説明

複合キャパシタ負極板及び鉛蓄電池

【課題】 サイクル寿命の向上した鉛蓄電池をもたらす複合キャパシタ負極板を提供する。
【解決手段】 負極板の表面にキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有するカーボン材料を含有するカーボン合剤の被覆層を形成して成る複合キャパシタ負極板において、該カーボン材料は、X線回折による002面と10面の面間隔比が1.89以下及び/又は、002面と11面の面間隔比が3.26以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド電気自動車用や風力発電や太陽光発電の蓄電用などの各種産業に用いられる複合キャパシタ負極板及び鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハイブリッド電気自動車用として従来の鉛蓄電池に比し高率放電、高率充電に優れた鉛蓄電池が、特表2007-506230号公報に提案されている。該鉛蓄電池の負極は、カーボンブラックなどの導電性を確保するカーボン材料と活性炭などのキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を確保するカーボン材料とを夫々適量配合し、これに結着剤を含むカーボン合剤をペースト状に調製し、これを負極板の表面に塗布しカーボン合剤被覆層を形成した後、乾燥して複合キャパシタ負極板としたものである。そして、該鉛蓄電池は、この複合キャパシタ負極板と正極板をセパレータを介し積層して組み立てた極板群を常法に従い電槽内に収容し、硫酸電解液を注入して製造したものである。
従来、電気二重層キャパシタに用いられる活性炭は、より大きな二重層容量と急速充放電性能を獲得するため、比表面積と細孔容積の増大と吸着イオン種に合わせた細孔径の最適化が図られてきた。しかし、鉛蓄電池に活性炭を用いる場合は、硫酸電解液に由来する硫酸イオンとプロトンの他に、活物質に由来する鉛イオンが活性炭との吸脱着と酸化還元反応に関与するため、最適な活性炭の選択はより複雑なものとなった。また、活性炭の製造時の出発原料の相異、炭化条件の相異などにより複合キャパシタ負極板による鉛蓄電池のサイクル寿命が必ずしも向上したものが得られず、鉛蓄電池の製造に信頼性がないことが分かった。
また、通常の活性炭は六角網面が積層したグラファイトの結晶構造が大きく乱れたものと言われ、六角網面は維持されるがc軸方向が乱層構造を取るため、X線回折を行ってもピークが不鮮明になり、00l回折線とhk0回折線は認められるが、hkl回折線は認められなくなる。即ち、2θ=20-30°に002回折線、40-45°に10回折線(グラファイトの100,101,102回折線に対応)、45-50°に004回折線が現れる。(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007-506230号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】眞田雄三・鈴木基之・藤本薫編「新版活性炭-基礎と応用」株式会社講談社 2003年8月10日発行 P4〜P5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし乍ら、上記の複合キャパシタ負極板を負極として用いた鉛蓄電池は、PSOCで急速充放電を繰り返すハイブリッド自動車や風力発電、太陽光発電の蓄電用などの高率放電や高率充電に適することを確認し得たが、該蓄電池の寿命の点で更なる改善ができないかを検討するべくキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する活性炭などの各種カーボン材料に注目した。
発明者等は、上記従来の考え方とは異なる観点から、キャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する活性炭などの各種カーボン材につき検討した結果、a軸方向の面間隔を基準とし、c軸方向の面間隔との比率が或いはa軸とb軸の合成方向の面間隔の比率が夫々ある値よりも小さくなることがイオンの吸脱着を容易にし、また酸化還元反応に対する活性の向上にも影響することを見出した。これは、c軸方向の層間又は上記のa軸とb軸の合成方向の層間に侵入するイオン種の量と同時にa軸方向の末端面に吸着するイオン量も性能に寄与するためと考えられる。かくして、発明者等は、上記の見知から鋭意検討を重ねた結果、上記の課題を解決し、特定のカーボン材料を用いることにより、従来の鉛蓄電池に比し、長寿命の鉛蓄電池を確実に製造できる複合キャパシタ負極板を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、請求項1に記載の通り、負極板の表面にキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有するカーボン材料を含有するカーボン合剤の被覆層を形成して成る複合キャパシタ負極板において、該カーボン材料は、X線回折による002面と10面の面間隔比が1.89以下及び/又は、002面と11面の面間隔比が3.26以下であることを特徴とする複合キャパシタ負極板に存する。
該カーボン材料としては、請求項2に列挙した各種のカーボン材料である。
更に本発明は、請求項3に記載の通り、請求項1又は2に記載の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池に存する。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、該複合キャパシタ負極板は、上記の特性を有する請求項2に記載の各種カーボン材料から選択した少なくとも1種をカーボン合剤被覆層に含有するので、これを鉛蓄電池の負極として具備せしめることにより、従来の長寿命の鉛蓄電池の製造に信頼性を欠く不都合を解消し、サイクル寿命の向上した鉛蓄電池を確実に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】各種活性炭の002面の面間隔と10面の面間隔の比と鉛蓄電池のサイクル寿命の関係を示す特性図。
【図2】各種活性炭の002面の面間隔と11面の面間隔の比と鉛蓄電池のサイクル寿命の関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の複合キャパシタ負極板は、従来の製造法に従い製造する。即ち、鉛又は鉛合金系から成る集電用格子基板に鉛活物質を充填して成る負極板の表面に、その少なくとも片面又は両面に、カーボン合剤のペーストを塗布して湿潤状態の該負極活物質に密着したカーボン合剤被覆層を形成し、次いで乾燥せしめることによりその表面に一体に密着したポーラスなカーボン合剤被覆層を有する複合キャパシタ負極板が製造される。
【0010】
従来、カーボン合剤は、導電性を確保する公知の各種のカーボン材料から選択した少なくとも1種とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を確保する公知の各種カーボン材料から選択した少なくとも1種とを混合したもので、このカーボン合剤を増粘剤と水を適当に添加混練してペースト状として負極板に塗布し、前記のように複合キャパシタ負極板としたものを鉛蓄電池の負極として用いたので、そのサイクル寿命がまちまちな鉛蓄電池が得られ、サイクル寿命の向上した鉛蓄電池を確実に製造できない不都合があった。
【0011】
かかる従来の事情に鑑み、カーボン合剤に含有せしめる鉛蓄電池の寿命に大きく影響する特にキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する各種のカーボン材料につき、カーボン合剤に用いる前に、発明者等の上記の知見から夫々のカーボン材料につき、X線粉末回折法により下記するような面間隔の測定を行った。
その代表例として、出発原料の種類、炭化条件の相異、賦活条件の相異などにより製造された市販の11種類の活性炭の夫々につき、X線回折により002面間隔、10面間隔、11面間隔を夫々測定算出し、面間隔比(002面/10面)及び面間隔比(002面/11面)を求めた。
【0012】
X線粉末回折法による活性炭の面間隔の測定は次のように行った。X線回折装置は、理学電気工業株式会社製RINT2200 Ultimaを用いた。上記11種類の活性炭の夫々の試料を平均粒径が30ミクロン以下になるように機械粉砕したものをサンプルとし、これをガラス製サンプルホルダーにセットした。そして、X線源としてCu Kα線を用い2θ=10-90°の測定を行った。得られた回折線はX線回折総合解析ソフトJADE+を用いてラインブロードニングとバックグラウンドの処理を行い、更に40-50°付近に現れる10回折線と004回折線から成るブロードな回折線は2つの回折線が正規分布であると仮定して10回折線を分離した。これらの回折線のピークを2θとして夫々の面間隔を算出した。その結果を図1及び図2に示す。
【0013】
次に、これら11種類の活性炭の夫々を用い、下記表1に示す配合組成から成る11種類のペースト状のカーボン合剤を作製し、その各ペーストを負極板の耳部を除き、その両面に、該ペーストの乾燥重量換算で負極活物質の重量の5wt.%を塗布し、空気中で60℃で1時間乾燥して11種類の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、夫々の複合キャパシタ負極板5枚と正極板4枚とをセパレータを介して交互に積層し極板群を組み立て、電槽内に収容した。この場合、極板群の両端と電槽の対向面にスペーサーを介して群の圧迫度が50kPaになるようにした。次いで、制御弁を具備した蓋を施した後、電槽に硫酸アルミニウム18水塩を30g/L溶解した比重1.30の硫酸水溶液を注入した。次に1Aで20時間充電を行い、その後セル電圧が1.75Vに達するまで2Aで放電した。その後、再び1Aで15時間の充電と2Aでセル電圧1.75Vまで放電し、かくして、正極容量規制で、5時間率容量が10Ahの制御弁式鉛蓄電池を11種類製造した。
【0014】
【表1】

【0015】
次に、これら11種類の鉛蓄電池の夫々を用いて、HEVによる走行を模擬してPSOCで急速充放電を繰り返すことによる寿命試験を行った。その試験は該電池を2Aで1時間放電してPSOC 80%とした後、40℃の雰囲気中で50Aで1秒放電と20Aで1秒充電を500回繰り返した後、30Aで1秒充電と1秒の休止を510回繰り返した。これを1サイクルとした。そして、放電時のセル電圧が0Vに達した時点を寿命として、寿命に至るまでのサイクル数を測定した。その結果を図1及び図2に示す。
図1及び図2で、符号a,b,…jは11種類の活性炭を示す。
これらの図から明らかな通り、X線回折による002面/10面の面間隔比が1.89以下の活性炭e,f,g,h,i,j,k及び002面/11面の面間隔比が3.26以下である活性炭e,f,g,h,i,j,kは、サイクル寿命が500サイクルを超える長寿命の鉛蓄電池をもたらすことが判明した。これに対し、002面/10面の面間隔比が1.90以上の活性炭a,b,c,d及び002面/11面の面間隔比が3.28以上の活性炭a,b,c,dはサイクル寿命が500サイクル未満の短寿命の鉛蓄電池をもたらすことが判明した。
従って、活性炭e,f,g,h,i,j,kをカーボン合剤に用いるときは、500サイクル以上の長寿命の鉛蓄電池を確実に製造することができる。
【0016】
以上から明らかなように、上記の比較試験に試料として用いた活性炭のうち、サイクル寿命が500サイクル以上を有する鉛蓄電池は、(a)002面/10面の面間隔比が1.89以下であり、且つ(b)002面/11面の面間隔比が3.26以下である活性炭e,f,g,h,i,j,kを用いて複合キャパシタ負極板得られることが判明したが、その他の市販の複数種の活性炭を夫々試料として上記と同様のX線回折により測定し、上記(a)及び(b)の面間隔比を予め求めた後、上記の比較試験例と同様にして複数種の複合キャパシタ負極板を作製し、その夫々を負極とした鉛蓄電池を夫々製造し、上記のサイクル寿命試験を行った。その結果、002面/10面の面間隔比が1.89以下であるという条件及び002面/11面の面間隔比が3.26以下であるという条件のいずれか一方の条件を満足する活性炭を用い、複合キャパシタ負極板を製造することにより、500サイクル以上のサイクル寿命を有する鉛蓄電池が得られることを確認した。
【0017】
活性炭以外のキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有するカーボン材料であるカーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボンについて、夫々市販品を用いて、上記と同様にX線回折による上記(a)及び(b)の面間隔比の測定を行った後、上記と同様にしてこれらを用いて複合キャパシタ負極板を夫々作製し、上記の同様にしてこれらを負極とした鉛蓄電池を製造し、その夫々につき上記と同様にサイクル寿命試験を行った結果、上記(a)及び(b)の少なくともいずれか一方の面間隔比の条件を満たしたカーボン材料により、500サイクル以上の寿命を有する鉛蓄電池が確実に得られることが判った。
【0018】
このように、本発明によれば、複合キャパシタ負極板のカーボン合剤被覆層の形成に用いるカーボン材料としてX線回折による002面/10面の面間隔比が1.89以下、及び/又は002面/11面の面間隔比3.26以下のものを使用することにより、長寿命の鉛蓄電池が確実に得られ、従来の此種鉛蓄電池の製造の信頼性を高めることができ、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0019】
a,b,c,d,e,f,g,h,i,j,k 各種活性炭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極板の表面にキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有するカーボン材料を含有するカーボン合剤の被覆層を形成して成る複合キャパシタ負極板において、該カーボン材料は、X線回折による002面と10面の面間隔比が1.89以下及び/又は、002面と11面の面間隔比が3.26以下であることを特徴とする複合キャパシタ負極板。
【請求項2】
該カーボン材料は、活性炭、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック又はチャンネルブラックなどのカーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボンである請求項1に記載の複合キャパシタ負極板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−133958(P2012−133958A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284039(P2010−284039)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】