説明

複合圧電基板および弾性表面波素子

【課題】熱による生じる反りが小さいとともに、温度変化に対して優れた周波数温度特性を有する複合圧電基板や、それを用いて作製された弾性表面波素子を提供する。
【解決手段】少なくとも、圧電基板11と剛体板12が接着層13を介して貼り合わされた複合圧電基板10であって、前記接着層13が、光硬化性ではなく室温で硬化する接着剤からなるものである複合圧電基板10。またこのような複合圧電基板10を切断したものを用いて作製されたものである弾性表面波素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合圧電基板および弾性表面波素子に関するものであり、特に弾性表面波素子等に用いられる複合圧電基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の通信機器には、弾性表面波を利用したフィルタや共振器といった弾性表面波素子が用いられている。
そして、近年の携帯電話等の高性能化に伴い、弾性表面波素子にも高い性能が求められるようになっている。
【0003】
すなわち、大きな電気機械結合係数および小さな周波数温度特性を有することが望まれている。ここで、電気機械結合係数とは電気信号から機械的振動への変換効率であり、この値が大きいほど低損失、広帯域のフィルタを実現できる。また、周波数温度特性とは温度変化に伴うフィルタの中心周波数の変動のことであり、通過帯域が移動してしまわないよう小さな周波数温度特性を持つことが要求される。
上述のような特性を実現する圧電基板として、圧電基板と他の基板を接合した複合圧電基板がある。
【0004】
このような圧電基板と他の基板(剛体板)の接合には、通常接着剤が用いられる。そして、スピンコータなどを利用して圧電基板または剛体板、あるいはその両方に接着剤を均一に塗布した後に圧電基板と剛体板を貼り合わせて接着する。充分に接着させることで目的の複合圧電基板を得ることができる。
このような複合圧電基板から切り出したチップ状部材を用いる弾性表面波素子は、剛体板が圧電基板の熱膨張による周波数変動を抑えることができ、良好な温度特性を実現できるという利点がある。
【0005】
ここで、このとき使われる接着剤として、熱硬化型の接着剤や紫外線硬化型の接着剤が用いられている(例えば特許文献1参照)。
熱硬化型の接着剤は、接着剤を100℃程度に加熱して硬化させることにより圧電基板と剛体板を接着するものである。このため、比較的容易に接合することができる。ただし、圧電基板と剛体板では熱膨張係数が異なるため、たとえ接着剤が硬化する100℃では反りがなくても、室温に戻すときに反りが生じてしまうという大きな問題があった。
また、紫外線硬化型の接着剤は、室温で仮硬化できるという利点がある。しかし、反応硬化剤として塩を用いるため、硬化後の接着剤が耐湿性に劣るという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−340777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、熱により生じる反りが小さいとともに、温度変化に対して優れた周波数温度特性を有する複合圧電基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、少なくとも、圧電基板と剛体板が接着層を介して貼り合わされた複合圧電基板であって、前記接着層が、光硬化性ではなく室温で硬化する接着剤からなるものであることを特徴とする複合圧電基板を提供する。
【0009】
このように、圧電基板と剛体板を貼り合わせる接着剤が、光硬化性ではなく、室温で硬化するものであれば、熱の影響を受けずに圧電基板と剛体板とが接着されたものとすることができる。よって、熱硬化型の接着剤を用いた時のように、硬化の際の加熱温度では反りが小さいが室温での反りが大きい、という問題がない反りが小さな複合圧電基板となっている。
また、紫外線硬化型の接着剤のように、反応硬化剤として塩を用いたものではないため、耐湿性が低いものとはならず、耐湿性の高い複合圧電基板となっている。
更に、反りの小さな複合圧電基板とすることができ、温度変化に対して優れた周波数温度特性を有するものとなる。
【0010】
ここで、前記接着層が、二液混合型のエポキシ樹脂が硬化したものであることが好ましい。
このように、接着層が、耐久性に優れたエポキシ樹脂であれば、耐久性も良好なものとすることができる。また、二液混合型のエポキシ樹脂が硬化したものであれば、容易に室温で硬化させたものとして都合が良く、安価なものとすることができる。
【0011】
また、前記圧電基板が、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムからなるものであることが好ましい。
このように、圧電基板が、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムからなるものとすることによって、電気機械結合係数が大きく、また複合圧電基板の効果により動作周波数の温度変動が抑制された安価な複合圧電基板を提供することができる。
【0012】
そして、前記剛体板が、サファイア、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、シリコン、炭化珪素、窒化珪素からなる群のうち少なくとも一つを主成分とするものであることが好ましい。
このように、剛体板が、上述のようなものが主成分であるものとすることによって、接着層を介して圧電基板を必要十分に支持することができ、反りの小さな複合圧電基板とするのに非常に都合がよい。
【0013】
更に、前記接着層は、厚さが1〜10μmであることが好ましい。
このように、接着層の厚さが1μm以上であれば、充分な接着強度を得ることができる。また10μm以下であれば、厚い接着層が歪みを吸収することによって本発明が目的とする剛性板との複合による周波数温度特性の改善効果が小さくなることを防止することができる。
【0014】
また、前記圧電基板は、厚さが10〜50μmであることが好ましい。
このように、圧電基板の厚さが10μm以上であれば、弾性表面波素子の伝搬ロスが大きくなることを抑制することができる。また、50μm以下であれば、温度特性の改善効果が小さくなることを防止することができる。
【0015】
そして、前記剛体板は、厚さが100〜300μmであることが好ましい。
このように、剛体板の厚さが100μm以上であれば、圧電基板の熱膨張を抑制するという剛体板の役割をしっかりと果たさせることができる。また、300μm以下であれば、コストアップとなることを防止でき、更に近年求められているデバイスの低背化に逆行することも防止することができる。
【0016】
更に、前記複合圧電基板は、反りが室温において100μm以下であることが好ましい。
このように、複合圧電基板の反りが室温において100μm以下であれば、基板加工装置の搬送系にてエラー発生頻度が高くなることを防止できる。同時にこの反りを無理に抑える必要が無く、基板に応力が発生してクラックを生じる危険性を極力低いものとすることができる。
【0017】
また、本発明では、本発明に記載の複合圧電基板を切断したものを用いて作製されたものであることを特徴とする弾性表面波素子を提供する。
上述のように、本発明の複合圧電基板は、室温において反りが小さく、また良好な温度特性を有しており、更に耐湿性が高いものである。このため、これを切断したものを用いて作製された弾性表面波素子は、温度特性や耐湿特性に優れたものとなっている。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の複合圧電基板は、圧電基板と剛体板が室温硬化型の接着剤により接合されたものとなっているため、熱の影響を受けずに接合されたものとでき、反りが小さく、温度特性に優れた複合圧電素子となる。また耐湿性にも優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の複合圧電基板の概略の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、安定した周波数温度特性および電気機械結合係数をもつ弾性表面波素子の開発が待たれていた。
【0021】
そこで本発明者らは、弾性表面波素子の性能を劣化させる接着層に着目し、圧電基板と剛体板の形状に影響を及ぼす接着層に用いる接着剤に関して様々な調査・実験を行った。
【0022】
その結果、圧電基板と剛体板について反りがほとんどみられないものを準備しても、従来用いられていた熱硬化型のエポキシ樹脂を用いて貼り合わせると、接着剤が硬化する温度が室温より高いため、室温に戻す段階で圧電基板と剛体板の内部に歪みが内在してしまい、この結果、各々のサイズが4インチウェーハの貼り合わせ複合圧電基板で100μmを超える反りが発生してしまうことが分かった。
この反りについては、圧電基板と剛体板との熱膨張率の差に基づく本質的なものであり、接着剤が高温で反応し、圧電基板と剛体板を接合する限り避けることは出来ないものである。
【0023】
この課題を解決するために、本発明者らは圧電基板と剛体板の貼り合わせ工程での形状変化を鋭意検討した結果、接着剤として室温硬化型のものを使う方法を考案した。
このような室温硬化型の接着剤を用いたものとすることで、製造時間が従来と比較して長くなる。しかし光学特性や耐久性、歩留りを従来に比較して大幅に向上させることができ、作業時間の長時間化の不利益を上回り、反りが小さく、安定した特性を有する複合圧電基板を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は、本発明の複合圧電基板の概略の一例を示した図である。
本発明の複合圧電基板10は、少なくとも、圧電基板11と剛体板12が接着層13を介して貼り合わされたものであって、この接着層13が、光硬化性ではなく室温で硬化する接着剤からなるものである。
【0025】
このように、室温硬化型の接着剤が用いられたものとすることで、熱の影響を受けずに圧電基板と剛体板が接合されたものとなり、反りが小さな複合圧電基板となる。
すなわち、熱硬化型の接着剤によって接着された時のような硬化の際の加熱温度では反りが小さいが、室温では反りが大きい、との問題もなく、また光硬化型(主に紫外線硬化型)の接着剤によって接着された時のような反応硬化剤として塩を用いたものではないため、耐湿性が劣るとの問題もない複合圧電基板となっている。
従って、反りの小さな複合圧電基板とすることができ、周波数温度特性の優れた弾性表面波素子の製造に好適なものとなる。
【0026】
ここで、複合圧電基板10は、その反りが室温において100μm以下とすることができる。
できあがった複合圧電基板の反りが、室温において100μm以下であれば、複合圧電基板を加工する際の搬送において、反りによって発生する搬送エラーの発生頻度を低いものとすることができる。また、反りが小さいため、反りを無理に抑える必要が無い。従って反りを抑制するための応力を基板に加える必要がなく、品質特性も良好な上にクラックを生じる危険を極力低くすることができ、歩留りの向上に寄与することができる。
【0027】
また、圧電基板11は、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムからなるものとすることができる。
圧電基板が、上述のような材料からなるものであれば、これらは電気機械結合係数が大きい結晶材料なので、周波数選択フィルタとしての帯域幅が広く、また挿入損失が小さく、更に動作周波数の温度変動が抑制されたSAWデバイスが製造可能な複合圧電基板に好適である。
【0028】
そして、圧電基板11は、厚さが10〜50μmとすることができる。
このように、圧電基板の厚さを10μm以上とすることによって、弾性表面波素子とした際に、伝搬ロスが大きくなることを抑制することができる。また、厚さを50μm以下とすることによって、厚くなることによって温度特性の改善効果が小さくなることを防止できる。すなわち、耐熱性にも優れた耐湿性の高い複合圧電基板とすることができる。
【0029】
更に、剛体板12は、サファイア、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、シリコン、炭化珪素、窒化珪素からなる群のうち少なくとも一つを主成分とするものとすることができる。
このように、剛体板の主成分を、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、シリコン、炭化珪素、窒化珪素からなる群のうち少なくとも一つとすることによって、容易に準備することができ、安価な複合圧電基板とすることに都合が良い。また、接着層を介して圧電基板を必要十分に支持することができ、反りの小さな複合圧電基板とするのに非常に都合がよい。
またサファイアは、ヤング率及び線膨張係数が十分に小さいため、これを圧電基板に接合することで、圧電基板の熱膨張を強く抑制することが可能となる。
従って、弾性表面波デバイスの周波数温度特性を安定化させることができる。
【0030】
また、剛体板12は、厚さが100〜300μmとすることができる。
このように、剛体板の厚さを100μm以上とすることによって、圧電基板の熱膨張を強く抑制することができ、その機能が十分に働くことになる。また、300μm以下とすることによって、コストが必要以上にアップすることを防止でき、更にデバイスの低背化に沿うものとすることができる。
【0031】
そして、この室温硬化型の接着層13としては、耐久性が高いエポキシ樹脂が硬化したものとすることが好ましい。また、このエポキシ樹脂としては、室温で硬化させるためには主材と硬化剤が別々となっている二液混合型がよい。
接着層を、二液混合型のエポキシ樹脂が硬化したものとすることによって、耐久性に優れ、かつ容易に室温で硬化させたものとでき、安価な複合圧電基板とすることができる。
【0032】
なお、エポキシ樹脂として、光硬化型、特に紫外線硬化型のエポキシ樹脂を用いると、反応開始剤として、ジフェニルヨードニウムヘキサフロロホスフェートやトリフェニルスルホニウムヘキサフロロホスフェートといった紫外線で分解する塩が使われている。この場合、このような塩自体の残留物や反応生成物の末端も電荷があることによって、水との親和性が強いという性質を有することになる。このように、紫外線硬化型のエポキシ樹脂を接着層に用いると耐湿性に劣るという欠点があるため、光硬化型のエポキシ樹脂は本発明では除外する。
また、熱硬化型の接着剤も、硬化のための加熱時においては反りを小さくできるものの、室温では反りを小さくできない、との問題があるため、除外する。
【0033】
更に、この接着層13は、厚さが1〜10μmとすることができる。
このように、接着層の厚さを1μm以上とすることによって、充分な接着強度を得ることができる。また10μm以下とすることによって、厚い接着層で歪みが吸収されることを抑制でき、剛性板と複合することによる周波数温度特性の改善効果が小さくなることが防止できる。
【0034】
そして、このような複合圧電基板を切断したものを用いて作製されたものであることを特徴とする弾性表面波素子は、反りが小さく、耐熱性・耐湿性に優れたものであるから、この複合圧電基板をチップ状に切り出して作製した弾性表面波素子も、耐熱性・耐湿性に優れ、安定した温度・電気特性を有するものとなっている。
【0035】
上記のような、本発明の複合圧電基板は、以下に示すような製造方法によって製造することができる。しかしもちろんこれに限定されるものではない。
【0036】
まず、少なくとも、圧電基板と剛体板を準備する。
この準備する圧電基板と剛体板は、所望の物性値を有するものを準備することができるが、圧電基板は、厚さが10〜50μmの範囲のものとすることができ、材質はタンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムからなるものとすることができる。また剛体板は、厚さが100〜300μmの範囲のものとすることができ、材質はサファイア、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、シリコン、炭化珪素、窒化珪素からなる群のうち少なくとも一つを主成分とするものとすることができる。
【0037】
そして、準備した圧電基板と剛体板の少なくとも一方の主表面に、光硬化性ではなく室温硬化型の接着剤を塗布する。
この室温硬化型の接着剤は、室温で硬化するものであれば特に限定されないが、例えば二液混合型のエポキシ樹脂とすることができる。
またその塗布方法も一般的な方法を用いることができるが、例えばスピンコーティング等がある。
そして接着後の接着層の厚さが1〜10μmの範囲となるようにすることができる。
【0038】
なお、この圧電基板と剛体板との貼付けに使うエポキシ樹脂としては、硬化剤としてアミン化合物を含有した低粘度の二液性エポキシ樹脂が適していることが判った。
具体的には、二液性エポキシ樹脂としては市販のエポキシ樹脂組成物でよく、例えばテスク社製C−1037A/BやC−1001A/B等を用いればよい。
テスク社製C−1037A/Bを10:3の比で混合し、剛体板上に垂らすと、混合物が低粘度であるため自然に剛体板上に広がる。より望ましくは、スピンコータを用いて塗布することができる。
【0039】
その後、先に塗布した接着剤を介して、圧電基板と剛体板を貼り合わせて、貼り合わせた基板とする。
【0040】
そして、先に貼り合わせた基板を軽く押さえることで余分な接着剤を取り除くことができ、室温で一昼夜放置して硬化させる。
このように、室温硬化型の接着剤を用いることによって、接着剤を常温で硬化させることができ、従来のように熱硬化型接着剤を用いた場合に発生する硬化の際の加熱温度では反りが小さいが、室温では反りが大きいとの問題や、光硬化型接着剤を用いた場合に発生する耐湿性が劣るとの問題の発生を防止することができ、反りが小さく、かつ温度変化に対する周波数温度特性が良好な複合圧電基板を歩留り良く製造することが可能となる。
【0041】
その後、貼り合わせた基板の主に圧電基板側を所望の厚さまで研削することができる。これは一般的な方法で行うことができ、これによって反りが小さく、温度特性に優れた複合圧電基板を製造することができる。
なお、本例示では、圧電基板として厚さが50μmのウェーハを用いたが、より厚いウェーハを剛体板と接合した後に、圧電基板に研削・研磨加工を施して10〜50μmとしても良い。
【0042】
そして、製造された複合圧電基板に対して切断作業を行ってチップ化等の工程を行うことによって、弾性表面波素子を製造することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜5、比較例1〜3)
まず、圧電基板としてタンタル酸リチウム(LT)ウェーハ、剛体板としてアルミナウェーハを各々8枚準備した。タンタル酸リチウムウェーハは直径4インチ(100mm)×50μm厚のウェーハとし、アルミナウェーハは直径4インチ(100mm)×250μm厚のウェーハとした。
【0044】
そして、実施例1〜5では、接着剤に室温硬化型のエポキシ樹脂として、テスク社製C−1037A/Bを使用した。
より具体的には、A液を10g、B液を3g秤量し、混合後、遠心脱泡機で脱泡した。この脱泡したエポキシ樹脂をアルミナウェーハ上にたらし、その上にタンタル酸リチウムウェーハを載せて軽く押さえることで余分な接着剤を取り除き、室温で一昼夜放置して硬化させた。その後、この複合圧電基板について、反りと厚さの測定を行った。
なお、反りの測定はトロペル社製FlatMaster200にて行った。厚さ測定は、ウェーハ中心を東京精密社製ウェーハ厚さ測定器MINIAXにより測定した。
【0045】
また、比較例1,2では、接着剤に熱硬化型の二液性エポキシ樹脂を用いた。
より具体的には、硬化液と樹脂とを1:1の比で混合し、遠心脱泡して、アルミナウェーハ上にたらし、その上にタンタル酸リチウムウェーハを載せて軽く押さえて余分な接着剤を取り除き、100℃のオーブン内で30分加熱することで接着剤を硬化させて貼り合わせた。この複合圧電基板について、反りと厚さの測定を行った。
【0046】
更に、比較例3では、接着剤に紫外線硬化型のエポキシ樹脂を用いた。
より具体的には、紫外線硬化型のエポキシ樹脂をアルミナウェーハ上に垂らし、その上にタンタル酸リチウムウェーハを載せて軽く押さえて余分な接着剤を取り除き、紫外線ランプにより接着剤を硬化させて貼り合わせた。そして、この複合圧電基板について反りと厚さの測定を行った。
【0047】
表1に実施例1〜5、比較例1〜3の接着剤厚み、接合後の基板の反り、接合前の基板の反りを示した。
また、貼り合わせ後の各々の複合圧電基板を、信頼性試験として(−40℃〜125℃)×100回のヒートサイクル試験、および85℃、85%RHの高温高湿試験を行い、試験後の複合圧電基板の状態を観察し、表1に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示したとおり、実施例1〜5の複合圧電基板は、接合後の基板の反りは何れも100μm以下であったのに対し、熱硬化型の接着剤を用いた比較例1、2では、反りが100μm以上となった。特に比較例2の基板は、信頼性試験後にLT面側にクラックが数カ所生じていた。
【0050】
また、紫外線硬化型の接着剤を用いた比較例3では、反りは88μmとさほど大きくなかったが、信頼性試験後に、接合面のほぼ全面にハガレが生じていた。これに対し、室温硬化型の接着剤を用いた実施例の場合、接着層の厚さの薄い実施例1のみ接合面に一部ハガレが見られたが、これは、外周部の一部のみであり、耐湿性に殆ど問題はなかった。また実施例2〜5の基板では、信頼性試験後であっても接合面にハガレは見られず、耐湿性にも優れていることが判った。
【0051】
以上の結果より、室温硬化型の接着剤が熱硬化型の接着剤よりも接合後の基板の反りを小さく抑える効果があることが判った。
これは熱硬化型の接着剤を用いる場合、圧電基板と剛体板を貼り合わせた後に加熱して接着剤を硬化させなければならないため、接着剤の硬化温度と室温との温度差により貼り合わせた基板が反ってしまうのに対し、室温硬化型の接着剤を用いる場合には、接着剤の硬化温度と室温との温度差がないためである。
【0052】
また、紫外線硬化型の接着剤を用いる場合、接着剤の硬化温度を低く抑えることができるため、接着剤の硬化温度と室温との温度差を熱硬化型の場合に比べて小さくでき、生じる反りを抑制できることができた。
しかしながら、上述の信頼性試験を行った際に、接着面からハガレが生じてしまった。これは、紫外線硬化型の接着剤の硬化剤に塩が含まれるため、耐湿性に劣るためである。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0054】
10…複合圧電基板、 11…圧電基板、 12…剛体板、 13…接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、圧電基板と剛体板が接着層を介して貼り合わされた複合圧電基板であって、
前記接着層が、光硬化性ではなく室温で硬化する接着剤からなるものであることを特徴とする複合圧電基板。
【請求項2】
前記接着層が、二液混合型のエポキシ樹脂が硬化したものであることを特徴とする請求項1に記載の複合圧電基板。
【請求項3】
前記圧電基板が、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムからなるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複合圧電基板。
【請求項4】
前記剛体板が、サファイア、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、シリコン、炭化珪素、窒化珪素からなる群のうち少なくとも一つを主成分とするものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の複合圧電基板。
【請求項5】
前記接着層は、厚さが1〜10μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合圧電基板。
【請求項6】
前記圧電基板は、厚さが10〜50μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の複合圧電基板。
【請求項7】
前記剛体板は、厚さが100〜300μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の複合圧電基板。
【請求項8】
前記複合圧電基板は、反りが室温において100μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の複合圧電基板。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の複合圧電基板を切断したものを用いて作製されたものであることを特徴とする弾性表面波素子。

【図1】
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