説明

複合材料及びその製造方法

【課題】Ni−P合金めっきを有する固体材料に化成処理を施し、この化成処理による着色がなく又は少なく耐食性耐変色性に優れた複合材料を提供する。
【解決手段】基体上のNi−P合金めっき層に、Zr及び/又はTiからなる主金属元素と、ハロゲン元素とを含み、pH=2.0〜6.0の化成処理液による化成処理を施して、1〜30mg/m2の主金属元素と、それぞれ1〜100mg/m2のリン元素及び酸素元素を含む化成被膜層を形成し、水洗浄して複合材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料及びその製造方法に関するものであり、更に詳しく述べるならば、ニッケル−リン合金めっきされた金属、プラスチックス及びセラミックス材料からなる基材と、無着色高耐食性化成被膜とを有し、着色がなく、高耐食性及び高耐変色性を有する複合材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料などの表面に施されたニッケル−リンめっき被膜、特に無電解ニッケル−リン合金めっき被膜に対し、その腐食及び変色の防止を目的とする化成処理として、クロメート処理を施すことが知られている。このクロメート処理浴、及びそれによって形成された被膜中に6価クロムが含まれる。6価クロムは、人体に有害であり、その使用が、制約乃至禁止されている。このため、クロメート処理に代る化成処理方法の開発が望まれている。
【0003】
ニッケル−リン合金めっきが施された金属などの材料に対する6価クロム非含有化成処理については、下記の文献が知られている。
【特許文献1】特開平11−152588号公報
【特許文献2】特開2003−213447号公報
【特許文献3】特開2006−9089号公報
【特許文献4】特開2005−146411号公報
【特許文献5】特開2005−194603号公報
【特許文献6】特開2005−336550号公報
【特許文献7】WO2005/103080 A2
【特許文献8】WO03/074761 A1
【特許文献9】特開2006−328501号公報
【0004】
6価クロム非含有化成処理剤のうち、3価クロムを含むものとしては、特許文献1に、3価クロム、リン酸イオン及び硝酸イオンを含む処理液が開示されており、特許文献2には、3価クロムと無機酸イオン、例えば硝酸とを含有する処理液が開示されており、特許文献3には、3価クロムと、リンの酸素酸イオン、例えばリン酸イオンとを含有する処理液が開示されている。
【0005】
クロムを含有しない処理液としては、特許文献4にモリブデン酸化合物、タングステン酸化合物、リン酸化合物、硫酸化合物及び珪酸化合物を含む処理剤が開示されており、この処理剤を用いると、例えば無電解ニッケル皮膜上に、酸素、ケイ素、ニッケル、及びリンを含有する保護膜を形成することができること及びさらにモリブデン及び/又はタングステンを含有させてもよいことが開示されている。特許文献5には、タングステン酸及び/又はその塩、リン酸及び/又はその塩を含む表面処理液が開示されており、それによって、ニッケル皮膜又はニッケル合金皮膜上にタングステン酸ニッケル及びリン酸ニッケルを含む不溶性皮膜を形成することが開示されている。特許文献6には、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄などの金属を含有する表面に、ビニルアミン、アリルアミン、アリルアミン塩、ジアリルアミン、ジアリルアミン塩及びジアリルアンモニウム塩からなる群から選ばれた1種以上のモノマーを、構成モノマーとして含む重合体を含有する金属用表面処理剤を接触させ、必要により水洗又は湯洗を施し、乾燥して、耐食性、耐変色性重合体被膜を形成することが記載されている。しかしながら、上記、3価クロム含有処理剤及びクロム非含有処理剤により形成される保護皮膜は、クロメート皮膜に対比すると、耐食性及び耐変色性において、不満足なものであった。
【0006】
鉄鋼材料、亜鉛めっき金属材料、及びアルミニウム又はアルミニウム合金材料に対して用いられるクロム非含有化成処理剤として、ジルコニウム系化成処理剤及びチタン系化成処理剤が知られている。特許文献7には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム及びシリコンから選ばれた1種以上の元素を含む化合物、HFの供給源となるフッ素含有化合物を含有する、鉄又は亜鉛含有金属材料用表面処理剤が開示されている。
特許文献8には、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム又は、マグネシウム合金用表面処理剤として、ハフニウム、チタン、ジルコニウム及びシリコンから選ばれた1種以上の元素を含む化合物と、フッ素含有化合物と、アルカリ土類金属群から選ばれた1種以上の金属イオンと、硝酸イオンとを含有する処理液が開示されている。しかしながら、これらの処理液も、それを、ニッケル−リン合金めっき金属材料に用いたとき、耐食性及び耐変色性向上効果において、未だ十分に満足できるものではない。
【0007】
前記ジルコニウム系処理液又はチタン系処理液にさらに3価クロムを含有させ、それによって、耐食性を更に向上させる試みも知られている。特許文献9には、水溶性3価クロム化合物成分、水溶性チタン又はジルコニウム化合物成分、水溶性硝酸化合物成分、水溶性アルミニウム化合物成分及びフッ素化合物成分と、必要により酸化剤成分とを含む水性酸性化成処理液が開示されており、この化成処理液からアルミニウム又はアルミニウム合金材料上に形成された化成被膜には、3価クロム、チタン及び/又はジルコニウムが含有され、耐食性、塗料密着性及びスラッジ防止性において良好であることが報告されている。
【0008】
しかしながら、前記ジルコニウム系処理液、チタン系処理液及びジルコニウム及び/又はチタン−3価クロム混合化成処理液を、ニッケル−リン合金めっき金属材料、特に無電解ニッケル−リン合金めっき金属材料に適用すると、それによってその金属材料表面に着色を生ずるという問題が、本発明者らによって見出されている。またこのように着色した化成保護皮膜を有するニッケル−リン合金めっき材料については、その用途、特に電子電気機器における用途を獲得し、拡大することは、困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はニッケル−リン合金めっき層を有する固体材料からなる基材と、その上に形成され、かつそれに、高い耐食性及び耐変色性を付与し、かつ化成処理皮膜とを含み、化成処理による着色がなく又は少なく、高い耐食性及び高耐変色性を有する複合材料及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の複合材料は、金属材料、プラスチックス材料又はセラミックス材料からなる基体及び前記基体の少なくとも1面に形成されたニッケル−リン合金めっき層を含む基材と、前記基材のニッケル−リン合金めっき層上に化成処理を施して形成された化成被膜層とを含み、前記化成被膜層が1〜30mg/m2のジルコニウム及びチタンから選ばれた少なくとも1種の主金属元素と、1〜100mg/m2のリン元素と、及び1〜100mg/m2の酸素元素とを含み、化成処理による着色がなく又は少なく、高耐食性及び高耐変色性を有することを特徴とするものである。
本発明の複合材料において、前記基体用材料が金属材料、プラスチックス材料、及びセラミックス材料から選ばれることが好ましい。
本発明の複合材料において、前記基体上に形成されたニッケル−リン合金めっき層が、リンを、0.05〜20g/m2の含有量で含むことが好ましい。
本発明の複合材料において、前記化成被膜中に含まれるリン(P)量の、リン及び酸素の合計量(P+O)に対する原子比率P/(P+O)が、0.01〜0.25の範囲内にあることが好ましい。
本発明の複合材料において、前記化成被膜中に含まれるリンが、リン酸塩及び亜リン酸塩から選ばれた少なくとも1種の化合物として存在することが好ましい。
本発明の複合材料において、前記化成被膜が3価クロムからなる1〜30mg/m2の第1追加金属元素をさらに含んでいることが好ましい。
本発明の複合材料において、前記化成被膜が、タングステン、モリブデン、バナジウム及びセリウムから選ばれた少なくとも1種からなる1〜30mg/m2の第2追加金属元素をさらに含んでいることが好ましい。
本発明の複合材料の製造方法は、金属材料、プラスチックス材料又はセラミックス材料からなる基体及び、その少なくとも1面上に形成されたニッケル−リン合金めっき層とを含む基材の前記ニッケル−リン合金めっき層の表面の少なくとも一部分に、ジルコニウム及びチタンから選ばれた少なくとも1種からなり、濃度が1〜5000ppmの主金属元素、及びフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選ばれた少なくとも1種からなり、濃度が1〜10000ppmのハロゲン元素を含み、かつ2.0〜6.0のpHを有する化成処理液を接触させ、それによって1〜30mg/m2のジルコニウム及びチタンから選ばれた少なくとも1種の主金属元素と、1〜100mg/m2のリン元素と、1〜100mg/m2の酸素元素とを含み、化成処理による着色がなく又は少なく、高い耐食性及び耐変色性を有する化成被膜層を形成し、得られた化成被膜層を水により洗浄することを特徴とするものである。
本発明の複合材料の製造方法において、前記化成処理液の調製に、前記主金属元素が、その水和酸化物、或いはフッ化物、塩化物、オキシ塩化物、臭化物、ヨウ化物、又はフッ素含有酸の塩の形態で用いられることが好ましい。
本発明の複合材料の製造方法において、前記化成処理液の調製に、前記ハロゲン元素が、塩酸、フッ化水素酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、或いは前記主金属元素の塩化物、フッ化物、臭化物又はヨウ化物の或はフッ素含有酸の塩の形態で用いられることが好ましい。
本発明の複合材料の製造方法において、前記化成処理液が、3価クロム元素を第1追加金属元素としてさらに含有することが好ましい。
本発明の複合材料の製造方法において、前記化成処理液中の3価クロム元素の濃度が、1〜5000ppmであることが好ましい。
本発明の複合材料の製造方法において、前記化成処理液の調製に、前記3価クロム元素が、その水和酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、又はフッ素含有酸の塩の形態で用いられることが好ましい。
本発明の複合材料の製造方法において、前記化成処理液が、タングステン、モリブデン、バナジウム及びセリウムから選ばれた少なくとも1種の元素からなる第2追加金属元素を含有することが好ましい。
本発明の複合材料の製造方法において、前記化成処理液中の第2追加金属元素の濃度が、1〜5000ppmであることが好ましい。
本発明の複合材料の製造方法において、前記化成処理液の調製に、前記第2追加金属元素が、その水和酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、又はフッ素含有酸の塩の形態で用いられることが好ましい。
本発明の複合材料の製造方法において、前記基体が、アルミニウム含有金属材料である場合には、この基体に前記ニッケル−リン合金めっき処理及び水洗浄を施した後、かつ前記化成処理を施す前に、前記ニッケル−リン合金めっき基材に温度50℃以上の温水を接触させるか、或いは前記化成処理及び水洗浄を施して得られた複合材料に、温度50℃以上の温水を接触させることを更に含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合材料は、ニッケル−リン合金めっき層を有する金属材料、プラスチックス材料又はセラミックス材料を基材として含むものであるが、その上に化成処理によって形成された化成被膜は、得られる複合材料を着色することなく又は少なく、それに高い耐食性と耐変色性を付与することができ、また、本発明方法は、上記複合材料を、容易に、かつ効率よく製造することを可能にするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の複合材料の基体として用いられる固体材料は、電導性固体材料及び非電導性固体材料のいずれであってもよく、またその形状・寸法などに制限はない。一般に基体用材料は鉄、銅、及びアルミニウム並びにこれらの合金などの金属材料、プラスチックス材料(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、PET樹脂、ABS樹脂など)及びセラミックス材料(ガラス材料を含み、例えば、ケイ酸塩ガラス、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素など)などから選択することができる。
【0013】
本発明の複合材料において、基体上に形成されるニッケル−リン合金めっき層は、無電解めっき法、又は電解めっき法のいずれかにより形成する事ができる。ニッケル−リン合金めっき浴としては、ニッケル供給源として、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、次亜リン酸ニッケルなどの1種類以上と、リン供給源として、例えば、次亜リン酸塩、亜リン酸塩等の1種類以上を含む水性処理液を用いることができる。めっき層の厚さは、所望に応じて適宜設定することができるが、一般に0.5〜20μm程度であることが好ましく、このリンの含有量は0.05〜20g/m2であることが好ましい。めっき層中のリン含有量が0.05g/m2未満であると均一なめっき層を得ることができないという不都合を生ずることがあり、またそれが20g/m2を超えるめっき層は実用的に生産することが困難になることがある。
【0014】
本発明の複合材料は、固体材料からなる基体と、その少なくとも1面に形成されたニッケル−リン合金めっき層を有する基材、及びこの基材のニッケル−リン合金めっき層上に化成処理を施して形成された化成被膜を含むものであって、前記化成被膜層は、1〜30mg/m2の、好ましくは1〜20mg/m2の、ジルコニウム及びチタンから選ばれた少なくとも1種の主金属元素と、1〜100mg/m2の、好ましくは1〜50mg/m2のリン元素と、及び1〜100mg/m2の、好ましくは1〜50mg/m2の酸素とを含み、化成処理による着色がなく又は少なく、高耐食性及び高耐変色性を有するものである。
【0015】
前記化成被膜層中の主金属元素(Zr及び/又はTi)の含有量が1mg/m2未満であると、得られる化成被膜の量が不十分になり、その耐食性及び耐変色性が不十分になる。またそれが30mg/m2をこえると、得られる化成被膜量が過大になり光の干渉により、着色が生じ、コストが高く、経済的に不利になる。また、リンの含有量が1mg/m2未満であると、得られる化成被膜の量が不十分になり、その耐食性および耐変色性が不十分になる。またそれが100mg/m2を超えると着色を生じてしまうという不都合を生ずる。さらに酸素の含有量が1mg/m2未満であると、得られる化成被膜の量が不十分になり、その耐食性及び耐変色性が不十分になり、またそれが100mg/m2を超えると着色を生じてしまうという不都合を生ずる。
【0016】
本発明の複合材料において、前記化成被膜中に含まれるリン(P)量の、リン及び酸素の合計量(P+O)に対する原子比率P/(P+O)が、0.01〜0.25の範囲内にあることが好ましく、0.02〜0.2の範囲内にあることがより好ましい。原子比率P/(P+O)が、0.01未満であると、つまり、リンの酸素に対する相対的量が過少になると、得られる複合材料の耐食性及び耐変色性が不十分になることがある。原子比率P/(P+O)が0.25のとき、リン及び酸素は亜リン酸塩の形態をとることになるから、P/(P+O)の値が、0.25を超えることはない。
【0017】
本発明の複合材料は、本発明方法により製造することができる。
本発明方法において、固体材料からなる基体の1面上にニッケル−リン合金めっき層を形成したものを基材として用い、この基材のニッケル−リン合金めっき層の表面の少なくとも一部分に、化成処理液を接触させて、これに化成処理が施される。前記化成処理液はジルコニウム及びチタンから選ばれた少なくとも1種からなる主金属元素を、1〜5000ppmの濃度で、好ましくは5〜1000ppmの濃度で含みまた、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選ばれた少なくとも1種からなるハロゲン元素を、1〜10000ppmの濃度で好ましくは5〜5000ppmの濃度で含み、かつ、2.0〜6.0のpH、好ましくは2.5〜5.5のpHを有するものである。化成処理液の溶媒は水であることが好ましいか水と相溶性のある極性溶媒、または、水と極性溶媒との混合物であってもよい。
極性溶媒としては、アルコール系、グリコールエーテル系、アミド系溶媒などが用いられ、具体的には、エタノール、メタノール、2−プロパノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを例示することができる。
前記化成処理液と、基材のニッケル−リン合金めっき層との接触は、好ましくは20〜80℃、より好ましくは30〜70℃の温度において、好ましくは1〜1800秒間、より好ましくは5〜600秒間の接触時間をもって行われる。
【0018】
上記の化成処理液との接触により、ニッケル−リン合金めっき層上に化成被膜層が形成され、この化成被膜層には1〜30mg/m2の主金属元素(Zr及び/又はTi)と、1〜100mg/m2のリン元素と、1〜100mg/m2の酸素元素とが含まれる。
前記化成処理液の温度が、20℃未満であると、エッチング速度が低く、上記組成を有する化成被膜の形成速度が遅く、実用上の処理時間内に十分な化成被膜が形成されないことがあり、それが、80℃をこえると、処理液中の金属元素が加水分解により析出し、スラッジを生成しやすくなり、またエネルギーコストが高く経済的に不利になることがある。また、処理時間が1秒未満では、化成反応が十分に行われず、化成被膜の形成も不十分になることがあり、また、それが1800秒を超えると、化成反応効果が飽和し、実用的生産性が低下する。
【0019】
本発明方法において、化成処理により形成された化成被膜層の厚さは1〜100nmであることが好ましい。化成被膜層の厚さが1nm未満であると、その耐食性及び耐変色性向上効果が不満足になることがあり、それが100nmを超えると、その耐食性、耐変化性向上効果が飽和し、コストの上昇による経済的不利を生ずることがあり、また光の干渉による着色を生ずることがある。
【0020】
上記化成処理液接触が完了した後に、得られた化成皮膜層を、水洗浄して、付着している化成処理液を除去する。この水洗浄において、5〜80℃の水による洗浄を1〜2回施し、その後に5〜80℃の脱イオン水により1〜2回の洗浄を施すことが好ましい。
【0021】
本願発明方法に用いられる化成処理液には、主金属元素及びハロゲン元素が含まれる。化成処理液用主金属元素はジルコニウム(Zr)及びチタン(Ti)から選ばれた少なくとも1種であり、得られる複合材料の耐食性及び耐変色性を向上させることができる。化成処理液の調製において、前記主金属元素は、その水溶性化合物、例えば水和酸化物、塩化物、フッ化物、ヨウ化物、臭化物、及びフッ素含有酸の塩(例えばフルオロジルコニウム(IV)錯塩、フルオロチタン(III)又は(IV)酸錯塩)の形態で用いることが好ましく、化成処理液中の主金属元素(Zr及び/又はTi)の含有量は、1〜5000ppmであることが好ましく、それが1ppm未満であると、得られる化成皮膜が耐食性及び/又は耐変色性において不十分になる。またそれが5000ppmを超えると、得られる化成皮膜の性能が飽和してしまうが、コストが高くなり経済的に不利になる。
【0022】
化成処理液には、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選ばれた少なくとも1種からなるハロゲン元素が含まれ、このハロゲン元素は、化成処理液のニッケル−リン合金のめっき層及び基体に対するエッチング効果を左右し、従って、化成反応をコントロールするために重要な成分である。しかもハロゲン元素によるエッチング効果は得られる複合材料に着色を生ずることがない。化成処理により、得られる複合材料に着色を生ずる原因としては、化成処理により生成する化成被膜層による干渉色の発生があり、また、化成処理時に、ニッケル−リン合金めっき層に、エッチングによる表面凹凸が形成し、それが着色の原因になることがある。化成処理液中に、硝酸、硫酸及びリン酸などの無機酸のイオン、並びに、酢酸、蟻酸、酒石酸、クエン酸などの有機酸のイオンの存在が得られる化成処理物に着色を生ずる傾向があり、特に硝酸イオンは、ニッケル−リン合金めっき層表面に、著しい凹凸を形成し、着色を生じさせることが本発明者らによって見出されている。上記の着色を発生する酸類は、本発明方法には不要であり、これらを化成処理液に初めから含ませることはない。化成処理液中の前記ハロゲン元素は、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、並びに前記主金属元素(Zr及び/又はTi)のフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物及びフッ素含有酸の塩の形態で存在することが好ましい。
本発明方法に用いられる化成処理液中の前記ハロゲン元素の含有量は1〜10000ppmである。その含有量が1ppm未満であると、ニッケル−リン合金めっき層などの基材表面に対するエッチング効果が不十分になり、従って、化成効果が不十分になる。また、ハロゲン元素の含有量が10000ppmを超えると、エッチング効果が過剰になり、かつ、コストが高くなり経済的に不利となる。
【0023】
本発明方法において、化成処理液に、第1追加金属元素として3価のクロム(Cr(III))元素がさらに含まれていることが好ましい。3価クロムの添加により得られる化成被膜形成において、金属含有成分の析出量を抑制し、過剰の析出による干渉色による着色を防止することができる。化成処理液に3価クロムを含有させるためには、3価クロムの水和酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ素含有フルオロクロム(III)酸塩、及びフルオロ金属酸(例えばフルオロジルコニウム酸クロム(III)など)の3価クロム塩を用いることが好ましい。化成処理液中の3価クロム元素の含有量は1〜5000ppmであることが好ましく、5〜1000ppmであることがより好ましい。その含有量が1ppm未満では、3価クロム添加の効果が不十分になることがあり、また、それが5000ppmをこえると、その作用効果に対するコスト上昇率が過大になり経済的に不利になることがある。
【0024】
本発明方法において、化成処理液中には、必要によりタングステン、モリブデン、バナジウム及びセリウムから選ばれた1種以上からなる第2追加金属元素を含んでいてもよく、それによって、得られる複合材料の耐食性及び耐変色性を、さらに向上させることができる。化成処理液中の第2追加金属元素の含有量は、1〜5000ppmであることが好ましく、5〜1000ppmであることがより好ましい。化成処理液の調製に、前記第2追加金属元素は、各金属元素の水和酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物及びフッ素含有酸の塩(例えば、フルオロタングステン(V)酸錯塩、フルオロモリブデン(III),(IV),(V)又は(VI)酸錯塩、フルオロバナジウム(III),(IV)又は(V)酸錯塩など)の形態で用いられることが好ましい。化成処理液中の第2追加金属元素の含有量が1ppm未満の場合には、得られる複合材料における第2追加金属元素の添加による耐食性及び耐変色性の向上効果が不十分になることがあり、また、それが5000ppmを超えると、得られる作用効果に対するコスト上昇率が高くなりすぎ、経済的に不利になることがある。
【0025】
本発明方法において、化成処理液のpHは、2.0〜6.0の範囲内に好ましくは2.5〜5.5の範囲内に調整される。このpH調整のためには慣用のpH調整剤を用いてもよいが、本発明の化成被膜に有害なアニオンの混入を避けるために、例えば、フッ化水素酸、水酸化ナトリウム及びアンモニア水などを用いることが好ましい。化成処理液のpHが2.0未満であると、ニッケル−リン合金めっき層に対する化成処理液のエッチング力が過度に強くなり、所望の化成被膜の析出形成効果が低下し、また、ニッケル及びリンの溶出量が過多になり、化成処理のランニング性が不良になり、めっき層表面の凹凸形成の程度が過大になる。また、pH値が6.0を超えると、化成処理によるスラッジの発生量が多くなり、化成処理液の安定性が不良になる。
【0026】
上記化成処理における化成皮膜の生成機構は、下記のとおりである。
本発明方法において、ハロゲン元素含有水性酸性化成処理液がニッケル−リン合金めっき層に接触すると、化成処理液に接触しためっき層中のニッケル及びリン成分(及び場合により、めっき層の欠陥部において、化成処理液に接触した基体中の鉄及びアルミニウムなどの金属成分)がエッチングされて水素発生反応を生じ、それに伴って、めっき層近辺において、水素イオンの濃度が低下し、pH値の上昇が発生する。一方、化成処理液中において、主金属元素(Zr及び/又はTi)は、化成処理液に含まれるハロゲン元素含有物質から生成されるハロゲン含有イオンと錯体を形成しているが前記pHの上昇に伴い、前記ハロゲン含有イオンの錯体の安定性が低下する。
また、化成処理液と接触しためっき層から、めっき層中のリンが酸化溶出して、リン酸イオン及び/又は亜リン酸イオンを生成する。前記不安定化したハロゲン含有イオン錯体中のZr及び/又はTiは、めっき層近辺に生成しているOHイオン、前記リン酸イオン、亜リン酸イオンなどと反応して、水不溶性の水酸化物、酸化物、リン酸塩及び/又は亜リン酸塩を形成し、めっき層の表面に析出し、付着する。
上記主金属元素、リン元素及び酸素元素を含有する被覆物質の生成及び析出は、主として、ニッケル−リン合金めっき層の表面附近で発生するが、基体が金属材料(例えばアルミニウム、鉄など)である場合には、この金属材料基体の露出面においても発生進行し、基材の全面が化成被膜層により被覆される。従って、基材表面に形成される化成被膜は、主金属(Zr及び/又はTi)元素の水酸化物、酸化物、リン酸塩及び、亜リン酸塩などが複合して形成され、バリヤー性の高い物質からなるものである。
【0027】
化成処理液が第1追加金属元素(Cr(III))及び/又は第2追加金属(W,Mo,V及び/又はCe)元素を含む場合はこれらの第2追加金属も、主金属元素(Zr及び/又はTi)と同様に、水酸化物、酸化物、リン酸塩及び/又は亜リン酸塩などの形態で析出し化成被膜内に含有され、化成被膜層のバリヤー性を補強し、耐食性、耐変色性をさらに向上させるが、着色させることはない。この場合、得られる化成被膜中のこれら第1及び第2追加金属元素の含有量は、それぞれ、1〜30mg/m2であることが好ましく、1〜20mg/m2であることがより好ましい。
得られる化成被膜中の第1及び第2追加金属元素の含有量が、それぞれ1mg/m2未満であると、それぞれの添加による耐食性及び耐変色性向上効果が不十分になることがあり、また、それが30mg/m2を超えると、得られる化成被膜の厚さが過大になり光の干渉による着色を生ずることがあり、また製造コストが高くなり、経済的に不利になることがある。
【0028】
本発明方法において、前記基体がアルミニウム含有金属である場合、この基体に、前記ニッケル−リン合金めっき処理及び水洗浄を施した後、かつ前記化成処理を施す前に、前記ニッケル−リン合金メッキ基材に温度50℃以上の温水を接触させるか、或いは前記化成処理及び水洗浄を施して得られた複合材料に、温度50℃以上の温水を接触させることを更に含んでいることが好ましい。このようにすると、アルミニウム含有金属材料を基体とする金属複合材料の耐食性を一層向上させることができる。
このときの温水処理温度は50℃以上であり、100℃に近い程好ましく、また使用する水の純度が高い程好ましい。また温水処理時間は1〜1800秒間であることが好ましく、5〜600秒間であることがより好ましい。温水温度が50℃未満であるとき、また処理時間が1秒未満であるときは、それによる耐食性向上効果が不十分である。また温水処理時間が、1800秒を超えると、作用効果が飽和し、実用上の生産性が低下する。
上記温水処理効果発生の機構としては、アルミニウム含有金属基体の露出表面に酸化アルミニウム(ベーマイト)皮膜が形成され、それが封孔効果を生じ、それによって腐食に対して、バリヤー効果を示すものと考えられる。
【実施例】
【0029】
本発明の複合材料及びその製造方法を、下記実施例により説明する。
(1)下記実施例及び比較例において使用された基体は下記のとおりである。
アルミニウム板:A5052材、厚さ:0.5mm
冷延鋼板:SPCC材、厚さ:0.5mm
プラスチックス材料:ポリプロピレン板、厚さ:0.5mm
セラミックス材料:アルミナ板、厚さ:0.5mm
(2)ニッケル−リン合金めっき
前記基体の表裏両面に、ニッケル−リン合金めっき剤(商標:SEK−670、日本カニゼン(株)製)を用いて、無電解めっきを施して、基材として用いるニッケル−リン合金めっき金属材料を作製した。
ニッケル−リン合金めっき層の付着量は、基体の片面当り40g/m2であり、ニッケル及びリンの量は、それぞれ片面当り38g/m2及び2g/m2であった。
【0030】
また、実施例及び比較例において、下記の測定及び評価を行った。
1.化成被膜の蛍光X線分析
化成被膜中の主金属元素(Zr,Ti)、第一追加金属元素(Cr(III))、第2追加金属元素(W,Mo,V,Ce)の定量分析を蛍光X線分析(XPF分析)装置を用い、検量線法により行った。
また、リン及び酸素については、試料にイオンスパッタリングを施し表面から深さ方向にXPS分析を行い、各層における、耐食金属元素(Zr,Ti)、リン(P)、酸素(O)に由来するピーク(Zr:Zrd,Ti:Ti2p,O:Os,P:Ppのうち、酸化状態に由来する132−134eV)の面積強度の各層における積算値を用い、XPS分析装置中に搭載されている解析ソフトを用いて、Zr,Ti,P,Oの原子割合を算出した。得られた原子割合及びZr,Tiの付着量に基いて、P及びOの付着量、及びP及びOの合計量に対するPの原子比率(P/(O+P))を算出した。使用した装置及び測定条件は下記のとおりであった。
(1)XRF分析装置:モデルXRF−1800(島津製作所(株)製)
管球:Rh、管電圧:40kV、管電流:70mA
分光結晶:LiF(Ti〜U,K,Ca,Sn〜Cs),Ge(Cl,S,P),P ET(Si,Al),TAP(Mg,F),SX−58N(C),SX−76(N) ,SX−14(O)
PRガス流量:7mL/min

(2)XPS分析装置:モデルESCA−850M(島津製作所(株)製)
励起X線:Mg−Kα、出力:8kV−30mA、検出角度:90°
【0031】
2.無着色性の評価
得られた複合材料の表面処理皮膜の色を、肉眼観察し、それを表面処理前の色と比較して、下記3段階に評価し表示した。
3 変化なし
2 わずかに着色した
1 明瞭に着色した
【0032】
3.耐食性の評価
得られた複合材料の表面処理皮膜を、JIS H 8502(1999)の中性塩水噴霧試験に供し、24時間試験を行った。得られた結果を、下記7段階に評価し表示した。
レイティングナンバー 腐食面積率(%)
RN10 0
RN 9 0〜0.1未満
RN 8 0.1〜0.25未満
RN 7 0.25〜0.5未満
RN 6 0.5〜1.0未満
RN 5 1.0〜2.5未満
RN 4 2.5〜5未満
【0033】
4.耐変色性の評価
得られた複合材料の表面処理皮膜に、アクリロニトリルゴム製Oリングを接触させ、190℃の温度において1時間加熱した。それによって生ずる複合金属材料表面の色の変化を、標準試料(前記基材に、クロメート処理法を施したもの)の色の変化に対比して、下記3段階に評価し、表示した。
3:標準試料とほぼ同じ
2:色の変化が標準試料よりやゝ大
1:色の変化が標準試料より明らかに大
【0034】
実施例1
前記ニッケル−リン合金めっきA5052材(厚さ:0.5mm)を基材として用いた。主金属元素成分としてフルオロジルコン酸、ハロゲン元素含有成分としてフッ化水素酸及び第1追加元素含有成分としてフッ化クロム(III)を含み、硝酸イオンを含まず、pHを4に、温度を40℃に調整され、表1に示す成分組成を有する化成処理液を調製した。
前記化成処理液中に、前記基材を10分間浸漬し、その後に得られた化成処理ずみ複合金属材料を引き上げ水洗し、脱イオン水により洗浄し、120℃の温度において10分間乾燥した。温水処理は施さなかった。分析・評価結果を表2に示す。
【0035】
実施例2
実施例1と同様にして、複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液及び処理条件を表1のように変更した。
すなわち化成処理液に主金属元素含有成分として、フルオロチタン酸を用い、そのTi濃度が150ppmになるように変更し、フッ化水素酸の使用量をF濃度が300ppmになるように変更し、フッ化クロム(III)の使用量を、Cr(III)濃度が100ppmになるように変更し、化成処理液のpHを3に変更し、処理温度を60℃に変更し、処理時間を5分間に変更した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0036】
実施例3
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、主金属元素含有成分として、フルオロジルコン酸を用い、その使用量をZr濃度が100ppmになるように変更し、かつ、フルオロチタン酸を追加し、その使用量を、Ti濃度が100ppmになるように調節し、ハロゲン元素含有成分としてフッ化水素酸を用い、その使用量をF濃度が500ppmになるように変更し、第1追加元素含有成分としてフッ化クロム(III)を用い、その使用量を、Cr(III)濃度が100ppmになるように変更し、表面処理液のpHを4.5に変更し、処理温度を50℃に変更し、処理時間を5分間に変更した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0037】
実施例4
実施例1と同様にして複合金属材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、フッ化水素酸の使用量を、F濃度が300ppmになるように変更し、フッ化クロム(III)Cを使用せず、化成処理液のpHを3.5に変更し、処理時間を1分間に変更した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0038】
実施例5
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、金属基体として、冷延鋼板(SPCC)(厚さ:0.5mm)を用いた。
分析・評価結果を表2に示す。
【0039】
実施例6
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、主金属元素含有成分として、フルオロチタン酸を用い、その使用量をTi濃度が250ppmになるように変更し、第2追加金属元素含有成分として、水酸化セリウム(IV)を添加しその使用量を、Ce濃度が100ppmになるように調整した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0040】
実施例7
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、主金属元素含有成分として、フルオロジルコン酸を用い、その使用量をZr濃度が150ppmになるように変更し、フッ化水素酸の使用量を、F濃度が400ppmになるように変更し、第2追加金属元素含有成分として、タングステン酸ナトリウム(IV)を用い、その使用量を、W濃度が50ppmとなる量で追加し、化成処理液のpHを4.5に変更し、処理温度を50℃に変更した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0041】
実施例8
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、主金属元素含有成分として、フルオロチタン酸を用い、その使用量をTi濃度が100ppmになるように変更し、フッ化水素酸の使用量を、F濃度が300ppmになるように変更し、フッ化クロム(III)の使用量を、Cr(III)濃度が200ppmになるように変更し、第2追加金属元素含有成分として、バナジン酸ナトリウム(V)を用い、その使用量をV濃度が200ppmになるように調整した。また、化成処理液のpHを3.5に変更し、処理温度を60℃に変更し、処理時間を5分間に変更した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0042】
実施例9
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、主金属元素含有成分として、フルオロジルコンフッ酸を用い、その使用量をZr濃度が200ppmになるように変更し、フッ化水素酸の使用量をF濃度が500ppmになるように変更し、フッ化クロム(III)の使用量を、Cr(III)濃度が300ppmになるように変更し、第2追加金属元素含有成分として、モリブデン酸ナトリウム(VI)を用い、その使用量を、Mo濃度が、100ppmになる量に調整し、化成処理液の処理温度を50℃に変更した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0043】
実施例10
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、表面処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、主金属成分として、フルオロチタン酸の使用量をTi濃度が150ppmになるように変更し、フッ化水素酸の使用量をF濃度が300ppmになるように変更し、かつ塩化水素酸を、Cl濃度が500ppmになる量で追加し、フッ化クロム(III)Cの使用量を、Cr(III)濃度が200ppmになるように変更し、表面処理液のpHを4.5に変更し、処理温度を50℃に変更した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0044】
実施例11
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、表面処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、主金属成分として、フルオロチタン酸をTi濃度が200ppmになる量で使用し、フッ化水素酸の使用量をF濃度が400ppmになるように変更し、臭化水素酸を、Br濃度が300ppmになる量で追加しフッ化クロム(III)Cの使用量が、Cr(III)濃度が500ppmになるように変更し、表面処理液の濃度を4.5に変更した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0045】
実施例12
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、主金属元素含有成分として、フルオロジルコン酸を用い、その使用量をZr濃度が250ppmになるように変更し、フッ化水素酸の使用量をF濃度が500ppmになるように変更し、さらに、ヨウ化水素酸を、I濃度が600ppmになる量で追加し、フッ化クロム(III)の使用量を、Cr(III)濃度が300ppmになるように変更し、化成処理液のpHを3.5に変更し、処理温度を60℃に変更し、処理時間を5分間に変更した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0046】
実施例13
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理皮膜の形成、水洗、脱イオン水洗浄の後、80℃に加熱した脱イオン水中に5分間浸漬して温水処理を施し、引き上げて、120℃の温度で10分間乾燥した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0047】
比較例1
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液中に硝酸をNO3-イオン濃度が500ppmになる量で追加した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0048】
比較例2
実施例1と同様にして複合材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、フッ化水素酸の使用量をF濃度が300ppmになるように変更し、フッ化クロム(III)Cを使用せず、表面処理液のpHを3.5に変更した。このためジルコニウムの付着量が50mg/m2になった。
分析・評価結果を表2に示す。
【0049】
比較例3
実施例1と同様にして複合金属材料を製造し、その分析・評価を行った。但し、化成処理液の組成及び処理条件を表1に記載のように変更した。
すなわち、主金属元素含有成分を用いず、フッ化水素酸の使用量をF濃度が300ppmになるように変更し、フッ化クロム(III)Cの使用量を、Cr(III)濃度が100ppmになるように変更し、表面処理時間を5分間に変更した。
分析・評価結果を表2に示す。
【0050】
比較例4
実施例1と同様にしてアルミニウム板(A5052)にニッケル−リン合金めっきを施して基材を作製し、これを、30℃に加熱された3%ニクロム酸カリウム(K2Cr(VI)27)水溶液中に5分間浸漬して化成皮膜を形成し、得られた複合金属材料を引き上げ、水洗、脱イオン水洗浄を施し、これを、120℃の温度で十分間乾燥した。
得られたクロメート化成処理複合金属材料を、実施例1と同様の分析及び評価に供した。結果を表2に示す。
【0051】
比較例5
実施例1と同様にして作成されたニッケル−リン合金めっきA5052材を実施例1と同様の評価に供した。結果を表2に示す。
【0052】
実施例14
実施例1と同様にして複合材料を製造した。但し、基材材料として、アルミニウム板の代りにプラスチック材料としてポリプロピレン板(厚さ:0.5mm)を用いた。
ニッケル−リン合金めっき層の付着量は基体の片面当り10g/m2でありニッケル及びリンの量は、片面当りそれぞれ9.5g/m2及び0.5g/m2であった。
分析・評価結果を表2に示す。
【0053】
実施例15
実施例1と同様にして複合材料を製造した。但し、基体材料としてアルミニウム板の代りに、セラミックス材料としてアルミナ板(厚さ:0.5mm)を用いた。
ニッケル−リン合金めっき層の付着量は基体の片面当り16g/m2でありニッケル及びリンの量は片面当りそれぞれ15g/m2及び1g/m2であった。
分析・評価結果を表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表1及び表2に示されているように、比較例1において、ジルコニウム、3価クロム、フッ化物イオンに加え、硝酸イオンを含有した処理液を用いられており、この場合、耐変色性は6価クロム使用の比較例4のクロム酸クロメートと同等の性能を有していたが、化成処理により着色を生じてしまう事が確認された。
比較例2においては酸性表面処理液中に3価クロムを含有せず、ジルコニウム、フッ化水素酸を含有した処理液を用いて、かつジルコニウムの付着量を50mg/m2という過剰量にしたため、得られた化成被膜には、光の干渉により着色を生ずることが確認された。
比較例3においてはジルコニウムを含有せず、3価クロム、フッ化物イオンを含有した処理液を用いたため、着色を生じなかったが、しかし、得られた化成被膜は、耐食性、耐変色性においてクロム酸クロメート処理に劣ることが確認された。
上記比較例1〜3に対比して、実施例4においては、硝酸イオンを含まないジルコニウム、フッ化物イオンを含有した処理液を用い、処理時間を短くしたので、得られた化成被膜において、ジルコニウムの付着量は、適量の10mg/m2であり、従って、光の干渉による着色が生ずることはなく、かつ、クロム酸クロメートと同等の耐食性、耐変色性を有する事が確認された。
実施例1〜3,5,10〜12,14及び15においては、3価クロムを含有し、硝酸イオンを含まず、かつジルコニウムまたはチタン、ハロゲン化物イオンを含有する処理液が用いられ、このため、得られた化成被膜は、めっき基材の種類に拘らず、10minの長時間処理によっても着色を生ずることがなく、クロム酸クロメート被膜にくらべて耐食性、耐変色性において、優れていることが確認された。
実施例6〜9においては処理液中にタングステン、モリブデン、バナジウム、セリウムの少なくとも1種を含有させたため、得られた化成被膜の耐食性は、一層向上していることが確認された。
さらに実施例13においては、ジルコニウム、3価クロム、フッ化水素酸を含有した処理液への浸漬処理と温水処理とが組み合わされたため、得られた化成被膜には、クロム酸クロメート処理に比べて、耐食性の顕著な向上が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の無着色高耐食性複合材料及びその製造方法は、ニッケル−リン合金めっき層を有する基材に対し、化成処理による着色がなく又は少なく、高い耐食性及び耐変色性を付与するものであって、ニッケル−リン合金めっき材料の用途を一層拡張増大することを可能にするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料、プラスチックス材料又はセラミックス材料からなる基体及び前記基体の少なくとも1面に形成されたニッケル−リン合金めっき層を含む基材と、前記基材のニッケル−リン合金めっき層上に化成処理を施して形成された化成被膜層とを含み、前記化成被膜層が1〜30mg/m2のジルコニウム及びチタンから選ばれた少なくとも1種の主金属元素と、1〜100mg/m2のリン元素と、及び1〜100mg/m2の酸素元素とを含み、化成処理による着色がなく、又は少なく高耐食性及び高耐変色性を有することを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記基体用金属材料がアルミニウム材、アルミニウム合金材、鉄鋼材及び銅合金材から選ばれる、請求項2に記載の複合材料。
【請求項3】
前記基体上に形成されたニッケル−リン合金めっき層が、リンを、0.05〜20g/m2の含有量で含む請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記化成被膜中に含まれるリン(P)量の、リン及び酸素の合計量(P+O)に対する原子比率P/(P+O)が、0.01〜0.25の範囲内にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合めっき材料。
【請求項5】
前記化成被膜中に含まれるリンが、リン酸塩及び亜リン酸塩から選ばれた少なくとも1種の化合物として存在する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記化成被膜が3価クロムからなる1〜30mg/m2の第1追加金属元素をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項7】
前記化成被膜が、タングステン、モリブデン、バナジウム及びセリウムから選ばれた少なくとも1種からなる1〜30mg/m2の第2追加金属元素をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項8】
金属材料、プラスチックス材料又はセラミックス材料からなる基体及び、その少なくとも1面上に形成されたニッケル−リン合金めっき層とを含む基材の前記ニッケル−リン合金めっき層の表面の少なくとも一部分に、ジルコニウム及びチタンから選ばれた少なくとも1種からなり、濃度が1〜5000ppmの主金属元素、及びフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選ばれた少なくとも1種からなり、濃度が1〜10000ppmのハロゲン元素を含み、かつ2.0〜6.0のpHを有する化成処理液を接触させ、それによって1〜30mg/m2のジルコニウム及びチタンから選ばれた少なくとも1種の主金属元素と、1〜100mg/m2のリン元素と、1〜100mg/m2の酸素元素とを含み、化成処理による着色がなく、又は少なく、高い耐食性及び耐変色性を有する化成被膜層を形成し、得られた化成被膜層を水により洗浄することを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記化成処理液の調製に、前記主金属元素が、その水和酸化物、或いはフッ化物、塩化物、オキシ塩化物、臭化物、ヨウ化物、又はフッ素含有酸の塩の形態で用いられる、請求項8に記載の複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記化成処理液の調製に、前記ハロゲン元素が、塩酸、フッ化水素酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、前記主金属元素の塩化物、フッ化物、臭化物又はヨウ化物、或いはフッ素含有酸の塩の形態で用いられる、請求項8又は9に記載の複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記化成処理液が、3価クロム元素を第1追加金属元素としてさらに含有する、請求項8〜10のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項12】
前記化成処理液中の3価クロム元素の濃度が、1〜5000ppmである、請求項11に記載の複合材料の製造方法。
【請求項13】
前記化成処理液の調製に、前記3価クロム元素が、その水和酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、又はフッ素含有酸の塩の形態で用いられる、請求項12に記載の複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記化成処理液が、タングステン、モリブデン、バナジウム及びセリウムから選ばれた少なくとも1種の元素からなる第2追加金属元素を含有する、請求項8〜13のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項15】
前記化成処理液中の第2追加金属元素の濃度が、1〜5000ppmである、請求項14に記載の複合材料の製造方法。
【請求項16】
前記化成処理液の調製に、第2追加金属元素が、その水和酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、又はフッ素含有酸の塩の形態で用いられる、請求項14又は15に記載の複合材料の製造方法。
【請求項17】
前記基体が、アルミニウム材料又はアルミニウム合金材料であるとき、この基体に前記ニッケル−リン合金めっき処理及び水洗浄を施した後、かつ前記化成処理を施す前に、前記ニッケル−リン合金めっき基材に温度50℃以上の温水を接触させるか、或いは前記化成処理及び水洗浄を施して得られた複合材料に、温度50℃以上の温水を接触させることを更に含む、請求項8〜16のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2008−260985(P2008−260985A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103124(P2007−103124)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【出願人】(391028339)日本カニゼン株式会社 (17)
【Fターム(参考)】