説明

製紙用多重織シーム付きフェルト及びその製造方法

【課題】厚さ方向に重なり合う複数本の経糸の折り返しにより丈方向の端部に厚さ方向に複数のループ列が形成された基布を有する製紙用多重織シーム付きフェルトにおいて、製造工程を煩雑化させることなく、接合作業の作業性を向上させると共に、基布の物性が全体的に概ね均一となるようにする。
【解決手段】基布1が、織物組織の基本パターンを構成する緯糸13・14とは異なる緯糸19を地部に追加して、この緯糸が、ループ8・9の各々を端部に備えた複数の織物層15・16を織り合せる接結糸となるように多重織で織り上げられて、接結糸を配さないループの近傍に、織物層が互いに分離独立した分離部が設けられたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さ方向に重なり合う複数本の経糸の折り返しにより丈方向の端部に厚さ方向に複数のループ列が形成された基布を有する製紙用多重織シーム付きフェルト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抄紙機への掛け入れ作業性を向上させるため、有端のフェルトをフェルトランに引き込んだ上でその両端部を互いに接合して無端とする、いわゆるシーム付きフェルトが広く普及している。この種のシーム付きフェルトでは、基布を構成する経糸を厚さ方向に折り返して丈方向の両端部にループを形成し、その両端部のループを互いの中心孔が整合するように交互にかみ合わせて形成された共通孔に芯線を通すことで、両端部を接合するようにした構成が一般的である。
【0003】
また、湿紙のプレス工程で使用される製紙用フェルトにおいては、要求条件の1つに、抄紙条件に応じた所要の厚みが圧縮下で必要とされ、特に高い搾水性を確保する目的で空隙容積が大きくなるように、経糸を三重あるいは四重に配した構成の基布が採用されることがあり、織機で別々に織り上げられた複数枚の織物を重ね合わせたラミネート構造の基布(特許文献1参照)や、織機で多重織で織り上げた多重織構造の基布(特許文献2参照)が知られている。
【特許文献1】特許第2678611号公報
【特許文献2】特公昭63−38467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、前記のような多重構造のシーム付きフェルトでは、ループにより接合されたシーム部と地部との間の構造上の違いに起因して生じるシームマークなどの低減や、シーム部の接合強度の向上などを目的として、厚さ方向に重なり合う複数本の経糸を利用して丈方向の端部に厚さ方向に複数のループ列を形成する構成が採用されることがある。
【0005】
この場合、前記のラミネート構造の基布では、複数枚の織物ごとに設けられたループ列の位置関係が幅方向で一定でないと、ループによる接合作業の作業性が著しく低下する不都合が生じることから、複数のループ列の位置関係を幅方向について一定に保つために、複数枚の織物をミシンやピンシームで縫い合わせる縫合工程が機織とは別に必要となり、特に基布全体を一定間隔で縫い合わせるための特殊な設備が必要になり、また工数が嵩む難点がある。
【0006】
他方、多重織構造の基布では、ループを形成する複数本の経糸に緯糸を絡合させて一体化した織物組織で基布全体が均一に織り上げられており、ループ列の近傍では、1つのループ列を形成する経糸が、別のループ列を形成する経糸に絡み合う緯糸により拘束されるため、複数のループ列を互いに大きく引き離すことができない。このため、ループに芯線を挿通する作業が面倒になり、フェルト製作段階での芯線交換の際に行われる接合作業の作業性が著しく低下する不都合がある。また、ループの直近まで経糸が一体化されていると、幅方向に並んだ複数のループの形状が不揃いになり、抄紙機への掛け入れ作業性が低下する不都合がある。
【0007】
そこで、製造工程を煩雑化させることなく、接合作業の作業性を向上させることを目的として、本件出願人は先の特許出願(特願2005−335556)にて、ループ列の近傍に、そのループ列の各々を端部に備えた織物層が互いに分離独立した分離部が設けられた製紙用多重織シーム付きフェルトを提案したところであるが、ここでは、織物組織の基本パターンを構成する緯糸の1つを、織物層を織り合せる接結糸としたため、基本パターンの繰り返しに応じて接結糸が高い密度で存在し、接結糸を抜き取ることで分離部を形成する方法では、分離部と地部との間に多少の物性上の違いが生じてしまう不都合がある。
【0008】
また、接結糸となる緯糸を分離部において織物層を接結しないように他の綾金に通し直す方法もあり、この方法では、地部と分離部との間の物性上の違いを小さく抑えることが可能であるが、この場合、他の綾金に通し直す面倒な作業が必要になり、製造工程の煩雑化を避ける要望を十分に満足することができない。
【0009】
本発明は、このような発明者の知見に基づき案出されたものであり、その主な目的は、厚さ方向に重なり合う複数本の経糸の折り返しにより丈方向の端部に厚さ方向に複数のループ列が形成された基布を有する製紙用多重織シーム付きフェルトにおいて、製造工程を煩雑化させることなく、接合作業の作業性を向上させると共に、基布の物性が全体的に概ね均一となるようにすることができるように構成された製紙用多重織シーム付きフェルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明においては、請求項1に示すとおり、厚さ方向に重なり合う複数本の経糸の折り返しにより丈方向の端部に厚さ方向に複数のループ列が形成された基布を有する製紙用多重織シーム付きフェルトにおいて、前記基布が、織物組織の基本パターンを構成する緯糸とは異なる緯糸を地部に追加して、この緯糸が、複数の前記ループ列の各々を端部に備えた複数の織物層を織り合せる接結糸となるように多重織で織り上げられて、前記接結糸を配さない前記ループ列の近傍に、複数の前記織物層が互いに分離独立した分離部が設けられたものとした。
【0011】
これによると、端部にループ列を備えた織物層がループ列の近傍で互いに分離独立しているため、複数のループ列を互いに大きく引き離すことが可能になり、ループをかみ合わせて芯線を通す接合作業が容易になり、接合作業の作業性を向上させることができる。また、幅方向に並んだ複数のループの形状を均一化させることができるため、抄紙機への掛け入れ作業性も向上する。
【0012】
そして、多重織で地部が織り上げられるため、ラミネート構造のように織機で別々に織り上げられた複数枚の織物を縫い合わせる縫合工程が不要となることから、基布全体を縫合するための特殊な設備を必要とせず、且つ工数を削減することができる。さらに、分離部を除く基布の大部分が一体化した状態で製織されるため、フェルト製作中にループ列の位置関係を一定に保つことが容易になる。
【0013】
特に、接結糸が織物組織の基本パターンを構成しないため、接結糸の配置位置及び本数を必要に応じて任意に設定することが可能になる。このため、地部での接結糸の密度を低くすることができ、これにより地部と分離部との物性の違いを小さく抑えて、基布全体で概ね均一な物性とすることができる。しかも、分離部では当初から接結糸が存在しない態様で製織することができるため、他の綾金に通し直す面倒な作業も不要になり、製造工程の煩雑化を避けることができる。
【0014】
この場合、接結糸には、他の緯糸と同一の糸材を用いることも可能であるが、接結糸が織物組織の基本パターンを構成しないことから、他の緯糸と異なる糸材に変更することも容易である。特に接結糸に他の緯糸より小径な糸材を用いると、接結糸による基布の物性に及ぼす影響を小さく抑えることができる。また接結糸は、モノフィラメント糸も可能であるが、多数のフィラメントを束ねたマルチフィラメント糸、ステープルを紡いで得られる紡績糸、並びにマルチフィラメント糸や紡績糸を撚り合わせた撚糸などの集合糸材からなるものも可能である。
【0015】
前記製紙用多重織シーム付きフェルトにおいては、請求項2に示すとおり、前記接結糸が、要求される接結強度に応じて前記地部に不均一な間隔で配置された構成とすることができる。これによると、接結糸の本数を必要最小限に抑えて、地部と分離部との物性の違いをより一層小さくすることができる。
【0016】
この場合、例えば分離部に隣接して接結糸を密に配置した密接結糸領域を設けた構成とすると良い。これにより、ループ列の近傍において複数の織物層が強固に一体化されるため、複数のループ列の位置関係を確実に保持することができる。さらに密接結糸領域に隣接して接結糸を粗に配置した粗接結糸領域を設けた構成とすると良い。これにより、密接結糸領域の境界部分で物性が大きく変化することを避けることができる。
【0017】
また本発明においては、請求項3に示すとおり、厚さ方向に重なり合う複数本の経糸の折り返しにより丈方向の端部に厚さ方向に複数のループ列が形成された基布を、前記経糸を織機上で打込み糸として、緯糸を織機上で整経糸として織り上げる製紙用多重織シーム付きフェルトの製造方法において、織物組織の基本パターンを構成する緯糸となる通常整経糸とは別の追加整経糸を地部に配して、この追加整経糸が、複数の前記ループ列の各々を端部に備えた複数の織物層を織り合せる接結糸となるように前記基布を多重織で織り上げて、前記追加整経糸を配さない前記ループ列の近傍に、複数の前記織物層が互いに分離独立した分離部を設けるようにした。
【0018】
これによると、接結糸が織物組織の基本パターンを構成しないため、接結糸の配置位置及び本数を必要に応じて任意に設定することが可能になる。このため、地部での接結糸の密度を低くすることができ、これにより地部と分離部との物性の違いを小さく抑えて、基布全体で概ね均一な物性とすることができる。しかも、分離部では当初から接結糸が存在しない態様で製織することができるため、他の綾金に通し直す面倒な作業も不要になり、製造工程の煩雑化を避けることができる。
【0019】
この場合、接結糸となる追加整経糸は、織物組織の基本パターンを構成する緯糸となる通常整経糸の綜絖とは別の綜絖に通すようにすれば良い。
【0020】
前記製紙用多重織シーム付きフェルトの製造方法においては、請求項4に示すとおり、前記接結糸となる追加整経糸を、前記通常整経糸の給糸体とは独立した給糸体から供給する構成とすることができる。これによると、給糸体の巻き付け本数の変更や入れ替えなどの面倒な作業が不要になり、製造工数を削減することができる。
【0021】
本発明では、織物組織の基本パターンを構成しない接結糸となる追加整経糸を追加することにより整経糸の給糸形態が変則的になり、構成の異なる基布や構成が同じでも織り幅の異なる基布を同一の織機で製織する際には、給糸体の巻き付け本数の変更や入れ替えなどの作業が必要になるが、前記のように追加整経糸を通常整経糸の給糸体とは独立した給糸体から供給する構成とすると、追加整経糸の給糸体の取り扱いのみで対応することができる。
【0022】
前記製紙用多重織シーム付きフェルトの製造方法においては、請求項5に示すとおり、前記接結糸が、所定の液体に溶解可能な材料からなり、ニードリング工程の後に当該接結糸を前記液体中に溶出させて除去する構成とすることができる。これによると、完成品のフェルトに接結糸が存在しないため、基布全体の均一性をより一層向上させることができる。
【0023】
また、ニードリング工程の後に接結糸を除去するようにすると、ニードリング工程では接結糸が存在するため、ループの位置関係が確実に保持されており、またニードリング後は不織繊維層の形成繊維が基布に絡み付いて織物層が強固に一体化されることから、接結糸の有無に関係なくループの位置関係が確実に保持されるため、ループの位置関係がずれることはない。
【0024】
この場合、接結糸は、取り扱い易さの観点から水溶性高分子材料からなるものが好適であり、ニードリング工程の後に行われる洗浄工程で接結糸を洗浄水中に溶出させて除去するようにすると良い。また、接結糸は、有機溶剤に溶解可能な高分子材料からなるものも可能であり、有機溶剤には、フェルトの構成材料(ポリアミドや羊毛など)に対して化学的に安定で脆化などの悪影響を与えないものを採用する。
【発明の効果】
【0025】
このように本発明によれば、接結糸が織物組織の基本パターンを構成しないため、地部での接結糸の密度を低くすることができ、これにより地部と分離部との物性の違いを小さく抑えて、基布全体で概ね均一な物性とすることができる。しかも、分離部では当初から接結糸が存在しない態様で製織することができるため、他の綾金に通し直す面倒な作業も不要になり、製造工程の煩雑化を避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明によるシーム付きフェルトの一例を示す丈方向の断面図である。このシーム付きフェルトは、基布1に不織繊維層2を積層一体化してなるものであり、基布1は、織機上での第1の打込み糸で形成される第1・第2の経糸3・4と、第2の打込み糸で形成される第3・第4の経糸5・6とを有し、これら第1〜第4の4本の経糸3〜6が厚さ方向に重ねて設けられた四重織の織物組織をなしている。
【0028】
第1〜第4の経糸3〜6のうちの製紙面17側の第1・第2の経糸3・4となる第1の打込み糸の折り返しにより丈方向の両端部にループ8が形成され、また、製紙面17と相反する走行面18側の第3・第4の経糸5・6となる第2の打込み糸の折り返しにより丈方向の両端部にループ9が形成されており、これらのループ8・9は、フェルトの幅方向に多数配列されてループ列を構成し、接合相手となるループ8・9と互いの中心孔が整合するように交互にかみ合わされ、これにより形成された共通孔に接合用芯線10・11が幅方向に挿通されてフェルトの両端部が接合される。
【0029】
製紙面17側の第1・第2の経糸3・4には第1の緯糸13を絡み合わせて二重織構造の第1の織物層15が形成されており、これと同様に、走行面18側の第3・第4の経糸5・6に第2の緯糸14を絡み合わせて二重織構造の第2の織物層16が形成されている。これら第1・第2の緯糸13・14は、織機上で整経糸として製織される。
【0030】
基布1の地部では、第1・第2の両織物層15・16が接結糸19により接合されて一体化されている。基布1におけるループ8・9の近傍部分には、第1・第2の両織物層15・16が接結糸により接合されていない分離部が設けられており、この分離部では、端部にループ8・9をそれぞれ備えた2つの織物層15・16が互いに分離独立しているため、ループ8・9による2つのループ列を互いに大きく引き離すことが可能になり、ループ8・9をかみ合わせて芯線を通す接合作業が容易になり、接合作業の作業性を向上させることができる。
【0031】
この分離部は、ループ8・9からの丈方向長さLを25mm乃至300mmの範囲で設けられている。分離部のループ8・9からの丈方向長さLが300mmを超えると、ループ8・9の丈方向位置の精度が低下するため、接合作業の作業性の低下を招くことから、望ましくない。また分離部のループ8・9からの丈方向長さLが25mmを下回ると、分離部を設けたことよる作業性向上とループ形状の均一化の効果を得ることができないため、望ましくない。
【0032】
またループ8・9は、互いに丈方向にずらして設けられている。これにより、シーム部と地部との間での特性の違い、特に通水抵抗の違いを小さくすることができるため、シームマークを抑制することができる。ループ8・9のずれ量dは10mm以下となっている。ループ列のずれ量dが10mmを超えると、抄紙機への掛け入れ時にループに芯線を挿通する作業が面倒になり、接合作業の作業性が低下することから、望ましくない。
【0033】
接結糸19には、他の緯糸13・14と同一の糸材を用いることも可能であるが、接結糸19が織物組織の基本パターンを構成しないため、他の緯糸13・14と異なる糸材に変更することも容易である。特に接結糸19に他の緯糸13・14より小径な糸材を用いると、接結糸19による基布1の物性に及ぼす影響を小さく抑えることができる。また接結糸19は、モノフィラメント糸も可能であるが、多数のフィラメントを束ねたマルチフィラメント糸、ステープルを紡いで得られる紡績糸、並びにマルチフィラメント糸や紡績糸を撚り合わせた撚糸などの集合糸材からなるものも可能である。
【0034】
図2は、図1に示した基布1の幅方向の模式的な断面図である。前記のように、第1・第2の経糸3・4に第1の緯糸13を絡み合わせて二重織構造の第1の織物層15が形成され、第3・第4の経糸5・6に第2の緯糸14を絡み合わせて二重織構造の第2の織物層16が形成されており、第1・第2の両織物層15・16を織り合せる接結糸19は、第1の織物層15の内側の経糸4と第2の織物層16の内側の経糸5とに絡み付くように製織される。
【0035】
なお、第1・第2の両織物層15・16を織り合せる接結糸19の経糸3〜6に対する絡合形態は、前記の図2の例に限定されるものではなく、この他に、第1の織物層15の内側の経糸4及び第2の織物層16の経糸5・6の双方の合計3本の経糸に接結糸19が絡み付く構成、第1〜第4の全ての経糸3〜6、すなわち第1の織物層15の経糸3・4の双方及び第2の織物層16の経糸5・6の双方に接結糸19が絡み付く構成など、種々の形態が可能である。
【0036】
図3は、図1に示した基布1の織布組織の基本パターンを示す模式的な断面図である。ここでは、経糸3・4に絡合して第1の織物層15を構成する第1の緯糸13が8本、経糸5・6に絡合して第2の織物層16を構成する第2の緯糸14が8本、合計16本の緯糸13・14で織布組織の基本パターンが構成されており、この織物組織の基本パターンを構成する緯糸13・14とは異なる緯糸を追加して、これを第1・第2の織物層15・16を織り合せる接結糸19としている。
【0037】
図4は、図1に示した基布1を製織する織機の概略構成を示す模式的な側面図である。図5は、図4に示した織機の模式的な上面図である。
【0038】
この織機は、整経糸が巻かれたフランジ(経糸ビーム)31と、このフランジ31から繰り出された整経糸に張力を付与するテンションローラ32と、シャットルにより整経糸間に打ち込み糸を通すための開口を形成する開口運動を整経糸に行わせる複数の綾枠(綜絖枠)33と、シャットルにより整経糸間に通された打ち込み糸21・22を打ち込む筬34と、出来上がった織物を巻き取る巻取ロール35とを有している。
【0039】
図3に示した織布組織の基本パターンを構成する16本の緯糸13・14となる通常整経糸23は、フランジ31から繰り出された後、1番から16番までの16枚の綾枠33に順に通される。他方、接結糸19となる追加整経糸24は、通常整経糸23が巻かれたフランジ31とは異なるボビン(給糸体)36から供給され、通常整経糸23で使用されない綾枠、すなわち17番の綾枠37に通される。なお、接結糸19となる追加整経糸24のために複数枚の綾枠を用いることも可能である。
【0040】
このように接結糸19となる追加整経糸24を、織布組織の基本パターンを構成する緯糸13・14となる通常整経糸23を供給するフランジ31とは独立したボビン36から供給し、通常整経糸23が通される綾枠33とは独立した綾枠37に通すことで、接結糸19を必要な位置に必要な本数だけ容易に織り込むことができる。
【0041】
なおここでは、接結糸19となる追加整経糸24を綾枠37に通して開口運動を行わせるようにしたが、接結糸19の総本数がそれ程多くないため、1本の整経糸が通される糸挿通孔(綜目)が設けられた経糸保持部材(綜絖子)をシリンダ等で単独で動作させる機構により追加整経糸24に開口運動を行わせるようにしても良い。
【0042】
またここでは、通常整経糸23用のテンションローラ32とは別に、接結糸19となる追加整経糸24に張力を付与するテンションローラ38が設けられている。このテンションローラ38は、錘やばねなどの付勢力を利用して張力を付与するものであり、この他に、張力センサに基づく張力制御を行う構成の張力制御装置を設けることも可能である。
【0043】
図6は、図1に示した基布1における接結糸の配置形態の一例を示す模式図である。ここでは、地部の全体に渡って接結糸19が均一に、すなわち等間隔に配置されている。
【0044】
この場合、分離部の長さ、すなわちループ8・9から一番外側の接結糸19までの距離Lは、例えば150mmとすると良い。接結糸19の配置間隔D1は、例えば約500mmとすると良い。また、部分的な物性差を小さくするため、接結糸19には、例えば他の緯糸13・14の約50%の直径を持つ糸を使用すると良い。
【0045】
図7は、図1に示した基布1における接結糸の配置形態の別の例を示す模式図である。ここでは、前記の例とは異なり、接結糸19が不均一に配置されている。すなわち丈方向の両端部に設けられた分離部に隣接して、接結糸19を密に配置した密接結糸領域41が設けられ、この密接結糸領域41に隣接して、接結糸19を粗に配置した粗接結糸領域42が設けられ、この粗接結糸領域42で挟まれた丈方向の中心部には、接結糸19を配置しない無接結糸領域43が設けられている。
【0046】
この場合、分離部の長さ、すなわちループ8・9から一番外側の接結糸19までの距離Lは、例えば150mmとすると良い。また密接結糸領域41では、接結糸19の配置間隔D2を例えば50mmとして、2〜3本の接結糸19を配置すると良く、粗接結糸領域42では、接結糸の配置間隔D3を例えば200mmとして、1〜2本の接結糸19を配置すると良く、図7の例では、各端部の分離部に隣接する長さ500mmの領域に計5本の接結糸19が配置される。また、接結糸19には、例えば他の緯糸13・14の約70%の直径を持つ糸を使用すると良い。
【0047】
この構成では、基布1全体で接結糸19の本数を少なくすることができ、地部と分離部との物性の違いをより一層小さく抑えることができる。そして分離部に隣接して設けられた密接結糸領域41により、ループ8・9の近傍において第1・第2の両織物層15・16が強固に一体化されるため、ループ8・9の位置関係を確実に保持することができる。
【0048】
なお、ここでは粗接結糸領域42で挟まれた丈方向の中心部に、接結糸19を配置しない無接結糸領域43を設けたが、この無接結糸領域43に相当する領域に、粗接結糸領域42よりさらに大きな配置間隔で接結糸19を配置した構成も可能である。
【0049】
図8は、本発明によるシーム付きフェルトの別の例を示す丈方向の断面図である。このシーム付きフェルトでは、基布51が、前記の図1に示した基布1と同様に、端部にループ8・9をそれぞれ備えた第1・第2の両織物層15・16が地部において接結糸19により接合された状態で製織されたものであるが、ここでは、接結糸19が水溶性高分子材料、例えばPVA(ポリビニルアルコール)からなる糸材からなっている。
【0050】
この構成では、ニードリング工程の後に行われる洗浄工程で接結糸19が洗浄水中に溶出して除去されるため、完成品には接結糸19が存在せず、地部と分離部とを略同一の物性とすることができる。
【0051】
接結糸19を除去する洗浄工程はニードリング工程の後に行われ、ニードリング工程では接結糸19により第1・第2の両織物層15・16が接合されているため、ループ8・9の位置関係が確実に保持されており、またニードリング後は不織繊維層2の形成繊維が基布51に絡み付いて織物層15・16が強固に一体化されることから、ループ8・9の位置関係が確実に保持されるため、ループ8・9の位置関係がずれることはない。
【0052】
接結糸19を形成する水溶性高分子材料は、常温の水で溶解するものも可能であるが、40℃〜70℃に加温した水で溶解するものを採用することが望ましく、これにより通常作業中に接結糸19が溶解することを回避することができ、取り扱いが容易になる。
【0053】
以上、二重織の織物層を2枚接結した形態の基布の例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、使用条件によりフェルトの空隙量(厚さ)を調整するなどの目的に応じて、種々の形態が可能であり、例えば一重織の織物層と二重織の織物層とを接結した形態、一重織の織物層を2枚接結した形態、一重織の織物層と三重織の織物層とを接結した形態、二重織の織物層と三重織の織物層とを接結した形態、三重織の織物層を3枚接結した形態なども可能である。
【0054】
また、各織物層の組織形態も、ここに例示した構成に限定されるものではなく、種々の織物組織が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明にかかる製紙用多重織シーム付きフェルトは、厚さ方向に重なり合う複数本の経糸の折り返しにより丈方向の端部に厚さ方向に複数のループ列が形成された基布を有する製紙用多重織シーム付きフェルトにおいて、製造工程を煩雑化させることなく、接合作業の作業性を向上させると共に、基布の物性が全体的に概ね均一になる効果を有し、抄紙機のプレスパート(圧搾部)で用いられる製紙用多重織シーム付きフェルトなどとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明によるシーム付きフェルトの一例を示す丈方向の断面図である。
【図2】図1に示した基布の幅方向の模式的な断面図である。
【図3】図1に示した基布の織布組織の基本パターンを示す模式的な断面図である。
【図4】図1に示した基布を製織する織機の概略構成を示す模式的な側面図である。
【図5】図4に示した織機の模式的な上面図である。
【図6】図1に示した基布における接結糸の配置形態の一例を示す模式図である。
【図7】図1に示した基布における接結糸の配置形態の別の例を示す模式図である。
【図8】本発明によるシーム付きフェルトの別の例を示す丈方向の断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 基布
2 不織繊維層
3〜6 経糸
8・9 ループ
13・14 緯糸
15・16 織物層
19 接結糸
21・22 打込み糸
23 通常整経糸
24 追加整経糸
31 フランジ(給糸体)
33 綾枠(綜絖枠)
36 ボビン(給糸体)
37 綾枠(綜絖枠)
41 密接結糸領域
42 粗接結糸領域
43 無接結糸領域
51 基布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に重なり合う複数本の経糸の折り返しにより丈方向の端部に厚さ方向に複数のループ列が形成された基布を有する製紙用多重織シーム付きフェルトであって、
前記基布が、織物組織の基本パターンを構成する緯糸とは異なる緯糸を地部に追加して、この緯糸が、複数の前記ループ列の各々を端部に備えた複数の織物層を織り合せる接結糸となるように多重織で織り上げられて、前記接結糸を配さない前記ループ列の近傍に、複数の前記織物層が互いに分離独立した分離部が設けられたことを特徴とする製紙用多重織シーム付きフェルト。
【請求項2】
前記接結糸が、要求される接結強度に応じて前記地部に不均一な間隔で配置されたことを特徴とする請求項1に記載の製紙用多重織シーム付きフェルト。
【請求項3】
厚さ方向に重なり合う複数本の経糸の折り返しにより丈方向の端部に厚さ方向に複数のループ列が形成された基布を、前記経糸を織機上で打込み糸として、緯糸を織機上で整経糸として織り上げる製紙用多重織シーム付きフェルトの製造方法であって、
織物組織の基本パターンを構成する緯糸となる通常整経糸とは別の追加整経糸を地部に配して、この追加整経糸が、複数の前記ループ列の各々を端部に備えた複数の織物層を織り合せる接結糸となるように前記基布を多重織で織り上げて、前記追加整経糸を配さない前記ループ列の近傍に、複数の前記織物層が互いに分離独立した分離部を設けたことを特徴とする製紙用多重織シーム付きフェルトの製造方法。
【請求項4】
前記接結糸となる追加整経糸を、前記通常整経糸の給糸体とは独立した給糸体から供給することを特徴とする請求項3に記載の製紙用多重織シーム付きフェルトの製造方法。
【請求項5】
前記接結糸が、所定の液体に溶解可能な材料からなり、ニードリング工程の後に当該接結糸を前記液体中に溶出させて除去することを特徴とする請求項3若しくは請求項4に記載の製紙用多重織シーム付きフェルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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