説明

複合多孔質膜、複合多孔質膜の製造方法並びにそれを用いた電池用セパレーター

【課題】優れたフッ素系樹脂層の密着性と小さい透気抵抗度上昇幅が両立した複合多孔質膜を提供する。
【解決手段】少なくとも一層からなりかつ最表層の少なくとも一方がポリプロピレン樹脂からなる多孔質膜Aの最表層のポリプロピレン樹脂の表面に対して、フッ素系樹脂を含む多孔質膜Bが積層された複合多孔質膜であって、多孔質膜Aが特定の範囲の平均孔径、空孔率を満足するものにおいて、複合多孔質膜が、多孔質膜Aと多孔質膜Bの界面での剥離強度が特定の値以上であること、複合多孔質膜と多孔質膜Aとの透気抵抗度の差が特定の範囲であることを満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂を最表層に含む多孔質膜に対してフッ素系樹脂を含む多孔質膜を積層した複合多孔質膜に関し、特にイオン透過性に優れ、かつ、ポリプロピレン樹脂を含む多孔質膜とフッ素系樹脂膜との密着性に優れる、リチウムイオン電池用セパレーターとして有用な複合多孔質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂製多孔質膜は、物質の分離や選択透過及び隔離のための材料等として広く用いられている。例えば、リチウム二次電池、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ポリマー電池に用いる電池用セパレーターや、電気二重層コンデンサ用セパレーター、逆浸透濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜等の各種フィルター、透湿防水衣料、医療用材料等などで用いられている。特にポリエチレン製多孔質膜やポリプロピレン製多孔質膜は、リチウムイオン二次電池用セパレーターとして好適に使用されているか又は開発が進められているが、その理由は、電気絶縁性に優れる、電解液含浸によりイオン透過性を有する、耐電解液性・耐酸化性に優れるという特徴だけでなく、電池異常昇温時の120〜150℃程度の温度において電流を遮断し過度の昇温を抑制する孔閉塞効果をも備えているためである。しかしながら、何らかの原因で孔閉塞後も昇温が続く場合、膜を構成する融解したポリエチレンやポリプロピレンの粘度低下及び膜の収縮により、ある温度で破膜を生じることがある。また、一定高温下に放置すると、融解したポリエチレンやポリプロピレンの粘度低下及び膜の収縮により、ある時間経過後に破膜を生じる可能性がある。この現象は、ポリエチレンやポリプロピレンに限定された現象ではなく、他の熱可塑性樹脂を用いた場合においても、その多孔質膜を構成する樹脂の融点以上では避けることができない。
【0003】
特にリチウムイオン電池用セパレーターは、電池特性、電池生産性及び電池安全性に深く関わっており、優れた機械的特性、耐熱性、透過性、寸法安定性、孔閉塞特性(シャットダウン特性)、溶融破膜防止特性(メルトダウン防止特性)等が要求される。電気自動車、ハイブリッド自動車用の電池においては、今後、高容量化が期待できるリチウムイオン電池の開発が進められつつある一方で、厳しい機械的強度、耐圧縮性、耐熱性が要求されるため、これまでにポリオレフィン多孔質膜上に耐熱樹脂を積層させるなど、様々な耐熱性向上の検討がなされている。耐熱性樹脂として、耐熱性、耐酸化性を併せ持つフッ素系樹脂が好適に用いられている。しかしながら、一般にポリオレフィン多孔質膜上に耐熱樹脂を積層させた場合、複合多孔質膜の加工中やスリット工程、あるいは電池組み立て工程において耐熱性樹脂層が剥離することがあり、こうした場合、安全性の確保が困難となる。
【0004】
また、低コスト化に対応するため、電池組み立て工程においては高速化が進むことが予想され、本発明者等は、電池の安全性の確保のみならずこのような高速加工においても耐熱性樹脂層の剥離等のトラブルが少ないことが求められ、そのためには、より一層の高い密着性が必要であると推測している。
【0005】
特許文献1では、コロナ放電処理を施したポリプロピレン(PP)微多孔質膜に直接Al(OH)を含む芳香族ポリアミド(ポリ(フェニレンテレフタルアミド))を塗布して得たセパレーターを例示している。特許文献2では、ポリオレフィン多孔質膜に直接、膜厚が1μmとなるようにポリアミドイミド樹脂を塗布し、25℃の水中に浸漬した後、乾燥して得たリチウムイオン二次電池用セパレーターを例示している。
【0006】
特許文献1および特許文献2の場合のように、塗布液をポリオレフィン多孔質膜に直接塗布した際に一般に用いられるロールコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法等では、その剪断力によって、ポリオレフィン系多孔質膜への樹脂成分の浸透が避けられず、透気抵抗度の大幅な上昇と孔閉塞機能の低下が避けられず、簡単に樹脂成分が多孔質内部を埋めてしまうため透気抵抗度の極端な上昇を招く。また、このような方法では、ポリオレフィン系多孔質膜の膜厚斑が耐熱性樹脂層の膜厚斑に結びつきやすく、透気抵抗度のバラツキに繋がりやすいと言う問題も抱えている。
【0007】
特許文献3では、耐熱性樹脂であるフッ化ビニリデン系共重合体を含むドープにアラミド繊維からなる不織布を浸漬し、乾燥して得た電解液担持ポリマー膜が例示されている。
【0008】
特許文献4では、耐熱性樹脂であるポリフッ化ビニリデンを主成分とするドープにポリプロピレン多孔質膜を浸漬し、凝固、水洗、乾燥工程を経由して得た複合多孔質膜が例示されている。
【0009】
特許文献3のように耐熱性樹脂溶液中にアラミド繊維からなる不織布を浸漬させると、不織布の内部および両面に耐熱多孔質層が形成されるため、不織布内部の連通孔を大部分に渡って塞ぐことになり、透気抵抗度の大幅な上昇が避けられないだけでなく、セパレーターの安全性を決定付ける孔閉塞機能が得られない。
【0010】
特許文献4においてもポリプロピレン多孔質膜の内部および両面に耐熱多孔質層が形成されることに変わりはなく、特許文献3と同様に透気抵抗度の大幅な上昇が避けられず、また、孔閉塞機能が得られ難い。
【0011】
特許文献5では、ポリエチレン製多孔質フィルムに直接、耐熱性樹脂であるパラアラミド樹脂溶液を塗布するに際し、透気抵抗度の大幅な上昇を避けるために事前に耐熱性樹脂溶液に使用される極性有機溶媒をポリエチレン製多孔質フィルムに含浸させておき、耐熱性樹脂溶液を塗布後、温度30℃、相対湿度65%に設定した恒温恒湿機内で白濁した膜状にし、次いで、洗浄、乾燥して得られたパラアラミドからなる耐熱多孔質層を有するセパレーターが開示されている。
【0012】
特許文献5では、透気抵抗度の大幅な上昇はないが、ポリエチレン製多孔質フィルムと耐熱性樹脂との密着性が極めて小さく、安全性の確保が困難となる。
【0013】
特許文献6では、ポリエチレンフィルムにポリアミドイミド樹脂溶液を塗布し、25℃ 80%RH雰囲気中を30秒かけて通過させて、半ゲル状の多孔質膜を得、次いで厚さ20μmまたは10μmのポリエチレン多孔質フィルムを前記半ゲル状多孔質膜の上に重ね、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を含む水溶液に浸漬後、水洗、乾燥させて得られた複合多孔質膜を開示している。
【0014】
特許文献6では、透気抵抗度の大幅な上昇はないが、ポリエチレン製多孔質フィルムと耐熱性樹脂との密着性が不十分であり、また、ポリエチレン製多孔質フィルムは、ポリプロピレン樹脂多孔質膜より柔らかく、機械的強度、耐圧縮性に劣るものであった。
【0015】
このように、基材となるポリオレフィン系等の多孔質膜に耐熱性樹脂層を積層した複合多孔質膜において、耐熱性樹脂を基材となる多孔質膜に浸透させて耐熱性樹脂層の密着性の向上を図れば、透気抵抗度上昇幅が大きくなり、耐熱性樹脂の浸透を小さくすれば、透気抵抗度上昇幅は小さく抑えることができるが、耐熱性樹脂層の密着性が小さくなり、電池組み立て工程での高速化を踏まえた場合、ますます要求が厳しくなる安全性の確保が難しくなる。特に延伸開孔法により得られたポリプロピレン系樹脂多孔質膜を多孔質膜基材とした場合、一般に耐熱樹脂層との密着が極めて得難く、耐熱性樹脂層の密着性と透気抵抗度上昇幅が両立した複合多孔質膜はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−21033号公報
【特許文献2】特開2005−281668号公報
【特許文献3】特開2001−266942号公報
【特許文献4】特開2003−171495号公報
【特許文献5】特開2001−23602号公報
【特許文献6】特開2007−125821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、ポリプロピレン樹脂層を最表層に有する多孔質膜に耐熱性樹脂層を含む多孔質膜を積層した複合多孔質膜において、優れた耐熱性樹脂層の密着性と小さい透気抵抗度上昇幅が両立したものを提供するものであり、特に電池用セパレーターに好適な複合多孔質膜の提供を目指したものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、以下の(1)〜(9)の構成を有するものである。
(1)少なくとも一層からなり最表層の少なくとも一方がポリプロピレン樹脂からなる多孔質膜Aの最表層のポリプロピレン樹脂の表面に対して、フッ素系樹脂を含む多孔質膜Bが積層された複合多孔質膜であって、多孔質膜Aが下記式(A)及び(B)を満足するものにおいて、複合多孔質膜が下記式(C)及び(D)を満足することを特徴とする複合多孔質膜。
0.01μm≦多孔質膜Aの平均孔径≦1.0μm ・・・・・式(A)
30%≦多孔質膜Aの空孔率≦70% ・・・・・式(B)
多孔質膜Aと多孔質膜Bの界面での剥離強度≧1.0N/25mm・・・・・式(C)
20≦Y−X≦100 ・・・・・式(D)
(Xは多孔質膜Aの透気抵抗度(秒/100ccAir)、Yは複合多孔質膜全体の透気抵抗度(秒/100ccAir)である)
(2)多孔質膜Aが、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの三層が積層されたものであることを特徴とする(1)に記載の複合多孔質膜。
(3)フッ素系樹脂が、対数粘度0.5dl/g以上のフッ素系樹脂であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の複合多孔質膜。
(4)以下の工程(i)〜(iii)を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の複合多孔質膜の製造方法。
工程(i):基材フィルム上にフッ素系樹脂溶液を塗布した後、絶対湿度6g/m未満の低湿度ゾーンを通過させ、次いで、絶対湿度6g/m以上25g/m以下の高湿度ゾーンを通過させて基材フィルム上にフッ素系樹脂膜を形成する工程、
工程(ii):少なくとも一層からなりかつ最表層の少なくとも一方がポリプロピレン樹脂からなる多孔質膜Aを用意する工程、および
工程(iii):工程(ii)の多孔質膜Aの最表層のポリプロピレン樹脂の表面に対して工程(i)で形成されたフッ素系樹脂膜を貼り合わせた後、凝固浴に浸漬させてフッ素系樹脂膜を多孔質膜Bに変換させ、洗浄、乾燥し、複合多孔質膜を得る工程。
(5)基材フィルムが、工程(iii)で複合多孔質膜を得た後に剥離されることを特徴とする(4)に記載の複合多孔質膜の製造方法。
(6)基材フィルムが厚さ25〜100μmのポリエステル系フィルム又はポリオレフィン系フィルムであることを特徴とする(4)又は(5)に記載の複合多孔質膜の製造方法。
(7)基材フィルムの表面の線状オリゴマーの量が20μg/m以上100μg/m以下であることを特徴とする(4)〜(6)のいずれかに記載の複合多孔質膜の製造方法。
(8)工程(i)において低湿度ゾーンの通過時間が3秒以上20秒以下であり、高湿度ゾーンの通過時間が3秒以上10秒以下であることを特徴とする(4)〜(7)のいずれかに記載の複合多孔質膜の製造方法。
(9)(1)〜(3)のいずれかに記載の複合多孔質膜を含むことを特徴とする電池用セパレーター。
【発明の効果】
【0019】
本発明の複合多孔質膜は、優れたシャットダウン機能を有し、かつ機械的強度、耐圧縮性を有するポリプロピレン系樹脂層を最表層に有する多孔質膜を基材とし、さらにフッ素系樹脂層を積層した構成を有し、優れたフッ素系樹脂層の密着性と小さい透気抵抗度上昇幅を両立しているので、特に電池用セパレーターに好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の複合多孔質膜は、少なくとも一層からなりかつ最表層の少なくとも一方がポリプロピレン樹脂からなる多孔質膜Aの最表層のポリプロピレン樹脂の表面に対して、フッ素系樹脂を含む多孔質膜Bを積層したものであり、高度な加工技術によって、積層による透気抵抗度の大幅な上昇を招くことなく、優れたフッ素系樹脂層の密着性を達成したものである。
【0021】
ここで透気抵抗度の大幅な上昇とは、基材となる多孔質膜の透気抵抗度(X)と複合多孔質膜の透気抵抗度(Y)の差が100秒/100ccAirを超えることを意味する。また、優れたフッ素系樹脂層の密着性とは剥離強度が1.0N/25mm以上であることを意味し、好ましくは1.5N/25mm以上、さらに好ましくは2.0N/25mm以上である。1.0N/25mm未満では電池組み立て工程での加工時にフッ素系樹脂層が剥離してしまう可能性がある。剥離強度の上限は特にないが、30N/25mmもあれば密着性として十分である。
【0022】
まず、本発明で用いる多孔質膜Aについて説明する。
多孔質膜Aは、少なくとも一層からなりかつ最表層の少なくとも一方がポリプロピレン樹脂からなるものである。このような多孔質膜Aは、一般に延伸開孔法、相分離法などの製造方法によって作製できる。
多孔質膜Aは単層膜であってもよいし、二層以上の多層膜(たとえばポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)であってもよい。多孔質膜Aの層構成がポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンである場合、ポリプロピレン層の厚さは片側3μm以上であることが好ましい。3μm未満では十分な機械的強度が得られない場合がある。
【0023】
さらに、多孔質膜A中のポリプロピレン樹脂は、工程作業性および電極との倦回時に生じる様々な外圧に耐える機械強度、例えば、引っ張り強度、弾性率、伸度、突き刺し強度の点から、好ましくは質量平均分子量が30万以上、さらに好ましくは40万以上、最も好ましくは50万以上である。
【0024】
多孔質膜Aの層構造は、製法によって異なる。上記の各種特性を満足する範囲ならば、製法により目的に応じた相構造を自由に持たせることができる。多孔質膜の製造方法としては、発泡法、相分離法、溶解再結晶法、延伸開孔法、粉末焼結法などがあり、これらのなかでは微細孔の均一化、コストの点で相分離法が好ましい。
【0025】
多孔質膜Aは、充放電反応の異常時に孔が閉塞する機能(孔閉塞機能)を有することが必要である。従って、構成する樹脂の融点(軟化点)は、好ましくは70〜150℃、さらに好ましくは80〜140℃、最も好ましくは100〜130℃である。70℃未満では、正常使用時に孔閉塞機能が発現して電池が使用不可になる可能性があるため実用性に乏しく、150℃を超えると異常反応が十分に進行してから孔閉塞機能が発現してしまうため、安全性を確保できないおそれがある。
【0026】
多孔質膜Aの膜厚の上限は40μmであることが好ましく、より好ましくは35μmである。下限は10μmが好ましく、より好ましくは15μmである。10μmよりも薄い場合は、特に電気自動車等の厳しい環境下で用いられる電池では実用的な膜強度と孔閉塞機能を保有させることができないことがあり、40μmよりも厚い場合、電池ケースの単位容積当たりの面積が大きく制約され、今後、進むであろう電池の高容量化には適さない。
【0027】
多孔質膜Aの透気抵抗度(JIS−P8117)の上限は好ましくは1000秒/100ccAir、さらに好ましくは800秒/100ccAir、最も好ましくは500秒/100ccAirであり、下限は好ましくは50秒/100ccAir、さらに好ましくは70秒/100ccAir、最も好ましくは100秒/100ccAirである。
【0028】
多孔質膜Aの空孔率の上限は70%、好ましくは60%、さらに好ましくは55%である。下限は30%、好ましくは35%、さらに好ましくは40%である。透気抵抗度が1000秒/100ccAirより高くても、空孔率が30%よりも低くても、十分な電池の充放電特性、特にイオン透過性(充放電作動電圧)、電池の寿命(電解液の保持量と密接に関係する)において十分ではなく、これらの範囲を超えた場合、電池としての機能を十分に発揮することができなくなる可能性がある。一方で、50秒/100ccAirよりも透気抵抗度が低くても、空孔率が70%よりも高くても、十分な機械的強度と絶縁性が得られず、充放電時に短絡が起こる可能性が高くなる。
【0029】
多孔質膜Aの平均孔径は、孔閉塞速度に大きく影響を与えるため、0.01〜1.0μm、好ましくは0.05〜0.5μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmである。0.01μmよりも小さい場合、フッ素系樹脂のアンカー効果が得られにくいため十分なフッ素系樹脂の密着性が得られない場合がある他、複合化の際に透気抵抗度が大幅に悪化する可能性が高くなる。1.0μmよりも大きい場合、孔閉塞現象の温度に対する応答が緩慢になる、昇温速度による孔閉塞温度がより高温側にシフトするなどの現象が生じる可能性がある。なお、多孔質膜Aが二層以上の多層膜(たとえばポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の場合、多孔質膜Aの平均孔径は、少なくとも最表層のポリプロピレン樹脂の平均孔径が上記範囲を満たしさえすればよい。
【0030】
さらに、多孔質膜Aの表面状態に関しては、表面粗さ(算術的平均粗さ)が0.01〜0.5μmの範囲にあると多孔質膜Bとの密着性がより強くなる傾向にある。表面粗さが0.01μmより低い場合、密着性改善の効果は見られず、0.5μmより高い場合、多孔質膜Aの機械強度低下または多孔質膜Bの表面への凸凹の転写が起こることがある。
【0031】
次に、本発明で用いる多孔質膜Bについて説明する。
多孔質膜Bは、フッ素系樹脂を含むものであり、その耐熱性により多孔質膜Aを支持・補強する役割を担う。従って、多孔質膜Bを構成するフッ素系樹脂の融点は、好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上、最も好ましくは210℃以上であり、上限は特に限定されない。融点が分解温度よりも高い場合、分解温度が上記範囲内であれば良い。融点が150℃よりも低い場合、十分な耐熱破膜温度が得られず、高い安全性を確保できないおそれがある。
【0032】
以下、多孔質膜Bに使用するフッ素系樹脂について説明する。
フッ素系樹脂は、フッ化ビニリデン単独重合体、フッ化ビニリデン/フッ化オレフィン共重合体、フッ化ビニル単独重合体、及びフッ化ビニル/フッ化オレフィン共重合体からなる群より選ばれる1種以上を使用することが好ましい。特に好ましいものはポリテトラフルオロエチレンである。これらの重合体は、非水電解液とも親和性が高く、しかも耐熱性が適切で、非水電解液に対する化学的、物理的な安定性が高いため、高温下での使用にも電解液との親和性を十分維持できる。
【0033】
本発明で用いるフッ素系樹脂は、対数粘度は0.5dl/g以上が好ましい。対数粘度が0.5dl/g未満では溶融温度の低下により十分なメルトダウン特性が得られない場合があることと分子量が低いため多孔質膜が脆くなり、アンカー効果が低下するため密着性が低下するためである。一方、対数粘度の上限は加工性や溶剤溶解性を考慮すると、2.0dl/g未満が好ましい。
【0034】
多孔質膜Bは、フッ素系樹脂に対して可溶で且つ水と混和する溶剤で溶解したフッ素系樹脂溶液(ワニス)を所定の基材フィルムに塗布し、加湿条件下でフッ素系樹脂と、水と混和する溶剤を相分離させ、さらに水浴(凝固浴)に投入してフッ素系樹脂を凝固させることによって得られる。
【0035】
フッ素系樹脂を溶解するために使用できる溶剤としては、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、リン酸ヘキサメチルトリアミド(HMPA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、3−クロロナフタレン、パラクロロフェノール、テトラリン、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられ、樹脂の溶解性に応じて自由に選択できる。
【0036】
ワニスの固形分濃度は、均一に塗布できれば特に制限されないが、2重量%以上、50重量%以下が好ましく、4重量%以上、40重量%以下がさらに好ましい。固形分濃度が2重量%未満では得られた多孔質膜Bが脆くなる場合がある。また、50重量%を超えると多孔質膜Bの厚み制御が困難となる場合がある。
【0037】
また、多孔質層Bの熱収縮率を低減し、滑り性を付与するために、ワニスに無機粒子あるいは耐熱性高分子粒子を添加しても良い。粒子を添加する場合、その添加量の上限としては95質量%が好ましい。添加量が95質量%を超えると多孔質膜Bの総体積に対してフッ素系樹脂の割合が小さくなり、多孔質膜Aに対するフッ素系樹脂の十分な密着性が得られない場合がある。
【0038】
無機粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカーアルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどが挙げられる。また、耐熱性高分子粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子などが挙げられる。
【0039】
ワニスの水分率は0.5重量%以下、好ましくは0.3重量%以下とすることが重要である。0.5重量%を超えるとワニス保管中もしくは塗布直後にフッ素系樹脂成分が凝固しやすくなるため、多孔質膜Aへの必要量のフッ素系樹脂の染みこみができない場合がある。ワニスの水分率を0.5重量%以下にする方法としては、フッ素系樹脂および溶媒、さらには無機粒子等の添加剤の水分率を0.5重量%以下にする方法が挙げられ、具体的には、それぞれの原料を脱水処理、または乾燥処理して用いることが好ましい。また、ワニスは調合から塗工までの間、極力外気に触れさせないように保管することが望ましい。なお、ワニスの水分率はカールフィッシャー法を用いて測定することができる。
【0040】
また、多孔質膜Bの膜厚は好ましくは1〜5μm、さらに好ましくは1〜4μm、最も好ましくは1〜3μmである。膜厚が1μmよりも薄い場合、多孔質膜Aが融点以上で溶融・収縮した際の破膜強度と絶縁性を確保できないおそれがあり、5μmよりも厚い場合、複合多孔質膜中の多孔質膜Aの占める割合が少なく、十分な孔閉塞機能が得られず、異常反応を抑制できないことがある。また、巻き嵩が大きくなり、今後、進むであろう電池の高容量化には適さないおそれがある。
【0041】
多孔質膜Bの空孔率は30〜90%が好ましく、更に好ましくは40〜70%である。空孔率が30%未満では、膜の電気抵抗が高くなり、大電流を流しにくくなる。一方、90%を超えると、膜強度が弱くなる傾向にある。また、多孔質膜Bの透気抵抗度は、JIS−P8117に準拠した方法により測定した値が1〜1000秒/100ccAirであることが好ましい。より好ましくは50〜800秒/100ccAir、さらに好ましくは100〜700秒/100ccAirである。透気抵抗度が1秒/100ccAir未満では膜強度が弱くなり、1000秒/100ccAirを越えるとサイクル特性が悪くなることがある。
【0042】
本発明の複合多孔質膜は、多孔質膜Aの透気抵抗度(X秒/100ccAir)と複合多孔質膜全体の透気抵抗度(Y秒/100ccAir)の差(Y−X)が20秒/100ccAir≦Y−X≦100秒/100ccAirの関係を有する。Y−Xが20秒/100ccAir未満では、十分なフッ素系樹脂層の密着性が得られない。また、100秒/100ccAirを超えると、透気抵抗度の大幅な上昇を招き、その結果、電池に組み込んだ際に、イオン透過性が低下するため、高性能電池には適さないセパレーターとなる。
【0043】
さらに複合多孔質膜の透気抵抗度は、好ましくは70〜1100秒/100ccAir、さらに好ましくは200〜800秒/100ccAir、最も好ましくは300〜700秒/100ccAirである。70秒/100ccAirよりも透気抵抗度の値が低い場合、十分な絶縁性が得られず異物詰まりや短絡、破膜を招く可能性があり、1100秒/100ccAirよりも値が高い場合には膜抵抗が高く実使用可能な範囲の充放電特性、寿命特性が得られない場合がある。
【0044】
次に本発明の複合多孔質膜の製造方法について説明する。
本発明の複合多孔質膜の製造方法では、まず、ポリエステル系フィルム又はポリオレフィン系フィルム等の基材フィルム上にワニス(フッ素系樹脂溶液)を塗布した後、低湿度ゾーンに通過させる。この間にワニス中のフッ素系樹脂と該樹脂を溶解させている溶剤とを相分離させる。
【0045】
前記ワニスを塗布する方法としては例えば、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、ブレードコート法およびダイコート法などが挙げられ、これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができる。
【0046】
本発明でいう低湿度ゾーンとは、絶対湿度が6g/m未満に調整されたゾーンである。絶対湿度の好ましい上限は4g/m、さらに好ましくは3g/mであり、下限は好ましくは0.5g/m、より好ましくは0.8g/mである。絶対湿度が0.5g/m未満では相分離が十分に行われないため最終的に多孔質膜になりにくく、透気抵抗度上昇幅が大きくなってしまう場合がある。また、絶対湿度が6g/m以上では相分離と平行してフッ素系樹脂の凝固が始まり、多孔質膜Aを張り合わせる際、多孔質膜Aへのフッ素系樹脂の浸透が十分行われず、十分なフッ素系樹脂の密着性が得られない。低湿度ゾーンの通過時間は、3秒以上20秒以下であることが好ましい。3秒未満では前記相分離が十分行われないおそれがあり、一方、20秒を超えるとフッ素系樹脂の凝固が進行しすぎるおそれがある。
【0047】
次いで、該塗布フィルムを高湿度ゾーンに通過させて基材フィルム上に半ゲル状のフッ素系樹脂膜を形成させる。本発明で言う高湿度ゾーンとは、絶対湿度の下限が6g/m、好ましくは7g/m、さらに好ましくは8g/m、上限が25g/m、好ましくは17g/m、さらに好ましくは15g/mに調整されたゾーンである。絶対湿度が6g/m未満ではゲル状化(非流動状化)が十分に行われないため、多孔質膜Aを張り合わせる際、多孔質膜Aへのフッ素系樹脂の浸透が進み過ぎ、透気抵抗度上昇幅が大きくなる。絶対湿度が25g/mを超えるとフッ素系樹脂の凝固が進み過ぎ、多孔質膜Aへのフッ素系樹脂の浸透が小さくなりすぎ、十分な密着性が得られない場合がある。高湿度ゾーンの通過時間は、3秒以上10秒以下であることが好ましい。3秒未満ではゲル状化(非流動状化)が十分に行われないため、多孔質膜Aを張り合わせる際、多孔質膜Aへのフッ素系樹脂の浸透が進みすぎ、透気抵抗度上昇幅が大きくなるおそれがあり、一方、10秒を超えるとフッ素系樹脂の凝固が進みすぎ、多孔質膜Aへのフッ素系樹脂の浸透が小さくなりすぎ、十分な密着性が得られないおそれがある。
【0048】
なお、低湿度ゾーン、高湿度ゾーンともに温度条件は、絶対湿度が上記範囲内であれば特に限定されないが、省エネルギーの観点から20℃以上、50℃以下が好ましい。また、前記フィルム基材の厚さは平面性を維持できる厚さであれば特に限定されないが、25μmから100μmの厚さが好適である。25μm未満では十分な平面性が得られない場合がある。また、100μmを超えても平面性は向上しない。
【0049】
一方、少なくとも一層からなりかつ最表層の少なくとも一方がポリプロピレン樹脂からなる多孔質膜Aを用意し、次に、この多孔質膜Aの最表層のポリプロピレン樹脂の表面に対して上述のようにして形成された半ゲル状のフッ素系樹脂膜を、気泡を含まないように貼り合わせる。貼り合わせる方法としては、二方向から来たフィルムを一つの金属ロールの面上で合わせる方法がフィルムに与えるダメージが少なく好ましい。ここで半ゲル状とは、雰囲気中の水分の吸収による、フッ素系樹脂溶液のゲル化が進行する過程でゲル化した領域と、溶液状態を保持している領域が混在している状態を言う。
【0050】
半ゲル状のフッ素系樹脂膜上に、多孔質膜Aを張り合わせる時期は高湿度ゾーンを通過した直後、少なくとも10秒以内に張り合わせるのが好ましい。10秒を超えるとフッ素系樹脂膜の凝固が進み十分な多孔質膜Bの密着性が得られない場合がある。
【0051】
フッ素系樹脂膜の形成後、基材フィルムを剥離してもよいが、本発明の方法では、基材フィルムを剥離することなく多孔質膜Aをフッ素系樹脂膜に貼り合わせることが好ましい。この方法を用いる場合、弾性率が低く、加工時の張力によってネッキングするような柔らかい多孔質膜Aを用いる場合でも複合多孔質膜の製造が可能になる。具体的には、ガイドロール通過時に複合多孔質膜にシワ、折れが入らない、乾燥時のカールを低減できるなど工程作業性に優れる特徴が期待できる。この時、基材と複合多孔質膜を同時に巻き取っても、乾燥工程を通過してから基材と複合多孔質膜を別々の巻き取りロールに巻き取っても良いが、後者の巻き取り方法の方が巻きズレの恐れが少なく好ましい。
【0052】
次に、貼り合わされた多孔質膜Aとフッ素系樹脂膜を凝固浴に浸漬させて、フッ素系樹脂膜を相転換させて多孔質膜Bに変換させる。凝固浴の組成は、特に限定されないが、例えば、多孔質膜Bを構成するフッ素系樹脂に対する良溶媒を1〜20重量%、さらに好ましくは5〜15重量%含有する水溶液であることができる。凝固浴への浸漬により、多孔質膜Bは、全面に渡って多孔質膜Aに転写され、未洗浄の複合多孔質膜が得られる。これは多孔質膜Bの一部が多孔質膜Aの細孔に適度に食い込みアンカー効果が発現しているためである。
【0053】
さらに、上記の未洗浄多孔質膜を、純水などを用いた洗浄工程、及び100℃以下の熱風などを用いた乾燥工程に供し、最終的な複合多孔質膜を得ることができる。
【0054】
洗浄については、加温、超音波照射やバブリングといった一般的な手法を用いることができる。さらに、各浴槽内の濃度を一定に保ち、洗浄効率を上げるためには、浴間で多孔膜内部の溶液を取り除く手法が有効である。具体的には、空気または不活性ガスで多孔層内部の溶液を押し出す手法、ガイドロールによって物理的に膜内部の溶液を絞り出す手法などが挙げられる。
【0055】
なお、少なくともワニスを塗工する側の基材フィルム表面の線状オリゴマーの量は、20μg/m以上100μg/m以下であることが好ましく、さらに好ましくは30μg/m以上80μg/m以下である。基材フィルム表面の線状オリゴマーの量が20μg/m未満では、貼り合わされた状態の多孔質膜Aと多孔質膜Bの複合多孔質膜を基材フィルムから剥離する際に、多孔質膜Bが基材フィルムに残存してしまう場合があり、一方、100μg/mを超えると多孔質膜Bの塗工時に塗布斑が発生しやすくなるだけでなく、基材フィルム表面の線状オリゴマーによって搬送ロール等の工程汚染が発生する場合があり好ましくない。換言すれば、少なくともワニスを塗工する側の基材フィルム表面の線状オリゴマーの量が上記範囲であれば、多孔質膜Bの塗布時の均一性と、貼り合わされた状態の多孔質膜Aと多孔質膜Bの複合多孔質膜を基材フィルムから剥離する際の良好な転写性が両立しやすくなる。
【0056】
ここで言う線状オリゴマーの量とは、基材フィルムの原料となるポリエステル樹脂に由来する線状二量体、線状三量体、線状四量体の合計量をいう。例えばテレフタル酸とエチレングリコールを原料とするエチレンテレフタレートを主繰返し単位とするポリエステルの場合、線状二量体とは、一分子中にテレフタル酸単位を二つ有し、かつカルボン酸末端あるいは水酸基末端を持つオリゴマーを意味する。また、同様に線状三量体とは、一分子中にテレフタル酸単位を三つ有し、線状四量体とは、四つ有する以外は線状二量体と同様の末端基を有するものを意味する。
【0057】
線状オリゴマーを付与させるための表面処理方法は特に限定されないが、例えばコロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、オゾン処理が挙げられる。中でもコロナ放電処理は比較的容易にできるため特に好ましい。
【0058】
本発明の方法によれば、多孔質膜Aの最表層が比較的空孔率の小さいポリプロピレン樹脂からなる場合においても、密着性と透気抵抗度のバランスに優れた複合多孔質膜が得られる。
【0059】
本発明の複合多孔質膜は、目的幅にスリットされたポリプロピレン系多孔質膜を多孔質膜Aとして用いて作成することもできるが、ポリプロピレン多孔質膜作製時にオンラインで続いて加工することも可能である。ここでオンラインとは、ポリプロピレン多孔質膜の製造工程(具体的には、洗浄後の乾燥工程)後に、連続して多孔質膜Bを積層し、凝固、洗浄、スリットの各工程を経て目的とする複合多孔質膜を得る手段を言う。上記オンライン塗工を行うことで、大量生産が可能となり、コスト面で非常にメリットがある。
【0060】
本発明の複合多孔質膜は、乾燥状態で保存することが望ましいが、絶乾状態での保存が困難な場合は、使用の直前に100℃以下の減圧乾燥処理を行うことが好ましい。
【0061】
本発明の複合多孔質膜は、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、銀−亜鉛電池、リチウム二次電池、リチウムポリマー二次電池等の二次電池、およびプラスチックフィルムコンデンサ、セラミックコンデンサ、電気二重層コンデンサなどのセパレーターとして用いることができるが、特にリチウム二次電池のセパレーターとして用いるのが好ましい。以下にリチウム二次電池を例にとって説明する。
【0062】
リチウム二次電池は、正極と負極がセパレーターを介して積層されており、セパレーターは電解液(電解質)を含有している。電極の構造は特に限定されず、公知の構造であることができる。例えば、円盤状の正極及び負極が対向するように配設された電極構造(コイン型)、平板状の正極及び負極が交互に積層された電極構造(積層型)、帯状の正極及び負極が重ねられて巻回された電極構造(巻回型)等の構造とすることができる。
【0063】
正極は、集電体とその表面に形成されたリチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極活物質層とを有する。正極活物質としては、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物(リチウム複合酸化物)、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられ、遷移金属としては、V、Mn、Fe、Co、Ni等が挙げられる。正極活物質の中でリチウム複合酸化物の好ましい例としては、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、α−NaFeO型構造を母体とする層状リチウム複合酸化物等が挙げられる。
【0064】
負極は、集電体とその表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層とを有する。負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック等の炭素質材料が挙げられる。電解液はリチウム塩を有機溶媒に溶解することにより得られる。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、Li10Cl10、LiN(CSO、LiPF(CF、LiPF(C、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等の高沸点及び高誘電率の有機溶媒や、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキソラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の低沸点及び低粘度の有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。特に高誘電率の有機溶媒は粘度が高く、低粘度の有機溶媒は誘電率が低いため、両者を混合して用いるのが好ましい。
【0065】
電池を組み立てる際に、セパレーター(複合多孔質膜)に電解液を含浸させる。これによりセパレーターにイオン透過性を付与することができる。通常、含浸処理は多孔質膜を常温で電解液に浸漬して行う。例えば、円筒型電池を組み立てる場合、まず正極シート、セパレーター(複合多孔質膜)、及び負極シートをこの順に積層し、この積層体を一端より巻き取って巻回型電極素子とする。次にこの電極素子を電池缶に挿入し、上記電解液を含浸させ、さらに安全弁を備えた正極端子を兼ねる電池蓋を、ガスケットを介してかしめることにより電池を得ることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、実施例中の測定値は以下の方法で測定した。
【0067】
(1)膜厚
接触式膜厚計(ソニーマニュファクチュアリング社製 デジタルマイクロメーター M−30)を使用して測定した。
【0068】
(2)多孔質膜Aと多孔質膜B界面の剥離強度
実施例及び比較例で得られたセパレーターの多孔質膜B面に粘着テープ(ニチバン社製、405番;24mm幅)を貼り、幅24mm、長さ150mmに裁断し、試験用サンプルを作製した。
【0069】
23℃、50%RH条件下で引張り試験機[エー・アンド・デイ社製「テンシロンRTM−100」]を用いて、ピール法(剥離速度500mm/分、T型剥離)にて多孔質膜Aと多孔質膜B界面の剥離強度を測定した。測定開始から測定終了までの100mmの間において、経時的に測定し、測定値の平均値を算出し、幅25mm当たりの値に換算して剥離強度とした。なお、前記剥離界面において、多孔質膜A側に多孔質膜B面が残存する場合があるが、この場合も多孔質膜Aと多孔質膜B界面の剥離強度として算出した。
【0070】
(3)平均孔径
多孔質膜Aの平均孔径は以下の方法で測定した。試験片を測定用セルに上に両面テープを用いて固定し、プラチナまたは金を数分間真空蒸着させ、適度な倍率で測定を行った。SEM測定で得られた画像上で最も手前に観察される任意の10箇所を選択し、それら10箇所の孔径の平均値を試験片の平均孔径とした。なお、孔が略円形でない場合には、長径と短径を足して2で割った値を孔径とした。
【0071】
(4)透気抵抗度
テスター産業(株)社製のガーレー式デンソメーターB型を使用して、複合多孔質膜をクランピングプレートとアダプタープレートの間にシワが入らないように固定し、JIS P−8117に従って測定した。試料としては10cm角のものを2枚用意し、それぞれの試料について、試料の中央部と4隅を測定点として合計10点の測定を行い、10点の平均値を透気抵抗度[秒/100ccAir]として用いた。なお、試料の1辺の長さが10cmに満たない場合は5cm間隔で10点測定した値を用いてもよい。
【0072】
(5)対数粘度
フッ素系樹脂0.5gを100mlのNMPに溶解した溶液を25℃でウベローデ粘度管を用いて測定した。
【0073】
(6)融点
エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製の示差走査熱量計(DSC)DSC6220を用い、窒素ガス雰囲気下で樹脂試料5mgを昇温速度20℃/分で昇温したとき観察される融解ピークの頂点温度を融点とした。
【0074】
(7)空孔率
10cm角の試料を用意し、その試料体積(cm)と質量(g)を測定し、得られた結果から次式を用いて空孔率(%)を計算した。なお、10cm角試料の試料体積(cm)は、10(cm)×10(cm)×多孔質膜Aの厚み(cm)で求めることができる。
空孔率=(1−質量/(樹脂密度×試料体積))×100
【0075】
(8)基材フィルム表面の線状オリゴマーの量
フィルム2枚の抽出したい面同士を向かい合わせ、1枚につき25.2cm×12.4cm面積を抽出できるようスペーサーをはさんで枠に固定した。エタノール30mlを抽出面間に注入し、25℃で3分間、フィルム表面の線状オリゴマーを抽出した。抽出液を蒸発乾固した後、得られた抽出液の乾固残渣をジメチルホルムアミド200μlに定容した。次いで高速液体クロマトグラフィーを用いて、下記に示す方法で予め求めておいた検量線から線状オリゴマーを定量した。なお、線状オリゴマーの量は二量体、三量体、四量体の合計値とした。
【0076】
(測定条件)
装置:ACQUITY UPLC(Waters製)
カラム:BEH−C18 2.1×150mm(Waters製)
移動相:溶離液A:0.1%ギ酸(v/v)
溶離液B:アセトニトリル
グラジエントB%:10→98→98%(0→25→30分)
流速:0.2ml/分
カラム温度:40℃
検出器:UV−258nm
【0077】
実施例1
フッ素系樹脂としてポリフッ化ビニリデン(融点175 ℃、呉羽化学工業(株)社製、商品名:KFポリマー♯1120(ポリフッ化ビニリデン 12% N−メチルピロリドン溶液)をN−メチル−2−ピロリドンで希釈して、ワニス(a−1)(固形分濃度5.8重量%)を調合した。一連の作業は湿度10%以下の乾燥気流中で行い、吸湿を極力防止した。ワニス(a−1)の水分率は0.2重量%であった。厚み50μm、表面線状オリゴマー量68μg/mのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム表面にワニス(a−1)をブレードコート法にて塗布し、温度25℃、絶対湿度1.8g/mの低湿度ゾーンを8秒間、引き続き温度25℃、絶対湿度12g/mの高湿度ゾーンを5秒間で通過させて半ゲル状のフッ素系樹脂膜を形成させ、1.7秒後に多孔質膜A(ポリプロピレン製、厚み20μm、空孔率40%、平均孔径0.10μm、透気抵抗度600秒/100ccAir)を、上記の半ゲル状フッ素系樹脂膜に重ね、N−メチル−2−ピロリドンを5重量%含有する水溶液中に進入させ、その後、純水で洗浄した後、70℃の熱風乾燥炉を通過させることで乾燥し、最終厚み22.9μmの複合多孔質膜を得た。
【0078】
実施例2
低湿度ゾーンの絶対湿度を4.0g/mとした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0079】
実施例3
低湿度ゾーンの絶対湿度を5.5g/mとした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0080】
実施例4
高湿度ゾーンの絶対湿度を7.0g/mとした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0081】
実施例5
高湿度ゾーンの絶対湿度を16.0g/mとした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0082】
実施例6
低湿度ゾーン及び高湿度ゾーンの通過時間をそれぞれ5.3秒、3.0秒とし、高湿度ゾーン出口から多孔質膜Aを貼り合わせるまでの時間を1.1秒とした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0083】
実施例7
低湿度ゾーン及び高湿度ゾーンの通過時間をそれぞれ16.0秒、10.0秒とし、高湿度ゾーン出口から多孔質膜Aを貼り合わせるまでの時間を3.4秒とした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0084】
実施例8
多孔質フィルムAとしてポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造を有する多孔質膜(厚み25μm(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン=8μm/9μm/8μm)、空孔率40%、平均孔径0.10μm、透気抵抗度620秒/100ccAir)を用いた以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0085】
実施例9
多孔質フィルムAとしてポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造を有する多孔質膜(厚み20.5μm(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレ=6μm/8.5μm/6μm)、空孔率50%、平均孔径0.10μm、透気抵抗度320秒/100ccAir)を用いた以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0086】
実施例10
フッ素系樹脂としてポリ(ビニリデンフロライド―ヘキサフルオロプロピレン)共重合体(エルフ・アトケム・ジャパン社製KYNAR2800)に代えたワニス(b)(固形分濃度5.3重量%)を用いた以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0087】
実施例11
フッ素系樹脂としてポリフッ化ビニリデン(融点175 ℃、呉羽化学工業(株)社製、商品名:KFポリマー♯1120(ポリフッ化ビニリデン 12% N−メチルピロリドン溶液)32.6質量部及び平均粒径0.5μmのアルミナ粒子10.5質量部をN−メチル−2−ピロリドン48.4質量部で希釈して、さらにエチレングリコール8.5質量部を加え、酸化ジルコニウムビーズ(東レ社製、商品名「トレセラムビーズ」、直径0.5mm)と共に、ポリプロピレン製の容器に入れ、ペイントシェーカー(東洋精機製作所製)で6時間分散させた。次いで、濾過限界5μmのフィルターで濾過し、ワニス(c)(固形分濃度31.0重量%)を調合した。ワニス(a−1)をワニス(c)に代えた以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0088】
実施例12
アルミナ粒子を酸化チタン粒子(チタン工業社製、商品名「KR−380」、平均粒子径0.38μm)に代えたワニス(d)(固形分濃度31.0重量%)を用いた以外は実施例11と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0089】
実施例13
多孔質膜Bの塗布量を調整し、最終厚み21.9μmとした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0090】
実施例14
実施例1で得られたフッ素系樹脂溶液(a−1)を該樹脂溶液の体積比で10倍の水浴中に投入し、樹脂成分を沈降させた。次いで、樹脂固形物を十分水洗してNMPを除去した後、真空乾燥機を用いて180℃、24時間の条件で乾燥させた。その後、固形分濃度が14重量%となるようにN−メチル−2−ピロリドンで希釈してワニス(a−2)を調合した。ワニス(a−2)の水分率は0.05重量%であった。ワニス(a−1)をワニス(a−2)に代えた以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0091】
実施例15
低湿度ゾーンの絶対湿度を1.2g/mとした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0092】
実施例16
多孔質膜Bの塗布量を調整し、最終厚みを25.0μmとした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0093】
実施例17
表面線状オリゴマー量68μg/mのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの代わりに表面線状オリゴマー量25μg/mのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0094】
比較例1
低湿度ゾーンを温度25℃、絶対湿度7.0g/mとした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0095】
比較例2
高湿度ゾーンを温度25℃、絶対湿度5.0g/mとした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0096】
比較例3
実施例1で用いた多孔質膜Aにワニス(a−1)をブレードコート法にて塗布し、温度25℃、絶対湿度1.8g/mの低湿度ゾーンを8秒間、引き続き温度25℃、絶対湿度12g/mの高湿度ゾーンを5秒間で通過させ、次いで2秒後に、N−メチル−2−ピロリドンを5重量%含有する水溶液中に進入させ、その後、純水で洗浄した後、70℃の熱風乾燥炉を通過させることで乾燥し、最終厚み22.9μmの複合多孔質膜を得た。
【0097】
比較例4
実施例1で用いた多孔質フィルムAを事前にN−メチル−2−ピロリドンに浸漬して細孔内をN−メチル−2−ピロリドンで満たして用いた以外は比較例3と同様にして複合多孔質膜を得た。
比較例5
基材フィルムとして表面線状オリゴマー量68μg/mのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの代わりに表面線状オリゴマー量3μg/mポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜の作製を試みたが、基材フィルムから、貼り合わされた状態の多孔質膜Aと多孔質膜Bの複合多孔質膜を剥離する際に、多孔質膜Bがフィルム基材に残存し、複合多孔質膜は得られなかった。
【0098】
比較例6
高湿度ゾーンの絶対湿度25.5g/mとした以外は実施例1と同様にして複合多孔質膜を得た。
【0099】
実施例1〜17、比較例1〜6の複合多孔質膜の製造条件、並びに多孔質膜A及び複合多孔質膜の特性を表1に示す。
【0100】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の複合多孔質膜は、優れたフッ素系樹脂層の密着性と小さい透気抵抗度上昇幅が両立しており、電池の高容量化、高イオン透過性、および、電池組み立て加工工程における高速加工性に適し、特に電池用セパレーターに好適な複合多孔質膜である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一層からなりかつ最表層の少なくとも一方がポリプロピレン樹脂からなる多孔質膜Aの最表層のポリプロピレン樹脂の表面に対して、フッ素系樹脂を含む多孔質膜Bが積層された複合多孔質膜であって、多孔質膜Aが下記式(A)及び(B)を満足するものにおいて、複合多孔質膜が下記式(C)及び(D)を満足することを特徴とする複合多孔質膜。
0.01μm≦多孔質膜Aの平均孔径≦1.0μm ・・・・・式(A)
30%≦多孔質膜Aの空孔率≦70% ・・・・・式(B)
多孔質膜Aと多孔質膜Bの界面での剥離強度≧1.0N/25mm・・・・・式(C)
20≦Y−X≦100 ・・・・・式(D)
(Xは多孔質膜Aの透気抵抗度(秒/100ccAir)、Yは複合多孔質膜全体の透気抵抗度(秒/100ccAir)である)
【請求項2】
多孔質膜Aが、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの三層が積層されたものであることを特徴とする請求項1に記載の複合多孔質膜。
【請求項3】
フッ素系樹脂が、対数粘度0.5dl/g以上のフッ素系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合多孔質膜。
【請求項4】
以下の工程(i)〜(iii)を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合多孔質膜の製造方法。
工程(i):基材フィルム上にフッ素系樹脂溶液を塗布した後、絶対湿度6g/m未満の低湿度ゾーンを通過させ、次いで、絶対湿度6g/m以上25g/m以下の高湿度ゾーンを通過させて基材フィルム上にフッ素系樹脂膜を形成する工程、
工程(ii):少なくとも一層からなりかつ最表層の少なくとも一方がポリプロピレン樹脂からなる多孔質膜Aを用意する工程、および
工程(iii):工程(ii)の多孔質膜Aの最表層のポリプロピレン樹脂の表面に対して工程(i)で形成されたフッ素系樹脂膜を貼り合わせた後、凝固浴に浸漬させてフッ素系樹脂膜を多孔質膜Bに変換させ、洗浄、乾燥し、複合多孔質膜を得る工程。
【請求項5】
基材フィルムが、工程(iii)で複合多孔質膜を得た後に剥離されることを特徴とする請求項4に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
基材フィルムが厚さ25〜100μmのポリエステル系フィルム又はポリオレフィン系フィルムであることを特徴とする請求項4又は5に記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
基材フィルムの表面の線状オリゴマーの量が20μg/m以上100μg/m以下であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
工程(i)において低湿度ゾーンの通過時間が3秒以上20秒以下であり、高湿度ゾーンの通過時間が3秒以上10秒以下であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の複合多孔質膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の複合多孔質膜を含むことを特徴とする電池用セパレーター。

【公開番号】特開2012−61791(P2012−61791A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209147(P2010−209147)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】