説明

複合多孔質フィルムおよびそれを用いた電池用セパレータ、並びに非水系電解液二次電池

【課題】シャットダウン特性と高温時におけるフィルム形状維持特性とを共に良好なレベルで備え、耐酸化性を有し、かつ、電解液を十分に保持することが可能な複合多孔質フィルムを提供する。さらに、本発明は、そのような複合多孔質フィルムを用いた電池用セパレータおよび非水系電解液二次電池も提供する。
【解決手段】本発明の複合多孔質フィルムは、ポリオレフィン系多孔質フィルムと、前記ポリオレフィン系多孔質フィルムの表面に設けられた被膜とからなる。被膜は、分子中にパーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーを含む。被膜の目付け量は5g/m2以下である。本発明の電池用セパレータ4は、前記複合多孔質フィルムを用いている。本発明の非水系電解液二次電池1は、正極2と、負極3と、正極2と負極3との間に配置された電池用セパレータ4と、非水系溶媒および電解質を含む非水系電解液とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系多孔質フィルムの表面に被膜が設けられた複合多孔質フィルムと、それを用いた電池用セパレータと、非水系電解液二次電池とに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等の携帯電子機器の軽量化および小型化に伴い、高エネルギー密度を有する非水系電解液二次電池である、リチウムイオン二次電池がその主電源として広く用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、通常、主として、コバルト酸リチウムに代表されるリチウム化合物等の正極活物質を含有する活物質層を金属集電体上に形成させた正極と、黒鉛等に代表されるリチウムの吸蔵・放出が可能な炭素材料等の負極活性物質を含有する活物質層を金属集電体上に形成させた負極と、LiPF6等のリチウム塩等の電解質を通常プロトン性非水系溶媒に溶解させた非水系電解液と、高分子多孔質膜からなるセパレータと、から形成されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は高いエネルギー密度を有するため、短絡や強制的な充放電等の異常使用に対して、一度に電流が流れて大きな発熱を生じ、最悪の場合、発火する危険性がある。これは、異常使用等によってリチウムイオン二次電池の温度が増加すると、室温付近では抑制されていたリチウムと他の電池構成物質との反応が起こり、その反応によって更に電池温度が上昇するという熱暴走状態によって起こると理解されている。
【0005】
近年、電池の高容量化に伴う発火事故や、欠陥の発見による製品(電池)の回収が多発してきており、電池を構成する部材には種々の工夫を加える試みがなされている。
【0006】
その中で、セパレータが寄与できる安全対策として、シャットダウン特性とメルトダウン特性とが注目されている。ここで、シャットダウン特性とは、異常電流(大電流)が流れて電池が発熱した場合に、熱変形によってセパレータの空孔が閉塞して、電池内での電流の流れを遮断する特性のことである。メルトダウン特性とは、シャットダウン特性が発現する温度よりもさらに温度が上昇した場合に、フィルムに大きな穴が開いてしまう特性のことである。したがって、より高い安全性を維持するためには、シャットダウン温度(シャットダウン特性が発現する温度)を低くし、さらに、メルトダウン温度(メルトダウン特性が発現する温度)を高くして高温時でのフィルム形状劣化を抑制・防止する(高温時におけるフィルム形状維持特性を向上させる)ことによって、絶縁性を維持することが有効である。
【0007】
しかしながら、シャットダウン特性とメルトダウン特性(高温時の形状維持特性)とはトレードオフの関係にあり、これらの特性を高レベルで両立させることは、単一材料系のフィルムでは非常に困難であった。したがって、両特性をバランス良く達成するためには、適切な材料を組み合わせて、目的とする機能をそれぞれの材料に分担させることが有効である。
【0008】
そのようなセパレータの例として、シャットダウン機能を担うポリオレフィン層と、高温時の形状維持機能を担うフッ素樹脂層とからなる多層セパレータに関する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0009】
また、高温時の形状維持機能を担う層として、セルロース繊維からなる紙(特許文献4参照)、芳香族ポリアミド(特許文献5参照)または耐熱性樹脂(特許文献6参照)からなる層を備えた、多層セパレータも提案されている。
【0010】
しかしながら、これらの多層セパレータは、シャットダウン機能を担う層と高温時の形状維持機能を担う層とを積層しているため、セパレータの厚みが増大する。セパレータの厚みが増大することによって、電池の内部抵抗が過度に増大するので、電池の性能が低下してしまう。また、多層セパレータを構成する各層として、イオン移動を妨げない多孔質構造を有する膜を形成しなければならないため、製造工程数が増大してしまう。このようなセパレータの厚みの増大や製造工程数の増大は、電池の小型化・低コスト化の近年のトレンドに反するため、望ましくない。
【0011】
一方、複数の材料で形成されたセパレータとして、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の含ハロゲン炭素化合物がコーティングされたセパレータも提案されている(特許文献7参照)。このようなセパレータは、セパレータの酸化劣化を抑制することを目的として、提案されている。
【0012】
しかし、PTFEは溶剤に溶けないため、セパレータの表面に薄くて均一なコーティング層を形成することは困難である。したがって、セパレータの表面に部分的にPTFEが存在する、あるいはコーティング層の厚みが異なる等によって、電池の性能が低下する可能性がある。また、PVDFは極性溶剤に可溶であるため、電池内部で安定して存在することが困難である。さらに、酸化抑制等の特定の機能性を向上させるために、セパレータにフッ素含有率(分子中に含まれるフッ素原子の割合)が高い材料からなるコーティング層を設けた場合、セパレータの電解液の保持が不十分となる場合がある。電解液の保持性(保液性)は、セパレータに求められる重要な特性である。セパレータの保液性が不十分である場合、電池の内部抵抗が増大するという問題が発生する。
【0013】
以上のように、セパレータに特定の機能を持たせることを目的として、セパレータのコーティング材料として単にフッ素を含む炭化水素化合物を用いたとしても、他の機能が低下しすぎてしまう(例えば保液性の低下等)等の問題により、電池の性能が低下してしまう場合がある。
【特許文献1】特開平5−205721号公報
【特許文献2】特開平11−207888号公報
【特許文献3】特開平9−161756号公報
【特許文献4】特開平7−220710号公報
【特許文献5】特開平10−6453号公報
【特許文献6】特開2006−269359号公報
【特許文献7】特開2004−253393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のように、従来は、シャットダウン特性と高温時におけるフィルム形状維持特性とを共に良好なレベルで備え、さらに耐酸化性および保液性を備えたセパレータを提供することが困難であった。
【0015】
そこで、本発明は、シャットダウン特性と高温時におけるフィルム形状維持特性とを共に良好なレベルで備え、耐酸化性を有し、かつ、電解液を十分に保持することが可能な複合多孔質フィルムを提供することを目的とする。さらに、本発明は、そのような複合多孔質フィルムを用いた電池用セパレータおよび非水系電解液二次電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の複合多孔質フィルムは、ポリオレフィン系多孔質フィルムと、前記ポリオレフィン系多孔質フィルムの表面に設けられた被膜とからなる複合多孔質フィルムであって、前記被膜が、分子中にパーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーを含み、かつ、前記被膜の目付け量が5g/m2以下である。
【0017】
また、本発明は、上記本発明の複合多孔質フィルムを用いた電池用セパレータを提供する。
【0018】
さらに、本発明は、非水系電解液二次電池も提供する。本発明の非水系電解液二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、非水系溶媒および電解質を含む非水系電解液と、を備えた非水系電解液二次電池であって、前記セパレータが上記本発明の電池用セパレータである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の複合多孔質フィルムは、ポリオレフィン系多孔質フィルムを基材とし、その表面に、分子中にパーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーを用いて形成された被膜が設けられている。したがって、ポリオレフィン系多孔質フィルムによって良好なシャットダウン特性を実現でき、被膜によって高温時における良好なフィルム形状維持特性を実現できる。本発明の複合多孔質フィルムにおける被膜は、分子中にパーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーを用いて形成されているので、高温時における良好なフィルム形状維持特性に加えて耐酸化性も有し、さらに適度に電解液を保持することも可能である。また、本発明の複合多孔質フィルムは、ポリオレフィン系多孔質フィルムに被膜を設けることによって形成されているので、厚みの増加を抑えることができ、製造工程数が大幅に増大することもない。
【0020】
また、上記本発明の複合多孔質フィルムを用いた電池用セパレータは、電池の性能を低下させることなく、シャットダウン特性と高温時におけるフィルム形状維持特性とを共に良好なレベルで備え、さらに耐酸化性および保液性も備えることができる。さらに、本発明の電池用セパレータは、低コストで製造できる。
【0021】
また、本発明の非水系電解液二次電池は、上記のような機能を有する電池用セパレータを備えているので、安全性に優れ、製造コストも抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の記載は本発明を限定するものではない。
【0023】
本実施の形態の複合多孔質フィルムは、ポリオレフィン系多孔質フィルムと、前記ポリオレフィン系多孔質フィルムの表面に設けられた被膜とからなる。なお、本明細書において、ポリオレフィン系多孔質フィルムとは、ポリオレフィンを主成分とする材料(ポリオレフィン含有量90重量%以上)を用いて形成された多孔質フィルムのことである。
【0024】
本実施の形態の複合多孔質フィルムに用いられるポリオレフィン系多孔質フィルムの材料として、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、高密度ポリエチレンおよび高分子量ポリエチレンを含む)およびポリブチレン等のポリオレフィンをそれぞれ単独で用いてもよいし、これらの樹脂の混合物を用いてもよい。耐溶剤性や耐酸化還元性を考慮すれば、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のポリオレフィンからなる多孔質フィルムが好適である。中でも、加熱されたときに樹脂が溶融して熱変形し、空孔が閉塞される温度(シャットダウン温度)をより低くできることから、ポリエチレン多孔質フィルムが特に好適に用いられる。
【0025】
本実施の形態におけるポリオレフィン系多孔質フィルムの製造方法は、特に限定されない。乾燥延伸法等の乾式法や、相分離法および溶媒抽出法等の湿式法、樹脂材料からなる不織布を圧延する方法等を用いて、ポリオレフィン系多孔質フィルムを作製できる。このようなポリオレフィン系多孔質フィルムは、例えば旭化成株式会社、東燃化学株式会社、セルガード株式会社、宇部興産株式会社等から市販されており、入手可能である。
【0026】
本実施の形態の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いる場合、ポリオレフィン系多孔質膜の孔径は、最大孔径が0.01〜5μmの範囲内であることが好ましく、0.01〜0.5μmの範囲内であることがより好ましい。最大孔径が0.01μm未満では、電解液の拡散が不十分となる傾向がみられ、電池の内部抵抗が高くなるおそれがある。また、最大孔径が5μmを超えると、例えばリチウムイオン二次電池のセパレータとして用いた場合に、リチウムデンドライド(電池反応時に発生成長するリチウムの針状結晶)の発生を抑制することが困難となり、短絡するおそれがある。
【0027】
また、本実施の形態の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いる場合、ポリオレフィン系多孔質フィルムの空孔率は、10〜90vol%の範囲が好ましく、20〜65vol%の範囲がより好ましく、40〜60vol%の範囲がさらに好ましい。ポリオレフィン系多孔質フィルムの空孔率が低すぎると、複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いた場合に、イオン伝導率経路が少なくなり、十分な電池特性を得ることができない場合がある。一方、ポリオレフィン系多孔質フィルムの空孔率が高すぎると、複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いた場合に、強度が不十分となる場合がある。強度が不十分である場合、所要の強度を得るためにポリオレフィン系多孔質フィルムの厚みを大きくしなければならなくなり、電池の内部抵抗が高くなってしまう。
【0028】
本実施の形態の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いる場合、好ましくは通気度が1500秒/100cc以下、より好ましくは通気度が1000秒/100cc以下のポリオレフィン系多孔質フィルムが用いられる。ポリオレフィン系多孔質フィルムの通気度が高すぎると、複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いた場合に、イオン伝導性が低くなり、十分な電池特性を得ることができない場合がある。
【0029】
ポリオレフィン系多孔質フィルムは、その突刺強度が1N以上であることが望ましい。突刺強度が1Nよりも小さい場合、本実施の形態の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いると、電極間に面圧がかかった際にセパレータが破断して、内部短絡を引き起こすおそれがあるからである。なお、本明細書における突刺強度とは、直径1.0mm、先端の曲率半径0.5mmの針が、2cm/秒の速度でセパレータを突き破るのに必要な力のことである。
【0030】
次に、ポリオレフィン系多孔質膜の表面に設けられる被膜の例について説明する。
【0031】
被膜は、高温時に複合多孔質フィルムの変形を抑制できればよい。このため、ポリオレフィン系多孔質膜の表面に被膜が設けられていない部分が存在していてもよい。しかし、複合多孔質フィルムが高温時にその形状を安定的に維持できるように、被膜は、ポリオレフィン系多孔質膜の表面全体を被覆するように形成されることが望ましい。
【0032】
被膜は、分子中にパーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーを用いて形成されている。パーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーは、フッ素系溶剤に対しては溶解性を有するが、フッ素系溶剤以外の溶剤には溶解しない。このため、本実施の形態の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いた場合に、被膜の構成成分が電解液中に溶出して電池の性能が低下するという問題が生じにくい。また、このアクリル系ポリマーは、成膜が容易である。具体的には、このアクリル系ポリマーをフッ素系溶剤に溶解させて塗料を作製し、この塗料を基材となるポリオレフィン系多孔質膜に塗布して乾燥させることによって、容易に、ポリオレフィン系多孔質膜の表面に薄くて均一な被膜を形成できる。また、このアクリル系ポリマーを用いて形成された被膜は、柔軟性を有し、さらに十分な耐酸化性も備えている。
【0033】
なお、被膜は、パーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーのみから形成されていてもよいし、他にアルキルアクリレート等が含まれていてもよい。パーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマー以外の成分の含有量は、50重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。
【0034】
パーフルオロアルキル基は、例えば直鎖のパーフルオロアルキル基であり、−(CF2CF2nCF3の一般式で示すことができる。本実施の形態の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いた時に、セパレータが十分な電解液を保持できるように、パーフルオロアルキル基における前記一般式のnは、1〜8の範囲が好ましく、4〜6の範囲がより好ましい。
【0035】
パーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーとしては、例えばパーフルオロアルキルアクリレートや、パーフルオロアルキルアクリレートとアルキルアクリレートとの共重合体が挙げられる。
【0036】
電池用セパレータとしての使用を考慮すると、セパレータを隔てて正極・負極間で移動するイオンの移動を妨げないように、被膜の厚みを適宜選択することが望ましい。被膜の厚みは、セパレータの酸化劣化や高温時での形状劣化を抑制できる程度に厚く、且つ、イオンの移動を妨げない程度に薄くする必要がある。そこで、目付け量が5g/m2以下となるように、被膜を形成する。電池の内部抵抗をより低くするためには、目付け量を4g/m2以下とすることがより好ましい。また、セパレータの酸化劣化や高温時での形状劣化を十分に抑制できるように、目付け量は0.4g/m2以上が好ましい。
【0037】
上述のとおり、パーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーは、フッ素系溶剤に対して溶解性を有する。このため、被膜の形成に用いられる塗料の溶剤として、フルオロエーテル系溶剤やフルオロアルカン系溶剤等のフッ素系溶剤を用いることができる。塗料には、パーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーとフッ素系溶剤の他に、例えば、酢酸エチルおよびアセトン等の低沸点有機溶媒(沸点:80℃以下)等が含まれていてもよい。
【0038】
塗料をポリオレフィン系多孔質フィルムに塗布する方法は、特に限定されるものではなく、刷毛塗工、スプレー塗工、ロール塗工および浸漬塗工等の公知の塗布方法を使用することができる。
【0039】
本実施の形態の複合多孔質フィルムは、上記のような材料で形成された被膜が設けられていることにより、高温時において、良好な形状維持特性を有する。例えば、室温における複合多孔質フィルムの幅を基準値とした場合に、シャットダウン温度よりも高い温度範囲における当該複合多孔質フィルムの幅方向収縮率(%)を40%以下とすることができる。なお、シャットダウン温度とは、熱変形によって複合多孔質フィルム中の空孔が閉塞する温度のことである。ある温度(測定温度)における幅方向収縮率は、室温での複合多孔質フィルムの幅に対する、測定温度での複合多孔質フィルムの幅の百分率を求めることによって得られる。ここで、複合多孔質フィルムの幅とは、ポリオレフィン系多孔質フィルムの製造において、フィルムを押出成形する時の押出方向(MD方向)と直交する方向(TD方向)の長さのことである。
【0040】
次に、本発明の非水系電解液二次電池について説明する。本発明の非水系電解液二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、非水系溶媒および電解質を含む非水系電解液と、を備えている。この非水系電解液二次電池に用いられるセパレータは、上述の本発明の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いたものである。なお、本発明の複合多孔質フィルムが用いられた電池用セパレータは、公知の電池用セパレータと同様に、正極と負極との間に介在させた状態で用いて、非水系電解液二次電池を組み立てることができる。正極、負極、電池ケース、電解液等の材質やこれら構成要件の配置構造については、公知の非水系電解液二次電池と同様とすることができる。
【0041】
本実施の形態では、本発明の非水系電解液二次電池の一例として、図1に示すような円筒型の非水系電解液二次電池1について説明する。なお、図1では、図を見やすくする目的で、一部ハッチングを省略する。
【0042】
図1に示すように、非水系電解液二次電池1では、正極2と、負極3と、正極2と負極3との間に配置されたセパレータ4とが一体的に渦巻状に巻回されて、有底の電池ケース5に収容されている。正極2に連接する正極リード(図示せず)は、下部絶縁スリーブ(図示せず)を介して電池ケース5と電気的に接続されている。図中、5aは正極端子部を示している。負極3に電気的に接続された負極タブ7は、上部絶縁スリーブ8の空洞部8aを介して負極端子部6aに電気的に接続されている。電池内部には非水系電解液(図示せず)が充填されている。電池ケース5は、負極端子部6aを含む蓋体6と、蓋体6と電池ケース5との隙間を塞ぐパッキング9とによって封口されており、電池外部に非水系電解液が漏出できない構造となっている。また、セパレータ4には電解液が含浸しており、結果、セパレータ4を挟む正極2と負極3との間でイオン担体の移動が行われ、二次電池として放電および充電を行うことができることになる。なお、この例では、2枚のセパレータ4を貼り合わせて袋状とし、その中に負極3を挿入して正極2と共に巻回することによって形成されている。しかしながら、巻回後の状態で、互いに隣接する正極2と負極3との間にセパレータ4が配置されるような構成となっていればよいため、必ずしもセパレータ4を袋状とする必要はない。
【0043】
正極2は、リチウムイオンを吸蔵・放出する活物質と、バインダーと、集電体とで形成されている。正極2は、例えば、バインダーを溶解させた溶媒に前記活物質を混合してペーストを作製し、このペーストを集電体上に塗布して乾燥させることによって、作製できる。乾燥後に、さらにプレスをしてもよい。
【0044】
正極活物質としては、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いられている公知の化合物を使用できる。具体的には、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2等のリチウム含有遷移金属酸化物、またはそれらの遷移金属の一部が他の遷移金属で置換されたリチウム含有遷移金属酸化物、二硫化チタン、二硫化モリブデン等のカルコゲン化合物等が挙げられる。
【0045】
バインダーには、正極2を構成するバインダーとして公知の樹脂が使用できる。例えば、PVDF、ヘキサフロロプロピレンおよびPTFE等のフッ素系樹脂、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンターポリマー等の炭化水素系樹脂、または、それらの混合物等が使用できる。また、導電助剤として、カーボンブラック等の導電性粉末を添加してもよい。
【0046】
正極2の集電体としては、耐酸化性に優れた金属が用いられ、例えば箔状やメッシュ状に加工されたアルミニウムが好適に用いられる。
【0047】
負極3は、炭素系活物質またはリチウム含有合金と、バインダーと、集電体とで形成されている。負極3も、正極2と同様の方法で作製できる。また、バインダーも、正極2で用いたバインダーと同様のものが使用できる。
【0048】
炭素系活物質としては、例えば人造黒鉛、天然黒鉛、コークスやピッチ等の焼成体、フェノール樹脂、ポリイミドおよびセルロース等を焼結したもの、等が挙げられる。リチウム含有金属としては、例えばAl、Sn、Si系の合金が挙げられる。
【0049】
負極3の集電体としては、還元安定性に優れた金属が用いられ、例えば箔状やメッシュ状に加工された銅が好適に用いられる。
【0050】
非水系電解液は、非水系溶媒および電解質を含んでいる。具体的には、リチウム塩(電解質)を非水系溶媒に溶解させた電解液、当該電解液を含むゲル電解液、リチウム塩を例えばポリエチレンオキシド等のポリマーに溶解分解させた固体電解質等、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の電解液が挙げられる。電解質として用いられるリチウム塩の具体例は、ホウ四フッ化リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)およびトリフロロスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)等を用いることができる。また、非水系溶媒には、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、1,2−ジメトキシエタン(DME)およびγ−ブチロラクトン(γ−BL)等の溶媒、またはこれらの混合溶媒が使用できる。
【0051】
セパレータ4には、上述の本発明の複合多孔質フィルムが用いられる。
【0052】
このリチウムイオン二次電池は、電池の性能を低下させることなく、シャットダウン特性と高温時におけるフィルム形状維持特性とを共に良好なレベルで備え、耐酸化性を有し、さらに電解液を十分に保持できる電池用セパレータを備えている。これにより、優れた安全性を実現できる。
【0053】
なお、本実施の形態では、本発明の非水系電解液二次電池として、円筒型の非水系電解液二次電池を例に挙げて説明したが、他の構成、例えば筒型やラミネート型の非水系電解液二次電池であっても、本発明の構成を適用できる。
【実施例】
【0054】
次に、本発明の複合多孔質フィルム、電池用セパレータおよび非水系電解液二次電池について、実施例を用いて具体的に説明する。
【0055】
まず、後述する各実施例および比較例で作製した複合多孔質フィルムの物性および電池特性の測定方法について説明する。
【0056】
[フィルム物性]
<ポリオレフィン系多孔質フィルムの厚さ>
1/10000mmシックネスゲージにより測定した。
【0057】
<ポリオレフィン系多孔質フィルムの空孔率>
ポリオレフィン系多孔質フィルムの面積S(cm2)、平均厚みt(cm)、重量W(g)、ポリオレフィン系多孔質フィルムを構成する樹脂の密度d(g/cm3)の各値を用いて、次式にて算出した。
空孔率(vol%)=(1−W/(S×t×d))×100
【0058】
<ポリオレフィン系多孔質フィルムおよび複合多孔質フィルムの通気度>
JIS P 8117に準拠して求めた。
【0059】
<ポリオレフィン系多孔質フィルムの突刺強度>
カトーテック株式会社製の圧縮試験機「KES−G5」を用いて測定した。測定によって得られた荷重変位曲線から最大荷重を読み取り、突刺強度とした。針は、直径1.0m
m、先端の曲率半径0.5mmのものを用いた。突刺速度は2cm/秒とした。
【0060】
<被膜の目付け量>
ポリオレフィン系多孔質膜に被膜を形成する前後に重量測定を行い、その測定値の差分から単位面積(1m2)当たりの被膜の重量(g)を算出して、目付け量(g/m2)とした。
【0061】
<複合多孔質フィルムのシャットダウン温度の測定>
φ25mmの筒状の試験室を有し、当該試験室が密閉可能であるSUS製のセルを用いた。下部電極としてはφ20mm、上部電極としてはφ10mmの白金板(厚さ1.0mm)を、それぞれ使用した。φ24mmに打ち抜いた測定用サンプルを非水系電解液に浸漬して、サンプルに電解液を含浸させた。このサンプルを電極間に挟み、セル内に設置した。電極には、セルに設けられたばねによって、一定の面圧がかかるようにした。非水系電解液には、プロピレンカーボネート/ジメトキシエタン(容量比:1/1)の混合溶媒に、ホウフッ化リチウムを1.0mol/Lの濃度になるように溶解したものを用いた。このようにサンプルが設置されたセルに熱電対温度計と抵抗計とを接続して、温度と抵抗値を測定できるようにした。このセルを180℃の恒温器中に入れて、温度と抵抗値とを測定した。100℃〜150℃の平均昇温速度は10℃/分であった。この測定により、抵抗値が100Ω・cm2に達した時の温度をシャットダウン温度とした。シャットダウン温度の測定結果は、後に示す表1に示すとおりであり、実施例および比較例の全てのサンプルにおいて、シャットダウン温度は140℃よりも下であった。
【0062】
<複合多孔質フィルムの収縮率>
収縮率は、セイコーインスツル株式会社製の熱・応力・歪測定装置「TMA/SS6100」を用いて、熱機械分析(TMA(thermo-mechanical analysis))によって求めた。TMAは、サンプルに非振動的な荷重を加えて加熱または冷却させた際に、膨張、収縮および軟化等の形状変化を検出する手法である。本実施例では、幅4mm、長さ10mmに切断した複合多孔質フィルムのサンプルを、測定の際にねじれ、たわみが生じないようにチャック金具に取り付けた。なお、サンプルの長さ方向が複合多孔質フィルムの幅方向(TD方向)となるようにした。測定は、引っ張り荷重モードで行った。引っ張り荷重は19.6mNとした。室温から200℃まで5℃/分で昇温し、温度変化に対するサンプル長変化のプロファイルを得た。得られたグラフから、実施例および比較例のサンプルの収縮が最大となった140℃付近のサンプルの収縮長を読み取り、初期長(室温時のサンプル長)を基準として収縮率(室温時のサンプル長に対する140℃付近のサンプルの収縮長の百分率)を算出した。
【0063】
<複合多孔質フィルムの保液性>
保液性を評価するために、濡れ性を測定した。非水系電解液として、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比:1/3)の混合溶媒を用いた。濡れ性は、界面科学社製の接触角計「Crop Master」を用いて測定した。複合多孔質フィルムの各サンプル(固体表面)上に上記混合溶媒の液滴(液体)を載せて平衡となっている状態では、次のYoungの式が成り立つ。
γS=γLcosθ+γSL
(γS:固体の表面張力、γL:液体の表面張力、γSL:固体/液体の界面張力)
このYoungの式が成立するとき、液体表面と固体表面のなす角度θが「接触角」となる。接触角がより小さい複合多孔質フィルムが、ここで用いた非水系電解液に対して濡れ性がより高い、すなわち保液性がより高いということになる。
【0064】
[電池特性]
<トリクル充放電試験>
株式会社ナガノ製の二次電池充放電試験装置「BST2005W」を用いた。60℃の恒温槽に電池を設置して、4mA、4.25Vで定電流定電圧トリクル充電を7日間行った後、4mA、2.75V終止の定電流放電を行い、電池の充電容量に対する放電容量の百分率(%)にて耐酸化性を評価した。ここで、トリクル充電とは、二次電池の自然放電を補い、満充電状態を維持するために、絶えず微小電流を流しておく充電方式である。なお、リチウムイオン二次電池が満充電状態にあるとき、そのセパレータは強酸化雰囲気に曝される。したがって、セパレータの耐酸化性が悪い場合、セパレータが酸化して劣化し、放電容量が減る。したがって、トリクル充放電試験の結果を用いて求められる充放電効率(100×(放電容量)/(充電容量)(%))を、セパレータの耐酸化性の指標とできる。
【0065】
次に、実施例1〜6および比較例1〜3として作製した複合化多孔質フィルムについて、詳細に説明する。
【0066】
[実施例1]
<複合多孔質フィルム>
ポリオレフィン系多孔質フィルムとして、厚さ26μm、空孔率40%、通気度450秒/100cc、突刺強度4.0Nのポリエチレン製の多孔質フィルムを準備した。被膜形成のための塗料は、分子中にパーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマー(商品名「X70」、信越シリコーン社製)を「FRシンナー(商品名)」(信越シリコーン社製)に、濃度が0.75重量%となるように溶解させて作製した。この塗料中に前記ポリエチレン製の多孔質フィルムを浸漬させた後、室温にて1日間乾燥させた。このようにして得られた複合多孔質フィルムを、35mm×35mmサイズに切断した。この実施例1の複合多孔質フィルムについて、被膜の目付け量、通気度および収縮率を測定した。測定結果は、表1に示されたとおりである。
【0067】
<正極>
リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)89重量部、アセチレンブラック5重量部、PVDF6重量部およびNMP(N−メチルピロリドン)90重量部を混合し、正極合材スラリーを得た。この正極合材スラリーを70メッシュの網に通過させて、粒径の大きな固形物を取り除いた後、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の片面に均一に塗布した。塗膜を乾燥させた後でプレスして、正極を得た。本実施例において、正極の塗布面積(W1×W2)は、27×27(mm2)であった。なお、正極電極には、活物質が塗布されていない集電部が設けられており、正極耳部分をタブ(アルミニウム)と溶接した。
【0068】
<負極>
黒鉛化メソカーボンマイクロビーズ(MCMB、大阪ガスケミカル社製、d(002)=0.34nm未満)粉末95重量部、PVDF5重量部、NMP110重量部を混合し、負極合材スラリーを得た。この負極合材スラリーを、厚さ18μmの銅箔からなる負極集電体の片面に塗布した。塗膜を乾燥させた後でプレスして、負極を得た。本実施例において、負極の塗布面積(W1×W2)は、29×29(mm2)であった。なお、負極電極には、活物質が塗布されていない集電部が設けられており、負極耳部分をタブ(ニッケル)と溶接した。
【0069】
<電池の作製>
上記のとおり作製された複合多孔質フィルム、正極および負極を用いて電池を作製した。なお、複合多孔質フィルムは、電池用セパレータとして用いた。正極および負極を、複合多孔質フィルムを介して交互に積層することによって、電極積層体を作製した。この電極積層体を、アルミニウムラミネートパッケージに仕込んだ後、パッケージ内に、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比:1/1)混合溶媒に1.0mol/L濃度でヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させた電解液を注液し、次いでパッケージを封口して、ラミネートシール型リチウムイオン二次電池を組み立てた。この実施例1のリチウムイオン二次電池について、25℃の一定温度下で、0.2CmAのレートで2回充放電を行い、トリクル試験を行った。試験結果は、表2に示されたとおりである。
【0070】
[実施例2]
被膜形成のための塗料におけるアクリル系ポリマーの濃度を1.5重量%とした点以外は、実施例1と同様の方法で複合多孔質フィルム、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。得られた実施例2の複合多孔質フィルムおよびリチウムイオン二次電池についても、実施例1と同様の測定および試験を行った。結果は、表1および表2に示すとおりである。
【0071】
[実施例3]
被膜形成のための塗料におけるアクリル系ポリマーの濃度を3.0重量%とした点以外は、実施例1と同様の方法で複合多孔質フィルム、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。得られた実施例3の複合多孔質フィルムおよびリチウムイオン二次電池についても、実施例1と同様の測定および試験を行った。結果は、表1および表2に示すとおりである。
【0072】
[実施例4]
アクリル系ポリマーとして、パーフルオロアルキルアクリレートとアルキルアクリレートとの共重合体(商品名「STO 311NF」、AGCセイミケミカル社製)を用いた。このアクリル系ポリマーを、p−キシレンヘキサフルオライド(AGCセイミケミカル社製)に、濃度が0.85重量%となるように溶解させて塗料を作製した以外は、実施例1と同様の方法で複合多孔質フィルム、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。得られた実施例4の複合多孔質フィルムおよびリチウムイオン二次電池についても、実施例1と同様の測定および試験を行った。結果は、表1および表2に示すとおりである。
【0073】
[実施例5]
被膜形成のための塗料におけるアクリル系ポリマーの濃度を1.7重量%とした点以外は、実施例4と同様の方法で複合多孔質フィルム、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。得られた実施例5の複合多孔質フィルムおよびリチウムイオン二次電池についても、実施例1と同様の測定および試験を行った。結果は、表1および表2に示すとおりである。
【0074】
[実施例6]
被膜形成のための塗料におけるアクリル系ポリマーの濃度を3.4重量%とした点以外は、実施例4と同様の方法で複合多孔質フィルム、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。得られた実施例6の複合多孔質フィルムおよびリチウムイオン二次電池についても、実施例1と同様の測定および試験を行った。結果は、表1および表2に示すとおりである。
【0075】
[比較例1]
ポリオレフィン系多孔質フィルムとして、厚さ26μm、空孔率40%、通気度450秒/100cc、突刺強度4.0Nのポリエチレン製の多孔質フィルムを準備した。このポリエチレン多孔質フィルムを35mm×35mmのサイズに切断して、電池用セパレータとした。電池用セパレータの構造が異なる点以外は、実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。この比較例1の電池用セパレータについても、実施例1と同様に通気度および収縮率を測定した。また、比較例1のリチウムイオン二次電池についても、実施例1と同様にトリクル試験を行った。結果は、表1および表2に示すとおりである。
【0076】
[比較例2]
被膜形成のための塗料におけるアクリル系ポリマーの濃度を7.5重量%とした点以外は、実施例1と同様の方法で複合多孔質フィルム、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。得られた比較例2の複合多孔質フィルムおよびリチウムイオン二次電池についても、実施例1と同様の測定および試験を行った。結果は、表1および表2に示すとおりである。
【0077】
[比較例3]
被膜形成のための塗料におけるアクリル系ポリマーの濃度を8.5重量%とした点以外は、実施例4と同様の方法で複合多孔質フィルム、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。得られた比較例3の複合多孔質フィルムおよびリチウムイオン二次電池についても、実施例1と同様の測定および試験を行った。結果は、表1および表2に示すとおりである。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
表2には、初期充放電効率も示している。ここでの初期充放電効率とは、2回目の充電を初期充電容量とし、2回目の放電容量を初期放電容量として、これら初期充電容量の値と初期放電容量の値とを用いて算出した充放電効率のことである。この初期充放電効率については、実施例1〜6および比較例1のリチウムイオン二次電池がほぼ同じ値を示した。しかし、トリクル試験結果の充放電効率を比較すると、実施例1〜6では42%〜68%程度の充放電効率を維持しているのに対して、比較例1では25%程度まで低下していた。この結果から、本発明のような、被膜が設けられた複合多孔質フィルムによれば、耐酸化性を向上させることができることが確認された。
【0081】
以上の結果から、ポリエチレン多孔質フィルムの表面に、分子中にパーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーを用いて被膜が形成された複合多孔質フィルムは、高温における幅方向の形状変化が小さく、電池用セパレータとして用いた場合に高温時の形状維持特性を有することが確認された。さらに、被膜の目付け量を5g/m2以下とすることによって、電池内部のイオン移動を阻害することなく、正常に初期充放電できることも確認された。また、実施例1〜6のフィルムの保液性は、被膜が形成されていない比較例1のフィルムと比較すると低下しているものの、表2に示すように、電池用セパレータとしての使用に何ら支障がないことも確認された。この結果から、分子中にパーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーを用いて被膜を形成した場合、非水系電解液の保液性も確保できることが確認された。さらに、トリクル充放電試験の結果から、加熱条件下での長期充電においても容量劣化が抑制され、長期信頼性にすぐれたリチウムイオン二次電池が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の複合多孔質フィルムは、高温時の形状維持特性を有し、且つ、耐酸化性に優れているので、電池用セパレータやキャパシタ等に適用可能である。また、本発明の電池用セパレータは、リチウムイオン二次電池等の非水系電解液二次電池のセパレータとして使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の非水系電解液二次電池の一構成例を示す一部断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 非水系電解液二次電池
2 正極
3 負極
4 セパレータ(複合多孔質フィルム)
5 電池ケース
5a 正極端子
6 蓋体
6a 負極端子
7 負極タブ
8 上部絶縁スリーブ
8a 空洞部
9 パッキング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系多孔質フィルムと、前記ポリオレフィン系多孔質フィルムの表面に設けられた被膜とからなる複合多孔質フィルムであって、
前記被膜が、分子中にパーフルオロアルキル基を有するアクリル系ポリマーを含み、かつ、前記被膜の目付け量が5g/m2以下である、複合多孔質フィルム。
【請求項2】
前記パーフルオロアルキル基は、直鎖のパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載の複合多孔質フィルム。
【請求項3】
前記パーフルオロアルキル基は、−(CF2CF2nCF3の一般式で示され、
前記一般式におけるnは1〜8の整数を示す、請求項1または2に記載の複合多孔質フィルム。
【請求項4】
室温における複合多孔質フィルムの幅を基準値とした場合に、シャットダウン温度よりも高い温度範囲における前記複合多孔質フィルムの幅方向収縮率(%)が、40%以下である、請求項1〜3の何れか1項に記載の複合多孔質フィルム。
但し、シャットダウン温度とは、熱変形によって前記複合多孔質フィルム中の空孔が閉塞する温度のことである。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の複合多孔質フィルムを用いた電池用セパレータ。
【請求項6】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、非水系溶媒および電解質を含む非水系電解液と、を備えた非水系電解液二次電池であって、
前記セパレータが、請求項5に記載の電池用セパレータである、非水系電解液二次電池。


【図1】
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【公開番号】特開2009−249488(P2009−249488A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98543(P2008−98543)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】