テストパターンから得られた画像データについて列領域毎に読取階調値を取得する。
図10は、シアンの補正用パターンをスキャナー150で読み取った結果である。図10のグラフでは、横軸を列領域番号とし、縦軸を各列領域の読取階調値とする。
【0056】
以下、図10に示すシアンの読取結果を例に挙げて説明する。そして、色ごとの補正用パターンの読取階調値を取得した後、帯状パターンごとに(指令階調値ごとに)、スキャナー150の読取データにおける画素列データ(データ上でX方向に対応する方向に並ぶ複数の読取画素)と、補正用パターンにおける1つの列領域(ラスタライン)を、一対一で対応させる。その後、帯状パターンごとに、各列領域の濃度を算出する。ある列領域に対応する画素列データに属する各画素データの読取階調値の平均値を、その列領域の読取階調値とする。
【0057】
各帯状パターンは、それぞれの指令階調値で一様に形成されたにも関わらず、図10に示すように列領域ごとに読取階調値にばらつきが生じる。例えば、図10のグラフにおいて、i列領域の読取階調値Cbiは他の列領域の読取階調値よりも低く、j列領域の読取階調値Cbjは他の列領域の読取階調値よりも高い。即ち、i列領域は淡く視認され、j列領域は濃く視認される。このような各列領域の読取階調値のばらつきが、印刷画像の濃度ムラである。
【0058】
<S104:補正値Hの算出>
濃度ムラを改善するために、列領域ごとの読取階調値のばらつきを低減させる。すなわち、各列領域の読取階調値を一定の値に近づける。そのために、同一の指令階調値(例えばSb・濃度50%)において、全列領域の読取階調値の平均値Cbtを「目標値Cbt」として設定する。そして、指令階調値Sbにおける各列領域の読取階調値を目標値Cbtに近づけるように、各列領域に対応する画素列データの示す階調値を補正する。
【0059】
具体的には、図10において目標値Cbtよりも読取階調値の低い列領域iに対応する画素列データの示す階調値を、指令階調値Sbよりも濃い階調値に補正する。一方、目標値Cbtよりも読取階調値の高い列領域jに対応する画素列データの示す階調値を、指令階調値Sbよりも淡い階調値に補正する。このように、同一の階調値に対して、全列領域の濃度を一定の値に近づけるために、各列領域に対応する画素列データの階調値を補正する補正値Hを算出する。
【0060】
図11A及び図11Bは、濃度ムラ補正値Hの具体的な算出方法を示す図である。まず、図11Aは目標値Cbtよりも読取階調値の低いi列領域において、指令階調値(例Sb)における目標指令階調値(例Sbt)を算出する様子を示す。横軸が階調値を示し、縦軸がテストパターン結果における読取階調値を示す。グラフ上には、指令階調値(Sa,Sb,Sc)に対する読取階調値(Cai,Cbi,Cci)がプロットされている。例えば指令階調値Sbに対してi列領域が目標値Cbtにて表されるための目標指令階調値Sbtは次式(直線BCに基づく線形補間)により算出される。
Sbt=Sb+{(Sc−Sb)×(Cbt−Cbi)/(Cci−Cbi)}
【0061】
同様に、図11Bに示すように、目標値Cbtよりも読取階調値の高いj列領域において、指令階調値Sbに対してj列領域が目標値Cbtにて表されるための目標指令階調値Sbtは次式(直線ABに基づく線形補間)により算出される。
Sbt=Sa+{(Sb−Sa)×(Cbt−Caj)/(Cbj−Caj)}
こうして、指令階調値Sbに対する各列領域の目標指令階調値Sbtが算出される。そうして、次式により、各列領域の指令階調値Sbに対するシアンの補正値Hbを算出する。同様にして、他の指令階調値(Sa,Sc)に対する補正値Ha,Hc、及び、他の色に対する補正値も算出する。
Hb=(Sbt−Sb)/Sb
【0062】
図12は、シアンに関する補正値テーブルを示す図である。ここで、前述のように、本実施形態の印刷方法では4回のパスでn個のラスタラインが形成されるとする。そのため、4回のパスでラスタラインが形成されるn個の列領域ごとに補正値Hが算出される。そして、図12に示す補正値テーブルでは、1番目からn番目の列領域の補正値Hが設定されている。このような補正値テーブルを、他の色に関しても作成する。そうして、この補正値Hテーブルを算出するための補正用パターンを印刷したプリンター1のメモリー63に記憶させる。
【0063】
<濃度補正処理について>
実際に印刷を行う際には、プリンタードライバーはプリンター1に対してメモリー63に記憶されている補正値Hをコンピューター110に送信するように要求する。プリンタードライバーは、プリンター1から送信される補正値Hをコンピューター110内のメモリーに記憶する。
【0064】
図13は、シアンのx番目の列領域に関して各階調値に対応した補正値Hを算出する様子を示す図である。横軸を補正前の階調値S_inとし、縦軸を補正前の階調値S_inに対応した補正値H_outとする。コンピューター110にインストールされたプリンタードライバーは、ユーザーからの印刷命令を受けると印刷データを生成し、印刷データをプリンター1に送信する。まず、プリンタードライバーは、ユーザーの印刷命令と共に各種アプリケーションソフトから画像データを受信すると、その画像データを印刷解像度に応じた解像度に変換し、プリンター1が有するインクの色YMCKに応じて色変換する。
【0065】
そして、プリンタードライバーは、YMCKの各色についての256階調のデータに対して補正値Hを用いて濃度補正処理を行う。即ち、画像データを構成する各画素データの256階調の階調値(補正前の階調値S_in)を、色ごと、及び、その画素データに対応する列領域ごとに設定された補正値Hによって補正する。
【0066】
補正前の階調値S_inが指令階調値のいずれかSa,Sb,Scと同じであれば、各指令階調値に対応した補正値Hであってコンピューター110のメモリーに記憶されている補正値Ha,Hb,Hcをそのまま用いることができる。例えば、補正前の階調値S_in=Scであれば、補正後の階調値S_outは次式により求められる。
S_out=Sc×(1+Hc)
【0067】
補正前の階調値S_inが指令階調値と異なる場合、補正前の階調値S_inに応じた補正値H_outを算出する。例えば、図13に示すように補正前の階調値S_inが指令階調値SaとSbの間であるとき、指令階調値Saの補正値Haと指令階調値Sbの補正値Hbの線形補間によって次式により補正値H_outを算出し、補正後の階調値S_outを算出する。
H_out=Ha+{(Hb−Ha)×(S_in−Sa)/(Sb−Sa)}
S_out=S_in×(1+H_out)
【0068】
なお、補正前の階調値S_inが指令階調値Saよりも小さい場合には、最低階調値0と指令階調値Saの線形補間により補正値H_outを算出し、補正前の階調値S_inが指令階調値Scよりも大きい場合には、最高階調値255と指令階調値Scの線形補間によって補正値H_outを算出する。
【0069】
こうして、色ごと、画素データが属する列領域ごと、階調値ごとに設定された補正値Hによって、256階調の画素データの示す階調値S_inが補正される。そうすることで、濃度が淡く視認される列領域に対応する画素データの階調値S_inは濃い階調値S_outに補正され、濃度が濃く視認される列領域に対応する画素データの示す階調値S_inは淡い階調値S_outに補正される。その結果、印刷画像に発生する濃度むらを低減することができる。
【0070】
そして、プリンタードライバーは、補正後の256階調の画素データ(S_out)をハーフトーン処理によって、プリンター1が形成可能なドットの種類に応じた4階調の画素データに変換する。例えば、3種類のドット(大ドット・中ドット・小ドット)が形成可能なプリンターであれば、8ビットの256階調のデータがハーフトーン処理によって2ビットの4階調のデータに変換される。例えば、「大ドット形成」を示す画素データは「11」に変換され、「中ドット形成」を示す画素データは「10」に変換され、「小ドット形成」を示す画素データは「01」に変換され、「ドット無し」を示す画素データは「00」に変換される。
【0071】
最後に、ラスタライズ処理によって、ハーフトーン処理されたマトリクス状の画像データをプリンター1に転送すべきデータごとに並べ替え、コマンドデータなどと共に印刷データとしてプリンター1に送信される。プリンター1は印刷データを受信すると、その印刷データに基づいて印刷を行う。
【0072】
===テストパターンにゴミが付着していた場合について===
以上に説明したように、テストパターンを印刷して各列領域について補正値Hを求めておき、印刷時に該補正値Hに基づいて濃度を補正することにより、印刷画像に発生する縞状の濃度ムラを低減させることができる。
【0073】
一方、この方法では、スキャナー150によって印刷されたテストパターンを読み取った画像データ上に不良画素があると、その不良画素を含む列領域における読取階調値の平均値が正確に算出されないという問題がある。ここで、不良画素とはその画素に形成されるべきドットの階調値が正しく表示されていない画素であり、例えば、画像読み取り時においてテストパターン上にゴミが付着していた場合や、テストパターンのラスタラインを構成するドット列にドット抜けが生じていた場合に発生する。
【0074】
図14Aは、テストパターンのある列領域においてゴミが付着していた場合に、そのゴミを含む列領域の読取階調値を表したグラフである。図14Aの上側に表されるグラフの横軸は、列領域における画素のX方向の位置を示している。縦軸は、画素の階調値を示している。実線のグラフは、各画素の読取階調値を示している。点線のグラフは、この画素列の画素データ(読取階調値)の平均値を示している。また、図14Aの下側の図はその列領域に対応する画素列と、画素列中に含まれるゴミの様子を表している。
【0075】
図14Aに示されるように、列領域内でゴミが含まれる画素では局所的に非常に高い読取階調値が示されるため、該列領域全体での階調値の平均値は、ゴミがない場合の通常の平均値(≒指令階調値S)よりも高くなってしまう。指令階調値Sに対してゴミの影響で平均値が高くなった列領域では、ゴミの影響のない他の列領域と比較してその列領域だけ極端な濃度ムラが発生しているものと認識され、必要以上に大きな補正値Hが算出されてしまうことになる。
【0076】
図14Bは、ドット抜けが生じていた場合に、その列領域における読取階調値を表したグラフである。
ドット抜けが生じた列領域では、前述の場合とは逆に該列領域における画素データの平均値が指令階調値Sと比べて低くなってしまう。したがって、ドット抜けの影響のない他の列領域と比較してその列領域だけ極端な濃度ムラが発生しているものと認識され、不正確な補正値Hが算出されてしまう。
【0077】
このように、不良画素(ごみの画像を示す画素やドット抜けの画像を示す画素等)が列領域内にあると、その列領域における画素データの平均値が影響をうけてしまい、正確な濃度補正値Hを算出することができなくなる。
【0078】
<ゴミの影響を除去する方法>
ゴミ等の影響を除去して正確な補正値を得るために、所定の閾値を適用して不良画素を特定し、列領域において特定された不良画素以外の画素データを用いて階調値の平均値を算出する方法が有効である。
【0079】
図15は、所定の閾値を用いて不良画素を特定する方法を説明する図である。グラフの横軸は、列領域における画素のX方向の位置を示している。縦軸は、画素の階調値を示している。実線のグラフは各画素の読取階調値を示しており、破線は閾値を示している。
【0080】
はじめに、ゴミ等が付着していない状態のテストパターン(以下、基準テストパターンとも呼ぶ)を用意して、該基準テストパターンをスキャナー150で読み取って、不良画素を含まない状態の画像データを取得する。次に、コンピューター110は列領域に含まれる全画素の平均値を算出し、該平均値を基準とした所定の閾値を取得する。そして、該平均値を中心とする閾値の範囲を正常範囲と設定する。
【0081】
実際の濃度補正時には、濃度補正対象のテストパターンの画像データに対して、列領域毎に読取階調値が該正常範囲内に含まれているかを判別し、この正常範囲外となる画素データは不良画素として特定される。図15においては斜線で示される範囲が正常範囲外であり、この部分の画素が不良画素として特定され画素データが除去される。そして、除去された以外の残りの画素データからその列領域について濃度(階調値)の平均値が算出される。
算出された平均値に基づいて列領域毎の濃度補正値Hを算出することにより、不良画素の影響が軽減された正確な濃度補正値Hを得ることが出来る。
【0082】
ところで、算出される閾値は、該基準テストパターンが印刷された媒体や、基準テストパターンを読み取る際に使用されたスキャナー150の個体性能(例えば読み取り時のズレの発生等)の影響を受けるため、閾値算出環境に依存した値であるといえる。つまり、スキャナー150以外の異なるスキャナーを用いる場合や被印刷媒体を変更する場合には、同じ閾値を用いても不良画素の画素データを正確に除去できない場合がある。
このような場合には、新たに閾値を算出し直す必要があり、そのためには、ゴミやドット抜けのない完全な状態の基準テストパターンを再度準備しなくてはならない。
【0083】
本実施形態のプリンター1では、印刷を行うユーザー自身の操作により濃度補正値Hを算出することを想定している。前述の方法によると、ユーザーが印刷の用途に応じてスキャナーや媒体を変更する度に、基準テストパターンを準備し、適正な閾値を算出し直して正確な濃度補正値Hを取得する必要が生じることになり、現実的ではない。
【0084】
===第1実施形態===
第1実施形態では、印刷されたテストパターン(ゴミが付着しているものでも可能である)から閾値を自動的に算出することにより、正確な濃度補正値Hを取得する。閾値を自動的に算出することができるため、前述のようなユーザーの手間を省くことができる。
【0085】
図16に第1実施形態における補正値H算出のためのフロー図を示す。
まず、テストパターンを印刷し(S201)、スキャナー150で読み取って画像データを取得する(S202)。そして、画像データの各列領域についての閾値を算出する(S203)。算出された閾値に基づいて、各列領域について不良画素を特定し、不良画素以外の画素データを用いて階調値の平均を求め(S204)、列領域毎の濃度補正値Hを算出する(S206)。
【0086】
以下、各ステップについて説明する。なお、各ステップはコンピューター110にインストールされた補正用プログラムによって実現される。
【0087】
<S201:テストパターンの印刷>
本実施形態では、図9に示した濃度補正用のテストパターンとほぼ同一のものを使用することができる。すなわち、それぞれ3種類の指令階調値(濃度30%の帯状パターンの指令階調値をSa(76)、濃度50%の帯状パターンの指令階調値をSb(128)、濃度70%の帯状パターンの指令階調値をSc(179)と表す)からなる帯状のパターンから構成される。該テストパターンはイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色についてそれぞれ印刷され、各色についての補正値が算出されることになる。
【0088】
<S202:テストパターンの読取>
(S102)で説明したのと同様に、(S201)で印刷されたテストパターンは、スキャナー150によって読み取られ、画像データとして取得される。このときの読取解像度は2880dpi(X方向)×2880dpi(Y方向)であり、画像データはX方向とY方向の2次元に並ぶ画素の画素データから構成されることになる。また、画像データを構成する各画素データは256階調の階調値を有する。
【0089】
なお、画像データを取得する手段としてスキャナー150を用いるのではなく、デジタルカメラ等他の手段を用いて画像を読み取ることも可能である。
【0090】
<S203:閾値算出>
テストパターンを読み取った画像データ(画素データ)から、不良画素を特定するための閾値を算出する。
【0091】
図17に、本実施形態における閾値算出のためのフローを示す。まず、測定対象とする帯状パターン毎(同じ指令階調値の濃度領域毎)に全ての画素について読取階調値のデータを取得する(S231)。例えば、図9の濃度50%の帯状パターン(指令階調値Sb=128)について、全画素の読取階調値を調べ、メモリー63に記憶する。そして、得られた全画素の読取階調値からその濃度領域全体についての平均階調値(平均濃度)Aallを取得する(S232)。また、平均階調値Aallと各画素の読取階調値とから、濃度領域全体についての階調値(濃度)の標準偏差σallを算出する(S233)。そして、Aallとσallとから閾値を算出する(S234)。なお、閾値は以下の(式1)により算出される。
閾値=Aall±d×σall・・・(式1)
(式1)中のdは係数であり、印刷する媒体の種類(例えば光沢紙や普通紙)等によって最適な値が決定される。
【0092】
<S204:階調値算出>
テストパターンから得られた画像データについて、テストパターンの列領域に対応する画素列毎に読取階調値を取得する。このとき、(S203)で算出された閾値を用いてゴミを検出し、ゴミが検出された画素以外の画素データを利用して該画素列の読取階調値(濃度)を算出する。
【0093】
図18に、本実施形態における階調値算出のためのフローを示す。
まず、算出対象となる所定の列領域に対応する画素列について、当該画素列の第m番目の画素の読取階調値(濃度)を取得する(S241)。第m番目の画素の読取階調値と閾値とを比較して(S242)、読取階調値が閾値の範囲外である場合は第m番目の画素に異物フラグを設定し(S243)、閾値の範囲内である場合はそのまま読取階調値をメモリー63に記憶する。続いて、第m番目の画素がその画素列中の最終画素であるか否かが判断され(S244)、最終画素でない場合は次の画素に進む(S245)。すなわち、第m+1番目の画素について読取階調値を取得するように働く。そして、(S241)〜(S245)のステップが第1番目の画素から当該画素列の最後の画素まで繰り返される。当該画素列中の全画素について読取階調値を取得したら、異物フラグが設定された画素以外の読取階調値を平均して、その画素列における階調値とする(S246)。
【0094】
なお、テストパターン上のある列領域に大きなゴミが付着していた場合には、対応する画素列中で異物フラグの設定される画素が多くなり、当該列領域の平均濃度が正確に検出できないことがある。このような場合には、画素列を構成する画素のうち50%以上の画素に異物フラグが設定されたときはエラー表示や警告を発するようにして、画素列濃度の計算を停止させるようにしておくことで、不正確な濃度データが算出されるのを防止することができる。
【0095】
図19A及び図19Bに、階調値算出処理(S204)を具体的に説明する図を示す。
図19A及び図19Bの左側には帯状パターンの読み取り画像データが示され、図19A及び図19Bの右側には当該画像データから取得される、測定対象画素列中の第m番目の画素に対する読取階調値が示されている。帯状パターンのX方向(搬送方向)画素数は説明のために実際よりも少なく表現されている(12画素分)。なお、図19Aは測定対象の画素列に異物フラグが設定されない場合であり、図19Bは測定対象の画素列に異物フラグが設定される場合を示している。
【0096】
図19Aにおいては、帯状パターンの測定対象の画素列中(着色部分の画素)にゴミが含まれていないので(同図左側参照)、第1番目から第12番目の全ての画素の読取階調値は全て閾値の範囲内となり(同図右側参照)、異物フラグが設定される画素はない。したがって、第1番目から第12番目の全ての画素の読取階調値の平均が当該画素列の階調値として算出される。
【0097】
一方、図19Bにおいては、帯状パターンの測定対象の画素列中(着色部分の画素)にゴミが含まれているため(同図左側参照)、ゴミを含む第7番目から第9番目の画素のうち、第8番目と第9番目の画素の読取階調値が閾値の範囲外となり(同図右側参照)、当該画素に異物フラグが設定される。したがって、異物フラグの設定されていない第1番目から第7番目の画素、及び、第10番目から第12番目の画素の読取階調値の平均が当該画素列の階調値として算出される。
【0098】
<S205:補正値Hの算出>
前述の(S105)で説明したのと同様に、各列領域に対応する画素列データの階調値を補正する補正値Hが算出される。
算出された補正値Hはメモリー63に記憶され、ユーザーが印刷を行う際に該補正値に基づいて濃度の補正が行われる。濃度補正の方法は、従来例の場合と同様である。
【0099】
<第1実施形態の効果>
第1実施形態の方法によれば、テストパターンに付着したゴミの影響を除去する閾値を自動的に算出することができる。
【0100】
また、テストパターンの印刷と画像データの読み取り時において、ゴミ等の付着していない完全な状態のテストパターンを準備しなくても済み、ユーザーは印刷条件(使用する媒体やスキャナー)が変わるたびにテストパターンを印刷しなおして閾値を算出する等の手間をかけることなく、濃度補正をすることが可能になる。
【0101】
特に、印刷されたテストパターン中の各帯状パターン(各濃度領域)について、該領域に含まれる画素全体の濃度の平均と標準偏差とから閾値を算出しているため、列領域方向(X方向)に沿って付着したゴミの影響を精度良く除去することができる。例えば、テストパターンのある列領域に沿って髪の毛のようなゴミが付着していた場合、その列領域に対応する画素列の読み取り階調値は他のゴミの影響のない画素列と比較して高い値が算出される。一方、閾値はテストパターンの各帯状パターン(各濃度領域)全体の平均濃度と標準偏差とから算出されているため帯状パターン全体としての濃度のバラツキは小さく、算出される閾値の範囲も狭いものとなる。したがって、帯状パターン全体から見て、少しでも濃度が高い(または低い)画素列(ゴミを含む画素列)は検出されやすくなる。
【0102】
===比較例===
前述のように、プリンター1はY方向に複数のヘッドが並び(図4参照)、それぞれのヘッドからインクを噴出することによって画像を印刷している。これらのヘッドは製造時の誤差等によってそれぞれが異なるインク噴出特性を有するため、同じ階調値で印刷を行うつもりでも、ヘッド毎に異なる階調値のドット列(ラスタライン)を形成してしまう場合がある。したがって、前述のテストパターンにおいて同じ濃度領域(帯状パターン)内であってもドット列間で濃度にバラツキが生じることがある。
【0103】
ここで、第1実施形態ではテストパターンの各濃度領域(帯状パターン)の画素全体の階調値を用いて閾値を算出していた。一方で、プリンター1のような複数ヘッドを有する印刷装置では、帯状パターンを構成するドット列間で濃度のバラツキが大きくなる場合があるから、第1実施形態においては標準偏差σallが大きな値となり、前述の(式1)により算出される閾値も大きな値として算出される。その結果、閾値の範囲が広くなるため、階調値の変化が小さい画素は検出されにくくなり、それだけゴミの検出精度が悪くなるおそれがある。
【0104】
そこで、比較例として、濃度のバラツキを小さくなるようにし、閾値の範囲が広くなりすぎないようにする方法について説明する。この比較例では、各帯状パターン中の画素列毎にそれぞれ濃度平均及び標準偏差を求めて閾値を算出する。そして、画素列毎に算出された閾値に基づいて該画素列の階調値(濃度)が算出される。
【0105】
図20に、比較例における補正値H算出のためのフロー図を示す。全体的な流れはほぼ第1実施形態の(S201)〜(S205)と同様であり、(S303)の閾値算出の方法が異なる。以下、(S303)を中心に説明する。
【0106】
<S303:閾値算出>
図21に、比較例における閾値算出のためのフローを示す。まず、測定対象とする帯状パターン毎(同じ指令階調値で形成される濃度領域毎)に全ての画素について読取階調値のデータを取得する(S331)。そして、得られた全画素の読取階調値のうち、第r番目の画素列について平均階調値(平均濃度)Arを取得する(S332)。また、平均階調値Arと各画素の読取階調値とから、第r番目の画素列について階調値(濃度)の標準偏差σrを算出する(S333)。そして、Arとσrとを用いて、第r番目の画素列の階調値(濃度)を算出するための閾値を求める(S334)。すなわち、画素列毎に異なる閾値が求められる。なお、閾値は以下の(式2)により算出される。
閾値=Ar±d×σr・・・(式2)
(式2)中のdは係数であり、(式1)の場合と同様に、印刷する媒体の種類(例えば光沢紙や普通紙)等によって最適な値が決定される。
【0107】
この第r番目の画素列についての閾値を用いて、第r番目の画素列の読取階調値を取得する(S304)。階調値の算出方法は(S204)と同様であり、閾値の範囲外の階調値には異物フラグが設定され、異物フラグが設定されていない画素の階調値の平均値を、第r番目の画素列の階調値とする。その後、(S205)と同様にして、第r番目の画素列の階調値を補正する補正値Hが算出される(S305)。
【0108】
<比較例の効果>
比較例では、濃度補正を行う列領域に対応する画素列毎に、その画素列に含まれるゴミ等を検出する閾値が算出されるため、印刷されたテストパターンの画素列間に濃度のバラツキが生じていても、各画素列についての閾値は適正な値として算出される。つまり、テストパターンの濃度のバラツキが大きいような場合でも、そのようなバラツキの影響を受けることが少ないので、閾値の範囲が大きくなりすぎてゴミの検出精度が下がるというような問題は生じない。これにより、プリンター1のように複数のヘッドからインクを噴出することで画像を形成する印刷装置を用いて印刷を行う際に、正確な濃度補正値Hを算出しやすくなる。
【0109】
一方で、比較例では各画素列について平均階調値(平均濃度)Ar、及び、標準偏差σrを算出して閾値を計算することになるため、第1実施形態と比べて計算量が多くなり、CPU62にかかる負荷が重くなったり、印刷速度が低下したりするおそれがある。
【0110】
また、閾値の算出が画素列毎に完結するため、画素列を構成する画素の数が少ない場合にはゴミの影響が大きくなるという問題がある。例えば、5画素からなる画素列のうち2画素分にゴミが含まれていた場合、その画素列の平均階調値Ar及び標準偏差σrはゴミがない場合と比較して非常に高い値となるため、閾値が必要以上に大きく算出されて、ゴミの検出精度が悪化することが考えられる。
【0111】
===第2実施形態===
第2実施形態では前述の比較例の問題を解消しつつ、複数ヘッドを用いて印刷を行う印刷装置においても濃度のバラツキの影響を最小限に抑えて適正な閾値を算出する。
【0112】
図22に、第2実施形態における補正値H算出のためのフロー図を示す。全体的な流れは第1実施形態の(S201)〜(S205)や比較例の(S301)〜(S305)と同様であり、(S403)の閾値算出の方法が異なる。以下、(S403)を中心に説明する。
【0113】
<S403:閾値算出>
図23に、第2実施形態における閾値算出のためのフローを示す。まず、測定対象とする帯状パターン毎(同じ指令階調値で形成される濃度領域毎)に全ての画素について読取階調値のデータを取得する(S431)。そして、得られた全画素の読取階調値のうち、第r番目の画素列について平均階調値(平均濃度)Arを取得する(S432)。また、全画素の読取階調値から、該濃度領域における平均階調値Aallを算出し、Aallと各画素の読取階調値とから、各画素についての階調値(濃度)の標準偏差σallを算出する(S433)。そして、Arとσallとから第r番目の画素列の階調値(濃度)を算出するための閾値を求める(S334)。なお、閾値は以下の(式3)により算出される。
閾値=Ar±d×σall・・・(式3)
(式3)中のdは係数であり、(式1)の場合と同様に、印刷する媒体の種類(例えば光沢紙や普通紙)等によって最適な値が決定される。
【0114】
つまり、本実施形態では第r番目の画素列の閾値が、濃度領域全体の階調値のバラツキと、は第r番目の画素列の階調値の平均とから算出される(S403)。そして、算出された第r番目の画素列についての閾値を用いて、第r番目の画素列の読取階調値を取得する(S404)。階調値の算出方法は(S204)と同様であり、閾値の範囲外の階調値には異物フラグが設定され、異物フラグが設定されていない画素の階調値の平均値を、第r番目の画素列の階調値とする。その後、(S205)と同様にして、第r番目の画素列の階調値を補正する補正値Hが算出される(S405)。
【0115】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態の方法でも、テストパターンに付着したゴミの影響を除去する閾値を自動的に算出することができる。
【0116】
また、第2実施形態においては、濃度補正を行う列領域に対応する画素列毎にその画素列に対応した閾値が算出される点では比較例と同様であるが、該閾値はテストパターンの帯状パターン全体の階調値の標準偏差と、帯状パターン中の各画素列の平均階調値とから算出される。つまり、閾値の基準となる平均濃度は画素列毎に求められるが、閾値の範囲を定める濃度(階調値)のバラツキはテストパターンの帯状パターン全体から求められる。
【0117】
これにより、帯状パターン中で濃度(階調値)のバラツキが大きくなる場合でも、閾値の基準となる濃度はその画素列の平均濃度であるため、画素列間の濃度のバラツキの影響を受けることが少なく、各画素列についての適正な値として閾値が算出される。したがって、プリンター1のように複数のヘッドからインクを噴出することで画像を形成する印刷装置に対しても、各画素列についてのゴミの検出精度を落とすことなく、正確な濃度補正値Hを算出することができる。
【0118】
また、画素列毎に異なる閾値を算出する必要があるものの、標準偏差σallの計算は1回で済む。そのため、比較例における閾値算出方法よりも大幅に計算量を少なくすることができ、CPU62にかかる負荷が大きくなったり、印刷速度が低下したりする問題は解消する。
【0119】
さらに、画素列中の画素数が少ない場合でも、濃度のバラツキは帯状パターン全体の階調値から算出されるので、比較例のように閾値が大きくなりすぎることはなく、ゴミの検出精度も悪化しにくくなる。
【0120】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0121】
<印刷装置について>
前述の実施形態では、ラテラルスキャンタイプのプリンター1を例に挙げて説明したが、プリンターはヘッドが固定された、いわゆるラインプリンターであってもよいし、ヘッド41をキャリッジとともに移動させるシリアルプリンターであってもよい。
【0122】
<使用するインクについて>
前述の実施形態では、CMYKの4色のインクを使用して記録する例が説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ、ホワイト、クリア等、CMYK以外の色のインクを用いて記録を行ってもよい。
【0123】
<ノズル列の配置について>
ヘッド部のノズル列は搬送方向に沿ってKCMYの順で並んでいたが、これに限られるものではない。例えば、ノズル列の順番が入れ替わっていてもよいし、Kインクのノズル列数が他のインクのノズル列数より多い構成などであってもよい。
【0124】
<プリンタードライバーについて>
プリンタードライバーの処理はプリンター側で行ってもよい。その場合、プリンターとドライバーをインストールしたPCとで印刷装置が構成される。
【符号の説明】
【0125】
1 プリンター、5 原稿、
20 搬送ユニット、21 搬送ローラー、
30 駆動ユニット、31 X軸ステージ、32 Y軸ステージ、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、
50 検出器群、60 コントローラー、
61 インターフェイス部、62 CPU、63 メモリー、
64 ユニット制御回路、110 コンピューター、
120 表示装置、130 入力装置、140 記録再生装置、
150 スキャナー、151 上蓋、152 原稿台ガラス、
153 読取キャリッジ、154 案内部、155 移動機構、
157 露光ランプ、158 ラインセンサー、159 光学系
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)所定方向に並んだノズル列からインクを噴出することにより、前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されたドット列が前記所定方向に並ぶパターンを媒体上に形成し、
(B)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、
(C)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、
(D)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、
ことを特徴とする補正値取得方法。
【請求項2】
請求項1に記載の補正値取得方法であって、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の平均値と、
から前記閾値が算出されることを特徴とする補正値取得方法。
【請求項3】
請求項1に記載の補正値取得方法であって、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、
前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列についての濃度の平均値と、
から、前記画素列毎に前記閾値が算出されることを特徴とする補正値取得方法。
【請求項4】
請求項3に記載の補正値取得方法であって、
前記ノズル列を有するヘッドを複数用いて、前記パターンを形成することを特徴とする補正値取得方法。
【請求項5】
(A)メモリーに記憶され、
所定方向に並んだノズル列から噴出されるインクによって前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されるドット列について、
それぞれのドット列に対応する補正値を取得する補正値取得プログラムであって、
(B)前記ドット列が前記所定方向に並ぶパターンを前記媒体上に形成させ、
(C)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、
(D)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、
(E)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、
ことを特徴とする補正値取得プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の補正値取得プログラムであって、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の平均値と、
から前記閾値を算出することを特徴とする補正値取得プログラム。
【請求項7】
請求項5に記載の補正値取得プログラムであって、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、
前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列についての濃度の平均値と、
から、前記画素列毎に前記閾値を算出することを特徴とする補正値取得プログラム。
【請求項8】
(A)所定方向に並んだノズル列を有し、媒体上にインクを噴出することによりドットを形成するヘッド部と、
(B)前記ヘッド部を制御する制御部であって、
前記媒体上に前記所定方向と交差する交差方向に沿ったドット列が該所定方向に並ぶパターンを形成させ、
形成された前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、
前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、
前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、
ことを特徴とする、制御部と、
を備える印刷装置。
【請求項1】
(A)所定方向に並んだノズル列からインクを噴出することにより、前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されたドット列が前記所定方向に並ぶパターンを媒体上に形成し、
(B)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、
(C)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、
(D)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、
ことを特徴とする補正値取得方法。
【請求項2】
請求項1に記載の補正値取得方法であって、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の平均値と、
から前記閾値が算出されることを特徴とする補正値取得方法。
【請求項3】
請求項1に記載の補正値取得方法であって、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、
前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列についての濃度の平均値と、
から、前記画素列毎に前記閾値が算出されることを特徴とする補正値取得方法。
【請求項4】
請求項3に記載の補正値取得方法であって、
前記ノズル列を有するヘッドを複数用いて、前記パターンを形成することを特徴とする補正値取得方法。
【請求項5】
(A)メモリーに記憶され、
所定方向に並んだノズル列から噴出されるインクによって前記所定方向と交差する交差方向に沿って形成されるドット列について、
それぞれのドット列に対応する補正値を取得する補正値取得プログラムであって、
(B)前記ドット列が前記所定方向に並ぶパターンを前記媒体上に形成させ、
(C)前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、
(D)前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、
(E)前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、
ことを特徴とする補正値取得プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の補正値取得プログラムであって、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の平均値と、
から前記閾値を算出することを特徴とする補正値取得プログラム。
【請求項7】
請求項5に記載の補正値取得プログラムであって、
前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差と、
前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列についての濃度の平均値と、
から、前記画素列毎に前記閾値を算出することを特徴とする補正値取得プログラム。
【請求項8】
(A)所定方向に並んだノズル列を有し、媒体上にインクを噴出することによりドットを形成するヘッド部と、
(B)前記ヘッド部を制御する制御部であって、
前記媒体上に前記所定方向と交差する交差方向に沿ったドット列が該所定方向に並ぶパターンを形成させ、
形成された前記パターンを読み取った画像データにおいて、前記パターンに対応する画素全体についての濃度の標準偏差を用いて所定の閾値を算出し、
前記パターンのそれぞれのドット列に対応する画素列を構成する画素のうち、濃度が前記閾値の範囲内である画素のデータを用いて、前記画素列毎に濃度を算出し、
前記画素列毎に算出された前記濃度に基づいて、前記パターンのそれぞれのドット列に対応する補正値を取得する、
ことを特徴とする、制御部と、
を備える印刷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図9】
【図14】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図9】
【図14】
【図19】
【公開番号】特開2011−218632(P2011−218632A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88913(P2010−88913)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]