説明

複合材料の製造方法

非芳香族エポキシ樹脂と硬化剤とを含む液体エポキシ系を繊維布帛に含浸させる工程;およびb)含浸させた布帛を硬化させる工程;を含み、該エポキシ系が、硬化後に15Mpa未満の引張弾性率を示す、弾性複合材料の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料は、第1の相(マトリックス)中に第2の相(強化材)が分散及び/又は分配された状態の材料を示し、一般には構造材料として使用される。
より軟質のマトリックスの強度と剛性を高めるために、例えば、強くて剛性の繊維を該マトリックス中に導入することができる。これによって複合材料がつくり出される。同時にマトリックスの所望の機械的特性は失われず、複合材料は一般に、強化用繊維のみによって示されるよりもはるかに高い靱性、フレキシビリティ、及び延性挙動を示す。
【0003】
エポキシベースの複合材料は現在、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、または天然繊維の布帛に、一般にはエポキシ樹脂と適切な硬化剤とを含む液状の硬化可能な系を含浸させ、次いで含浸した布帛を、室温以上の温度にて数分から数日にわたってキュアーすることによって製造されている。
【0004】
このような複合材料の製造方法は、例えば、米国特許第4,107,128号や米国特許第6,485,834号に記載されている。
繊維を分散させた硬化系(硬化システム)により、必要とされる機械的特性〔特に、容認しうる強度と要求される弾性(例えば、弾性率Eで特徴づけることができる)〕を有する複合材料が得られる。引張試験において測定される弾性率は引張弾性率と呼ばれ、屈曲試験において測定される弾性率は曲げ弾性率と呼ばれる。引張弾性率と曲げ弾性率は、等方性材料に対しては理論的に全く同じである。
【0005】
代表的な強化材は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、または天然繊維であり、代表的な硬化系は、例えばエポキシ樹脂と適切な硬化剤を含み、硬化後に機械的強度と弾性を示す固体マトリックスをつくり上げる。
【0006】
繊維は、強度と剛性を高めるために複合材料中に導入されるので、複合材料用に選択される硬化系も、通常は高い強度と剛性を示す。
したがって複合材料の硬化系は、従来より、任意の強化用繊維なしで硬化させる場合でも、比較的高い強度と剛性、及び一般には40MPaより高い曲げ弾性率を示す硬化性エポキシ系の中から選択されている。
【0007】
しかしながら、特定の用途の場合は(例えば、自動車産業やスポーツ産業においては)、機械的部品に対する要件を全て満足させるためには、高い強度だけでなく、高いフレキシビリティ、高い靱性、及び低い硬度も必要とされる。
【0008】
1つの例は、競争用レーシングカーやカーウイング(car wings)用の車体構造部品である。標準的な複合材料で造られた自動車部品は、競争レース中に壊れることが多く、その破片や裂片のために極めて危険なものとなる。
【0009】
しかしながら、これらの部品は、エネルギー的に低〜中程度の不可避の衝突や打撃に耐えなければならない。したがって、これらの部品を形成する材料は、優れた耐衝撃性と耐摩耗性と引裂抵抗、良好な伸びと引張強度、及び高いフレキシビリティを示さなければならない。
【0010】
これらの特定の用途に対する要件は、以下である。
・安全性が改良されていること
・車の性能がより良好であること(損傷部品を交換するのに必要なピットストップが全くないか又はより少なく、レースの全体にわたって空気力学的完全性が保持される)
・メンテナンスコストがより低いこと(部品の交換がない)
標準的な複合材料用途向けに開発された現在のエポキシ系は、これら全ての要件にマッチするわけではない(特に、フレキシビリティ、靱性、及び硬度に関して)。
【0011】
多くのエポキシ系をベースとする複合材料は高い強度を示し、構造部品をつくり上げるのには効果的であるが、剛性と曲げ弾性率が高すぎる。
さらに、ビスフェノールベースのエポキシ樹脂を使用する従来のエポキシ系は常に、硬化後に、不快な黄色もしくはかすみがかった外観をもたらし、その程度は、光にさらされる時間と共に徐々に増大する。このような材料は、紫外線への曝露に対する抵抗性がなく不安定である。こうした着色もしくはかすみがかった外観は、美的外観が重要である特定の用途においては全く受け入れることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,107,128号
【特許文献2】米国特許第6,485,834号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、優れた耐衝撃性、高いフレキシビリティとそれに対応する低い曲げ弾性率、良好な透明性、及び黄変や光沢に関しての、紫外線に対する抵抗性と安定性、を示すエポキシベースの複合材料を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は、請求項1に記載の特徴にしたがって解決される。
本発明によれば、非芳香族エポキシ樹脂と硬化剤を含む液体エポキシ系を繊維布帛に含浸させ、次いでこの含浸布帛を硬化させることによって固体弾性複合材料が得られ、このとき繊維なしで硬化させたときのニートのエポキシ系は、15Mpa未満の引張弾性率を示し、10Mpa未満の引張弾性率を示すのが好ましく、5Mpa未満の引張弾性率を示すのがさらに好ましい。
【0015】
弾性複合材料は、固体状態の材料であって、少なくとも2種の異質の相を含む。弾性複合材料は、ある特定の力もしくは応力を受けると弾性変形を示す。したがって、弾性挙動や弾性変形についての物理学上の定義によれば、このような材料は、所定の力もしくは応力を加えることによって変形するが、加えられた力もしくは応力が取り除かれると、元の形態と形状を完全に回復する。
【0016】
本発明の複合材料のエポキシ系(マトリックス)は、極めて低い引張弾性率を示すので、それに対応して高度にフレキシブルな複合材料が得られ、このとき機械的特性が驚くほどに予想外に良好である。すなわち、強度が、構造材料用として驚くほどに充分に良好であると同時に、フレキシビリティ、伸び、及び靱性が驚くほど高く、引張弾性率が極めて低い。したがって、これらのタイプの材料に対しては、新たな応用が可能となる。
【0017】
当業者であれば、このような高度にフレキシブルなエポキシ系は、弾性率と剛性が極めて低いので、いかなる構造・機械的用途に対しても適していないであろうという先入観によって、このような高度にフレキシブルなエポキシ系と繊維とを組み合わせることはしないであろう。
【0018】
同時に、本発明にしたがって使用されるエポキシ樹脂は非芳香族樹脂であるので、得られる材料は黄色や黄変を全くもしくは殆ど示さず、したがって光や紫外線に長時間曝露された後でも、良好な美的外観特性と透明色を示す。得られる材料は、紫外線に対して抵抗性があって安定である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】サンプルを、図1に示すようなテーブル上に配置し、分銅で固定した。
【0020】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の複合材料は、15Gpa未満(好ましくは10GPa未満、さらに好ましくは5Gpa未満)の曲げ弾性率を示す。
容認しうる強度と低い弾性率を有する材料を、単純で低コストの方法にて製造することができ、したがって、エポキシベースの複合材料に対して新たな応用が広がる。
【0021】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、25℃で一日硬化させ、次いで40℃で16時間後硬化させたエポキシ系は、0℃未満の温度にてガラス転移温度Tgの始まりを有する。
【0022】
本発明の複合材料は、通常は0℃より高い温度で使用されるので、このような材料は、エポキシ系がゴム状態をとっていることから、非常に高い延性と低い弾性率を示す。従来より、硬化エポキシ系は、ガラス状態におけるエポキシベースマトリックスの剛性を利用するよう、Tgより低い温度での構造用途向けに使用されている。
【0023】
本発明の好ましい実施態様にしたがって、エポキシ系を、構造用途向けにTgより高い温度で使用することは革新的である。なぜなら、予想外の驚くべき靱性と弾性率を示す複合材料が得られるからである。
【0024】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、25℃で一日硬化させ、次いで40℃で16時間後硬化させたエポキシ系は、−22℃より低い温度にてガラス転移温度Tgの始まりを有する。このように、本発明のエポキシ系は、−22℃の温度まではゴム状態のままであり、複合材料を冬季気象条件時にアウトドア用途向けに使用することができる。
【0025】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、未硬化のエポキシ系は、25℃にて450mPa・s以下の粘度を示す。未硬化エポキシ系の粘度は、TA Instruments社から市販のレオメーターAR1500exを用いて、40mm径のプレート(Peltierプレート)、50rpmの角速度、及び200μmのプレート間間隙を使用して測定した。
【0026】
本発明の液体エポキシ系は粘度がかなり低いので、これを繊維布帛に極めて都合よく浸透させることができる。したがって、費用のかかる特別な装置が必要とされないので、複合材料製造操作は実施するのが容易である。さらに、プロセシングが極めて単純であり、単一シェルモールドからの部品の製造が速やかになり、特にコスト効率が良くなる。
【0027】
本発明のさらなる好ましい実施態様によれば、硬化エポキシ系は、ウェザロメーター(WOM) Xenon Ci5000(Atlas Material Technologyから市販)中にて200時間の曝露後に、20より低い黄色度指数を示す。加速風化は、SAE J 1960の試験条件(米国特許第6,476,158号に記載)下にて行った。試験法SAE J 1960は、自動車の外装品に使用される部品の耐候性を評価するために、北米自動車産業(North American Automotive Industry)で使用されている。
【0028】
本発明の複合材料の製造に使用されるエポキシ樹脂は非芳香族樹脂であるので、得られる複合材料は、良好な透明性、光沢、及び紫外線抵抗性を示し、このことは、高い美的要件を有する用途に向いていることを示している。
【0029】
本発明のさらなる好ましい実施態様によれば、非芳香族エポキシ樹脂は、1分子当たり少なくとも2つのエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂、または少なくとも1.5の平均エポキシド官能価を有する少なくとも2種の脂肪族エポキシ樹脂の混合物から選択される。
【0030】
本発明のさらなる好ましい実施態様によれば、好ましいエポキシ樹脂はジグリシジルエーテルである。
本発明のさらなる好ましい実施態様によれば、繊維布帛は、炭素繊維、ガラス繊維、天然繊維、及び合成繊維(例えばアラミド繊維)を含む。このような繊維を使用することで、軟質硬化系(マトリックス)(0℃より低い温度でTgの始まりを示す)を使用するときでも、必要とされる機械的強度が得られる。
【0031】
本発明のさらなる好ましい実施態様によれば、複合材料は、複合材料の全体積を基準として繊維を20〜80体積%(好ましくは35〜65体積%、さらに好ましくは40〜60体積%)含む。繊維の体積パーセントが高すぎると、複合材料は脆くなり、高い剛性を示す。繊維の体積パーセントが低すぎると、複合材料は、エポキシマトリックスが非常に軟らかいために低い強度を示す。
【0032】
この高度にフレキシブルな複合材料がもつ多用性により、この複合材料は、最終部品に対してフレキシビリティが求められる広範囲の製造応用での使用に適したものとなる。フレキシビリティ、美的外観、及び安全性の面(組み合わされる場合も、そうでない場合も)が要求される場合に、新たな複合材料分野、ならびに一般的ではない複合材料分野において種々の用途が予測される。好ましい用途は、高性能の自動車及びオートバイ(レーシングカー、ボディフレーム、及びカーウイングなど)であり、本発明の方法により、全ての機械的要件を満足させることが可能となる。ただし、構造用でない複合材料部材もしくは最終部品であっても、以下のような利用可能性を考え出すことができる。
1)ファッション用品やデザイン用品(例えば、ネクタイ、衣料、靴、時計バンド、旅行かばん、家具)
2)海洋用品(例えばカーボンセイル)
3)スポーツ用品(例えば、サッカー選手用の脛骨防護具、オートバイライダー用の身体防護具)
4)バリスティック品(例えばボディガード用防護具)
本発明の複合材料は、コンクリートの重量を低減させ、そしてコンクリートの靱性と弾性を高めるように、構造物用コンクリート中に有利に導入することができる。
【0033】
エポキシ樹脂
使用するエポキシ樹脂は、モノマーであっても、オリゴマーであっても、あるいはポリマーであってもよく、また、脂肪族であっても、複素環式であってもよい。
【0034】
例えば、ポリグリシジルエーテルやポリ(β−メチルグリシジル)エーテルが挙げられ、これらは、1分子当たり少なくとも2つの遊離アルコール基を有する化合物とエピクロロヒドリンとを、アルカリ性条件下にて、あるいは酸触媒の存在下にて反応させ、引き続きアルカリで処理することによって得ることができる。これらのエーテルは、非環式アルコール〔例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、より高級のポリ(オキシエチレン)グリコール類、プロパン−1,2−ジオール、ポリ(オキシプロピレン)グリコール類、プロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、ヘキサン−2,4,6−トリオール、グリセロール、1,1,1−トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、及びソルビトール等〕から、または脂環式アルコール〔例えば、キニトール、ビス−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、及び1,1−ビス−(ヒドロキシメチル)シクロヘキセ−3−エン等〕から、ポリ(エピクロロヒドリン)を使用して製造することができる。
【0035】
他の例としては、ポリグリシジルエステルとポリ(β−メチルグリシジル)エステルを挙げることができ、これらは、1分子当たり2つ以上のカルボン酸基を有する化合物と、エピクロロヒドリン、グリセロールジクロロヒドリン、またはβ−メチルエピクロロヒドリンとをアルカリの存在下で反応させることによって得ることができる。このようなポリグリシジルエステルは、脂肪族ポリカルボン酸(例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、及び二量化もしくは三量化リノール酸)から、脂環式ポリカルボン酸(例えば、テトラヒドロフタル酸、4−メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、及び4−メチルヘキサヒドロフタル酸)から、及びポリカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸)のペルヒドロ芳香族化合物(perhydro aromatic)から誘導することができる。
【0036】
水素化もしくはペル水素化芳香族化合物(例えばペル水素化ビスフェノールA)または脂環式グリシジルエポキシ化合物、をベースとするエポキシ成分が特に好ましい。水素化もしくはペル水素化芳香族化合物とは、芳香族二重結合が部分的もしくは完全に水素化されていることを意味する。他の水素化芳香族グリシジルエポキシ化合物も使用することができる。上記樹脂と例えば脂肪族マルチグリシジルエポキシ樹脂との三元混合物も使用できると考えられる。これらのうちで、マルチグリシジルエポキシ樹脂は、短鎖もしくは長鎖のマルチアルコールから誘導される樹脂である。
【0037】
さらに、エポキシ含有化合物(例えば上記化合物)の予備反応液体付加物を、エポキシ樹脂用の適切な硬化剤と共に使用することも考えられる。当然ながら、液体の液体混合物を新規組成物中に使用することも可能である。
【0038】
下記は、本発明において使用するのに適した市販エポキシ製品の例である:Heloxy(商標)48(Hexion Specialty Chemicals社から市販のトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル);Heloxy(商標)107(Hexion Specialty Chemicals社から市販の、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル);Epalloy(登録商標)5000とEpalloy(登録商標)5001(CVC Specialties Chemicals社から市販のエポキシ化水素化ビスフェノールA);Epalloy(登録商標)5200(CVC Specialties Chemicals社から市販)やAraldite(登録商標)CY184(Huntsman International社から市販)等のヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル;Araldite(登録商標)DY−N(Huntsman International社から市販のネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル);Erysis(登録商標)GE−23(CVC Specialties Chemicals社から市販の、ジプロピレングリコールのジグリシジルエーテル);Araldite(登録商標)DY−F(Huntsman International社から市販)やErysis(登録商標)GE−24(CVC Specialties Chemicals社から市販)等のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル;Araldite(登録商標)DY−L(Huntsman International社から市販のポリプロピレントリグリシジルエーテル);Erysis(登録商標)GE−35(CVC Specialties Chemicals社から市販の、ヒマシ油をベースとするトリグリシジルエーテル);Erysis(登録商標)GE−36(CVC Specialties Chemicals社から市販)やHeloxy(商標)84(Hexion Specialty Chemicals社から市販)等のプロポキシル化グリセリンをベースとするトリグリシジルエーテル;Erysis(登録商標)GE−120(CVC Specialties Chemicals社から市販の、ダイマー酸をベースとするジグリシジルエーテル)。
【0039】
表1は、本発明を実施するのに使用される3種の好ましいエポキシ樹脂〔Araldite(登録商標)DY−H、Araldite(登録商標)DY−D、Araldite(登録商標)DY−C〕と比較例を得るのに使用される2種のエポキシ樹脂〔Araldite(登録商標)LY556、Araldite(登録商標)DY−T〕を示す。名称と20℃にて測定した粘度を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
本発明の好ましい実施態様によれば、非芳香族エポキシ樹脂は、1分子当たり少なくとも2つのエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂、または少なくとも1.5の平均エポキシド官能価を有する少なくとも2種の脂肪族エポキシ樹脂の混合物、から選択される。
【0042】
平均エポキシド官能価が1.5より低いと、充分な重合と機械的強度が得られない。
硬化剤
使用される硬化剤系は、少なくとも2の平均アミン官能価を有するアミン化合物を含む。
【0043】
少なくとも2の平均アミン官能価を有するアミン化合物は、アルキレンポリアミンまたはポリアルキレンポリアミンから選択するのが好ましい。好ましい例は、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、またはトリプロピレンテトラミン;ポリオキシアルキレンポリアミンまたはアルキレンポリアミン(例えば、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシエチレントリアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、およびポリオキシプロピレントリアミン);環に結合したアミノ基もしくはアミノアルキル基を有する脂環式ジアミンまたは脂環式ポリアミン;少なくとも2つのアミノ基を有する上記の脂肪族化合物、脂環式化合物、もしくはアリール脂肪族化合物とエポキシ樹脂との反応によって得られる付加物;少なくとも2つのアミノ基を有するN−アミノアルキルピペラジン;およびポリアミノアミド〔例えば、ポリアルキレンポリアミン(例えば上記の化合物)と重合不飽和脂肪酸(例えば、三量化リノール酸や三量化リシノール酸等の重合植物油酸)との反応生成物〕;である。本発明によれば、これらアミンの任意の混合物も使用することができる。
【0044】
表2は、本発明を実施するのに使用される2種の好ましい硬化剤〔Aradur(登録商標)53とTCD−ジアミン〕を示す。名称および20℃または25℃での粘度を示す。これらの化合物は全て、表1と2に示す商品名で市販されている。TCD−ジアミンはOXEA GmbHから市販されている。
【0045】
【表2】

【0046】
エポキシ系(樹脂+硬化剤)
種々のエポキシ樹脂と硬化剤を25℃にて特定の比率(重量部=pbw)で混合して、硬化性「エポキシ系」を得た。系の粘度は、25℃および60℃にて測定した。その後、エポキシ系を25℃で一日硬化させてから、40℃で16時間後硬化させた。次いで、得られた硬化エポキシ系のガラス転移温度(Tg)、黄色度指数、光沢、ショアーA、ショアーD、および引張特性を測定し、下記の分析装置と試験条件を使用して物理的に特徴付けした。
【0047】
波形アルミニウムパン中の5〜15mgの硬化エポキシサンプルのガラス転移温度(Tg)を、浸漬冷却器Haake EK 90/MTを冷却ユニットとして、そして窒素(20ml/分)をパージガスとして使用して、ウインドウズXPプラットフォーム上で動作する示差走査熱量計Mettler Toledo DSC822により測定した。温度スキャンは、10K/分にて−50℃から+150℃まで行った。DSC822を、Star Softwareユーザーハンドブックのセクション8に記載の較正タイプシングル(Mettler-Toledo AG2008,ME-51710263G,スイス0806/2.12においてプリント)を使用して、インジウム標準と亜鉛標準に対し、温度と熱流量に関して較正した。Mettler Toledo DSC822の分解能は0.04μWである。温度精度は0.2℃である。
【0048】
さらに、硬化エポキシサンプル(60mm×10mm×1mm)のガラス転移温度(Tg)を、ウインドウズXPプラットフォーム上にて液体窒素冷却剤を使用して動作する、Rheometric scientific GmbHから市販の動的機械分析器DMAタイプRDS2を使用して、ISO6721に従って測定した。温度スキャンは、2K/分にて−100℃から+150℃まで行った。これらの実験は、アルミニウム製の曲げ取付具を使用して行った。Rheometric scientific GmbHのトルク感度は2g/cmである。温度精度は±5℃である。
【0049】
サイズ120mm×50mm×4mmの硬化エポキシサンプルの黄色度指数と光沢を、WOM Xenon Ci5000中にてSAE J1960試験条件下で、曝露前(0時間)と200時間の曝露後に、サンプルの中央部において23℃で測定した。Meeten,G.H.,Optical Properties of Polymers,Elsevier Applied Science,London,1986,pp.326-329という文献に記載のように、光沢は光学的特性であり、光と表面の物理的特性との相互作用に基づいている。光沢は、実際には、表面が光を正反射方向に反射する能力である。平滑な表面を有する材料は、光沢があるように見えるが、かなり粗い表面は反射光がなく、したがって光沢がないように見える。
【0050】
黄色度指数(YI)の測定は、コニカ・ミノルタCM−2500dスペクトロメーターを使用して、DIN6167に従って行った。光沢の測定は、ZEHNTER ZGM1120光沢計を使用して60°の測定角にて行った。
【0051】
10mm厚さの硬化エポキシサンプルのショアーA硬度とショアーD硬度を、FRANKショアーデュロメータ使用して23℃で測定した。デュロメータに加える圧力を、少なくとも10秒以内に手で加え、ショアー値を記録した。
【0052】
硬化エポキシサンプル(190mm×20.5mm×4mm)に対する引張特性の測定は、Zwick1474引張試験機を23℃で使用して、ISO527に従って行った。Zwick1474引張試験機の力感度(force sensitivity)は0.01Nであり、変位感度(displacement sensitivity)は0.2μmであった。
【0053】
【表3−1】

【0054】
表3aは、本発明を実施するのに使用される3種の好ましいエポキシ系(1と2と3)を示し、表3bは、比較例を得るために使用される3種のエポキシ系(4と5と6)を示す。
【0055】
1〜3の系は、本発明を実施するのに使用される好ましいエポキシ系を開示しており、種々の二官能性脂肪族エポキシ樹脂を種々の含量にて含む。未硬化の液体エポキシ系1と2と3の粘度は、25℃および60℃にて常に170mPa・s未満である。硬化したニートのエポキシ系1と2と3は、DSC法とDMA法によれば、常に0℃未満の温度にてガラス転移温度の始まりを示す。硬化したニートのエポキシ系1と2と3は、SAE J1960試験条件下にてWOM中で200時間の曝露後でも、常に18未満の黄色度指数を示す。硬化エポキシ系1と2と3のショアーD硬度は、常に35未満である。
【0056】
硬化したニートのエポキシ系1と2と3の引張弾性率は、常に11MPa未満である。
このような特性により、エポキシ系1と2と3は、本発明にしたがって高度にフレキシブルな複合材料を製造するのに極めて適したものとなる。
【0057】
系4と5と6は、比較用サンプルを製造するのに使用されるエポキシ系を開示している。系4は三官能性の脂肪族エポキシ樹脂を含み、系5と6は芳香族エポキシ樹脂を含む。
未硬化の液体エポキシ系4と5と6の粘度は、25℃にて常に500mPa・sより高い。このような高粘度の場合には、繊維に浸透させる方法が困難である。硬化エポキシ系5と6は、室温より高いガラス転移温度を示す。室温では、このような系は剛性である。硬化エポキシ系5と6は、SAE J1960試験法に従ってWOM中にて200時間の曝露後に23より高い黄色度指数を示す。これらは、良好な透明性、光沢、または紫外線抵抗性を示さず、時間が経過するにつれてより黄色になっていく。硬化エポキシ系4と5と6のショアーD硬度は、常に60より高い。これらの材料の硬度は極めて高いので、ショアーA硬度を測定することができない。
【0058】
【表3−2】

【0059】
硬化エポキシ系4と5と6の引張弾性率は50MPaより高い。したがってこれらは高い剛性を示し、フレキシブルではない。硬化エポキシ系6は極めて脆いので、その引張特性を測定することができなかった。
【0060】
このような特性により、エポキシ系4と5と6は、本発明の高フレキシブル複合材料を製造するには不適切なものとなる。
複合材料の製造
繊維布帛に液体エポキシ系1(本発明)と6(比較用)を含浸させ、この含浸布帛を25℃で一日硬化させ、次いで40℃で16時間後硬化させることによって複合材料を製造した。これとは別に、含浸布帛は、オーブン中60℃にて2時間硬化させることもできる。
【0061】
275mm×110mmの寸法を有する炭素布帛(Hexcel 43200)2×2あや織物200g/mの1つの層と、275mm×110mmの寸法を有するガラス布帛(Hexcel 2116)平織物106g/mの2つの層に、米国特許第5,052,906号に開示の浸透法(SCRIMP(商標))によって、各実験中に約130g/mの樹脂を含浸させた。
【0062】
炭素布帛(Hexcel 43200)は、炭素2×2あや織物である。各方向のそれぞれのトウが、他の方向の2つのトウと交差している。このトウは3Kである(すなわち、それぞれ7ミクロンの直径を有する高抵抗性炭素の3000フィラメントで構成されている)。面積重量は200g/mである。ガラス布帛(Hexcel 2116)は平織物である。各方向のそれぞれのトウが、他の方向の1つのトウと交差している。このトウは、縦糸にて24フィラメント(ref EC7 22)を、そして横糸にて23フィラメント(Ref EC7 22)を有する。面積重量は106g/mである。
【0063】
布帛に含浸させるために、液体エポキシ系を繊維布帛に吸い込ませるよう、減圧(5ミリバールの残圧)を加えた。布帛に含浸させるためには、任意の直接的な複合材料処理方法を適用することができ、例えば、ウェットレイアップ、インフュージョン、樹脂トランスファー成形(RTM)、フィラメントワインディング、プレス成形、およびポルトルーション(Poltrusion、例えば、Daniel Gay,「Materiaux Composites」,Hermes edition,Paris,1997を参照)である。
【0064】
このようなタイプの処理は、本発明の好ましい実施態様にしたがって使用されるエポキシ系が低粘度であることによって可能となる。
得られた複合材料のフレキシビリティを比較するために、出願者は、炭素繊維(Hexcel 43200)またはガラス繊維(Hexcel 2116)の含浸・硬化された布帛に対し、下記の手順に従って幾つかの測定を行った。
【0065】
サンプルを、図1に示すようなテーブル上に配置し、分銅で固定した。自重による試験片の撓みHを23℃にて測定した。
MPa表示での弾性率を算出するために、サンプルは、一定の力(サンプルの自重)の下で撓むビームであると仮定した。下記の式に従って弾性率(表4の第6欄)を算出した。
【0066】
【化1】

【0067】
複合材料サンプルの繊維体積含量(fiber volume content)は、下記の式に従って算出する。例えば、Daniel Gay,「Materiaux Composites」,Hermes edition,Paris,1997,reference p59を参照されたい。
【0068】
【化2】

【0069】
測定と算出の結果の概要を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
表4から、本発明によるエポキシ系1を使用して製造した複合材料が、エポキシ系6を使用して製造した複合材料よりはるかに高い撓みH(>140mm)とはるかに低い弾性率E(<6.5Gpa)を示す、ということがわかる。
【0072】
驚くべきことに、高い撓みと予想外の低い弾性率は、本発明の方法を使用して得られる複合材料において達成することができる。このような複合材料は、強度とフレキシビリティが同時に求められる新たな用途に対して使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)非芳香族エポキシ樹脂と硬化剤とを含む液体エポキシ系を繊維布帛に含浸させる工程と;
b)含浸させた布帛を硬化させる工程と;
を含む、弾性複合材料の製造方法であって、
該エポキシ系が、硬化すると15MPa未満の引張弾性率を示し、該弾性複合材料が15GPa未満の曲げ弾性率を示す、上記方法。
【請求項2】
エポキシ系が、0℃より低い温度にてガラス転移温度Tgの始まりを示す、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
エポキシ系が、25℃にて450mPa・sより低い粘度を示す、請求項1〜2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
エポキシ系が、SAE J 1960試験条件に従って、ウェザロメーターWOM Xenon Ci5000中にて200時間の曝露後に、20未満の黄色度指数を示す、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
非芳香族エポキシ樹脂が、1分子当たり少なくとも2つのエポキシ基を有する脂肪族エポキシ樹脂、または少なくとも1.5の平均エポキシド官能価を有する少なくとも2種の脂肪族エポキシ樹脂の混合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
非芳香族エポキシ樹脂がジグリシジルエーテルである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
繊維布帛が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、または天然繊維を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって得ることができるか、または得られる複合材料。
【請求項9】
複合材料の全体積を基準として30%〜70%の体積分率の繊維を含む、請求項8に記載の複合材料。
【請求項10】
請求項8または9に記載の複合材料で造られる自動車もしくはレーシングカーの部品。
【請求項11】
請求項8または9に記載の複合材料を含むコンクリート。

【図1】
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【公表番号】特表2012−531481(P2012−531481A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516613(P2012−516613)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057529
【国際公開番号】WO2011/000646
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(504177804)ハンツマン・アドヴァンスト・マテリアルズ・(スイッツランド)・ゲーエムベーハー (43)
【Fターム(参考)】