説明

補聴器

【課題】 安全性が高く、軽量で、環境負荷の少ない補聴器を提供する。
【解決手段】 コイン形非水電解液二次電池を有することを特徴とする補聴器である。上記コイン形非水電解液二次電池としては、リチウムイオン電池が好ましく、チタン酸リチウムを含有する正極と、炭素材料を含有する負極とを有する電池が更に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補聴器に関し、さらに詳しくは、軽量で、安全性が高く、環境負荷の少ない補聴器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、補聴器には、その電源として、一般に空気電池が使用されている(例えば、特許文献1〜2)。空気電池は、負極に亜鉛を用いており、正極には空気中の酸素を利用するため、正極を電池内に装填する必要がないことから、電池サイズの割りに大きな容量を確保できるという利点がある。
【0003】
ところで、補聴器は、その利用者のうち、老人の割合が比較的多いなどの理由から、煩雑な電池交換作業の回数を可及的に低減させることが好ましい。このような観点から、比較的高容量の空気電池の使用が一般的であるが、いかに容量が大きな空気電池とはいえ、電池交換作業自体の回避は不可能である。さらに、空気電池の負極に用いられている亜鉛は、水銀を含有しているため、廃棄時における環境への負荷の問題もある。
【0004】
以上のような事情から、空気電池のような一次電池ではなく、充電可能な二次電池を電源とする補聴器の要請が高まっている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−222294号公報
【特許文献2】特開平9−215098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、ニッケル−水素吸蔵合金電池(以下、「ニッケル水素電池」という)を電源として補聴器を構成する試みがなされている。従来の補聴器に用いられている空気電池は、電圧が1.4V付近にあるが、ニッケル水素電池も電圧が1.4V付近であるため、補聴器の回路構成の変更をせずとも代替できるという利点がある。
【0007】
しかしながら、ニッケル水素電池は、アルカリ水溶液を電解液としており、こうした水溶液系電池に特有の現象であるアルカリ電解液の漏液の可能性がある。補聴器のうち、耳かけ形や耳穴形のものなどは、人体に直接密着させて使用するものであり、アルカリ電解液の漏液が生じた場合には、人体への悪影響が大きい。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安全性が高く、軽量で、環境負荷の少ない補聴器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成し得た本発明の補聴器は、コイン形非水電解液二次電池を有することを特徴とするものである。なお、電池業界においては、高さより径の方が大きい扁平形電池をコイン形電池と呼んだり、ボタン形電池と呼んだりしているが、そのコイン形電池とボタン形電池との間に明確な差はなく、本発明に係るコイン形電池も、ボタン形電池と呼ばれるものを排除しているわけではなく、そのようなボタン形電池と呼ばれる電池も、本発明に係るコイン形電池の範囲内に含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の補聴器では、漏液の問題が少ないコイン形非水電解液二次電池を電源として有しているため、安全性に優れており、また、充電が可能であることから電池の交換が実質的に不要であり、使用済み電池の廃棄による環境負荷も極めて小さい。更に、コイン形非水電解液二次電池は、非常に小型で軽量のものでも高容量とできるため、本発明の補聴器では、軽量化も達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
補聴器は、通常、音声入力手段(マイクなど)、音声増幅手段(アンプなど)、および音声出力手段(スピーカーなど)、更には、入力した音声の音質調整手段や、出力音声が大きすぎないように制御する出力制御手段などの構成要素を有している。本発明に係るコイン形非水電解液電池は、補聴器を構成するこれらの各種要素を駆動させるための電源として用いられる。
【0012】
補聴器の形態としては、本体を外耳に挿入して使用する耳穴形、耳介に引っ掛けて使用する耳かけ形、眼鏡に補聴器機能を持たせた眼鏡形、箱形などがあるが、本発明はいずれの形態も採り得る。ただし、コイン形電池といった小形の電池が特に要求される形態である耳穴形、耳かけ形、眼鏡形の形態である場合に、より本発明の効果が有効であり、中でも、特に小形であることが要求される耳穴形の場合に非常に有効である。
【0013】
図1および図2に、本発明の補聴器の一例(耳穴形)を示す。図1は補聴器を概略的に示す斜視図であり、10は補聴器、11は補聴器本体、12は電池収納部蓋、13はボリュームつまみ、14はマイク、15は取り出しワイヤ、16はスピーカーである。この補聴器10を使用する際には、スピーカー16側から耳穴に挿入し、使用後は、取り出しワイヤ15を引っ張って耳穴から取り出す。マイク14で拾われた音声は、補聴器本体11に内蔵されている音声増幅手段や音質調整手段によって、その音量、音質が調整されてスピーカー16から中耳に向けて発される。また、調整後の音量が大きすぎるときには、補聴器本体11に内蔵されている出力制御手段によってスピーカー16への伝達が遮断される。また、ボリュームつまみ13は補聴器本体11内の音声増幅手段と接続されており、このボリュームつまみ13によって音量を調節できる。
【0014】
図2は、図1の補聴器の電池収納部蓋12を開けた様子を概略的に示す斜視図である。電池収納部蓋12の内側には電池保持手段が備えられており(図示しない)、コイン形非水電解液二次電池18が保持されている。17は電池収納部であり、内部に電池の接続端子など、電池から電気を取り出す手段が配置されている(図示しない)。
【0015】
なお、補聴器の形状や構造は、図1および図2に示すものに限定されず、例えば、電源のオン・オフ用のスイッチ、電池充電用の端子などを有していてもよい。また、各構成要素の配置も、図1や図2のものに限定されず、適宜変更してもよい。
【0016】
また、図3および図4に、本発明の補聴器の他の例(耳かけ形)を示す。図3は、補聴器を概略的に示す斜視図であり、20は補聴器、21は補聴器本体、22は電池収納部、23はボリュームつまみ、24はマイク、25は耳かけ用のフック、27はスイッチ、29は回動軸である。フック25の先端にはイヤホンジャックが設けられており、音声出力手段であるイヤホンを接続できるようになっている。この補聴器20を使用する際には、フック25の先端にイヤホンを接続し、スイッチ27をオンにし、フック25を耳介に引っ掛け、イヤホンを外耳に挿入する。補聴器20の内部構成は、図1に示す耳穴形補聴器と同様で、ボリュームつまみ23は、補聴器本体21に内蔵されている音声増幅手段と接続されており、このボリュームつまみ23によって出力音量を制御できる。
【0017】
図4は、図3の補聴器の電池収納部22を開けた様子を概略的に示す部分側面図である。電池収納部22内には電池保持手段が備えられており(図示しない)、コイン形非水電解液二次電池28が一部外側に突出した状態で保持されている。そして、補聴器本体21の電池収納部22側端の内部には、電池の接続端子など、電池から電気を取り出す手段が配置されている(図示しない)。
【0018】
耳かけ形補聴器の場合でも、その形状や構造は、図3や図4で示したものに限定されず、他の構成要素(例えば、音質調整つまみ、電池充電用の端子など)が備えられていてもよい。また、ボリュームつまみ23やマイク24、スイッチ27などの配置も、図3や図4のものに限定されず、適宜変更してもよい。
【0019】
なお、本発明の補聴器では、その電源となるコイン形非水電解液二次電池が内蔵されており、更には、該電池が封入されていることが推奨される。従来の補聴器で汎用されている空気電池では、正極に空気内の酸素を利用するために、補聴器内に空気を取り込むための空気穴が必要である。ところが、補聴器は人体に直接触れるようにして使用されるため、汗などの水分が空気穴から補聴器内に侵入して、悪影響を及ぼすことがある。従来の補聴器では、このような空気穴から侵入する水分を如何に排除するかが問題となっており、ちなみに、上記の特許文献1〜2に開示の技術は、かかる水分によって派生する問題の回避を課題とするものである。
【0020】
ところが、本発明の補聴器は、コイン形非水電解液二次電池を電源として有するものであり、空気電池のように空気を利用する構成ではない(構成の詳細は後述する)。このため、空気穴を設けることは不要であり、電池を封入することができる。よって、従来の補聴器における空気穴の存在による問題を回避することができる。
【0021】
なお、水分の侵入による問題をより高度に回避する観点からは、例えば、図1に示す形態の補聴器においては電池収納部蓋12と補聴器本体11とが、また、図3に示す形態の補聴器では電池収納部22と補聴器本体21とが、樹脂製やゴム製などのパッキングを介して嵌め合わせる構成などの防水手段を有していることが好ましい。更に、これらいずれの形態の補聴器においても、ボリュームつまみ13、23や、スイッチ27と、補聴器本体11、21との間には、パッキング(Oリングなど)などの防水手段によって防水されていることが望ましい。
【0022】
なお、本発明の補聴器が有する電池は、上記の通り、二次電池であり、充電が可能なものである。充電の方式としては、接触式と非接触式があり、本発明ではいずれの方式を採用してもよい。ただし、接触式の場合、補聴器外部に充電用の端子が必要になる。この端子に汗などの水分が付着すると、腐食してしまう虞があることから、本発明では、非接触式の充電方式を採用することが望ましい。具体的には、発振回路と、この発振回路に接続された一次コイルを備えた充電器に、二次コイルと二次コイルの出力を電池に供給する整流平滑回路を備えた補聴器を設置し、充電器の一次コイルを交流発振させることにより、電磁誘導により二次コイルに交流電流を発生させて、非接触の充電が可能となる。
【0023】
本発明の補聴器が有するコイン形非水電解液二次電池としては、軽量で、安全性が高いことから、リチウムイオン電池が好適である。
【0024】
また、上記コイン形非水電解液二次電池は、電圧が1.4V付近であることが望ましい。従来の補聴器で使用されている空気電池は電圧が1.4V付近であるため、その互換性が高く、補聴器の回路などについては、従来と同様の構成を採用できるからである。
【0025】
電圧が1.4V付近のリチウムイオン電池としては、例えば、チタン酸リチウムを含有する正極と炭素材料を含有する負極を有する「チタン酸リチウム−炭素電池」;マンガン酸リチウムを含有する正極とチタン酸リチウムを含有する負極を有する「マンガン酸リチウム−チタン酸リチウム電池」;チタン酸リチウムを含有する正極とケイ素酸化物を含有する負極を有する「チタン酸リチウム−ケイ素酸化物電池」;などが挙げられる。
【0026】
上記「チタン酸リチウム−炭素電池」の正極は、活物質として、一般式LiTiで示されるチタン酸リチウムを含有するものである。なお、上記一般式において、xとyがそれぞれ、0.8≦x≦1.4、1.6≦y≦2.2の化学量論数を持つものが好ましく、特にx=1.33、y=1.67の化学量論数を持つもの(具体的には、LiTi12)が好ましい。このようなチタン酸リチウムは、例えば、酸化チタンとリチウム化合物とを760〜1100℃で熱処理することによって得られる。上記酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型のいずれも使用可能であり、リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酸化リチウムなどを用いることができる。
【0027】
チタン酸リチウム−炭素電池の正極としては、上記一般式で表されるチタン酸リチウムと導電助剤とバインダーとを混合して調製した正極合剤を加圧成形してなるものが好ましい。上記導電助剤としては、例えば、鱗片状黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラックなどが用いられる。特にケッチェンブラックは、他の導電助剤に比べて導電性を向上させる効果が大きいために好ましい。また、バインダーとしては、フッ素樹脂が好適に用いられ、具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。
【0028】
正極を構成する各成分の組成比、つまり正極合剤の組成比としては、例えば、正極活物質である上記一般式で表されるチタン酸リチウムが70〜90質量%で、導電助剤が5〜20質量%、バインダーが1〜10質量%であることが好ましい。
【0029】
また、チタン酸リチウム−炭素電池の負極は、活物質として炭素材料を含有するのである。炭素材料としては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、低結晶性カーボン(非晶質カーボンを含む)、コークス、無煙炭などが用いられる。特に人造黒鉛は、他の炭素材料に比べて大きな容量を期待できるので好ましい。この他、電池において、放電初期から放電終了までの期間における安定した電圧勾配を得ることができことから、非晶質カーボンを用いることも推奨される。
【0030】
上記の非晶質カーボンとしては、例えば、非晶質コークス、フェノール樹脂から得られる非晶質炭素材料などが好適なものとして挙げられる。そして、この非晶質カーボンの物性としては、例えば、(002)面の面間隔が0.3〜0.5nm、真密度が1.2〜2.0g/cm2好ましい。すなわち、非晶質カーボンの(002)面の面間隔が上記のような値であり、また、非晶質カーボンの真密度が上記のような値であれば、放電初期から放電終了までの期間における電圧勾配が特に安定的であり、更に、カーボン内の不純物量も少なく、電池特性が特に良好となる。
【0031】
チタン酸リチウム−炭素電池の負極は、上記の炭素材料とバインダーなどを含む負極合剤を適宜の手段で成形することによって得られる。例えば、上記負極合剤を加圧成形するか、または上記負極合剤を溶媒に分散させて負極合剤含有ペーストを調製し、その負極合剤含有ペーストを集電体としての作用を兼ねる基材に塗布し、乾燥する工程を経ることによって作製される。ただし、負極の作製方法は、上記例示の方法に限られることなく、他の方法によってもよい。なお、バインダーには、PVDF、PTFEなどのフッ素樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが好適である。
【0032】
上記のように、負極を負極合剤の加圧成形体で構成する場合、負極合剤の組成としては、負極活物質の炭素材料が80〜95質量%で、バインダーが5〜20質量%であることが好ましい。
【0033】
なお、チタン酸リチウム−炭素電池の場合には、正負極がモビリティとなるリチウムを持たないため、充放電に使用し得るリチウムを別途導入する。このリチウムは、例えば金属リチウム箔を、正極または負極に貼り付けることにより、導入することができる。
【0034】
上記「マンガン酸リチウム−チタン酸リチウム電池」の正極は、活物質としてマンガン酸リチウム(LiMnO)を含有するものである。この正極としては、例えば、正極活物質であるマンガン酸リチウムに、導電助剤とバインダーとを混合して調製した正極合剤を加圧成形してなるものが好ましい。導電助剤およびバインダーとしては、チタン酸リチウム−炭素電池の正極で例示したものと同じ導電助剤やバインダーが使用できる。また、この正極を正極合剤の加圧成形体とする場合、正極合剤の組成としては、例えば、正極活物質である上記一般式で表されるチタン酸リチウムが70〜90質量%で、導電助剤が5〜20質量%、バインダーが1〜10質量%であることが好ましい。
【0035】
マンガン酸リチウム−チタン酸リチウム電池の負極は、活物質として、上記の、チタン酸リチウム−炭素電池の正極活物質と同じチタン酸リチウム(上記一般式で示され、好ましくは、xおよびyが上記の化学量論数を有するもの)を含有するものであり、このような負極の具体例としては、上記の、チタン酸リチウム−炭素電池の正極と同じものが挙げられる。
【0036】
上記「チタン酸リチウム−ケイ素酸化物電池」の正極は、活物質として、上記の、チタン酸リチウム−炭素電池の正極活物質と同じチタン酸リチウム(上記一般式で示され、好ましくは、xおよびyが上記の化学量論数を有するもの)を含有するものであり、このような負極の具体例としては、上記の、チタン酸リチウム−炭素電池の正極と同じものが挙げられる。
【0037】
チタン酸リチウム−ケイ素酸化物電池の負極は、活物質として、一般式SiO(0<o<2)で表されるケイ素酸化物、または、一般式LiSiO(1.5≦p≦4、0<q<2)で表されるケイ素酸化物を含有するものである。一般式LiSiOで示されるケイ素酸化物は、ケイ素の単体またはケイ素含有化合物とリチウム単体またはリチウム含有化合物とを、不活性雰囲気下や真空下などの非酸化性雰囲気下において、またはケイ素とリチウムと酸素の量を制御した環境下で、熱処理を行うことで得られる。このような負極としては、例えば、負極活物質であるケイ素酸化物に、導電助剤とバインダーとを混合して調製した負極合剤を加圧成形してなるものが好ましい。導電助剤およびバインダーとしては、チタン酸リチウム−炭素電池の正極で例示したものと同じ導電助剤やバインダーが使用できる。
【0038】
なお、チタン酸リチウム−ケイ素酸化物電池が、上記の一般式SiOで示されるケイ素酸化物を活物質に含有する負極を有する場合には、正負極がモビリティとなるリチウムを持たないため、充放電に使用し得るリチウムを別途導入する。このリチウムは、例えば金属リチウム箔を、正極または負極に貼り付けることにより、導入することができる。
【0039】
なお、上記コイン形非水電解液二次電池は、補聴器の特性上、高容量であり且つ重負荷特性に優れていることが好ましい。このような観点から、上記の電圧が1.4V付近のコイン形非水電解液二次電池の中でも、チタン酸リチウム−炭素電池、またはマンガン酸リチウム−チタン酸リチウム電池がより好ましく、更に、電池質量を低減して補聴器をより軽量とするには、チタン酸リチウム−炭素電池が特に好ましい。また、これらの各種電池は、1種個単独で使用してもよいが、2種個以上を組み合わせて並列若しくは直列に構成した組電池として使用しても構わない。
【0040】
本発明に係るコイン形非水電解液二次電池の構造を、図5を参照しつつ説明する。図5は、本発明に係るコイン形非水電解液二次電池の一例を概略的に示す断面図である。図5中、31は正極、32は負極、33はセパレータ、34は正極缶、35は負極缶、36は環状ガスケットである。また、図5の電池には、電解液が注入されている(図示しない)。
【0041】
図5のコイン形非水電解液二次電池では、正極31およびセパレータ33を内填した正極缶34の開口部に、負極32を内填した負極缶35が、断面L字状の環状ガスケット36を介して嵌合しており、正極缶34の開口端部が内方に締め付けられ、これにより環状ガスケット36が負極缶35に当接することで、正極缶34の開口部が封口されて電池内部が密閉構造となっている。すなわち、図5のコイン形非水電解液二次電池では、正極缶34、負極缶35および環状ガスケット36により形成される空間(密閉空間)に、正極31、負極32およびセパレータ33を含む発電要素が装填されている。
【0042】
なお、正極缶34の内面と正極31との接触面や、負極缶35の内面と負極32との接触面は、導電性接着剤で接着されていることが望ましい。導電性接着剤としては、例えば、カーボンペースト、銀ペーストなどを用いることができる。コスト面からは、カーボンペーストがより好ましい。このカーボンペーストは、例えば、黒鉛を水ガラスと分散剤を用いて水中に分散させたものであり、水ガラスが空気中の二酸化炭素との反応により接着剤としての役割を果たすようになる。
【0043】
正極缶34や負極缶35としては、例えば、ステンレス鋼製のものや、鉄製で表面をニッケルメッキしたものなどが好ましい。
【0044】
セパレータ33としては、例えば、ポリプロピレン製の不織布や微孔性フィルムが使用できる。
【0045】
環状ガスケット36としては、例えば、ポリプロピレン製のものやナイロン(ナイロン66など)製のものの他、耐熱用には、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂製のものを用いることができる。
【0046】
また、コイン形非水電解液二次電池の電解液には、上記の電池の種類によらず、有機溶媒にリチウム塩を溶解させることによって調製した有機電解液が使用される。電解液を構成する有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの非環状カーボネート;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジメトキシプロパン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;などを1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。特に環状カーボネートと非環状カーボネートとを含む2種以上の混合溶媒が好ましい。
【0047】
電解液のリチウム塩質としては、例えば、LiN(CFSO、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCFCO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(CFCFSOなどが挙げられる。中でも、LiN(CFSO、LiPF、LiCFSO、LiBFなどは、伝導率が高く、熱的に安定であることから、特に好適に用いられる。これらのリチウム塩の電解液中の濃度は、特に限定されるものではないが、通常、0.1〜2mol/l程度が好ましく、特に0.4〜2mol/l程度が好ましい。
【0048】
このようなコイン形非水電解液二次電池のサイズは特に限定されず、補聴器で要求されるサイズに合わせればよいが、電池サイズが小さいほど、補聴器も小型化できることから好ましい。具体的には、電池外径が、好ましくは8mm以下、より好ましくは6mm以下であり、このようなサイズであれば、より小型であることが要求される耳穴形の補聴器にも十分に対応できる。他方、電池サイズをあまり小さくしすぎると、電池容量が小さくなってしまうことから、例えば、電池サイズの下限は、電池外径で4mmとすることが推奨される。また、電池の厚みは、例えば、1〜6mm程度が一般的である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
実施例1
まず、正極活物質として用いるチタン酸リチウムを次に示すように合成した。すなわち、酸化チタンとしてはアナターゼ型のものを用い、このアナターゼ型酸化チタン:2モルと水酸化リチウム:1モルとを混合し、電気炉を用い、空気雰囲気下800℃で8時間焼成してチタン酸リチウムを合成した。得られたチタン酸リチウムは、原子吸光分析法により元素分析をしたところ、Li1.33Ti1.67(すなわち、LiTi12)であった。
【0051】
得られたチタン酸リチウム(Li1.33Ti1.67):85質量部と、ケッチェンブラック(導電助剤):10質量部と、PVDF(バインダー):5質量部を、N−メチル−2−ピロリドン中で混合して正極合剤を調製し、乾燥後の正極合剤を直径:3.5mm、厚み:1.5mmのペレット状に加圧成形し、これを遠赤外線乾燥機で150℃で1時間乾燥して脱水処理することによって、正極を作製した。
【0052】
上記とは別に人造黒鉛:95質量部と、SBRとCMCとを1:1(質量比)で混合したもの(バインダー):5質量部とを純水中で混合して負極合剤を調製し、乾燥後の負極合剤を直径:4mm、厚み:0.8mmのペレット状に加圧成形し、これを真空乾燥機を用いて70℃で12時間乾燥して脱水処理することによって、負極を作製した。そして、この負極を電池組立に先立って、導電性接着剤としてのカーボンペーストで負極缶の内面に接着した。
【0053】
上記接着にあたって使用したカーボンペーストは、日本黒鉛工業(株)製「バニーハイトIV−174」(商品名)で、その成分は、黒鉛:26質量%、水ガラス:15.5質量%、分散剤:2質量%、イオン交換水:56.5質量%であり、負極の負極缶の内面への接触面の全面にカーボンペーストを塗布して負極を負極缶の内面に接着したので、負極缶の内面と負極との接触面の95面積%以上が導電性接着剤で接着しているものと考えられる。
【0054】
電解液には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:4の混合溶媒にLiPFを1.6mol/lの濃度で溶解したものを用いた。
【0055】
上記正極、負極および電解液を用いて、図5に示す構造で、外径7.9mm、高さ:3.6mmのコイン形非水電解液二次電池(チタン酸リチウム−炭素電池)を作製した。
【0056】
図5において、正極31は、上記のようにチタン酸リチウム(Li1.33Ti1.67)を活物質とし、該チタン酸リチウムとケッチェンブラック(導電助剤)とPVDF(バインダー)とを含む正極合剤の加圧成形体からなり、ステンレス鋼製の正極缶34内に収容されている。負極32は、上記のように人造黒鉛を活物質とし、該人造黒鉛とSBRとCMC(バインダー)とを含む負極合剤の加圧成形体からなり、上記のように、この負極32は電池組立てに先立って、負極缶35の内面にカーボンペーストを用いて接着させておいた。また、上記負極32は、電池組立時に正極31の電気容量の85%に相当する金属リチウムをそのセパレータ33と対向する側に配置し、その負極活物質としての人造黒鉛が電池組立後に電解液の存在下でリチウムイオンをドープ・脱ドープできるようにしておいた。
【0057】
そして、正極31と負極32の間には、ポリプロピレン不織布からなる厚みが0.15mmで直径が5.5mmのセパレータ33が配置され、それら正極31、負極32、セパレータ33および電解液は、正極缶4と負極缶5とポリプロピレン製の環状ガスケット36とで形成される空間内に収容されており、正極缶34の開口端部の内方への締め付けにより電池内部が密閉構造になるようにされている。
【0058】
このようにして得られたコイン形非水電解液二次電池を用いて、電池部分を除く補聴器本体については、図1および図2に示す構造の市販の耳穴形補聴器本体を用いて、耳穴形補聴器を構成した。
【0059】
比較例1
正極は以下のように作製した。水酸化ニッケル粉末:100質量部に、水酸化コバルト粉末:1質量部、CMC粉末:0.2質量部および60質量%PTFEディスパージョン:1質量部を添加し、混合して正極合剤含有ペーストを調整した。このペーストを85℃で乾燥した後粉砕して、平均粒径が200μmの正極合剤を調製し、乾燥後の正極合剤を直径:4.2mm、厚み2.0mmのペレット状に加圧成形して正極を作製した。
【0060】
負極は以下のようにして作製した。市販のミッシュメタル(Mm)(La、Ce、Nd、Prを含有する)、Ni、Co、Mn、Al(いずれも純度99%以上)の各試料を、MmNi3.9Co0.6Mn0.35Al0.25の組成になるように高周波溶解炉によって加熱溶解して、水素吸蔵合金を得た。この水素吸蔵合金を機械的に粉砕することにより、平均粒子径が35μmの水素吸蔵合金粉末を得た。この水素吸蔵合金粉末:100質量部に、カルボニルニッケル粉末:1質量部、5質量%ポリ−N−ビニルアセトアミド水溶液:10質量部および40質量%スチレン−2−エチルヘキシルアクリレート共重合体のディスパージョン(分散媒:水):1.7質量部を添加し、混合して、負極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを85℃で乾燥し、乾燥後の負極合剤を直径:4.2mm、厚み1.0mmのペレット状に加圧成形して負極を作製した。
【0061】
電解液には30質量%の水酸化カリウム水溶液:1リットルに、LiOHを17g、および酸化亜鉛を33g添加し混合した水溶液を用いた。上記正極、負極および電解液を用いて、図5に示す実施例1と類似の構造のコイン形ニッケル水素電池を作製した。なお、正極と負極の間のセパレータには、ナイロン不織布を用いた。
【0062】
比較例2
空気電池として、市販のPR41電池を用いて、実施例1と同様にして補聴器を構成した。
【0063】
実施例1および比較例1〜2の補聴器について、その質量を測定すると共に、20℃で、放電電流を1mAとして連続使用し、電池交換が必要となるまでの連続使用可能な時間を求めた。ここで、実施例1および比較例1の電池については4時間連続使用毎に、使用により放電された容量分(4mAh)を充電して用い、充電時に要した時間は連続使用可能時間からは除いて求めた。また、それぞれの補聴器について、60℃で湿度90%の状態で、12日間貯蔵した場合の電池の液漏れ状態を目視により確認した。これらの結果を表1に示す。なお、比較例2の補聴器では、使用した電池が空気電池であり、電池自体が密閉されたものではなく、液漏れの評価をするに値するものではないため、表1では「―」として表記した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1において、実施例1および比較例1の補聴器での「電池交換までの連続使用可能時間」は、使用開始から、それ以上充電しても、補聴器を駆動できないようになった時点までの時間を意味している。
【0066】
表1から分かるように、実施例1の補聴器(非水電解液二次電池を用いた補聴器)は、補聴器質量の点において、短期の電池交換が不要な比較例1の補聴器(ニッケル水素電池を用いた補聴器)よりも約7%もの軽量化が可能であった。また、比較例2の従来から一般的に用いられている空気電池を用いた補聴器よりも軽量化することができた。更に、実施例1の補聴器では、電池交換までの連続使用可能な時間は、一次電池である空気電池を用いた比較例2の補聴器よりも大幅に向上しており、充電の必要はあるものの、電池の廃棄という環境負荷を少なくすることが可能となった。また、貯蔵時の電池の液漏れは実施例1の補聴器においては発生していないが、比較例1の補聴器では発生しており、実施例1の補聴器では、安全性の向上が達成できている。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の補聴器(耳穴形)の一例を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1の補聴器の電池収納部蓋を開けた様子を示す斜視図である。
【図3】本発明の補聴器(耳かけ形)の一例を概略的に示す斜視図である。
【図4】図3の補聴器の電池収納部を開けた様子を示す部分側面図である。
【図5】本発明に係るコイン形非水電解液二次電池の一例を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
10 20 補聴器
11 21 補聴器本体
12 電池収納部蓋
17 22 電池収納部
18 28 コイン形非水電解液二次電池
31 正極
32 負極
33 セパレータ
34 正極缶
35 負極缶
36 環状ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイン形非水電解液二次電池を有することを特徴とする補聴器。
【請求項2】
上記コイン形非水電解液二次電池は、リチウムイオン電池である請求項1に記載の補聴器。
【請求項3】
上記コイン形非水電解液二次電池は、チタン酸リチウムを含有する正極と、炭素材料を含有する負極とを有するものである請求項1または2に記載の補聴器。
【請求項4】
耳穴形である請求項1〜3のいずれかに記載の補聴器。
【請求項5】
上記コイン形非水電解液二次電池が内部に封入されている請求項1〜4のいずれかに記載の補聴器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−174336(P2006−174336A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367426(P2004−367426)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】