説明

複合光学素子及びその製造方法

【課題】割れや剥がれのない良好な接合強度を有する複合光学素子を得る。
【解決手段】基材レンズ10と紫外線硬化型樹脂11とを接合して構成される複合光学素子1において、基材レンズ10と紫外線硬化型樹脂11との吸水率の差が1%以下であり、かつ、基材レンズ10と紫外線硬化型樹脂11の熱線膨張係数の差が1×10−5以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子基材とエネルギー硬化型樹脂とが界面で接合されて形成される複合光学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば球面に加工したガラスレンズの表面に樹脂層を接合し、この樹脂層の表面を非球面に成形した複合光学素子が知られている。この複合光学素子は、カメラレンズ、CD,MD,DVD等の光ピックアップの分野に広く採用されている。このように、異種部材を接合した複合光学素子では、接合面の強度を得ることが重要である。
【0003】
このような複合光学素子として、例えば特許文献1には、予め射出成形等により成形された基板レンズ(樹脂製)と金型との間に紫外線硬化型樹脂を介在させ、該紫外線硬化型樹脂を硬化させる技術が提案されている。また、紫外線硬化型樹脂を硬化させた後、成形された複合光学素子を基板レンズのゲート部で離型している。
【0004】
また、特許文献2では、屈折率の異なる2つの樹脂製の光学層の界面に、密着力の良い酸化膜を介在させ、密着強度の高い複合型光学素子を得る技術が提案されている。
【特許文献1】特開2007−72017号公報
【特許文献2】特開2004−13081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、基板レンズ(樹脂製)と紫外線硬化型樹脂との間の接着力に関する記載はなされていない。また、特許文献1及び特許文献2では、ゼオネックス(日本ゼオン(株)の商品名)のように、反応性が低い樹脂を基材にした場合、中間層に酸化膜(SiO等)を設けたとしても、酸化膜と基材との密着力が得られない。このため、高温高湿の環境下に置かれた場合は、基材レンズと樹脂とが剥れる不具合が発生する。
【0006】
特に、偏肉が大きいレンズ、紫外線硬化型樹脂層が厚いレンズ形状では、高温時、低温時、及び吸湿時の変形が大きく、耐久性は著しく劣化する。
本発明は斯かる課題を解決するためになされたもので、割れや剥がれのない良好な接合強度を有する複合光学素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、
光学素子基材とエネルギー硬化型樹脂とを接合して構成される複合光学素子において、
前記光学素子基材と前記エネルギー硬化型樹脂との吸水率の差が1%以下であり、かつ、前記光学素子基材と前記エネルギー硬化型樹脂の熱線膨張係数の差が1×10−5以下であることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の複合光学素子において、
前記光学素子基材はメタクリル樹脂からなることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の複合光学素子において、
前記光学素子基材はポリエステル樹脂からなることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、
光学素子基材とエネルギー硬化型樹脂とを接合して製造される複合光学素子の製造方法において、
互いの吸水率の差が1%以下で、かつ熱線膨張係数の差が1×10−5以下である前記光学素子基材及び前記エネルギー硬化型樹脂を準備する工程と、
前記光学素子基材に厚さ20nm以上の酸化膜層を形成する工程と、
前記酸化膜層にシランカップリング剤を塗布する工程と、
前記シランカップリング剤の表面に未硬化のエネルギー硬化型樹脂を供給し、該エネルギー硬化型樹脂、前記シランカップリング剤、及び前記酸化膜層を挟んで前記光学素子基材と金型とを所定の距離まで接近させる工程と、
前記未硬化のエネルギー硬化型樹脂にエネルギー光線を照射して硬化させる工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の複合光学素子の製造方法において、
前記光学素子基材はメタクリル樹脂からなることを特徴とする。
請求項6に係る発明は、
光学素子基材とエネルギー硬化型樹脂とを接合して製造される複合光学素子の製造方法において、
互いの吸水率の差が1%以下で、かつ熱線膨張係数の差が1×10−5以下である前記光学素子基材及び前記エネルギー硬化型樹脂を準備する工程と、
前記光学素子基材の表面に波長200nm以下の紫外線を照射して酸化膜層を形成する工程と、
前記酸化膜層の一側表面にシランカップリング剤を塗布する工程と、
前記シランカップリング剤の表面に未硬化のエネルギー硬化型樹脂を供給し、該エネルギー硬化型樹脂、前記シランカップリング剤、及び前記酸化膜層を挟んで前記光学素子基材と金型とを所定の距離まで接近させる工程と、
前記未硬化のエネルギー硬化型樹脂にエネルギー光線を照射して硬化させる工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の複合光学素子の製造方法において、
前記光学素子基材はポリエステル樹脂からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、割れや剥がれのない良好な接合強度を有する複合光学素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施の形態]
図1A〜図1Dは、第1の実施形態の複合光学素子の製造工程を示している。
【0014】
図1Aは、光学素子基材としての基材レンズ10の断面を示している。
この基材レンズ10は、例えば対向配置された不図示の金型内に形成されたキャビティ内に樹脂を射出して成形し、冷却することで得られる。この樹脂としては、アクリペット(三菱レイヨン(株)の商品名)等のメタクリル樹脂(熱可塑性樹脂)が用いられる。この基材レンズ10は、第1の光学機能面10aと第2の光学機能面10bとを有する凹レンズ形状をなしている。
【0015】
なお、本実施形態では、第1の光学機能面10aの曲率半径と第2の光学機能面10bの曲率半径とは異なっている。また、第1と第2の光学機能面10a、10bは、球面又は非球面をなしている。さらに、本実施形態では、基材レンズ10はメタクリル樹脂(熱可塑性樹脂)を射出成形により成形した場合について説明したが、これに限らない。
【0016】
例えば、メタクリル樹脂以外の熱可塑性樹脂を圧縮成形により成形してもよい。或いは、切削加工により形成してもよい。
また、基材レンズ10を構成する、このメタクリル樹脂(熱可塑性樹脂)の熱線膨張係数α10と吸水率β10は、以下のようになっている。
【0017】
熱膨張係数α10(20℃)=7.5×10−5
吸水率β10(24hr)=0.3%
図1Bは、基材レンズ10の表面にコーティング層を形成した断面を示している。
【0018】
すなわち、基材レンズ10における第1の光学機能面10aに、無機酸化膜層としての酸化ケイ素SiOのコーティング層14(厚さ250nm)を形成している。基材レンズ10を構成するメタクリル樹脂(熱可塑性樹脂)は、炭素、水素、及び酸素で構成されている。このため、基材レンズ10と無機酸化膜層とは、ともに構成要素として酸素を有し結合しやすい関係にある。
【0019】
また、この酸化ケイ素SiOのコーティング層14は、基材レンズ10及び後述するエネルギー硬化型樹脂としての紫外線硬化型樹脂11の双方に密着する性質を有する。さらに、このコーティング層14は、複合光学素子1の使用波長の光を十分に透過する性質を有している。
【0020】
さらに、このコーティング層14の厚さは20nm以上であることが好ましい。これよりも厚さが薄いと、基材レンズ10、又は後述する紫外線硬化型樹脂11との密着力が低下するおそれが生じる。
【0021】
このときのコーティング層の形成方法としては、周知の技術である真空蒸着又はスパッタリング等が用いられる。
図1Cは、基材レンズ10にコーティング層を成膜した後にシランカップリング処理を施したときの断面を示している。
【0022】
すなわち、コーティング層14の表面にシランカップリング剤16を塗布する。次いで、これを薄く引き延ばす。このシランカップリング剤16は、1個のSi(ケイ素原子)を有するとともに、無機物と相性のいい加水分解基、及び有機成分と反応しやすい有機官能基を持っている。
【0023】
そして、加水分解基によって、無機質であるコーティング層14(酸化ケイ素SiO)と反応する。また、有機官能基によって、有機質であるプラスチック等(後述する紫外線硬化型樹脂11)と強く結び付く性質を有する。
【0024】
図1Dは、成形された複合光学素子1の断面を示す図である。
すなわち、コーティング層14に対しシランカップリング処理を施した表面に、エネルギー硬化型樹脂としての未硬化の紫外線硬化型樹脂11を滴下する。
【0025】
なお、紫外線硬化型樹脂11の熱線膨張係数α11と吸水率β11は、以下のようになっている。
熱線膨張係数α11(20℃)=6.7×10−5
吸水率β11(24hr)=0.26%
次に、未硬化の紫外線硬化型樹脂11、シランカップリング剤16、及びコーティング層14を挟んで、基材レンズ10に対し所定の成形面18aを有する金型18を近接配置する。このとき、基材レンズ10の光軸中心Oと金型中心O’とを一致させるように設定する。
【0026】
次いで、基材レンズ10の側から未硬化の紫外線硬化型樹脂11に対し、紫外線ランプ19によりエネルギー(紫外線)を照射する。そして、未硬化の紫外線硬化型樹脂11を硬化させる。硬化が完了したら、紫外線の照射を停止させる。次に、金型18から基材レンズ10及び紫外線硬化型樹脂11等を離型する。
【0027】
その後、アニール(熱処理)により紫外線硬化型樹脂11を再硬化させる。このアニールは、成形によって生じた応力(歪み)の除去と屈折率を規定値に合わせるために行われる。
【0028】
なお、金型18が透明な材質からなる場合は、金型18の側からエネルギー(紫外線等)を照射してもよい。
以上において、本実施形態では、基材レンズ10と紫外線硬化型樹脂11との吸水率βの差は、β10−β11=0.3%−0.26%=0.04%である。よって、吸水率βの差は±1%以下となっている。また、基材レンズ10と紫外線硬化型樹脂11の熱線膨張係数αの差は、α10−α11=7.5×10−5−6.7×10−5=0.8×10−5である。よって、熱線膨張係数αの差は1×10−5以下となっている。
【0029】
このように、本実施形態では、基材レンズ10を構成するアクリペット(三菱レイヨン(株)の商品名)等のメタクリル樹脂(熱可塑性樹脂)と紫外線硬化型樹脂11との吸水率βの差を±1%以下に抑制した。これにより、成形された複合光学素子1が高湿度の環境に置かれた時の変形量の差による応力の蓄積を防止することができる。
【0030】
また、基材レンズ10と紫外線硬化型樹脂11との熱膨張係数αの差を1×10−5以下とした。これにより、成形された複合光学素子1が低温度の環境に置かれた時に収縮量の差による割れのおそれを防止することができる。
【0031】
さらに、本実施形態では、基材レンズ10と紫外線硬化型樹脂11との間に厚さ20nm以上の酸化ケイ素SiOのコーティング層14を介在させたので、複合光学素子1の使用波長の光を十分に透過させるとともに、基材レンズ10と紫外線硬化型樹脂11との双方に強く密着させることができる。
[第2の実施の形態]
図2A〜図2Dは、第2の実施形態の複合光学素子の製造工程を示している。
【0032】
図2Aは、光学素子基材としての基材レンズ20の断面を示している。
この基材レンズ20は、例えば対向配置された不図示の金型内に形成されたキャビティ内に樹脂を射出して成形し、冷却することで得られる。この樹脂としては、デルペット(旭化成(株)の商品名)等のメタクリル樹脂(熱可塑性樹脂)が用いられる。この基材レンズ20は、第1の光学機能面20aと第2の光学機能面20bを有する凸メニスカスレンズ形状をなしている。
【0033】
第1の光学機能面20aの曲率半径と第2の光学機能面20bの曲率半径とは異なっている。なお、第1と第2の光学機能面20a、20bは、球面又は非球面をなしている。
また、基材レンズ20を構成する、このメタクリル樹脂(熱可塑性樹脂)の熱線膨張係数α20と吸水率β20は、以下のようになっている。
【0034】
熱線膨張係数α20(20℃)=6.5×10−5
吸水率β20(24hr)=0.3%
図2Bは、基材レンズ20の表面に多層膜のコーティング層を形成した断面を示している。
【0035】
すなわち、基材レンズ20における第1の光学機能面20aに、無機酸化膜層としての多層膜を形成している。この多層膜は、少なくとも最表面に酸化アルミニウムAlのコーティング層24(厚さ250nm)を形成している。基材レンズ20を構成するメタクリル樹脂(熱可塑性樹脂)は、炭素、水素、及び酸素で構成されている。このため、最表面に酸化アルミニウムAlの層を形成して、基材レンズ20と無機酸化膜層とを結合しやすくした。ともに、構成要素に酸素を有しているためである。
【0036】
また、この酸化アルミニウムAlのコーティング層24は、基材レンズ20及び後述するシランカップリング剤26の双方に密着する性質を有している。さらに、このコーティング層24は、複合光学素子の使用波長の光を十分に透過する性質を有している。
【0037】
このときのコーティング層の形成方法としては、周知の技術である真空蒸着又はスパッタリング等が用いられる。
図2Cは、基材レンズ20にコーティング層を成膜した後にシランカップリング処理を施したときの断面を示している。
【0038】
すなわち、コーティング層24の表面にシランカップリング剤26を塗布する。次いで、これを薄く引き延ばす。このシランカップリング剤26は、酸化アルミニウムAl等の無機質とプラスチック等の有機質とを結び付ける役割を果たすものである。
【0039】
図2Dは、成形された複合光学素子1’の断面を示す図である。
すなわち、コーティング層24に対しシランカップリング処理を施し、その表面に、適量の未硬化の紫外線硬化型樹脂21を滴下する。
【0040】
なお、紫外線硬化型樹脂21の熱線膨張係数α21と吸水率β21は、以下のようになっている。
熱線膨張係数α21(20℃)=6.3×10−5
吸水率β21(24hr)=0.30%
次に、未硬化の紫外線硬化型樹脂21、シランカップリング剤26、及びコーティング層24を挟んで、基材レンズ20に対し所定の成形面28aを有する金型28を近接配置する。このとき、基材レンズ20の光軸中心Oと金型中心O’とを一致させるように設定する。
【0041】
次いで、基材レンズ20の側から未硬化の紫外線硬化型樹脂21に対し紫外線ランプ29によりエネルギー(紫外線等)を照射する。こうして、未硬化の紫外線硬化型樹脂21を硬化させる。硬化が完了したら、紫外線の照射を停止し、金型から基材レンズ20及び紫外線硬化型樹脂21等を離型する。その後、アニール(熱処理)により紫外線硬化型樹脂21を再硬化させる。
【0042】
なお、金型28が透明な材質からなる場合は、金型28の側からエネルギー(紫外線等)を照射してもよい。
以上において、本実施形態では、基材レンズ20と紫外線硬化型樹脂21との吸水率βの差は、β20−β21=0.3%−0.3%=0%であり、±1%以下となっている。また、基材レンズ20と紫外線硬化型樹脂21の熱線膨張係数αの差は、α20−α21=6.5×10−5−6.3×10−5=0.2×10−5であり、1×10−5以下となっている。
【0043】
本実施形態によれば、基材レンズ20を構成するデルペット(旭化成(株)の商品名)等のメタクリル樹脂(熱可塑性樹脂)と紫外線硬化型樹脂21との吸水率βの差により、複合光学素子1’が高湿度の環境に置かれた時に吸水率の差により変形量に差が生じ界面の応力の発生を大きくしたり、熱線膨張係数αの差により低温度の環境に置かれた時に複合光学素子1’が界面から剥離したり割れる等のおそれを防止することができる。
[第3の実施の形態]
図3A〜図3Dは、第3の実施形態の複合光学素子の製造工程を示している。
【0044】
図3Aは、光学素子基材としての基材レンズ30の断面を示している。
この基材レンズ30は、例えば対向配置された不図示の金型内に形成されたキャビティ内に樹脂を射出して成形し、冷却することで得られる。この樹脂としては、ゼオネックス330R(日本ゼオン(株)の商品名)等のポリエステル樹脂(熱可塑性樹脂)が用いられる。この基材レンズ30は、第1の光学機能面30aと第2の光学機能面30bを有する凸メニスカスレンズ形状をなしている。
【0045】
第1の光学機能面30aの曲率半径と第2の光学機能面30bの曲率半径とは異なっている。また、第1と第2の光学機能面30a、30bは、球面又は非球面をなしている。
なお、基材レンズ30を構成する、このポリエステル樹脂(熱可塑性樹脂)の熱線膨張係数α30と吸水率β30は、以下のようになっている。
【0046】
熱線膨張係数α30(20℃)=6.7×10−5
吸水率β30(24hr)=0.1%以下
図3Bは、基材レンズ30の表面に紫外線40を照射して表面を粗雑面に形成した断面を示している。
【0047】
すなわち、基材レンズ30における第1の光学機能面30aに、波長200nm以下の紫外線40を5min照射して面が粗雑な酸化膜層34を形成している。このポリエステル樹脂(熱可塑性樹脂)は、炭素と水素から構成されていて酸素を含まない。このため、このポリエステル樹脂(熱可塑性樹脂)のように反応性の低い樹脂を基材レンズ30として用いた場合、中間層に酸化膜層をコーティングしたとしても、このコーティング層と基材レンズ30との密着力は得られない。
【0048】
このため、本実施形態では、基材レンズ30の表面に波長の短い(波長200nm以下の)紫外線40を照射し、基材レンズ30の表面に粗雑な面の酸化膜層34を形成したものである。波長が短い紫外線40ほど、大きいエネルギーを有するためである。
【0049】
図3Cは、基材レンズ30に酸化膜層34を形成した後にシランカップリング処理を施したときの断面を示している。
すなわち、紫外線40の照射により形成した酸化膜層34の表面にシランカップリング剤36を塗布する。そして、これを薄く引き延ばす。このシランカップリング剤36は、酸化膜等の無機質とプラスチック等の有機質とを結び付ける役割を果たすものである。
【0050】
図3Dは、成形された複合光学素子1”の断面を示す図である。
本実施形態では、酸化膜層34の表面にシランカップリング剤を塗布し、その表面に、エネルギー硬化型樹脂としての適量の未硬化の紫外線硬化型樹脂31を滴下する。こうして、酸化膜層34と紫外線硬化型樹脂31とを強固に密着させることができる。
【0051】
なお、紫外線硬化型樹脂31の熱線膨張係数α31と吸水率β31は、以下のようになっている。
熱線膨張係数α31(20℃)=6.3×10−5
吸水率β31(24hr)=0.3%
次に、未硬化の紫外線硬化型樹脂31、シランカップリング剤36、及び酸化膜層34を挟んで、基材レンズ30に対し所定の成形面38aを有する金型38を近接配置する。このとき、基材レンズ30の光軸中心Oと金型中心O’とを一致させるように設定する。
【0052】
次いで、基材レンズ30の側から未硬化の紫外線硬化型樹脂31に対し紫外線ランプ39によりエネルギー(紫外線等)を照射する。こうして、未硬化の紫外線硬化型樹脂31を硬化させる。硬化が完了したら、紫外線の照射を停止し、金型38から基材レンズ30及び紫外線硬化型樹脂31等を離型する。その後、アニール(熱処理)により紫外線硬化型樹脂31を再硬化させる。
【0053】
なお、金型38が透明な材質からなる場合は、金型38の側からエネルギー(紫外線等)を照射してもよい。
以上において、本実施形態では、基材レンズ30と紫外線硬化型樹脂31との吸水率βの差は、β30−β31=0.1%−0.3%=−0.2%であり、±1%以下となっている。また、基材レンズ30と紫外線硬化型樹脂31の熱線膨張係数αの差は、α30−α31=6.7×10−5−6.3×10−5=0.4×10−5であり、1×10−5以下となっている。
【0054】
本実施形態によれば、基材レンズ30と紫外線硬化型樹脂31との吸水率βの差を±1%以下とすることにより、複合光学素子1”が高湿度の環境に置かれた時に吸水率の差により変形量に差が生じ界面の応力の発生を大きくしたり、熱線膨張係数αの差により低温度の環境に置かれた時に複合光学素子1”が界面から剥離したり割れる等のおそれを防止することができる。
【0055】
また、ゼオネックス330R(日本ゼオン(株)の商品名)等のポリエステル樹脂(熱可塑性樹脂)ように反応性の低い樹脂を基材レンズ30とした場合にも、表面に波長200nm以下の紫外線40を照射して酸化膜層34を形成するようにしたので、この酸化膜層34と紫外線硬化型樹脂31との密着力を強固にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1A】第1の実施の形態の基材レンズの断面を示す図である。
【図1B】基材レンズの表面にコーティング層を形成した断面を示す図である。
【図1C】基材レンズにコーティング層を成膜した後にシランカップリング処理を施したときの断面を示す図である。
【図1D】成形された複合光学素子の断面を示す図である。
【図2A】第2の実施の形態の基材レンズの断面を示す図である。
【図2B】基材レンズの表面にコーティング層を形成した断面を示す図である。
【図2C】基材レンズにコーティング層を成膜した後にシランカップリング処理を施したときの断面を示す図である。
【図2D】成形された複合光学素子の断面を示す図である。
【図3A】第3の実施の形態の基材レンズの断面を示す図である。
【図3B】基材レンズの表面にコーティング層を形成した断面を示す図である。
【図3C】基材レンズにコーティング層を成膜した後にシランカップリング処理を施したときの断面を示す図である。
【図3D】成形された複合光学素子の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 複合光学素子
1’ 複合光学素子
1” 複合光学素子
10 基材レンズ
10a 第1の光学機能面
10b 第2の光学機能面
11 紫外線硬化型樹脂
14 コーティング層
16 シランカップリング剤
18 金型
18a 成形面
19 紫外線ランプ
20 基材レンズ
20a 第1の光学機能面
20b 第2の光学機能面
21 紫外線硬化型樹脂
24 コーティング層
26 シランカップリング剤
28 金型
28a 成形面
29 紫外線ランプ
30 基材レンズ
30a 第1の光学機能面
30b 第2の光学機能面
31 紫外線硬化型樹脂
34 酸化膜層
36 シランカップリング剤
38 金型
38a 成形面
39 紫外線ランプ
40 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子基材とエネルギー硬化型樹脂とを接合して構成される複合光学素子において、
前記光学素子基材と前記エネルギー硬化型樹脂との吸水率の差が1%以下であり、かつ、前記光学素子基材と前記エネルギー硬化型樹脂の熱線膨張係数の差が1×10−5以下である
ことを特徴とする複合光学素子。
【請求項2】
前記光学素子基材はメタクリル樹脂からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の複合光学素子。
【請求項3】
前記光学素子基材はポリエステル樹脂からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の複合光学素子。
【請求項4】
光学素子基材とエネルギー硬化型樹脂とを接合して製造される複合光学素子の製造方法において、
互いの吸水率の差が1%以下で、かつ熱線膨張係数の差が1×10−5以下である前記光学素子基材及び前記エネルギー硬化型樹脂を準備する工程と、
前記光学素子基材に厚さ20nm以上の酸化膜層を形成する工程と、
前記酸化膜層にシランカップリング剤を塗布する工程と、
前記シランカップリング剤の表面に未硬化のエネルギー硬化型樹脂を供給し、該エネルギー硬化型樹脂、前記シランカップリング剤、及び前記酸化膜層を挟んで前記光学素子基材と金型とを所定の距離まで接近させる工程と、
前記未硬化のエネルギー硬化型樹脂にエネルギー光線を照射して硬化させる工程と、を備える
ことを特徴とする複合光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記光学素子基材はメタクリル樹脂からなる
ことを特徴とする請求項4に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項6】
光学素子基材とエネルギー硬化型樹脂とを接合して製造される複合光学素子の製造方法において、
互いの吸水率の差が1%以下で、かつ熱線膨張係数の差が1×10−5以下である前記光学素子基材及び前記エネルギー硬化型樹脂を準備する工程と、
前記光学素子基材の表面に波長200nm以下の紫外線を照射して酸化膜層を形成する工程と、
前記酸化膜層の一側表面にシランカップリング剤を塗布する工程と、
前記シランカップリング剤の表面に未硬化のエネルギー硬化型樹脂を供給し、該エネルギー硬化型樹脂、前記シランカップリング剤、及び前記酸化膜層を挟んで前記光学素子基材と金型とを所定の距離まで接近させる工程と、
前記未硬化のエネルギー硬化型樹脂にエネルギー光線を照射して硬化させる工程と、を備える
ことを特徴とする複合光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記光学素子基材はポリエステル樹脂からなる
ことを特徴とする請求項6に記載の複合光学素子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3B】
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【公開番号】特開2009−210865(P2009−210865A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54541(P2008−54541)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】