説明

複合インゴットのキャスティング方法

【課題】複合金属インゴットのキャスティングに用いる方法と装置を提供する。
【解決手段】モールド10は、供給端と、排出端と、その供給端を少なくとも2つの別個の供給チャンバに分割する分割壁14とを有しており、各供給チャンバは少なくとも1つの他の供給チャンバと隣接している。隣接する供給チャンバからなる対には、第1合金のストリームを供給チャンバの対の一方に流してモールドに供給する一方、第2合金のストリームを対の他方の供給チャンバに供給する。第1合金のストリームの上に自立面を生成させ、自立面の温度が第1合金の固相線温度よりも低い場所で第2合金のストリームを自立面に最初に接触させ、次いで2つの合金の間の界面を液相線温度と固相線温度との間の温度まで再加熱することにより、複合インゴットを形成する。この複合インゴットは、界面に隣接する第2合金の領域に、第1合金の1以上の金属間化合物の分散粒子を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属インゴットのキャスティング方法及びその装置、並びに得られた新規な複合金属インゴットに関する。
【背景技術】
【0002】
多年、金属インゴット、特にアルミニウム又はアルミニウム合金インゴットは、直冷キャスティングと呼ばれる半連続キャスティング方法により製造されている。この方法では、溶融金属が開口モールドの上面に注がれ、溶融金属がモールドから現れた時、冷却剤、通常は水が、金属の凝固表面に適用されている。
【0003】
そのシステムは、通常、圧延製品、例えばアルミニウム合金の薄板製品等に用いる大きな長方形状インゴットの製造に使用されている。2層以上の異なる合金からなる複合インゴットには大きなマーケットがある。そのインゴットは、圧延された後、ロウ付け薄板、航空機用薄板、そして芯部分の特性と表面の特性が異なることが要求される他の用途等の種々の用途に用いるクラッド薄板を製造するのに用いられる。
【0004】
そのようなクラッド薄板を製造する従来の方法としては、異なる合金のスラブを熱間圧延して2者を一体的に押さえつけ、さらに圧延を継続して最終製品を製造する方法である。この方法には、スラブ間の界面が一般的に、金属学的に清浄ではなく、かつ層の結合に問題があるという欠点がある。
【0005】
積層されたインゴットをキャストして、圧延可能な複合インゴットを製造することについても関心が持たれていた。これは、従来、直冷(DC)キャスティングを用い、2つの合金ストリームを同時凝固させる、又は第2の溶融金属が接触する前に第1の金属を凝固させる連続凝固を用いる、のいずれかの方法により実施されていた。それらの多くの方法は文献に記載されており、程度の差はあるが成功を収めている。
【0006】
1986年2月4日に発行されたBinczewskiの米国特許第4,567.936号公報には、高い固相線温度を有する外層を低固相線温度の内層の周りにキャストするDCキャスト法により複合インゴットを製造する方法が記載されている。その開示によれば、低固相線温度の合金が接触するまでの間、外層は「完全に固体かつ正常である」必要がある。
【0007】
1952年7月24日発行のケラー(Keller)のドイツ特許第844,806号公報には、内側のコアが外層に先立ってキャストされる積層構造のキャスティングに用いるシングルモールドが記載されている。この方法では、内側の合金が外層に接触する前に、外層が完全に凝固する。
【0008】
1967年11月21日に発行されたロビンソンの米国特許第3,353,934号公報には、異なる合金組成物の領域を実質的に分離する内部隔壁がモールドキャビティの内部に配置されたキャスティングシステムが記載されている。じゃま板(baffle)の端部は、インゴットの凝固部分の直上の”柔らかい(mushy)領域”で終了するように配置されている。”柔らかい領域”の内部では、合金が、じゃま板の端部の下で自由に混合し、層間で結合を形成する。しかしながら、その方法は、使用されるじゃま板が”受動的”であり、キャスティングが液溜め配置の制御に依存する、すなわち冷却システムにより間接的に制御される、という点において制御が容易でない。
【0009】
1995年12月21日に発行されたMatznerのドイツ特許DE第44 20 697号公報には、ロビンソンと同様の内部隔壁を用いたキャスティングシステムが記載されており、そのシステムでは、じゃま板の液溜め位置が、界面領域の液相の混合を可能にするように制御されており、界面を横切って連続する濃度勾配を形成する。
【0010】
1965年12月21日に発行されたロバートソンらの英国特許GB第1,184,764号公報には、通常のキャスティング用液溜めを分割し、かつ2つの異なる金属をキャスティング可能とする移動可能なじゃま板が記載されている。じゃま板は、一方の限界点では金属を完全に混合させ、他方の限界点では2つの別個のストランドをキャストさせるように移動可能である。
【0011】
2003年5月1日に発行されたキルマーらの国際公開第2003/03505号には、2つの異なる合金層の間にフィルム(thin sheet)形状のバリア材料を用いたキャスティングシステムが記載されている。フィルムは、キャスティング時にもそのまま存在するように十分に高融点であり、最終製品の中に取り込まれる。
【0012】
1989年5月9日に発行されたタケウチらの米国特許第4,828,015号公報には、磁場により液状領域に隔壁を設け、2つの領域に別個の合金を供給するシングルモールドに2つの液状合金をキャスティングする方法が記載されている。その領域の上部に供給される合金は、下部に供給される金属の周囲に外殻を形成する。
【0013】
ベイレット(Veillette)の米国特許第3,911,996号公報には、キャスティング時にインゴットの形状を調整する外側の可撓壁を備えたモールドが記載されている。
【0014】
スティーン(Steen)らの米国特許第5,947,194号公報には、ベイレットに類似するがより形状制御が容易なモールドが記載されている。
【0015】
タケダらの米国特許第4,498,521号公報には、金属の液面を計測し金属の流量制御にフィードバックさせるフロートを金属表面上に設けた金属の液面制御システムが記載されている。
【0016】
オデガード(Odegard)らの米国特許第5,526,870号公報には、リモートセンシシング(レーダー)のプローブを用いた金属の液面制御システムが記載されている。
【0017】
ワグスタッフ(Wagstaff)の米国特許第6,260,602号公報には、インゴットの外側形状を制御する、可変にテーパーされた壁を有するモールドが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4,567.936号公報
【特許文献2】ドイツ特許第844,806号公報
【特許文献3】米国特許第3,353,934号公報
【特許文献4】ドイツ特許第44 20 697号公報
【特許文献5】英国特許第1,184,764号公報
【特許文献6】国際公開第2003/03505号
【特許文献7】米国特許第4,828,015号公報
【特許文献8】米国特許第3,911,996号公報
【特許文献9】米国特許第5,947,194号公報
【特許文献10】米国特許第4,498,521号公報
【特許文献11】米国特許第5,526,870号公報
【特許文献12】米国特許第6,260,602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、隣接する層の間に改良された金属結合を有する2層以上からなる複合金属インゴットを製造することである。
【0020】
本発明の別の目的は、2層以上が複合インゴット内で接合し、隣接する層間の金属結合を向上させることができる界面温度制御手段を提供することである。
【0021】
本発明の別の目的は、2以上の合金を複合金属インゴット内で結合させる界面形状制御手段を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、制限された空間内で非常に有用な、インゴット用モールド内の金属液面の高感度制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一態様は、1以上の合金組成物から形成された少なくとも2層の複合金属インゴットのキャスティング方法である。本方法は、供給端と排出端を有する開口を備えた環状モールドを用意する工程を有しており、溶融金属を供給端に添加し、凝固したインゴットを排出端から抜き出す。分割壁を用いて、供給端を少なくとも2つの別個の供給チャンバに分割するが、分割壁をモールドの排出端の上方で終了させ、各供給チャンバを少なくとも1つの他の供給チャンバに隣接させる。隣接する供給チャンバからなる対に対し、第1の合金からなる第1のストリームをその供給チャンバの対の一方に供給して第1チャンバの中に金属プールを形成する一方、第2の金属からなる第2のストリームを供給チャンバの対の他方に供給して第2チャンバの中に金属のプールを形成する。第1金属プールはチャンバ対の間の分割壁に接触し、第1プールは冷却されて分割壁に隣接する自立面を形成する。次に、上記自立面の温度が第1合金の液相線温度と固相線温度の間である場所で、第2プールを第1プールの自立面に最初に接触させるように、第2金属プールを第1金属プールに接触させる。それにより、2つの合金プールは接合されて2層となり、冷却されて複合インゴットを形成する。
【0024】
第2合金の温度が第2合金の液相線温度よりも高い時は、第2合金を第1合金の自立面に最初に接触させることが好ましい。第1及び第2合金は同じ合金組成でも、あるいは異なる合金組成でも良い。
【0025】
自立面の温度が第1合金の液相線温度と固相線温度の間である場所で、第2合金の上面を第1プールの自立面に接触させることが好ましい。
【0026】
本態様では、第2合金が自立面に最初に接触する場所の表面温度が液相線温度と固相線温度の間となるように、第1合金プールを冷却することにより自立面を生成させることができる。
【0027】
本発明の別の態様は、1以上の合金組成物から形成された少なくとも2層からなる複合金属インゴットのキャスティング方法を含むものである。本方法は、供給端と排出端を有する開口環状モールドを用意する工程を含み、溶融金属を供給端で添加し、排出端から凝固インゴットを抜き出すものである。分割壁を用いて、供給端を少なくとも2つの別個の供給チャンバに分割するが、分割壁をモールドの排出端の上方で終了させ、各供給チャンバを少なくとも1つの他の供給チャンバに隣接させる。隣接する供給チャンバからなる対に対し、第1の合金からなる第1のストリームをその供給チャンバの対の一方に供給して第1チャンバの中に金属プールを形成する一方、第2の金属からなる第2のストリームを供給チャンバの対の他方に供給して第2チャンバの中に金属のプールを形成する。第1金属プールはチャンバ対の間の分割壁に接触し、第1プールは冷却されて分割壁に隣接する自立面を形成する。次に、上記自立面の温度が第1合金の固相線温度より低い場所で、第2プールを第1プールの自立面に最初に接触させて2つの合金の間に界面を形成するように、第2金属プールを第1金属プールに接触させる。次に、第1合金の固相線温度と液相線温度の間の温度で再加熱し、2つの合金プールを2層として接合させ、冷却して複合インゴットを形成する。
【0028】
本態様では、第1又は第2合金プールの内部の潜熱により表面を再加熱することにより再加熱を行うことが好ましい。
【0029】
第2合金の温度が第2合金の液相線温度より高い時は、第2合金を第1合金の自立面に最初に接触させることが好ましい。第1又は第2合金は同じ組成であっても、あるいは異なる組成であっても良い。
【0030】
自立面の温度が第1合金の液相線温度と固相線温度の間である場所で、第2合金の上面を第1プールの自立面に接触させることが好ましい。
【0031】
自立面は、その上に形成された酸化物層を有していても良い。酸化物層は、束縛のない状態で金属を広げる原因となる外広がりの力に対し十分耐えることができる。これらの外広がりの力には、第1ストリームの金属静水圧(metallostatic)ヘッドに基づく力や、固相線温度より低い温度まで冷却し、そして表面を再加熱したときに起きる表面の膨張が含まれる。まだ半固体状態にある第1合金に、液状の第2合金を最初に接触させることにより、あるいは別の態様として、合金の間の界面を再加熱して半固体状態とすることを保証することにより、2つの合金の間に独立した接合層が形成される。さらに、第1合金層が硬い殻を発生させる前に、第2合金層と第1合金層との間の界面が形成されるという事実は、インゴットの外表面に冷却剤を直接適用することにより発生する応力が、最終製品において良好に制御されていることを意味し、これは亀裂を受けやすい合金をキャスティングする場合に、非常に好都合である。
【0032】
本発明では、現れたインゴットの短い長さの範囲で、かつ第1合金の固相線温度と液相線温度との間の温度で、第1合金と第2合金との間の界面が維持されている、という結果が得られている。一例として、表面温度が固相線温度と液相線温度との間である第1合金の表面に、モールド中の第2合金の上面が接触するように第2合金をモールド中に供給すると、この要求を満たした界面が形成される。別の態様として、第2合金の上面を第1合金の自立面に接触させたすぐ後に、固相線温度と液相線温度の間の温度で界面を再加熱する。第1合金の表面に最初に接触させる時は、第2合金の温度は液相線温度より高いことが好ましい。これを行うと、界面の完全性を維持できるが、同時に特定の合金成分が界面を横切って大量に移動し、金属結合が促進される。
【0033】
第1合金の表面温度が固相線温度(例えば、明らかに固体殻が形成された後)よりもかなり低い場所に第2合金を接触させると、そこには第1合金の固相線温度と液相線温度との間の温度まで界面を加熱するに足る十分な潜熱がないので、合金成分の移動度は大きく制限され、金属結合がわずかしか形成されない。そのため、続く工程において、層分離が発生する。
【0034】
第2合金が第1合金に接触する前に自立面が形成されないと、合金同士が自由に混合し、拡散層又は合金の濃度勾配が界面に生成して、明確な界面が形成されない。
【0035】
第2合金の上面を分割壁の下端より低い位置に維持することが特に好ましい。オールド中の第2合金の上面が第1合金の表面との接触点より高いと、例えば分割壁の下端より上であると、第2合金が第1合金の自立面を粉砕する、あるいは過剰の潜熱により表面を完全に再溶融する可能性がある。これが実際に起きると、界面で合金の過剰な混合が起こり、あるいは時には流れ出し(runout)、キャストが失敗する。第2合金が下端よりもはるかに高い場所で分割壁と接触すると、第1合金の自立面と接触しても強い金属結合を形成することができない温度まで早く冷却されてしまう。しかし、場合によっては、分割壁に、第2の層からの酸化物が2つの層の間の界面に取り込まれるのを防止する酸化物スキマー(skimmer)としての役割を付与する場合には、第2合金の上面を分割壁の下端に接近させ、かつ下端よりもわずかに高く維持することが好ましい。このことは、第2合金が酸化され易い場合には特に好ましい。いかなる場合でも、上述した問題を避けるべく、上面の位置を注意深く制御すべきであり、分割壁の下端の上方約3mmより高くすべきではない。
【0036】
今までの全ての態様では、第1合金の固相線温度と液相線温度の間の温度で第2合金を第1合金に接触させること、あるいは第1合金の固相線温度と凝集温度の間の温度で2つの合金の間の界面を再加熱することが特に好ましい。凝集点、そしてそれが起きる温度(固相線温度と液相線温度の間)は、溶融金属の凝固の中間段階である。冷却中の溶融金属の中にデンドライトが生成し、互いに衝突し始めると、合金全体に亘り連続した固体ネットワークが形成される。固体ネットワークを剪断するに必要なトルク力が急激に増加するその点は、”凝集点”として知られている。凝集点についての説明及びその決定法は、「アルミ合金の凝固第3巻デンドライト凝集210頁」(Solidification Characteristics of Aluminum Alloys Volume 3 Dendrite Coherency Pg 210)に記載されている。
【0037】
本発明の別の態様によれば、供給端と、排出端と、該排出端の内部に取着され該環状モールドの軸方向に移動する可動の底ブロックとを備え開口を有する環状モールドを含むキャスティング装置が提供される。そのモールドの供給端は少なくとも2つの別個の供給チャンバに分割され、各供給チャンバは少なくとも1つの別の供給チャンバに隣接する一方、隣接するチャンバ同士は熱を加える又は除くことの可能な温度制御された分割壁により分離されている。分割壁はモールドの排出端の上方で終わる。各チャンバは、金属の液面制御装置を備えており、隣接するチャンバの対において、一方のチャンバの金属の液面をチャンバ間にある分割壁の下端よりも高い位置に維持し、他方のチャンバの金属の液面は最初のチャンバの液面と異なる位置に維持することができる。
【0038】
他方のチャンバの液面を、分割壁の下端よりも低い位置に維持することが好ましい。
【0039】
分割壁は、除かれた又は加えられた熱が、分割壁に隣接する第1チャンバの金属に自立面を形成可能に、かつ第1チャンバ内の金属の自立面の温度を、固相線温度と液相線温度の間であって、第2チャンバ内の金属の上面を維持可能な温度に制御するように調整されている。
【0040】
自立層の温度は、自立層の温度制御を目的として、温度制御流体を分割壁の一部に貫通させる、あるいは分割壁の上端に接触させて、分割壁から熱を取り除くことにより注意深く制御することができる。
【0041】
本発明の別の態様では、少なくとも2つの異なる合金からなる複合金属インゴットのキャスティング方法であって、開口を有する環状モールドを用意する工程を含み、ここでそのモールドは、供給端と、排出端と、少なくとも2つの別個の供給チャンバを有し、各供給チャンバが少なくとも1個の他の供給チャンバに隣接するものである。隣接する供給チャンバの対には、第1合金からなる第1ストリームが隣接する供給チャンバの一方を通過して上記モールドに供給され、第2合金からなる第2ストリームが隣接する供給チャンバの他方を通過して供給される。第1及び第2合金が互いに最初に接触する界面上の場所の温度が、温度制御された分割壁により第1合金の固相線温度と液相線温度の間の温度に維持されるように、温度制御された分割壁が隣接する供給チャンバの間に設けられており、これにより合金ストリームは接合されて2層となる。接合された合金層は、冷却されて複合インゴットを形成する。
【0042】
分割壁に最初に接触させることなく、分割壁の底の直下で第2合金を第1合金に接触させることが好ましい。いずれにしても、第2合金を、分割壁の下端の下約2mm以上、かつ分割壁の下端の下20mm以下の位置、好ましくは下端の下約4〜6mmの位置で、第1合金と接触させるべきである。
【0043】
第1合金と接触する前に第2合金が分割壁に接触すると、第1合金の自立面と接触しても強い金属結合を形成することのできない温度まで、早く冷却する可能性がある。たとえ、第2合金の液相線温度が十分低くこのようなことが起こらないとしても、金属静水圧ヘッドにより第2合金が第1合金と分割壁との間の空間の中に這い上がり、キャスティングの欠陥や不具合をもたらす。第2合金の上面を分割壁の下端よりも上にしたい時(例えば、酸化物を除くため)、これらの問題を避けるため、実施上可能な限り、上面を分割壁の下端に近づけるように注意深く制御及び位置決めを行う必要がある。
【0044】
隣接する供給チャンバの対の間の分割壁はテーパーを有していても良く、テーパーは分割壁の長さ方向に沿って変化することが好ましい。さらに、分割壁は曲線形状を有していても良い。これらの特徴により、分割壁による分離されたチャンバ内で使用される合金の異なる熱特性及び凝固特性を補償することが可能となり、制御された最終的な界面形状を、得られるインゴットの内部に付与することができる。曲線形状を有する壁を用いると、廃棄物を少なくして圧延可能な特定の形状を持ったインゴットを形成するのに寄与することもできる。隣接する供給チャンバの対の間の分割壁は、可撓性となるよう製造することができ、最終のキャスト及び圧延製品中の2つの合金層の間の界面が、用いる合金に関係なく直線となり、かつ始動部分においてさえも直線となるように調整することができる。
【0045】
さらに本発明の別の態様によれば、供給端と、排出端と、該排出端の内部に取着され該環状モールドの軸方向に移動する可動の底ブロックとを備え開口を有する環状モールドを含む複合金属インゴットのキャスティング装置が提供される。そのモールドの供給端は少なくとも2つの別個の供給チャンバに分割され、各供給チャンバは少なくとも1つの別の供給チャンバに隣接する一方、隣接するチャンバ同士は分割壁により分離されている。分割壁は可撓性であり、分割壁には位置決め装置が取着されており、モールド平面における壁の曲率は予め設定された量だけ操作時に変化させることができる。
【0046】
さらに本発明の別の態様によれば、少なくとも2つの異なる合金からなる複合金属インゴットのキャスティング方法が提供され、その方法は、供給端と、排出端と、供給端を少なくとも2つの別個の供給チャンバに分割する手段であって、各供給チャンバが少なくとも1個の別の供給チャンバと隣接している分割手段とを有する開口を備えた環状モールドを用意する工程を含んでいる。隣接する供給チャンバ対に対し、隣接する供給チャンバの一方に第1合金からなる第1ストリームを通過させてモールドに供給し、第2合金からなる第2ストリームを隣接する供給チャンバの他方に供給する。可撓性の分割壁を、隣接する供給チャンバの間に設け、合金が接合されて2層となる界面の形状を制御すべくキャスティング時に分割壁の曲率を調整する。次に、接合された合金層を冷却して複合インゴットを形成する。
【0047】
注意深い液面制御が可能なように金属を供給する必要があり、そのような方法の一つとして、ガスをゆっくり供給することであり、環状モールド本体に対して固定した、開口を有するチューブの中に不活性ガスを流すことが好ましい。使用時には、モールド内の金属の表面よりも低い位置に開口を浸漬し、ガス圧力を測定することにより、チューブの開口より上の金属静水圧ヘッドを決定する。金属の上面を一定の液面に維持するため、測定された圧力はモールド内への金属流量を直接制御するのに使用される。
【0048】
さらに本発明の別の態様によれば、金属インゴットのキャスティング方法が提供され、その方法は、供給端と排出端を有し開口を備えた環状モールドを用意し、次に上記モールドの供給端の中に溶融金属のストリームを供給し、モールド内に表面を有する金属プールを作製するものである。ガス送出チューブの端部を、モールドの供給端から、金属プール内であってモールド本体に対し予め設定された位置に浸漬し、チューブを不凍結状態に保つのに十分な程度の遅い速度でガス送出チューブを通して不活性ガスを吹き込む。上記チューブ内のガス圧力を測定し、モールド本体に対する溶融金属の表面の位置を決定する。
【0049】
さらに本発明の別の態様によれば、金属インゴットのキャスティング装置が提供され、その装置は、供給端と、排出端と、該排出端の内部に取着され該環状モールドの軸方向に移動する可動の底ブロックとを備え開口を有する環状モールドを有している。外部ソースからモールドへ金属が流入する速度を調整する金属の流量コントロール装置が設けられており、さらに金属の液面センサも設けられている。液面センサは、ガス流量コントローラによりガス源に取着されたガス送出チューブを有しており、そのチューブは、使用時にはチューブの開口がモールド中の金属の液面より通常低い位置となるように、モールドの供給端よりも低い、予め設定された場所に配置されている。流量コントローラと、ガス送出チューブの開口との間のガス供給チューブ内のガス圧力を測定する手段も設けられており、測定されたガス圧力は金属の流量コントローラ装置の制御に用いられ、ガス送出チューブの開口の中に入る金属の量を予め設定したレベルに維持している。
【0050】
金属の液面を測定するこの方法及び装置は、マルチチャンバのモールド構造におけるいくつか又は全ての供給チャンバの場合のように制限された空間の中にある金属の液面の測定及び制御には特に有用なものである。フロート又は類似の表面位置モニターを用いる他の金属用液面コントロールシステムと組み合わせて用いることができ、例えば、より小さな供給チャンバではガスチューブを用い、より大きな供給チャンバではフロート又は類似の装置に基づく供給コントロールシステムを用いることができる。
【0051】
本発明の好ましい一態様によれば、2層の異なる合金からなり、一方の合金が、他方の合金から形成された長方形断面を有するインゴットのより広い又は圧延された面の上に層を形成してなる複合インゴットのキャスティング方法が提供される。この方法では、供給端と、排出端と、その供給端の分割手段を備えた、開口を有する環状モールドを用いるが、その分割手段は、その供給端を、温度制御された分割壁により分離され隣接する別個の供給チャンバへと分割する。第1合金からなる第1ストリームは、供給チャンバの一方を通ってモールドへ供給され、第2合金からなる第2ストリームは供給チャンバの他方を通って供給されるが、この第2合金は第1合金よりも低い液相線温度を有する。温度制御された分割壁により冷却された第1合金は、分割壁の下端よりも下へと延在する自立面を形成する一方、第2合金は、自立面の温度が第1合金の固相線温度と液相線温度との間に維持されている場所で第1合金の自立面と接触し、2つの合金ストリームは接合して2層となる。接合した合金層は冷却されて複合インゴットを形成する。
【0052】
別の好ましい態様によれば、2つのチャンバは、外側のチャンバが内側のチャンバを完全に囲み、第2合金のコアを第1合金の層が完全に囲んだインゴットを形成するように、配置することもできる。
【0053】
好ましい態様には、3つの供給チャンバを形成する、側面方向に離間した2つの温度制御された分割壁がある。各側面に分割壁を有する中央供給チャンバと、その中央供給チャンバの各面に一対の外側供給チャンバを有する。第1合金のストリームを中央供給チャンバを通して供給し、第2合金のストリームを2つの側面チャンバに供給することができる。この配置は、中央コア材料の上に2つのクラッド層を設ける場合に用いることができる。
【0054】
操作を逆にして、第1合金のストリームを側面チャンバを通して供給し、第2合金のストリームを中央チャンバを通して供給することもできる。この配置を用いると、第2合金を中央チャンバを通して供給することにより側面供給チャンバでキャスティングを開始し、第1合金の対を分割壁の直下で接触させる。
【0055】
インゴットの断面形状は特に限定されず(例えば、円形、正方形、長方形又は他の規則的な又は不規則な形状)、各層の断面形状もインゴットの内部で変化しても良い。
【0056】
本発明の別の態様では、伸長されたインゴットからなるキャストインゴット製品が提供され、その製品は、断面が、異なる組成の2以上の別個の合金層からなり、隣接合金層の間の界面が実質的に連続する金属結合からなるものである。この結合の特徴は、第1合金の1以上の金属間化合物の分散粒子が、界面に隣接する第2合金の領域に存在することである。本発明では、第1合金はその上に自立面が最初に形成されるものであり、表面温度が第1合金の固相線温度と液相線温度の間にある間、あるいは第1合金の固相線温度と液相線温度の間の温度まで界面を再加熱する間にこの表面に第2合金を接触させる。分散粒子の直径は約20μm以下で、界面から約200μmまでの領域に存在することが好ましい。
【0057】
この結合のさらなる特徴は、第1合金の1以上の金属間化合物の羽毛(plumes)又は滲出物が、界面からその界面に隣接する第2合金の領域へと延在して存在することである。これは、第2合金に接触する前までに自立面の温度が固相線温度より低くならない場合に特に起こり易い。
【0058】
羽毛又は滲出物は、界面から第2合金の領域へ約100μm以下の範囲で侵入することが好ましい。
【0059】
第1合金の金属間化合物が第2合金層に分散あるいは滲出している場合、第1合金と第2合金との間の界面に隣接して、第1合金層の中に層が存在し、その層は、金属間化合物の粒子の量が少なく、結果として、第1合金よりもより貴で、クラッド材料に耐食性を付与できる層を形成することができる。この層の厚さは典型的には4〜8mmである。
【0060】
この結合のさらなる特徴は、界面に隣接する第2合金層の中に第1合金の合金成分からなる拡散層が存在することである。これは、第1合金の表面が第1合金の固相線温度よりも低い温度まで冷却され、第1合金と第2合金との間の界面が固相線温度と液相線温度の間の温度まで再加熱された時に特に起こり易い。
【0061】
理論によって制限されることを望むものではないが、これらの特徴の存在は、第1合金の表面上に形成された自立面に第1合金の金属間化合物の分離物が形成され、その分離物が表面と接触して第2合金層の中に分散又は滲出することに起因するものである。金属間化合物の滲出は界面に存在する外向きの広がり力(splaying forces)により促進される。
【0062】
本発明により形成された層間の界面のさらなる特徴は、2つの合金層の間の界面に直接隣接する第1合金層の粒界の間に、第2合金層からの合金成分が存在していることである。これは、第2合金(まだ、通常、その液相線温度より高い)が第1合金の自立面(第1合金の固相線温度と液相線温度の間の温度にある)に接触した時に起こる。これらの特別の条件の下では、第2合金の合金成分は、液体状態の粒界に沿って短い距離(典型的には約50μm)しか拡散することができず、第1合金の表面に既に形成された粒子の中までは拡散することができない。もし、界面の温度が両方の合金の液相線温度以上であると、合金同士が全体的に混合し、第2合金成分は粒界だけでなく粒子の内部にも認められるはずである。もし、界面の温度が第1合金の固相線温度よりも低い場合、粒界の拡散は起こり得ない。
【0063】
説明した界面についての特別な特徴は、固体状態での拡散、あるいは制限された液体流路に沿っての元素の拡散又は移動によるものであり、界面全体の特徴的な特性に影響を与えるものではない。
【0064】
界面の形成方法には無関係に、界面の特徴的な構造が、界面に強い金属結合をもたらし、それにより、離層又は界面汚染等に関係する問題を生じることなく、薄板への圧延に適した構造とすることができる。
【0065】
本発明のさらに別の態様として、複合金属インゴットが提供され、そのインゴットは、少なくとも2層の金属からなり、さらに隣接する層からなる対が、第1金属層の表面温度がその固相線温度と液相線温度の間の温度で、かつ第2金属層の温度がその液相線温度より高い状態で第2金属層が最初に第1金属層の表面に接触するように、第2金属層を第1金属層の表面に接触させて形成したものである。その2つの金属層は、異なる合金からなることが好ましい。
【0066】
同じく、本発明のさらに別の態様として、複合金属インゴットが提供され、そのインゴットは、隣接する層からなる対を、第1金属層の表面に第2金属層を接触させて形成したものであり、その方法は、第2金属層を第1金属層に最初に接触させる時には、第1金属層の表面温度をその固相線温度よりも低い温度とする一方、第2金属層の温度をその液相線温度より高くし、次いで2つの金属層の間の界面を第1合金の固相線温度と液相線温度の間の温度まで再加熱するものである。2つの金属層が異なる合金からなることが好ましい。
【0067】
好ましい一態様によれば、インゴットは断面が長方形であり、第1合金からなるコアと、第2合金からなる1以上の表面層を有し、その表面層は長方形断面の長面に適用されたものである。この複合金属インゴットは、熱間及び冷間圧延により複合金属薄板とすることが好ましい。
【0068】
特に好ましい一態様では、コアの合金がAl-Mn合金であり、表面合金がAl-Si合金である。その複合インゴットは、熱間及び冷間圧延により複合金属ろう付け薄板とすることができ、耐食性ろう付け構造とするためのろう付け操作に供することができる。
【0069】
別の特に好ましい態様として、合金コアがスクラップアルミ合金であり、表面合金が純粋なアルミ合金である。その複合インゴットは、熱間及び冷間圧延により複合金属薄板とすることができ、耐食性及び表面仕上能力が向上した、安価なリサイクル製品を提供する。この文脈においては、純粋なアルミ合金とは、190 W/m/Kより大きい熱伝導率と50℃より低い凝固温度を有するアルミ合金である。
【0070】
さらに別の特に好ましい態様として、合金コアが高強度の非熱処理合金(例えば、Al-Mg合金)であり、表面合金がろう付け可能な合金(例えば、Al-Si合金)である。その複合インゴットは、熱間及び冷間圧延により複合金属ろう付け薄板として二次成型操作に供することができ、ろう付け又は同様に接合可能な自動車用構造材に使用することができる。
【0071】
さらに別の特に好ましい態様として、合金コアが高強度で熱処理可能な合金(例えば、2xxx合金)であり、表面合金が純粋なアルミ合金である。その複合インゴットは、熱間及び冷間圧延により複合金属薄板とすることにより、航空機用構造材に適したものとなる。耐食性又は表面仕上げのため、純粋な合金を選択することができ、コア合金の固相線温度よりも高い固相線温度を有するものが好ましい。
【0072】
さらに別の特に好ましい態様として、コア合金が中間強度を有する熱処理可能な合金(例えば、Al-Mg-Si)であり、表面合金が純粋なアルミ合金である。その複合インゴットは、熱間及び冷間圧延により複合金属薄板とすることにより、自動車用クロージャーに適したものとなる。耐食性又は表面仕上げのため、純粋な合金を選択することができ、コア合金の固相線温度よりも高い固相線温度を有するものが好ましい。
【0073】
別の好ましい態様として、インゴットが断面円筒状であり、第1合金からなるコアと、第2合金からなる同心の表面層を有する。さらに別の好ましい態様として、インゴットの断面が長方形又は正方形であり、第2合金からなるコアと、第1合金からなる環状の表面層を有する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】1個の分割壁を示す部分断面正面図である。
【図2】合金同士の接触を示す模式図である。
【図3】図1と同様の部分断面正面図であるが、一対の分割壁を示す。
【図4】図3と同様の部分断面正面図であるが、第2合金は、中央チャンバに供給される第1合金よりも低い液相線温度を有する。
【図5a】本発明に使用可能な供給チャンバの配置例を示す模式図である。
【図5b】本発明に使用可能な供給チャンバの配置例を示す模式図である。
【図5c】本発明に使用可能な供給チャンバの配置例を示す模式図である。
【図6】図1の部分断面の拡大図であり、曲率制御システムを示す。
【図7】変化可能な分割壁の曲率の効果を示すモールドの平面図である。
【図8】図1の一部の部分拡大図であり、合金の間の、テーパーを有する分割壁を示す。
【図9】分割壁の特に好ましい配置の一例を示すモールドの平面図である。
【図10】本発明の金属の液面制御システムの一例を示す模式図である。
【図11】本発明の供給チャンバに用いる供給システムの一例を示す斜視図である。
【図12】分割壁の別の好ましい配置の一例を示すモールドの平面図である。
【図13】本発明の方法を用いて作製した、隣接する合金からなる対の間の接合面の断面を示す顕微鏡写真であり、対向する合金の中に金属間化合物粒子が生成していることを示す。
【図14】図13と同様の接合面の断面を示す顕微鏡写真であり、金属間化合物の羽毛又は滲出物が生成していることを示す。
【図15】本発明の範囲外の条件で作製した、隣接する合金からなる対の間の接合面の断面を示す顕微鏡写真である。
【図16】本発明の方法を用いて作製した、クラッド合金層とキャストコア合金との間の接合面の断面を示す顕微鏡写真である。
【図17】本発明の方法を用いて作製した、クラッド合金層とキャストコア合金との間の接合面の断面を示す顕微鏡写真であり、接合面においてクラッド合金の粒界に完全に沿って、コア合金成分が存在していることを示す。
【図18】本発明の方法を用いて作製した、クラッド合金層とキャストコア合金との間の接合面の断面を示す顕微鏡写真であり、図17の拡散した合金成分の存在を示す。
【図19】本発明の方法を用いて作製した、クラッド合金層とキャストコア合金との間の接合面の断面を示す顕微鏡写真であり、図17の拡散した合金成分の存在を示す。
【発明を実施するための形態】
【0075】
図1に示すように、長方形のキャスティング用モールドアセンブリー10は、冷却水のストリーム13をディスペンスする水ジャケット12の一部をなすモールド壁11を有している。
【0076】
モールドの供給部は分割壁14により2つの供給チャンバに分割されている。溶融金属送出トラフ30と、調整可能なスロットル32を備え第1合金を第1供給チャンバへ供給する送出ノズル15と、側面溝を備えた第2金属送出トラフ24と、調整可能なスロットル31を備え第2合金を第2供給チャンバに供給する送出ノズル16とがある。調整可能なスロットル31,32は、手動であるいは各供給チャンバに入る金属の流量を調整する何らかの信号に応答して調整される。垂直方向に移動可能な底ブロックユニット17は、作製される中間段階の複合インゴットを支持し、キャストの開始に先立ってモールドの出口端の中に嵌挿され、その後インゴットを作製するために下げる。
【0077】
図2でより明確に示すように、第1供給チャンバでは、溶融金属本体18は徐々に冷却して、分割壁の下端に隣接する自立面27と形成し、次に液体と固体の間である柔らかい領域(mushy zone)と呼ばれる領域19を形成する。この柔らかい又は半固体の領域の下には固体の金属合金20が存在する。第2供給チャンバには、第1合金18よりも低い液相線温度を有する第2合金の液体流21を供給する。この金属も柔らかい領域22、そしてさらに固体部23を形成する。
【0078】
自立面27は、分割壁14から金属が分離するとわずかに収縮し、次いで、例えば金属18の金属静水圧ヘッドにより発生する拡張力が加わるとわずかに膨張する。自立面は、その面の温度が金属18の固相線温度より高くても、そのような力を抑制するに足る十分な強度を有している。その面の上の酸化物層は、この力のバランスをとるのに寄与する。
【0079】
分割壁14の温度を温度制御流体を用い予め設定した目標温度に制御するが、分割壁から熱を取り出す温度制御流体を送出及び除去するための入口36と出口37とを有する閉鎖溝33にその温度制御流体を流すことにより、自立面27の温度を分割壁35の下端より低く制御するのに寄与する冷硬界面(chilled interface)を形成することができる。第2チャンバ内の金属21の上面34を分割壁14の下端35より低い位置に維持し、同時に自立面27の温度を、面27の温度が金属18の固相線温度と液相線温度の間にある場所で金属21の表面34がこの自立面27と接触するように維持する。通常、表面34は、分割壁14の下端35より僅かに低い位置に、概ねその下端から約2〜20mmの範囲に位置するように制御される。この場所で2つの合金ストリームの間にこのような方法で形成された界面は、合金の過剰混合が起きることなく、2つの層の間に非常に強い金属結合を形成する。
【0080】
所望の範囲内に自立面27の温度を設定するのに必要な冷却剤の流量(及び温度)は、通常、作製時に金属インゴットの面27に埋め込んだ小さな熱電対を用いて経験的に決定され、所定の組成に対し一旦決定されると、金属18のキャスティング温度(キャスティング温度とは、金属18を供給チャンバの入口端部に送出する時の温度である)は、その合金のキャスティングの実施条件の一部となる。所定の流量で溝33の中に冷却剤を流すと、出口37で測定された分割壁の冷却剤用溝に存在する冷却剤の温度は、分割壁の下端より低い予め設定された場所における金属の自立面の温度と相関すること、そして冷却剤用溝の出口に熱電対又はサーミスタ40等の温度測定装置を設けることにより、この臨界的な温度を簡単かつ有効に制御できることを見出した。
【0081】
図3は、実質的に図1と同じモールドを示すものであるが、1対の分割壁14と14aが、モールドの開口部を3つの供給チャンバに分割している点が相違する。第1金属合金用の中央チャンバと、第2金属用の一対の外側供給チャンバがある。外側の供給チャンバは、第2及び第3の金属合金にも適用でき、その場合、分割壁14と14aの下端を異なる位置に配置し、キャスティングや、第1及び第2合金との間の界面及び第1合金と第3合金との間の界面に強い結合を形成するための特別な条件に応じて2つの分割壁に対し異なる温度制御を行うこともできる。
【0082】
図4に示すように、合金を逆転させることも可能であり、第1合金のストリームを外側の供給チャンバに供給し、第2合金のストリームを中央供給チャンバに供給することもできる。
【0083】
図5は、いくつかのより複雑な供給チャンバ配置の平面図である。これらの配置のそれぞれには、モールドを示す外壁11と、各チャンバを分離する内部分割壁14がある。隣接するチャンバの間の各分割壁14は、ここに記載したキャスティング条件が維持されるように配置され、かつ熱的に制御されなければならない。このことは、分割壁群を、モールドの入口から下方に延在させることができ、異なる位置で終了させることができ、異なる温度に制御することができ、そして各チャンバの金属の液面をキャスティングの実施条件に基づいて異なる液面となるように制御できることを意味する。
【0084】
図6と7に示すように、分割壁14を可撓性にしたり、あるいはモールドの面に可変の曲率を付与することは有効である。キャストを通じて一定の界面を維持すべく、通常、始動位置14と定常位置14'との間で曲率を変化させる。これは、一端が分割壁14の上面に取着され、直線アクチュエータ26により水平方向に駆動されるアーム25を用いて実行される。必要により、アクチュエータを熱シールド42により保護することもできる。
【0085】
合金の熱特性は顕著に変化するので、曲率の量及び程度は、インゴット中の種々の層に対して選択された合金に基づいて予め決定することができる。一般に、これらの値は、特定の製品に対するキャスティング条件の一部として経験的に決定される。
【0086】
図8に示すように、分割壁14の金属18側に垂直方向にテーパーを設けることもできる。このテーパーは分割壁14の長さ方向に変化し、隣接する合金層の間の界面の形状を制御することができる。モールドの外壁11の上にもテーパーを設けることができる。このテーパー又は形状は、例えば米国特許第6,620,602号明細書に記載されている原理を用いて形成することができ、また隣接する層に用いられる合金にも依存する。
【0087】
分割壁14は、金属(例えば鋼又はアルミ)から製造することができ、一部をグラファイトで製造することもでき、例えばテーパー面上にグラファイトのインサート46を用いることもできる。潤滑剤又は離型剤を提供するために、オイル送出溝48と溝47を用いることもできる。もちろん、公知の方法により、外壁にもインサート及びオイル送出構造を用いることもできる。
【0088】
分割壁の特に好ましい態様を図9に示す。分割壁14は、断面長方形のインゴットの片方又は両方の長(圧延)面に沿って、モールドの側壁11に実質的に平行に延在している。モールドの長側面の端部近傍に、分割壁14は90度の曲面45を有し、短側壁にまで完全に延在することなく長側壁11上の位置50で終了する。そのような分割壁を備えたクラッドインゴットキャストを圧延して、従来のロール・クラッディング方法よりも薄板の幅方向におけるクラッドの形状を良好に維持することができる。図8のテーパーは、この構造にも適用することができ、例えば、曲面45に大きなテーパーを設け、直線部44には中程度のテーパーを設けることができる。
【0089】
図10は、層状インゴットのキャスティングに限定されることなく、すべてのキャスティング用モールドに使用可能な、キャスティング用モールド中の金属の液面制御方法の一例を示すもので、多層インゴットのキャスティング用モールドに用いられる複数の金属チャンバに適用される、制限された空間内の金属の液面を制御するのに特に有効な方法である。ガス供給部51(通常、不活性ガスのボンベ)は流量コントローラ52に取り付けられており、その流量コントローラは、モールド内の基準位置54に位置決めされた開口53を有するガス送出チューブに微小流量を送出する。出口におけるガス送出チューブの内径は、通常、3〜5mmである。基準位置は、キャスティング操作時に、金属55の上面よりも低くなるように選択されるが、この基準位置はキャスティング実施条件により変化する。
【0090】
圧力変換器56は、流量コントローラと開口の間の場所でガス送出チューブに取着されており、これによりチューブ内のガスの背圧を測定できる。当業者に公知の手段によりチャンバに入る金属の流量を制御するため、この圧力変換器56は基準信号と比較可能な信号を発生する。例えば、金属送出トラフ59からの金属の供給には、耐火性チューブ58内に配置された調整可能な耐火性ストッパー57を用いることができる。使用時には、ガス送出チューブの端部の開口状態を維持しながら十分低い液面となるようにガス流量を調整する。ガス送出チューブの開口に挿入された1本の耐火性ファイバーを用いて、泡の生成による圧力変動を減衰させる。測定された圧力により、ガス送出チューブの開口がチャンバ内の金属の表面からどの程度の深さ浸漬しているかを決定し、それにより、基準位置に対する金属表面の高さとチャンバ内への金属の流速を、基準位置に対し金属表面を予め設定した位置に維持するように調整する。
【0091】
流量コントローラと圧力変換器には、通常入手可能な装置を用いることができる。しかし、流量コントローラには、5〜10 cc/minのガス流量範囲で信頼性の高いものを用いることが好ましい。約0.1 psi(0.689 kPa)まで測定可能な圧力変換器が、本発明においては金属の液面を良好に制御でき(1mm以内)、そしてその組合せにより、ガス送出チューブの開口を通るゆっくりしたバブリングによるわずかな圧力変動に対しても良好な制御を提供できる。
【0092】
図11は、本発明のモールドの上面の一部を示す斜視図の一例である。一の金属チャンバに対する供給チャンバを示しており、インゴットの上にクラッド面を作製するのに用いるような狭い供給チャンバに金属を供給する場合に好適に用いることができる。この供給システムでは、複数の小さな竪樋61が接続され、その端部が金属の表面より低い位置にある供給チャンバに隣接して溝60が設けられている。公知の方法により耐火性布から製造した分配バッグ62が、金属の分配及び温度の均一性を向上させるため、各竪樋61の出口の周囲に取着されている。次にトラフ68からの金属は溝に供給されるが、そこでは、1個の竪樋69が溝内の金属の中まで延在し、かつ従来の構造の流量コントロールストッパー(不図示)が挿入されている。金属がすべての場所に均一に流れるように、溝は配置及び水平化されている。
【0093】
図12は、長方形断面のインゴットクラッドを2つの面にキャスティングするため、より好ましい分割壁14の一例を示す。分割壁は、長方形断面のインゴットの片方又は両方の長(圧延)面に沿ってモールドの側壁11に実質的に平行な直線部44を有している。しかし、この場合、各分割壁は、位置41でモールドの短い端壁と交差する湾曲端部49を有している。このことは、従来のロール・クラッド法よりも、薄板の幅全体にクラッドの形状を維持するのに便利でもある。2つの面にクラッドを設けた例を示したが、インゴットの片面にクラッドを設ける場合にも同様に用いることができる。
【0094】
図13は、15倍の顕微鏡写真であり、本発明の条件下でキャストして得られたものであり、Al-Mn合金81(X-904:Mn 0.74wt%、Mg 0.55wt%、Cu 0.3wt%、0.17wt%、Si 0.07wt%、残部はAl及び不可避不純物)と、Al-Si合金82(AA4147:Si 12wt%、Mg 0.19wt%、残部はAl及び不可避不純物)との間の界面80を示す。Al-Mn合金は、固相線温度が1190°F(643℃)で、液相線温度が1215°F(657℃)であった。Al-Si合金は、固相線温度が1070°F(576℃)で、液相線温度が1080°F(582℃)であった。Al-Si合金をキャスティング用モールドに供給したが、その際、Al-Mn合金の上に自立面が既に形成されている場所でAl-Mn合金に接触するように金属の上面を維持して供給し、一方、温度をAl-Mn合金の固相線温度と液相線温度の間の温度とした。
【0095】
試料には明確な界面が存在し、合金全体の混合が起きていないことを示し、さらに、Al-Mn合金とAl-Si合金との間の界面80に隣接するAl-Si合金82の内部に約200μmの幅でMnを含む金属間化合物の粒子85が存在していることを示している。金属間化合物は、主に、MnAl6とα-AlMnである。
【0096】
図14は、200倍の顕微鏡写真であり、図13と同じ合金の組合せによる界面80を示すが、Al-Si合金をAl-Mn合金に接触させ前には、自立面の温度をAl-Mn合金の固相線温度よりも低くしなかった。Al-Mn合金81から界面80を超えAl-Si合金82へと延在する羽毛又は滲出物88が認められ、羽毛又は滲出物は図13の粒子と同様にMnを含む金属間化合物である。羽毛又は滲出物は、通常、隣接する金属の中へ100μm延在する。合金同士の間にできる結合は、強い金属結合である。Mnを含む金属間化合物の粒子85は、この写真でも認められ、その大きさは最大で20μmである。
【0097】
図15は、300倍の顕微鏡写真であり、Al-Mn合金(AA3003)とAl-Si合金(AA4147)途の間の界面を示すが、Al-Mn自立面をAl-Mn合金の固相線温度よりも約5℃以上低くして冷却し、その場所でAl-Si合金の上面をAl-Mn合金の自立面に接触させた。合金間の結合線90が明確に認められ、弱い金属結合が形成されたことを示す。また、第2合金の中には、第1合金の金属間化合物の滲出物又は分散物は存在していない。
【0098】
本発明の方法を用い、種々の合金の組合せについてキャストした。第2合金の上面において、第1合金の表面温度がその固相線温度と液相線温度の間となるように条件を調整した。すべての実施例において、合金を690mm×1590mmで長さ3mのインゴットにキャストし、従来通り、予備加熱、熱間圧延、そして冷間圧延を行った。キャストした合金の組成を以下の表1に示す。従来の用語を用い、”コア”は、2層の複合合金における厚い支持層であり、”クラッド”は表面の機能層である。表中、第1合金は最初にキャストされる合金であり、第2合金は第1合金の自立面に接触させる合金である。
【0099】
表1.

【0100】
各実施例では、クラッドは凝固する最初の合金であり、コア合金は自立面が形成された場所でクラッド合金に適用されたが、その場所の表面温度はまだ上記のL-S範囲内であった。このことを、クラッド合金がコア合金よりも低融点であるろう付け薄板用の上記実施例と比較することができ、その場合、クラッド合金(第2合金)をコア合金(第1合金)の自立面に適用した。上記の4つのキャストについてクラッドとコアとの間の界面の顕微鏡写真を撮影した。その倍率は50倍である。各写真で、”クラッド”層は左側、”コア”層は右側である。
【0101】
図16は、クラッド合金0303とコア合金3104との間のキャスト#051804の界面を示す。クラッド材料から、かなり合金化したコア層へと至る列理構造(grain structure)の変化から明確に認められる。
【0102】
図17は、クラッド合金1200とコア合金2124との間のキャスト#030826の界面を示す。図中、層間の界面は点線94で示している。この図では、2124合金の合金成分は、1200合金の粒界内であって界面から短い距離内に存在している。これらは、図において、材料の離間した”指状物”のように見え、その一つに符号95を付けている。2124合金成分は、約50μmの距離延在するが、これは、この条件における1200合金の1個の粒子の長さに対応する。
【0103】
図18はクラッド合金0505とコア合金6082との間のキャスト#031013の界面を示し、図19はクラッド合金1050とコア合金6111との間のキャスト#030827の界面を示す。これらの図のそれぞれにおいて、コア合金の合金成分の存在は、界面に直接隣接するクラッド合金の粒界中に認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する環状モールドであって、供給端と、排出端と、該排出端の内部に取着され該環状モールドの軸方向に移動する可動の底ブロックとを備え、該環状モールドの供給端は少なくとも2つの別個の供給チャンバに分割され、各供給チャンバは少なくとも1つの別の供給チャンバに隣接する一方、隣接するチャンバ対が該環状モールドの排出端の上部に位置する温度制御された分割壁により分離された、環状モールドと、
各供給チャンバに金属を送出する手段と、
各供給チャンバへの金属の流量を制御する手段と、
隣接するチャンバ対において、第1チャンバ内の金属の液面を上記の温度制御された分割壁の下端より上の位置に維持する一方、第2チャンバ内の金属の液面を第1チャンバ内の金属の液面とは異なる位置に維持する、各チャンバの金属の液面を制御する手段と、を備えた複合金属インゴット製造用のキャスティング装置。
【請求項2】
第2チャンバ内の金属の液面を分割壁の下端より低い位置に維持可能である請求項1記載のキャスティング装置。
【請求項3】
入口と出口とを有する、温度制御流体用の非開放溝が、上記の温度制御された分割壁に接続されている請求項1記載のキャスティング装置。
【請求項4】
温度測定装置が上記流体の出口に設けられている請求項3記載キャスティング装置。
【請求項5】
上記分割壁の曲率を変化させるように上記の温度制御された分割壁に取着された直線アクチュエーターと制御アームとを有する請求項1から3のいずれか一つに記載のキャスティング装置。
【請求項6】
上記の温度制御された分割壁が、第1チャンバと対向する面に、下方に延び第2チャンバ側に傾斜する外向きのテーパーを有している請求項1から3のいずれか一つに記載のキャスティング装置。
【請求項7】
上記テーパーが、上記の分割壁の長さ方向に沿って変化する請求項6記載のキャスティング装置。
【請求項8】
第1チャンバと対向する上記の温度制御された分割壁の面上にグラファイトのインサートを有する請求項1記載のキャスティング装置。
【請求項9】
上記の分割壁の面に対し潤滑層又は分離層となる液体送出溝を有する請求項1記載のキャスティング装置。
【請求項10】
上記グラファイトが多孔質であり、上記の温度制御された分割壁の中に設けられた1以上の流体送出溝が、上記の多孔質のグラファイトを介して上記流体を送出するために、第1チャンバに対向する上記の分割壁の面に取着されている請求項6記載のキャスティング装置。
【請求項11】
上記の金属の液面を制御する装置が、
ガス源と、
該ガス源からのガス流量を制御する流量コントローラと、
一端が上記流量コントローラに接続され他端が開口するチューブと、
該チューブに取着され該チューブ内のガス圧力を測定する圧力計と、を備えており、
使用時には上記チューブの開口がチャンバ内の金属に浸漬するように、上記チューブの開口は上記のモールド本体に対しチャンバ内の予め設定された位置に位置決めされており、
金属の液面を予め設定された位置に維持すべく、上記圧力計からの測定圧力に応じてチャンバへのガス流量を制御する上記流量コントローラを制御する、請求項1記載のキャスティング装置。
【請求項12】
上記のチャンバに金属を送出する手段が、1個の金属送出用トラフと、該トラフに接続された1以上の金属送出用開口チューブからなる請求項1記載のキャスティング装置。
【請求項13】
上記の1以上の金属送出用開口チューブが、使用時に開口が金属に浸漬するようにチャンバ内に配置されている請求項12記載のキャスティング装置。
【請求項14】
長さ方向に延びる実質的に平行な多数の層からなり、隣接する層は組成の異なる合金により形成されており
隣接する合金層間の界面が、実質的に連続な金属結合であり、さらに、隣接する第1の合金層の1以上の金属間化合物を含む粒子が界面に隣接する第2の隣接合金層の領域内に分散して存在することを特徴とする、複合金属の注型されたインゴット。
【請求項15】
隣接する第1の合金層の1以上の金属間化合物を含み、隣接する第2の隣接合金層から界面へと延在する羽毛(plumes)又は滲出物が存在することを特徴とする請求項14に記載の複合金属の注型されたインゴット。
【請求項16】
上記界面に隣接する第2の隣接合金層内に1つの層を有し、上記界面は該層の中に分散した第1の隣接合金層の元素を含む請求項14記載の複合金属の注型されたインゴット。
【請求項17】
異なる合金から形成された少なくとも2層からなる複合金属インゴットのキャスティング方法であって、
該方法は、溶融金属を添加する供給端と凝固したインゴットを抜き出す排出端と、該供給端を少なくとも2つの別個の供給チャンバに分割し、該各供給チャンバを少なくとも1つの他の供給チャンバに隣接させた状態で、下端が該排出端の上方に位置するように配置された分割壁とを有する、開口を備えた環状モールドを用いる方法であり、
隣接する供給チャンバ対に対し、第1合金からなる第1のストリームを該供給チャンバ対の一方の第1チャンバに供給して該第1チャンバの中に上面を有する第1合金プールを形成し、第2合金からなる第2のストリームを該供給チャンバ対の他方の第2チャンバに供給して該第2チャンバの中に上面を有する第2合金プールを形成する一方、
供給端を分割する分割壁は各チャンバ対の間に温度制御された分割壁を有しており、該温度制御された分割壁は、該温度制御された分割壁より低く2つのストリームが接触する界面の温度を、両方の合金の固相線温度よりも高い温度に維持し、
2つの合金ストリームを接合して2層となし、その接合された合金層を冷却して複合インゴットを形成する、複合金属インゴットのキャスティング方法。
【請求項18】
上記の2つのストリームが接触する場所における上記の2つの合金ストリームの一方の温度を、液相線温度よりも低く維持する請求項17記載の方法。
【請求項19】
上記の2つのストリームが接触する場所における上記の2つの合金ストリームの他方の温度を、液相線温度よりも高く維持する請求項18記載の方法。
【請求項20】
異なる合金から形成された少なくとも2層からなる複合金属インゴットのキャスティング方法であって、
該方法は、溶融金属を添加する供給端と凝固したインゴットを抜き出す排出端と、該供給端を少なくとも2つの別個の供給チャンバに分割し、該各供給チャンバを少なくとも1つの他の供給チャンバに隣接させた状態で、下端が該排出端の上方に位置するように配置された分割壁とを有する、開口を備えた環状モールドを用いる方法であり、
隣接する供給チャンバ対に対し、第1合金からなる第1のストリームを該供給チャンバ対の一方の第1チャンバに供給して該第1チャンバの中に上面を有する第1合金プールを形成し、第2合金からなる第2のストリームを該供給チャンバ対の他方の第2チャンバに供給して該第2チャンバの中に上面を有する第2合金プールを形成する一方、
供給端を分割する分割壁は可撓性で、かつ分割壁の形状はキャスティング時に調整されており、
2つの合金ストリームを接合して2層となし、その接合された合金層を冷却し隈無く均一な界面を有する複合インゴットを形成する、複合金属インゴットのキャスティング方法。
【請求項21】
開口を有する環状モールドを備え、該環状モールドは、供給端と、排出端と、該排出端の内部に取着され該環状モールドの軸方向に移動する可動の底ブロックとを有し、該環状モールドの供給端は少なくとも2つの別個の供給チャンバに分割され、各供給チャンバは少なくとも1つの別の供給チャンバに隣接する一方、隣接するチャンバ対は該環状モールドの排出端の上部で終了する分割壁により分離されており、
上記分割壁は可撓性であり、かつキャスティング操作時に上記分割壁の曲率を変化させるように上記分割壁に取着された1以上の直線アクチュエーターと制御アームとを有する、複合金属インゴット製造用のキャスティング装置。
【請求項22】
供給端と排出端を有し開口を備えた環状モールドを用意し、ここで溶融金属を供給端に添加する一方、凝固したインゴットを排出端から抜き出し、次いで溶融金属のストリームを供給端に供給して上面を有する金属プールを形成するが、ガス源を供給して該上面の位置を制御し、
開口チューブによりガスを送出し、ここで開口が金属プールの上面よりも低くなるように、モールド内の予め設定した基準点に開口を位置決めし、
チューブの開口を十分に維持可能な程度の遅い流速でチューブ内にガスを流すべく、ガス流量を制御し、
チューブ内のガス圧力を測定し、
予め設定した目標値と測定した圧力とを比較し、そして
モールド内への金属の流量を制御して上面を所望の位置に維持する、金属インゴットのキャスティング方法。
【請求項23】
開口を有し、供給端と、排出端と、該排出端の内部に取着され該環状モールドの軸方向に移動する可動の底ブロックとを備えた環状モールドと、
上記モールドへの金属送出手段と、
上記モールドへの金属の流量制御手段と、
ガス源と、該ガス源からのガスの流量を制御する流量コントローラと、該流量コントローラに一端が接続され他端が開口するチューブと、該チューブに取着されチューブ内のガス圧力を測定する圧力計とを有する金属の液面制御装置とを備え、
使用時にはチューブの開口がモールド内の金属に浸漬するように、チューブの開口をモールド本体に対しチャンバ内の予め設定した位置に位置決めし、
予め設定した位置に金属の液面を維持するように、圧力計からの測定圧力に基づいて、モールドへの金属の流量を制御する上記流量制御手段を制御する、金属インゴット製造用のキャスティング装置
【請求項24】
異なる合金組成の少なくとも2層からなる複合金属インゴットのキャスティング方法であって、
第1合金と第2合金とからなる隣接層の対を、溶融状態の第2合金を、表面温度が第1合金の固相線温度と液相線温度の間である第1合金の表面に適用することにより形成する、複合金属インゴットのキャスティング方法。
【請求項25】
異なる合金組成の少なくとも2層からなる複合金属インゴットであって、
第1合金と第2合金とからなる隣接層の対が、溶融状態の第2合金を、表面温度が第1合金の固相線温度と液相線温度の間である第1合金の表面に適用することにより形成してなる複合金属インゴット。
【請求項26】
上記インゴットの断面が長方形であり、
第1金属からなるコア層と、上記長方形の長面側に第2合金からなる少なくとも1個の表面層を有する請求項25記載の複合金属インゴット。
【請求項27】
第1合金がAl-Mn合金であり、第2合金がAl-Si合金である請求項26記載の複合金属インゴット。
【請求項28】
熱間及び冷間圧延された請求項27の複合金属インゴットからなる複合薄板製品。
【請求項29】
上記の薄板製品がろう付き薄板からなる請求項28の複合薄板製品。
【請求項30】
上記の薄板製品が融剤ろう付け法又は無融剤ろう付け法を用いてろう付け構造体に取り込まれる請求項29記載の複合薄板製品。
【請求項31】
第1合金がスクラップアルミ合金であり、第2合金が熱伝導率が190 W/m/Kより大で、凝固温度が50℃より低いアルミ合金である請求項26記載の複合金属インゴット。
【請求項32】
熱間及び冷間圧延された請求項31記載の複合金属インゴットからなる複合薄板製品。
【請求項33】
第1合金がAl-Mg合金であり、第2合金がAl-Si合金である請求項26記載の複合金属インゴット。
【請求項34】
熱間及び冷間圧延された請求項33記載の複合金属インゴットからなる複合薄板製品。
【請求項35】
上記の薄板製品が、ろう付け可能な自動車用構造部材である請求項34記載の複合薄板製品。
【請求項36】
第1合金が高強度で熱処理可能なアルミ合金であり、第2合金が熱伝導率が190 W/m/Kより大で、凝固温度が50℃より低いアルミ合金である請求項26記載の複合金属インゴット。
【請求項37】
熱間及び冷間圧延された請求項36記載の複合金属インゴットからなる複合薄板製品。
【請求項38】
上記の薄板製品が、耐食性の航空機用薄板である請求項37記載の複合薄板製品。
【請求項39】
第1合金がAl-Mg-Si合金であり、第2合金が熱伝導率が190 W/m/Kより大で、凝固温度が50℃より低いアルミ合金である請求項26記載の複合金属インゴット。
【請求項40】
熱間及び冷間圧延された請求項39記載の複合金属インゴットからなる複合薄板製品。
【請求項41】
上記の薄板製品が、自動車用のクロージャーパネルである請求項40記載の複合薄板製品。
【請求項42】
断面が、異なる合金組成を有する2以上の別個の合金層である伸長されたインゴットからなるキャストインゴット製品であって、
隣接合金層の間の界面が実質的に連続する金属結合からなり、
さらに、界面に隣接する第2の隣接合金層の領域内に、第1の隣接合金層の1以上の金属間化合物からなる分散粒子が存在することを特徴とするキャストインゴット製品。
【請求項43】
さらに、上記界面から上記界面に隣接する第2の隣接合金層の領域へと延在し、第1の隣接合金層の1以上の金属間化合物からなる羽毛又は滲出物が存在することを特徴とする請求項42記載のキャストインゴット製品。
【請求項44】
さらに、キャストされたままの製品中に、上記界面に隣接する拡散帯と、第1の隣接合金層からの合金元素を含む第2の隣接合金層とを有することを特徴とする請求項42記載のキャストインゴット製品。
【請求項45】
さらに、キャストされた製品中に、上記界面における第1の隣接合金層内に金属間化合物粒子の量が少ない層を有することを特徴とする請求項42記載のキャストインゴット製品。
【請求項46】
金属間化合物粒子の量が少ない層の厚さが4〜8mmである請求項45記載のキャストインゴット製品。
【請求項47】
断面が、隣接層が異なる合金組成を有する2以上の別個の合金層である伸長されたインゴットからなるキャストインゴット製品であって、
隣接する第1合金層と第2合金層との間の界面が実質的に連続する第1合金と第2合金との間の金属結合からなり、
第2合金の合金成分が、上記界面に隣接する第1合金層の粒界にすべて存在しているキャストインゴット製品。
【請求項48】
第1合金層の粒界に形成された第2合金の合金成分が、表面温度が第1合金の固相線温度と液相線温度との間にある第1合金の表面に溶融状態の第2合金を適用して得られた結果物である請求項47記載のキャストインゴット製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−221301(P2010−221301A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131310(P2010−131310)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【分割の表示】特願2006−515605(P2006−515605)の分割
【原出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(506110243)ノベリス・インコーポレイテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】NOVELIS INC.
【Fターム(参考)】