説明

複合分離膜の製造方法

【課題】本発明は、分離機能層とこれを支持する多孔質膜を積層した複合分離膜の製造方法に関するものであり、かかる複合分離膜は、排水の浄化、海水の脱塩、医療用成分の分離、食品有効成分の濃縮や、気体成分の分離などの用途に用いることができる。本発明は、このような高性能複合分離膜を効率的に得るための製造方法を提供するものである。
【解決手段】本発明の複合分離膜の製造方法は、多孔質膜上に分離機能層を設ける複合分離膜の製造において、多孔質膜の分離機能層を設ける面に、分離機能層構成成分およびアルコールを含む水溶液を接触させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離機能層とこれを支持する多孔質膜を積層した複合分離膜の製造方法に関する。かかる複合分離膜は、排水の浄化、海水の脱塩、医療用成分の分離、食品有効成分の濃縮や、気体成分の分離などの用途に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
複合分離膜は、多孔質膜上に所望の分離能を有する分離機能層を積層している。分離機能層としては、その用途に応じてポリアミド、ポリスルホン、酢酸セルロースなどからなるものが知られ、その用途に応じて、逆浸透膜や精密濾過膜、限外濾過膜などに分類することができるが、例えば海水の淡水化などに用いられる逆浸透膜分野では、芳香族多官能アミンと芳香族多官能酸ハライドとの界面重合によって得られるポリアミド系分離機能層を有するものがよく知られている。また多孔質膜としては、例えば、不織布等の多孔性支持材料上にポリスルホン等の微多孔層を設け、その上にポリアミド系スキン層を形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。さらに近年では、多孔質膜としてエポキシ樹脂の微多孔膜を用いた複合半透膜が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
このような複合分離膜においては、多孔質膜と分離機能層の密着性や、分離機能層が多孔質膜表面への形成状態の均一性によって複合分離膜の性能に影響を与えることがわかっている。これらについて、多孔質膜を処理し、分離機能層の反応性を高めることで複合分離膜の性能を高めるための様々な試みがなされている(例えば、特許文献3または4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−147106号公報
【特許文献2】特開2010−099654号公報
【特許文献3】特開昭62−057614号公報
【特許文献4】特開2008−093543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高性能な複合分離膜を得るための効率的な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、多孔質膜上に分離機能層を設ける複合分離膜の製造工程において、多孔質膜の分離機能層を設ける面に、分離機能層構成成分およびアルコールを含む水溶液を接触させることを特徴とする複合分離膜の製造方法に関する。前記分離機能層構成成分が、アルコール水溶液中に0.5〜10重量%含有することが好ましく、前記アルコール水溶液中のアルコール成分は5〜50重量%含有していることが好ましい。さらに、前記アルコール水溶液中のアルコール成分は、イソプロピルアルコール、メタノールおよび/またはエタノールであることが好ましい。
【0007】
前記の多孔質膜については、疎水性膜である場合に本発明の効果が得られやすく、前記多孔質膜はエポキシ樹脂を主原料とするエポキシ樹脂多孔質膜であることが好ましい。さらに、前記の分離機能層構成成分を含むアルコール水溶液による処理は、多孔質膜を前記水溶液に2分間〜10分間浸漬することが好ましい。
【0008】
さらには、分離機能層が多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分との界面重合によって得られるポリアミド系分離機能層であって、アルコール水溶液に添加する分離機能層構成成分が多官能アミン成分であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、多孔質膜上に分離機能層を設ける複合分離膜の製造工程において、多孔質膜の分離機能層を設ける面に、分離機能層構成成分およびアルコールを含む水溶液接触させることを特徴とする。
【0010】
本発明における分離機能層構成成分およびアルコールを含む水溶液としては、少なくとも分離機能層構成成分とアルコールを含有していればよいが、必要に応じて、公知の親水化剤や保湿剤などの添加剤を加えてもよい。
【0011】
前記の、分離機能層構成成分およびアルコールを含む水溶液が含有するアルコール成分としては、この水溶液が多孔質膜の孔内に効率的に含浸されることを目的として添加するため、用いる多孔質膜となじみやすいものであれば特に限定されるものではなく、低分子量のアルコールを用いることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノールまたは、イソプロピルアルコールを用いることが好ましい。なかでも、汎用的であり、ポリアミド系分離機能層を形成する場合に、アミン水溶液の拡散性向上に寄与できるため、イソプロピルアルコールを用いることがより好ましい。
【0012】
前記アルコール成分の添加量としては、水溶液に対して5〜50重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。このアルコール成分の添加量が少なすぎると、本発明の効果を得るためには多孔質膜での保持時間が長く必要となってしまうため、生産性に悪影響が出てしまい、多すぎると、分離機能層の形成の際に悪影響があるため好ましくない。
【0013】
多孔質膜への分離機能層構成成分およびアルコールを含む水溶液を接触させるタイミングとしては、分離機能層を形成する直前であることが好ましく、製造雰囲気の温度および湿度にもよるが、水溶液が乾燥する前に分離機能層を形成する必要があるため、水溶液処理後5分以内に分離機能層の形成を開始することが好ましい。
【0014】
本発明における多孔質膜としては、分離機能層を形成可能で複合分離膜の支持体として用いる多孔質膜であればよく、その材料や平均孔径、孔径分布などに限定されるものではない。多孔質膜を形成する材料としては、例えばセルロース系、ポリオレフィン系、ポリビニルアルコール系、ポリスルホン系、ポリアクリロニトリル系、シリコン系、エポキシ系、フッ素系の樹脂など多孔質膜として分離膜の形状に成形可能なものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、エポキシ、またはポリスルホンなどが挙げられる。なかでも本発明では、疎水性の多孔質膜に用いた場合に効果があるため、フッ素系樹脂やエポキシ樹脂からなる多孔質膜に特に好ましく用いることができる。さらには、本発明は水溶液が浸透しにくい多孔質膜を用いる場合に特に効果が高く、エポキシ樹脂からなる多孔質膜の場合に特に効果が高い。
【0015】
多孔質膜の構造や形状については限定されるものではなく、不織布や織布上にポリスルホンなどの微多孔性ポリマーを積層した積層平膜や、エポキシ樹脂多孔シートなどの単体で形成された単体平膜、中空糸やチューブラー等の管状膜が挙げられる。さらには多孔質膜単体の性能としては、例えば、精密濾過膜(MF膜)、限外濾過膜(UF膜)またはナノ濾過膜(NF膜)などを用いることができる。
【0016】
多孔質膜の細孔については、複数の連通孔を有していれば、その表裏において非対称な孔径であってもよく、その平均孔径や孔径分布などはその目的に応じて任意に選択できる。例えば、多孔質膜を複合逆浸透膜の支持膜として用いる場合、分離機能層を設ける面におけるその平均孔径は0.01〜0.4μm程度、好ましくは0.05〜0.2μm程度であり、その厚みは通常25〜150μmであり、好ましくは40〜100μm程度である。
【0017】
エポキシ樹脂からなる多孔質膜としては特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、特開2010−121122に記載のような、エポキシ樹脂と硬化剤およびポロゲンを混合して硬化した後、ポロゲンを除去することにより連通孔を形成した多孔質膜が例示できる。
【0018】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、及びテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、複素芳香環(例えば、トリアジン環など)を含有するエポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂;脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂などの非芳香族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記硬化剤としては、例えば、芳香族アミン(例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなど)、芳香族酸無水物(例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸など)、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、複素芳香環含有アミン(例えば、トリアジン環含有アミンなど)などの芳香族硬化剤;脂肪族アミン類(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなど)、脂環族アミン類(イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、これらの変性品など)、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミンなどの非芳香族硬化剤が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記ポロゲンとしては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類、及びポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
これらのエポキシ樹脂、硬化剤およびポロゲンを溶融押し出し法や、平板上または平板に挟持して硬化する方法、樹脂硬化体の表面を薄膜状に切削する方法などを適宜用いてシート化し、水や各種溶剤を用いてポロゲンを抽出除去することで多孔質膜を作製できる。
【0022】
多孔質膜への分離機能層構成成分およびアルコールを含む水溶液を接触させる方法としては、水溶液が多孔質膜の分離機能層を形成する面に接触するものであれば特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、浸漬、加圧通水、噴霧、シャワー、塗布などが挙げられる。特に、前記水溶液への浸漬や0.2〜3MPa程度の圧力をかけて多孔質膜内を通過させる加圧通水による方法が好ましく用いられる。接触時間としては特に限定されるものではないが、2分間以上連続して接触させることが好ましく、好ましくは10分間以下である。本発明では多孔質膜の孔内に前記水溶液を含浸させることが必要であるが、接触時間が短すぎるとこの含浸が不十分となり、本発明の効果が得られにくく、接触時間が長すぎると、多孔質膜が膨潤してしまうため、分離機能層が形成しにくくなる。また、水溶液の温度は10〜45℃程度が好ましい。
【0023】
分離機能層構成成分としては、例えば分離機能層が、多官能アミン成分を含有する水溶液と多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液との界面重合によって生じるポリアミド系分離機能層を有する複合分離膜の場合、多官能アミン成分または、多官能酸ハライド成分が挙げられるが、前記水溶液が多孔質膜に浸透しやすく、面内で均一な処理とするためには、水溶液およびアルコール成分との相溶性の高い成分が好ましい。そのため、前記のようなポリアミド系分離機能層を用いる場合には、分離機能層構成成分として多官能アミン成分を用いることが好ましい。
【0024】
前記分離機能層構成成分の添加量は、水溶液に対して0.5〜10重量%とすることが好ましく、1〜6重量%とすることがより好ましい。この添加量が多すぎても、少なすぎても、分離機能層形成後に分離機能層が多孔質膜と剥離しやすいことや、分離機能層の性能が十分に得られないなどの不具合が生じやすいため好ましくない。
【0025】
前記分離機能層としては、多孔質膜と組み合わせて、所望の物質に対する分離性能を有する分離機能層であれば特に限定されるものではない。例えば、多官能アミン成分を含有する水溶液と多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液との界面重合によって得られるポリアミド系分離機能層が挙げられる。以下にポリアミド系分離機能層を形成する場合を例にとって説明する。
【0026】
ポリアミド系分離機能層を多孔質膜の表面に形成する方法は、特に制限されず、あらゆる公知の手法を用いることができる。例えば、界面重合法、相分離法、薄膜塗布法などが挙げられるが、本発明においては、多官能アミン成分含有水溶液からなるアミン水溶液被覆層を多孔質膜上に形成し、次いで多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液と接触させて界面重合させることにより分離機能層を形成する方法が好ましい。
【0027】
このとき、前記多官能アミン成分含有水溶液を多孔質膜に接触させた後、すぐに多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液と接触させるか、余分な水溶液を除去することが好ましいが、このような次の処理をするまでの時間が分離機能層の形成状態に影響を与えることがわかっている。この時間は5秒間以上180秒間以下とすることが好ましい。この時間に多孔質膜中に多官能アミン水溶液が適度に含浸されると考えられる。特に多孔質膜がエポキシ樹脂多孔質膜である場合、前記アミン水溶液が多孔質膜内に含浸しにくいため、90秒間以上接触させることが好ましいが、本発明を用いると5秒間以上30秒間以下、さらには5秒間以上20秒間以下の接触時間で好適な分離機能層が形成できるようになるため、生産の高速化に寄与できる。
【0028】
前記多官能アミン成分としては、2以上の反応性アミノ基を有する多官能アミンであり、芳香族、脂肪族及び脂環式の多官能アミンが挙げられる。これらは2種以上のアミンを併用してもよい。分離性能の高い分離膜を求める場合、芳香族多官能アミンを用いることが好ましい。
【0029】
前記アミン水溶液中の多官能アミン成分の濃度は特に限定されるものではないが、0.1〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜3重量%である。多官能アミン成分の濃度が低すぎると、分離機能層にピンホール等の欠陥が生じやすくなり、また分離性能が低下することがわかっている。一方、多官能アミン成分の濃度が高すぎると、多官能アミン成分が多孔性支持体中に浸透しやすくなりすぎるため、分離機能層の厚さが厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなり、透過量が低下することがわかっている。
【0030】
芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、N,N’−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0031】
脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、n−フェニル−エチレンジアミン等が挙げられる。
【0032】
脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。
【0033】
前記多官能酸ハライド成分としては、反応性カルボニル基を2個以上有する多官能酸ハライドであり、芳香族、脂肪族及び脂環式の多官能酸ハライドが挙げられる。これらは2種以上の酸ハライド成分を併用してもよい。分離性能の高い分離膜を求める場合には、芳香族多官能酸ハライドを用いることが好ましい。さらには、多官能酸ハライド成分の少なくとも一部に3価以上の多官能酸ハライドを用いて、架橋構造を形成するのが好ましい。
【0034】
前記有機溶液中の多官能酸ハライド成分の濃度は特に限定されるものではないが、0.01〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜3重量%である。多官能酸ハライド成分の濃度が低すぎると、未反応多官能アミン成分が残留しやすくなり、分離機能層にピンホール等の欠陥が生じやすくなるため、分離性能が低下することがわかっている。一方、多官能酸ハライド成分の濃度が高すぎると、未反応多官能酸ハライド成分が残留しやすくなったり、分離機能層の厚さが厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなるため、透過量が低下する傾向にある。
【0035】
前記有機溶液に用いられる有機溶媒としては、水に対する溶解度が低く、多孔質膜を劣化させず、多官能酸ハライド成分を溶解するものであれば特に限定されない。例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びノナン等の飽和炭化水素、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン置換炭化水素、イソパラフィン類、ナフテゾールなどを挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましくは沸点が300℃以下、より好ましくは沸点が200℃以下の飽和炭化水素又はナフテン系溶媒を用いることがよい。
【0036】
芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0037】
脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。
【0038】
脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0039】
他に、ポリアミド系樹脂を含む分離機能層の性能を向上させるためには、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールなどをさらに共重合させてもよい。
【0040】
前記アミン水溶液や有機溶液には、製膜を容易にすることや、得られる複合分離膜の性能を向上させる目的で各種の添加剤を加えることができる。前記添加剤としては例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、及びラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤、重合により生成するハロゲン化水素を除去する水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、及びトリエチルアミン等の塩基性化合物、アシル化触媒、特開平8−224452号公報記載の溶解度パラメータが8〜14(cal/cm31/2の化合物などが挙げられる。
【0041】
アミン水溶液被覆層と有機溶液との接触後、過剰な有機溶液を除去し、70℃以上で加熱乾燥することが好ましい。この処理により複合分離膜の機械的強度や耐熱性を高めることができる。加熱温度は70〜200℃であることが好ましく、特に好ましくは100〜150℃である。加熱時間は30秒〜10分程度が好ましく、より好ましくは40秒〜7分程度である。
【0042】
多孔性支持体上に形成した分離機能層の厚さは特に限定されないが、分離性能と透過量との兼合いにより、通常0.05〜2μm程度であり、好ましくは、0.1〜1μmである。
【0043】
以下に、本発明について実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
(エポキシ樹脂多孔質膜の作製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、エピコート828)139重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、エピコート1010)93.2重量部、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン52重量部、及びポリエチレングリコール200(三洋化成(株))500重量部を調製したエポキシ樹脂組成物を、円筒状モールド(外径35cm、内径10.5cm)内に高さ30cmまで充填して25℃で12時間室温硬化し、さらに130℃で18時間反応硬化させて円筒状樹脂ブロックを作製した。この樹脂ブロックを、円筒軸を中心に回転させながら切削装置(東芝機械社製)を用いて、その表面を厚さ150μmで連続的にスライスし、長尺状のエポキシ樹脂シート(長さ:150m)を得た。このエポキシ樹脂シートを純水中に12時間浸漬してポリエチレングリコールを除去し、50℃の乾燥機内で約4時間乾燥することでエポキシ樹脂多孔質膜を得た。このエポキシ樹脂多孔質膜の厚さは145μmであり、空孔率は45%、平均孔径は0.106μmであった。
【0045】
(複合分離膜の作製)
前記エポキシ樹脂多孔質膜を、m−フェニレンジアミン1重量%、イソプロピルアルコール15重量%を含有する水溶液に3分間浸漬して前処理を行なった。続いて、m−フェニレンジアミン3重量%、トリエチルアミン4重量%、カンファースルホン酸6重量%、ドデシル硫酸ナトリウム0.15重量%を含有するアミン水溶液を調製し、前記の水溶液処理したエポキシ樹脂多孔質膜に10秒間接触させ、その後余分なアミン水溶液を除去して水溶液被覆層を形成した。次に、この水溶液被覆層の表面にトリメシン酸クロライド0.4重量%を含有するイソパラフィン溶液を塗布し、80℃の熱風乾燥機中で3分間保持して、ポリアミド系分離機能層を有する複合分離膜を作製した。この複合分離膜に関する塩阻止率の測定結果を表1に示す。
【0046】
(塩阻止率の評価方法)
作製した複合分離膜を切断して平膜評価用のセルにセットする。このセルの膜に、約1500mg/LのNaClを含み、且つNaOHを用いてpH6.5〜7.5に調整した水溶液を、25℃で膜の供給側と透過側に1.5MPaの差圧を与えて接触させた。この操作によって得られた電導度を測定し、下記式により事前に作製したNaCl濃度と水溶液電導度の相関(検量線)を用いて塩阻止率(%)を算出した。
塩阻止率(%)=[1−(透過液中のNaCl濃度[mg/L])/(供給液中のNaCl濃度[mg/L])]×100
【0047】
(実施例2)
多孔質膜の前処理に用いた水溶液中のm−フェニレンジアミンを3重量%とした以外は実施例1と同様にして測定を行なった。この測定の結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
多孔質膜の前処理に用いた水溶液にm−フェニレンジアミンを添加しなかった以外は実施例1と同様にして測定を行なった。この測定の結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
以上より、複合分離膜の支持体として用いられる多孔質膜に分離機能層構成成分およびアルコールを含む水溶液を接触させることで高い性能を有する複合分離膜を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜上に分離機能層を設ける複合分離膜の製造工程において、多孔質膜の分離機能層を設ける面に、分離機能層構成成分およびアルコールを含む水溶液を接触させることを特徴とする複合分離膜の製造方法。
【請求項2】
分離機能層構成成分が、アルコール水溶液中に0.5〜10重量%含有する請求項1記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項3】
アルコール水溶液中のアルコール成分が5〜50重量%含有する請求項1または2記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項4】
アルコール水溶液中のアルコール成分が、イソプロピルアルコール、メタノールおよび/またはエタノールである請求項1〜3のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項5】
多孔質膜が疎水性膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項6】
多孔質膜がエポキシ樹脂を主原料とするエポキシ樹脂多孔質膜であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項7】
分離機能層構成成分を含むアルコール水溶液による処理が、多孔質膜を前記水溶液に2分間〜10分間浸漬することである請求項1〜6のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項8】
分離機能層が多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分との界面重合によって得られるポリアミド系分離機能層であって、アルコール水溶液に添加する分離機能層構成成分が多官能アミン成分であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。

【公開番号】特開2012−11293(P2012−11293A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148958(P2010−148958)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】