説明

製菓製パン用油脂組成物

【課題】トランス脂肪酸含量が十分に低いにもかかわらず、水素添加臭様の風味を有する製菓製パン用油脂組成物及びそれを使用した水素添加臭様の風味を有する製菓製パン製品を提供することである。
【解決手段】製菓製パン用油脂組成物の油脂中に、焙煎されたカカオ豆より得られるカカオ脂を0.05〜30質量%含有させ、且つ、炭素数が16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリドを2〜20質量%含有させること。カカオ豆の焙煎温度は100〜150℃であることが好ましく、カカオ豆の焙煎はニブ焙煎であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製菓製パンに使用される製菓製パン用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
動植物油脂を部分水素添加して得られる硬化油(以下、部分水素添加して得られる硬化油は、部分水素添加油脂とする)は、サラダ油等に代表される液状油と比べ、耐熱性、酸化安定性に優れるため、フライドチキン、フライドポテト、バターピーナッツ、ドーナツ等に用いられる加熱調理用油脂として従来から用いられて来た。また、部分水素添加油脂は、マーガリン、ショートニング等の可塑性油脂組成物やホイップクリーム等の起泡性水中油型乳化物等の広く油脂加工食品にも用いられて来た。
【0003】
動植物油脂の部分水素添加油脂は、水素添加によって生成するトランス脂肪酸を含有している。近年、トランス脂肪酸に関しては、ヒトをはじめ動物が長期間多量に摂取した場合には、血中総コレステロール値及び悪玉と呼ばれる低密度リポ蛋白質コレステロール値を高め、肥満や虚血性心疾患などの原因となりうるという学説が欧州や米国から出て来ており、一定水準以上のトランス脂肪酸を含有する食品については表示を義務化する等の対策をとる国が増えてきている。我が国においても世界的な流れを受け、食品中のトランス脂肪酸含量を低減させる試みが検討されており、加熱調理用油脂や油脂加工食品についても、トランス脂肪酸含量の低減化が求められている。
【0004】
動植物油脂の部分水素添加油脂中におけるトランス脂肪酸含量の低減化に関しては、水素添加反応の工程で、触媒や温度等の反応条件を工夫する試みや(例えば、特許文献1、2)、部分水素添加油の替わりにエステル交換油を利用した開発が行われている(例えば、特許文献3、4)。
【0005】
一方、動植物油脂の部分水素添加油脂は、水素添加臭と呼ばれる独特の風味を有しており、部分水素添加油脂を使用したマーガリン・ショートニングが生地に練り込まれた食パン・菓子パン等の製菓製パン製品においては、商品の個性を特徴付ける重要な風味の一部として定着しているものも多い。
この動植物油脂の部分水素添加油脂の水素添加臭は、前述したトランス脂肪酸に起因することが知られている。従って、前述のトランス脂肪酸含量を低減させる試みにより、トランス脂肪酸含量を減らすと、水素添加臭の独特な風味が失われるという問題がしばしば生じるようになってきた。
【0006】
以上のような背景から、製菓製パン分野において、動植物油脂の部分水素添加油脂の独特な風味である水素添加臭様の風味を有したままで、トランス脂肪酸含量をできる限り低減した製菓製パン用油脂組成物の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−316585号公報
【特許文献2】特開2006−320275号公報
【特許文献3】特開2002−338992号公報
【特許文献4】特開2007−174988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、トランス脂肪酸含量が十分に低いにもかかわらず、水素添加臭様の風味を有する製菓製パン用油脂組成物及びそれを使用した水素添加臭様の風味を有する製菓製パン製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、製菓製パン用油脂組成物の油脂中に、焙煎されたカカオ豆より得られるカカオ脂とトリ飽和トリグリセリドとを特定量含有させることによって、トランス脂肪酸含量が十分に低いにもかかわらず、該製菓製パン用油脂組成物を使用した製菓製パン製品に水素添加臭様の風味とコク味を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明第1の発明は、製菓製パン用油脂組成物の油脂中に、焙煎されたカカオ豆より得られるカカオ脂を0.05〜30質量%含有し、且つ、炭素数が16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリドを2〜20質量%含有する製菓製パン用油脂組成物である。本発明第2の発明は、本発明第1の発明のカカオ豆の焙煎温度が100〜150℃である製菓製パン用油脂組成物である。本発明第3の発明は、本発明第1〜第2の発明のカカオ豆の焙煎がニブ焙煎である製菓製パン用油脂組成物である。本発明第4の発明は、本発明第1〜第3の発明の製菓製パン用油脂組成物の油脂中の全構成脂肪酸におけるトランス脂肪酸含量が5質量%以下である製菓製パン用油脂組成物である。本発明第5の発明は、本発明第1〜第4の発明の製菓製パン用油脂組成物を使用した製菓製パン生地である。本発明第6の発明は、本発明第5の発明である製菓製パン生地を使用した食品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明の製菓製パン用油脂組成物を製菓製パン製品に使用することにより、トランス脂肪酸含量が十分に低いにもかかわらず、水素添加臭様の風味とコク味が付与された嗜好性の高い製菓製パン製品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製菓製パン用油脂組成物は、油脂中に焙煎されたカカオ豆より得られたカカオ脂を0.05〜30質量%含有することを特徴とする。カカオ豆の焙煎条件は、焙煎温度は100〜150℃が好ましく、110〜140℃であることがより好ましく、120〜140℃であることが最も好ましい。焙煎時間は5〜40分間が好ましく、10〜30分間がより好ましい。前記焙煎条件で焙煎すると、製菓製パン用油脂組成物に使用した場合、水素添加臭様の風味とコク味が発現し易いので好ましい。
また、焙煎方式に特に限定はないが、カカオ豆をスチーム処理した後、皮を分離した実(カカオニブ)の状態で焙煎するニブ焙煎や、カカオ豆を皮付きのまま焙煎するビーンズ焙煎が挙げられる。ニブ焙煎の場合は、皮を分離したカカオニブを、滅菌、乾燥した後、焙煎、磨潰して得られたカカオマスを圧搾することによりカカオ脂が得られる。ビーンズ焙煎の場合は、カカオ豆を皮付きのまま殺菌、焙煎した後、皮を分離し、磨潰して得られたカカオマスを圧搾することによりカカオ脂が得られる。また、カカオ脂はカカオマスを圧搾することにより得られるが、圧搾前にカカオマスをアルカリ処理しても良い。焙煎は、製菓製パン用油脂組成物に使用した場合、水素添加臭様の風味とコク味が発現し易いので、カカオ豆の実部を直接加熱するニブ焙煎であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、カカオマスを圧搾して得られたカカオ脂は、未精製油あるいは軽度精製油であるとこが好ましい。精製とは、食用油脂を得るために通常行われる脱酸、脱色、脱臭等の精製工程の一部または全部を経ることであり、未精製油とは圧搾されたままの前記精製工程を経ない油脂である。軽度精製油とは、前記精製工程の脱臭のみの工程を経たものであるが、脱臭温度が90〜210℃、脱臭時間10〜120分の軽度脱臭を経たものである。カカオ脂が未精製油または軽度精製油であると、製菓製パン用油脂組成物に使用した場合、水素添加臭様の風味とコク味が発現し易いので好ましい。
【0014】
本発明の製菓製パン用油脂組成物は、油脂中にカカオ脂を0.1〜10質量%含有することが好ましい。より好ましくは0.1〜5.5質量%であり、さらに好ましくは、0.1〜4質量%であり、最も好ましくは、0.3〜2.3質量%である。油脂中にカカオ脂を前記含量含有させることにより、ほど良い水素添加臭様の風味とコク味が得られるので好ましい。
また、本発明の製菓製パン用油脂組成物は、チョコレート風味が全面に強く出てしまうので、カカオ脂を除くカカオ豆由来の固形分は含有しない方が好ましい。
【0015】
本発明の製菓製パン用油脂組成物は、油脂中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド(トリアシルグリセロールを構成する3つの脂肪酸が全て炭素数16以上の飽和脂肪酸であることを意味する)を2〜20質量%含有する。炭素数が16以上の飽和脂肪酸は、炭素数が16〜24の飽和脂肪酸であることが好ましく、具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸及びベヘン酸であることが好ましい。カカオ脂にはトリ飽和トリグリセリドは極少量しか含まれないので、トリ飽和トリグリセリドは、次に説明するカカオ脂以外の油脂を適宜選択し、その含量を調整することが好ましい。特に、パーム油やパーム油の分別ステアリン部(固体脂部)、炭素数16以上の脂肪酸が80質量%以上である油脂の極度硬化油やそれらを原料の一部または全部としたエステル交換油等を、適宜配合することにより調整するのことが好ましい。
本発明の製菓製パン用油脂組成物は、油脂中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリドを3〜18質量%含有することが好ましく、4〜16質量%含有することがより好まく、5〜14質量%含有することがさらに好ましい。製菓製パン用油脂組成物の油脂中の16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリドが上記含量である場合、水素添加臭様の風味とコク味がより発現し易くなるので好ましい。
【0016】
本発明の製菓製パン用油脂組成物に使用されるカカオ脂以外の油脂は、植物油脂であることが好ましい。植物油脂としては、従来食用に供される大豆油、菜種油、綿実油、ヒマワリ種子油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、イリッペ脂、サル脂、シア脂、パーム油、パーム核油、ヤシ油等、並びに、これらに、硬化、分別、エステル交換(油脂と脂肪酸または脂肪酸エステルとのエステル交換も含む)等の加工を加えた加工油脂の中から1種あるいは2種以上を選択して使用できる。中でも、パーム系油脂(パーム油、パーム分別油、並びに、それらを50質量%以上、好ましくは70質量%以上原料油として含むエステル交換油、硬化油等)を、製菓製パン用油脂組成物の油脂中に好ましくは40質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上含有することで、水素添加臭様の風味とコク味が発現し易いので好ましい。パーム系油脂含量の上限は特に規定されないが、製菓製パン用油脂組成物中の油脂全体を100質量%として油脂中のカカオ脂含量を引いた残りが上限となる。
本発明の製菓製パン用油脂組成物は、コレステロールを排除する意味において植物油脂のみを原料油脂とすることが好ましいが、植物油脂以外の油脂としては、必要に応じて食用に供される牛脂、豚脂、乳脂、並びに、これらに加工を加えた加工油脂を0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜3質量%含有させても良い。
【0017】
本発明の製菓製パン用油脂組成物は、トランス脂肪酸の摂取を低減させるという意味において、トランス脂肪酸含量をできる限り低減させることが好ましいが、少量のトランス脂肪酸が存在することで水素添加臭様の風味とコク味を強めることができるので、油脂中の全構成脂肪酸においてトランス脂肪酸を5質量%以下含有していてもよい。製菓製パン用油脂組成物の油脂中の全構成脂肪酸におけるトランス脂肪酸含量は0.3質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがさらに一層好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることが最も好ましい。
なお、トランス脂肪酸含量は、AOCS法(Celf−96)に準じてガスクロマトグラフィー法にて測定することができる。
【0018】
本発明の製菓製パン用油脂組成物は、ショートニングタイプ、マーガリンタイプのいずれであってもよく、流動状であっても、可塑性があってもよい。マーガリンタイプは、乳化型が油中水型であっても水中油型であっても構わない。本発明の製菓製パン用油脂組成物は、焙煎されたカカオ豆より得られたカカオ脂を含む油脂を30〜100質量%含有することが好ましい。より好ましくは50〜100質量%であり、さらに好ましくは70〜100質量%である。本発明の製菓製パン用油脂組成物の油脂以外の部分は、次に説明するマーガリン・ショートニングに通常使用される各種成分を配合することができる。
【0019】
本発明の製菓製パン用油脂組成物は、油脂以外の他の成分を含有することができる。他の成分としては、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β−カロテン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、香料、脱脂粉乳やホエイパウダー等の乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、香辛料、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
マーガリンタイプの場合、水は1〜70質量%含有されることが好ましく、1〜50質量%含有されることがより好ましく、1〜30%含有されることがさらに好ましい。
【0020】
上記乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、縮合リシノレイン脂肪酸エステル、グリセリドエステル等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の合成乳化剤でない乳化剤等が挙げられる。
【0021】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられる
【0022】
本発明の製菓製パン用油脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、マーガリン・ショートニング等の製造に通常用いられる方法により製造できる。例えば、焙煎されたカカオ豆より得られるカカオ脂を0.05〜30質量%含有し、且つ、炭素数が16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリドを2〜20質量%含有する油脂と、必要に応じて油溶性成分を含む油相を溶解し、冷却し、結晶化することにより得ることができる。より具体的には、先ず、上記油相を溶解し、必要により水に水溶性成分を溶解乃至分散させた水相を混合乳化する。そして次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式であってもよく、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式であってもよい。次に、冷却し、結晶化させる。好ましくは冷却し、可塑化させる。冷却条件は、好ましくは−0.5℃/分以上、更に好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より急冷却の方が好ましい。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンピネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組合せが挙げられる。
【0023】
本発明の製菓製パン用油脂組成物は、食パン・菓子パン・クロワッサン・デニッシュ等のパン類や、クッキー・ビスケット・ケーキ・パイ等の焼き菓子類等の食品(好ましくは製菓製パン食品)に、生地折り込み或は生地練り込み用として、好適に用いることができる。特に、パン生地、ビスケット生地、クッキー生地、ケーキ生地等の生地への練り込み用に使用されるのが好ましい。本発明の製菓製パン用油脂組成物の製菓製パン生地練り込みにおける使用量は、対粉(穀物粉)1〜30質量%であることが好ましく、2〜20質量%であることがより好ましく、3〜16質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の製菓製パン用油脂組成物を使用した製菓製パン生地は、穀物粉含有生地を調製するのに一般的に用いられる方法によって製造できる。例えば、パン生地であれば、直捏法(ストレート法)、中種法、オールインミックス法、老麺法、加糖中種法、液種法などの製法、ケーキ生地であればシュガーバッター法、共立て法、別立て法、オールインミックス法などが挙げられる。製菓製パン用油脂組成物はその中でショートニング、マーガリン、ファットスプレッドを添加する一般的な方法で生地に添加することができる。調製された生地は冷凍生地として冷凍保存されてもよい。
【0025】
本発明の製菓製パン用油脂組成物を使用した製菓製パン生地は、穀粉含有生地をオーブン、直焼きで焼成する他、電子レンジ調理、煮る、蒸す、揚げるなどの調理することにより、食品を得ることができる。
本発明の製菓製パン生地を使用した食品としては、例えば、パン類(食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなど)、イースト菓子(シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ドーナツなど)、ペストリー(デニッシュ、クロワッサン、パイなど)、ケーキ(バターケーキ、スポンジ、ビスケット、クッキー、ドーナツ、ブッセ、ホットケーキ、ワッフルなど)和菓子(饅頭、乳菓、蒸しパン、かすてら饅頭、どら焼き、など)麺類(うどん、そば、中華めん、パスタなど)、点心(餃子、焼売、饅頭、ワンタン、春巻きなど)などが挙げられる。本発明の食品は、製菓製パン食品であることが好ましい。
【0026】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明について詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例の内容に、何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
カカオ脂1〜3及び植物油脂1〜7の調製を以下のように行い、表1〜2に示した配合で混合し、混合油脂1〜11を得た。
(カカオ脂の調製)
〔カカオ脂1〕
カカオ豆をスチーム処理して皮を分離したカカオニブを乾燥した後、焙煎器により125℃で20分間焙煎した。焙煎したカカオニブをコーヒーミルで粉砕し、卓上圧搾器で圧搾して、炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量1.4質量%、トランス脂肪酸含量0.0質量%であるニブ焙煎カカオ豆からのカカオ脂1を得た。
〔カカオ脂2〕
カカオ豆を焙煎器により125℃で20分間焙煎した後、皮を分離して得たカカオニブをコーヒーミルで粉砕し、卓上圧搾器で圧搾して、炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量1.4質量%、トランス脂肪酸含量0.0質量%であるビーンズ焙煎カカオ豆からのカカオ脂2を得た。
〔カカオ脂3〕
カカオ豆をスチーム処理して皮を分離したカカオニブを乾燥した後、コーヒーミルで粉砕し、卓上圧搾器で圧搾して、炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量1.4質量%、トランス脂肪酸含量0.0質量%である未焙煎カカオ豆からのカカオ脂3を得た。
(植物油脂の調製)
〔植物油脂1〕
RBDパームオレイン(マレーシアISF社製、ヨウ素価56)を常法に従って、脱色、脱臭の精製処理を行い、炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量1.4質量%、トランス脂肪酸含量0.3質量%である植物油脂1を得た。
〔植物油脂2〕
RBDパームオレイン(マレーシアISF社製、ヨウ素価56)を常法に従って、ナトリウムメチラートを触媒としてエステル交換した後、中和、脱色、脱臭の精製処理を行い、炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量10.7質量%、トランス脂肪酸含量が0.3質量%である植物油脂2を得た。
〔植物油脂3〕
RBDパーム油(マレーシアISF社製、ヨウ素価53)を常法に従って、脱色、脱臭の精製処理を行い、炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量8.1質量%、トランス脂肪酸含量0.3質量%である植物油脂3を得た。
〔植物油脂4〕
RBDPMF(マレーシアISF社製、ヨウ素価45)を常法に従って、脱色、脱臭の精製処理を行い、炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量2.2質量%、トランス脂肪酸含量0.1質量%である植物油脂4を得た。
〔植物油脂5〕
RBDパーム油(マレーシアISF社製、ヨウ素価53)を常法に従って、ニッケル触媒を用いて完全水素添加(極度硬化)した後、脱色、脱臭の精製処理を行い、炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量95.5質量%、トランス脂肪酸含量が0.0質量%である植物油脂5を得た。
〔植物油脂6〕
脱色菜種油(日清オイリオグループ株式会社工程品、ヨウ素価114)を常法に従って、脱色、脱臭の精製処理を行い、炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量0.0質量%、トランス脂肪酸含量1.4質量%である植物油脂6を得た。
植物油脂6を得た。
〔植物油脂7〕
脱色菜種油(日清オイリオグループ株式会社工程品、ヨウ素価114)を常法に従って、ニッケル触媒を用いて部分水素添加した後、脱色、脱臭の精製処理を行い、炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量0.5質量%、トランス脂肪酸含量が52.0質量%である植物油脂7を得た。
【0028】
【表1】

*;炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量(質量%)
**;トランス脂肪酸含量(質量%)
【0029】
【表2】

*;炭素数16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリド含量(質量%)
**;トランス脂肪酸含量(質量%)
【0030】
(製菓製パン用油脂組成物の製造)
表3〜表5に示した配合に従って、混合油脂と乳化剤とを混合融解して油相とし、ショートニングの場合(実施例1〜8及び比較例1〜3)はそのまま、常法に従ってコンビネーターを用いて急冷混捏を行い、マーガリン(実施例9〜10及び比較例4)の場合は、水に食塩を溶かして水相としたものを、油相と混合して予備乳化を行った後、常法に従ってコンビネーターを用いて急冷混捏を行い、実施例1〜10及び比較例1〜4の製菓製パン用油脂組成物を得た。
なお、乳化剤は次のものを使用した。
〔乳化剤1〕
レシチン(商品名:レシチンDX、日清オイリオグループ株式会社製)
〔乳化剤2〕
飽和脂肪酸モノグリセリド(商品名:エマルジーP−100、理研ビタミン株式会社製)
〔乳化剤3〕
縮合リシノール酸ポリグリセリンエステル(商品名:CRS−75、阪本薬品工業株式会社製)
【0031】
(ロールパンの作製及び評価)
強力粉700g、生イースト30g、全卵150g、水270gをミキサーボウルに投入し、低速2分、中速2分混捏し、捏上げ温度25℃の中種を28℃2時間発酵させた。発酵させた中種をミキサーボウルに投入し、さらに強力粉300g、上白糖120g、食塩17g、脱脂粉乳40g、水180gを投入し、低速2分、中速5分混捏し、ここで練り込み用油脂として、実施例1〜10及び比較例1〜4において得られた油脂組成物150gを投入し、さらに低速2分、中速5分混捏し、捏上げ温度28℃の生地を得た。フロアタイム30分取った後、45gに分割し、次いでベンチタイム30分取った後、テーブルロール成型を行った。さらに、38℃相対湿度85%のホイロに60分入れて最終発酵を行った。最終発酵後、全卵を上面に塗布し、上火210℃、下火200℃のオーブンに入れて、9分30秒焼成し、実施例1〜10及び比較例1〜4の製菓製パン用油脂組成物をそれぞれ生地に練り込んだロールパンを得た。
【0032】
上記の実施例1〜10及び比較例1〜4の製菓製パン用油脂組成物をそれぞれ生地に練り込んだロールパンについて、比較例1の製菓製パン用油脂組成物を練り込んだロールパンを対照として、以下の評価基準に従ってパネラー5名により風味評価を行った。

評価基準
対照と比較して水添臭様の風味・コク味があり非常においしい 4点
対照と比較して水添臭様の風味・コク味がありおいしい 3点
対照と比較して水添臭様の風味・コク味がありややおいしい 2点
対照と比較して差がない 1点
対照と比較しておいしくない 0点

各パネラーの評点を合計して以下の基準により総合評価した。
15点以上 ◎
11点以上15点未満 ○
8点以上11点未満 △
5点以上 8点未満 ▲
5点未満 ×

総合評価及びパネラーのコメントを表3〜5にまとめた。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、本発明の製菓製パン用油脂組成物を製菓製パン製品に使用することにより、トランス脂肪酸含量が十分に低いにもかかわらず、水素添加臭様の風味とコク味が付与された嗜好性の高い製菓製パン製品を提供でき、健全で豊かな食生活に貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂中に、焙煎されたカカオ豆より得られるカカオ脂を0.05〜30質量%含有し、且つ、炭素数が16以上の飽和脂肪酸からなるトリ飽和トリグリセリドを2〜20質量%含有することを特徴とする製菓製パン用油脂組成物。
【請求項2】
前記カカオ豆の焙煎温度が100〜150℃であることを特徴とする請求項1記載の製菓製パン用油脂組成物。
【請求項3】
前記カカオ豆の焙煎がニブ焙煎であることを特徴とする請求項1〜2の何れか1項に記載の製菓製パン用油脂組成物。
【請求項4】
油脂中の全構成脂肪酸におけるトランス脂肪酸含量が5質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の製菓製パン用油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の製菓製パン用油脂組成物を使用した製菓製パン生地。
【請求項6】
請求項5に記載の製菓製パン生地を使用した食品。

【公開番号】特開2012−135231(P2012−135231A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288361(P2010−288361)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】