説明

複合材料の製造方法

【課題】簡便な操作により複合材料を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の複合材料の製造方法は、ポリマー溶液と、層状粘土鉱物を分散させた分散液とを混合して混合液を調製する工程と、混合液のポリマーの溶解度を低下させる工程とをこの順に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーと無機化合物との複合材料は、ポリマーの加工性、靭性等の性質と無機化合物の耐熱性、硬度等の性質を併せ持った材料として注目されている。無機化合物のなかでも、層状粘土鉱物は、その特異な性質(水への分散性、イオン交換能など)から、ポリマーとの複合化が種々検討されている。例えば、層状粘土鉱物の層間に有機アンモニウム塩を挿入してポリマーとの親和性を向上させて複合化するインターカレーション法(例えば、特許文献1参照)、重合性モノマーを層状粘土鉱物の層間に挿入した後にモノマーを重合させるIn−situ法(例えば、特許文献2参照)が挙げられる。
【0003】
しかし、上記インターカレーション法は、有機アンモニウム塩による処理(イオン交換、ろ過、洗浄等)に時間を要すること、有機アンモニウム塩が高価であることからコスト面に問題がある。また、得られる複合材料に低分子量の化合物が存在するため、所望の組成を得るのが困難である他、耐熱性や機械的性能等の特性を低下させることがある。一方、上記In−situ法においては、使用するモノマーによっては層状粘土鉱物に酸処理等の前処理や、高価な触媒などが必要であるという問題がある。そこで、簡便な操作により複合材料を製造することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−336241号
【特許文献2】特開平11−236501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、複合材料を簡便な操作により製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複合材料の製造方法は、ポリマー溶液と、層状粘土鉱物を分散させた分散液とを混合して混合液を調製する工程と、該混合液のポリマーの溶解度を低下させる工程とをこの順に含む。
好ましい実施形態においては、上記混合液を冷却することによりポリマーの溶解度を低下させる。
好ましい実施形態においては、上記混合液に上記ポリマーの貧溶媒を添加することによりポリマーの溶解度を低下させる。
好ましい実施形態においては、上記層状粘土鉱物の配合割合が、ポリマー100重量部に対して、0.5重量部〜150重量部である。
本発明の別の局面によれば、複合材料が提供される。この複合材料は、上記製造方法により得られる。
好ましい実施形態においては、層状分子が剥離して薄片状となった上記層状粘土鉱物が、ポリマーで被覆された構成を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機アンモニウム塩等の処理剤を必要とせず、簡便な操作により複合材料を作製することができる。また、本発明によれば、層状粘土鉱物の配合割合を高くしても、良好に複合材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例で得られた複合材料のXRD測定結果である。
【図2】本発明の実施例で得られた複合材料のXRD測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
A.製造方法
本発明の複合材料の製造方法は、ポリマー溶液と、層状粘土鉱物を分散させた分散液とを混合して混合液を調製する工程(工程1)と、混合液のポリマーの溶解度を低下させる工程(工程2)とをこの順に含む。
【0011】
A−1.工程1
上記ポリマー溶液は、代表的には、ポリマーを溶媒に溶解させることにより調製する。ポリマーとしては、所望の複合材料に応じて、任意の適切なポリマーを選択することができる。例えば、ポリカーボネート系ポリマー;ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系ポリマー;ポリエーテルスルホン等のポリスルホン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系ポリマー;シクロオレフィン系ポリマー;ポリビニルアルコール系ポリマー;ポリイミド系ポリマー;ポリエーテルエーテルケトン等の芳香族ポリエーテルケトン系ポリマー;これらの共重合体(例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体)などが挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0012】
ポリマー溶液の溶媒としては、用いるポリマーに応じて、任意の適切な溶媒を選択し得る。例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類、N−メチルピロリドン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、水等が挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、後述の層状粘土鉱物を分散し得る溶媒が用いられる。このような溶媒を用いることにより、後述の工程2においてポリマーを良好に層状粘土鉱物表面に吸着させて、析出させることができる。このような溶媒としては、例えば、N−メチルホルムアミド、ホルムアミドおよびホルムアミドとN−メチルピロリドン、エタノール、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、エチレングリコール等との混合溶媒が挙げられる。
【0013】
ポリマー溶液の濃度は、好ましくは1重量%〜30重量%、さらに好ましくは5重量%〜15重量%である。
【0014】
ポリマー溶液の温度(混合液調製時)は、例えば、用いるポリマーおよびポリマー溶液の溶媒に応じて、設定する。代表的には50℃〜150℃、好ましくは90℃〜120℃である。このような温度に設定することにより、混合液調製時にポリマーが析出するのを防止し得る。
【0015】
上記層状粘土鉱物としては、任意の適切な層状粘土鉱物を採用し得る。例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガデイアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイト等が挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、雲母、モンモリロナイト、サポナイト等が用いられる。
【0016】
層状粘土鉱物の形状は特に限定されないが、好ましくは、その平均長さは10nm〜50μm、厚みは1nm〜100nm、アスペクト比は10〜50000である。
【0017】
層状粘土鉱物の分散媒としては、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、エチレングリコール等のグリコール類、水、スルホラン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、層状粘土鉱物の分散媒は、用いるポリマーの溶解性を考慮して選択する。混合液調製時にポリマーが析出するのを防止するためである。
【0018】
層状粘土鉱物の分散は、通常、撹拌で十分に分散させることができるが、必要に応じて、ホモジナイザー等で機械的剪断力を加えてもよい。
【0019】
層状粘土鉱物の配合量は、分散媒100重量に対して、好ましくは0.1重量部〜25重量部、さらに好ましくは1重量部〜10重量部である。
【0020】
層状粘土鉱物の分散液の温度(混合液調製時)は、例えば、用いるポリマーおよびポリマー溶液の溶媒に応じて、設定する。代表的には室温〜150℃である。このような温度に設定することにより、混合液調製時にポリマーが析出するのを防止し得る。
【0021】
上記混合液は、ポリマー溶液と層状粘土鉱物の分散液とを混合することにより調製する。ここで、加熱しながら混合することが好ましい。加熱温度は、代表的には50℃〜150℃、好ましくは90℃〜120℃である。ポリマー溶液と層状粘土鉱物の分散液との配合は、所望の複合材料に応じて、任意の適切な割合に設定し得る。層状粘土鉱物(固形分)の配合割合は、ポリマー(固形分)100重量部に対して、好ましくは0.5重量部〜150重量部、さらに好ましくは25重量部〜100重量部である。本発明の製造方法によれば、このように層状粘土鉱物の配合割合を高くしても、良好に複合材料を製造することができる。
【0022】
A−2.工程2
次に、工程1で調製された混合液のポリマーの溶解度を低下させる。層状粘土鉱物を分散させた混合液においてポリマーの溶解度を低下させることで、ポリマーが熱力学的に安定化するために層状粘土鉱物表面に吸着し、析出して、複合材料を製造することができる。このように、簡便な操作により複合材料を製造することができる。
【0023】
1つの実施形態においては、混合液を冷却することによりポリマーの溶解度を低下させる。冷却温度は、例えば、上記ポリマーおよびポリマー溶液の溶媒に応じて、設定する。冷却温度は、好ましくは−10℃〜50℃、さらに好ましくは10℃〜30℃である。
【0024】
別の実施形態においては、混合液にポリマーの貧溶媒を添加することによりポリマーの溶解度を低下させる。好ましくは、貧溶媒は、その比誘電率と上記ポリマー溶液の溶媒の比誘電率との差の絶対値が10以上である。このような関係を満たす貧溶媒を用いることにより、良好に複合材料を製造することができる。例えば、ポリマーとしてエチレン−ビニルアルコール共重合体を用い、ポリマー溶液の溶媒にN,N−ジメチルアセトアミドを用いる場合、貧溶媒としては、アセトン、水、エタノール、イソプロパノール等が好ましく用いられる。
【0025】
B.複合材料
本発明の製造方法によれば、層状粘土鉱物の配合割合を高くした場合においても、ポリマーと層状粘土鉱物とが良好に(例えば、ナノレベルまで)複合化し得る。その結果、得られる複合材料は優れた特性を有し得る。具体的には、成形品の耐熱性、ガスバリア性等の特性を大幅に向上させることができる。また、得られる複合材料は、層状粘土鉱物の配合割合が高い場合に置いても成形加工性に優れることから、当該複合材料を構成するポリマーと溶融混合することにより所望の濃度に調整することができる他、所望の性能を得ることを目的として他のポリマーと溶融混合することもできる。このように、マスターバッチとしても使用することができる。
【0026】
好ましい実施形態においては、本発明により得られる複合材料は、層状分子が剥離して薄片状(単層)となった上記層状粘土鉱物が、ポリマーで被覆された構成を有する。このような複合材料は、エタノール、メタノール、アセトン等のポリマーの貧溶媒へ希釈分散が可能である。例えば、当該分散液をキャスト後、走査型電子顕微鏡(SEM)により、ポリマーにより被覆された層状粘土鉱物が、剥離した状態にあること(薄片状であること)を観察することができる。また、エネルギー分散型X線分光法(EDS)により元素分析を行うことで、剥離した層状粘土鉱物の薄片(単層)上へ炭素、窒素などポリマー由来の元素の存在を確認することができる。
【0027】
例えば、上記複合材料が分散した分散液をキャストすることで被覆された層状粘土鉱物が積層した複合材料層を形成することが可能となり、さらに熱プレスなどの後処理を施すことで緻密な複合材料層の形成も可能となる。また、このような複合材料は溶融成形されても層状粘土鉱物は単層剥離した状態で存在し得、ナノレベルの複合材料を簡便に作製することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、測定方法の詳細は以下のとおりである。
【0029】
[実施例1]
(工程A)
ポリマーとして、エチレン共重合比率が27mol%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(株式会社クラレ製、商品名:EVAL L171A)を用いた。ジメチルアセトアミド(比誘電率:37.8)を160℃に加温下、EVOHを溶解させて10重量%のポリマー溶液を調製した。
また、層状粘土鉱物としてクニピアF(クニミネ工業株式会社製)をホルムアミド(比誘電率:109)中へ添加、ホモジナイザーによる分散処理を施し、5重量%の層状粘土鉱物分散液を調製した。
その後、120℃に保持したポリマー溶液40g中に、室温に保持した層状粘土鉱物の分散液34.2gをゆっくりと滴下し、120℃に加熱しながら撹拌して混合液を調製した。
【0030】
(工程B)
得られた混合液を室温にて放冷した。冷却により生じた沈殿物をろ過し、メタノールで洗浄した後、乾燥し、複合材料を得た。
【0031】
[実施例2]
(工程A)
実施例1と同様にして混合液を調製した。
【0032】
(工程B)
得られた混合液72.2gを80℃に加温、攪拌下、イソプロパノール(比誘電率:19.9)100gをゆっくりと滴下することで、白色の沈殿が生じた。生じた沈殿物を実施例1と同様に回収し、複合材料を得た。
【0033】
[実施例3]
(工程A)
ポリマーとして、ポリエーテルスルホン(住友化学株式会社製、商品名:PES5003P)を用いた。ジメチルホルムアミドを160℃に加温下、PES5003Pを溶解させて10重量%のポリマー溶液を調製した。
また、層状粘土鉱物としてクニピアF(クニミネ工業株式会社製)をN−メチルホルムアミド中へ添加、ホモジナイザーによる分散処理を施し、重量6%の層状粘土鉱物分散液を調製した。
その後、120℃に保持したポリマー溶液20.0g中に、室温に保持した層状粘土鉱物の分散液16.7gをゆっくりと滴下し、120℃に加熱しながら撹拌して混合液を調製した。
【0034】
(工程B)
得られた混合液を室温にて放冷した。冷却により白濁した分散液へメタノールを添加して析出物を沈降させた後、この沈殿物をろ過し、メタノールで洗浄した後、乾燥し、複合材料を得た。
【0035】
各実施例で得られた複合材料について、以下の測定を行った。
1.XRD測定
得られた複合材料を80℃で3時間乾燥後、ホットプレス(テスター産業株式会社製)により、シート状(厚み500μm)に成形し、測定用サンプルを作製した。ここで、実施例1および実施例2については、220℃、0.5MPaの成形条件にてシート化した。実施例3については、350℃、0.5MPaの成形条件にてシート化した。
得られた測定用サンプルのX線回折測定を、X線回折装置(RINT−Ultima3、(株)リガク製)にて2θ=1〜12°の範囲で行った。
2.TG−DTA測定
得られた複合材料中の層状粘土鉱物含有量をTG−DTA(株式会社島津製作所製)にて測定した。測定は、空気流通下(0.5L/min)、30℃〜1000℃まで10℃/minの昇温速度にて昇温し、その際の重量減少率より複合材料中に存在する層状粘土鉱物の含有量を算出した。
【0036】
XRD測定の結果を図1に示す。層状粘土鉱物(クニピアF)に起因するピーク(2θ=8°付近)は認められず、ポリマーが層状粘土鉱物表面に吸着、層間へ挿入されて、層状分子が剥離して薄片状(単層)となり、複合化されたと考えられる。また、得られた複合材料中の層状粘土鉱物の含有量を熱分析により確認したところ、30重量%の層状粘土鉱物が含有されていることが確認された。
【0037】
[実施例4]
(マスターバッチとしての利用)
実施例1で得られた複合材料2.24gとエチレン共重合比率が27mol%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(株式会社クラレ製、商品名:EVAL L171A)11.19gとをラボプラストミル(株式会社東洋精機製)にて220℃、90rpmのスクリュー回転数のもと混合した。得られた混合物をホットプレスにより220℃、0.5MPaの条件下、500μmのシートに成形した。
【0038】
得られたシートは透明で、凝集物は確認されなかった。また、得られたシートの層状粘土鉱物含有量を熱分析により算出したところ、4.8重量%であった。
【0039】
実施例1と実施例4のXRD測定の結果を図2に示す。実施例1では、層間にポリマーが挿入されることにより、2θ=7°あたりに明確なピークが確認されたのに対し、実施例4ではピーク強度が大幅に低下し、かつ、ピークは低角側へとシフトしている。これは、実施例4ではさらなる層状粘土鉱物の剥離の進行により、ナノレベルで分散していることを示唆している。したがって、本発明により得られる複合材料をマスターバッチとして利用することで、簡便に層状粘土鉱物含有量の調整が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、機械強度およびガスバリア性に優れた複合材料を簡便に製造可能である。また、スーパーエンジニアリングプラスチックとの複合材料においては、その成形品の表面処理を省略し得、既存の複合材料プロセスと比較して力学物性の向上のみならず、耐摩耗性、摺動特性の大幅な向上も可能である。したがって、本発明により得られる複合材料は、例えば、食品包装用フィルム、電子材料向け包装パッケージ、ディスプレイ部材などガスバリア性が必要とされる分野、コピー機、プリンター、VTR、カメラ等の機械類、自動車部品(例えば、歯車、軸受けなど)等の摺動部材などに好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー溶液と、層状粘土鉱物を分散させた分散液とを混合して混合液を調製する工程と、
該混合液のポリマーの溶解度を低下させる工程と
をこの順に含む、複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記混合液を冷却することによりポリマーの溶解度を低下させる、請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記混合液に前記ポリマーの貧溶媒を添加することによりポリマーの溶解度を低下させる、請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記層状粘土鉱物の配合割合が、ポリマー100重量部に対して、0.5重量部〜150重量部である、請求項1から3のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の製造方法により得られた、複合材料。
【請求項6】
層状分子が剥離して薄片状となった前記層状粘土鉱物が、ポリマーで被覆された構成を有する、請求項5に記載の複合材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−87215(P2012−87215A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235113(P2010−235113)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】