説明

製鉄所内発生スラリーの処理方法

【課題】製鉄所内で発生した各種スラリーを効率良く安価に処理する方法を提供する。
【解決手段】製鉄所内で発生した各種スラリーを、pH調整及び固形分濃度調整の少なくとも一方が必要な要調整スラリーと、pH調整及び固形分濃度調整がいずれも不要な調整不要スラリーと、に分ける。この調整不要スラリーはスラリー受入槽11に送り、要調整スラリーは原水槽12に送りヤード排水と混合する。次に、原水槽12内の混合物を中和槽13に移して中和剤でpH調整した後に、凝集槽14に移して凝集剤で固形分を凝集させる。凝集した固形分を沈殿槽15で沈殿させ、沈殿物を含むスラリーと上澄み液とに固液分離する。沈殿物を含むスラリーはスラリー受入槽11に送られ、調整不要スラリーと混合され、脱水機17で水分が除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄所内で発生した各種スラリーを処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所内においては、性状の異なる様々なスラリー(以降においては、このような様々なスラリーをまとめて各種スラリーと記すこともある)が排出される。例えば、スラリーを構成する液体や固形分の種類が異なるのは勿論のこと、液性,固形分濃度,固形分の粒径等が異なる様々なスラリーが排出される。そして、排出された各種スラリーは回収され、1箇所に集められて脱水処理される。
【0003】
ここで、従来の各種スラリーの処理方法の一例を、図2を参照しながら説明する。まず、回収された各種スラリーを、スラリー受入槽31に集める。そして、中和槽32に移し、中和剤を投入してpH調整する。このような前処理が施された各種スラリーを脱水機33に送り、脱水ケーキと脱水濾液とに分ける。脱水濾液は凝集槽34に送り、凝集剤を投入して、脱水濾液に残った少量の固形分を凝集させる。
【0004】
そして、凝集し沈殿しやすくなった固形分を含む脱水濾液を、凝集槽34から沈殿槽35に移して静置し、固形分を沈殿させる。固形分が十分に沈殿したら、沈殿物と上澄み液とを固液分離する。すなわち、上澄み液は処理水槽36に送り、その後は自然界に放流してもよいし、冷却水等に利用してもよい。また、沈殿物を多く含むスラリーは、スラリー受入槽31に戻し、新たに回収した各種スラリーと共に処理する。
【特許文献1】特開平11−319891号公報
【特許文献2】特開2008−114142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
製鉄所内で排出される各種スラリーの中には、その性状によっては、脱水処理の前に前処理を行うことが好ましいものがある。例えば、酸性又は塩基性のスラリーは、前処理として中和(pH調整)を行うことが好ましい。そのため、上記したように、集められた各種スラリーのpH調整を行うための中和槽が設けられている。
また、脱水処理においては、固形分濃度や固形分の粒径等のスラリーの性状によって、脱水機の運転条件を最適値に設定することが好ましいが、排出される各種スラリーの性状はその都度異なるので、脱水機の運転条件をスラリーの性状に応じて最適値に設定することは困難であった。そこで、固形分濃度については、どのような固形分濃度のスラリーが排出されても一定の運転条件で脱水機を運転できるように、集められた各種スラリーを大きなバッファ槽で希釈(固形分の濃度調整)して、各種スラリーの性状を平滑化すればよいが、そのためには設備(バッファ槽)を増設する必要があるので、各種スラリーの処理設備の建設コストが向上することとなる。固形分の濃度調整を行わない場合には、スラリーの性状によって、脱水機の脱水処理性能が十分に発揮されない場合があった。
このように、従来の各種スラリーの処理には、処理性能やコストの面で改善すべき点があった。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、製鉄所内で発生した各種スラリーを効率良く安価に処理する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る製鉄所内発生スラリーの処理方法は、製鉄所内で発生した各種スラリーを、pH調整及び固形分濃度調整の少なくとも一方が必要な要調整スラリーと、前記両調整が不要な調整不要スラリーと、に分け、鉄鉱石が積み付けられたヤードから排出されるヤード排水の処理工程に前記両スラリーを組み込んで、前記ヤード排水とともに処理する処理方法であって、前記要調整スラリーを前記ヤード排水と混合し、この混合物にpH調整を施した後に凝集剤を添加して固形分を凝集させ、凝集した前記固形分を沈殿させて上澄み液と沈殿物を含むスラリーとに分け、この沈殿物を含むスラリーに前記調整不要スラリーを混合して脱水処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る製鉄所内発生スラリーの処理方法は、製鉄所内で発生した各種スラリーを効率良く安価に処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず、従来のヤード排水の処理工程について、図3を参照しながら説明する。製鉄所内においては、鉱石運搬船等で運ばれてきた鉄鉱石(例えば粉鉱石)は、野外に設けられたヤード上に山状に積み付けられる。ところが、ヤード上に積み付けされた鉄鉱石のうち微細なものが風により飛散して粉塵公害が発生するおそれがあるので、粉塵発生を抑えるために、山状に積み付けられた鉄鉱石に散水して湿潤状態とする場合がある。
【0009】
そうすると、微細な鉄鉱石が散水により流されるため、浮遊物質(以降はSSと記す)を含むヤード散水がヤードから排出されることとなる。このヤード散水は、排出基準以上のSSを含有することがあるので、ヤード散水を河川等の自然界に放流するためには、SSを除去する処理を施す必要がある。また、ヤード上に積み付けられた鉄鉱石に雨が降った場合も、SSを含む雨水がヤードから排出されることとなるので、上記ヤード散水の場合と同様にSSを除去する処理を施す必要がある。そのため、製鉄所内には、SSを含むヤード散水及び雨水(本発明においては、ヤードから排出されるSSを含むヤード散水及び雨水を「ヤード排水」と称する)を処理する処理設備が設けられている。
【0010】
図示しないヤードから排出されたヤード排水は、原水槽21に集められる。そして、原水槽21のヤード排水を配管を通じて中和槽22に移し、消石灰等の中和剤を投入してpH調整する。次に、SSは粒子が微細で沈殿しにくいため、pH調整されたヤード排水を凝集槽23に移し、凝集剤を投入して凝集させる。そして、凝集し沈殿しやすくなったSSを含むヤード排水を、凝集槽23から配管を通じて沈殿槽24に移して静置し、SSを沈殿させる。
【0011】
SSが十分に沈殿したら、沈殿物と上澄み液とを固液分離する。すなわち、上澄み液は処理水槽25に送り、沈殿物を多く含むスラリーは、スラリー貯槽26を経由して脱水機27に送り水分を除去する。そして、脱水機27から排出された脱水濾液は、原水槽21に戻し新たなヤード排水とともに処理する。また、脱水機27から排出された脱水ケーキは、廃棄又は再資源化する。なお、処理水槽25に送った上澄み液は、自然界に放流してもよいし、冷却水等に利用してもよい。
【0012】
次に、本発明に係る製鉄所内発生スラリーの処理方法の実施の形態を、図1を参照しながら詳細に説明する。図1の処理設備は、製鉄所内で発生した各種スラリー及びヤード排水を合わせて処理する処理設備であり、図3のような従来のヤード排水の処理工程に前記各種スラリーを組み込んで処理するというものである。
製鉄所内で発生した各種スラリーを、pH調整及び固形分濃度調整の少なくとも一方が必要な要調整スラリーと、pH調整及び固形分濃度調整がいずれも不要な調整不要スラリーと、に分ける。そして、調整不要スラリーはスラリー受入槽11に送り、一旦貯蔵する。なお、製鉄所内で発生する各種スラリーとしては、原料処理設備,高炉集塵機,転炉集塵機等から発生する鉄鉱石粉,石灰石粉を固形分として含有するものが多い。
【0013】
一方、要調整スラリーは、図示しないヤードから排出されたヤード排水が集められた原水槽12に送り、ヤード排水と混合する。ヤード排水の量は要調整スラリーと比べると極めて大量であるので、要調整スラリーはヤード排水によって高倍率に希釈されて、要調整スラリーとヤード排水との混合物における要調整スラリー中の固形分の比率は極めて低くなる。製鉄所内で発生する要調整スラリーの固形分濃度はその都度異なるが、上記のようにヤード排水によって高倍率に希釈されるので、どのような固形分濃度の要調整スラリーが排出されたとしても、混合物の性状はほぼ一定となる。
【0014】
次に、原水槽12内の混合物を配管を通じて中和槽13に移し、消石灰等の中和剤を投入してpH調整する。要調整スラリー中の固形分やヤード排水中のSSは粒子が微細で沈殿しにくいため、pH調整された混合物を凝集槽14に移し、凝集剤を投入して凝集させる。凝集剤の種類は特に限定されるものではなく、一般的なものが使用可能である。そして、凝集し沈殿しやすくなった要調整スラリーの固形分やSSを含む混合物を、凝集槽14から配管を通じて沈殿槽15に移して静置し、要調整スラリーの固形分やSSを沈殿させる。
【0015】
要調整スラリーの固形分やSSが十分に沈殿したら、沈殿物と上澄み液とを固液分離する。すなわち、上澄み液は処理水槽16に送り、沈殿物を多く含むスラリーはスラリー受入槽11に送る。そして、沈殿物を多く含むスラリーと調整不要スラリーとをスラリー受入槽11内で混合し、該混合スラリーをスラリー受入槽11から脱水機17に送って水分を除去する。脱水機17から排出された脱水濾液は、原水槽12に戻して新たなヤード排水や要調整スラリーとともに処理する。また、脱水機17から排出された脱水ケーキは、廃棄又は再資源化する。
【0016】
上記のような各種スラリー及びヤード排水を合わせて処理する本実施形態の処理設備(図1)は、従来の各種スラリーの処理設備(図2)及び従来のヤード排水の処理設備(図3)と比べて、以下のような種々の利点がある。例えば、固形分濃度等の性状の異なるスラリーが排出されても、ヤード排水により希釈されて性状が平滑化されるので、一定の運転条件で脱水機を運転できる。よって、製鉄所内で発生した各種スラリーを効率良く処理することができる。
【0017】
また、各種スラリーをヤード排水の処理設備に組み込んで処理しているので、従来の各種スラリーの処理設備と従来のヤード排水の処理設備とに共通する装置や槽を集約することができる。よって、処理設備のトータルの建設コストを低くすることができる。
具体的には、従来は、各種スラリーの処理設備とヤード排水の処理設備とのそれぞれに脱水機が備えられていたが、本実施形態では1つの脱水機しか必要ない。また、上記のように要調整スラリーを希釈して性状を平滑化するためには、大きなバッファ槽が必要となるが、従来ヤード排水を処理していた大きな槽を利用して希釈が行われるため、新たにバッファ槽を増設する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る製鉄所内発生スラリーの処理方法の一実施形態を示す図であり、各種スラリーの処理設備の構成を説明する系統図である。
【図2】従来の各種スラリーの処理設備の構成を説明する系統図である。
【図3】従来のヤード排水の処理設備の構成を説明する系統図である。
【符号の説明】
【0019】
11 スラリー受入槽
12 原水槽
13 pH調整槽
14 凝集槽
15 沈殿槽
16 処理水槽
17 脱水機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄所内で発生した各種スラリーを、pH調整及び固形分濃度調整の少なくとも一方が必要な要調整スラリーと、前記両調整が不要な調整不要スラリーと、に分け、鉄鉱石が積み付けられたヤードから排出されるヤード排水の処理工程に前記両スラリーを組み込んで、前記ヤード排水とともに処理する処理方法であって、
前記要調整スラリーを前記ヤード排水と混合し、この混合物にpH調整を施した後に凝集剤を添加して固形分を凝集させ、凝集した前記固形分を沈殿させて上澄み液と沈殿物を含むスラリーとに分け、この沈殿物を含むスラリーに前記調整不要スラリーを混合して脱水処理を行うことを特徴とする製鉄所内発生スラリーの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−17668(P2010−17668A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181968(P2008−181968)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】