説明

複合材料、複合材料基材、複合材料分散液、及びそれらの製造方法

【課題】 スート等の炭素含有成分、HC、CO又はNO等の成分をより低温で十分に酸化することが可能な酸化触媒等として非常に有用な複合材料を提供すること。
【解決手段】 価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなることを特徴とする複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料及びその製造方法、その複合材料を用いた複合材料基材、並びに複合材料分散液及びそれを用いた複合材料基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンについては、排気の厳しい規制とそれに対処できる技術の進歩とにより、排気中の有害成分は確実に減少している。しかし、ディーゼルエンジンについては、排気中にパティキュレート(粒子状物質:炭素微粒子からなるスート、可溶性有機成分(SOF)等、以下「PM」という)が含まれていることから、排気浄化のための技術的課題が多く残されている。
【0003】
そこで近年では、PM、なかでもスート成分を低温から酸化することのできる酸化触媒の開発が行われている。例えば、特開2004−42021号公報(特許文献1)においては、銀(Ag)及び/又はコバルト(Co)で安定化されたセリア(CeO)を有する触媒組成がDPFの再生中のすす酸化を促進することが開示され、Agとセリアのモル比は4:1〜1:4(CeとAgの合計量に対するAgの含有量(モル%)は20mol%〜80mol%に相当)が好ましく、3:1〜1:3(CeとAgの合計量に対するAgの含有量(モル%)は33mol%〜67mol%に相当)がより好ましいことが記載されている。そして、Agの含有量が75mol%でCeの含有量が25mol%の混合物について活性度が最大であったとされている。また、Agの含有量が25mol%でCeの含有量が75mol%の混合物では、唯一の酸化剤として酸素を用いてもすす酸化に関して活性であり、この場合に気相中に活性酸素種を生成することができると示されている。なお、特許文献1に記載されている触媒の製造方法は、セルロース材料(Whatman(登録商標)フィルタペーパー540)に硝酸塩前駆体を含浸させ、室温で一晩乾燥させた後に600℃、2時間の条件でセルロースを燃やすことにより、約70〜200Å程度に集中した多孔性と14〜150m/gの高比表面積を有する触媒組成を得る方法である。
【0004】
このような特許文献1における評価方法は大きく2つあり、一つはディーゼルすすと触媒組成をへらによりloose−contactせしめたものを酸素10%雰囲気等でTGAにより分解速度を測定する方法であり、もう一つはDPFにより圧損バランス試験を行う方法である。そして、例えばAgの含有量が75mol%の触媒組成についてのTGA評価では、NO:1010ppm、O:10%という好条件で且つ最良の触媒組成であっても323℃における酸化速度は0.117hr−1である。すなわち、NOという強力な酸化剤が十分に存在する条件であっても、1時間に酸化されるスートの割合は11.7%にすぎない。一方、圧損バランス試験においては、Ag−Ce系であるCPF−15では325℃付近でほぼPMを酸化できていることになっているが、この試験結果は先の試験結果と矛盾していることから、実際の圧損バランス試験においてはスート成分のすり抜け等が生じていると本発明者らは考えており、文献1に記載の触媒組成、すなわち単純にAg及びCeO又はCo及びCeOが存在するのみでは、スート等の炭素含有成分、HC、CO又はNO等の成分を低温で十分に酸化することはできなかった。
【特許文献1】特開2004−42021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、スート等の炭素含有成分、HC、CO又はNO等の成分をより低温で十分に酸化することが可能な酸化触媒等として非常に有用な複合材料及びそれを用いた複合材料基材、並びにそのような複合材料及び複合材料基材を効率良く且つ確実に得ることができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子に、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子が担持された構造とすることにより、スート等の炭素含有成分、HC、CO又はNO等の成分をより低温で十分に酸化することが可能な酸化触媒等として非常に有用な複合材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の複合材料は、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなることを特徴とするものである。
【0008】
上記本発明にかかる前記第二の金属酸化物微粒子を構成する第二の金属酸化物が、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Zr、Fe、Ti、Al、Mg、Co、Ni、Mn、Cr、Mo、W及びVの酸化物、これらの固溶体、並びにこれらの複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0009】
また、上記本発明にかかる前記金属酸化物微粒子が、前記Ag超微粒子により生成された酸素活性種を移動することが可能な酸素活性種移動材からなる酸素活性種移動材粒子であることが好ましく、中でも、前記酸素活性種移動材がCeO又はCeを含む複合酸化物であり、La、Nd、Pr、Sm、Y、Ca、Ti、Fe、Zr及びAlからなる群から選択される少なくとも一種を添加金属として更に含有していることが特に好ましい。
【0010】
このような本発明の複合材料においては、大気中500℃で5時間焼成した後の前記金属酸化物微粒子の平均一次粒径が1〜75nmであることが好ましい。また、このような本発明の複合材料は、酸化触媒等として非常に有用である。
【0011】
本発明の複合材料の第一の製造方法は、
Agの塩と価数変動可能な金属の塩とを含有する溶液から、Ag粒子が価数変動可能な金属の塩に由来する金属化合物微粒子により覆われている凝集体を生成せしめる工程と、
得られた凝集体から前記Agの一部を酸により溶出せしめた後に焼成することによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなる複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0012】
上記本発明の複合材料の第一の製造方法においては、前記凝集体から前記Agの一部を酸により溶出せしめる際に、アルカリを添加して前記溶出を停止せしめることが好ましい。
【0013】
また、本発明の複合材料の第二の製造方法は、
Agの塩と価数変動可能な金属の塩とを含有する溶液から、Ag粒子が価数変動可能な金属の塩に由来する金属化合物微粒子により覆われている凝集体を生成せしめる工程と、
得られた凝集体から前記Agの少なくとも一部を酸により溶出せしめる工程と、
前記金属化合物微粒子の表面にアルカリの存在下でAg超微粒子を担持せしめた後に焼成することによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなる複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0014】
さらに、本発明の複合材料の第三の製造方法は、
価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子の表面を酸により溶解せしめる工程と、
前記金属酸化物微粒子の表面にアルカリの存在下でAg超微粒子を担持せしめることによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなる複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0015】
前記本発明の複合材料の第一〜第三の製造方法において、前記アルカリがアンモニアであることが特に好ましい。
【0016】
本発明の複合材料基材は、基材と、上記本発明の複合材料とを備えることを特徴とするものである。このような本発明の複合材料基材は、排気浄化基材等として非常に有用である。
【0017】
本発明の第一の複合材料分散液は、上記本発明の複合材料と、分散媒とを含有していることを特徴とするものである。かかる本発明の第一の複合材料分散液は、バインダーを更に含有していてもよい。
【0018】
また、本発明の第二の複合材料分散液は、上記本発明の複合材料の第一又は第二の製造方法の過程で得られた焼成前の複合材料と、分散媒とを含有していることを特徴とするものである。
【0019】
さらに、本発明の複合材料基材の製造方法は、上記本発明の第一又は第二の複合材料分散液を基材に接触させた後に焼成することによって複合材料基材を得ることを特徴とする方法である。
【0020】
なお、本発明の複合材料の製造方法により本発明の複合材料が得られるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の複合材料の第一及び第二の製造方法においては、先ず、反応溶液中に価数変動可能な金属の塩に由来する金属化合物微粒子(固体状の金属酸化物前駆体)が生成し、それがAgの塩に由来するAgイオン又はAg化合物に対して還元剤として作用して、いわゆる銀鏡反応に類似した還元反応が進行する。このように還元法による無電解めっき反応において還元剤が固体である場合には、その固体の表面上で金属の析出反応が進行しながら、析出したAgが固体状の還元剤(金属化合物微粒子)に覆われる形態となる。そのため、金属化合物微粒子が核となるAg粒子を包み込む形で反応が進行し、Ag粒子の周りに金属化合物微粒子が凝集すると凝集体のゼータ電位が変化し、それによって凝集体同士に反発力が生じ、またこの状態が熱力学的に安定であることから、粒径の揃ったナノレベルの凝集体が生成するものと本発明者らは推察する。
【0021】
そして、本発明の複合材料の第一の製造方法においては、得られた凝集体からAgの一部を酸処理により溶出せしめる際に、金属酸化物と電子の授受が可能であるAg超微粒子は酸による溶解処理によっても溶出しにくいため、核となっているAg粒子が優先的に溶解してAg超微粒子が残存することとなり、さらにAg粒子が溶解する過程において酸によるエッチング作用によりAg超微粒子が形成され易くなる。したがって、このようにして酸処理された材料を焼成することによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子に平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子が担持された複合材料が得られるようになる。
【0022】
また、本発明の複合材料の第二の製造方法においては、得られた凝集体からAgの少なくとも一部を酸処理により溶出せしめる際に酸によるエッチング作用によりAg超微粒子が形成され易くなり、さらに金属化合物微粒子の表面にアルカリ処理により水酸基が形成され、その水酸基とAgが原子レベルで反応することによってAg超微粒子が形成されることになる。したがって、このようにして酸処理された後にアルカリの存在下でAgイオンを反応せしめた材料を焼成することによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子に平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子が担持された複合材料が得られるようになる。
【0023】
さらに、本発明の複合材料の第三の製造方法においては、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子の表面を酸処理により溶解せしめる際に酸によるエッチング作用によりAg超微粒子が形成され易くなり、さらに金属化合物微粒子の表面にアルカリ処理により水酸基が形成され、その水酸基とAgが原子レベルで反応することによってAg超微粒子が形成されることになる。したがって、このようにして酸処理された後にアルカリの存在下でAgイオンを反応せしめた材料を焼成することによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子に平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子が担持された複合材料が得られるようになる。
【0024】
また、本発明の複合材料を酸化触媒として用いた場合に、スート等の炭素含有成分、HC、CO、NO等の成分を含酸素物質が存在する雰囲気においてより低温で十分に酸化することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。以下、金属酸化物微粒子として酸素活性種移動材粒子、含酸素物質として酸素を用いて炭素含有成分を酸化する場合を例にして説明する。
【0025】
本発明の酸化触媒においては、Ag超微粒子が、含酸素物質から酸素を遊離させ酸素活性種を生成する酸素遊離材粒子としての役割を担っていると本発明者らは推察する。本発明にかかるAg超微粒子は、少なくとも一部がAg2+として検出されるものである。そして、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子上にAgを配置することにより、価数変動可能な金属元素とAgとの電子のやりとりによりAg2+が生成し易くなる。こうして生成したAg2+は、電子スピン共鳴(ESR)により検出可能である。また、Ag2+として検出されるのは、孤立して存在するAg原子である。なお、Ag超微粒子の全てが原子状である必要はなく、平均一次粒径がなるべく小さくなるようにAgを担持すれば、その一部は孤立して存在してAg2+として存在することが可能となる。
【0026】
このようなAg超微粒子から酸素活性種が生成されるメカニズムは必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、前述のようにAg超微粒子の少なくとも一部は、価数変動可能な金属元素との電子の授受によってAg2+として存在する。なお、Agイオンは+1、+2、+3価を取り得るが、+1価が最も安定である。しかし、Agが超微粒子として存在するとAgと価数変動可能な金属元素がさらに電子の授受を行うためAg2+をとることが可能となり、このような電子の授受の際に酸素活性種が生成されるようになるものと本発明者らは推察する。
【0027】
そして、本発明の酸化触媒においては、Ag超微粒子により比較的低温でも含酸素物質から酸素が遊離され、遊離されて生成した酸素活性種(O:例えば酸素イオン)が酸素活性種移動材粒子(金属酸化物微粒子)により炭素含有成分の表面に移動され、そこで表面酸化物が形成される。なお、このような表面酸化物のCとOの結合は、主にC=O、C=C及びC−Oに分類できることが知られている(Applied Catalysis B,50,185−194(2004))。次いで、このようにして形成された表面酸化物が気相酸素により、或いは酸素活性種移動材粒子を介して移動してくる酸素活性種により酸化される。このようにして、炭素含有成分の周囲から酸化された部分が除去され、炭素含有成分は縮小していき、最終的に完全に酸化されて炭素含有成分は消失する。
【0028】
このように、本発明の酸化触媒においては、酸素活性種の酸化作用によりスート等の炭素含有成分を低温で十分に酸化することが可能となると本発明者らは推察する。なお、本発明の酸化触媒を用いてスート等の炭素含有成分以外を酸化する場合においても、また、含酸素物質が酸素以外の場合でも、酸素活性種が生じて同様な機構により、スート等の炭素含有成分、HC、CO、又はNO等の成分を酸化できる。
【0029】
なお、本発明において、このような含酸素物質としては、Oの他に、NO、SO、O、過酸化物、超酸化物、カルボニル化合物、アルコール化合物、エーテル化合物、ニトロ化合物等の酸素原子を含有する化合物であって、スート等の炭素含有成分、HC、CO、NO等の成分を酸化する雰囲気において気体となっているものを例示することができる。
【0030】
また、酸素活性種としては、O、O、O2−が例示される。酸素分子は、触媒上で電子を与えられるにしたがって、O→O→2O→2O2−といった酸素種に活性化されることが知られている。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、スート等の炭素含有成分、HC、CO又はNO等の成分をより低温で十分に酸化することが可能な酸化触媒等として非常に有用な複合材料及びそれを用いた複合材料基材、並びにそのような複合材料及び複合材料基材を効率良く且つ確実に得ることができる製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0033】
先ず、本発明の複合材料について説明する。すなわち、本発明の複合材料は、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなることを特徴とするものである。
【0034】
なお、本発明にかかるAg超微粒子及び金属酸化物微粒子そのものは一次粒子であり、前者が後者により覆われてなる二次粒子や後者が凝集してなる二次粒子を「凝集体(又は一次凝集体)」、さらにそのような凝集体が集合してなる三次粒子を「集合体(又は二次凝集体)」と称する。
【0035】
本発明の複合材料においては、Ag超微粒子が必須構成要素として用いられる。このようなAgは、含酸素物質からの酸素の遊離と酸素原子との結合性とのバランスがよく、含酸素物質から酸素を遊離させ酸素活性種を生成する酸素遊離材として機能するものである。そして、このようなAg超微粒子によって、効率的にPM等を酸化する反応系に酸素原子を取り込むことが可能となる。また、このようなAg超微粒子(酸素遊離材)は、含酸素物質捕捉材として機能することもある。そのため、このようなAg超微粒子によって、より低温から大量の酸素活性種を炭素含有成分、HC、CO又はNO等の成分に供給して酸化を促進することが可能となる。
【0036】
本発明にかかるAg超微粒子においては、その少なくとも一部が+2価となっているAg2+として検出されるものであることが必要である。Ag2+が存在しないと、含酸素物質からの酸素の遊離が十分に達成されず、炭素含有成分、HC、CO、又はNO等の成分を酸化する能力が低下する。
【0037】
なお、本発明にかかるAg超微粒子におけるAg2+の存在比は特に制限されないが、ESRにより検出可能である程度以上含まれることが好ましい。
【0038】
本発明にかかるAg超微粒子を構成するAgは、Agを単独で用いたものが好ましいが、AgとAg以外の他の金属とからなる合金であってもよい。また、Ag超微粒子は、その一部が、酸化物を形成していてもよく、他の元素との化合物を形成していてもよい。前記Ag超微粒子の一部が酸化物や化合物を形成している場合、Agの含有率が0.3質量%以上であることが好ましい。
【0039】
また、本発明にかかるAg超微粒子は、平均一次粒径が0.3〜30nmであることが必要であり、0.3〜20nmであることがより好ましい。Ag原子の大きさが0.3nm程度であることから平均一次粒径が0.3nm未満のAg超微粒子は理論上存在し得ず、他方、Ag超微粒子の平均一次粒径が30nmを超えると、Ag2+が孤立して存在しにくくなる。
【0040】
本発明にかかる金属酸化物微粒子を構成する金属としては、前記酸素活性種を移動することが可能な酸素活性種移動材であることが好ましく、このような観点から価数変動可能な金属が用いられる。このような第二の金属の酸化物としては、、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Zr、Fe、Ti、Al、Mg、Co、Ni、Mn、Cr、Mo、W及びVの酸化物、これらの固溶体、並びにこれらの複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、CeO、Fe、ZrO、Y、TiO、Al、MgO、Co、Pr、Nd、これらの固溶体、及びこれらの複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましく、中でもCeO及びCeを含む複合酸化物が特に好ましい。また、本発明にかかる金属酸化物においては、酸素活性種を移動させるためにある程度の欠陥を有するものが好ましい。
【0041】
本発明にかかる金属酸化物がCeO又はCeを含む複合酸化物の場合には、酸素活性種の移動度を高めると共にCeO粒子又はCeを含む複合酸化物粒子の粗大化をより確実に防止するために、La、Nd、Pr、Sm、Y、Ca、Ti、Fe、Zr及びAlからなる群から選択される少なくとも一種(特に好ましくはLa及び/又はNd)を添加金属として更に含有していることがより好ましい。なお、このような添加成分を含有する場合、Ceと添加成分の合計量に対して添加成分の含有量が1〜30mol%程度が好ましく、5〜20mol%程度がより好ましい。
【0042】
このような本発明にかかる金属酸化物微粒子の粒径は、特に限定されないが、大気中500℃で5時間焼成した後の平均粒径が1〜75nm(より好ましくは8〜20nm、更に好ましくは8〜15nm)であることが好ましく、また、酸素10容量%及び窒素90容量%からなる雰囲気中800℃で5時間焼成した後の平均粒径が8〜100nm(より好ましくは8〜60nm、更に好ましくは8〜40nm)であることが好ましい。金属酸化物微粒子の上記平均粒径が上記下限未満ではスート等の炭素含有成分との接触が阻害される傾向にあり、他方、上記上限を超えると酸素活性種が金属酸化物上を移動しにくくなる傾向にある。
【0043】
本発明の複合材料は、前記の金属酸化物微粒子と前記のAg超微粒子とからなるものであり、かかる金属酸化物微粒子とAg超微粒子との比率は特に限定されないが、Ag超微粒子を構成するAgと金属酸化物微粒子を構成する主たる金属との合計量に対するAg超微粒子を構成するAgの比率(モル比)が1〜40mol%であることが好ましく、1〜30mol%であることがより好ましい。Ag超微粒子を構成するAgの量が上記下限より少ないと、気相から遊離される酸素活性種の量が低下して炭素含有成分、HC、CO又はNO等の成分を酸化する能力が低下する傾向にあり、他方、金属酸化物微粒子を構成する主たる金属の量が上記下限より少ないと、炭素含有成分、HC、CO又はNO等の成分に移動できる酸素活性種の量が低下して炭素含有成分を酸化する能力が低下する傾向にある。
【0044】
このような本発明の複合材料の平均粒径は特に制限されないが、0.005〜0.5μmであることが好ましく、0.005〜0.2μmであることがより好ましい。本発明の複合材料においては平均粒径が上記下限未満のようなものを得ることが困難となる傾向にあり、他方、平均粒径が上記上限を超えると金属酸化物微粒子(酸素活性種移動材粒子)と炭素含有成分等の接触が阻害される傾向にある。
【0045】
また、本発明の複合材料は、分散性が高いことが好ましく、全凝集体のうちの60容量%以上のものが前記平均粒径±50%の範囲内の粒径を有していることが好ましい。本発明の複合材料がこのように分散性が高いと、炭素含有成分を酸化する能力がより向上すると共に、DPF等の担体により均一に担持させることが可能となる傾向にある。
【0046】
また、本発明の複合材料においては、前述のAg超微粒子の他に、Ag超微粒子より大きなAg粒子が存在してもよく、このようなAg粒子が存在する場合は、かかるAg粒子が核となり、その周囲を前記金属酸化物微粒子が覆っており、さらにその金属酸化物微粒子の表面に前記Ag超微粒子が担持されている凝集体となっていることが好ましい。このようなAg粒子が存在する場合、かかるAg粒子によっても酸素活性種が生成され、炭素含有成分、HC、CO又はNO等の成分に移動できる酸素活性種の量が増加して炭素含有成分を酸化する能力が向上する傾向にある。
【0047】
このようなAg粒子の粒径は、前述のAg超微粒子の粒径より大きければよく(好ましくは1.1倍以上)、特に限定されないが、大気中500℃で5時間焼成した後の平均粒径が10〜100nm(より好ましくは10〜50nm)であることが好ましく、また、酸素10容量%及び窒素90容量%からなる雰囲気中800℃で5時間焼成した後の平均粒径が10〜400nm(より好ましくは10〜80nm)であることが好ましい。Ag粒子の平均粒径が上記上限を超えると、Ag粒子が金属酸化物微粒子によって覆われにくくなる傾向にある。
【0048】
次に、本発明の複合材料の第一の製造方法について説明する。すなわち、本発明の複合材料の第一の製造方法は、
Agの塩と価数変動可能な金属の塩とを含有する溶液から、Ag粒子が価数変動可能な金属の塩に由来する金属化合物微粒子により覆われている凝集体を生成せしめる工程と、
得られた凝集体から前記Agの一部を酸により溶出せしめた後に焼成することによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなる複合材料を得る工程と、
を含む方法である。
【0049】
上記本発明にかかるAgの塩としては、Agの硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、無機錯塩等の水溶性の塩が挙げられ、中でも硝酸塩(例えば、硝酸銀)が好適に用いられる。また、本発明にかかる価数変動可能な金属の塩としては、前述の金属の硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、無機錯塩等の水溶性の塩が挙げられ、中でも硝酸塩(例えば、硝酸セリウム)が好適に用いられる。
【0050】
さらに、Agの塩と前記金属の塩とを含有する溶液を調製するための溶媒としては、特に制限されず、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の単独又は混合系溶媒)等の各種溶媒が挙げられるが、水が特に好ましい。
【0051】
なお、Agの塩と前記金属の塩との配合量(仕込み量)は、得られるAg粒子と金属酸化物微粒子との比率と完全には一致する必要はなく、得ようとする複合材料におけるAg粒子と金属酸化物微粒子との組み合わせや比率の好適条件に応じてAgの塩と前記金属の塩との組み合わせや配合量の条件が適宜設定される。また、前記金属の塩に対してAgの塩が過剰に存在するようにすると、溶液中に生成する金属酸化物微粒子を全て凝集体の一部とさせ易くなる傾向にあり、凝集体以外の成分が溶液中に生成しないので好ましい。
【0052】
本発明の複合材料の第一の製造方法においては、前記凝集体を生成せしめる工程において、pH調整剤の存在下で前記金属化合物微粒子を生成せしめ、前記金属化合物微粒子の還元作用によって前記Ag粒子を析出させることによって前記凝集体を生成せしめることが好ましい。
【0053】
酸化還元反応が起きるための要件は用いるAgと価数変動可能な金属との電位で説明することができるが、電位はpH依存性がある。一般的に、pHが大きくなるほど電位は低下する。したがって、本発明の複合材料の製造方法においては、適宜pH調整剤を添加して酸化還元反応を制御することが好ましい。また、pH調整剤を添加することによって、活性化エネルギーも変化することから、酸化還元反応を最適条件にすることが可能である。このようなpH調製剤としては、NaOH、KOH、NH、HNO、HSOが例示されるが、一般的な酸やアルカリを用いれば足りる。
【0054】
なお、Agは酸性側では電位が高いため、反応が早く進行し過ぎるため、粗大なAgが析出し易くなる傾向があることから、塩基の存在下でアルカリ性とすることが好ましい。その際、pH調整剤としてNaOHを用いると沈殿が生じてしまうことから、アンモニアでアルカリ性とすることが好ましい。この場合には、アンモニアは後述する錯化剤としても機能している。また、このような塩基の濃度は特に限定されないが、塩基としてアンモニアを用いる場合には一般的には1〜50%程度のアンモニア濃度を有する溶液を用いることが好ましい。さらに、この場合における金属化合物微粒子は、用いた金属の水酸化物であると考えられる。
【0055】
また、本発明の複合材料の第一の製造方法においては、前記凝集体を生成せしめる工程において、錯化剤の存在下でAgの化合物を生成せしめ、前記金属化合物微粒子の還元作用によって前記Agの化合物を還元してAg粒子を析出させることがより好ましい。
【0056】
酸化還元反応を最適な条件にするためには、上記のようにpH調整剤を添加することが好ましいが、その場合、特に金属塩はpHによっては沈殿物を生じることがある。そこで、錯化剤を用いない場合に沈殿物が生成する条件であっても、錯化剤を添加することにより、金属塩の状態とすることができる。このようにすることにより、電位や活性化エネルギーも変化するため、適宜条件を合わせることが可能となる。例えば、CeO−Ag系の場合には、Agを[Ag(NHとすることが好ましい。このような錯化剤としては、アンモニア、有機酸(グリコール酸、クエン酸、酒石酸等)のアルカリ塩、チオグリコール酸、ヒドラジン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、グリシン、ピリジン、シアン化物が例示される。
【0057】
さらに、本発明の複合材料の第一の製造方法においては、前記凝集体を生成せしめる工程において、温度調整することが好ましい。反応溶液の温度条件は、酸化還元反応を支配する重要な因子である。溶媒が液体として機能している範囲で溶液の温度を適宜調整することが好ましい。例えば、CeO−Ag系の場合には、30℃以上とすることが好ましく、60℃以上とすることがより好ましい。後述する実施例のように、1〜3気圧、100〜150℃程度の条件とすると確実に反応を起こすことができる傾向にあり、また反応時間を短縮できることから産業への応用上も好ましい。
【0058】
なお、前記凝集体を生成せしめる工程において、上記の金属塩溶液にpH調整剤含有溶液(例えば塩基性溶液)を添加・混合するいわゆる「沈殿法」であっても、pH調整剤含有溶液(例えば塩基性溶液)に上記の金属塩溶液を添加・混合するいわゆる「逆沈殿法」であってもよい。この場合において、Agの塩、前記金属の塩の順、又はその逆の順序で逐次添加・混合してもよい。また、反応時間は特に限定されないが、好ましくは0.1〜24時間程度、より好ましくは0.1〜3時間程度かけて凝集させることが好ましい。また、錯化剤を用いる場合には、予め錯化剤により金属塩としてから上記操作を行ってもよい。
【0059】
また、このような前記凝集体を生成せしめる工程における反応溶液中の固形分濃度は特に制限されないが、1質量%〜50質量%であることが好ましく、10質量%〜40質量%であることがより好ましく、15〜30質量%であることが更に好ましい。固形分濃度が前記下限未満では、凝集処理の促進効果が低下する傾向にあり、他方、上記上限を超えるとAg粒子を核とした凝集体を得ることが困難となる傾向にある。
【0060】
このように凝集処理を行うことで、前述のようにAg粒子が金属化合物微粒子により覆われている凝集体が効率良く且つ確実に得られるようになる。
【0061】
次に、本発明の複合材料の第一の製造方法においては、このようにして得られた凝集体を、必要に応じて遠心分離した後、酸溶液に分散させて凝集体からAgの一部を酸により溶出せしめる。かかる酸処理において用いる酸としては、硝酸、硫酸、フッ酸、塩酸が例示される。なお、塩酸はAgと塩化物を形成し易いため好ましくないが、酸処理後に塩化物イオンを適宜除去することができれば使用可能である。
【0062】
酸処理に用いる酸溶液のpHは、特に限定されないが、2以下が好ましく、1以下がさらに好ましい。酸溶液のpHが前記上限を超えると、酸処理に長時間を要したり、酸処理が不十分となる傾向にある。また、酸処理の際の温度も特に限定されないが、0〜100℃程度の範囲が好ましい。
【0063】
さらに、酸処理を施す時間は、核となっているAg粒子の大きさ、目標とするAgの溶出量、用いる酸溶液等に応じて適宜設定されるが、一般的には0.1〜24時間程度かけてAgの一部を酸により溶出せしめることが好ましい。
【0064】
なお、本発明の複合材料の第一の製造方法において酸処理により溶出せしめるAgの量は、特に限定されないが、凝集体に含有されるAgの1〜90質量%程度、核となっているAg粒子を構成するAgの1〜100質量%程度であることが好ましい。
【0065】
次いで、本発明の複合材料の第一の製造方法においては、このようにして酸処理された凝集体を、必要に応じて遠心分離や洗浄した後に、焼成することによって、前述の本発明の複合材料を得ることができる。かかる焼成の際の条件は特に限定されないが、一般的には酸化雰囲気(例えば、空気)中において300〜600℃で1〜5時間程度かけて焼成することが好ましい。
【0066】
なお、本発明の複合材料の第一の製造方法においては、前記酸処理の終了時に、アルカリを添加してAgの溶出を停止せしめることが好ましい。このようにアルカリを添加することにより、金属酸化物微粒子の表面に水酸基が形成され、その水酸基とAgイオンが反応することによりAg超微粒子が金属酸化物微粒子の表面に担持され易くなる傾向にある。
【0067】
ここで用いるアルカリとしては、NaOH、KOH、NH等が挙げられるが、中でもアンモニアが好ましい。アンモニアを添加すれば、Agはアンミン錯体を形成し、金属酸化物微粒子の表面の水酸基との反応によりAg超微粒子がより形成され易くなる傾向にある。さらに、このようにアンミン錯体が形成されることにより、水酸基と未反応のAgイオンを系外に除去できるため、粗大なAg粒子の生成がより確実に抑制される傾向にある。なお、添加するアルカリの量は、特に限定されず、酸処理の溶液をアルカリ性にすることができる量以上であればよく、アンモニアを用いる場合は溶出したAgが完全にアンミン錯体となる量以上であることが好ましい。
【0068】
次に、本発明の複合材料の第二の製造方法について説明する。すなわち、本発明の複合材料の第二の製造方法は、
Agの塩と価数変動可能な金属の塩とを含有する溶液から、Ag粒子が価数変動可能な金属の塩に由来する金属化合物微粒子により覆われている凝集体を生成せしめる工程と、
得られた凝集体から前記Agの少なくとも一部を酸により溶出せしめる工程と、
前記金属化合物微粒子の表面にアルカリの存在下でAg超微粒子を担持せしめた後に焼成することによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなる複合材料を得る工程と、
を含む方法である。
【0069】
本発明の複合材料の第二の製造方法において凝集体を生成せしめる工程は、前記第一の製造方法において凝集体を生成せしめる工程と同様である。また、本発明の複合材料の第二の製造方法において凝集体からAgの少なくとも一部を酸により溶出せしめる工程(酸処理工程)も、前記第一の製造方法における酸処理工程と同様である。
【0070】
但し、本発明の複合材料の第二の製造方法においては、かかる酸処理工程において凝集体に含まれるAgの少なくとも一部が溶出され、凝集体に含まれるAgが完全に溶出されてもよい。かかる酸処理工程で溶出せしめるAgの量は、凝集体に含有されるAgの1質量%程度以上であることが好ましい。また、本発明の複合材料の第二の製造方法においては、一般的には0.1〜24時間程度かけてAgを酸により溶出せしめることが好ましい。
【0071】
次に、本発明の複合材料の第二の製造方法においては、このようにして酸処理された凝集体を、必要に応じて遠心分離や洗浄した後に、前記金属化合物微粒子の表面にアルカリの存在下でAg超微粒子を担持せしめる。このようにアルカリを存在せしめることによってAgの溶出が停止すると共に、金属酸化物微粒子の表面に水酸基が形成され、その水酸基とAgイオンが反応することによりAg超微粒子が金属酸化物微粒子の表面に担持される。
【0072】
ここで用いるアルカリとその添加量は、前記第一の製造方法において酸処理を停止させる際に好適に用いるアルカリとその添加量と同様である。また、ここで用いるAgイオンとしては、Agの塩(例えば硝酸銀、硫酸銀、炭酸銀、酢酸銀)を添加することにより溶液中に存在せしめることができる。なお、溶液中のAgイオンの濃度は、特に限定されないが、1.0×10−4〜5mol%程度であることが好ましい。また、この工程において反応を促進させるために加熱してもよく、30〜150℃程度の処理温度が好ましい。
【0073】
なお、先の酸処理工程においてAgを溶出せしめた溶液をそのまま反応溶液として用いる場合は、反応溶液中にAgイオンが含有されているため、新たにAgの塩を添加する必要は必ずしもない。
【0074】
次いで、本発明の複合材料の第二の製造方法においては、このようにしてアルカリの存在下でAg超微粒子を担持せしめた凝集体を、必要に応じて遠心分離や洗浄した後に、焼成することによって、前述の本発明の複合材料を得ることができる。かかる焼成の際の条件は、前記第一の製造方法における焼成の際の条件と同様である。
【0075】
次に、本発明の複合材料の第三の製造方法について説明する。すなわち、本発明の複合材料の第三の製造方法は、
価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子の表面を酸により溶解せしめる工程と、
前記金属酸化物微粒子の表面にアルカリの存在下でAg超微粒子を担持せしめることによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなる複合材料を得る工程と、
を含む方法である。
【0076】
本発明の複合材料の第三の製造方法において用いる価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子は、特に限定されず、市販の金属酸化物微粒子(例えば、CeO粉末)等を用いることができる。
【0077】
本発明の複合材料の第三の製造方法において金属酸化物微粒子の表面を酸により溶解せしめる工程(酸処理工程)は、前記第一の製造方法における酸処理工程と同様である。
【0078】
但し、本発明の複合材料の第三の製造方法においては、かかる酸処理工程において金属酸化物微粒子の表面が溶解される。かかる酸処理工程で溶解せしめる金属酸化物の量は、特に限定されず、金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物の1〜50質量%程度であることが好ましい。また、本発明の複合材料の第三の製造方法においては、一般的には0.1〜24時間程度かけて金属酸化物微粒子の表面を溶解せしめることが好ましい。
【0079】
次に、本発明の複合材料の第三の製造方法においては、このようにして酸処理された金属酸化物微粒子を、必要に応じて遠心分離や洗浄した後に、前記金属化合物微粒子の表面にアルカリの存在下でAg超微粒子を担持せしめる。このようにアルカリを存在せしめることによって金属酸化物の溶解が停止すると共に、金属酸化物微粒子の表面に水酸基が形成され、その水酸基とAgイオンが反応することによりAg超微粒子が金属酸化物微粒子の表面に担持される。
【0080】
ここで用いるアルカリとその添加量は、前記第一の製造方法において酸処理を停止させる際に好適に用いるアルカリとその添加量と同様である。また、ここで用いるAgイオンとそのイオン濃度、そして処理温度は、前記第二の製造方法において用いるAgイオンとそのイオン濃度、そして処理温度と同様である。
【0081】
本発明の複合材料の第三の製造方法においては、このようにしてアルカリの存在下でAg超微粒子を担持せしめた金属酸化物微粒子を、必要に応じて遠心分離や洗浄や焼成をすることによって、前述の本発明の複合材料を得ることができる。
【0082】
次に、本発明の複合材料基材について説明する。すなわち、本発明の複合材料基材は、基材と、前記本発明の複合材料とを備えるものである。
【0083】
ここで用いられる基材は特に制限されず、得られる複合材料基材の用途等に応じて適宜選択されるが、DPF基材、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材、発泡状セラミック基材等が好適に採用される。また、このような基材の材質も特に制限されないが、コージエライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。
【0084】
本発明の複合材料基材において基材に付与する複合材料の量は特に制限されず、得られる複合材料基材の用途等に応じて適宜調整されるが、基材体積1リットルに対して複合材料の量が10〜300g程度となる量が好ましい。なお、本発明の複合材料自身をペレット化する等して用いることもできる。また、上記本発明の複合材料基材においては、前記基材が1〜300μmの細孔を有するものであり、前記細孔内に前記凝集体の平均粒径の0.5〜50倍の平均厚さを有するコート層が前記複合材料により形成されていることが好ましい。このような本発明の複合材料基材は、排気浄化基材等として非常に有用である。
【0085】
次に、本発明の複合材料分散液及びその製造方法について説明する。すなわち、本発明の第一の複合材料分散液は、上記本発明の複合材料と、分散媒とを含有しているものである。かかる第一の複合材料分散液は、バインダーを更に含有していることが好ましい。ここで用いるバインダーは特に制限されず、例えばセリアゾル等が好適に用いられる。また、複合材料とバインダーとの混合比率も特に制限されず、複合材料とバインダーとの混合比率が重量比で99:1〜80:20程度であることが好ましい。例えば、CeO−Ag系の場合には、バインダーを用いた場合であっても、超音波処理により容易に分散性の高い分散液(スラリー)を得ることができる。
【0086】
また、本発明の第二の複合材料分散液は、上記本発明の複合材料の第一又は第二の製造方法の過程で得られた焼成前の複合材料と、分散媒とを含有しているものである。かかる第二の複合材料分散液においては、上記本発明の複合材料の第一又は第二の製造方法の過程で得られた焼成前の複合材料を含有する溶液から、系中の残存イオンを50〜99.9%分離して得られた状態で複合材料を含有していることが好ましい。塩や錯化剤に起因する残存イオンを除去することにより非常に分散性の高い分散液を得ることができるようになる。
【0087】
次に、本発明の複合材料基材の製造方法について説明する。すなわち、本発明の複合材料基材の第一の製造方法は、上記本発明の第一の複合材料分散液を基材に接触させた後に焼成することによって複合材料基材を得る方法である。また、本発明の複合材料基材の第二の製造方法は、上記本発明の第二の複合材料分散液を基材に接触させた後に焼成することによって複合材料基材を得る方法である。
【0088】
ここで、前記第一又は第二の複合材料分散液を基材に接触させる方法は特に制限されないが、例えばDPF等のフィルタ基材の細孔内に入り込ませる際には超音波をかけながら接触させることが好ましい。また、この場合の焼成条件は、前述の焼成条件と同様の条件が好ましい。
【0089】
また、本発明の複合材料基材の第二の製造方法によれば、スート等の炭素含有成分、HC、CO又はNO等を酸化できる成分が凝集体自身であるゆえ、それ自身がバインダーの役割を果たすことから、より効果的な複合材料基材を提供できる。なお、上記の第二の複合材料分散液を基材に接触させた後に焼成して基材を得る方法は、上記の複合材料を得る過程において得られた複合材料に限定されず、それ以外の基材を得る場合にも適用することができる。すなわち、複合材料自身がバインダーの役割を果たすものであれば、同一種同士の粒子の凝集体であってもよい。この場合において、均一なコート層を得るためには複合材料の分散性が高いことが好ましい。また、薄層コートを行うためには粒子径が小さいことが好ましい。さらに、より良好なコート層を得るためには、系中の残存イオンを除去することにより、残存イオンに由来する副生成物(例えば硝酸アンモニウム)の分解を抑制することが好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
なお、Ce原料としては硝酸セリウム6水和物、Ag原料としては硝酸銀、La原料としては硝酸ランタン6水和物をそれぞれ用いた。
【0092】
また、硝酸塩溶液調製段階のCeと添加成分の合計量に対する添加成分のmol%を用いて得られた凝集体を表現した。例えば、Ce:Ag=40:60,Ce:La=90:10(Ce:Ag:La=90:135:10)の仕込み比で調製して得られた凝集体を「CeAg−La10」と表現した。
【0093】
(実施例1)
<凝集体の調製>
Ceと添加成分の合計量に対する添加成分(La)の含有率(mol%)がLa10mol%となるようにCe、Ag及び添加成分を含有する硝酸塩溶液を調製するようにして、以下のようにしてCeO−Ag−La凝集体「CeAg−La10」を得た。すなわち、先ず、50.46gのCe(NO・6HOと、5.59gのLa(NOと、29.62gのAgNOとを120mLの水で溶解せしめた溶液を調製し、次に、25%アンモニア水38.21gを水100gに希釈したアンモニア水を調製した。そして、上記アンモニア水を撹拌しているところに前述のようにして調製した溶液を投入し(逆沈殿)、10分間撹拌を継続した後、水の存在下、閉鎖系において2気圧の条件下にて120℃に加熱して2時間の凝集処理を行って凝集体を調製した。
【0094】
<Ag含有率の評価1>
得られたCeAg−La10におけるAgの含有率をICP発光分析法により分析したところ、Ce+Ag+La基準で47.82mol%、Ce+Ag基準で49.96mol%であった。
【0095】
<CeO粒子径及びAg粒子径の評価>
得られたCeAg−La10におけるCeO粒子径(平均一次粒径)及びAg粒子径(平均一次粒径)をXRDにより求めたところ、CeO粒子径は12nm、Ag粒子径は28nmであった。
【0096】
<TEM観察1>
得られたCeAg−La10の凝集処理後(焼成前)の形態をTEMにより観察した。得られた結果を図1に示す。また、図1に示すTEM写真における測定点においてエネルギー分散型X線分光法によりスペクトルを求め、含有される成分(Ce及びAg)についてのカウント数を求めた。得られた結果を図2に示す。さらに、同じ組成物(焼成前)の表面状態をSEMにより観察した。得られた結果を図3に示す。図1〜3に示した結果から明らかなとおり、凝集処理後においてはAg粒子の周囲がCeO粒子により覆われている凝集体が十分に形成されていることが確認された。
【0097】
<細孔容積及び細孔径分布の評価>
得られたCeAg−La10における細孔容積及び細孔径分布を水銀ポロシメータにより測定した。その結果、全細孔の容積は0.17cc/g、0.01〜1.0μmの細孔径を有する細孔の容積は0.16cc/gであった。また、凝集体により形成される空隙細孔の範囲は0.05〜0.15μmであり、その平均空隙細孔径は0.1μmであった。したがって、平均空隙細孔径±50%の範囲である0.05〜0.15μmの細孔径を有する空隙細孔の容積が、前記空隙細孔の全容積の80%を占めていることが確認された。さらに、0.05〜0.5μmの細孔径を有する細孔の容積が、全細孔の容積の85%を占めていることも確認された。
【0098】
<酸処理>
次に、得られた凝集体(CeAg−La10)を遠心分離により分離した後、凝集体を水150mlで分散させた後、攪拌しながら硝酸(和光純薬社製、比重:1.40、品番:147−01346)30mlを加え、15℃で12時間攪拌を継続することによりAgの溶出処理(酸処理)を行った。なお、本実施例におけるAgの溶出処理の停止操作は、溶出したAgが完全にアンミン錯体となるまで濃度25%のNH水をpH=11となるまで加えることにより行った。
【0099】
このようにして酸処理を施した凝集体を再び遠心分離により分離した後、大気中500℃で5時間焼成を行うことにより、本発明の複合材料を得た。
【0100】
<Ag含有率の評価2>
得られた複合材料におけるAgの含有率をICP発光分析法により分析したところ、Ce+Ag基準で16mol%であった。
【0101】
<TEM観察2>
さらに、得られた複合材料を高分解能でTEMにより観察した。得られた結果を図4に示す。図4に示す測定点(1〜4)においてエネルギー分散型X線分光法によりスペクトルを求め、含有される成分(Ce及びAg)についてのカウント数を求めて各測定点における元素組成を算出した。Agの含有量は、1:14.15mol%、2:16.52mol%、3:7.93mol%、4:11.73mol%、5:14.51mol%、6:13.58mol%、7:13.04mol%であった。TEMによってCeO部分にAg粒子を確認できないにもかかわらず、その部分にもAgが含まれていたことから、CeO上にAg超微粒子が存在することが確認された。
【0102】
<ESR測定1>
Ag2+の検出を目的として、得られた複合材料(CeAg−La10 HNO 12h)についてESR測定装置(ESP300E、Bruker社製)を用いて室温、大気中でESR測定を行った。得られたESRスペクトルを図5に示す。図5に示した結果から、得られた複合材料におけるAg2+の存在が確認された。
【0103】
(実施例2)
実施例1と同様にして得られた凝集体(CeAg−La10)を用いて、酸処理における温度を25℃とし、硝酸投入後8時間撹拌してから16時間静置するように変更したこと以外は実施例1と同様にして本発明の複合材料を得た。
【0104】
得られた複合材料におけるAgの含有率を<Ag含有率の評価2>と同様に分析したところ、Ce+Ag基準で7.0mol%であった。また、170℃でO及びHにより酸化還元滴定を行うことにより露出Ag量を測定し、上記の組成分析と得られた露出Ag量に基づいてAg粒子径(平均一次粒径)を求めたところ、3.8nmであった。一方、得られた複合材料についてXRD測定を行ったところ、Agピークは確認できなかった。
【0105】
また、得られた複合材料についてESR測定を行ったところ、得られたESRスペクトルは実施例1で得られた図5に示すESRスペクトルと同様であった。
【0106】
さらに、得られた複合材料における細孔径分布を水銀ポロシメータにより測定した。得られた結果を図6に示す。図6に示した結果から明らかなとおり、実施例2において得られた複合材料は、0.05μmを中心とする細孔を有しており、その細孔径分布の均一性も高いことが確認された。
【0107】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた凝集体(CeAg−La10)を遠心分離により分離した後、凝集体(固形分)を水150mlで分散させた後、攪拌しながら硝酸(和光純薬社製、比重:1.40、品番:147−01346)25mlを加え、25℃で24時間攪拌を継続することによりAgの溶出処理(酸処理)を行った。
【0108】
このようにして酸処理を施した凝集体の一部を取り出し、遠心分離により分離して十分洗浄した後にAgの含有率をICP発光分析法により分析したところ、Agは含有されておらず、完全にAgが溶出されるまで酸処理がなされたことが確認された。
【0109】
なお、本実施例におけるAgの溶出処理の停止操作は、撹拌を停止して静置した後、上澄みのAg含有溶液のみを除去した状態で、溶液がアルカリ性(pH=11)になるまで濃度25%のNH水を加えることにより行った。したがって、その溶液中には溶解していたAgが残存しており、そのAgから生成した[Ag(NH)]がCeO粒子の表面に形成されたCe(OH)と反応することによってCeO粒子の表面にAg(Ag錯体)が担持された。
【0110】
このようにしてアルカリの存在下でAgを担持せしめた凝集体を再び遠心分離により分離した後、大気中500℃で5時間焼成を行うことにより、本発明の複合材料を得た。
【0111】
得られた複合材料におけるAgの含有率を<Ag含有率の評価2>と同様に分析したところ、Ce+Ag基準で9.7mol%であった。また、得られた複合材料についてESR測定を行ったところ、得られたESRスペクトルは実施例1で得られた図5に示すESRスペクトルと同様であった。
【0112】
(比較例1)
AgNOとCeO粉末(和光純薬社製、品番:034−01885)とのモル比が15:85となるように秤量し、両者の混合物に水を加えてAgNOを溶解させた。次いで、得られた分散液をスターラーで加熱撹拌し、蒸発乾固させ、さらに大気中500℃で5時間焼成して、CeとAgの合計量に対するAgの含有率(mol%)が15mol%となっているAg担持CeO粉末「Ag/CeO」を得た。
【0113】
(比較例2)
AgNOとα−Al粉末(昭和電工社製、商品名:UA−5205)とのモル比が50:50となるように秤量し、両者の混合物に水を加えてAgNOを溶解させた。次いで、得られた分散液をスターラーで加熱撹拌し、蒸発乾固させ、さらに大気中500℃で5時間焼成して、AlとAgの合計量に対するAgの含有率(mol%)が50mol%となっているAg担持α−Al粉末「Ag/α−Al」を得た。
【0114】
<Ag粒子径の測定>
比較例1で得られたAg担持CeO粉末と比較例2で得られたAg担持α−Al粉末について、実施例2と同様にしてAg粒子径(平均一次粒径)を求めたところ、それぞれ40nm(比較例1)、124nm(比較例2)であった。
【0115】
<ESR測定2>
Ag2+の検出を目的として、比較例1で得られたAg担持CeO粉末と比較例2で得られたAg担持α−Al粉末について以下のESR測定装置を用いて以下の測定温度及び前処理条件の下でESR測定を行った。
測定装置:ESP350E、Bruker社製
測定温度:20K
前処理条件:
(i)試料20mgを計り取り、ESR試料管に入れ、O流通下(30ml/min)、600℃で処理した。その後、Oを流したまま試料を電気炉から出し、室温まで放冷した。
(ii)次に、ガスをHe(30ml/min)に切り替え、室温で30分間パージした。
【0116】
得られたESRスペクトルを図7(比較例1)及び図8(比較例2)に示す。図7及び図8に示した結果から、得られた材料はいずれもAgが担持されているものの、Ag2+は検出されなかった。
【0117】
<CO発生強度によるスート酸化性能の評価1>
実施例1〜3で得られた複合材料をそれぞれ以下の(試料1)の混合方法でスート(カーボン組成99.9%以上)と混合して試料1を作製した。また、比較例1で得られたAg担持CeO粉末と比較例2で得られたAg担持α−Al粉末をそれぞれ以下の(試料1)及び(試料2)の混合方法でスート(カーボン組成99.9%以上)と混合して試料1及び試料2を作製した。なお、複合材料(又は粉末)とスートとの混合比は、重量比(g)で2:0.1とした。
【0118】
(試料1)スターラー(アズワン社製、MMPS−M1)とマグネット乳鉢(アズワン社製、MP−02)を用い、スピード目盛り「3」の電動混合にて3分間混合し、「緩い混合法」により混合した均一混合物を得た。
【0119】
(試料2)試料1の均一混合物を更にめのう乳鉢により混合し、混合によりそれ以上のスート酸化活性の向上がみられなくなるまでその混合を繰り返すことにより、「強力な混合法」により混合した均一混合物を得た。本明細書に添付する図面では、試料2に相当するものを「tight」と表記した。
【0120】
なお、DPFを用いて細孔内で触媒とスートを接触させる場合には、排気圧により押し付けられ、またDPF細孔内での多重衝突により、単に触媒とスートを混合したようないわゆる「loose-contact」と呼ばれる混合状態より接触性が良好となる。試料1は、DPFを用いて細孔内で触媒とスートを接触させた混合状態に相当するものである。
【0121】
一方、乳鉢により極限まで混合したいわゆる「強力な混合法」と呼ばれる混合状態では、接触性は最良となるものの、形態因子の影響が排除されて化学的性質のみに着目した評価となる。試料2は、「強力な混合法」と呼ばれる混合状態に相当するものである。
【0122】
次に、試料1及び試料2について、TG−mass法により昇温時のCO発生強度をそれぞれ測定した。熱重量分析計は「TG8120」(理学電機社製)を用いた。熱重量分析計には「GC−MS5972A」(Hewlett Packard社製)が接続され、熱重量分析計で発生したガス成分のマススペクトルを測定した。測定条件は、O10%/Heバランス雰囲気において、20K/分の昇温速度で800℃まで昇温し、m/e=44成分をスート酸化によって生じるCO成分として測定した。得られた結果を図9(実施例1〜3)、図10(比較例1)、図11(比較例2)に示す。
【0123】
図9〜図11に示した結果から明らかなとおり、Ag超微粒子が存在しない比較例の粉末を用いてもスート酸化温度は比較的高いが、本発明の複合材料を用いればスート酸化温度が低下することが確認された。この現象は、Ag超微粒子とCeOから生成した酸素活性種によりスート酸化温度が低下したことによると本発明者らは推察する。
【0124】
(実施例4)
実施例1と同様にして得られた凝集体(CeAg−La10)を遠心分離により分離した後、凝集体(固形分)を水150mlで分散させた後、攪拌しながら硝酸(和光純薬社製、比重:1.40、品番:147−01346)25mlを加え、25℃で9時間攪拌を継続することによりAgの溶出処理(酸処理)を行った。
【0125】
なお、本実施例におけるAgの溶出処理の停止操作は、遠心分離によりAg含有溶液を除去した状態で、溶液がアルカリ性(pH=11)になるまで濃度25%のNH水を加えることにより行った。
【0126】
このようにして酸処理を施した凝集体を再び遠心分離により分離した後、凝集体(固形分)を水150mlで分散させることによりスラリーを得た。次いで、そのスラリーをテストピースサイズ(35ml)のDPF(コージェライト製、気孔率65%、平均細孔径30μm)の細孔内に入り込むように接触させた。その状態で吸引したのち大気中500℃で1時間の焼成を施しながら、担持量(被覆量)が70g/Lとなるまで繰り返し、本発明の複合材料が被覆された本発明の複合材料基材(テストピース)を得た。上記のスラリーの粒度分布を測定すると、約0.1μmの凝集体が安定に分散していたことから、DPFへの被覆が容易であることが確認された。
【0127】
<剥離試験>
得られたテストピースをイオン交換水に浸漬し、超音波を2時間照射したが、本発明の複合材料の剥離は確認されなかった。
【0128】
<CO発生強度によるスート酸化性能の評価2>
得られたテストピースを用いて、ディーゼルエンジンの排気中において200℃で約2g/LのPMを堆積させ、その後500℃、N雰囲気を15分間保持することにより未燃炭化水素成分を除去するようにした。このようにして実機PMを付着させたテストピースに対して、流量30L/min、O10%雰囲気において、昇温速度20℃/分で昇温させた。このときのCOピークによりスート酸化性能を評価した。得られた結果を図12に示す。
【0129】
また、基材のみのDPFに実機PMを付着させた比較のためのテストピースに対しても同様にスート酸化性能を評価し、得られた結果を図12に併記する。
【0130】
図12に示した結果から明らかなとおり、本発明の複合材料が被覆されているテストピースによれば、本発明の複合材料が被覆されていない比較のためのテストピースに比べてPM酸化温度が低下する。したがって、Ag超微粒子とCeOからなる本発明の複合材料が酸化触媒として機能することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0131】
以上説明したように、本発明によれば、スート等の炭素含有成分、HC、CO又はNO等の成分をより低温で十分に酸化することが可能な酸化触媒等として非常に有用な複合材料、並びにそれを用いた複合材料基材を提供することが可能となる。さらに、本発明によれば、そのような複合材料、並びにその複合材料を用いた複合材料基材を効率良く且つ確実に得ることが可能となる。
【0132】
したがって、本発明は、排気ガス中のPM成分の除去手段、碍子等における炭素分付着による絶縁破壊の防止手段、改質触媒におけるコーキングの防止手段、フラーレン、カーボンナノチューブといった炭素材料の加工、エチレンからエチレンエポキシへの部分酸化といった炭化水素の部分酸化、等に応用できる酸化触媒に関する技術として非常に有用である。
【0133】
また、本発明の複合材料は、Oを室温付近から分解することが可能なオゾン分解触媒や、気相中の酸素を取り込む性質を利用した排気浄化材や、Pt、Au、Ag等の導電性の高い性質を用いた燃料電池の空気極用触媒等としても有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】実施例1で得られたCeAg−La10の凝集処理後(焼成前)の形態の測定点を示すTEM写真である。
【図2】図1に示す測定点におけるCe及びAgについてのカウント数を示すグラフである。
【図3】実施例1で得られたCeAg−La10の凝集処理後(焼成前)の形態を示すSEM写真である。
【図4】実施例1で得られた複合材料の測定点を示すTEM写真である。
【図5】実施例1で得られた複合材料についてESR測定を行った結果を示すグラフである。
【図6】実施例2で得られた複合材料における細孔径分布を測定した結果を示すグラフである。
【図7】比較例1で得られたAg担持CeO粉末についてESR測定を行った結果を示すグラフである。
【図8】比較例2で得られたAg担持α−Al粉末についてESR測定を行った結果を示すグラフである。
【図9】実施例1〜3で得られた複合材料についてCO発生強度を測定した結果を示すグラフである。
【図10】比較例1で得られたAg担持CeO粉末についてCO発生強度を測定した結果を示すグラフである。
【図11】比較例2で得られたAg担持α−Al粉末についてCO発生強度を測定した結果を示すグラフである。
【図12】実機PMを付着させたテストピースについてCO発生強度を測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記第二の金属酸化物微粒子を構成する第二の金属酸化物が、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Zr、Fe、Ti、Al、Mg、Co、Ni、Mn、Cr、Mo、W及びVの酸化物、これらの固溶体、並びにこれらの複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記金属酸化物微粒子が、前記Ag超微粒子により生成された酸素活性種を移動することが可能な酸素活性種移動材からなる酸素活性種移動材粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記酸素活性種移動材がCeO又はCeを含む複合酸化物であり、La、Nd、Pr、Sm、Y、Ca、Ti、Fe、Zr及びAlからなる群から選択される少なくとも一種を添加金属として更に含有していることを特徴とする請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
大気中500℃で5時間焼成した後の前記金属酸化物微粒子の平均一次粒径が1〜75nmであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記複合材料が酸化触媒であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項7】
Agの塩と価数変動可能な金属の塩とを含有する溶液から、Ag粒子が価数変動可能な金属の塩に由来する金属化合物微粒子により覆われている凝集体を生成せしめる工程と、
得られた凝集体から前記Agの一部を酸により溶出せしめた後に焼成することによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなる複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記凝集体から前記Agの一部を酸により溶出せしめる際に、アルカリを添加して前記溶出を停止せしめることを特徴とする請求項7に記載の複合材料の製造方法。
【請求項9】
Agの塩と価数変動可能な金属の塩とを含有する溶液から、Ag粒子が価数変動可能な金属の塩に由来する金属化合物微粒子により覆われている凝集体を生成せしめる工程と、
得られた凝集体から前記Agの少なくとも一部を酸により溶出せしめる工程と、
前記金属化合物微粒子の表面にアルカリの存在下でAg超微粒子を担持せしめた後に焼成することによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなる複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項10】
価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子の表面を酸により溶解せしめる工程と、
前記金属酸化物微粒子の表面にアルカリの存在下でAg超微粒子を担持せしめることによって、価数変動可能な金属の酸化物からなる金属酸化物微粒子と、平均一次粒径が0.3〜30nmであり且つ少なくとも一部が+2価となっているAg超微粒子とからなる複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリがアンモニアであることを特徴とする請求項8〜10のうちのいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項12】
基材と、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の複合材料とを備えることを特徴とする複合材料基材。
【請求項13】
排気浄化基材として用いることを特徴とする請求項12に記載の複合材料基材。
【請求項14】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の複合材料と、分散媒とを含有していることを特徴とする複合材料分散液。
【請求項15】
バインダーを更に含有していることを特徴とする請求項14に記載の複合材料分散液。
【請求項16】
請求項7〜10のうちのいずれか一項に記載の複合材料の製造方法の過程で得られた焼成前の複合材料と、分散媒とを含有していることを特徴とする複合材料分散液。
【請求項17】
請求項14〜16のうちのいずれか一項に記載の複合材料分散液を基材に接触させた後に焼成することによって複合材料基材を得ることを特徴とする複合材料基材の製造方法。

【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−173592(P2008−173592A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10768(P2007−10768)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】