説明

複合加工工具

【課題】 複合加工工具を従来の工具に比べ高価とならず自動工具交換可能に構成するとともにバルブシート及びバルブガイドを個別に制御することで加工精度を一段と高めたマシニングセンタ及び専用工作機械の両用に開発した複合加工工具を提供する。
【解決手段】 工作機械(マシニングセンタ)の主軸30の先端の主軸保持部(テーパー穴)30Aに、工具連結部31Aを挿入して主軸に離脱手段COで結合する工具本体31であって、中間筒35内に挿通した内周筒37の先端にリーマ40が装着されるとともに、上記中間筒35の先端側に上記切刃(バイト)Bが繋がれ、上記外周筒内の中間筒と内周筒とが上記軸線Lの周りに回転可能に且つ軸線方向に移動可能に配置され、リーマ40を取り付けるチャック手段Cを備えた複合加工工具100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、エンジンのシリンダヘッドにおけるバルブシート(テーパー座面)及びバルブガイド(ガイド孔)を同時に切削する複合加工工具に係り、特に、工具の自動交換機能と加工精度を合理的に高めたマシニングセンタおよび専用工作機械の両用の複合加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリンダヘッドにおけるバルブシート及びバルブガイドを同時に切削するバルブシート切削工具が提供されている。その代表的なものは、バイトを保持したスライダやそのスライダが嵌合されるスライド溝の磨耗を抑制して、高精度加工ができるようにしたものである。更に、詳細に説明すれば、自身の軸線を中心に回転される工具本体の前面に、前記軸線に沿って延びるとともに、底面が前記軸線に対して傾斜するスライド溝を設け、そのスライド溝内にはバルブシートを切削するためのバイトを有するスライダを収容し、前記工具本体にはスライダをスライド溝の底面に沿って往復運動させるための駆動体を設けたバルブシート工具である。前記バルブシート工具は、工作機械の主軸の支持部に取り付けるべく、円錐形とした主軸の先端部の内面を凹部とし、この凹部内に嵌合させた回転部材と主軸支持部の凸部とが連結されている。そして、特に、前記スライダとスライド溝の内面との間には複数の回転体を連結したプレートよりなる転がり対偶手段を設けたものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記バルブシート工具によると、スライダとスライド溝の内面との間には複数の回転体を連結したプレートからなる転がり対偶手段を設けたから、スライダの移動抵抗が低減されて磨耗を抑制でき、常に高精度加工ができるという利点を有する。しかしながら、バルブシート工具は、リーマとバイトとは、支持部材の進退移動により連動して一体的にリーマは軸線上を進退してガイドブッシュの孔加工を行い、バイトは傾斜したスライド溝に沿って進退してバルブシート「テーパー座面」を切削仕上げされる1軸制御であるから、バイトによるバルブシートの加工時にリーマが空転してしまうことになり、孔加工の精度を低下させてしまう問題点がある。また、バルブシート工具には、工作機械の主軸との自動交換機能をもたない。
【0004】
また、別の複合加工工具は、工具本体と、バルブガイド穴加工用リーマと、工具本体に固定された逃げ面加工用カッタと、第1及び第2の極端位置の間で移動可能に工具本体に保持された当り面加工用カッタとを備える。そして、逃げ面加工用のカッタの切刃はバルブガイド穴の中心軸線に対して当り面と同じ角度で延びる。当り面加工用カッタが第1の極端位置又は第2の極端位置にある時、逃げ面加工用のカッタ及び当り面加工用カッタの何れか一方のみがバルブシートに接触し、他方はバルブシートに接触しない。更に、上記複合加工工具は、ハウジングのテーパー部をマシニングセンタの主軸テーパー穴に連結され、主軸側から供給される圧力流体が第1シリンダ室とそのピストンや第2シリンダ室とそのピストンに導かれ、逃げ面加工用カッタや当り面加工用カッタを軸心方向に進退移動するものが提供されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
上記複合加工工具は、逃げ面加工用カッタと当り面加工用カッタとは、別個に駆動される2軸制御であるから、同時に切削加工を始めず、ビビリを生じ難く、上記1軸制御のような問題点が発生しない。しかし、逃げ面加工用カッタや当り面加工用カッタは、各シリンダ室への圧力流体の流量制御で行うから、精密な切削送り制御ができ難い。
【0006】
更に、別の切削工具は、工具本体後端側に形成された取付部が工作機械の工具保持部に取り付けられ、工具本体が軸線回りに回転されつつ軸線方向先端側に向かって送られることにより、工具本体の装着穴に装着されたリーマが、例えばエンジンのシリンダヘッドにおけるバルブ穴からなる下穴を所定の内径に加工するとともに、工具本体先端外周に設けた切刃が、このバルブ穴の開口部にバルブヘッドが当接するバルブシート面を加工するものである。しかし、このものも、切削工具の主軸との交換は、手作業によらなければならないから、通常のマシニングセンタのように切削工具の自動交換による自動運転ができない(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
【特許文献1】 特開2000−61722号公報
【特許文献2】 特開2005−125416号公報
【特許文献3】 特開平6−30480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来のバルブシート工具や複合加工工具や切削工具が持つ問題点に鑑みてなされたものである。その目的とするところは、複合加工工具を自動工具交換可能に構成するとともにバルブシート(テーパー座面)及びバルブガイド(ガイド孔)を個別に制御することで加工精度を一段と高めたマシニングセンタ及び専用工作機械の両用に開発した複合加工工具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するべく本発明の請求項1による複合加工工具は、軸線で回転する工具本体は、外周筒に嵌る中間筒とこの中周筒内に嵌る内周筒とが軸線に同軸状に且つ軸線方向に互いに移動可能に備え、上記中周筒の先端外周に座面用切刃を備え内周筒の軸線先端に孔用切刃を備え、上記工具本体の後端側に工作機械の主軸保持部に係脱される工具連結部を備えた複合加工工具であって、上記工具連結部には上記外周筒と中間筒と内周筒との各筒後端にそれぞれ凹凸状に形成された複数の工具側係合部を備え、上記工具連結部に係脱する上記主軸保持部の工具連結辺には駆動外筒・駆動中筒・駆動内筒の先端に凹凸状に形成された主軸側係合部を備え、上記工具本体には、主軸保持部に対する外周筒と中間筒と内周筒との周方向の相対回転角を規制するとともに回転力を伝達する回転伝達手段と、中間筒の移動量制限Xと内周筒の移動量制限Yと、工具着脱時の案内部と、を備え、上記工具側係合部と上記主軸側係合部との定められた回転角度位相差を生じさせて係合が外れた時、上記工具連結部が上記工具連結辺に係脱可能となり上記工具連結部と上記工具連結辺とを相対的回転させて上記工具側係合部と主軸側係合部とを係合することにより、上記工具本体が上記工作機械の主軸保持部に連結されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2による複合加工工具は、請求項1記載の複合加工工具において、上記工作機械は、マシニングセンタまたは専用工作機械であることを特徴とする。
【0011】
すなわち、本発明の複合加工工具によれば、マシニングセンタまたは専用工作機械の主軸先端の主軸保持部に挿入して連結される複合加工工具は、この工具自動交換操作時において、上記複合加工工具の工具連結部には、上記外周筒と中間筒と内周筒との各筒後端にそれぞれ凹凸状に形成された複数の工具側係合部を備え、上記工具連結部に係脱する上記主軸保持部の工具連結辺には駆動外筒・駆動中筒・駆動内筒の先端に凹凸状に形成された主軸側係合部を備え、上記工具側係合部と上記主軸側係合部との定められた回転角度位相差を生じさせて係合が外れた時、上記工具連結部が上記工具連結辺に係脱可能となる。これで、上記工具連結部が上記工具連結辺に挿入可能となり、上記工具連結部を上記工具連結辺に対して相対的回転させて上記工具側係合部と上記主軸側係合部とを係合する。この後、上記工具連結辺を主軸奥側へ引っ張ってクランプする。また、上記複合加工工具を上記主軸の主軸保持部から外すときには、上記工具連結辺を主軸側へ引き出してアンクランプする。この後に、上記工具連結部を上記工具連結辺に対して相対的回転させて上記工具側係合部と上記主軸側係合部とを外して係合を解く、これで、上記複合加工工具を上記主軸の主軸保持部から引き抜けられる。以上の工具交換操作により、上記複合加工工具は、上記主軸の主軸保持部に対して自動工具交換される。
これにより、複合加工工具はマシニングセンタの主軸保持部との自動着脱「自動工具交換」ができるし、シリンダヘッドに予め形成されたバルブシート(テーパー座面)及びバルブガイド(ガイド孔)とを個別に高精度仕上げ切削する各種寸法の加工が自動運転または専用工作機械における手動又は自動の場合においても瞬時に着脱ができ、その加工能率が高められる。
【0012】
また、上記工具本体には、主軸保持部に対する外周筒と中間筒と内周筒との周方向の相対回転角を規制するとともに主軸の回転力を伝達する回転伝達手段を設けているから、複合加工工具の工具連結部と主軸の主軸保持部との係脱作用が的確に出来るとともに、主軸の回転力が外周筒と中間筒と内周筒とに伝達され、切削加工が確実に行われる。また、工具の係脱時に中間筒の移動量制限Xと内周筒の移動量制限Yとに規制したから、工具軸心と主軸軸心が例えば経年変化に伴いずれて、互いに接触する事があっても外周筒に対する中間筒と内周筒は軸線方向にXまたはYの距離以上移動しない。更に工具装着時確実に結合が出来る為に工具連結部と工具連結辺との周方向に各々の係脱をガイドする案内斜面部を設けたから、自動工具交換を確実にするとともに、工具連結部の中間筒・内周筒の軸方向隙間量を微小にすることが出来る。結果的に、加工精度を必要とされるマシニングセンタ用及び専用工作機械用の両用に適応できる複合加工工具が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマシニングセンタ用の複合加工工具によると、通常のマシニングセンタと同様に、上記複合加工工具における各種寸法のものが自由に自動工具交換操作できる。また、回転伝達手段と移動量規制手段と案内部とにより、工具交換時の係脱精度が高められるとともに軸線方向のガタがなく2軸制御の元に高精度に各工具の位置決めができる。これにより、シリンダヘッドに予め形成されたバルブシートとバルブガイドとの仕上げ切削が個別に高精度に加工でき、且つ各種寸法のバルブシートとバルブガイドが自動若しくは自由に運転でき、加工能率が高められる。
即ち、▲1▼複数種類の加工ワークとなる各種寸法のバルブシートとバルブガイドの切削加工が個別にできること。▲2▼この工具によれば、従来の工具に比べて構成が合理的になっているから製造費も安く、規格の工具シャンク方式による自動工具交換であるから主軸への装着頻度が高くても装着精度が低下しない。▲3▼従来、自動工具交換が不可能であったが自動工具交換を可能とするとともに、バルブシートとバルブガイドとに対するリーマ加工工具とバルブシート加工工具とが別々の2軸制御で高精度にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1乃至図7を参照して本発明の第1の実施の形態を説明する。図1はマシニングセンタ用の複合加工工具の断面図であり、図2〜図6は部分断面図、図7は複合加工工具の加工状態の断面図である。
【0015】
本発明のマシニングセンタおよび専用工作機械の両用に適応できる複合加工工具100は、下記のように構成されている。まず、図1に示すように、工作機械(マシニングセンタ)の主軸30の先端の主軸保持部(テーパー穴)30Aに、工具連結部31Aを挿入して主軸に離脱手段COで結合する工具本体31において、工具連結部31Aを有する外周筒31Bの軸線Lを中心に回転される前面体15に、上記軸線に沿って延び底面が上記軸線に対して傾斜するスライド溝33を設けている。そのスライドミゾ内にバルブシートVSを切削するバイトBを有するスライダSを収容し、上記スライダSを駆動する中間筒35を上記外周筒31B内に旋回・軸線方向に移動可能に備えている。中間筒35内に旋回・軸線方向に移動可能に挿通した内周筒37には、先端にリーマガイド筒41が取り付けられている。即ち、内周筒37の先端にリーマ「孔用切刃」40が装着されるとともに、上記中間筒35の先端側に上記切刃(バイト、座面用切刃)Bが繋がれ、上記外周筒内の中間筒と内周筒とが上記軸線Lの周りに回転可能に且つ軸線方向に移動可能に配置され、リーマ40を取り付けるチャック手段Cを備えた複合加工工具100である。尚、上記各周筒31B,35,37の後部と前部には、後記するが、回転伝達手段80と中間筒の移動量制限Xと内周筒の移動量制限Yと工具着脱時の案内部47を設けている。
【0016】
続いて、上記複合加工工具100の詳細構成を説明する。まず、複合加工工具は、軸線Lで回転する工具本体31を有し、上記工具本体31の先端に上記軸線Lに沿って伸びるリーマ40が装着されるほか上記工具本体の先端外周に切刃(バイト)Bが配置されている。上記工具本体31の後端側にマシニングセンタまたは専用工作機械の主軸保持部30Aに係脱される工具連結部31Aを有する。上記工具本体は、これ自身の外周筒31Bとこの筒内に嵌る中間筒35とこの中周筒内に嵌る内周筒37とが、上記軸線Lに同軸状に回転し且つ軸線方向に互いに移動可能に配置されている。
【0017】
上記工具連結部31Aは、上記外周筒31と中間筒35と内周筒37との後端にそれぞれ形成された複数(図示では4箇所、それ以上で以下でも良い)の工具連結部31K,35K,37Kで構成されている。この工具連結部31K,35K,37Kは、凹凸状に形成された工具側係合部となっている。上記複数の工具連結部31K,35K,37Kに対応する上記主軸保持部30A内には、上記工具連結部を挿入して係脱される複数(図示では4箇所、それ以上で以下でも良い)の工具連結辺50A,51A,52A、即ち凹凸状に形成された主軸側係合部を同軸状に配置された駆動外筒50,駆動中筒51,駆動内筒52の先端に備えている。上記工具連結部31K,35K,37Kには、径方向外側に窪んだ切欠部KOと径方向内側に向けて突出した係止爪部K1とが周方向に交互に配置され、上記工具連結辺50A,51A,52Aには、径方向外側に向けて突出した突出部K2と径方向内側に向けて窪んだ逃げ部K3とが周方向に交互に配置されている。そして、上記突出部K2と上記切欠部KOとの周方向位置が一致したとき、上記工具連結部31K,35K,37Kが上記工具連結辺50A,51A,52Aに挿入・排出可能となる。即ち、上記工具連結部と上記工具連結辺とは回転量規制手段80を介して主軸の一定角度回転する事で上記突出部K2と上記係止爪部K1とを係合させ、上記工具本体31が上記マシニングセンタの主軸保持部30Aに連結される。
【0018】
尚、上記工具連結部の内径方向へ突出した係止爪部K1と、上記主軸側係合部において、外径方向に向けて突出した突出部K2と、上記工具側係合部において、外径方向に窪んだ切欠部KOと、上記主軸側係合部において、内径方向に向けて窪んだ逃げ部K3とを、上記工具側係合部と上記主軸側係合部との間で入れ替えた逆の構成関係としてもよい。
【0019】
続いて、上記各周筒31B,35,37の後部と前部に設けた回転伝達手段80と主軸に対し工具軸心を案内する案内部47とを説明する。まず、回転伝達手段80は、主軸30に対する上記外周筒31Bと中間筒35と内周筒37との回転量を例えば45度に規制する。即ち、上記突出部K2と上記切欠部KOの溝の周方向位置を一致させまた、上記突出部K2と上記係止爪部K1とを係合させる位置に規制するもので、図6に示すように、ストップピンP1,P2と旋回許容溝M1,M2とからなる。尚、ストップピンP1,P2は、主軸30の前面に取り付けられ、旋回許容溝M1,M2は、外周筒31に設けられている。しかして、主軸30に対する外周筒31Bと中間筒35と内周筒37との周方向の相対回転量を回転角βに規制する。これにより、工具交換時には、主軸を45°回転・逆転させて主軸と工具本体との係脱を支配するとともに、主軸の回転時には回転トルクを複合加工工具100に伝達する。尚、上記回転伝達手段80における回転角の制御は、オリエンテーションの第2オリエンテーション機能「ACスピンドル」が使用されている。
【0020】
また、上記案内部47は、上記工具本体31の工具連結部31K,35K,37Kを、主軸の工具保持部50A,51A,52Aに対しその係合時、引掛らないように案内する。その構成は、図5に示すように、工具連結部31K,35K,37Kと工具保持部50A,51A,52Aとの係合する合口に斜面a,b を設けて両者の係合が円滑・容易に出来るようにしたものである。中間筒の移動量制限Xと内周筒の移動量制限Yの距離は工具連結部31K,35K,37Kと工具保持部50A,51A,52Aとの係合する合口に設けた斜面a、bの高さを越えない数値であって斜面が案内面として働く必要がある。これで、工具本体の軸方向長さと主軸の軸方向長さを高精度に加工することで、両者の軸方向隙間量を微小(約0.01mm)に規制させることで、外周筒31Bに対する中間筒35と内周筒37との軸方向移動量の工具連結部の追従精度が高くなり、刃先の切削送り速度がむらなく高精度に制御する事が出来る。
【0021】
また、上記工具本体31には、外周筒に対する中間筒と内周筒との軸方向Lの相対移動量を規制する移動量規制が、中間筒の移動量制限Xと内周筒の移動量制限Yの距離を確保するべく、各筒31B,35,37の先端部に設けている。その構成は図1に示すように、中間筒35の先端の部材35Eと内周筒37の先端の部材37Eとに一定の距離を設定している。以上の各構成手段により、リーマ「孔加工用切刃」40と切刃(バイト、座面加工切刃)Bとの軸線方向への2軸制御は、主軸30内の駆動中筒51,駆動内筒52を軸線L1の前後方向に位置移動を精密に制御することで、中間筒35と内周筒37及びこれらの先端の各切刃40,Bが別個に制御される。これでバルブシート及びバルブガイドに対する加工精度が得られる。
【0022】
本発明の複合加工工具100は、上記のように構成されており、以下のように作用・使用される。まず、マシニングセンタにおいては、主軸30先端の主軸保持部30Aに挿入して連結される複合加工工具100は、この工具自動交換操作時において、上記複合加工工具の工具連結部31A{31K,35K,37K}には、径方向外側に窪んだ切欠部KOと径方向内側に向けて突出した係止爪部K1とが周方向に交互に配置されており、上記主軸30の主軸保持部の工具連結辺50A,51A,52Aには、径方向外側に向けて突出した突出部K2と径方向内側に向けて窪んだ逃げ部K3とが周方向に交互に配置されているから複合加工工具の工具連結部31A{31K,35K,37K}を主軸保持部30Aに挿入前に上記突出部と上記切欠部との周方向位置を一致させる。これで、上記工具連結部31A{31K,35K,37K}が上記工具連結辺50A,51A,52Aに挿入可能となり、上記工具連結部を上記工具連結辺に対して相対的回転させて上記突出部と上記係止爪部とを係合する。この後、上記工具連結辺を主軸奥側へ引っ張ってクランプする。なお、専用工作機械において、自動操作のほか手動操作でも工具交換が容易に行われる。
【0023】
また、上記複合加工工具100を上記主軸30の主軸保持部30Aから外すときには、上記工具連結辺50A,51A,52Aを主軸側へ押し出してアンクランプする。この後に、上記工具連結部31A{31K,35K,37K}を上記工具連結辺50A,51A,52Aに対して相対的回転させて上記突出部K2と上記係止爪部K1とを外して係合を解く、これで、上記複合加工工具を上記主軸の主軸保持部から引き抜けられる。以上の工具交換操作により、上記複合加工工具100は、上記主軸30の主軸保持部に対して自動工具交換される。これにより、複合加工工具100はマシニングセンタの主軸保持部との自動着脱「自動工具交換」ができるし、専用工作機械においては、手動操作および自動操作による工具交換がワンタッチに行える。そして、シリンダヘッドに予め形成されたバルブシート及びバルブガイドに対する各切刃による仕上げ切削が2軸制御の元に各種寸法の加工が自動運転でき、その加工能率が高められる。
【0024】
また、上記工具本体100には、主軸保持部30Aに対する外周筒31Aと中間筒35と内周筒37との周方向の相対回転量を規制する回転伝達手段80を設けているから、複合加工工具の工具連結部と主軸の主軸保持部との係脱作用が的確に出来るとともに、主軸の回転力が外周筒と中間筒と内周筒とに伝達され、切削加工が確実に行われる。また、工具本体のK1部(又はK0部)の軸方向長さと主軸K3部(又はK2部)の軸方向長さを高精度に設定することで、軸方向隙間量を微小(約0.01mm)に規制できるから、外周筒31Bに対する中間筒35と内周筒37との軸方向移動量の工具連結部の追従精度が高く、刃先の切削送り速度がむらなく高精度に制御する事が出来る。
【0025】
実際の加工例で説明すると、通常のエンジンのシリンダヘッドCHにおけるバルブシートVS及びバルブガイドVGの切削加工時には、主軸内の軸線に沿って配置した駆動外筒体を進退駆動すると上記外筒体が進退移動し、工具ホルダの軸線に対して傾斜するスライド溝内に嵌るスライダを移動させることでバイトが内外径方向に移動してバルブシート面を切削する。また、主軸内の駆動外筒体内の駆動中筒体を進退駆動すると、上記工具ホルダ内の中筒体が軸線方向に進退移動し、この先端のチャック手段に取り付けたリーマがバルブガイド穴を切削加工する。このとき、離脱手段CO(回転量規制手段・移動量規制・案内部等からなる)には、結合による軸線方向のガタがなく高精度な切削加工と2軸制御が行われる。
【0026】
上記エンジンのシリンダヘッドCHにおけるバルブシート及びバルブガイドの切削加工例を、図7に示す。その数値は、バルブガイドVGの長さ37mm、リーマ40のストローク45mm、リーマガイド筒41の先端からのリーマ40の突き出し量43mm、リーマガイド筒41の先端とバルブガイドVGの先端との最接近時の隙間1.4mmである。勿論、上記数値に限定されず、各種タイプのシリンダヘッドにおけるバルブシート及びバルブガイドの切削加工が行える。
【0027】
本発明の複合加工工具100における実施の形態によると、下記の効果が奏される。通常のマシニングセンタと同様に、上記複合加工工具における各種寸法のものが自由に自動工具交換操作できる。また、回転伝達手段と移動量規制手段と案内部とにより、工具交換時の係脱精度が高められるとともに軸線方向のガタがなく、且つ2軸制御の元に高精度に各工具の位置決めができる。これにより、シリンダヘッドに予め形成されたバルブシートとバルブガイドとの仕上げ切削が高精度に加工でき、且つ各種寸法のバルブシートとバルブガイドが自動運転でき、その加工能率が高められる。
即ち、▲1▼複数種類の加工ワークとなる各種寸法のバルブシートとバルブガイドの切削加工ができること。▲2▼この工具によれば、従来の工具に比べて構成が合理的になっているから製造費も安く、規格の工具シャンク方式による自動若しくは手動工具交換方式であるから主軸への装着頻度が高くても装着精度が低下しない。▲3▼従来、自動工具交換が不可能であったが自動工具交換を可能とするとともに、バルブシートとバルブガイドとに対するリーマ加工工具とバルブシート加工工具とが別々の2軸制御で高精度にできる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、その対象物をエンジンのシリンダヘッドにおけるバルブシート及びバルブガイドを同時に切削する複合加工工具100としての使用例で説明したが、様々な用途の複合加工工具として適用が可能である。例えば、一般的なワークの表面を座面加工しその奥に通し孔を同時に加工する工具としても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】 本発明の第1の実施の形態を示し、複合加工工具の全体断面図である。
【図2】 本発明の第1の実施の形態を示し、複合加工工具の部分断面図である。
【図3】 本発明の第1の実施の形態を示し、複合加工工具の部分断面図である。
【図4】 本発明の第1の実施の形態を示し、複合加工工具の部分断面図ある。
【図5】 本発明の第1の実施の形態を示し、複合加工工具の部分断面図である。
【図6】 本発明の第1の実施の形態を示し、複合加工工具の部分断面図ある。
【図7】 本発明の第1の実施の形態を示し、複合加工工具の加工状態の断面図ある。
【符号の説明】
【0030】
30 主軸
30A 主軸保持部
31B 外周筒(工具本体)
31A 連結部
31K,35K,37K 工具連結部
33 スライド溝
35 中間筒
35E 部材
37E 部材
37 内周筒
37A 後端
40 リーマ
47 案内部
50A,51A,52A 工具保持部
50 駆動外筒,
51 駆動中筒
52 駆動内筒
80 回転伝達手段
90 移動量規制手段
100 複合加工工具
KO 切欠部
K1 係止爪部
K2 突出部
K3 逃げ部
a,b 斜面
B バイト・切刃
C チャック手段
CH シリンダヘッド
CO 離脱手段
L 軸線
L1 軸線
M1,M2 旋回許容溝
P1,P2 ストップピン
S スライダ
X 中間筒の移動量制限
Y 内周筒の移動量制限
VS バルブシート
VG バルブガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線で回転する工具本体は、外周筒に嵌る中間筒とこの中周筒内に嵌る内周筒とが軸線に同軸状に且つ軸線方向に互いに移動可能に備え、上記中周筒の先端外周に座面用切刃を備え内周筒の軸線先端に孔用切刃を備え、上記工具本体の後端側に工作機械の主軸保持部に係脱される工具連結部を備えた複合加工工具であって、上記工具連結部には上記外周筒と中間筒と内周筒との各筒後端にそれぞれ凹凸状に形成された複数の工具側係合部を備え、上記工具連結部に係脱する上記主軸保持部の工具連結辺には駆動外筒・駆動中筒・駆動内筒の先端に凹凸状に形成された主軸側係合部を備え、上記工具本体には、主軸保持部に対する外周筒と中間筒と内周筒相互の周方向の相対回転角を規制するとともに回転力を伝達する回転伝達手段と、中間筒の移動量制限Xと内周筒の移動量制限Yと、工具着脱時の案内部とを備え、上記工具側係合部と上記主軸側係合部との定められた回転角度位相差を生じさせて係合が外れた時、上記工具連結部が上記工具連結辺に係脱可能となり、上記工具連結部と上記工具連結辺とを相対的回転させて上記工具側係合部と主軸側係合部とを係合することにより、上記工具本体が上記工作機械の主軸保持部に連結されることを特徴とする複合加工工具。
【請求項2】
上記工作機械は、マシニングセンタまたは専用工作機械であることを特徴とする請求項1記載の複合加工工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−260887(P2007−260887A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118462(P2006−118462)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(592040619)株式会社ヤマザキ (10)
【Fターム(参考)】