説明

複リンク式ピストン−クランク機構を備えた内燃機関のクランクシャフト

【課題】複リンク機構を用いてクランクスローを短縮すると、ねじりトルクに起因してクランクピンに作用するクランクピン幅方向の荷重が増加し、メインジャーナルとクランクピンとがクランクピン偏心方向にオーバーラップする部分に応力が集中する。
【解決手段】メインジャーナル15の回転中心からクランクピン8の軸心までのクランクスローrを、ピストンストローク量の半分よりも短くする。クランクウェブ16に、内側へ窪んだ凹部23をオーバーラップ部分22に対応して形成し、クランクピン8の外周からオーバーラップ部分22でのクランクウェブ16の最外径線までの(最短)距離R1を、クランクピン偏心方向βでのクランクピン8外周からクランクウェブ16の最外径線までの距離R0よりも更に短くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複リンク式ピストン−クランク機構を備えた内燃機関のクランクシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のピストンとクランクシャフトのクランクピンとを連結する主運動系として、ピストンのピストンピンとクランクシャフトのクランクピンとを複数のリンクにより連結した複リンク式ピストン−クランク機構(以下、「複リンク機構」とも呼ぶ)を用い、ピストンストローク特性の適正化や圧縮比の可変制御を実現することを本出願人は検討している。
【0003】
ここで、特許文献1にも記載のように、ピストンピンとクランクピンとを一本のリンク(コネクティングロッド)により連結した単リンク式ピストン−クランク機構(以下、「単リンク機構」とも呼ぶ)においては、クランクシャフトのメインジャーナルの回転中心からクランクピンの軸心までの距離であるクランクスローは、メインジャーナルの回転中心がシリンダ中心線に対してオフセットしている場合を除き、ピストンストローク量の半分(1/2)となるのに対し、複リンク機構では、アッパーリンクやロアーリンクがてこのような作用をすることによって、クランクスローを(最大)ピストンストローク量の半分よりも更に短くすることが可能となる。このため、クランクスローの短縮により小型化や機関搭載性の向上、あるいは高圧縮比化を図ることができる上、クランクスローの短縮によりメインジャーナルとクランクピンとがクランクピン偏心方向に近づく形となり、両者が軸方向視でオーバーラップする部分が大きくなって、剛性や強度が高くなるという効果が得られる。
【0004】
特許文献2には、燃焼圧・爆発力により、クランクピンの軸心からクランク回転中心へ作用するクランクピン偏心方向の荷重によって、クランクシャフトが曲げ変形することによる応力集中を緩和するために、クランクウェブ(クランクアーム)のうちで、応力が集中するクランクピン下部との隅角部分に肉盗み部を設け、当該部位の剛性を低下させ、ある程度の変形を許容することで、応力を分散させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−224015号公報
【特許文献2】特開2001−082443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように複リンク機構を利用してクランクスローを(最大)ピストンストローク量の半分よりも短くした場合、以下のような問題が生じることを知見した。図13を参照して説明すると、多気筒内燃機関のクランクシャフトでは共振によるクランク軸まわりのねじりモーメント(以下、「ねじりトルク」とも呼ぶ)Tが発生し、このねじりトルクTによって、クランクピンには荷重P(慣性力)が、クランク軸方向αとクランクピン偏心方向βとの双方に直交するクランクピン幅方向γに作用するとともに、クランク軸周りの曲げモーメントMが発生する。ここで、クランクスローを「r」とすると、トルクTと荷重PとはT=rPの関係にあるために、クランクスローrが短くなるほど、同じトルクTであっても荷重Pが大きくなる。従って、同等のピストンストローク量で比較した場合、クランクスローの短い複リンク機構では、クランクスローの長い単リンク機構に対し、クランクピンに作用する荷重Pが大きくなる。
【0007】
このようなことから、複リンク機構を適用した内燃機関のクランクシャフトでは、上述した爆発力に起因するクランクピン偏心方向βの荷重のみならず、上記ねじりトルクTに起因するクランクピン幅方向γの荷重Pの影響も十分に考慮しなければならず、仮に上記特許文献2のように、爆発力に起因する荷重に対して設定された肉盗み部を適用しても、所期の応力低減効果を得ることはできない。
【0008】
図14を参照して、上記のねじりトルクTに起因するクランクピン幅方向γの荷重Pの影響によって、クランクピンの近傍ではクランクピン幅方向γの両側部分に応力が集中し易い。ここで、上述したように複リンク機構を利用してクランクスローを短くした場合、上記両側部分の近傍では、メインジャーナルとクランクピンとがクランクピン偏心方向βにオーバーラップする部分ΔOLが大きくなり、その剛性・強度が局所的に高くなることから、更に応力集中を招きやすい。特に、クランクピンに潤滑用の油孔がクランク幅方向γに沿う直径方向に貫通形成されている場合、油孔の部分で応力が集中する傾向にある。
【0009】
図15は、複リンク機構を利用してクランクスローをピストンストローク量の半分よりも短くした直列4気筒内燃機関のフライホイールに最も近い#4気筒について、その応力が最も高い油孔内部の所定点Pでの応力変動と、上記のねじりトルクに起因するクランク軸まわりのねじり変形と、上記の爆発力に起因する曲げ変形と、のクランク角毎の変化を示している。同図に示すように、点Pの応力変動(A)は、ねじりトルクに起因するねじり変形(B)との相関が強く、爆発力に起因する曲げ変形(C)との相関はほとんど見られない。これは、クランクスローの短い複リンク機構を備えた内燃機関に特有の現象である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複リンク機構を利用してクランクスローを(最大)ピストンストローク量の半分よりも短くした内燃機関のクランクシャフトにおいて、その応力集中を適切に緩和・低減することを主たる目的としている。
【0011】
本発明が適用される内燃機関は、ピストンにピストンピンを介して一端が連結されたアッパーリンクと、このアッパーリンクの他端にアッパーピンを介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピンに連結されたロアーリンクと、一端が機関本体側に揺動可能に支持され、他端が上記ロアーリンクに補助ピンを介して連結された補助リンクと、を有する複リンク式ピストン−クランク機構を備えている。また、本発明に係る内燃機関のクランクシャフトは、機関本体側に回転可能に支持されるメインジャーナルと、このメインジャーナルの軸方向端部とクランクピンの軸方向端部とを接続するクランクウェブと、を有し、上記メインジャーナルの回転中心からクランクピンの軸心までのクランクスローが、ピストンストローク量の半分よりも短く設定されている。
【0012】
このように複リンク機構を利用してクランクスローを短くすることで、上述したように小型化や高圧縮比化を図ることができる反面、クランク軸方向視でクランクピンとメインジャーナルとがオーバーラップする部分が増加し、この部分の剛性・強度が局所的に高くなることから、上述したクランク軸まわりのねじりトルクに起因する荷重に対し、応力集中を招き易い。
【0013】
そこで本発明では、上記クランクウェブを所定の軸直交断面で見たときに、上記クランクピンの外周から上記メインジャーナルとクランクピンとがクランクピン偏心方向にオーバーラップする部分でのクランクウェブの最外径線までの距離が、上記クランクピン偏心方向でのクランクピン外周からクランクウェブの最外径線までの距離よりも短いことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
このような本発明によれば、所定の軸直交断面でのオーバーラップ部分におけるクランクピン外周からクランクウェブの最外径線までの距離を短くすることによって、このオーバーラップする部分の剛性を低下させ、ある程度の変形を許容する構造とすることで、クランク軸まわりのねじりトルクにより生じるオーバーラップ部分での応力を分散させて、応力集中を軽減・緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施例に係るクランク軸方向視での凹部の形成範囲を模式的に示すクランクシャフトの正面対応図。
【図2】上記第1実施例に係るクランクシャフトの要部を示す斜視図。
【図3】上記第1実施例に係るクランクシャフトの要部を示す側面図。
【図4】上記第1実施例に係るクランクシャフトを示す断面図。
【図5】本発明の第2実施例に係るクランクシャフトの要部を示す斜視図。
【図6】上記第2実施例に係るクランクシャフトの要部を示す側面図。
【図7】本発明の第3実施例に係るクランクシャフトの要部を示す斜視図。
【図8】上記第3実施例に係るクランクシャフトの要部を示す側面図。
【図9】本発明の第4実施例に係るクランクシャフトの要部を示す斜視図。
【図10】上記第4実施例に係るクランクシャフトの要部を示す側面図。
【図11】本発明の第5実施例に係るクランクシャフトを示す側面図。
【図12】本発明に係る複リンク式ピストン−クランク機構の一例を模式的に示す構成図。
【図13】ねじりトルクに起因してクランクピンに作用する荷重とクランクスローとの関係などを示す説明図。
【図14】クランクピンの幅方向に油孔が貫通形成されたクランクシャフトの正面対応図。
【図15】クランクピンの油孔内部の点Pでの応力変動(A),ねじり変形(B)及び曲げ変形(C)を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。図12は、本発明のクランクシャフトが適用される内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構(複リンク機構)の一例を簡略的に示す構成図である。シリンダブロック1には、ピストン3が摺動可能に嵌合する複数のシリンダ(気筒)2が形成されるとともに、クランクシャフト4のメインジャーナル15が回転自在に支持されている。
【0017】
複リンク式ピストン−クランク機構は、上記の特開2008−224015号公報等により公知であり、簡単に説明すると、ピストン3にピストンピン5を介して一端が連結されるアッパーリンク6と、このアッパーリンク6の他端にアッパーピン7を介して連結されるとともに、クランクシャフト4のクランクピン8に回転可能に取り付けられるロアーリンク9と、一端(下端)で内燃機関本体としてのシリンダブロック1側に揺動可能に支持されるとともに、他端(上端)でロアーリンク9に補助ピン10を介して連結される補助リンク11と、を備えている。
【0018】
このような複リンク機構では、ピストンピン5とクランクピン8とを一本のリンクにより連結した単リンク機構に比して、ピストンストローク特性の設定の自由度が高く、このピストンストローク特性を適正なもの(例えば、単振動に近い特性)とすることによって、振動や騒音の大幅な低減化等を図ることができる。
【0019】
また、メインジャーナル15の軸心からクランクピン8の軸心までのクランクスローrが、(最大)ピストンストローク量の半分よりも短く設定されている。これによって、クランクスローrがピストンストローク量の半分である一般的な単リンク機構に比して、同じ機関圧縮比を維持しつつ、クランクスローrを短くすることで、剛性・強度の向上や小型化を図ることができ、あるいは同等のクランクスローrでありながら高圧縮比化を図ることができる。
【0020】
更に、シリンダブロック1には多気筒に連続した補助シャフト13が図示せぬ支持部材を介してシリンダブロック1に回転可能に支持されており、この補助シャフト13には、各気筒毎に偏心軸部12が設けられ、各偏心軸部12に、上記の補助リンク11の他端が回転可能に取り付けられている。従って、図示せぬアクチュエータにより機関運転状態に応じて補助シャフト13の回転位置を変更することで、補助リンク11の揺動支持位置となる偏心軸部12の位置が変化し、補助リンク11によるロアーリンク9の運動拘束条件の変化に伴い、機関圧縮比が変化する(可変圧縮比手段)。このように複リンク式ピストン−クランク機構を利用して機関圧縮比の可変制御を容易に実現可能である。
【0021】
次に、図1〜図4の第1実施例を参照して、本発明の要部をなすクランクシャフト4の構造について説明する。なお、図1〜図4では、クランクシャフトに設けられる複数のクランクピンのうち、一つのクランクピンの周囲の構造を示している。また、図1では明りょう化のために図2〜図4に比して形状を簡略化して描いている。
【0022】
クランクシャフト4は、メインジャーナル15の回転中心(軸心・クランク回転中心)より偏心したクランクピン8が各気筒毎に設けられ、各クランクピン8の軸方向端部とメインジャーナル15の軸方向端部とが薄肉状のクランクウェブ16により一体的に接続されている。また、クランク回転中心を挟んでクランクピン8と反対側にカウンターウェイト17がクランクウェブ16より延長形成されているとともに、各クランクウェブ16には、クランクピン8との接続部より径方向外方へフランジ状に張り出した所定の径方向幅ΔDのスラスト受け部18が設けられている。このスラスト受け部18は、ロアーリンク9の軸方向両端面に対向する平面を有する円環状をなし、ロアーリンク9からのクランク軸方向αのスラスト荷重を受け止めて、クランピン8に対するロアーリンク9のクランク軸方向αの移動を規制・防止する。なお、スラスト受け部18は、加工時の要請により、クランクウェブ16の外周よりも径方向内側に入り込んだものとなっている。
【0023】
更に、クランクウェブ16には、クランクピン接続部の下方側に、ロアーリンク9との干渉を回避するように、軸方向に窪んだ干渉回避凹部19が凹設されている。
【0024】
クランクピン8には、クランクピン軸方向α及びクランクピン偏心方向βの双方に直交するクランクピン幅方向γに沿って直径方向に延びる油孔20が貫通形成されている。潤滑油は、メインジャーナル15に開口するジャーナル側油孔21を経由してシリンダブロック側よりクランクシャフト4の内部へ給油され、クランクピン8の油孔20を通してクランクピン軸受部分へ供給される。
【0025】
そして、図1に示すように、各クランクウェブ16に、クランク軸方向視でメインジャーナル15とクランクピン8とがクランクピン偏心方向βにオーバーラップする部分22に対応して、内側へ窪んだ凹部23を形成している。すなわち、凹部23は、その大部分がオーバーラップ部分22に形成されているとともに、油孔20の側方を横切るようにクランクピン偏心方向βに延在し、かつ、所定の径方向幅ΔDのスラスト受け部18よりも内側に入り込むように内側へ大きく窪んでいる。すなわち、各クランクウェブ16におけるクランクピン8の周囲のうち、両側の凹部23でスラスト受け部18が部分的に切り欠かれた形状となっている。また、凹部23は、クランク軸方向視で、クランクピン8の外周とメインジャーナル15の外周とを結ぶ(仮想)共通接線24、すなわちクランクピン8の外周とメインジャーナル15の外周との双方に接する共通接線24よりも更に内側に入り込むように内側へ大きく窪んでいる。
【0026】
すなわち、このような凹部23を形成することによって、クランクウェブ16を凹部23が形成された所定の軸直交断面で見たときに、クランクピン8の外周からメインジャーナル15とクランクピン8とがクランクピン偏心方向βにオーバーラップする部分22でのクランクウェブ16の最外径線までの(最短)距離R1が、クランクピン偏心方向βでのクランクピン8外周からクランクウェブ16の最外径線までの距離R0、つまり、一般的にクランクピン8の周囲のうちで最も短い幅となっているクランクピン偏心方向βに沿う部分の距離R0よりも更に短くなっている。なお、この実施例では図1に示すように凹部23がオーバーラップ部分22でクランクピン8の外周付近まで内側へ入り込んでいるために、上記の距離R1がほぼ0(ゼロ)となっている。
【0027】
上述したように、複リンク機構においてはクランクスローrの短縮化によりオーバーラップ部分22が大きくなり、強度・剛性が向上する反面、ねじりモーメントにより作用するクランクピン幅方向γの荷重に対する剛性が局所的に高くなることから、応力集中を招き易く、特に、クランクピン幅方向γに貫通形成される油孔20の内部に応力が集中し易い。本実施例では、上記の凹部23を形成し、オーバーラップ部分22での距離R1を短くすることで、このオーバーラップ部分22の強度を低下させ、その変形を許容する構造とすることによって、上記の応力集中を低減・緩和することができるとともに、凹部23により軽量化を図ることができる。
【0028】
特に本実施例においては、凹部23を共通接線24の内側まで入り込ませているために、共通接線24に沿う荷重の伝達がなされず、オーバーラップ部分22の剛性・強度を大きく低下させることができる。 また、クランクウェブ16のうち、両側の凹部23を除くクランクピン8の上部及び下部に、クランクピン8に嵌合するロアーリンク9の軸方向端面に対向するスラスト受け部18が残存している。これにより、爆発力に対する曲げ剛性を確保し、かつ、スラスト荷重に対抗するスラスト受け部の本来の機能を確保することができる。
【0029】
なお、クランクシャフトに設けられる複数のクランクピンのうち、フライホイール(図示省略)に最も近い気筒のクランクピンが、上記のねじりモーメントによる影響を最も受け易い。そこで、フライホイールに最も近い気筒のクランクピンに接続するクランクウェブにのみ、上記凹部23を形成するようにしても良い。この場合、上記フライホイールに最も近い気筒については、上述した凹部23による応力集中の緩和及び軽量化を図りつつ、残りの気筒については、凹部23を設けないことで、凹部23の形成による剛性・強度の低下を回避することができる。
【0030】
また、クランクピンの軸方向両側に位置する2つのクランクウェブのうち、ねじりモーメントによる影響を受け易いフライホイールに近い側のクランクウェブにのみ、上記凹部23を形成するようにしても良い。この場合、フライホイール側のクランクウェブについては、上述した凹部23による応力集中の緩和及び軽量化を図りつつ、反フライホイール側のクランクウェブについては、凹部23を設けないことで、凹部23の形成による剛性・強度の低下を回避することができる。
【0031】
以下に説明する実施例では、既述した実施例と共通する構成要素には同じ参照符号を付して重複する説明を適宜省略し、主に既述した実施例と異なる部分について説明する。
【0032】
図5及び図6に示す第2実施例では、クランク軸方向視で、凹部23がクランクピン8の内側に対応する位置まで入り込んでおり、この凹部23の部分でクランクピン8の軸方向端面8Aの一部が表出している。また、油孔20内部の応力集中をより適切に緩和するように、油孔20に対応する位置で凹部23が最も内側へ入り込んでいる。すなわち、凹部23は、クランクピン8の幅方向中心線に沿う部分で最も深くなる断面円弧状に凹設されている。また、凹部23は、クランクウェブ16の軸方向でクランクピン寄りの部分にのみ設けられ、クランクウェブ16の軸方向でメインジャーナル15寄りの部分には、剛性・強度を確保するために、凹部23のない薄肉状のクランクウェブ16の一部25が、メインジャーナル15の外周とクランクピン8の外周とを滑らかに接続する共通接線24(図1参照)を含む形で残存している。
【0033】
従って、凹部23により上記の第1実施例と同様に、クランクウェブ16を凹部23が形成された所定の軸直交断面で見たときに、クランクピン8の外周からオーバーラップ部分22でのクランクウェブ16の最外径線までの(最短)距離R1が、クランクピン偏心方向βでのクランクピン8外周からクランクウェブ16の最外径線までの距離R0よりも更に短くなっており、応力集中の緩和と凹部23による軽量化とを図りつつ、薄肉状のクランクウェブ16の一部25を残存させることで、クランクウェブの強度に優れたものとなる。
【0034】
図7及び図8に示す第3実施例を参照して、クランクピン8を径方向に貫通する油孔20とメインジャーナル15を径方向に貫通するジャーナル側油孔21とを連通する連通油孔26は、クランクピン8の両側のクランクウェブ16のうち、上記ジャーナル側油孔21と反対側のクランクウェブ16の開口部26Aから加工により直線状に斜めに穿設され、その開口部26Aはキャップ(図示省略)により閉塞される。
【0035】
この場合、クランクピン8の両側のクランクウェブ16A,16Bのうち、開口部26Aが形成されたクランクウェブ16Aの凹部23Aを、開口部26Aが形成されていないクランクウェブ16Bの凹部23Bよりも小さくする。具体的には、開口部26A側のクランクウェブ16Aについては、その軸方向全長にわたって凹部23Bを形成する一方、開口部26Aのないクランクウェブ16Bについては、軸方向でクランクピン寄りの部分にのみ凹部23Aを形成し、軸方向でメインジャーナル寄りにの部分では、クランクウェブ16Aの一部25Aが残存する構造とする。これによって、開口部26Aが形成されているクランクウェブ16Aの剛性・強度が過剰に低下するのを防止することができる。
【0036】
図9及び図10に示す第4実施例では、共通接線24(図1参照)を含む幅広のクランクウェブ16における幅方向側面の軸方向中央部に、内側へ窪んだスリット状の凹部23Cがウェブ側面に開口形成されている。このような凹部23Cにより、上記実施例と同様、応力集中の緩和や軽量化が図れることに加え、スラスト受け部18が全周にわたって残存する形となり、爆発力に対する曲げ剛性やスラスト荷重に対する強度に優れたものとなる。
【0037】
上述した第1〜第4実施例のように凹部23(23A〜23C)を形成すると、クランクピン8の油孔20の内部に発生する応力の高い部分が、クランクピン8の外周に開口する油孔の開口部寄りに移行する。このため、油孔20に対する疲労強度向上のための加工処理、例えば、高周波焼き入れ処理,みがき処理,及びローラバニッシュ処理などについては、開口部の近傍のみ施工するようにしても良い。これにより、生産性が向上し、加工コストを削減することができる。
【0038】
図11の第5実施例では、上記の凹部を用いることなく、上記のねじりトルクに起因する応力集中を有効に低減・回避するものである。すなわち、この第5実施例では、クランクシャフト4に設けられる4つのクランクピン8のうち、フライホイール(図示省略)に最も近く、ねじりモーメントの影響を最も受ける機関後方側の#4気筒のクランクピン8の曲げ剛性、詳しくはクランクピン偏心方向β周りの曲げ剛性が、他の#1〜#3気筒のクランクピン8の曲げ剛性よりも低くなるように設計されている。具体的には、#4気筒のクランクピン8の軸方向長さΔCP1を、他の#1〜#3気筒のクランクピン8の軸方向長さΔCP0よりも長くしている。
【0039】
なお、この実施例では、クランクピン8の幅方向の中心の位置、つまり隣接する気筒のボア間ピッチを変化させることのないように、#4気筒のクランクピン8の軸方向長さΔCP1の増加分、この#4気筒の2つのクランクウェブ16の軸方向長さΔCW1を、他の#1〜#3気筒のクランクウェブの軸方向長さΔCW0よりも短くしている。
【0040】
このように、フライホイールにもっとも近い#4気筒のクランクピン8を相対的に長くして、その曲げ剛性を低下させることで、クランクスローrの短い複リンク機構に特有の、ねじりトルクに起因する油孔20内部での応力集中を有効に低減・緩和することができる。
【符号の説明】
【0041】
3…ピストン
4…クランクシャフト
5…ピストンピン
6…アッパーリンク
7…アッパーピン
8…クランクピン
9…ロアーリンク
10…補助ピン
11…補助リンク
15…メインジャーナル
16…クランクウェブ
20…油孔
23…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンにピストンピンを介して一端が連結されたアッパーリンクと、このアッパーリンクの他端にアッパーピンを介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピンに連結されたロアーリンクと、一端が機関本体側に揺動可能に支持され、他端が上記ロアーリンクに補助ピンを介して連結された補助リンクと、を有する複リンク式ピストン−クランク機構を備えた内燃機関のクランクシャフトにおいて、
機関本体側に回転可能に支持されるメインジャーナルと、このメインジャーナルの軸方向端部とクランクピンの軸方向端部とを接続するクランクウェブと、を有し、
上記メインジャーナルの回転中心からクランクピンの軸心までのクランクスローが、ピストンストローク量の半分よりも短く設定されており、
かつ、上記クランクウェブを所定の軸直交断面で見たときに、上記クランクピンの外周から上記メインジャーナルとクランクピンとがクランクピン偏心方向にオーバーラップする部分でのクランクウェブの最外径線までの距離が、上記クランクピン偏心方向でのクランクピン外周からクランクウェブの最外径線までの距離よりも短いことを特徴とする複リンク式ピストン−クランク機構を備えた内燃機関のクランクシャフト。
【請求項2】
上記クランクピンに、クランクピン偏心方向と軸方向とに直交するクランクピン幅方向に沿う油孔が貫通形成されていることを特徴とする請求項1に記載の複リンク式ピストン−クランク機構を備えた内燃機関のクランクシャフト。
【請求項3】
上記クランクウェブを所定の軸直交断面で見たときに、クランクピンの外周とメインジャーナルの外周とを結ぶ共通接線よりも内側に入り込んだ凹部がクランクウェブに凹設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の複リンク式ピストン−クランク機構を備えた内燃機関のクランクシャフト。
【請求項4】
上記ロアーリンクの軸方向端面に対向するクランクウェブのクランクピン接続部に、クランクピン径方向に所定幅のスラスト受け部が形成されており、
上記クランクウェブに、上記スラスト受け部の内側まで入り込んだ凹部が形成されており、
上記スラスト受け部は、両側の凹部を除くクランクピンの上部及び下部に対応する位置に残存していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複リンク式ピストン−クランク機構を備えた内燃機関のクランクシャフト。
【請求項5】
クランクシャフトに設けられる複数のクランクピンのうち、フライホイールに最も近いクランクピンに接続するクランクウェブにのみ、上記凹部を形成することを特徴とする請求項3又は4に記載の複リンク式ピストン−クランク機構を備えた内燃機関のクランクシャフト。
【請求項6】
クランクピンの軸方向両側に位置する2つのクランクウェブのうち、フライホイールに近い側のクランクウェブにのみ、上記凹部を形成することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の複リンク式ピストン−クランク機構を備えた内燃機関のクランクシャフト。
【請求項7】
ピストンにピストンピンを介して一端が連結されたアッパーリンクと、このアッパーリンクの他端にアッパーピンを介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピンに連結されたロアーリンクと、一端が機関本体側に揺動可能に支持され、他端が上記ロアーリンクに補助ピンを介して連結された補助リンクと、を有する複リンク式ピストン−クランク機構を備えた内燃機関のクランクシャフトにおいて、
機関本体側に回転可能に支持されるメインジャーナルと、このメインジャーナルの軸方向端部とクランクピンの軸方向端部とを接続するクランクウェブと、を有し、
上記メインジャーナルの回転中心からクランクピンの軸心までのクランクスローが、ピストンストローク量の半分よりも短く設定されており、
かつ、クランシャフトに設けられる複数のクランクピンのうち、フライホイールに最も近いクランクピンの曲げ剛性を、他のクランクピンの曲げ剛性よりも低く設定したことを特徴とする内燃機関のクランクシャフト。
【請求項8】
クランシャフトに設けられる複数のクランクピンのうち、フライホイールに最も近いクランクピンの軸方向長さを、他のクランクピンの軸方向長さよりも長く設定したことを特徴とする請求項7に記載の内燃機関のクランクシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−17399(P2011−17399A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163241(P2009−163241)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】