説明

製剤の製造方法及び製剤

【課題】 水溶性ポリフェノールを油性溶液中に長時間安定的に分散させることができ、グラム陽性菌とグラム陰性菌の双方に対して有効に殺菌作用を発揮可能な製剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 中鎖脂肪酸トリグリセライドを含む油性溶液中にポリフェノール抽出物を混合させた後、前記ポリフェノール抽出物を湿式粉砕によりナノ粒子化させ、前記ポリフェノール抽出物を前記油性溶液中に安定的に溶かし込む製剤の製造方法及び製剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製剤の製造方法及び製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物等に含まれるポリフェノール類は、抗酸化性、抗ガン活性、抗菌性、抗炎症性、抗ウィルス性等の種々の生理活性を有することが知られている。このポリフェノール類を油性溶液中に分散させる工程として(1)植物の乾燥(2)乾燥材料の粉砕(3)油性溶液との混合(4)混合溶液の再粉砕(5)濾過(6)遠心分離(7)上澄み液の抽出、の7工程を経ることにより水溶性抗菌活性物質を得る技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、上記の従来技術においては、原料の植物中のポリフェノール濃度によって、上澄み液中のポリフェノール濃度にばらつきが生じるため、工業製品として大量出荷することが困難である。また、(5)濾過工程及び(6)遠心分離工程を経ることにより上澄み液中に含まれるポリフェノールの安定した濃度を得られないという問題もある。
【0004】
更に、上記の従来技術においては、投入される有効成分(ポリフェノール)と油性溶液を、溶液中に求められる有効成分と油性溶液の比率よりも遥かに多い1:1に近い比率で投入させた後、上記(4)〜(7)の工程を経ている。そのため、有効成分がすべて油性溶液中に分散するのではなく、必ず白濁物、沈殿物を生じる。この白濁物、沈殿物中には、ポリフェノールの結晶化物が含まれるため、上澄み液中に最終的に含まれるポリフェノールの濃度を特定しにくく、ゆえに、各製造工程において、上澄み液中の安定したポリフェノール濃度を得るための作業標準を確立しにくい。
【0005】
地球上に存在する様々な微生物に対して、油性溶液に分散させたポリフェノールを用いて、殺菌・抗菌効果を発揮させるためには、ポリフェノールの種類にもよるが、例えば、茶葉由来のエピガロカテキンガレート(EGCg)という水溶性ポリフェノールの場合は、少なくとも100ppm(0.01重量%)以上の溶液中の重量濃度比が必要である。
【0006】
ところが、最終製品としての医薬品、医薬部外品、化粧品等を製造するためには、エピガロカテキンガレート以外に様々な有効成分を配合する必要があるため、最終製品の全体重量に占めるエピガロカテキンガレートの配合割合が低くなる場合がある。エピガロカテキンガレートが有する種々の生理活性を有効に発揮させるためには、エピガロカテキンガレートを高濃度に配合させた油溶化物(製剤)を予め調製し、それを徐々に薄めて使用する必要がある。
【0007】
例えば、12.5重量%の配合比率で油性溶液中にエピガロカテキンガレートを配合し、最終製品段階内でエピガロカテキンガレートの濃度を500ppm以上にするためには、最終製品の製造前の製剤に含まれるエピガロカテキンガレートの濃度を4000ppm以上に調製する必要がある。
【0008】
しかしながら、エピガロカテキンガレート等を含む水溶性ポリフェノールは、油性溶液と混合すると容易に結晶化し、沈殿物を発生させるため、油性溶液中に高濃度の水溶性ポリフェノールを長時間安定的に分散させておくことが困難である。また、現在知られているポリフェノールを含有する水溶性抗菌活性物質では、グラム陽性菌に対しては有効に殺菌・抗菌効果を発揮するものの、グラム陰性菌に対してはその効果が得られていない。
【特許文献1】特許第3704609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題点を鑑み、本発明は、水溶性ポリフェノールを油性溶液中に長時間安定的に分散させることができ、グラム陽性菌とグラム陰性菌の双方に対して有効に殺菌・抗菌効果を発揮可能な製剤の製造方法及び製剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の態様は、中鎖脂肪酸トリグリセライドを含む油性溶液中に、ポリフェノール抽出物を混合させた後、ポリフェノール抽出物を湿式粉砕によりナノ粒子化させ、前記油性溶液中に前記ポリフェノール抽出物を安定的に溶かし込む製剤の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明は、水溶性ポリフェノールを油性溶液中に長時間安定的に分散させることができ、グラム陽性菌とグラム陰性菌の双方に対して有効に殺菌作用を発揮可能な製剤の製造方法及び製剤が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0013】
−製剤の製造方法−
本発明の実施の形態に係る製剤の製造方法は、中鎖脂肪酸トリグリセライドを含む油性溶液中にポリフェノール抽出物を混合させた後、ポリフェノール抽出物を湿式粉砕によりナノ粒子化させ、ポリフェノール抽出物を油性溶液中に安定的に溶かし込む工程を含む。この製造工程は、例えば、図1に示すクローズドループタイプの製造装置により実施できる。なお、製剤の製造は、溶液中の粉体を所定の粒径のナノ粒子に粉砕処理可能であればいずれの粉砕装置を用いてもよく、図1に示す製造装置に限定されないことは勿論である。
【0014】
<製造装置>
図1に示す製造装置は、外縁筒1、回転筒2、刃先3、ビーズ4及びフィルタ6を有する湿式粉砕装置(ビーズミル)10と、湿式粉砕装置10にラインL1を介して接続された貯留タンク7と、貯留タンク7と湿式粉砕装置10との間に接続されたラインL2に設けられた材料送り込み装置5とを備える。
【0015】
外縁筒1の内部に配置された回転筒2には、回転筒2の回転数を制御するための回転制御機構11が接続されている。回転筒2には、1〜n本(nは2以上の整数)刃先3が、取り付けられている。外縁筒1内の空間は、50〜95%程度の容積比でビーズ4によって占められている。ビーズ4の直径は、粉砕対象物の粒径によって適宜選択されるが、例えば、直径0.01mm〜1mm程度のセラミック製の球体を用いることができる。
【0016】
外縁筒1の内部に挿入されたラインL1の先端部には、フィルタ6が設けられている。フィルタ6は、例えばビーズ4の直径の2分の1〜5分の1のメッシュサイズのフィルタが用いられる。
【0017】
貯留タンク7の内部には、貯留タンク7内の貯留物を撹拌するための撹拌装置8が配置されている。材料送り込み装置5としては例えばポンプ等を利用することができる。材料送り込み装置5には、流量制御機構12が接続されている。
【0018】
<図1の製造装置を用いた製造方法>
図1に示す製造装置を用いて本発明の実施の形態に係る製剤を製造する場合には、まず製剤の原料となる油性溶液及びポリフェノール抽出物(ここではEGCg)を貯留タンク7の上部から徐々に加え、貯留タンク7内で混合する。このとき、撹拌装置8を駆動させ、貯留タンク7内の混合物が沈殿や結晶化を生じないように混合物を撹拌する。
【0019】
材料送り込み装置5を駆動させ、流量制御機構12により供給流量を制御しながら、ラインL2を介して貯留タンク7中の混合物を外縁筒1内へ供給する。供給された混合物中のポリフェノール抽出物は、回転筒2の駆動に伴うビーズ4の衝突により細かく粉砕される。送り込み装置5が混合物の送り込みを続けることで、外縁筒1の内部は油性溶液とポリフェノール抽出物の混合物で満たされる。
【0020】
外縁筒1から溢れた混合物は、フィルタ6及びラインL1を経由して再び貯留タンク7に戻される。なお、混合物の粉砕は、製造者が、油性溶液及びポリフェノール抽出物の貯留タンク7内への供給量の制御、回転制御機構11による回転速度制御、及び流量制御機構12による供給流量制御をそれぞれ行うことにより、好ましい大きさに制御することができる。
【0021】
例えば、本発明の実施の形態に係る製剤を製造する場合には、製造者が、フィルタ6が目詰まりを起こさない程度に、原料を貯留タンク7内に徐々に加えながら、回転制御機構11及び流量制御機構12を制御し、混合液中のポリフェノール抽出物を粒径10〜300nm程度、より好ましくは50〜150nm程度のナノ粒子となるように、粉砕する。ポリフェノール抽出物をナノ粒子化することにより、沈殿や白濁を生じさせることなく、長時間安定的にポリフェノール抽出物を油性溶液中に分散させることができる。
【0022】
なお、図1に示す製造装置においては、貯留タンク7を窒素等の不活性ガスでパージすることにより、完全に酸素から遮断された生産系を構築できる。これにより、ポリフェノール抽出物として、空気中や水中で酸化しやすい水溶性ポリフェノール類を油性溶液に溶かし込む場合においても、空気接触等による酸化を防止できる。よって、最終製品を製造した場合においてもポリフェノール抽出物の持つ生理活性を十分に発揮させることができる。
【0023】
<製剤の製造等に使用される原料>
本発明の実施の形態に係る製剤の原料としては、(A)油性溶液及び(B)ポリフェノール抽出物等が用いられる。以下にその具体例を示す。
【0024】
(A)油性溶液
油性溶液としては、例えば、植物油、動物性油等を利用してもよいが、本発明の実施の形態においては、特に、炭素数が8〜10個の中鎖脂肪酸を含む油性溶液を使用するのが好ましい。より具体的には、中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCTオイル)を5重量%以上、好ましくは50〜100重量%含有する油性溶液を用いるのが好ましい。
【0025】
一般的に、皮膚浸透性に優れる油脂の分子量は1000以下であり、特に分子量500以下の油脂は、脂肪細胞への浸透性が強いことが知られている。その点、MCTオイルは、分子量450〜490であるため、皮膚浸透性、脂肪細胞浸透性において特に優れた効果を有する。また、MCTオイルは高極性オイルであって、水に近い極性を持つため、他の植物油等と比較しても、水溶性成分の分子分散力が特に優れている。
【0026】
更に、MCTオイルは、不飽和脂肪酸を持たない油脂であるため、油脂自体の酸化劣化が少なく、飽和ミセル化されたポリフェノール自体の自己酸化劣化が起き難い。よって、空気中又は水中で容易に酸化されやすい水溶性ポリフェノールを溶解させるための溶液としては、特に好適である。
【0027】
更に、MCTオイルは、副作用の少ない天然原料であるため、スキンケア化粧品、皮膚疾患改善目的で使用される医用部外品、口腔内除菌スプレー、院内感染菌(抗生物質耐性菌)の除菌、抗菌素材用途等に好適に用いることができる。また、芽胞形成菌に対しても優れた抗菌力や殺菌力を発揮するため、微生物に対する抗菌剤・殺菌剤としても好適に用いることができる。
【0028】
本発明の実施の形態に係る製剤として中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有する油性溶液を使用することにより、後述において詳しく説明するが、グラム陽性菌の他に、一般的には抗菌作用を発揮しないとされるグラム陰性菌に対しても、有効に殺菌力を発揮可能な100%天然原料由来の製剤が製造できる。
【0029】
(B)ポリフェノール抽出物
本発明の実施の形態に係る「ポリフェノール」は、同一分子内に2個以上のフェノール性水酸基を持つ化合物の総称を指す。ポリフェノールの代表的な化合物群としては、例えば、フラボン類、フラボノール類、イソフラボン類、フラバン類、フラバノール(カテキン)類、フラバノン類、フラバノール類、カルコン類、アントシアニジン類等に分類されるフラボノイド系の化合物及びそれらの関連化合物が挙げられる。
【0030】
製剤の製造に用いられる「ポリフェノール抽出物」としては、茶葉から抽出される植物ポリフェノールの抽出物を好ましく用いることができる。植物ポリフェノールの抽出物としては、例えば、ポリフェノール濃度が予め一定の濃度範囲に調製された市販の固形製剤を用いることが、最終生成物に含まれるポリフェノール濃度の安定化及び工業生産上の観点からは好ましいが、茶葉を乾燥させ、所定の大きさに粉砕した粉末を用いても構わない。
【0031】
「植物ポリフェノール」としては、例えば、カテキン類及びその他の関連化合物としてのエピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレート、カテキンガレート、テアフラビン、テアフラビンガレートA、テアフラビンガレートB、テアフラビンジガレート等が挙げられる。
【0032】
中でも特に、エピガロカテキンガレートは、分子構造中にガレート基を有し、タンパク質凝集作用による細胞膜破壊を発生させるため、微生物の成育阻止用途に好適である。図2に、各種微生物に対するエピガロカテキンガレートの殺菌・抗菌特性を示す。図2に示すように、エピガロカテキンガレートの濃度を500ppm(0.05重量%)以上含有させることにより、種々の微生物に対して殺菌・抗菌効果を発揮することが分かる。よって、本発明の実施の形態に係る製剤中のエピガロカテキンガレートの濃度としては、500ppm(0.05重量%)以上とするように調製するのが好ましい。但し、抗菌・殺菌効果の発揮速度を制御する意味では、100ppm〜5000ppm(0.01〜0.5重量%)、或いは500〜5000ppm(0.05〜0.5重量%)のエピガロカテキンガレートを含むように製剤中のエピガロカテキンガレート濃度を決定することができる。かかる製剤を得るためには、エピガロカテキンガレートを高濃度に含むポリフェノール抽出物を使用するのが好ましく、例えばサンフェノンEGCg(太陽化学株式会社製)等を用いることができる。
【0033】
C.その他
製剤の製造中、必要に応じて乳化剤、純水、界面活性剤等を加えても構わない。また、得られた製剤を必要に応じて純水で希釈したり、別の有効成分を添加することもできる。その結果、最終製品としての医薬品、医薬部外品、化粧品、消臭剤、生活雑貨、バイオエネルギーとしてのバイオガソリン等に好ましく用いることができる。
【0034】
−製剤の特性−
本発明の実施の形態に係る製剤の製造方法により得られた製剤の色は、おおむね透明である。即ち、本発明の実施の形態に係る製剤は、溶媒としての油性溶液が元来有する色彩を有している。これは、有効成分としてのポリフェノール抽出物が、可視光波長400nmより小さいナノ粒子に粉砕され、且つ安定的に油性溶液中に分散していることを示す。なお、本発明の実施の形態に係る製剤は、少なくとも数ヶ月〜1年程度の間、ポリフェノール抽出物の沈殿等を生じさせることなく、安定的に溶かし込んだ(分散させた)状態で保存できる。
【0035】
<ゼータ電位測定>
本発明の実施の形態に係る製剤中に含まれるポリフェノール抽出物の粒子の分散・凝集状態を、ゼータ電位測定装置(ZEECOM、型式:ZC−2000(マイクロテック・ニチオン社製)を用いて評価した。
【0036】
使用セルは、図3(a)、図3(b)、図3(d)の測定結果に対しては電極間距離90mmの水系テフロン(登録商標)製セル(光路部:パイレックス(登録商標)を使用し、図3(c)の測定結果に対しては電極間距離20mmの非水系テフロン(登録商標)製セル(光路部:石英)を使用した。使用光源は、標準ハロゲン光源及び633nm半導体レーザ(5mw)を用いた。測定方法は、粒子自動追尾法によりゼータ電位を測定した(例えば、平成19年9月12日検索、インターネット<URL:http://nition.com/product/zeecom.htm>参照)。
【0037】
図3(a)及び図3(b)に係る比較例1の製剤として、50mlの純水に対して250mgのエピガロカテキンガレート(商品名:サンフェノンEGCg、太陽化学株式会社製)を室温(約25℃)中で混合させ、混合液中のエピガロカテキンガレートを、図1に示す装置等によりナノ粒子化させることにより、エピガロカテキンガレートを5000ppm(5g/l)含む製剤を評価した。
【0038】
図3(a)及び図3(b)に示す例では、ハロゲン光で確認可能な粒子(300nm以上)からレーザ光源を絞って確認できる粒子(数十nm)まで幅広い粒度分布を持っていることが分かった。ゼータ電位は、−20mV程度であった。溶液中のブラウン運動及び電気泳動を観察したところ、エピガロカテキンガレートと見られる微細な粒子が水溶液中を自由に移動する様子が観察された。
【0039】
一方、図3(c)に示す本発明の実施の形態に係る実施例1の製剤として、油性溶液としてMCTオイル(炭素数8〜10、商品名:デリオス325、コグニスジャパン社製)の原液を使用し、この原液に対して、5000ppm(0.5%(wt/vol))のエピガロカテキンガレート(商品名:サンフェノンEGCg、太陽化学株式会社製)を室温で混合させ、混合液中のエピガロカテキンガレートを、図1に示す装置等によりナノ粒子化させた製剤を評価した。
【0040】
図3(c)に示す例では、図3(a)及び図3(b)に比べてより広い範囲の粒度分布が観察された。なお、実施例1に係る製剤は、ハロゲン光のみで粒子のブラウン運動が観察でき、また、油相中のほぼ同位置で振動する様子が観察された。図3(c)の例では、高電圧(950V)を印加しなければ電気泳動が見られなかったが、安定した挙動を示しいた。MCTオイル中にエピガロカテキンガレートを溶かし込むことで安定した分散状態が保てていることが観察できた。
【0041】
図3(d)に示す本発明の実施の形態に係る実施例2の製剤として、図3(c)の製剤45mlに対して純水5mlを加えて10倍濃縮した溶液を20分間振蘯後、水層を分離し、純水で10倍希釈して測定した製剤を評価した。図3(d)の例では、図3(a)〜図3(c)に比べてより広い範囲の粒度分布が観察された。また、実施例2の製剤においては、油分がエマルションとなって混入している様子が観察された。ハロゲン光源の他、レーザ光源でしか確認できない微細な粒子も混在していた。エピガロカテキンガレートをMCTオイルで抽出することにより、実施例1に係る製剤を純水で希釈した場合でも、純水単体で希釈する場合に比べて分散安定性が高まることが分かった。
【0042】
−製剤の殺菌・抗菌特性−
本発明の実施の形態に係る製剤の殺菌・抗菌特性について評価結果を以下に示す。
【0043】
<試験方法>
(1)試験菌
芽胞形成菌への殺菌・抗菌特性を調べるために、緑膿菌(Pseudmonas aeruginosa)及び黄色ブドウ球菌(Staphylococul aureus)を用いた。
【0044】
(2)培地
培地としては、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト・カンテン培地(SCDLP寒天培地(ダイゴ)、日本製薬株式会社製)を用いた。
【0045】
(3)試験菌液の調整
試験菌をSCDLP培地で30℃、24時間培養したものをSCDLP培地中に懸濁し、約10cfu/mlに調整したものを試験菌液とした。
【0046】
(4)試験検体
本発明:EGCg+MCTオイル製剤(EGCg濃度500ppm)
比較例1:EGCg水溶液(EGCg濃度500ppm)
比較例2:MCTオイル(オイル純品)
比較例3:滅菌済精製水
本発明に係る製剤としては、油性溶液としてのMCTオイル(炭素数8〜10、商品名:デリオス325、コグニスジャパン社製)の原液に対して濃度500ppm(0.05%(wt/vol))のエピガロカテキンガレート(商品名:サンフェノンEGCg、太陽化学株式会社製)を室温で混合させ、混合液中のエピガロカテキンガレートをナノ粒子化させた製剤を利用した。比較例1として、純水中にエピガロカテキンガレート(商品名:サンフェノンEGCg、太陽化学株式会社製)を室温(約25℃)中で濃度500ppm(0.05%(wt/vol))で混合させ、混合液中のエピガロカテキンガレートをナノ粒子化させた製剤を利用した。比較例2として、MCTオイル(炭素数8〜10、商品名:デリオス325、コグニスジャパン社製)の原液を利用した。比較例3として滅菌済精製水を利用した。
【0047】
(5)試験操作
試験検体7gを滅菌バイアル瓶にとり、試験検疫を0.07ml接種(=約10cfu/ml)した。接種直後、30℃で保存した1時間後、4時間後、24時間後に寒天平板混釈法により生菌数を測定した。試験方法は、日本薬局法(保存効力試験法)に準拠して行った。
【0048】
図4及び図5に試験結果を示す。図4及び図5において、「TNTC」は、コロニーが多すぎてカウント不可能であることを示し、「<10」は、検出限界値以下であることを示す。
【0049】
図4及び図5に示す結果から分かるように、本発明の実施の形態に係る製剤によれば、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌及びグラム陰性菌である緑膿菌の双方に対して殺菌・抗菌効果が得られていることが分かる。
【0050】
図6(a)はグラム陽性菌の細胞膜近傍の構造図の例を示したものである。グラム陽性菌は、細胞膜の外側に厚さ10〜100nm程度の多層の薄いペプチドグリカン層を有している。水溶性植物ポリフェノールの中でもガレート基を有するエピガロカテキンガレートは、タンパク質凝集作用を有する。そのため、エピガロカテキンガレートを含む従来の水溶性抗菌活性物質をペプチドグリカン層に作用させることにより、グラム陽性菌の細胞膜を破壊し、殺菌・抗菌効果を発揮することはできる。
【0051】
しかしながら、図6(b)に示すように、グラム陰性菌の場合は、ペプチドグルカン層の外側に脂質二重膜からなる外膜を有している。外膜には、リポ多糖と呼ばれる脂質成分を多く含んでいるため、従来の水溶性天然抗菌活性物質ではグラム陰性菌の細胞膜を破壊させることができない。
【0052】
これに対し、本発明の実施の形態に係る製剤によれば、植物油脂の中でも特に保存安定性の高い中鎖脂肪酸トリグリセライド(カプリル酸、カプリン酸を主体とする炭素数偶数のC8〜C14の直鎖不飽和脂肪酸からなる精製植物油脂)中に、ガレート基を有する非重合カテキン(EGCg、ECg等)を分子分散状態にてミセル化させている。よって、本発明の実施の形態に係る製剤を適用すれば、グラム陰性菌の脂質外膜に対してミセル化されたカテキン油脂が浸透し、ペプチドグルカン層に達することで、グラム陰性菌の細胞膜を破壊させ、細菌を死活化させることができる。
【0053】
このように、本発明によれば、中鎖脂肪酸トリグリセライドを含む油性溶液中にポリフェノール抽出物を安定的に溶かし込むことにより、中鎖脂肪酸トリグリセライド、あるいはポリフェノール抽出物単体では殺菌効果を発揮し得なかった緑膿菌等のグラム陰性菌に対しても強度の殺菌作用を発現させることができる。
【0054】
なお、得られた製剤は、微生物に対する抗菌剤、殺菌剤として用いられる他に、例えば、製剤を利用した生活雑貨、消臭剤、化粧品、医療用基材、医薬部外品、医薬品、バイオエネルギーとしてのバイオガソリンの抗酸化剤等の様々な分野に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態に係る製剤を製造する製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るポリフェノール抽出物の各種微生物に対する殺菌・抗菌特性を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態に係る製剤のゼータ電位測定結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態に係る製剤の殺菌・抗菌効果の評価結果の一例である。
【図5】本発明の実施の形態に係る製剤の殺菌・抗菌効果の評価結果の一例である。
【図6】図6(a)はグラム陽性菌の細胞膜周辺、図6(b)は、グラム陰性菌の細胞膜周辺の構造例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
L1…ライン
L2…ライン
1…外縁筒
2…回転筒
3…刃先
4…ビーズ
5…装置
6…フィルタ
7…貯留タンク
8…撹拌装置
10…湿式粉砕装置
11…回転制御機構
12…流量制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中鎖脂肪酸トリグリセライドを含む油性溶液中にポリフェノール抽出物を混合させた後、前記ポリフェノール抽出物を湿式粉砕によりナノ粒子化させ、前記ポリフェノール抽出物を前記油性溶液中に安定的に溶かし込むことを特徴とする製剤の製造方法。
【請求項2】
前記ポリフェノール抽出物をビーズミルを用いて粒径10〜300nmに粉砕することにより、前記中鎖脂肪酸トリグリセライドを5重量%以上含む前記油性溶液中に前記ポリフェノール抽出物を0.01重量%以上溶かし込むことを特徴とする請求項1に記載の製剤の製造方法。
【請求項3】
前記ポリフェノール抽出物が、エピガロカテキンガレートであることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の製剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−67752(P2009−67752A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240123(P2007−240123)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(507309024)アクト株式会社 (1)
【Fターム(参考)】