説明

複合体電極

【課題】電気化学素子における作動電圧、容量、エネルギー密度を高くすることができる電極を提供する。
【解決手段】本発明の電極は、少なくとも1種のチオフェンオリゴマーと少なくとも1種のカーボンナノチューブとの複合体を含有する活物質層を有する複合体電極あって、上記チオフェンオリゴマーの重合度が4〜20の範囲であり、上記カーボンナノチューブの比表面積が600〜2600m/gの範囲であることを特徴とする。本発明の複合体電極は、p−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子を使用した電極のものとほぼ同等であるかあるいはより高く、n−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子を使用した電極のものよりも低く、従来の電極と比較して大幅に増加した容量を有する上に、低インピーダンス特性を有する。そのため、電気化学素子の作動電圧、容量、エネルギー密度を従来のものより高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動電圧が高く、高容量でエネルギー密度が高い電気化学素子を与えることができる、チオフェンオリゴマーとカーボンナノチューブとの複合体を含有する活物質層を有する複合体電極に関する。
【背景技術】
【0002】
石油消費量の低減、大気汚染の緩和、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量の削減等の観点から、ガソリン車やディーゼル車に代わる電気自動車やハイブリッド自動車などの低公害車に対する期待が高まっている。このような低公害車におけるモーター駆動電源として、高エネルギー密度及び高出力密度を有する二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子が用いられる。
【0003】
二次電池には、水系電解液を用いた電池と、非水系電解液(有機電解液)を用いた電池とが存在する。
【0004】
酸性又はアルカリ性の水系電解液を用いた電池としては、鉛電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル水素電池、プロトン電池などがある。これらの二次電池は、水の電気分解電圧が1.23Vであるため、それ以上の高い作動電圧を得ることができない。電気自動車の電源としては200V前後の高電圧が必要であるが、この電圧を得るためには多くの電池を直列に接続しなければならず、電源の小型化・軽量化のためには不利である。しかしながら、水系電解液のイオン伝導性が高いため、充放電の際に大電流が得られるという優れた出力特性を有している。
【0005】
一方、非水系電解液を用いた電池としては、リチウムイオン二次電池が良く知られている。この電池は、一般に、リチウムイオンを吸蔵、放出する炭素材料を負極とし、コバルト酸リチウム(LiCoO)などのリチウム層状化合物を正極とし、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩をエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの有機溶媒に溶解させた液を電解液としている。このようなリチウムイオン二次電池は、有機溶媒の電気分解電圧が高いため、平均作動電圧として3.6Vを得ることができ、エネルギー密度も高い。しかしながら、充放電反応が電極のリチウムイオンの吸蔵、放出であるため、出力特性に劣り、大きな瞬間電流が必要とされる電気自動車用の電源としては不利である。
【0006】
電気二重層キャパシタは、活性炭などの分極性電極を正負極とし、電極表面と電解液との界面に生じる電気二重層を静電容量として利用している。電気二重層キャパシタは、出力密度が高く、急速充放電が可能であり、充放電を繰り返しても容量劣化が少ない。電気二重層キャパシタでは、充放電に伴って電解質イオンが電解液内を移動して電極界面に吸脱着するだけであり、電池のような電気化学反応を伴わないためである。
【0007】
電気二重層キャパシタにも、水系電解液を用いたキャパシタと、非水系電解液(有機電解液)を用いたキャパシタとが存在する。
【0008】
電気二重層キャパシタの作動電圧は主に電解液の電気分解電圧によって決定されるため、水系電解液を用いたキャパシタは非水系電解液(有機電解液)を用いたキャパシタに比較して作動電圧の点で不利である。しかしながら、出力密度が高く安全であるという利点を有している。
【0009】
一方、プロピレンカーボネートなどの有機溶媒に四フッ化ホウ素や六フッ化リンなどの四級オニウム塩を溶解させた非水系電解液を用いる電気二重層キャパシタは、作動電圧が、水系電解液を用いたキャパシタより高いが、二次電池に比較すると低い。また、電気二重層容量によるエネルギー密度が二次電池に比較して低く、電気自動車の電源としては大幅に不足する。
【0010】
このような問題点の改善を目的として、電気化学素子に使用される電極活物質の検討が進められている。
【0011】
特許文献1(特開2003−297362号公報)は、p−ドーピング可能な導電性高分子を主体とする正極と、リチウムイオンを吸蔵、脱離しうる炭素材料を主体とする負極と、リチウム塩を含む有機電解液とを有するハイブリッド二次電源を提案している。重量平均分子量が50000のポリチオフェン、重量平均分子量が80000のポリ(3−メチルチオフェン)等を正極として使用した二次電源により、作動電圧が4.0Vであり、正極として活性炭を使用した二次電源と同等以上の容量を有し、かつ充放電サイクル信頼性の高い二次電源が得られている。
【0012】
特許文献2(特開平6−104141号公報)は、導電性高分子粉末ペーストを用いて作成した電極を備えた電気二重層キャパシタの高容量化及び内部抵抗の低減を達成する目的で、電解重合法により得られた導電性高分子膜を分極性電極として使用した電気二重層キャパシタを提案している。電解重合法により得られたポリピロール膜の利用により、作動電圧が2.6Vで、粉末ペーストを用いた電極を備えた電気二重層キャパシタより高容量を有する電気二重層キャパシタが得られている。
【0013】
電気二重層キャパシタにおける低いエネルギー密度の改善のため、電気二重層の静電容量に加えて電極表面でのレドックス反応あるいは電荷移動反応による付加的な容量を利用する電気化学キャパシタの検討も行われている。このような電気化学キャパシタの電極活物質としては、酸化還元反応が容易に起こる酸化ルテニウム、酸化マンガン、酸化ニッケル等の金属酸化物や、電解液のアニオン、カチオンとのπ電子の授受による電荷移動が比較的容易に起こるポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性高分子が検討されている。
【0014】
また、特許文献3(特開2000−315527号公報)は、薄膜状のトリフェニルアミンを繰り返し単位として含む導電性高分子を正極とし、薄膜状の2,2’−ビピリジンを繰り返し単位として含む導電性高分子を負極とする非水電気化学キャパシタを提案しており、2.7Vまでの作動電圧を示し、エネルギー密度が電気二重層キャパシタの3倍以上である非水電気化学キャパシタが得られている。
【0015】
また、特許文献4(特開2006−48974号公報)は、ポリ(3−メチルチオフェン)を用いた二次電池及び電気化学キャパシタよりも高い作動電圧を有する二次電池及び電気化学キャパシタを与えることができる、ポリフルオレン又はその誘導体から成る電極材料を開示している。
【0016】
さらに、特許文献5(特開2007−81384号公報)は、半導体性カーボンナノチューブを含有する比表面積が700m/g以上のカーボンナノチューブを、非水系電解液を使用した電気化学キャパシタの1対の電極の少なくとも一方として用いると、半導体性カーボンナノチューブが電解質溶液と接した状態で分極したときに、p−ドーピング及びn−ドーピングを起こしてキャリア密度を上昇させ、電気容量を向上させ、カーボンナノチューブの大きな比表面積が電気化学キャパシタの静電容量とエネルギー密度とをさらに増加させるため、高い電気容量及び高いエネルギー密度を有し、耐用電圧が向上した電気化学キャパシタが得られることを開示している。
【0017】
【特許文献1】特開2003−297362号公報
【特許文献2】特開平6−104141号公報
【特許文献3】特開2000−315527号公報
【特許文献4】特開2006−48974号公報
【特許文献5】特開2007−81384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、電気自動車等のモーター駆動電源の小型化・軽量化の要求は恒常的であり、そのため、電源として使用される電気化学素子に対する高作動電圧化、高容量化、高エネルギー密度化の強い要求がある。
【0019】
そこで、本発明の課題は、作動電圧が高く、高容量でエネルギー密度が高い電気化学素子を与えることが可能な、従来の導電性高分子を電極活物質として用いた電極より高容量で高電圧特性を有する電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明者らは、電極の活物質層において重合度が4〜20のチオフェンオリゴマーを比表面積の大きなカーボンナノチューブと組み合わせて使用することにより、上記課題が解決されることを見出した。
【0021】
本発明の電極は、少なくとも1種のチオフェンオリゴマーと少なくとも1種のカーボンナノチューブとの複合体を含有する活物質層を有する複合体電極あって、上記チオフェンオリゴマーの重合度が4〜20の範囲であり、上記カーボンナノチューブの比表面積が600〜2600m/gの範囲であることを特徴とする。以下、比表面積が600〜2600m/gの範囲であるカーボンナノチューブを「HSCNT」と表わす。カーボンナノチューブの比表面積は、窒素吸着法により求めることができる。
【0022】
重合度が4〜20のチオフェンオリゴマーは、従来の導電性高分子より高容量を有する上に、p−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子のものとほぼ同等であるかあるいはより高く、n−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子のものよりも低い。重合度が4未満であると、十分な安定性が得られず、重合度が20を超えると、電気化学的特性が従来のポリチオフェンの特性に近づく。
【0023】
一方、カーボンナノチューブは高い電気伝導度を示し、その比表面積が増加するにつれて電解質溶液との接触における容量が増加する。数百本のチューブがファンデルワールス力により束になったバンドル構造を有するカーボンナノチューブは、比表面積がせいぜい500m/gであるが、バンドルが無いかあるいは極めて少ない比表面積が大きいHSCNTを得る方法が知られている。また、HSCNT自体も電解質溶液との接触において高容量を有すること、及び、比表面積が大きい上に高い構造完全性を有しているため耐用電圧が高いことも知られている。(特許文献5参照)。
【0024】
このような比表面積の大きなHSCNTと重合度が4〜20のチオフェンオリゴマーとを複合化させて電極の電極活物質として使用すると、p−ドーピングの酸化還元電位を従来の導電性高分子を使用した電極のものとほぼ同等であるかあるいはより高くすることができ、n−ドーピングの酸化還元電位を従来の導電性高分子を使用した電極のものよりも低くすることができ、さらに電極の容量を大幅に増加させることができる。また、上記チオフェンオリゴマーとHSCNTとにより高い電気伝導度の複合体を得ることができ、HSCNTの外表面積が著しく大きく、チオフェンオリゴマーとHSCNTとの接触面積を大幅に増やすことができるため、極めて効率的に導電性を付与することが可能である。そのため、HSCNTとチオフェンオリゴマーとの複合体を含有する活物質層を有する本発明の複合体電極は、高容量であり、高電圧特性を有する上に、低インピーダンス特性を有する。
【0025】
本発明の複合体電極の活物質層において使用される「チオフェンオリゴマー」の範囲には、分子鎖にチオフェン環のみを含むオリゴマーだけでなく、2個以上のチオフェン環から成るオリゴチオフェン鎖が他の共役系モノマー単位を介して結合しているオリゴマーも含まれる。また、線状オリゴマーだけでなく星型オリゴマーも含まれる。さらに、分子鎖中のチオフェン環が無置換であるオリゴマーだけでなく、置換基を有するチオフェン環を少なくとも1個含むオリゴマーも含まれる。
【0026】
チオフェンオリゴマーの置換基は、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基及びハロゲン原子からなる群から選択されるのが好ましい。これらの置換基は電気化学的に安定であり、本発明の複合体電極の電気化学的安定性を向上させる。そして、置換基がチオフェン環の3位及び/又は4位に結合したチオフェンオリゴマーは、置換基がチオフェン環の5位(α位)に結合したチオフェンオリゴマーより高容量を有するため好ましい。
【0027】
本発明の複合体電極は、チオフェンオリゴマーが、式I
【化1】

で表わされるヘキサマー(3',3'''',4',4''''−テトラブチル−2,2':5',2'':5'',2''':5''',2'''':5'''',2'''''−セクシチオフェン)であるか、
【0028】
又は、式II
【化2】

で表わされるペンタマー(3'',4''−ジブチル−2,2':5',2'':5'',2''':5''',2''''−キンクチオフェン)であるのが極めて好ましい。
【0029】
これらの特に好ましいチオフェンオリゴマーは、銀/銀イオン電極に対してプラス電位側にもマイナス電位側にも高容量特性を有している上に、p−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子のものよりも高く、n−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子のものよりも低いため、正負両極の活物質層において極めて好適に使用することができる。
【0030】
HSCNTは、半導体性カーボンナノチューブを含有しているのが好ましい。半導体性カーボンナノチューブは、電解質溶液と接した状態で分極したときに、p−ドーピング及びn−ドーピングを起こしてキャリア密度を上昇させ、電気容量を向上させるため、更なる高容量化を達成することができる。また、HSCNTの密度が0.2〜1.5g/cmの高密度であるのが好ましい。密度が0.2g/cm未満であると機械的にもろくなる傾向があり、1.5g/cmより大きいと比表面積が減少する。さらに、上記チオフェンオリゴマーがHSCNTに担持されているのが好ましい。HSCNTとチオフェンオリゴマーとの間の接触抵抗が小さくなるため、さらに低インピーダンス特性に優れた複合体電極を得ることができる。
【0031】
本発明の複合体電極は、作動電圧が高く、高容量でエネルギー密度が高く、低インピーダンス特性を有する電気化学素子を得るために好適に使用することができ、二次電池における1対の電極の一方として、又は、電気二重層キャパシタにおける1対の電極の一方として、又は、電気化学キャパシタにおける1対の電極のうちの少なくとも一方として、好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0032】
HSCNTと重合度が4〜20のチオフェンオリゴマーとの複合体を含有する活物質層を有する本発明の複合体電極は、p−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子を使用した電極のものとほぼ同等であるかあるいはより高く、n−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子を使用した電極のものよりも低く、従来の電極と比較して大幅に増加した容量を有する上に、低インピーダンス特性を有する。したがって、本発明の複合体電極の使用により、電気化学素子の作動電圧、容量、エネルギー密度を従来のものより高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の複合体電極は、重合度が4〜20のチオフェンオリゴマーと比表面積が600〜2600m/gの範囲であるHSCNTとの複合体を含有する活物質層を有する。
【0034】
重合度が4〜20、好ましくは5〜10、より好ましくは5〜8、特に好ましくは5又は6のチオフェンオリゴマーは、従来の導電性高分子より高容量を有する上に、p−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子のものとほぼ同等であるかあるいはより高く、n−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子のものよりも低い。したがって、これらのチオフェンオリゴマーを用いた複合体電極は、高容量で高電圧特性を有する。チオフェンオリゴマーは、単一のものであっても良く、異なるチオフェンオリゴマーの混合物であっても良い。
【0035】
チオフェンオリゴマーは、チオフェンのみをモノマー単位とするオリゴマーであっても良い。例として、クォーターチオフェン、キンクチオフェン、セクシチオフェン、セプチチオフェン、オクチチオフェン、ノビチオフェン、デシチオフェンが挙げられる。
【0036】
チオフェンオリゴマーはまた、2個以上のチオフェンから構成されたオリゴチオフェン鎖が他の共役系モノマー単位を介して結合したオリゴマーであっても良く、このような結合部位は、1分子鎖中に2箇所以上存在しても良い。このようなチオフェンオリゴマーの例としては、オリゴチオフェン鎖が、ビニレン基、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フリレン基、フルオレニレン基、ピリジレン基、ピリミジレン基、ピラジニレン基、又はピロリレン基を介して結合したオリゴマーが挙げられる。
【0037】
チオフェンオリゴマーは、線状オリゴマーに限定されず、星型オリゴマーであっても良い。星型オリゴマーの例としては、2個以上のチオフェン環から構成されたオリゴチオフェン鎖が、ベンゼンの1,3,5位、トリアジンの2,4,6位、ピリミドピリミジンの2,4,6,8位に結合したオリゴマーが挙げられる。
【0038】
チオフェンオリゴマーは、分子鎖中のチオフェン環が無置換であるオリゴマーであっても良く、少なくとも1個の置換基を有するチオフェン環を少なくとも1個含むオリゴマーであっても良い。
【0039】
チオフェン環の置換基としては、ヒドロキシル基;ニトロ基;アミノ基;シアノ基;ハロゲン原子、例えば、ヨウ素、臭素、塩素、フッ素;鎖状又は分枝状のアルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルが挙げられる。アルキル基が、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリール基により置換されていても良く、例としては、フルオロメチル、ジフルオロエチル、トリフルオロメチル、メトキシエチル、エトキシエチル、ベンジル、フェネチル、クミル、ヒドロシンナミルが挙げられる。
【0040】
チオフェン環の置換基としてはさらに、シクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロウンデシル、シクロドデシル;直鎖状または分枝状のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシが挙げられる。
【0041】
チオフェン環の置換基としてはさらに、アルケニル基、例えば、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基;アルキニル基、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル;芳香族基、例えば、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナレニル、フェナントリル、ピレニル;複素環基、例えば、ピリジル、ピラジル、ピリミジル、ピロリル、インデニル、フリル、オキサゾリル、チアゾリルが挙げられる。これらの基がヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基により置換されていても良く、例としては、スチリル、トリル、キシリル、メシチル、フルオロフェニル、フルオロメチルフェニル、メトキシフェニル、エトキシフェニル、メチルピリジル、メチルピラジルが挙げられる。
【0042】
チオフェン環の置換基としてはさらに、カルボキシル基;アルキルカルボニル基、例えば、アセチル、エチルカルボニル、プロピルカルボニル、ブチルカルボニル、ペンチルカルボニル、ヘキシルカルボニル;アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル;アルキルカルボニルオキシ基、例えば、アセトキシ、エチルカルボニルオキシ、プロピルカルボニルオキシ、ブチルカルボニルオキシ、ペンチルカルボニルオキシ、ヘキシルカルボニルオキシが挙げられる。
【0043】
チオフェン環の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、特にメトキシ基、ハロゲン原子、特にフッ素、カルボキシル基及びアルコキシカルボニル基が好ましい。これらの置換基は電気化学的に安定であり、本発明の複合体電極の電気化学的安定性を向上させる。
【0044】
置換基は、チオフェンオリゴマーの鎖末端にあるチオフェン環の5位(α位)に結合しても良いが、置換基がチオフェン環の3位及び/又は4位に結合したチオフェンオリゴマーは、さらに高い容量を有するため好ましい。置換基がチオフェン環の3位及び4位に結合している場合には、これらが結合している原子と共同して飽和又は不飽和の環を形成しても良い。3位及び4位の置換基が結合した基の例としては、プロピレン基、ブチレン基、エチレンジオキシ基、ブタジエニレン基が挙げられる。
【0045】
これらのチオフェンオリゴマー自体は公知であり、公知の方法により得ることができ、例えば、ジブロモチオフェンをNiCl触媒の存在下にマグネシウムで脱臭素重合する方法、FeClを触媒として重合する方法、Pd(PPh等のパラジウム触媒の存在下でジブロモ化合物とオリゴチオフェンボロランとをカップリングする方法、電解酸化重合、電解還元重合等によって製造することができる。また、いくつかのチオフェンオリゴマーは市販されている(例えば、アルドリッチ製L16549−2、L−16547−6、633216、ティーエーケミカル製、Dec−4T−Dec、Dec−5T−Dec、Dec−6T−Dec、Ph(3T−Dec))。
【0046】
本発明の複合体電極におけるチオフェンオリゴマーは、上に示した、式Iで表わされる3',3'''',4',4''''−テトラブチル−2,2':5',2'':5'',2''':5''',2'''':5'''',2'''''−セクシチオフェンか、又は、式IIで表わされる3'',4''−ジブチル−2,2':5',2'':5'',2''':5''',2''''−キンクチオフェンであるのが極めて好ましい。
【0047】
図1は、式Iで表わされるチオフェンヘキサマーとHSCNTとを含有する複合体電極のサイクリックボルタモグラムであり、図2は、式IIで表されるチオフェンペンタマーとHSCNTとを含有する複合体電極のサイクリックボルタモグラムを示している。プラス電位側では、アニオンのドープ・脱ドープ反応が起こっており、マイナス電位側では、カチオンのドープ・脱ドープ反応が起こっている。
【0048】
図1、図2から、式I、式IIで表わされるチオフェンオリゴマーは、銀/銀イオン電極に対してプラス電位側にもマイナス電位側にも高い電荷移動容量を有していることがわかる。したがって、式I、式IIで表わされるチオフェンオリゴマーは、正負両極の活物質層において極めて好適に使用することができる。
【0049】
これらのチオフェンオリゴマーには、ドーピング処理を施して導電性を付与することができる。ドーピング処理は、化学的ドーピング処理、電気化学的ドーピング処理のいずれの方法を採用しても良い。
【0050】
化学的ドーピング処理のためのアクセプターとしては、Br、I、Cl等のハロゲン類、SO、BF、PF、AsF、SbF等のルイス酸、HNO、HSO、HClO、CFSOH、FSOH等のプロトン酸、FeCl、MoCl、WCl、SnCl、MoF等の遷移金属ハライド、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、クロラニル等の有機物質を使用することができ、ドナーとしては、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属を使用することができる。
【0051】
電気化学的ドーピング処理のためのアクセプターとしては、BF、PF、AsF、SbF等のルイス酸、I、Br、Cl等のハロゲンアニオンなどを用いることができ、ドナーとしては、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属イオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン等のアルキルアンモニウムイオンなどを用いることができる。
【0052】
ドーピング量に特に限定はないが、好ましくはチオフェンモノマー単位あたり5〜100モル%、より好ましくはチオフェンモノマー単位あたり20〜50モル%である。重合前の段階でドーピングしてから重合させても良いし、重合後にドーピングする方法を用いても良いし、以下に示すようにしてチオフェンオリゴマーをHSCNTと複合化した後にドーピング処理を施しても良いし、あるいは電極形成後の充電によりドーピング処理を施しても良い。
【0053】
ドーピング処理を施した正極におけるチオフェンオリゴマーは、アニオンの脱ドーピングにより、放電反応、還元反応を生ずる。また、ドーピング処理を施した負極におけるチオフェンオリゴマーは、カチオンの脱ドーピングにより、放電反応、酸化反応を生ずる。
【0054】
また、アルキルスルフォン酸アニオン、アルキルホスホン酸アニオンのようなチオフェンと共有結合することができるアニオンをチオフェンと反応させ、重合して、正極におけるチオフェンオリゴマーを自己ドープ型とすることができ、3級アンモニウムカチオンのようなチオフェンと共有結合することができるカチオンをチオフェンと反応させ、重合して、負極におけるチオフェンオリゴマーを自己ドープ型とすることができる。
【0055】
正極における自己ドープ型のチオフェンオリゴマーは、電解液中のカチオンのドーピングにより、放電反応、還元反応を生ずる。また、負極における自己ドープ型のチオフェンオリゴマーは、電解液中のアニオンのドーピングにより、放電反応、酸化反応を生ずる。
【0056】
本発明では、上述の重合度が4〜20のチオフェンオリゴマーが、比表面積が600〜2600m/gの範囲であるHSCNTとの複合体として、活物質層において使用される。
【0057】
HSCNTは、単層のものと多層のものの双方を使用することができ、先端が開口しているものと開口していないものの双方を使用することができ、これらを混合して使用しても良い。金属触媒の存在下での化学気相成長(CVD)法における反応雰囲気中に水蒸気を微量添加することにより、単層のHSCNTを得ることができる(“SCIENCE,Vol.306, pp1362−1364 (2004)”参照)。この他、HSCNTの製造のために、Chemical Physics Letters 403,pp320−323(2005)等に記載されている方法、比表面積が数百m/g程度の市販のHiPco(Carbon Nanotechnologies社製)に対して例えばJournal of Physical Chemistry B2004,108,pp18396−18397に記載されているようなバンドル構造を解放する手段を施す方法を用いることもできる。
【0058】
上記HSCNTの比表面積は大きいほど良いが、一般には600m/g以上、好ましくは700m/g以上、より好ましくは1000m/g以上、特に好ましくは1500m/g以上である。上限は、一般的には2600m/gである。先端が開口していないHSCNTの場合には、比表面積が一般的には600〜1300m/g、より好ましくは800〜1300m/g、さらに好ましくは1000〜1300m/gである。先端が開口しているHSCNTの場合には、比表面積が一般的には1300〜2600m/g、より好ましくは1500〜2600m/g、さらに好ましくは1700〜2600m/gである。
【0059】
HSCNTは半導体性カーボンナノチューブを含有しているのが好ましい。半導体性カーボンナノチューブは、電解質溶液と接した状態で分極したときに、p−ドーピング及びn−ドーピングを起こしてキャリア密度を上昇させ、電気容量を向上させるため、複合体電極のさらなる高容量化を達成することができる。
【0060】
また、高密度を有するHSCNTを使用するのが好ましい。高密度であると、単位体積当たりの容量を大幅に増加させることができる。密度の範囲は、一般には0.2〜1.5g/cm、好ましくは0.3〜1.2g/cm、特に好ましくは0.4〜1.0g/cmの範囲である。密度が0.2g/cm未満であると機械的にもろくなる傾向があり、1.5g/cmより大きいと比表面積が減少する。高密度化は、例えば上述のCVD法等により得られたHSCNTを液体に晒した後、乾燥させることにより行うことができる。このとき使用する液体は、HSCNTと親和性があってこれを湿潤状態とすることができ、乾燥した後にはHSCNTに残留しないものが望ましく、水、アルコール類(例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール)、アセトン類(例えば、アセトン)、ヘキサン、トルエン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド等を好適に用いることができる(特開2007−182352号公報参照)。
【0061】
チオフェンオリゴマーとHSCNTとを混合することにより両者の複合体を得、この複合体を含有する活物質層を形成することができる。このとき、必要に応じて分散媒を用いて両者を混合した後乾燥させて活物質層を形成しても良い。
【0062】
しかしながら、チオフェンオリゴマーをHSCNTに担持して両者の複合体を得、この複合体を用いて活物質層を形成するのが好ましい。担持は、チオフェンオリゴマーをクロロホルム、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、イソプロピルアルコール等の溶媒に溶解した溶液にHSCNTを浸漬し、所定時間経過後に濾過してHSCNTを回収し、乾燥することにより行うことができる。乾燥後に、HSCNTの表面にチオフェンオリゴマーの膜が形成される。また、必要に応じて分散媒を用いて両者を混合した後乾燥させて複合体層を形成しても良い。この膜は高容量を有する上に、薄く均一で低抵抗であり、またHSCNTとチオフェンオリゴマー膜との密着性が良好で接触抵抗が小さいため、放電の際のIRドロップがさらに低減し、複合体電極の電圧をさらに高く保つことができる。
【0063】
活物質層におけるチオフェンオリゴマーとHSCNTとの質量比は、一般には9:1〜1:9の範囲であり、好適には8:2〜2:8の範囲である。この範囲を超えると電気化学的特性が不十分になる。
【0064】
チオフェンオリゴマーとHSCNTとの複合体を含有する活物質層を集電体上に設けて、電気化学素子用の電極を形成することができる。
【0065】
集電体としては、白金、金、ニッケル、アルミニウム、チタン、鋼、カーボン等の導電材料を使用することができる。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状等の任意の形状を採用することができる。
【0066】
チオフェンオリゴマーとHSCNTとの複合体の粉末を分散媒に分散させ、得られた分散物を集電体上にドクターブレード法等により塗工することにおり、複合体電極を得ることができる。また、チオフェンオリゴマーとHSCNTとの複合体をシート状等の所定形状に成形した後、得られた成形体と集電体とを接合することにより、電気化学素子用の複合体電極を得ることができる。例えば、得られた成形体を集電体上に圧着することにより、複合体電極を得ることができる。また、得られた成形体を網状の集電体で挟み、電極としても良い。
【0067】
活物質層の製造において、チオフェンオリゴマーとHSCNTとの複合体に加えて、必要に応じてバインダを混合しても良い。バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニル、カルボキシメチルセルロース等の公知のバインダを使用することができる。バインダの含有量は、活物質層の総量に対して1〜20質量%であるのが好ましい。1質量%以下であると活物質層の強度が十分でなく、20質量%以上であると容量などの電気化学的特性が不十分になる。
【0068】
また、活物質層の製造において、必要に応じて他の添加物質を混合しても良い。例えば、他の電極活物質、例えばポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセン等の電子伝導性高分子を含むことができる。他の添加物質の量は、活物質層の総量に対して20質量%以下の量であるのが好ましい。20質量%以上であると、容量などの電気化学的特性が不十分になる。
【0069】
本発明の複合体電極は、1対の電極と、電極間に配置されるセパレータと、電解質溶液とを有する電気化学素子において好適に使用することができる。
【0070】
電気化学素子に使用されるセパレータとしては、例えばポリオレフィン繊維不織布、ガラス繊維不織布等が好適に使用される。電解液としては、非水系電解液と水系電解液とがあり、用途に応じて適宜選択される。
【0071】
非水系電解液の溶媒としては、電気化学的に安定なエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、3−メチルスルホラン、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル及びジメトキシエタン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド又はこれらの混合物を好適に使用することができる。
【0072】
非水系電解液の溶質としては、有機電解液に溶解したときにリチウムイオンを生成する塩を特に限定なく使用することができる。例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(CFSO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiN(SO、LiAsF、LiSbF、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。非水系電解液の溶質としてさらに、第4級アンモニウムカチオン又は第4級ホスホニウムカチオンを有する第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を使用することができる。例えば、R又はRで表されるカチオン(ただし、R、R、R、Rは炭素数1〜6個のアルキル基を表す)と、PF、BF、ClO、N(CFSO、CFSO、C(SOCF、N(SO、AsF又はSbFからなるアニオンとからなる塩、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。特に、アニオンとしてPF、BF、ClO、N(CFSOを使用した塩が溶質として好ましい。
【0073】
酸性又は中性又はアルカリ性の水系電解液における溶質のカチオンとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオン、又はプロトンを挙げることができる。水系電解液における溶質のアニオンとしては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、テトラフルオロ硼酸、六フッ化リン酸、六フッ化ケイ酸等の無機酸のアニオン、飽和モノカルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、p−トルエンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ラウリン酸等の有機酸のアニオンを挙げることができる。
【0074】
本発明の複合体電極は、電気化学素子における1対の電極のうちの少なくとも一方として、好適に使用することができる。重合度が4〜20のチオフェンオリゴマーとHSCNTとの複合体を含有する活物質層を有する本発明の複合体電極は、従来の導電性高分子を使用した電極に比較して、大幅に増加した容量を有する上に低インピーダンス特性を有し、p−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子を使用した電極のものとほぼ同等であるかあるいはより高く、n−ドーピングの酸化還元電位が従来の導電性高分子を使用した電極のものよりも低いという優れた特性を有する。したがって、本発明の複合体電極をあらゆる電気化学素子の電極として使用することにより、作動電圧が高く、高容量で高エネルギー密度を有する電気化学素子が得られる。以下、電気化学素子が二次電池、電気二重層キャパシタ、電気化学キャパシタである場合のそれぞれについて説明する。
【0075】
(二次電池)
リチウム二次電池の場合は、電解液としてリチウム塩を溶質とした非水系電解液を用いる。そして、正極として本発明の複合体電極を、負極として従来のリチウム金属又は天然黒鉛、人造黒鉛、石油コークス等のリチウムイオンを吸蔵、放出する電極活物質を使用した電極を用いる。
【0076】
この構成のリチウム二次電池は、チオフェンオリゴマーとHSCNTとを用いた本発明の正極が、従来の導電性高分子を使用した正極と比較して、p−ドーピングの酸化還元電位がほぼ同等であるかあるいはより高い状態で作動し、さらに非水系電解液の電気分解電圧が高いために作動電圧を高くすることができるため、作動電圧が高く、高容量で高エネルギー密度を有する。
【0077】
また、負極に本発明の複合体電極を使用し、正極に従来のコバルト酸リチウム等の層状化合物又はポリアニリン、ポリフェニレン等の導電性高分子を電極活物質として使用すると、リチウムイオンのインターカレーションがないため、出力特性、サイクル特性が向上し、作動電圧が高く、高容量で高エネルギー密度を有するリチウム二次電池が得られる。
【0078】
プロトン電池を形成する場合は、電解液としてプロトンを有する酸水溶液を用いる。そして、正極として本発明の複合体電極を用い、負極としてキノキサリン系ポリマー等の公知のプロトン電池における負極を用いる。この構成のプロトン電池は、酸水溶液からなる電解液を用いているので充放電特性が良好であり、エネルギー密度が高く、本発明の正極が従来の導電性高分子を使用した正極と比較してp−ドーピングの酸化還元電位がほぼ同等であるかあるいはより高い状態で作動し、水系電解液を用いた電池における最高作動電圧である1.2Vを示す。
【0079】
(電気二重層キャパシタ)
電気二重層キャパシタの電解液としては、上述の非水系電解液及び水系電解液の全てを用いることができる。非水系電解液を使用した電気二重層キャパシタでは、正極又は負極として本発明の複合体電極を使用し、他方の電極に、活性炭、炭素繊維、フェノール樹脂炭化物、塩化ビニリデン樹脂炭化物、微結晶炭素等の電気二重層容量を有する電極を使用する。チオフェンオリゴマーとHSCNTとを使用した本発明の正極が従来の導電性高分子を使用した正極に比較してp−ドーピングの酸化還元電位がほぼ同等であるかあるいはより高い状態で作動し、又は、チオフェンオリゴマーとHSCNTとを使用した本発明の負極が従来の導電性高分子を使用した負極よりn−ドーピングの酸化還元電位が低い状態で作動し、またチオフェンオリゴマーとHSCNTとの併用により容量を大幅に増加させることができ、さらに非水系電解液の電気分解電圧が高いために作動電圧を高くすることができるため、作動電圧が高く、高容量で高エネルギー密度を有する電気二重層キャパシタが得られる。
【0080】
また、水系電解液を使用した電気二重層キャパシタでは、正極として本発明の複合体電極を使用し、他方の電極に、活性炭、炭素繊維、フェノール樹脂炭化物、塩化ビニリデン樹脂炭化物、微結晶炭素等の電気二重層容量を有する電極を使用する。この構成の電気二重層キャパシタは、酸性、中性、アルカリ性の水溶液を用いることができ、充放電特性が良好であり、エネルギー密度が高く、チオフェンオリゴマーとHSCNTとを使用した本発明の正極が従来の導電性高分子を用いた正極に比較してp−ドーピングの酸化還元電位がほぼ同等であるかあるいはより高い状態で作動し、水系電解液を用いた電気二重層キャパシタにおける最高作動電圧である1.2Vを示す。
【0081】
(電気化学キャパシタ)
電気化学キャパシタの電解液としては、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を溶質とした非水系電解液が用いられる。そして、正極として本発明の複合体電極を用い、負極として酸化還元反応特性を有するポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリフェニレン等の従来の導電性高分子を電極活物質とした電極を用いることができる。この構成の電気化学キャパシタは、チオフェンオリゴマーとHSCNTとを含有する活物質層を有する本発明の正極が、従来の導電性高分子を用いた正極よりも高容量である上に、p−ドーピングの酸化還元電位がほぼ同等であるかあるいはより高い状態で作動するので、作動電圧が高く、高容量で高エネルギー密度を有する。
【0082】
また、正極として酸化還元反応特性を有するポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン等の従来の導電性高分子又は酸化ルテニウム、酸化マンガン、酸化ニッケル等の金属酸化物を電極活物質とした電極を用い、負極として本発明の複合体電極を用いることもできる。この構成の電気化学キャパシタは、チオフェンオリゴマーとHSCNTとを含有する活物質層を有する本発明の負極が、従来の導電性高分子又は金属酸化物を用いた負極よりも高容量でn−ドーピングの酸化還元電位が低い状態で作動するので、作動電圧が高く、高容量で高エネルギー密度を有する。
【0083】
さらに、電気化学キャパシタにおける1対の電極の両方に本発明の複合体電極を用いると、負極のn−ドーピングの酸化還元電位が低く、正極のp−ドーピングの酸化還元電位が高く、高容量特性を有するので、従来にない高い作動電圧、高容量、高エネルギー密度を有する電気化学キャパシタが得られる。
【実施例】
【0084】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0085】
実施例1:
式Iで表される3',3'''',4',4''''−テトラブチル−2,2':5',2'':5'',2''':5''',2'''':5'''',2'''''−セクシチオフェン(アルドリッチ製、商品番号L16549−2)の10mgを50mLのクロロホルムに溶解させ、次いで10mgのHSCNT粉末(比表面積:900m/g)を添加して混合し、60℃で1時間真空乾燥し、チオフェンヘキサマー/HSCNT複合体を得た。この複合体を白金メッシュで挟み、作用極とした。対極に活性炭電極、参照極にAg/Ag(内部液はプロピレンカーボネート)を用いた三電極セルを構築し、電解液として1.0Mのテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートのプロピレンカーボネート溶液を使用し、サイクリックボルタンメトリー測定を行った。走査電位範囲は、最大で−3.0V〜+1.0Vとした。電位走査速度は50mVs−1とした。
【0086】
実施例2:
実施例1において使用したチオフェンヘキサマーの代わりに式IIの3'',4''−ジブチル−2,2':5',2'':5'',2''':5''',2''''−キンクチオフェン(アルドリッチ製、商品番号L16547−6)を使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0087】
実施例3:
実施例1において使用したチオフェンヘキサマーの代わりに式IIIの5,5’’’’’−ジヘキシル−2,2':5',2'':5'',2''':5''',2'''':5'''',2'''''−セクシチオフェン(アルドリッチ製、商品番号633216)
【化3】

を使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0088】
比較例1:
実施例1において使用したチオフェンヘキサマーの代わりに式IVの位置不規則性ポリ(3−ブチルチオフェン)(アルドリッチ製、商品番号511420、n=約80)
【化4】

を使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0089】
比較例2:
実施例1において使用したチオフェンヘキサマーの代わりに式Vの位置規則性ポリ(3−ブチルチオフェン)(アルドリッチ製、商品番号495336、n=約80)
【化5】

を使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0090】
比較例3:
実施例1において使用したチオフェンヘキサマーの代わりに式VIの位置規則性ポリ(3−オクチルチオフェン)(アルドリッチ製、商品番号445711、n=約80)
【化6】

を使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0091】
比較例4:
アセトニトリル溶液にフルオレンを10mMの濃度で溶解させ、次いで十分量の塩化鉄(III)を溶解させ、72時間重合を行った。反応液を減圧濾過し、濾過物を60℃で約12時間真空乾燥して粗生成物を得た。この粗生成物をクロロホルムに飽和量溶解し、メタノールを添加して生成物を再析出させた。再析出物を減圧濾過し、濾過物を60℃で約12時間真空乾燥して、式VIIの精製ポリフルオレン(n=約40)を得た。実施例1において使用したチオフェンヘキサマーの代わりに得られたポリフルオレンを使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【化7】

【0092】
比較例5:
実施例1において使用したチオフェンヘキサマーの代わりに式VIIIで表されるポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(アルドリッチ製、商品番号571652、n=約80)
【化8】

を使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0093】
図1には、実施例1に関して得られたサイクリックボルタモグラムを、図2には、実施例2に関して得られたサイクリックボルタモグラムを、それぞれ示す。これらの複合体電極は、−3.0V〜+1.0Vの広範囲に亘って容量を示し、電子供与性電極としても電子受容性電極としても作用することがわかる。したがって、これらの複合体電極を正極及び/又は負極として使用することができる。
【0094】
表1には、実施例1〜3、比較例1〜5におけるサイクリックボルタモグラムから得られる、容量が認められる電位範囲(電位がとれる範囲)、銀/銀イオン電極に対してマイナス電位側の積分容量密度(a−容量密度)、銀/銀イオン電極に対してプラス電位側の積分容量密度(c−容量密度)をまとめて示す。
【0095】
【表1】

【0096】
実施例1〜3のチオフェンオリゴマー/HSCNT複合体電極は、プラス電位側に、比較例1〜3のポリチオフェン/HSCNT複合体電極及び比較例4、5のポリフルオレン/HSCNT複合体電極より高い容量特性を有しており、実施例1〜3のチオフェンオリゴマー/HSCNT複合体電極を正極として使用することにより、従来のポリチオフェン又はポリフルオレンを用いた正極を使用した場合に比較して、電気化学素子の高容量化を達成することができる。したがって、高エネルギー密度を有する電気化学素子を得ることができる。
【0097】
また、実施例1〜3のチオフェンオリゴマー/HSCNT複合体電極は、プラス電位側に、比較例1〜3のポリチオフェン/HSCNT複合体電極及び比較例4、5のポリフルオレン/HSCNT複合体電極と同等であるかあるいはより高い電圧特性を有しており、実施例1〜3のチオフェンオリゴマー/HSCNT複合体電極を正極として使用することにより、従来のポリチオフェン又はポリフルオレンを用いた正極を使用した場合に比較して、電気化学素子の高作動電圧化を達成することができる。
【0098】
さらに、実施例1、2のチオフェンオリゴマー/HSCNT複合体電極は、−3.0Vのマイナス電位側の高電圧特性を有しており、電極として低いマイナス電位までとることができる上に、マイナス電位側にも高容量を有している。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】チオフェンヘキサマー/HSCNT複合体電極のサイクリックボルタモグラムである。
【図2】チオフェンペンタマー/HSCNT複合体電極のサイクリックボルタモグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のチオフェンオリゴマーと少なくとも1種のカーボンナノチューブとの複合体を含有する活物質層を有する複合体電極あって、
前記チオフェンオリゴマーの重合度が4〜20の範囲であり、
前記カーボンナノチューブの比表面積が600〜2600m/gの範囲である
ことを特徴とする複合体電極。
【請求項2】
前記チオフェンオリゴマーが、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基及びハロゲン原子からなる群から選択された置換基を有するチオフェン環を少なくとも1個含む、請求項1に記載の複合体電極。
【請求項3】
前記置換基がチオフェン環の3位及び4位の少なくとも一方に結合している、請求項2に記載の複合体電極。
【請求項4】
前記チオフェンオリゴマーが、式I
【化1】

で表わされるヘキサマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合体電極。
【請求項5】
前記チオフェンオリゴマーが、式II
【化2】

で表わされるペンタマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合体電極。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブが半導体性カーボンナノチューブを含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合体電極。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブの密度が0.2〜1.5g/cmの範囲である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合体電極。
【請求項8】
前記チオフェンオリゴマーが前記カーボンナノチューブに担持されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合体電極。
【請求項9】
二次電池における1対の電極の一方として使用される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合体電極。
【請求項10】
電気二重層キャパシタにおける1対の電極の一方として使用される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合体電極。
【請求項11】
電気化学キャパシタにおける1対の電極のうちの少なくとも一方として使用される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合体電極。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−245903(P2009−245903A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94343(P2008−94343)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクノロジープログラム/カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】