説明

複合材の層間強度の評価方法

【課題】湾曲部を有する複合材について、種々の混合モードにおける層間強度を容易に評価する。
【解決手段】層間に所定の大きさの欠陥が導入された湾曲部と湾曲部を挟んで2つの平面部12a,12bとを有する複合材10に、一方の平面部12aにおける湾曲部の外側の湾曲面と同一面内にある面14aが固定され、他方の平面部12bに対して所定角度で荷重が負荷される場合について、FEM解析により算出された破壊力学パラメータから、所定角度でのモードIとモードII、及び、モードIとモードIIIとの混合比率がそれぞれ算出される混合比率算出工程と、上記複合材10に所定角度で荷重を負荷して層間強度を測定する強度測定工程と、所定の混合モードにおける複合材10の層間強度を取得する強度取得工程とを備える複合材10の層間強度の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材の層間剥離強度の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合材として、例えば炭素繊維などの繊維で強化された樹脂シートを積層させて作製される樹脂基複合材がある。樹脂基複合材は、軽量で高強度であるため、航空機、自動車、船舶等の構造部材として広く用いられている。
樹脂基複合材では、層間強度が面内強度の1/10程度と小さい。また、樹脂基複合材の製造工程において、シート状のプリプレグを重ねる際にシート間に異物が挟みこまれることがある。異物が存在している箇所ではシート同士が接着されず、異物が存在している箇所を起点として、層間剥離が発生して層間強度が低下する。そのため、異物混入を想定した複合材の層間強度評価が重要となっている。
【0003】
JIS K 7086(非特許文献1)には、層間に欠陥が導入された平板の炭素繊維強化プラスチックについて、モードI(開口型)及びモードII(面内せん断型)それぞれの変形モードを付与したときの破壊靭性値を測定する方法が規定されている。
【0004】
また、例えばL字型に湾曲された湾曲部を有する繊維強化プラスチック部材について、湾曲部に導入された欠陥にモードIの変形を付与する試験(腰曲げ試験)、及び、モードIIの変形を付与する試験(水平方向への引張試験)を実施して、各々のモードでの破壊靭性値を測定することが、一般的に行われている。
【0005】
一方、ASTM D6671(非特許文献2)には、平板の繊維強化プラスチック基材に対し、モードIとモードIIの混合モードを付与し、破壊靭性値を測定する方法が規定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本工業規格 JIS K 7086 「炭素繊維強化プラスチックの層間破壊靭性試験方法」
【非特許文献2】米国材料試験協会規格 ASTM D6671 “Standard Test Method for Mixed Mode I-Mode II Interlaminar Fracture Toughness of Unidirectional Fiber Reinforced Polymer Matrix Composites”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献2の試験方法は、荷重条件設定及び冶具設定が複雑であるため、試験を簡便に実施できない。
また、湾曲部を有する部材について、モードIII(面外せん断型)での破壊靭性を測定する方法、及び、混合モードでの破壊靭性を測定する方法は確立されていない。
【0008】
本発明は、湾曲部を有する複合材について、種々の混合モードにおける層間剥離強度を容易に評価する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、層間に所定の大きさの欠陥が導入された湾曲部と該湾曲部を挟んで2つの平面部とを有する複合材に、一方の前記平面部における前記湾曲部の外側の湾曲面と同一面内にある面が固定されるとともに、他方の前記平面部に対して所定の角度で荷重が負荷される場合について、前記欠陥でのモードI、モードII及びモードIIIの破壊力学パラメータが、FEM解析を用いてそれぞれ算出され、該算出された破壊力学パラメータから、前記所定の角度での前記モードIと前記モードIIとの混合比率、及び、前記モードIと前記モードIIIとの混合比率が算出される混合比率算出工程と、前記FEM解析に適用された前記欠陥と同一の大きさを有する欠陥が導入された前記複合材の一方の平面部における前記湾曲部の外側の湾曲面と同一面内にある面が固定され、該固定された複合材の他方の平面部に所定の角度で荷重を負荷して、層間強度を測定する強度測定工程と、対応する角度における前記層間強度の値と、前記モードIと前記モードIIとの混合比率、及び、前記モードIと前記モードIIIとの混合比率とを関連付けて、所定の混合モードにおける前記複合材の層間強度を取得する強度取得工程とを備える複合材の層間強度の評価方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、湾曲部を有する複合材に負荷する荷重の角度を変えることにより、モードIとモードIIとの混合モード、及び、モードIとモードIIIとの混合モードについて、種々の混合比率における複合材の層間剥離強度を、従来よりも簡便な方法により評価することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、任意の大きさの欠陥が導入された湾曲部を有する複合材について、種々の混合モードでの層間剥離強度を容易に評価することができる。
本発明によりえられた種々の混合モードでの層間剥離強度から、航空機などの構造部材の破壊靭性値の許容範囲を設定でき、許容される欠陥寸法を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】評価対象となる複合材の一例を示す概略図である。
【図2】欠陥の各変形モードを表す概略図である。
【図3】本発明の複合材の層間剥離強度を評価する方法を説明する概略図である。
【図4】破壊力学パラメータの荷重負荷角度依存性を表すグラフの一例である。
【図5】破壊力学パラメータから求められた混合比率GII/(G+GII)の荷重負荷角度依存性を示すグラフである。
【図6】板厚方向の初期剥離位置とFEM解析により求められた破壊力学パラメータとの相関を表すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の複合材の層間剥離強度の評価方法の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、評価対象となる複合材の一例を示す概略図である。複合材10は、例えば繊維強化樹脂シートを複数積層させて構成される樹脂基複合材とされる。図1に示す複合材10は、L字型の湾曲部11を有する。湾曲部11の形状は、図1では平板を90°に折り曲げたL字型(すなわち、湾曲部の内角が90°)とされるが、これに限定されず、湾曲部11の内角が鈍角または鋭角であっても良い。
複合材10の湾曲部11を挟んで両側は、平面部12とされる。
【0014】
複合材10は、炭素繊維やガラス繊維などの繊維をエポキシ樹脂などで固定した繊維強化樹脂を主とする樹脂シート(プリプレグ)を複数枚積層されて構成されている。湾曲部11には、所定の大きさの欠陥13が導入されている。
【0015】
本実施形態の複合材の層間剥離強度の評価方法を、以下に説明する。
(1)混合比率算出工程
図1に示される評価対象となる複合材及び欠陥の寸法が決定される。複合材10は矩形とされ、湾曲される辺の長さがLとされ、湾曲部11に平行な辺の長さがWとされる。
欠陥13は、湾曲部11内部に配置される。板厚方向において欠陥13が配置される位置は、最も応力の高い場所とすることが好ましい。欠陥13は矩形とされ、辺Lに平行な辺の長さがaとされ、幅Wに平行な辺の長さがbとされる。欠陥13は、複合材10の辺Wに対して中央に配置され、辺Lから見た断面において湾曲部11の中央部に配置される。また、欠陥13の板厚方向の位置は、内側の湾曲面からの距離tとされる。
【0016】
欠陥の変形モードは、図2に示すように、亀裂がy方向に開口する型がモードI、亀裂がx方向にずれる型がモードII、亀裂がz方向にずれる型がモードIIIとされる。
図1の場合、欠陥において板厚方向に亀裂が開口する型がモードI、辺a上でのずれがモードII、辺b上でのずれがモードIIIに対応する。
【0017】
上記欠陥が導入された複合材について、各変形モードにおける破壊力学パラメータをFEM計算で算出する。計算では、以下のように仮定する。
図3は、本実施形態の複合材の層間剥離強度を評価する方法を説明する概略図である。複合材10は、図3に示される面が固定される。具体的に、辺Lが直線となる平面部の一方12aにおいて、湾曲部11の外側の湾曲面と同一面内にある固定面14aが冶具15に固定される。
【0018】
固定されていない他方の平面部12bに荷重が負荷される。荷重は、辺L側から見た断面面内において、平面部12bに対して所定の角度で負荷される。図3に示すように、平面部12bと荷重方向がなす角θは、平面部12bを湾曲部の方へ圧縮する方向をマイナス(−)、平面部12bを湾曲部から引っ張る方向をプラス(+)とされる。なお、図3において、辺Wと平行な方向に対する荷重負荷角度は0°とされる。
【0019】
上記L、W、a、b、t、複合材の板厚t、湾曲部の曲率半径をパラメータとして、FEM解析により、所定の角度θで任意の大きさの荷重が負荷された場合のモードI、モードII、及びモードIIIの破壊力学パラメータG,GII,GIIIが算出される。なお解析では、複合材の材料特性は、公知の物性を用いた。
【0020】
図4は、破壊力学パラメータの荷重負荷角度依存性を表すグラフの一例である。同図において、縦軸は破壊力学パラメータ(任意スケール)、横軸は荷重負荷角度である。
図4には、図1にA点で示される欠陥の先端(荷重が負荷される側と反対の辺b上の点)でのモードI及びモードIIの破壊力学パラメータG、GIIが示されている。欠陥の大きさを、a=b、a/L≪1、b/W≪1(複合材に比べて欠陥が十分に小さい場合)と仮定して算出した。FEM解析には、任意の材料特性を適用した。
図4に示すように、荷重の負荷角度θを変えることにより、破壊力学パラメータG、GIIの値が変化する。
【0021】
FEM解析により求められた破壊力学パラメータから、各荷重負荷角度でのモードI及びモードIIの混合比率GII/(G+GII)を取得する。図5は、図4に示される破壊力学パラメータから求められた混合比率GII/(G+GII)の荷重負荷角度依存性を示すグラフである。同図において、縦軸は混合比率、横軸は荷重負荷角度である。なお、破壊力学パラメータG、GIIは荷重値により変化するが、混合比率GII/(G+GII)は荷重の大きさに依存しない値となる。
図5に示されるように、荷重の負荷角度が変化することにより、混合比率が変化する。荷重の負荷角度が+45°の時、混合比率はGII/(G+GII)=0となり、変形モードはモードIとされる。荷重の負荷角度が90°の時、混合比率はGII/(G+GII)=1となり、変形モードはモードIIとされる。
【0022】
上記と同様にして、FEM解析により種々の角度で荷重が負荷された場合のモードI及びモードIIIの破壊力学パラメータG,GIIIが算出される。更に、破壊力学パラメータG,GIIIから、混合比率GIII/(G+GIII)の荷重負荷角度依存性が取得される。
【0023】
FEM解析による計算において設定される欠陥の比率a/bを変化させることにより、破壊力学パラメータG,GII,GIIIの値が変化する。これにより、混合比率GII/(G+GII)とGIII/(G+GIII)とのバランスを変えることができる。
例えば、a/L=1(a/b=∞)の場合、辺L方向に複合材を貫通する欠陥が導入されることになる。この場合、辺a上の欠陥端部は、モードIとモードIIIの混合モードにより変形する。
また、b/W=1(a/b≒0)の場合、辺W方向に複合材を貫通する欠陥が導入されることになる。この場合、荷重が負荷される側及びその反対の辺b上の欠陥端部は、モードIとモードIIの混合モードにより変形する。
【0024】
(2)強度測定工程
図1に示される複合材10が作製される。複合材10の作製では、内側の湾曲面11からの距離tに相当する層間に欠陥13とされるフィルムが挿入されるように、プリプレグを積層させる。ここで挿入されるフィルムは、例えばホリイミドフィルム、ポリテトラフルオロエチレン、アルミニウム箔などとされる。フィルムの大きさは、(1)でのFEM解析に適用した欠陥13と同じ大きさとされる。すなわち、一辺がa,bとされるフィルムがプリプレグの間に挿入される。
積層されたプリプレグは、図1に示す形状(FEM解析対象とした複合材と同じ形状)となるように湾曲された後、加熱されて硬化される。
【0025】
硬化された複合材10は、(1)と同じ面14aが冶具15で固定される(図3参照)。要すれば,治具15の仕様に応じて,複合材10に加工を施す。
冶具15で固定されていない方の平坦部12bに対し、所定の角度で荷重が負荷される。荷重の大きさは、例えば50kgf〜500kgf程度とされる。
【0026】
荷重の負荷角度は、FEM解析での荷重負荷角度と同様とされる。
辺Wと平行な方向に対する荷重負荷角度は0°とされる。−90°<θ≦0°の場合は、平坦部12bの内側の湾曲面と同一面内にある面(図3における16a)に対して荷重が負荷される。0°≦θ<+90°の場合、平坦部12bの外側の湾曲面と同一面内にある面(図3における16b)を引っ張る方向に、荷重が負荷される。θ=−90°及び+90°の場合は、複合材10の側面(図3における16c)に荷重が負荷される。
上記はあくまで一例であり、治具15と複合材10との組み合わせにより荷重負荷方向は変化されても良い。ただし、FEM解析を行う際は、治具15及び複合材10の組み合わせを考慮した境界条件が設定される必要がある。
【0027】
複合材に上記荷重が負荷され、剥離(欠陥)が進展を開始したときの荷重が、層間剥離強度として測定される。
【0028】
(3)強度取得工程
(1)で求められた荷重負荷角度と混合比率との関係と、(2)で測定された各々の荷重負荷角度での層間剥離強度とを対応させる。すなわち、同じ荷重負荷角度のとき、その混合比率での混合モードにおける複合材の層間剥離強度とみなす。
【0029】
本実施形態により得られた種々の混合比率(混合モード)での層間剥離強度から、複合材からなる構造部材の破壊靭性値の許容範囲を決定することができ、許容される欠陥寸法を設定することができる。
【0030】
許容欠陥寸法設定方法の例を、以下に具体的に説明する。
図6は、板厚方向の初期剥離(欠陥)位置とFEM解析により求められた破壊力学パラメータとの相関を表すグラフの一例である。図6は、荷重負荷角度0°、a=b=12.7mm、a/L≪1、b/W≪1の条件での結果である。同図において、横軸は板厚方向の剥離位置、縦軸はモードIについて破壊限界の破壊力学パラメータGIC(破壊靭性値)に対する欠陥位置での破壊力学パラメータGの割合である。なお、板厚方向の剥離位置は、複合材の板厚tに対する欠陥の内側の湾曲面からの距離tの割合として表した。
【0031】
図6に示すように、湾曲部を有する複合材に任意荷重を与える場合、初期剥離の板厚方向の距離tに応じて破壊力学パラメータ値は異なる。図6では、t/t=30%の場合G/GIC≒0.85であり、t/t=50%の場合G/GIC≒0.70である。
例えば、構造材の設計においてG/GIC<0.9と設定する場合、モードIにおける初期剥離の許容寸法は、図6の取得で用いられたa=b=12.7mmよりも大きくなる。また、t/t=50%の方がG/GICが低いことから、t/t=30%よりも初期剥離の許容寸法を大きくすることができる。
【0032】
板厚方向の初期剥離位置と各変形モードでの破壊力学パラメータとの相関を表すグラフは、種々の荷重負荷角度について取得される。こうすることで、板厚方向の初期剥離の位置及び荷重負荷角度に応じた各変形モードでの許容欠陥寸法を設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
10 複合材
11 湾曲部
12,12a,12b 平面部
13 欠陥
14a 固定面
15 冶具
16a,16b,16c 荷重が負荷される面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間に所定の大きさの欠陥が導入された湾曲部と該湾曲部を挟んで2つの平面部とを有する複合材に、
一方の前記平面部における前記湾曲部の外側の湾曲面と同一面内にある面が固定されるとともに、他方の前記平面部に対して所定の角度で荷重が負荷される場合について、前記欠陥でのモードI、モードII及びモードIIIの破壊力学パラメータが、FEM解析を用いてそれぞれ算出され、
該算出された破壊力学パラメータから、前記所定の角度での前記モードIと前記モードIIとの混合比率、及び、前記モードIと前記モードIIIとの混合比率が算出される混合比率算出工程と、
前記FEM解析に適用された前記欠陥と同一の大きさを有する欠陥が導入された前記複合材の一方の平面部における前記湾曲部の外側の湾曲面と同一面内にある面が固定され、
該固定された複合材の他方の平面部に所定の角度で荷重を負荷して、層間強度を測定する強度測定工程と、
対応する角度における前記層間強度の値と、前記モードIと前記モードIIとの混合比率、及び、前記モードIと前記モードIIIとの混合比率とを関連付けて、所定の混合モードにおける前記複合材の層間強度を取得する強度取得工程とを備える複合材の層間強度の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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