説明

複合型撹拌槽における流体の流動状態の解析方法

【課題】高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機を備える複合型撹拌槽の流体解析を短時間で精度よく実行できる方法を提供する。
【解決手段】高速回転型撹拌機(ホモミクサー6)と低速回転型撹拌機(回転パドル7)とを備えた複合型撹拌槽1における流体の流動状態の解析方法であって、まず、高速回転型撹拌機6の駆動による流動状態を定常解析し、次に、その解析結果を境界条件として、低速回転型撹拌機7の駆動による流動状態を定常解析することにより、高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機を同時に駆動させたときの流動状態を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機とを備えた複合型撹拌槽における流体の流動状態の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
撹拌槽の流体解析では、通常、撹拌翼等の回転物体の周りの領域(回転領域)と静止領域とを分けて定義し、回転領域では計算メッシュを回転物体とともに移動させるという方法がとられる。その際、領域間のメッシュを再作成したり、あるいは領域間にインターフェース面を定義したりすることで、領域間で流速や圧力といった物理量がやり取りされる。(非特許文献1、3)
【0003】
この方法は回転物体を含む流動場の計算方法として厳密性が高いが、メッシュを経時的に移動させるために必然的に非定常解析となる。非定常解析では小さな時間ステップに分けて流体解析を行う。この時間ステップは、回転物体の回転速度に対応する時間スケールに比べて十分小さく取る必要があるため、アヂホモミクサーのように高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機を備える複合型撹拌槽では高速回転型撹拌機に対応して非常に小さい時間ステップを取ることが必要となる。一方、低速回転型撹拌機が存在するため、実現象として流れが安定するまでに時間を要する。そのため、複合型撹拌槽の非定常解析には、非常に小さい時間ステップで長い時間を解析しなくてはならないという問題がある。
【0004】
非定常解析での流体解析の時間短縮のため、特許文献1では連続方程式とナビエ-ストークス方程式を同時に連立することで時間ステップを大きく取れるようにして計算時間の短縮を図っている。しかしながら、この方法でも時間ステップを回転物体固有の時間スケールより短くすることはできず、複合型撹拌槽の流体解析には不十分である。
【0005】
また、特許文献2では時間積分に陽解法を用いることで計算時間の短縮を図っている。陽解法は通常用いられる陰解法に比べ、各時間ステップに要する計算時間は短くなるが、陽解法特有の非物理的な数値振動が現れないように時間ステップを非常に小さくすることが要求される。特許文献2では数値振動を抑えるために減衰項を導入しているが、この手法が、本来得られるべき解に影響しないことを保証するのは容易でない。
【0006】
他にも非定常解析での流体解析の高速化の工夫はあるが、複合型撹拌槽の解析では高速回転型撹拌機に対応して時間ステップの大きさの上限が定まってしまうため、非定常解析を採用する限り計算時間の顕著な改善は望めない。
【0007】
一方、実用的には時間平均的な流動場が分かれば十分な場合が多い。実際、非定常に流体解析をした場合であっても、流動場の特徴を理解するために時間平均を取ってデータを整理することも多い。
【0008】
撹拌槽の流体解析を定常解析で行う従来例において、撹拌機が一つだけ組み込まれた撹拌槽を考える場合に、撹拌機を除いた槽の形状が回転対称のときには、撹拌機の回転に合わせた回転座標系で運動方程式を立てることで、回転座標系における定常解として厳密な流動場を得ることができる。この手法は、例えば商用流体解析ソフトであるFLUENTでは単一基準座標モデルと呼ばれている。なお、この手法で得られる解は、静止座標系から見ると撹拌機の回転に伴って時間周期的に変動する解になっている(非特許文献2)。
【0009】
しかしながら、撹拌槽に例えばバッフル(邪魔板)などが存在する場合、槽の形状は回転対称でなく、従って単一基準座標モデルを適用することはできない。
【0010】
これに対し、領域を回転領域と静止領域に分けた場合に、その間で流れが十分混合していると見なせるときには、近似的に時間平均的な流動場を得る手法がある。この手法は、回転領域と静止領域で別々の座標系を定義し、領域間で物理量の連続性を保証して定常解析する手法であり、FLUENTでは複数基準座標モデルと呼ばれている(非特許文献2)。
【0011】
高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機を備える複合型撹拌槽でも、回転速度の異なる二つの座標系を定義することはできる。そこで、複合型撹拌槽の流体解析においても複数基準座標モデルを適用することが考えられる。しかしながら、複合型撹拌槽では、高速回転型撹拌機に対応する流動場と低速回転型撹拌機に対応する流動場との流れの相互作用が強いため、複数基準座標モデルでは適切な解を得ることができない。
【0012】
【特許文献1】特開平3-229156号公報
【特許文献2】特開2001-34605号公報
【非特許文献1】化学工学会編 最近の化学工学57(化学工業社,2007)
【非特許文献2】FLUENT 6.3 User’s Guide (10章)
【非特許文献3】FLUENT 6.3 User’s Guide (11章)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、アヂホモミクサーのような高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機を備える複合型撹拌槽では、短時間に流体解析を行うことが困難であり、流動状態をシミュレーションすることがなされていない。
【0014】
そこで、本発明は、複合型撹拌槽の流体解析を短時間で精度よく実行し、流動状態のシミュレーションを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機を備えた複合型撹拌槽では、高速回転型撹拌機の駆動による流体の流動速度は非常に大きく、低速回転型撹拌機の駆動による流動場にほとんど影響されないこと、これに対し、低速回転型撹拌機の駆動による流体の流動速度は高速回転型撹拌機の駆動による流動場に大きく影響されること、したがって、最初に高速回転型撹拌機の駆動による流動場を定常解析し、得られた流動状態を境界条件として低速回転型撹拌機の駆動による流動場を定常解析することにより、複合型撹拌槽全体の時間平均的な流動状態を精度よく短時間に求められることを見出した。
【0016】
即ち、本発明は、高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機とを備えた複合型撹拌槽における流体の流動状態の解析方法であって、まず、高速回転型撹拌機の駆動による流動状態を定常解析し、次に、その解析結果を境界条件として、低速回転型撹拌機の駆動による流動状態を定常解析することにより、高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機を同時に駆動させたときの流動状態を解析する方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機を備えた複合型撹拌槽の流動状態を短時間で精度よく解析することができる。したがって、複合型撹拌槽において流体のパス回数(流体が高速回転型撹拌機を通過する回数)、混合時間、温度分布等を評価する上で必要となる速度分布、圧力分布等を、本発明によれば短時間で算出することが可能となり、流動状態のシミュレーションをすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0019】
図1は、本発明の一実施例で解析対象とする複合型撹拌槽1の模式図である。この複合型撹拌槽1は、プライミクス株式会社のアヂホモミクサーをモデルとしたもので、槽本体2の中央に位置するシャフト3の下部にタービン4が設けられ、その周囲を円筒状の固定部材である固定環5が囲んでいる。この固定環5は、一般的にステーターと称されており、タービン4とステーター5とで、ホモミクサーと称される高速回転型撹拌機6を構成している。また、槽本体2内では回転パドル7がフレーム(図示せず)に取り付けられ、低速回転型撹拌機を構成している。なお、一般に使用されているアヂホモミクサーでは、混合性を向上させる静止パドルあるいは逆回転パドル(回転パドル7と逆方向に回転するパドル)や、伝熱効率を向上させるスクレーパーが存在するが、図1の複合型撹拌槽1では、これらを省略している。
【0020】
タービン4は、通常1000rpm以上で高速に回転し、ホモミクサー6内部では強力な剪断力により乳化、分散を促進する。また、タービン4がステーター5で囲まれていることにより、ホモミクサー6の外部に矢印Aのように強い吐出流が生じるので、ホモミクサー6はポンプの機能も併せ持ち、槽内全体の混合に寄与する。
【0021】
一方、回転パドル7は200rpm以下、通常20〜120rpm程度で回転して矢印Bに示すように周方向下向きの流れを起こし、槽全体の混合に寄与する。
【0022】
この複合型撹拌槽1では、ホモミクサー6(高速回転型撹拌機)で生じる流動の速度は非常に大きく、回転パドル7(低速回転型撹拌機)による流動にほとんど影響されない。即ち、流動への影響は、高速回転型撹拌機から低速回転型撹拌機へ一方向的に及ぶ。
【0023】
そこで、本実施例では、図2(a)に示すように、まず、ホモミクサー6で生じる流動場を定常解析し、次に図2(b)に示すように、得られた流動状態を境界条件として回転パドル7を考慮したモデルに適用する。この場合、ホモミクサー6の形状は、その内部構造は無視して単なる円筒形として扱い、円筒の上面6aと下面6bの開口部にあたる位置で境界条件を与える。このように境界条件を与えることにより、回転パドル7で生じる流動場の解析も定常解析とすることができる。
【0024】
図2(b)に適用する境界条件の設定態様としては、流体領域の回転軸と回転速度、および壁面(例えば槽壁など)の回転速度といった撹拌槽の流体解析で通常与える境界条件に加え、槽(即ち、槽本体2からホモミクサー6を除外した部分)への流入境界条件を速度で与え(速度境界条件)、槽からの流出境界条件を圧力で与えること(圧力境界条件)が好ましい。流体解析では多くの場合、圧力は差圧のみが重要であるため、圧力境界条件において与える圧力の値は0としてよい。
【0025】
また、図2(a)におけるホモミクサー6で生じる流動場の定常解析と、図2(b)における回転パドル7で生じる流動場の定常解析は、それぞれ従来の定常解析の手法により行うことができ、例えば、単一基準座標モデル、複数基準座標モデル等を使用することができる。
【0026】
単一基準座標モデルによる流体解析の手法を、図3を用いて説明する。図3は、図2(b)の複合型撹拌槽1のモデルのホモミクサー6の位置での横断面の模式図である。図中、中央の円がホモミクサー6を表し、ホモミクサー6を中心に2枚の回転パドル7が設けられている。いま、ホモミクサー6内のタービンは考えず、すなわち、ホモミクサー6は内部構造のない単なる静止した円筒とする。外側の円は槽本体2の槽壁2aで内部の格子は模式的に計算メッシュを表したものである。
【0027】
流体解析の基本方程式は連続方程式とナビエ−ストークス方程式であり、静止座標系ではそれぞれ、
【0028】
【数1】

と表される。ここで、t は時間、ρは流体の密度、v は速度ベクトル、p は圧力、F は重力などの体積力ベクトルである。また、τは粘性応力テンソルで、粘度μを用いて
【0029】
【数2】

と表される。
【0030】
いま、回転パドル7による流体の矢印方向の回転に合わせて回転する座標系(回転座標系)を考える。回転座標系から見ると回転パドル7は静止しており、槽壁2aが逆方向に回転することになる。静止座標系から見た速度 v に対し、回転座標系から見た速度 vr
【0031】
【数3】

と表される。ここで、Ωは角速度ベクトルで、r は位置ベクトルである。角速度ベクトルΩの向きは、図3のような回転の向きの場合、シャフト3に沿って下向き、大きさは回転座標系の角速度(すなわち静止座標系から見た回転パドル7の角速度)である。
【0032】
回転座標系では、連続方程式とナビエ−ストークス方程式は、
【0033】
【数4】

となる。
【0034】
図3では回転座標系に対して相対運動するのは槽壁2aとホモミクサー6だけで、回転対称形状である。このような場合、流動場は回転座標系から見て厳密に定常状態となる。従って、式(4)、(5)において左辺第1項の時間微分項を落とすことができ、時間定常解として一組の収束解 p, vr が得られればよい。このため計算時間は大幅に短縮される。
【0035】
図4は、上述の複合型撹拌槽1を複数基準座標モデルで定常解析を行う場合の概念図である。同図の槽壁2a内にもホモミクサー6と回転パドル7が表されているが、今度はホモミクサー6内にタービンがあり、タービンの回転も考慮した解析を行うとする(図4の模式図ではタービンの形状とホモミクサー内のメッシュの記載を省略)。回転パドル7は、ホモミクサー6内のタービンとともに回転する座標系から見ると異なる速度で回転し、なおかつ回転パドル7は回転対称形状ではない。従って、単一基準座標モデルで解くことができない。そこで、領域をホモミクサー6周りと回転パドル7周りの二つに分け、領域1を高速に回転する座標系で、領域2を低速に回転する座標系で記述し、領域間で物理量の連続性を保証することで近似的に定常解を得る。この方法は、二つの領域の間で流れの相互作用が弱いことが前提となる。しかしながら、ホモミクサー6(あるいはタービン)と回転パドル7との相互作用は強いので、この方法では適切な定常解を得ることは困難である。したがって、本発明の複合型撹拌槽1の解析方法では、厳密な手法で、得られる解の信頼性が高い点から、通常は複合型撹拌槽の形状の特徴を損なわない程度に簡略化して単一基準座標モデルを使用することが好ましく、必要に応じて非定常解析を用いる。
【0036】
例えば、図2(b)の解析において回転パドル7に加えて静止パドル(あるいは逆回転パドル)を解析形状に含め、回転パドル7と静止パドル(あるいは逆回転パドル)との間の相互作用を知りたい場合、複数基準座標モデルを使用することができる。さらに、その相互作用について、より詳細に非定常の状態を知りたい場合には、定常解析の代わりに、以下に説明する非定常解析を用いても良い。
【0037】
図5は、高速回転領域と低速回転領域を分けた非定常解析の概念図である。ホモミクサー6周りの領域の計算メッシュはホモミクサー6内のタービンと共に移動する高速回転領域であり、回転パドル7周りの領域の計算メッシュは回転パドル7と共に移動する低速回転領域である。この例では高速回転領域と低速回転領域の計算メッシュは、領域間で不連続である。そこで、商用流体解析ソフトのFLUENT等に従って領域間にインターフェース面を定義することで、流速や圧力といった物理量をやり取りする。
【0038】
本発明の解析方法は、高速回転型撹拌機としてホモミクサー(ホモミキサー)、ディスパーミキサー等を使用し、低速回転型撹拌機としてパドル翼、アンカー翼等を使用する場合に適用することができ、これらを任意の個数で組み合わせた複合型撹拌槽における流体解析に広く適用することができる。特に、本発明は、流動の相互作用が主に高速回転型撹拌機による流動から低速回転型撹拌機による流動へ一方向的であることを利用する観点から、高速回転型撹拌機の回転数は1000rpm以上、低速回転型撹拌機の回転数は200rpm以下のものに好ましく適用することができる。
【0039】
高速回転型撹拌機がホモミクサーのようにステーターで囲われている場合、ホモミクサー内部の流動は外から影響を受けにくいため、さらに好適に本発明を適用できる。また、ホモミクサーでは流体の吐出部、流入部がステーターの開口部の形状で決まるため、境界条件が設定しやすいという利点も有する。
【実施例】
【0040】
以下、典型的な計算例により本発明を具体的に説明する。
【0041】
図1の複合型撹拌槽のモデルにおいて、流体として粘度1Pa・s、密度1000kg/mのニュートン流体を想定し、以下の操作条件のもと、実施例の解析方法及び比較例の移動メッシュによる非定常解析方法にしたがい、次の(1)〜(3)の解析を行った。
【0042】
この場合、実施例の解析方法では、回転パドルによる流動場の解析の境界条件として、槽への流入条件(すなわちホモミクサーからの流出条件)では速度境界条件を使用し、槽からの流出条件(すなわちホモミクサーへの流入条件)では圧力0の圧力境界条件とした。また、これらの解析には、定常解析、非定常解析、共にANSYS社のFLUENTを使用した。
【0043】
[操作条件]
ホモミクサーの回転数:6000rpm
ホモミクサーのタービン径(最大値):25mm
回転パドルの回転数:60rpm
回転パドルの先端間距離の最大値:108mm
槽の直径:150mm
流体の体積:2L
【0044】
(1)ホモミクサーからの吐出部分S1での速度分布
回転パドルによる影響がほとんど無いと考えられるホモミクサーからの吐出部分S1での速度分布を、実施例の解析方法で最初に行うホモミクサーでの定常解析と、比較例の移動メッシュによる非定常解析とで比較した(非定常解析は回転開始後2秒時点のもの)。図6にこの吐出部分S1の位置を示し、図7に結果を示す。なお、図7は、吐出部分S1 における流速をr,θ,z成分についてプロットしたものであり、zは鉛直方向(軸方向)で、zと垂直な断面の半径方向がr,周方向がθである。
【0045】
図7から、実施例による解析結果と比較例による解析結果が非常によく一致していることが確認できる。これにより、ホモミクサーによる吐出流は、回転パドルによる影響をほとんど受けないという本発明の仮定が成り立つことが分かる。
【0046】
(2)槽内の三箇所S2、S3、S4 での速度分布
ホモミクサーと回転パドルの両方の影響があると考えられる槽内の三箇所S2、S3、S4 での速度分布を、実施例の解析方法と比較例の移動メッシュによる非定常解析とで比較した(非定常解析は回転開始後2秒時点のもの)。この場合、実施例の解析においては、図7で得られた速度分布を、槽への流入条件(すなわちホモミクサーからの流出条件)を構成する速度境界条件として使用した。
【0047】
図8に解析対象とする位置S2、S3、S4 を示し、図9に解析結果を示す。図9から、槽内全体として、実施例による解析結果と比較例による解析結果が一致することが分かる。なお、比較例の方法では、位置S2、S3の解析結果においてr=24(mm)、r=54(mm)あたりでプロットに飛びあがりがあるが、これは回転領域や静止領域の間のメッシュが不連続になるためで、本来は滑らかにつながるべきものである。
【0048】
(3)槽内の速度分布の解析
図10(a)に、比較例の非定常解析による回転開始後2秒の時点での槽内の速度分布の解析結果を示し、同図(b)に実施例の解析方法による槽内の速度分布の解析結果を示す。
【0049】
図10(a)、(b)から、比較例の非定常解析でもt=2(s)でほぼ流れが安定して定常状態になり、実施例の定常解析による結果と同様の速度分布になっていることがわかる。
【0050】
一方、実施例では、この解析結果を得るために計算時間として約4時間を要し、比較例では約2.5日を要した。使用したコンピュータは、CPUとしてCore2Duo 2.66GHzを備えたWindows(登録商標)PCである。
【0051】
なお、本実施例及び比較例では、粘度1Pa・sのニュートン流体を想定したが、粘度がせん断速度に依存する非ニュートン流体では、一般に流れが安定するまでに時間がかかり、非定常解析ではさらに計算時間を要することになる。
【0052】
以上により、本発明によれば、従来の比較例の方法に比して極めて短時間で精度よく流動状態を解析できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の解析方法は、高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機とを備えた複合型撹拌槽における流体解析として有用であり、パス回数、混合時間、温度分布等の解析の基礎としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】複合型撹拌槽の模式図である。
【図2】ホモミクサー(高速回転型撹拌機)による流動場を解析し、次に回転パドル(低速回転型撹拌機)による流動場を解析する解析手法の模式図である。
【図3】単一基準座標モデルによる流体解析の概念図である。
【図4】複数基準座標モデルによる流体解析の概念図である。
【図5】非定常解析の概念図である。
【図6】実施例及び比較例での速度分布の比較位置を示した図である。
【図7】実施例及び比較例による、ホモミクサーからの吐出部分での流体の速度分布図である。
【図8】実施例及び比較例での速度分布の解析位置を示した図である。
【図9】実施例及び比較例による流体の速度分布図である。
【図10】実施例及び比較例による槽内の流体の速度分布の解析図である。
【符号の説明】
【0055】
1 複合型撹拌槽
2 槽本体
2a 槽壁
3 シャフト
4 タービン
5 固定環(ステーター)
6 高速回転型撹拌機(ホモミクサー)
6a 上面
6b 下面
7 回転パドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機とを備えた複合型撹拌槽における流体の流動状態の解析方法であって、まず、高速回転型撹拌機の駆動による流動状態を定常解析し、次に、その解析結果を境界条件として、低速回転型撹拌機の駆動による流動状態を定常解析することにより、高速回転型撹拌機と低速回転型撹拌機を同時に駆動させたときの流動状態を解析する方法。
【請求項2】
前記境界条件として、槽への流入境界条件に速度境界条件を使用し、槽からの流出境界条件に圧力境界条件を使用する請求項1記載の解析方法。
【請求項3】
高速回転型撹拌機が固定環で囲われている請求項1又は2記載の解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−44611(P2010−44611A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208488(P2008−208488)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】