説明

製版方法、製版装置及び孔版印刷装置

【課題】鮮明な孔版印刷を可能とする製版方法を提供する。
【解決手段】被着物を被着させる正画像に対応する透光部と、被着物を被着させない非正画像に対応する遮光部と、を備える遮光部材を作成する遮光部材作成ステップと、接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムを備え、少なくとも接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムの一方に光熱変換材を含み、接着剤を介して、複数の微小なメッシュ開口を有するメッシュ状支持体上に熱可塑性樹脂フィルムを貼着した光熱変換部材を作成する光熱変換部材作成ステップと、遮光部材を光熱変換部材の熱可塑性樹脂フィルムに対して重ね合わせた積層体を作成する積層体作成ステップと、赤外線を放射する光源を用いて、遮光部材の側から積層体を露光することにより、熱可塑性樹脂フィルムのうち、透光部に対応する部分を熱穿孔する熱穿孔ステップと、を備え、熱穿孔ステップにおいて、熱可塑性樹脂フィルムの熱穿孔された部分が、遮光部材に融着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、孔版印刷用原紙の製版方法、製版装置及び孔版印刷装置に関する。本発明は、詳細には、ニスやインキ等の被着物を用紙上に被着させる際に用いる孔版印刷用原紙を閃光により熱穿孔する製版方法、製版装置及び孔版印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性支持体136aに感熱フィルム136cを貼着した製版マスター136の光透過率を光センサによって検出し、検出された製版マスター136の光透過率に基づいて、キセノンランプ174の発光強度を制御することを特許文献1が開示している。
【0003】
すなわち、特許文献1は、図9(A)に示すように、製版マスター136の多孔性支持体136aに接着剤136bで貼着された透光性の感熱フィルム136cに対して、カーボン126bを含む原稿126の画像形成面126aが接するように重ね合わせた状態にして、図9(B)に示すように、キセノンランプ174の閃光を照射して原稿126の画像形成面126aに含まれたカーボン126bを発熱させることにより、透光性の感熱フィルム136cを熱穿孔する製版方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−110918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製版方法では、熱穿孔プロセスにおいて、画像形成面に熔着したカーボンの一部が剥離して、熱熔融した感熱フィルムが該カーボンを含有してしまい、カーボンを含有した熱熔融の感熱フィルムの残渣が多孔性支持体に絡み付いてしまう。そして、多孔性支持体に絡み付いた残渣が、多孔性支持体の開口部を狭めたり、多孔性支持体から脱落して印刷時のインキに混入したりするために、孔版印刷の鮮明度に影響を与えるという問題がある。
【0006】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、鮮明な孔版印刷を可能とする製版方法、製版装置及び孔版印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下の製版方法、製版装置及び孔版印刷装置が提供される。
【0008】
すなわち、本発明の請求項1に係る製版方法は、
被着物を被着させる正画像に対応する透光部と、前記被着物を被着させない非正画像に対応する遮光部と、を備える遮光部材を作成する遮光部材作成ステップと、
接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムを備え、少なくとも前記接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムの一方に光熱変換材を含み、前記接着剤を介して、複数の微小なメッシュ開口を有するメッシュ状支持体上に前記熱可塑性樹脂フィルムを貼着した光熱変換部材を作成する光熱変換部材作成ステップと、
前記遮光部材を前記光熱変換部材の熱可塑性樹脂フィルムに対して重ね合わせた積層体を作成する積層体作成ステップと、
少なくとも赤外線を放射する光源を用いて、前記遮光部材の側から前記積層体を露光することにより、前記熱可塑性樹脂フィルムのうち、前記透光部に対応する部分を熱穿孔する熱穿孔ステップと、を備え、
前記熱穿孔ステップにおいて、前記熱可塑性樹脂フィルムの熱穿孔された部分が、前記遮光部材に融着することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る製版方法では、
前記光源は、キセノンフラッシュランプであることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る製版方法では、
前記遮光部材は、前記光源による露光によっても熱穿孔しないような樹脂シート体であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る製版方法では、
前記遮光部材は、前記熱可塑性樹脂フィルムと同じであるか又は類似した特性を持った樹脂シート体であって、前記熱可塑性樹脂フィルムよりも肉厚であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る製版方法では、
前記接着剤が前記光熱変換材を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に係る製版方法では、
前記遮光部は、透光性樹脂シート体の上に遮光性材料を被着させることによって形成することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7に係る製版方法では、
前記積層体作成ステップにおいて、前記遮光部を設けた面と反対側の面を、前記光熱変換部材の熱可塑性樹脂フィルムに当接させた状態で積層することを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8に係る製版方法では、
前記遮光部材作成ステップにおいて、透光性樹脂フィルムの上に遮光性インクを被着させた遮光性インクリボンを用いて熱転写を行い、透光性樹脂フィルムから遮光性インクを除去することにより、前記遮光性インクリボンを遮光部材として用いることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項9に係る製版方法では、
前記遮光部材作成ステップにおいて、透光性樹脂フィルムの上に遮光性インクを被着させた遮光性インクリボンを用いて、透光性樹脂シート体の上に遮光性インクを熱転写させることにより、前記透光性樹脂シート体を遮光部材として用いることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項10に係る製版方法では、
前記遮光部材作成ステップにおいて、透光性樹脂シート体の上にトナーを熱融着させることにより、前記遮光部材の作成を行うことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項11に係る製版方法では、
前記遮光部材作成ステップにおいて、透光性樹脂シート体の上に遮光性インクを吹き付けることにより、前記遮光部材の作成を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項12に係る製版方法では、
前記被着物は、印刷済み用紙の表面をコーティングするためのニス、又は用紙の表面を印刷するためのインキであることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項13に係る製版方法では、
前記光源は紫外線も放射するとともに、前記被着物は紫外線硬化型被着物であることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項14に係る製版装置では、
被着物を被着させる正画像に対応する透光部と、前記被着物を被着させない非正画像に対応する遮光部と、を備える遮光部材を作成する遮光部材作成手段と、
接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムを備え、少なくとも前記接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムの一方に光熱変換材を含み、前記接着剤を介して、複数の微小なメッシュ開口を有するメッシュ状支持体上に前記熱可塑性樹脂フィルムを貼着した光熱変換部材を作成する光熱変換部材作成手段と、
前記遮光部材を前記光熱変換部材の熱可塑性樹脂フィルムに対して重ね合わせた積層体に対して、前記遮光部材の側から少なくとも赤外線を放射する光源と、を備え、
前記光源からの赤外線照射により、前記熱可塑性樹脂フィルムのうち、前記透光部に対応する部分を熱穿孔し、
前記熱可塑性樹脂フィルムの熱穿孔された部分が、前記遮光部材に融着することを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項15に係る孔版印刷装置では、
前記請求項14に記載された製版装置により製版された製版済み孔版原紙と、
前記孔版原紙を円筒状周壁の外周面上に巻装する版胴と、
前記版胴の内周面に摺接して、前記版胴の内周面との間に供給された被着物を押し出すスキージブレードと、
前記版胴及び前記孔版原紙を介して前記スキージブレードに対向配置されて、搬送される用紙を前記版胴に巻装された前記孔版原紙に密着させる密着ローラと、
少なくとも赤外線を含む電磁波を放射する光源と、
を備え、
前記版胴及び孔版原紙から押し出された前記被着物を前記用紙上に被着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る本発明では、光源から放射された赤外線が、光熱変換部材の熱可塑性樹脂フィルムに重ね合わせた遮光部材のうち、遮光部においては遮光されるが、透光部においては透過して、光熱変換材を含む光熱変換部材に照射される。赤外線の照射された光熱変換材が赤外線を吸収することにより、光熱変換材を含む接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方が加熱されて、熱可塑性樹脂フィルムのうち、透光部に対応する部分を熱熔融する。そして、熱可塑性樹脂フィルムのうち、熱熔融した部分が、遮光部材に融着してメッシュ状支持体から離れることにより、光熱変換部材において熱穿孔部を形成する。熱熔融した部分が遮光部材に融着するために、メッシュ状支持体には熱熔融した部分の残渣が残らないので、所望とするメッシュ開口を形成することができる。したがって、鮮明な孔版印刷を可能とするという効果を奏する。
【0024】
請求項2に係る本発明では、一般的に入手が容易である光源を用いることにより、部材単価を引き下げることができ、製版に係るコストを低減することができるという効果を奏する。
【0025】
請求項3に係る本発明では、入手や加工が容易である樹脂シート体を用いることにより、部材単価を引き下げることができ、製版に係るコストを低減することができるという効果を奏する。
【0026】
請求項4に係る本発明では、熱熔融した部分が遮光部材に融着する力が強くて確実な融着が得られるという効果を奏する。
【0027】
光熱変換材は、接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方に含むことができるが、請求項5に係る本発明では、光熱変換材の添加が容易であり、特性変化に影響を及ぼしにくいという効果を奏する。
【0028】
遮光性シート体に透光部を形成することにより遮光部材を作成することも可能であるが、請求項6に係る本発明では、遮光部材の作成が容易であるという効果を奏する。
【0029】
請求項7に係る本発明では、遮光部材と光熱変換部材とを隙間無く接合させることができ、鮮明な孔版印刷を可能にするという効果を奏する。また、遮光部を構成する遮光性材料が光熱変換部材へ付着することを防止できるという効果を奏する。
【0030】
請求項8に係る本発明では、一般的に入手が容易である遮光性インクリボンそれ自身を遮光部材として用いることにより、部材単価を引き下げることができ、製版に係るコストを低減することができるという効果を奏する。
【0031】
請求項9に係る本発明では、一般的に入手が容易である遮光性インクリボン及び透光性樹脂シート体を組み合わせて遮光部材を作成することにより、部材単価を引き下げることができ、製版に係るコストを低減することができるという効果を奏する。
【0032】
請求項10に係る本発明では、一般的に入手が容易であるトナーを用いた電子写真式の画像形成装置及び透光性樹脂シート体を用いることにより、部材単価を引き下げることができ、製版に係るコストを低減することができるという効果を奏する。
【0033】
請求項11に係る本発明では、一般的に入手が容易であるインクジェット式のプリンタ及び透光性樹脂シート体を用いることにより、部材単価を引き下げることができ、製版に係るコストを低減することができるという効果を奏する。
【0034】
請求項12に係る本発明では、印刷、コーティング、立体感のある模様形成等の幅広い用途に使用することができるという効果を奏する。
【0035】
請求項13に係る本発明では、クリーンな環境下で、被着物を短時間で硬化させ、体積変化が少なくて形状安定性を備えるという効果を奏する。
【0036】
請求項14に係る本発明では、鮮明な孔版印刷を可能にする製版装置を提供するという効果を奏する。
【0037】
請求項15に係る本発明では、鮮明な孔版印刷を可能にする孔版印刷装置を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係る孔版印刷装置の全体構成を模式的に示す図である。
【図2】図1に示した孔版印刷装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明の製版方法における反転画像の作成プロセスを説明する模式的平面図である。(A)は印刷すべき原稿画像であり、(B)は(A)の原稿画像が反転した反転画像である。
【図4】本発明の製版方法における遮光部材の作成プロセスを説明する模式的断面図である。
【図5】図4のプロセスによって作成された遮光部材を示す模式的断面図である。
【図6】本発明の製版方法において使用される光熱変換部材を示す模式的断面図である。
【図7】本発明の製版方法における積層体の露光プロセスを説明する模式的断面図である。
【図8】本発明の製版方法における積層体の熱穿孔プロセスを説明する模式的断面図である。
【図9】従来技術に係る製版方法を説明する模式的断面図である。(A)は、感熱マスターと、カーボンを含む画像の形成された原稿とを重ね合わせた積層体を示す。(B)は、(A)に示した積層体の熱穿孔を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、図1を参照しながら、本発明の一実施形態に係る孔版印刷装置10の全体構成を説明する。
【0040】
図1において、孔版印刷装置10は、用紙供給部50と、露光部材作成装置34及び熱穿孔装置38を備える製版部30と、塗工部60と、排紙部80と、紫外線硬化部70と、用紙回収部90と、を備えている。
【0041】
用紙供給部50は、内部に吸引ファン57を有する吸引式の給紙ベルト56及びさばき板58により、給紙台54上に載置された用紙2を、上から順に1枚ずつ分離する。
【0042】
塗工部60は、複数の通過開口を配置した円筒状周壁を有するドラム状の版胴62と、版胴62の内周面に摺接するように傾斜配置されたスキージブレード64と、傾斜配置されたスキージブレード64と版胴62の内周面との間にニス(被着物)4を供給するためのニス(被着物)供給装置と、を備える。版胴62は、ドラムユニットとして、装置本体12に対して着脱自在に構成されている。製版済み孔版原紙39を、版胴62の外周面に対して着脱自在に巻装することができる。
【0043】
用紙供給部50において分離された用紙2を、装置本体12内のフィードローラ対13,14により、所定のタイミングで版胴62の下に搬送する。密着ローラ83は、版胴62に密着可能な程度の小さな密着力で付勢されている。版胴62の下に搬送された用紙2は、付勢された密着ローラ83によって、版胴62の外周面に巻装された製版済み孔版原紙39と密着する。製版済み孔版原紙39と密着した用紙2には、ニス(被着物)4が付着する。密着ローラ83は、クランプ爪79を受け入れるように構成されたクランプ爪回避凹部85を有する。ニス(被着物)4の付着した用紙2を、排紙部80から紫外線硬化部70を経て用紙回収部90へ搬送する。用紙回収部90は、紫外線硬化部70から排出された用紙2を紙受台92上の所定位置に揃えて載置するために、用紙先端に当接する止めガイド板96と、用紙2の両側を揃える一対の幅ガイド板と、を備える。
【0044】
排紙部80は、無端の穴開きベルト82を備える。穴開きベルト82は、駆動モータ78によって回転駆動されるローラ76を介して、循環しながら移動する。穴開きベルト82は、その上側部分が用紙搬送経路の一部分を構成して、用紙2を用紙搬送経路に沿って移動させる。無端の穴開きベルト82の内部には、用紙2を吸着するためのファンユニット(図示しない)を備えている。穴開きベルト82の上側部分には、複数のクランプ爪79を離間配置している。クランプ爪79は、ニス(被着物)4の付着した用紙2を版胴62(厳密には、版胴62に巻装された製版済み孔版原紙39)から引き剥がすためのものである。クランプ爪79は、版胴62に付着した用紙2の搬送方向の先端部分を掴んで、用紙2を版胴62から強制的に引き剥がす。そして、版胴62から引き剥がされた用紙2を、穴開きベルト82の循環に伴って、紫外線硬化部70へ搬送する。
【0045】
紫外線硬化部70よりも上流側(すなわち塗工部60の側)において、抵抗加熱ヒータ72及び該抵抗加熱ヒータ72の加熱タイミングや加熱時間や加熱温度等を制御する抵抗加熱ヒータ制御回路71を配設している。抵抗加熱ヒータ72を、用紙搬送経路より上側部分に配置しており、抵抗加熱により、用紙2に付着したニス(被着物)4を流動化させるためのものである。抵抗加熱ヒータ72は、ニッケルクロム線等である。抵抗加熱ヒータ72の通電で発生したジュール熱により、ニス(被着物)4を所定温度(例えば40度乃至80度)に昇温して、ニス(被着物)4が熱可塑化して平滑になる。その結果、凹凸の無い平坦な塗工面を得ることができる。
【0046】
抵抗加熱ヒータ72の下流側には、キセノンフラッシュランプ(光源)74及びキセノンフラッシュランプ点灯回路73によって構成される照射装置7を配設している。キセノンフラッシュランプ点灯回路73は、キセノンフラッシュランプ74の点灯タイミングや点灯時間や照射強度等を制御する。キセノンフラッシュランプ(光源)74は、紫外線、可視光線、赤外線等の幅広い波長の電磁波を放射する。照射装置7のキセノンフラッシュランプ(光源)74は、放射される電磁波のうち紫外線に着目すると、紫外線硬化手段として使用することができ、紫外線硬化部(紫外線硬化手段)70を構成する。キセノンフラッシュランプ74を、用紙搬送経路より上側部分に配置しており、ニス(被着物)4の付着した用紙2に対して所定の波長の紫外線を照射することにより、ニス(被着物)4を紫外線硬化させる紫外線硬化手段として使用することができる。
【0047】
なお、照射装置7のキセノンフラッシュランプ(光源)74は、放射される電磁波のうち赤外線に着目すると、製版部30の熱穿孔装置38の光源としても使用することができ、ニス(被着物)4の紫外線硬化手段と熱穿孔装置38の光源とに兼用することができる。すなわち、例えば、赤外線を吸収して発熱する光熱変換材(カーボンブラックを始めとする着色材)を含む光熱変換部を熱可塑性樹脂フィルム36cの熔融すべき部分に形成し、キセノンフラッシュランプ74のフラッシュ光を熱可塑性樹脂フィルム36cに照射すると、フラッシュ光のうち赤外線で光熱変換部を瞬時に加熱熔融して熱穿孔部37を熱可塑性樹脂フィルム36cに形成するという熱穿孔による製版を行うことができる。キセノンフラッシュランプ74は、フラッシュ光の発光時間が短いので、光熱変換部以外の部分がランプ自体の発熱の影響を受けにくいという特長を有している。
【0048】
少なくとも紫外線及び赤外線を含む電磁波を放射する光源としては、市販品が多くあって入手が容易であること、光熱変換部のみを短時間で昇温できること、フラッシュ光の発光回数で硬化や熱穿孔の処理条件を制御できること等の理由で、キセノンフラッシュランプ74が最適である。しかしながら、本発明の光源として、高圧水銀灯やメタルハライドランプ等も使用可能である。その場合、高圧水銀灯やメタルハライドランプと対象物との間に物理的なシャッター開閉機構を介在させて、所定の短時間だけシャッターが開き、それ以外はシャッターを閉じて遮光することにより、熱穿孔による製版を行うことができる。なお、紫外線硬化の場合、所定の光強度及び時間で紫外線を照射すれば紫外線硬化が起こり、長時間にわたって紫外線を照射してもあまり悪影響がないために、必ずしもシャッター機構を設けなくてもよい。
【0049】
キセノンフラッシュランプ74は、内部にキセノンガスを封入したロングアーク型であり、例えば、出力が200ワット、発光時間が16m秒以下、一回のフラッシュ光当たりの発光エネルギーが95mJ/cmである市販品を用いることができる。キセノンフラッシュランプ74は、紫外線硬化対象物又は製版対象物に対して、放射された電磁波を略均一に照射するように構成された反射鏡を備える。
【0050】
上述したように、紫外線硬化の場合、所定の強度及び時間で照射された紫外線により紫外線硬化が起こり、強い強度の紫外線を長時間にわたって照射してもあまり悪影響にはならない。キセノンフラッシュランプ74と紫外線硬化対象物との間の紫外線照射距離は、紫外線硬化対象物の硬化が容易な点で短い方が好ましいが、ニス(被着物)4の塗工面を傷付けない程度の距離に設定する必要がある。
【0051】
これに対して、熱穿孔による製版の場合、所定強度よりも強い赤外線を長時間にわたって照射すれば、キセノンフラッシュランプ74それ自体の発熱の影響を受けて、熱可塑性樹脂フィルム36cが熱皺の発生等の熱変形を引き起こすという問題がある。赤外線は、キセノンフラッシュランプ74と製版対象物との間に介在する空気や二酸化炭素によって吸収されるので、キセノンフラッシュランプ74と製版対象物との間の赤外線照射距離を接近させる方が好ましい。
【0052】
紫外線硬化用と熱穿孔による製版用とにキセノンフラッシュランプ74をそれぞれ設けることもできるし、単一のキセノンフラッシュランプ74を紫外線硬化用と熱穿孔による製版用とに兼ねることもできる。単一のキセノンフラッシュランプ74を紫外線硬化と熱穿孔による製版とに兼用する場合、各用途毎に必要な特性が異なる。そこで、キセノンフラッシュランプ74から放射される電磁波の強弱を調節するための調節手段を備えている。孔版印刷装置10は、紫外線硬化部70及び製版部20において、キセノンフラッシュランプ74に投入するパワーを制御するキセノンランプ点灯制御回路73、又は、キセノンフラッシュランプ74と対象物との間の照射距離を調節する高さ調節機構(図示しない)からなる調節手段を備えている。
【0053】
図2は、孔版印刷装置10の主要部分に関する機能ブロック図である。
【0054】
図2において、制御装置としてのCPU(中央処理演算装置)100は、入力操作部や出力表示部が配置された操作パネル110と、制御プログラム等を記憶したROM(リード・オンリー・メモリ:フラッシュROM)102と、製版に用いる画像データ等を一時的に記憶するRAM(ランダム・アクセス・メモリやハードディスク)104と、各種の入出力装置と、を通じて、孔版印刷装置10における各種の演算処理や判断動作の制御を行っている。図2においては、入出力装置として、例えば、版胴回転駆動装置61と、製版済み孔版原紙39の版胴62への着脱を制御するクランパ開閉装置112と、遮光部材作成装置34及び熱穿孔装置38を備えてなる製版部30と、製版容器供給装置114と、キセノンフラッシュランプ74の点灯時間や点灯タイミング等を制御するタイマ116と、吸引ファン57と、抵抗加熱ヒータ制御回路71と、キセノンフラッシュランプ点灯回路73と、穴開きベルト82等の用紙搬送に係る部材を制御するための用紙搬送回路118と、がそれぞれ接続されている。
【0055】
図1に示した孔版印刷装置10では、遮光部材作成装置34及び熱穿孔装置38を備えてなる製版部30において製版動作を行っている。製版動作の詳細について、図3乃至8を参照しながら説明する。
【0056】
図3の(A)に示すように、原稿7は、ニス(被着物)4を塗工することになる正画像7aと、ニス(被着物)4を塗工することにはならない非正画像7bと、を有している。まず、正画像7a及び非正画像7bを含む原稿7を、スキャナ等の画像読取手段(図示しない)によって読み取り、読み取られた画像は、CPU100により原稿7の画像データに変換される。正画像7a及び非正画像7bに関する画像データは、CPU100により反転したデータに置換されて、図3の(B)に示すような、反転した正画像7a’及び反転した非正画像7b’を有する反転した原稿の画像7’に関するデータが作成される。そして、反転した正画像7a’及び反転した非正画像7b’を有する反転した原稿の画像7’のデータは、それぞれ、RAM104に記憶される。
【0057】
次に、反転した正画像7a’及び反転した非正画像7b’を有する反転した原稿の画像データ7’を用いながら、図4に示す遮光部材作成装置34により、遮光部材26を作成する。図4に示した遮光部材作成装置34は、密着ローラ21により遮光性インクリボン23をサーマルヘッド24に当接させて、遮光性インクリボン23の遮光性インク23bをサーマルヘッド24により透光性樹脂シート体26aに熱転写するものである。すなわち、遮光性インクリボン23は、透光性樹脂フィルム23aの上に遮光性インク23bを被着させたものである。
【0058】
遮光性インクリボン23としては、例えば、公知の熱溶融転写型インクリボンを用いることができる。遮光性インクリボン23は、透光性樹脂フィルム23aと、この透光性樹脂フィルム23aの上に形成された離型層(ワックス材料が大部分を占める層)と、この離型層の上に形成された遮光性インク23bと、前記透光性樹脂フィルム23aの下面(前記離型層が形成された面の反対側の面)に形成されたバックコート層と、を備えている。透光性樹脂フィルム23aとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、セロハン、ポリカーボネイト、ポリ塩化ビニル、ポリイミドなどを用いることができる。当該透光性樹脂フィルム23aの厚さは、例えば、1乃至15μm程度であるが、機械的強度や転写感度などの点から1乃至6μmの範囲が好ましい。
【0059】
遮光性材料としての遮光性インク23bは、熱可塑性樹脂及び着色剤を主成分とする。熱可塑性樹脂としては例えば、、石油樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレンなどが単独または混合して使用される。後述するキセノンフラッシュランプ74からの閃光を遮光するための着色剤としては、種々の公知の顔料、および公知の染料を用いることができる。遮光するための着色としては、黒、マゼンタ、シアン、イエロー及びそれらを適宜に組合せた色を用いることができる。着色剤としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、アンスラキノン系、イソインドリン系、カーボンブラックなどの顔料が挙げられる。これらは、2種以上組み合わせて使用することも可能である。
【0060】
また、遮光性インクリボン23としては、昇華性染料を用いた公知の昇華転写型インクリボンを用いることもできる。この場合、昇華性染料の転写により遮光部26bを透光性樹脂シート体26aの上に形成する。
【0061】
図4において右側から左側に搬送される透光性樹脂シート体26aの動きに同期して、一方のロール22に巻回された遮光性インクリボン23を他方のロール28に巻回させて遮光性インクリボン23を図4の右側から左側に搬送する。このとき、図3の(B)に示した反転した非正画像7b’に対応する部分においては、透光性樹脂フィルム23a上に被着した遮光性インク23bをサーマルヘッド24により透光性樹脂シート体26aに熱転写する。その結果、図5に示すような、透光性樹脂シート体26aの上に遮光部26b及び透光部26cの形成された遮光部材26が作成される。
【0062】
図5の遮光部材26において、遮光性インク23bの熱転写された部分(図3の(B)の反転した非正画像7b’に対応する部分)は、遮光部26bを構成し、遮光性インク23bの熱転写されない部分(図3の(B)の反転した正画像7a’に対応する部分)は、透光部26cを構成する。言いかえれば、図4における遮光部26b及び透光部26cは、それぞれ、図3の(A)における非正画像7b及び正画像7aに対応している。
【0063】
遮光部材26における透光性樹脂シート体26aは、後述する孔版原紙36の熱可塑性樹脂フィルム36cと同じであるか又は類似した特性を持った透光性樹脂のシート又はフィルムであって、後述する熱可塑性樹脂フィルム36cよりも肉厚であるように構成されている。透光性樹脂シート体26aは、好適には、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)シートとして広く使用されているものである。OHPシートとしては、例えば、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロハン、ポリカーボネート、酢酸セルロース等の合成樹脂からなるシート又はフィルムを挙げることができる。透光性樹脂シート体26aの厚みは、例えば、50μm乃至200μmであり、好ましくは100μm程度である。
【0064】
また、遮光部材26としては、遮光性材料としての遮光性インク23bを透光性樹脂フィルム23aの上に被着させた遮光性インクリボン23を用いて用紙等の他の被着対象物に熱転写を行い、透光性樹脂フィルム23aから遮光性インク23bを除去した遮光性インクリボン23を用いることができる。遮光性インク23bを除去した遮光性インクリボン23において、遮光性インク23bの残存している部分が図3の(A)における非正画像7bに対応した遮光部26bであり、遮光性インク23bの除去された部分が図3の(A)における正画像7aに対応した透光部26cである。
【0065】
さらに、遮光部材26は、トナーを用いた電子写真式の画像形成装置(図示しない)を用いて、図3の(A)における非正画像7bに対応したトナーの遮光部26bを透光性樹脂シート体(OHPシート)26a上に定着(熱融着)させることにより作成するようにしてもよい。
【0066】
さらにまた、遮光部材26は、着色用の染料又は顔料を含むインク(遮光性材料)の微小な液滴を噴射するインクジェット式の画像形成装置(図示しない)を用いて、図3の(A)における非正画像7bに対応した遮光部26bを透光性樹脂シート体(OHPシート)26a上に被着させることにより作成するようにしてもよい。この場合、透光性樹脂シート体(OHPシート)26aとしては、ベースとなる透光性樹脂シートの上に、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルビロリドンやセルロース誘導体等の親水性樹脂からなるインク受容層を形成したインクジェット専用のOHPシートを用いることが好適である。
【0067】
次に、図6に示すように、光熱変換部材として、接着剤36bを介して、メッシュ状支持体36aの上に熱可塑性樹脂フィルム36cを貼着した未製版の孔版原紙(メッシュフィルム)36を作成する。
【0068】
未製版の孔版原紙(メッシュフィルム)36は、メッシュ状支持体36aと接着剤36bと熱可塑性樹脂フィルム36cとを備える積層構造をしている。メッシュ状支持体36aには、複数のメッシュ開口をマトリックス状に規則的に形成している。接着剤36bにより、熱可塑性樹脂フィルム36cをメッシュ状支持体36aに一体的に貼着している。接着剤36bと反対側に位置する熱可塑性樹脂フィルム36cの表面の上には、フッ素系の融着防止剤をコーティングしている。
【0069】
メッシュ状支持体36aに貼着する熱可塑性樹脂フィルム36cとしては、熱穿孔工程において熱エネルギーを付与された部分が溶融収縮して、所望の穿孔パターンを形成するものが使用できる。熱可塑性樹脂フィルム36cの素材としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンまたはその共重合体である。熱穿孔性の点からポリエステルが好適である。ポリエステルとしては、共重合ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートと1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体を例示することができる。熱可塑性樹脂フィルム36cは二軸延伸されている。熱可塑性樹脂フィルム36cの厚みは、通常0.1乃至10μmであり、好ましくは0.1乃至5μm、より好ましくは0.1乃至3μmである。0.1μmより薄いと、メッシュ状支持体36aと熱可塑性樹脂フィルム36cとをラミネートするのが困難であり、製版時での熱融着等により破れてしまうこともある。10μmより厚くなると熱穿孔性が低下する。なお、熱可塑性樹脂フィルム36cは1層でも良いし、2層、3層以上の多層状でも良い。
【0070】
熱可塑性樹脂フィルム36cを貼着するメッシュ状支持体36aは、印刷時にインキが通過することが可能であり且つ熱穿孔工程において溶融や変形を起こないものを用いることができる。メッシュ状支持体(スクリーン紗)36aの素材としては、例えば、ポリエステル系の繊維を好ましくは用いることができるが、例えば、ビニロン系、ウレタン系の繊維、絹、綿、ポリアミド系合成繊維、レーヨン、ステンレス等も用いることができる。メッシュ状支持体36aのメッシュサイズは、60メッシュから400メッシュ程度のものが好ましい。
【0071】
メッシュ状支持体36aと熱可塑性樹脂フィルム36cとを貼着する接着剤36bとしては、熱可塑性樹脂フィルム36cの熱穿孔性を阻害しないで、また使用するインクの溶剤に溶解しないものを用いることができる。接着剤36bとしては、例えば、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン/マレイン酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等を好適に用いることができる。
【0072】
熱可塑性樹脂フィルム36c及び/又は接着剤36bには、ある波長の光を吸収して発熱する光熱変換材としての顔料や染料が添加されている。当該光熱変換材により熱可塑性樹脂フィルム36c及び/又は接着剤が着色している。具体的には、赤外線の光を吸収して発熱する色に着色されている。より具体的には、赤外線によって発熱する色は、例えば、黒色、黄色、オレンジ色、褐色、赤色、紫色、青色、緑色であり、好ましくは、黒色である。
【0073】
顔料の種類としては、例えば、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が使用可能である。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等を用いることができる。これらの顔料のうち、好ましいものはカーボンブラックである。熱可塑性樹脂フィルム36c及び/又は接着剤36bに顔料を分散する方法としては、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術を用いることができる。
【0074】
波長760〜1200nmに吸収極大を有する赤外線吸収色素(染料)としては、例えば、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等を用いることができる。赤外線吸収色素(染料)のうち、好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素を挙げることができる。
【0075】
なお、光熱変換材の添加が容易であり、光熱変換材の添加が特性変化に影響を及ぼしにくいという点から、光熱変換材を接着剤36bに添加することがより好適である。
【0076】
次に、図7及び8を参照しながら、遮光部材26を光熱変換部材36に重ね合わせた積層体46を作成する積層体作成と、遮光部材26の側から積層体46に赤外線を照射して熱可塑性樹脂フィルム36cに熱穿孔を形成する熱穿孔形成と、をそれぞれ説明する。
【0077】
図7に示すように、遮光部材26の透光性樹脂シート体26aを光熱変換部材36の熱可塑性樹脂フィルム36cに対して厚み方向に重ね合わることにより積層体46を作成する。当該積層体46では、遮光性材料によって形成された遮光部26bと反対側の非遮光面を、光熱変換部材36の熱可塑性樹脂フィルム36cに密接させた状態で積層している。このような積層構造によれば、遮光部材26と光熱変換部材36とを隙間無く密接させることができ、鮮明な孔版印刷を可能にする。
【0078】
そして、積層体46のうち、遮光部26bの側において、少なくとも赤外線を放射する光源としてのキセノンフラッシュランプ74を配置している。キセノンフラッシュランプ74は、放射される電磁波のうち赤外線の放射に着目した赤外線放射光源である。キセノンフラッシュランプ74のフラッシュ光を熱可塑性樹脂フィルム36cに照射すると、フラッシュ光の赤外線が、積層体46の遮光部26bの部分では遮光されるものの、積層体46の透光部26cの部分では透過する。透光部26cの部分を透過した赤外線は、光熱変換部材36において、光熱変換材を含む部分を瞬時に加熱する。図7に示した積層体46では、光熱変換材を接着剤36bに添加しているので、赤外線が接着剤36bの部分を加熱する。加熱された接着剤36bを含む部分の熱が熱可塑性樹脂フィルム36cに伝わって、熱可塑性樹脂フィルム36cを加熱熔融する。熱可塑性樹脂フィルム36cのうち、加熱熔融された部分に熱穿孔を形成する。すなわち、熱可塑性樹脂フィルム36cのうち、透光部26cに対応した部分に熱穿孔を形成することができる。
【0079】
熱穿孔前の熱可塑性樹脂フィルム36cにおいては、一面が透光性樹脂シート体26aに密接するとともに他面が接着剤36bに接着した状態にある。熱可塑性樹脂フィルム36cに熱穿孔を形成する過程で、接着剤36bが加熱されることにより、接着剤36bの接着力が低下する。他方で、透光性樹脂シート体26aに接合していた熱可塑性樹脂フィルム36cの熱融着部29が、透光性樹脂シート体26aに融着するので、熱可塑性樹脂フィルム36cの熱融着部29が、透光性樹脂シート体26aに強固に結合している。すなわち、熱穿孔後においては、熱融着部29の透光性樹脂シート体26aへの融着力が、接着剤36bのメッシュ状支持体36aへの接着力より勝るようになっている。
【0080】
したがって、熱穿孔後において、図7に示した積層体46を厚み方向に引き離すと、図8に示すように、熱可塑性樹脂フィルム36cの熱融着部29が透光性樹脂シート体26aに融着した状態で、遮光部材26が光熱変換部材36から引き離されて、製版済み孔版原紙39が得られる。したがって、製版済み孔版原紙39においては、接着剤36bがメッシュ状支持体36aにほとんど付着していないために、所望とするメッシュ開口を持った熱穿孔部37を形成することができ、鮮明な孔版印刷が可能になる。
【0081】
次に、本発明の一実施形態に係る孔版印刷装置10を用いた、用紙2へのニス(被着物)4の孔版印刷方法について説明する。
【0082】
図4に示すような、遮光性インクリボン23を用いた熱転写式の遮光部材作成装置34を用いて、透光性樹脂シート(OHPシート)26aの上に遮光部26bを形成した遮光部材26を作成する。図7に示すように、遮光部26bの形成された遮光部材26と、未製版の孔版原紙36とを密着積層させた積層体46を作成する。このとき、透光性樹脂シート(OHPシート)26aの面が、熱可塑性樹脂フィルム36cに密着している。そして、キセノンフラッシュランプ74を点灯させ、遮光部材26の遮光部26bの側から積層体46に赤外線を照射すると、熱可塑性樹脂フィルム36cを熱穿孔して、製版済み孔版原紙39を作成することができる。当該製版済み孔版原紙39を版胴62の外周面上に巻装する。
【0083】
傾斜したスキージブレード64と版胴62の内周面との間に、所定量のニス(被着物)4を供給する。版胴62を回転させたあと、スキージブレード64及び密着ローラ83を、それぞれ版胴62の内周面及び製版済み孔版原紙39に密着させるように移動させる。版胴62の回転により、傾斜したスキージブレード64が版胴62の内周面上のニス(被着物)4を掻き出すと、ニス(被着物)4を、版胴62に押し付けて版胴62の通過開口に充填する。通過開口に充填されたニス(被着物)4を、さらに、製版済み孔版原紙39のメッシュ開口及びその周辺部に充填する。そして、メッシュ開口及びその周辺部に充填されたニス(被着物)4を、熱穿孔部37から押し出す。
【0084】
給紙装置から一枚の用紙2を、製版済み孔版原紙39の巻装された版胴62の下部位置に搬送すると、製版済み孔版原紙39と密着ローラ83との間で用紙2を挟持する。このとき、用紙2が製版済み孔版原紙39に密着する。メッシュ開口及びその周辺部に充填されたニス(被着物)4が、熱穿孔部37から押し出されるとともに、ニス(被着物)4の付着力により用紙2に被着(付着)する。
【0085】
穴開きベルト82上のクランプ爪79は、製版済み孔版原紙39の円周方向に形成された製版領域のニス(被着物)4を転写した用紙2の搬送方向の先端部分を掴んで、用紙2を版胴62から強制的に引き剥がして、穴開きベルト82上に排出する。排出された用紙2を抵抗加熱ヒータ72で加熱して、ニス(被着物)4を流動化させて、用紙2の上に塗布されたニス(被着物)4の表面を平滑にする。そのあと、キセノンフラッシュランプ74で用紙2に紫外線を照射して、用紙2の上に塗布されたニス(被着物)4を硬化・定着させる。硬化・定着した用紙2を、用紙回収部90の紙受台92上の所定位置に揃えて載置する。
【0086】
本発明の一実施形態によれば、キセノンフラッシュランプ74から放射された赤外線が、遮光部材26のうち、遮光部26bにおいては遮光されるが、透光部26cにおいては透過して、光熱変換材を含む接着剤36bに照射される。接着剤36bに含まれる光熱変換材が赤外線を吸収することにより、接着剤36bを加熱する。そして、接着剤36bの熱により、熱可塑性樹脂フィルム36cのうち、透光部26cに対応する部分を熱熔融する。そして、熱可塑性樹脂フィルム36cのうち、熱融着部29が、遮光部材26に融着してメッシュ状支持体36aから離れることにより、製版済み孔版原紙39において熱穿孔部37を形成する。熱融着部29が遮光部材26に融着するために、メッシュ状支持体36aには熱融着部29の残渣が残らないので、所望とするメッシュ開口を形成することができる。したがって、鮮明な孔版印刷を可能とするという効果を奏する。
【0087】
なお、紫外線及び赤外線を含む電磁波を放射するキセノンフラッシュランプ74を、製版済み孔版原紙39の作成と、用紙2の上に塗布された紫外線硬化型ニス(被着物)4の硬化との両方に用いることにすれば、低コスト化及び装置の小型化が可能になるという効果を奏する。
【0088】
なお、本発明で使用されるニス(被着物)4は、熱可塑性を有するとともに紫外線で硬化する組成物である。紫外線硬化型組成物は、紫外線重合性化合物、光開始剤を必須成分とし、さらに必要に応じて、着色顔料や分散剤や溶剤や熱可塑性ゲル化剤等を含んでいる。本発明を限定しない紫外線重合性化合物としては、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する化合物が用いられ、具体的には、比較的低分子量のポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、又はポリブタジエン樹脂を例示することができる。
【0089】
上記実施形態では、印刷済みの用紙2の上にコーティングを行うためのニスであるとして被着物4を説明している。被着物4がニスである場合、用紙2の上の印刷物を視認することができるように、被着物4は一般に透明又は半透明である。印刷済みの用紙2に対してニスをコーティングすることにより、印刷済みの用紙2の保護や、光沢(ツヤ)を持った意匠を実現することができる。また、文字や図柄等が印刷された用紙2において、印刷された文字や図柄等の所定箇所のみをニス(被着物)4で部分的にコーティングすることにより、文字や図柄等を浮き上がらせたり光沢を付与したりすることができる。なお、用紙2の上の印刷物を視認不可とするために、着色顔料等を含んだ不透明な被着物4を用いることもできる。
【0090】
被着物4としてのニスは、インキに置き換えることができる。被着物4が用紙2の上に立体的な印刷を行うためのインキである場合、被着物4は黒色や各種カラーの着色顔料により着色されている。用紙2に対してインキを厚塗りで印刷することにより、立体的な印刷物を提供することができる。したがって、被着物4は、コーティング用のニス、印刷用のインキ、立体感のある模様形成等の幅広い用途に使用することができる。
【0091】
そして、被着物4としては、溶剤からなるあるいは樹脂と溶剤とを含む油相に水滴を微分散させたW/Oエマルションインキ等も使用可能である。
【0092】
図9に示した従来技術に係る製版方法では、原稿126上に被着したカーボン126bを光熱変換材として用いているので、カーボン126bの含有量や濃度、温度特性が感熱フィルム136cの熱穿孔状態に影響を及ぼして、製版が不安定になりやすい。安定した製版を行うためには、感熱フィルム136cへの熱穿孔に適したインクやトナーの選択が必要となる。これに対して、本願発明では、孔版原紙36を光熱変換材として用いているので、原稿7上に被着したカーボンの含有量や濃度、温度特性が孔版原紙36の熱穿孔状態に影響を及ぼすことがなく、安定した製版が可能となる。さらに、遮光部26bを形成するために用いる遮光性インクリボン23の遮光性インク23bやインクジェット式画像形成装置のインク、電子写真式画像形成装置のトナー等の含有量や濃度、温度特性が、孔版原紙36の熱穿孔状態に影響を及ぼすことがないので、安定した製版が可能である。
【0093】
なお、本発明を理解しやすくするために、具体的な構成や材料や数値を用いて説明したが、これらはあくまでも例示であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲内において、種々の実施形態や変形例を構成することができることは、当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0094】
2:用紙
4:ニス(被着物)
7:原稿
7’:反転した原稿の画像
10:孔版印刷装置
12:装置本体
26:遮光部材
26a:透光性樹脂シート体
26b:遮光部
26c:透光部
29:熱融着部
30:製版部
34:遮光部材作成装置
36:未製版の孔版原紙(光熱変換部材)
36a:メッシュ状支持体
36b:接着剤
36c:熱可塑性樹脂フィルム
37:熱穿孔部
38:熱穿孔装置
39:製版済み孔版原紙(光熱変換部材)
46:積層体
50:用紙供給部
60:塗工部
62:版胴
64:スキージブレード
74:キセノンフラッシュランプ
80:排紙部
83:密着ローラ
90:用紙回収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着物を被着させる正画像に対応する透光部と、前記被着物を被着させない非正画像に対応する遮光部と、を備える遮光部材を作成する遮光部材作成ステップと、
接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムを備え、少なくとも前記接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムの一方に光熱変換材を含み、前記接着剤を介して、複数の微小なメッシュ開口を有するメッシュ状支持体上に前記熱可塑性樹脂フィルムを貼着した光熱変換部材を作成する光熱変換部材作成ステップと、
前記遮光部材を前記光熱変換部材の熱可塑性樹脂フィルムに対して重ね合わせた積層体を作成する積層体作成ステップと、
少なくとも赤外線を放射する光源を用いて、前記遮光部材の側から前記積層体を露光することにより、前記熱可塑性樹脂フィルムのうち、前記透光部に対応する部分を熱穿孔する熱穿孔ステップと、を備え、
前記熱穿孔ステップにおいて、前記熱可塑性樹脂フィルムの熱穿孔された部分が、前記遮光部材に融着することを特徴とする製版方法。
【請求項2】
前記光源は、キセノンフラッシュランプであることを特徴とする、請求項1に記載の製版方法。
【請求項3】
前記遮光部材は、前記光源による露光によっても熱穿孔しないような樹脂シート体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製版方法。
【請求項4】
前記遮光部材は、前記熱可塑性樹脂フィルムと同じであるか又は類似した特性を持った樹脂シート体であって、前記熱可塑性樹脂フィルムよりも肉厚であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の製版方法。
【請求項5】
前記接着剤が前記光熱変換材を含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の製版方法。
【請求項6】
前記遮光部材作成ステップにおいて、前記遮光部は、透光性樹脂シート体の上に遮光性材料を被着させることによって形成することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の製版方法。
【請求項7】
前記積層体作成ステップにおいて、前記遮光部を設けた面と反対側の面を、前記光熱変換部材の熱可塑性樹脂フィルムに当接させた状態で積層することを特徴とする、請求項6に記載の製版方法。
【請求項8】
前記遮光部材作成ステップにおいて、透光性樹脂フィルムの上に遮光性インクを被着させた遮光性インクリボンを用いて熱転写を行い、透光性樹脂フィルムから遮光性インクを除去することにより、前記遮光性インクリボンを遮光部材として用いることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の製版方法。
【請求項9】
前記遮光部材作成ステップにおいて、透光性樹脂フィルムの上に遮光性インクを被着させた遮光性インクリボンを用いて、透光性樹脂シート体の上に遮光性インクを熱転写させることにより、前記透光性樹脂シート体を遮光部材として用いることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の製版方法。
【請求項10】
前記遮光部材作成ステップにおいて、透光性樹脂シート体の上にトナーを熱融着させることにより、前記遮光部材の作成を行うことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の製版方法。
【請求項11】
前記遮光部材作成ステップにおいて、透光性樹脂シート体の上に遮光性インクを吹き付けることにより、前記遮光部材の作成を行うことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の製版方法。
【請求項12】
前記被着物は、印刷済み用紙の表面をコーティングするためのニス、又は用紙の表面を印刷するためのインキであることを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか一つに記載の製版方法。
【請求項13】
前記光源は紫外線も放射するとともに、前記被着物は紫外線硬化型被着物であることを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか一つに記載の製版方法。
【請求項14】
被着物を被着させるべく正画像に対応する透光部と、前記被着物を被着させない非正画像に対応する遮光部と、を備える遮光部材を作成する遮光部材作成手段と、
接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムを備え、少なくとも前記接着剤及び熱可塑性樹脂フィルムの一方に光熱変換材を含み、前記接着剤を介して、複数の微小なメッシュ開口を有するメッシュ状支持体上に前記熱可塑性樹脂フィルムを貼着した光熱変換部材を作成する光熱変換部材作成手段と、
前記遮光部材を前記光熱変換部材の熱可塑性樹脂フィルムに対して重ね合わせた積層体に対して、前記遮光部材の側から少なくとも赤外線を放射する光源と、を備え、
前記光源からの赤外線照射により、前記熱可塑性樹脂フィルムのうち、前記透光部に対応する部分を熱穿孔し、
前記熱可塑性樹脂フィルムの熱穿孔された部分が、前記遮光部材に融着することを特徴とする製版装置。
【請求項15】
前記請求項14に記載された製版装置により製版された製版済み孔版原紙と、
前記孔版原紙を円筒状周壁の外周面上に巻装する版胴と、
前記版胴の内周面に摺接して、前記版胴の内周面との間に供給された被着物を押し出すスキージブレードと、
前記版胴及び前記孔版原紙を介して前記スキージブレードに対向配置されて、搬送される用紙を前記版胴に巻装された前記孔版原紙に密着させる密着ローラと、
少なくとも赤外線を含む電磁波を放射する光源と、
を備え、
前記版胴及び孔版原紙から押し出された前記被着物を前記用紙上に被着させることを特徴とする孔版印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−101416(P2012−101416A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250894(P2010−250894)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(390002129)デュプロ精工株式会社 (351)
【Fターム(参考)】