説明

複合光学フィルムおよびその製造方法、液晶表示装置

【課題】無機層状化合物を含み、いわゆるcプレートとして有用であり、液晶表示装置のコントラストを低下させない、光学フィルムを含む複合光学フィルムを提供する。
【解決手段】第一光学フィルム、第一粘着剤層、第二光学フィルムおよび第二粘着剤層がこの順で積層され、前記第二光学フィルムが、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体との混合物からなることを特徴とする複合光学フィルムおよびその製造方法、液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物で修飾されていない無機層状化合物、セルロース誘導体を含む光学フィルムを含む複合光学フィルムおよびその製造方法、さらには当該複合光学フィルムを用いた液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が低く、低電圧で動作し、軽量でかつ薄型の液晶ディスプレイが、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、テレビなど、情報用表示デバイスとして急速に普及してきている。また、液晶技術の発展に伴い、様々なモードの液晶ディスプレイが提案されて、応答速度やコントラスト、狭視野角といった液晶ディスプレイの問題点が解消されつつある。しかし、依然として陰極線管(CRT)に比べて視野角が狭いことが指摘されており、視野角拡大のための各種の試みがなされている。
【0003】
このような液晶表示装置の一つに、正または負の誘電率異方性を有する棒状の液晶分子を基板に対して垂直に配向させた、垂直配向(VA)モードの液晶表示装置がある。この垂直配向モードは、非駆動状態においては、液晶分子が基板に対して垂直に配向しているため、光は偏光の変化を伴わずに液晶層を通過する。このため、液晶パネルの上下に互いに吸収軸が直交するように直線偏光板を配置することで、正面から見た場合にほぼ完全な黒表示を得ることができ、高いコントラスト比を得ることができる。
【0004】
しかし、このような液晶セルに偏光板のみを備えたVAモードの液晶表示装置では、それを斜めから見た場合に、配置された偏光板の軸角度が90°からずれてしまうこととセル内の棒状の液晶分子が複屈折を発現することに起因して光漏れが生じ、コントラストが著しく低下してしまう。
【0005】
この光漏れを解消するためには、液晶セルと直線偏光板の間に光学補償フィルムを配置する必要があり、従来は、二軸性の位相差フィルムを液晶セルと上下の偏光板の間にそれぞれ1枚ずつ配置する仕様や、一軸性の位相差フィルムと完全二軸性の位相差フィルムを、それぞれ1枚ずつ液晶セルの上下に、または2枚とも液晶セルの片側に配置する仕様が採用されてきた。たとえば、特開2001−109009号公報(特許文献1)には、垂直配向モードの液晶表示装置において、上下の偏光板と液晶セルの間に、それぞれaプレート(すなわち、正の一軸性の位相差フィルム)およびcプレート(すなわち、完全二軸性の位相差フィルム)を配置することが記載されている。
【0006】
一軸性の位相差フィルムとは、面内の位相差値R0と厚み方向の位相差値Rthとの比R0/Rthが概ね2のフィルムであり、また完全二軸性の位相差フィルムとは、面内の位相差値R0がほぼ0のフィルムである。ここで、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、フィルムの面内進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをdとしたとき、面内の位相差値R0および厚み方向の位相差値Rthは、それぞれ下式(1)および(2)で定義される。
【0007】
0=(nx−ny)×d (1)
th=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (2)
一軸性のフィルムでは、nz≒(nearly equal)nyとなるため、R0/Rth≒2となる。一軸性のフィルムであっても、R0/Rthは延伸条件の変動により、1.8〜2.2程度の間で変化することもある。完全二軸性のフィルムでは、nx≒nyとなるため、R0≒0となる。完全二軸性のフィルムは、厚み方向の屈折率のみが異なる(小さい)ものであることから、負の一軸性を有し、光学軸が法線方向にあるフィルムとも呼ばれ、また前述のとおり、cプレートと呼ばれることもある。
【0008】
上記のような目的で用いられる光学補償フィルムとして、特開2005−338215号公報(特許文献2)には、面内に配向している透明樹脂フィルムからなる第一光学フィルム(第一位相差板)に、粘着剤層を介して、屈折率異方性を有するコーティング層からなる第二光学フィルム(第二位相差板)を積層して複合光学フィルムとすることが記載されている。また、特開2006−10912号公報(特許文献3)には、有機修飾粘土複合体と脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂とを含む塗工液から位相差板を形成することが記載されており、その位相差板に粘着剤層を介して偏光板を積層し、複合偏光板とすることも記載されている。さらに、特開2007−272176号公報(特許文献4)には、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂とを有機溶媒中に含有してなる塗工液から溶媒を除去して得られる位相差フィルム(第二位相差板)を用いた複合位相差板が記載されている。しかし、特許文献2〜4に開示される構成では、液晶表示装置に貼合した場合、液晶表示装置の正面コントラストが低い場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−109009号公報(請求項15および段落0036)
【特許文献2】特開2005−338215号公報
【特許文献3】特開2006−10912号公報
【特許文献4】特開2007−272176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、無機層状化合物を含み、いわゆるcプレートとして有用であり、液晶表示装置のコントラストを低下させない、光学フィルムを含む複合光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、第一光学フィルム、第一粘着剤層、第二光学フィルムおよび第二粘着剤層がこの順で積層され、前記第二光学フィルムが、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体との混合物からなることを特徴とする複合光学フィルムが提供される。
【0012】
前記無機層状化合物はスメクタイト族の化合物であることが好ましい。
第二光学フィルム中のセルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比が0.5〜5の範囲にあることが好ましい。
【0013】
第二光学フィルムの面内の位相差値が0〜5nmであり、厚み方向の位相差値が40〜300nmであることが好ましい。
【0014】
第一光学フィルムが偏光板、または輝度向上フィルムと偏光板からなることが好ましい。ここで、輝度向上フィルムを含む場合には、第一粘着剤層側から偏光板、輝度向上フィルムの順に配置されていることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、第一光学フィルム上に第一粘着剤層を形成する工程と、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体と極性有機溶媒との混合液を含有する塗工液を転写基材の上に塗工し、そこから溶媒を除去して第二光学フィルムを形成する工程と、第一光学フィルム上に形成した第一粘着剤層と、第二光学フィルムとが貼着するように貼り合わせる工程と、前記転写基材を第二光学フィルムから剥離する工程と、前記第二光学フィルムの表面に第二粘着剤層を形成する工程とを有する複合光学フィルムの製造方法についても提供する。
【0016】
さらに本発明によれば、上記の複合光学フィルムが、液晶セルの少なくとも一方の面に配置されている液晶表示装置も提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の複合光学フィルムは、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体の混合物からなる内部ヘイズ値および面内位相差値が低い光学フィルムを第二光学フィルムとすることで、良好な表示特性が得られる。したがって、この複合光学フィルムを適用した液晶表示装置は、光漏れが抑えられ、表示特性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の複合光学フィルムを模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の複合光学フィルムの製造方法を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<複合光学フィルム>
図1は、本発明の複合光学フィルムを模式的に示す断面図である。図1に示すように、本発明の複合光学フィルム10は、第一光学フィルム11、粘着剤層12、第二光学フィルム14、および粘着剤層19をこの順に積層した構造を備える。
【0020】
[第一光学フィルム]
本発明の複合光学フィルム10に用いられる第一光学フィルム11は、偏光板のみからなるか、または、偏光板と輝度向上フィルム(たとえば、3M社製の「DBEF」など)とからなることが好ましい。第一光学フィルム11が輝度向上フィルムを含む場合、第一粘着剤層側から偏光板、輝度向上フィルムの順に配置されていることが好ましい。
【0021】
(偏光板用保護フィルム)
偏光板は、透明樹脂からなる保護フィルムが、少なくとも偏光フィルムの片面に積層されてなる。保護フィルムとしては、透明樹脂からなるフィルムであれば特に限定されるものではなく、透明樹脂の例として、メタクリル酸メチル系樹脂などの(メタ)アクリル系樹脂(メタクリル系樹脂とアクリル系樹脂を含む)、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合樹脂、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテフタレート系樹脂、ポリエチレンテフタレート系樹脂に代表されるポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂を挙げることができる。
【0022】
上述したような透明樹脂をフィルム状に成形し、延伸処理を施して、保護フィルムとしてもよい。このとき、延伸は、MD(流れ方向)またはTD(流れ方向と垂直の方向)に延伸する一軸延伸、MDおよびTDの双方に延伸する二軸延伸、MDでもTDでもない方向に延伸する斜め延伸など、いずれの方法で行なってもよい。かかる延伸操作を施すことにより、機械的強度の高い保護フィルムを得ることができる。
【0023】
(偏光フィルム)
偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させて、所定の偏光特性が得られるようにしたものである。二色性色素としては、ヨウ素や二色性有機染料が用いられる。偏光フィルムとして具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素を吸着配向させたヨウ素系偏光フィルム、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性有機染料を吸着配向させた染料系偏光フィルムなどが挙げられる。
【0024】
上述したポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルや、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体などが挙げられる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、たとえば不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。また、ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、たとえばアルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども使用することができる。
【0025】
偏光板は、通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの水分を調整する調湿工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色してその二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、ホウ酸水溶液を洗い落とす洗浄工程、およびこれらの工程が施されて二色性色素が吸着配向された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに保護フィルムを貼合する工程を経て製造される。
【0026】
一軸延伸は、染色の前に行なってもよいし、染色中に行なってもよいし、染色後のホウ酸処理中に行なってもよい。また、これら複数の段階で一軸延伸してもよい。一軸延伸するには、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中で延伸を行なう乾式延伸であってもよいし、溶剤にて膨潤させた状態で延伸を行なう湿式延伸であってもよい。延伸倍率は通常4〜8倍程度である。延伸と染色が施された偏光フィルムの厚みは、たとえば、約1〜50μm程度とすることができる。
【0027】
(積層方法)
次に、偏光フィルムに保護フィルムを積層する方法について説明する。偏光フィルムの表面に、保護フィルムを積層する方法としては、通常、接着剤を用いて接着する方法が採用される。偏光フィルムの両面に接着剤を用いる場合は、両面同種の接着剤を用いてもよく、また異種の接着剤を用いてもよい。
【0028】
接着剤として、速硬化性という観点から、光硬化性接着剤を挙げることができる。速硬化性という特徴は、生産性を考える上で、好都合である。光硬化性接着剤としては、たとえば、光硬化性エポキシ樹脂と光カチオン重合開始剤との混合物などを挙げることができる。
【0029】
また、接着剤として、接着剤層を薄くする観点から、水系のもの、すなわち、接着剤成分を水に溶解したもの、または接着剤成分を水に分散させたものを挙げることができる。たとえば、主成分としてポリビニルアルコール系樹脂やウレタン樹脂を用いた組成物が、好ましい接着剤として挙げられる。
【0030】
接着剤の主成分としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、そのポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールなどの、変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。接着剤成分としてポリビニルアルコール系樹脂を用いた場合、該接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液として調製されることが多い。接着剤中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、水100重量部に対して、通常1〜10重量部程度、好ましくは1〜5重量部である。
【0031】
主成分としてポリビニルアルコール系樹脂を含む接着剤には、接着性を向上させるために、グリオキザールや水溶性エポキシ樹脂などの硬化性成分または架橋剤を添加することが好ましい。水溶性エポキシ樹脂としては、たとえば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンのようなポリアルキレンポリアミンとアジピン酸のようなジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂を挙げることができる。かかるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズレジン(登録商標) 650」および「スミレーズレジン(登録商標) 675」、日本PMC(株)から販売されている「WS−525」などがあり、これらを好適に用いることができる。これら硬化性成分または架橋剤の添加量は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、通常1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部である。その添加量が少ないと、接着性向上効果が小さくなり、一方でその添加量が多いと、接着剤層が脆くなる傾向にある。
【0032】
接着剤の主成分としてウレタン樹脂を用いる場合、適当な接着剤組成物の例として、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を挙げることができる。ここでいうポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その中に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。かかるアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系の接着剤として好適である。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂それ自体は公知である。たとえば、特開平7−97504号公報には、フェノール系樹脂を水性媒体中に分散させるための高分子分散剤の例としてポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂が記載されており、また特開2005−070140号公報および特開2005−181817号公報には、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を接着剤として、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムにシクロオレフィン系樹脂フィルムを接合する形態が示されている。
【0033】
偏光フィルムの表面に、保護フィルムを、接着剤を用いて貼合する方法としては、従来公知の方法を用いることができ、たとえば、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、カンマコーター法、ドクタープレート法、ダイコート法、ディップコート法、噴霧法などにより、偏光フィルムおよび/またはこれに貼合されるフィルムの接着面に接着剤を塗布し、両者を重ね合わせる方法が挙げられる。流延法とは、被塗布物であるフィルムを、概ね垂直方向、概ね水平方向、または両者の間の斜め方向に移動させながら、その表面に接着剤を流下して拡布させる方法である。
【0034】
上述のような方法により接着剤を塗布した後、偏光フィルムとそれに貼合されるフィルムとをニップロールなどにより挟んで貼り合わせることにより両者が接合される。また、偏光フィルムとそれに貼合されるフィルムとの間に接着剤を滴下した後、この積層体をロールなどで加圧して均一に押し広げる方法も好適に使用することができる。この場合、ロールの材質としては金属やゴムなどを用いることが可能である。さらに、偏光フィルムとそれに貼合されるフィルムとの間に接着剤を滴下した後、この積層体をロールとロールとの間に通し、加圧して押し広げる方法も好ましく採用される。この場合、これらロールは同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。
【0035】
なお、乾燥あるいは硬化前における、上述したニップロールなどを用いて貼り合わされた後の接着剤層の厚さは、5μm以下であることが好ましく、また0.01μm以上であることが好ましい。
【0036】
偏光フィルムおよび/またはそれに貼合されるフィルムの接着表面には、接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理を適宜施してもよい。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリの水溶液に浸漬する方法が挙げられる。
【0037】
上述の水系接着剤を介して接合された積層体は、通常乾燥処理が施され、接着剤層の乾燥、硬化が行なわれる。乾燥処理は、たとえば熱風を吹き付けることにより行なうことができる。乾燥温度は、40〜100℃程度、好ましくは60〜100℃の範囲から適宜選択される。乾燥時間は、例えば20〜千二百秒程度である。乾燥後の接着剤層の厚みは、通常0.001〜5μm程度であり、好ましくは0.01μm以上、また好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。接着剤層の厚みが大きくなりすぎると、偏光板の外観不良となりやすい。
【0038】
乾燥処理の後、室温以上の温度で少なくとも半日、通常は1日間以上の養生を施して十分な接着強度を得てもよい。かかる養生は、典型的には、ロール状に巻き取られた状態で行なわれる。好ましい養生温度は、30〜50℃の範囲であり、さらに好ましくは35℃以上、45℃以下である。養生温度が50℃を超えると、ロール巻き状態において、いわゆる「巻き締まり」が起こりやすくなる。なお、養生時の湿度は、特に限定されないが、相対湿度が0〜70%程度の範囲となるように選択されることが好ましい。養生時間は、通常1〜10日程度、好ましくは2〜7日程度である。
【0039】
一方、光硬化性接着剤を用いて偏光フィルムとそれに貼合されるフィルムとを接合する場合には、接合後、活性エネルギー線を照射することによって光硬化性接着剤を硬化させる。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線が好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが好ましく用いられる。光硬化性接着剤への光照射強度は、該光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜6000mW/cm2であることが好ましい。該照射強度が0.1mW/cm2以上であることで、反応時間が長くなりすぎず、6000mW/cm2以下であることで、光源から輻射される熱および光硬化性接着剤の硬化時の発熱による光硬化性エポキシ樹脂の黄変や偏光フィルムの劣化を生じるおそれが少ない。光硬化性接着剤への光照射時間は、硬化させる光硬化性接着剤ごとに制御されるものであって特に限定されないが、上述の照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜10000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。光硬化性接着剤への積算光量が10mJ/cm2以上である場合、重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて硬化反応をより確実に進行させることができ、10000mJ/cm2以下である場合、照射時間が長くなりすぎず、良好な生産性を維持できる。なお、活性エネルギー線照射後の接着剤層の厚みは、通常0.001〜5μm程度であり、好ましくは0.01μm以上、また好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。
【0040】
活性エネルギー線の照射によって光硬化性接着剤を硬化させる場合、偏光フィルムの偏光度、透過率および色相、ならびに保護フィルムなどの透明フィルムの透明性などの偏光板の諸機能が低下しない条件で硬化を行なうことが好ましい。
【0041】
[粘着剤層]
本発明の複合光学フィルムにおける粘着剤層(第一粘着剤層12、第二粘着剤層19)は、アクリル系ポリマーや、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマーとするもので構成することができる。中でも、アクリル系粘着剤のように、光学的な透明性に優れ、適度の濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれなどの剥離問題を生じないものを選択して用いることが好ましい。アクリル系粘着剤においては、メチル基やエチル基、ブチル基などの炭素数が20以下のアルキル基を有するアクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどからなる官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。
【0042】
[第二光学フィルム]
本発明の複合光学フィルムにおける第二光学フィルムは、極性有機溶媒と、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体の混合液を含有する塗工液から、溶媒を除去して得られる。
【0043】
塗工液に用いられる極性有機溶媒は、無機層状化合物を膨潤させ得るものであり、さらにコロイド状を呈するまで膨潤させ得るもの、また、セルロース誘導体を溶解するものであれば特に限定されないが、たとえば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラヒドロフラン、アセトンなどが好ましいものとして例示される。
【0044】
極性有機溶媒の中でも、比誘電率が30以上であるものが好ましく、このような好ましい極性有機溶媒の典型的な例として、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、炭酸プロピレンなどが挙げられる。また、これらから複数選択された混合溶媒を用いることもできる。
【0045】
有機修飾していない無機層状化合物の極性有機溶媒への分散性を向上させるために、無機層状化合物の分散液中に、水を含有させてもよい。
【0046】
第二光学フィルムに用いられる無機層状化合物は、有機物などで修飾されていないものである。無機層状化合物とは、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、鉄などの金属イオンと珪酸が連結してなるシート型構造が層状に形成された粘土鉱物であり、層状ケイ酸塩鉱物であることが好ましい。
【0047】
このような無機層状化合物としては、たとえば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スチブンサイトなどのスメクタイト族鉱物、カオリナイト、アンチゴナイト、単斜クリソタイル石、斜方クリソタイル石、パラクリソタイル石、リザード石、アメス石、ケリー石、グルーナ石、ヌポア石などのカオリナイト族鉱物、白雲母、セラドン石、ロスコー雲母、砥部雲母、鉄雲母、金雲母、真珠雲母、クリントン石などのマイカ族鉱物などが挙げられる。このような無機層状化合物は、それぞれ単独で用いられてもよいし、異なる複数種が併用されてもよい。
【0048】
中でも、人工的に合成された層状ケイ酸塩鉱物が好ましく、合成スメクタイトがより好ましい。合成スメクタイトは天然物に比べて高純度であり、粒子径が小さく、その分布が狭いことから、光学フィルムの構成材料として比較的好適である。
【0049】
なお、天然物の層状ケイ酸塩鉱物であっても、高純度化され粒子径が十分に小さく、光学フィルム用途に用いても支障ないものであれば、人工的に合成されたものより一般に廉価であるため光学フィルムの生産性向上に大きく寄与することから、好適に用いられる。
【0050】
天然に存在する無機層状化合物は、海底や湖底に堆積した火山灰が加温、加圧下で、浸食、風化作用を受けることにより生成される。これらを採掘し精製することにより、工業的に利用可能な無機層状化合物を得ることができる。
【0051】
また、無機層状化合物を人工的に合成するには、通常、出発原料に目的の無機層状化合物に近い組成を持つゲルや長石などの鉱物を用い、この出発原料を十分な熱エネルギーと反応時間で水熱反応させる方法が採用される。
【0052】
こうして得られる無機層状化合物は、市販品を容易に入手可能であり、たとえば、クニピア(クニミネ工業株式会社から販売:天然物ベントナイト精製物)、スメクトンSA(クニミネ工業株式会社から販売:合成サポナイト)、ベンゲル(株式会社ホウジュンから販売:天然ベントナイト精製物)、ホワイトベントナイト(株式会社ボルクレイ・ジャパンから販売:天然ベントナイト精製物)、ビーガム(バンダービルト社から販売:天然スメクタイト精製物)、ルーセンタイト(コープケミカル株式会社から販売:合成スメクタイト)、ミクロマイカ(コープケミカル株式会社から販売:合成雲母)、ソマシフ(コープケミカル株式会社から販売:合成雲母)、ラポナイト(ロックウッド・アディティブズ社から販売:合成スメクタイト)などが挙げられる。
【0053】
本発明に用いられるセルロース誘導体は、下式(I)に相当するセルロースにおいて、水酸基の一部または全部がエステル化やエーテル化などにより、アルカノイルオキシ基やアルコキシ基などで置換されている化合物をいう。
【0054】
【化1】

【0055】
たとえば、セルロースアセテート(セルローストリアセテートとかセルロースジアセテートとか呼ばれているものを含む)、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースナイトレート、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースなどを包含する。このようなセルロース誘導体は、それぞれ単独で用いられてもよいし、異なる複数種が併用されてもよい。
【0056】
本発明の複合光学フィルムにおける第二光学フィルムとしては、水酸基の置換度が2.1〜3.0の範囲にあるセルロース誘導体が採用される。ここで、セルロース誘導体における水酸基の置換度とは、一般にいわれる置換度(Degree of Substitution)と同じ意味であって、下式(II)に相当するセルロースの単位環(ピラノース環と呼ぶこともできる)1個あたり3個存在する水酸基が、他の基によって置換されている割合を意味する。
【0057】
【化2】

【0058】
前記式(I)のとおり、セルロースは式(II)に相当する単位環(ピラノース環)が多数結合した構造を有するので、水酸基の置換度は、平均的な値として求められる。また上の定義からわかるように、セルロースの単位環(ピラノース環)には水酸基が3個存在するので、セルロース誘導体における水酸基の置換度は、最大で3.0となる。本発明では、水酸基のすべてが置換されているか、または水酸基の7割以上が置換され、一部の水酸基がそのまま残っているセルロース誘導体を用いることになる。
【0059】
このような水酸基の置換度は、公知の方法で測定できる。たとえば、セルロースアセテートについて、水酸基の置換度は、セルロースアセテートをプロピオニル化した後、13C−NMRを測定することにより求めることができる。測定方法については、手塚らの方法(Carbohydr. Res. 273 (1995) 83-91)を参照できる。
【0060】
水酸基の置換度が2.1を下回るセルロース誘導体を用いると、得られる第二光学フィルムの高温高湿環境下における耐久性が十分でなくなる傾向にある。セルロース誘導体における水酸基の置換度は、2.4以上であるのが好ましく、2.5以上であるのがより好ましい。また、セルロース誘導体における水酸基の置換度は、2.9以下であるのが好ましい。水酸基の置換度が2.9を超えるセルロース誘導体を用いると、塗工液において、無機層状化合物が十分に分散しにくくなる傾向にあり、延いては、それから得られる第二光学フィルムにおいても、無機層状化合物の分散状態が悪くなり、その透明性を低下させる傾向にある。このため、本発明における第二光学フィルムには、水酸基の7割以上(好適には8割以上)が置換されているが、一部が水酸基のまま残っているセルロース誘導体を用いることが、好ましい。
【0061】
また、このセルロース誘導体は、その数平均分子量が2万5千〜12万のものが採用される。数平均分子量が2万5千を下回るセルロース誘導体を用いると、得られる光学フィルムの機械強度が弱くなる傾向にある。一方、数平均分子量が12万を超えるセルロース誘導体を用いると、それに無機層状化合物を配合して得られる塗工液において、無機層状化合物が十分に分散しにくくなる傾向にあり、結果、このような塗工液を用いて得られた第二光学フィルムにおいても無機層状化合物の分散状態が悪くなり、その透明性を低下させる傾向にある。セルロース誘導体の数平均分子量は、2万5千以上、また9万5千以下であるのが好ましい。これらの数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものである。
【0062】
本発明における第二光学フィルムに用いられるセルロース誘導体は、低置換度セルロースアセテートと高置換度セルロースアセテートの混合物であってもよい。低置換度セルロースアセテートの水酸基の置換度は2.1〜2.6が好ましく、数平均分子量は2万5千〜7万5千であることが好ましい。高置換度セルロースアセテートの水酸基の置換度は2.8〜3が好ましく、数平均分子量は6万5千〜9万5千が好ましい。低置換度セルロースアセテートと高置換度セルロースアセテートの混合物を用いる場合、その混合物における水酸基の置換度は、それぞれのセルロースアセテートの混合比を考慮した置換度の加重平均で、2.4以上となるようにすることが好ましい。低置換度セルロースアセテートと高置換度セルロースアセテートの混合物の水酸基の置換度が2.4未満であると、光学フィルムの耐湿熱性が低下し、光学フィルムが白化する場合がある。
【0063】
セルロース誘導体の製法は、特に限定されないが、通常、α−セルロース含有量の比較的高い木材パルプなどのセルロース原料を、離解・解砕後、酢酸、プロピオン酸、酪酸、または少量の酸性触媒を含んだ前記酢酸などを散布混合する前処理活性化工程と、酢酸、プロピオン酸または酪酸などとその無水物および酸性触媒(たとえば硫酸)よりなる混酸で前記活性化セルロースを処理して一次セルロースエステルを得るエステル化工程と、その一次セルロースエステルを加水分解して所望の置換度の二次セルロースエステルとする熟成工程と、得られた二次セルロースエステルを反応溶液から沈澱分離、精製、安定化、および乾燥する後処理工程を経るものが採用される。
【0064】
こうして得られるセルロース誘導体は、市販品を容易に入手可能であり、たとえば、LM−80(ダイセル化学工業株式会社製)、L−20、L−30、L−40、L−70(ダイセル化学工業株式会社製:セルロースジアセテート)、LT−35、LT−55、LT−105(ダイセル化学工業株式会社製:セルローストリアセテート)、TC−5(信越化学工業株式会社製:ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、メトローズ(信越化学工業株式会社製:メチルセルロース)、信越AQOAT(信越化学工業株式会社製:ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート)、メセロース(巴工業株式会社製:メチルセルロース)、cellulose triacetate製品番号181005(アルドリッチ社製:セルローストリアセテート)などが挙げられる。
【0065】
本発明における第二光学フィルムは、セルロース誘導体に対して無機層状化合物を0.5〜5の重量比で含有することが好ましい。セルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比が0.5未満であると、光学フィルムとしたときに十分な厚み方向の位相差値が得られない傾向にある。一方、セルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比が5を超えると、それらを極性有機溶媒と混合して塗工液としたときに、無機層状化合物が十分に分散しにくくなる傾向にあり、このような塗工液を用いて得られた第二光学フィルムにおいても、無機層状化合物の分散状態が悪くなり、その透明性を低下させる傾向にある。セルロース誘導体に対する無機層状化合物の重量比は、1〜4の範囲となるようにするのがより好ましい。
【0066】
第二光学フィルム製造用の塗工液は、その疎水性、耐久性、可塑性、凝集力をさらに向上させるための各種添加剤、たとえば、滑剤、架橋剤、可塑剤などを含有していてもよい。たとえば、可塑剤としてポリビニルアルコール系樹脂を含有することができる。また、有機修飾されていない無機層状化合物のセルロース誘導体への分散性をさらに向上させるための分散剤などを含有してもよい。
【0067】
光学フィルム製造用の塗工液における固形分濃度は、調製後の粘度が実用上問題とならない範囲であれば特に制限されないが、有機物で修飾されていない無機層状化合物とセルロース誘導体などの固形分濃度で3〜15重量%程度である。最適な固形分濃度は、無機層状化合物、セルロース誘導体などの各固形分の種類や各々の組成比によって適宜選択される。
【0068】
このような光学フィルム製造用の塗工液の成分を分散または溶解するのに用いられる装置としては、特に限定されるものではないが、たとえば、タービン型などの攪拌翼を備えた通常の攪拌混合機、ホモジナイザー(ホモゲナイザー)、ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、超音波分散機などが挙げられる。中でも、ビーズミルおよびペイントシェーカーは、有機物で修飾されていない無機層状化合物を効率よく微分散させることができるため好ましく用いられる。これらの装置は、有機物で修飾されていない無機層状化合物の分散状態や、セルロース誘導体などの樹脂成分の溶解程度に応じて異なる複数種が併用されてもよい。
【0069】
第二光学フィルム製造用の塗工液は、有機物で修飾されていない無機層状化合物を極性有機溶媒中に分散させる工程と、当該工程で得られる分散液を、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体の極性有機溶媒溶液と混合するセルロース誘導体混合工程とを経て製造されることが好ましい。
【0070】
まず、有機物で修飾されていない無機層状化合物を極性有機溶媒と混合して無機層状化合物を極性有機溶媒中に分散させる。ここで用いられる極性有機溶媒としては、上述したように有機物で修飾されていない無機層状化合物を膨潤させ得るものであり、さらにコロイド状を呈するまで膨潤させ得るものが用いられ、好適なものも上述したとおりである。
【0071】
次に、上述のようにして得られた無機層状化合物の分散液を、予めセルロース誘導体と極性有機溶媒を混合して準備したセルロース誘導体の極性有機溶媒溶液と混合する。ここで、セルロース誘導体を溶解させる極性有機溶媒は、無機層状化合物の分散に用いられる極性有機溶媒と同種の極性有機溶媒であってもよく、別の極性有機溶媒であってもよいが、好ましくは、無機層状化合物の分散に用いられる極性有機溶媒と同種の極性有機溶媒である。
【0072】
第二光学フィルムは、フィルムの厚み、またはそれを構成する組成物の配合比率を適宜調整して厚み方向の位相差値を制御し、完全二軸性の位相差フィルム(cプレート)とすることができる。この位相差値は、面内が0〜5nmであり、厚み方向が40〜300nmであることが好ましい。面内の位相差値が5nmを超えると、その値が無視できなくなって厚み方向の負の一軸性が損なわれ、偏光板と組み合わせて液晶セルに貼合したときに光漏れなどが生じることがある。また、厚み方向の位相差値は、この位相差フィルムの用途、特に偏光板と組み合わせて貼合される液晶セルの特性に併せて適宜選択されるものであり、前記範囲内であれば特に制限されないが、50〜270nmがより好ましい。
【0073】
この厚み方向の位相差値は、フィルム中の粘土鉱物の含有量およびフィルムの厚みによって制御することができる。従って、フィルムの厚みは特に制限されるものではなく、位相差フィルムに求められる位相差を実現するのに必要な厚みであればよい。
【0074】
なお、厚み方向の屈折率異方性は、前記式(2)により定義される厚み方向の位相差値Rthで表され、面内の位相差値R0、遅相軸を傾斜軸として40度傾斜して測定した位相差値R40、フィルムの厚みd、およびフィルムの平均屈折率n0を用いて、前記式(1)と次式(3)および(4)から数値計算によりnx、nyおよびnzを求め、これらを前記式(2)に代入して算出することができる。
【0075】
40=(nx−ny′)×d/cos(φ) (3)
(nx+ny+nz)/3=n0 (4)
ここで、
φ=sin-1[sin(40°)/n0] (5)
y′=ny×nz/[ny2×sin2(φ)+nz2×cos2(φ)]1/2 (6)
塗工液を基材上に塗工する方法は、塗工液の物性や固形分濃度に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものでないが、たとえば、ダイコーター、カンマコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、ワイヤーバーコーター、ドクターブレードコーター、エアドクターコーターなど、適宜の塗工機を用いて塗工する方法を採用することができる。
【0076】
また、基材上に塗工された塗工液を乾燥して極性有機溶媒(および水)を除去させる方法は、通常、塗工直後に基材を乾燥炉へ導入する方法が採用される。乾燥温度と乾燥時間は、用いた溶媒を除去するのに十分な範囲であれば特に制限されないが、たとえば、温度は50〜170℃程度、時間は30秒間〜30分間程度の範囲から適時選択することができる。
【0077】
塗工液を塗布する基材は、光学用途として適当な透明基板またはフィルムであれば特に限定されないが、たとえば、ガラス、環状オレフィン系樹脂フィルム、セルローストリアセテート系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムなどが挙げられる。このような基材は、塗工液を塗布し乾燥されてなる光学フィルムを基材から剥離するために、離型処理されたものでもよい。
【0078】
このような基材として用いられる樹脂フィルムは、市販品を容易に入手可能であり、たとえば、環状オレフィン系樹脂フィルムは、ゼオノアフィルム(日本ゼオン株式会社製)、アートンフィルム(JSR株式会社製)などが挙げられる。たとえば、セルローストリアセテート系樹脂フィルムとしては、フジタックTD(富士フィルム株式会社製)、コニカミノルタTACフィルムKC(コニカミノルタオプト株式会社製)などが挙げられる。また、たとえば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとしては、ダイアホイル(三菱樹脂株式会社製)、ホスタファン(三菱樹脂株式会社製)、フュージョン(三菱樹脂株式会社製)、テイジンテトロンフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)、メリネックス(帝人デュポンフィルム株式会社製)、マイラー(帝人デュポンフィルム株式会社製)、テフレックス(帝人デュポンフィルム株式会社製)、東洋紡エステルフィルム(東洋紡績株式会社製)、東洋紡エスペットフィルム(東洋紡績株式会社製)、コスモシャイン(東洋紡績株式会社製)、クリスパー(東洋紡績株式会社製)、ルミラー(東レフィルム加工株式会社製)、エンブロン(ユニチカ株式会社製)、エンブレット(ユニチカ株式会社製)、スカイロール(エス・ケー・シー社製)、コーフィル(株式会社高合製)、瑞通ポリエステルフィルム(株式会社瑞通製)、太閤ポリエステルフィルム(フタムラ化学株式会社製)などが挙げられる。
【0079】
<複合光学フィルムの製造方法>
本発明は、上述した本発明の複合光学フィルムを好適に製造する方法についても提供する。すなわち、本発明の複合光学フィルムの製造方法は、第一光学フィルム上に第一粘着剤層を形成する工程と、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体と極性有機溶媒との混合液を含有する塗工液を転写基材の上に塗工し、そこから溶媒を除去して第二光学フィルムを形成する工程と、第一光学フィルム上に形成した第一粘着剤層と、第二光学フィルムとが貼着するように貼り合わせる工程と、前記転写基材を第二光学フィルムから剥離する工程と、前記第二光学フィルムの表面に第二粘着剤層を形成する工程とを有することを特徴とする。本発明の複合光学フィルムは、上述した特徴を備えるものであればこのような本発明の複合光学フィルムの製造方法で製造されたものでなくともよいが、本発明の複合光学フィルムの製造方法で製造されたものであることが好ましい。
【0080】
ここで、図2は、本発明の複合光学フィルムの製造方法を模式的に示す断面図である。まず、図2の(A)に示すように、第一光学フィルム11の表面に第一粘着剤層12を形成して、粘着剤層付き第一光学フィルム13とする。この際、第一光学フィルム11は、その両面にコロナ処理を施しておくのが好ましい。別途、図2の(B)に示すように、転写基材15の表面に第二光学フィルム14を形成して、転写基材付き第二光学フィルム16とする。これらの粘着剤層付き第一光学フィルム13と転写基材付き第二光学フィルム16とは、図2の(C)に示すように、粘着剤層12と第二光学フィルム14とを貼着面として貼合され、第一光学フィルム11、粘着剤層12、第二光学フィルム14および転写基材15がこの順で積層された構成の半製品17が得られる。そこから、転写基材15を剥離除去して、図2の(D)に示すような、第一光学フィルム、粘着剤層、第二光学フィルムがこの順で積層された構成の半製品18とする。最後に、その第二光学フィルム14の転写基材15を剥離した後の面に、粘着剤層19を形成して、図2の(E)に示す構成の複合光学フィルム10が得られる。
【0081】
<液晶表示装置>
本発明の複合光学フィルム10は、液晶セルの少なくとも一方の面に配置して、液晶表示装置とすることができる。本発明は、このように本発明の複合光学フィルムを用いた液晶表示装置についても提供する。本発明の液晶表示装置は、第二粘着剤層が液晶セルに向くように、上述した本発明の複合光学フィルムを配置する。液晶セルの両面に、このような複合光学フィルムを配置するようにしてもよい。液晶セルの片面に複合光学フィルムを配置した場合、液晶セルのもう一方の面には、他の偏光板が、必要に応じて位相差板を介在させて配置される。液晶セルは、背景技術の項で述べた如く、垂直配向(VA)モードのものが好ましいが、その他、ベンド配向(ECB)モードなど、他の方式の液晶セルに対しても、本発明の複合光学フィルムは、有効に機能する。
【実施例】
【0082】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。例中、含有量または使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。
【0083】
[実施例1]
(第二光学フィルム製造用の塗工液)
(1)スメクタイト/N,N−ジメチルアセトアミド分散液の調製
有機物で修飾されていない無機層状化合物である合成スメクタイト(ルーセンタイトSWN、コープケミカル株式会社製)6.6g、N,N−ジメチルアセトアミド96.1gを加え、ジルコニアビーズ(直径:0.8mm)79mlと高速攪拌機(スリーワンモーターBL1200、新東科学株式会社製)を用いて攪拌し、スメクタイトを分散させスメクタイト分散液を得た。
【0084】
(2)セルロースアセテート溶液の調製
水酸基の置換度が2.88で数平均分子量が76000のセルロースアセテート(セルローストリセテート LT−35、ダイセル化学工業株式会社製)15部にN,N−ジメチルアセトアミド85部を加え、攪拌して溶解させ、15%濃度の高置換度セルロースアセテート溶液を調製した。
【0085】
(3)塗工液の調製
上記(1)で調製したスメクタイトとN,N−ジメチルアセトアミドの分散液102.7gに、同じく上記(2)で調製した15%濃度の高置換度セルロースアセテート溶液22.2gを加え、湯浴を用いて塗工液の温度を60℃に調整し、高速攪拌機でさらに2時間攪拌し、分散処理を行なった。得られた分散液を孔径6μmのメンブランフィルターで濾過し、塗工液を作製した。この塗工液は、全体を100部としたときに以下の組成を有するものである。
【0086】
・ルーセンタイトSWN 5.3部
・水酸基の置換度が2.88の高置換度セルロースアセテート 2.7部
・N,N−ジメチルアセトアミド 92.0部
(4)光学フィルムの作製および評価
上記(3)で調製した塗工液を、離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケーターを用いて塗工し、80℃で5分間乾燥して、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングされた光学フィルムを作製した。その光学フィルム側(コーティング層側)を、感圧接着剤を介して4cm角のガラス板に転写し、位相差値測定用サンプルを作製した。このサンプルの面内位相差値R0および厚み方向の位相差値Rthを、位相差測定装置(KOBRA−WR、王子計測機器株式会社製)を用いて、波長590nmの単色光で回転検光子法により測定した。その結果、面内位相差値R0=0.2nm、厚み方向の位相差値Rth=114.1nmであった。
【0087】
また、基材のポリエチレンテレフタレートフィルムをガラス板に変え、他は上と同様にして、ガラス板上に上記の塗工液を塗工し、乾燥して、光学フィルムを作製した。その光学フィルムの内部ヘイズ値を、光学フィルムをフタル酸ジメチル溶液に浸け、ヘイズメーター(NDH2000、日本電色工業株式会社製)を用いて測定したところ、0.0%であった。
【0088】
(複合光学フィルムの作製)
まず、ポリビニルアルコール/ヨウ素系偏光板〔住友化学(株)製の“SRW062AP6−HC2”〕にアクリル系粘着剤〔リンテック(株)製の“P−3132”〕を貼着し、第一光学フィルム、第一粘着剤層の順に積層した。別途、離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを転写基材として、その離型処理面に前記第二光学フィルム製造用の塗工液を塗工し、その後90℃で3分間乾燥して、第二光学フィルムを形成した。第一粘着剤層が形成された第一光学フィルムと、転写基材上に形成された第二光学フィルムとを、第一粘着剤層と第二光学フィルムを貼着面として貼合した。その後、第二光学フィルムから転写基材を剥離し、その転写基材剥離後の第二光学フィルム表面に、アクリル系粘着剤〔リンテック(株)製の“P−3132”〕を貼着し、第一光学フィルム、第一粘着剤層、第二光学フィルム、第二粘着剤層がこの順で積層された複合光学フィルムを得た。
【0089】
[比較例1]
(第二光学フィルム製造用の塗工液)
(1)塗工液の調製
有機修飾粘土複合体として、合成ヘクトライトとトリオクチルメチルアンモニウムイオンとの複合体であるコープケミカル(株)製の“ルーセンタイトSTN”(商品名)を、またバインダー樹脂として、イソホロンジイソシアネートベースのポリウレタン樹脂で固形分濃度30%の樹脂ワニスである住化バイエルウレタン(株)製“SBUラッカー0866”(商品名)を用い、以下の組成で配合した。
【0090】
ウレタン樹脂ワニス“SBUラッカー0866” 16.0部
有機修飾粘土複合体“ルーセンタイトSTN” 7.2部
トルエン 76.8部
水 0.3部
ここで用いた有機修飾粘土複合体は、メーカーにて、有機修飾前の合成ヘクトライト製造後に酸洗浄し、それを有機修飾し、さらに水洗した状態で入手したものである。そこに含まれる塩素量は1,111ppmであった。また、この塗工液は、上記組成で混合し、攪拌後、孔径1μmのフィルターで濾過して調製したものであり、カールフィッシャー水分計で測定される含水率は0.25%であった。この塗工液における有機修飾粘土複合体/バインダー樹脂の固形分重量比は6/4である。
【0091】
(2)光学フィルムの作製および評価
塗工液を変更した以外は実施例1と同様にして光学フィルムを作製し、光学特性を測定した。結果は表1に示した。
【0092】
(複合光学フィルムの作製)
第二光学フィルムを変更した以外は、実施例1と同様にして、第一光学フィルム、第一粘着剤層、第二光学フィルム、第二粘着剤層の順に積層された複合光学フィルムを得た。
【0093】
<評価試験>
ソニー(株)製の液晶表示装置「BRAVIA(登録商標) KDL−40F1」(対角寸法37インチ)から視認側偏光板を剥がし、その替わりに、実施例1、比較例1および比較例2の各複合光学フィルムを、液晶セルに近い側に第二光学フィルムが配置されるように、オリジナルの偏光板と同じ軸方向で貼り付けた。そして、ディスプレイ正面から見たときの白輝度(cd/m2)および黒輝度(cd/m2)を、輝度計((株)トプコン製の「SR−UL1」)により測定し、コントラスト(白輝度/黒輝度)を求めた。その結果を表1に示した。
【0094】
【表1】

【0095】
表1からわかるように、実施例1で作製した複合光学フィルムを実装したTVは、正面のコントラストが3714という十分に高い値を示した。すなわち、実施例1の偏光板は、黒表示時における光散乱が少なく、黒輝度が低いために、正面コントラスト低下を抑えることができる。一方、比較例1で作製した複合光学フィルムは、十分に高い値のコントラストが得られなかった。
【符号の説明】
【0096】
10 複合光学フィルム、11 第一光学フィルム、12 第一粘着剤層、13 第一粘着剤層付き第一光学フィルム、14 第二光学フィルム、15 転写基材、16 転写基材付き第二光学フィルム、17 第一光学フィルム、第一粘着剤層、第二光学フィルム、転写基材の半製品、18 第一光学フィルム、第一粘着剤層、第二光学フィルムの半製品、19 第二粘着剤層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一光学フィルム、第一粘着剤層、第二光学フィルムおよび第二粘着剤層がこの順で積層され、
前記第二光学フィルムが、有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体との混合物からなることを特徴とする複合光学フィルム。
【請求項2】
前記無機層状化合物はスメクタイト族の化合物である請求項1に記載の複合光学フィルム。
【請求項3】
第二光学フィルムは、セルロース誘導体に対して無機層状化合物を0.5〜5の重量比で含有する請求項1または2に記載の複合光学フィルム。
【請求項4】
第二光学フィルムは、その面内の位相差値が0〜5nmであり、厚み方向の位相差値が40〜300nmである請求項1〜3のいずれかに記載の複合光学フィルム。
【請求項5】
第一光学フィルムは偏光板を含む請求項1〜4のいずれかに記載の複合光学フィルム。
【請求項6】
第一光学フィルムは、偏光板に加えて輝度向上フィルムを含み、第一粘着剤層側から偏光板、輝度向上フィルムの順に配置されている請求項5に記載の複合光学フィルム。
【請求項7】
第一光学フィルム上に第一粘着剤層を形成する工程と、
有機物で修飾されていない無機層状化合物と、水酸基の置換度が2.1〜3.0であり数平均分子量が2万5千〜12万の範囲にあるセルロース誘導体と極性有機溶媒との混合液を含有する塗工液を転写基材の上に塗工し、そこから溶媒を除去して第二光学フィルムを形成する工程と、
第一光学フィルム上に形成した第一粘着剤層と、第二光学フィルムとが貼着するように貼り合わせる工程と、
前記転写基材を第二光学フィルムから剥離する工程と、
前記第二光学フィルムの表面に第二粘着剤層を形成する工程とを有することを特徴とする複合光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
液晶セルの少なくとも一方の面に、請求項1〜6のいずれかに記載の複合光学フィルムが、その第二粘着剤層が液晶セルに向くように配置されていることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−242631(P2011−242631A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115089(P2010−115089)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】