説明

複合材料

【課題】
本発明は、内部の中空殻にまで樹脂を充填した複合材料を実現することを目的とした。
【解決手段】
本発明の複合材料は、無機材料による多数の中空殻構造からなる連続多孔質無機骨格と樹脂とからなり、外表面に直接開口していない内部の中空殻内にも樹脂が内包されてなることを特徴とする。
本発明は、前記の複合材料において、前記中空殻に内包された樹脂が中空部分を有していることを特徴とする。
本発明は、前記の複合材料の製造方法であって、互いに相隣るものの接触部分が連通した無機材料製中空殻からなる連続多孔質無機骨格に、所定の樹脂を液状溶媒に溶解した樹脂溶液若しくは所定の樹脂の液状モノマーからなる前駆体を加圧注入して、前記連通個所を通して内部の中空殻に当該前駆体を注入し、前記前駆体が樹脂溶液の場合は、その変性温度未満に加熱して、その溶媒を蒸発除去し、前記前駆体がモノマーの場合は、樹脂の変性温度未満でそのモノマーの架橋温度以上に加熱してモノマーを架橋して所定の樹脂とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質無機骨格と樹脂とからなる複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
この種、複合材料は、無機材料の強度と樹脂の柔軟性及び軽量性とを兼ね備えた有用な構造材料として広く応用されている。
特に、骨格を無機の中空殻からなる多孔質構造材料とポリマーとの複合材料は、特許文献1、非特許文献1,2に示されているように、外表面に暴露されている中空殻部分にのみ樹脂を充填する試みがなされており、それによっても、強度の改善がみられるとの知見が示されているが、内部の中空殻にまで樹脂を充填させることは不可能であった。
これに対して、特許文献2に示すように、樹脂と金属粒の混合物を焼結して、焼結にて生じた金属粒からなる中空殻内面に樹脂を内包させる試みも行われている。しかし本手法では、高温にて焼結するために加熱により樹脂が炭化する場合が多かった。当該手法では、樹脂本来の特性を消滅させたものであり、樹脂の特性を反映させることは不可能で、いわば無機材料の多孔質体を製造する方法と位置付けるべきものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、内部の中空殻にまで樹脂を充填した複合材料を実現することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の複合材料は、無機材料による多数の中空殻構造からなる連続多孔質無機骨格と樹脂とからなり、外表面に直接開口していない内部の中空殻内にも樹脂が内包されてなることを特徴とする。
発明2は、発明1の複合材料において、前記中空殻に内包された樹脂が中空部分を有していることを特徴とする。
発明3は、発明1または2の複合材料の製造方法であって、互いに相隣るものの接触部分が連通した無機材料製中空殻からなる連続多孔質無機骨格に、所定の樹脂を液状溶媒に溶解した樹脂溶液若しくは所定の樹脂の液状モノマーからなる前駆体を加圧注入して、前記連通個所を通して内部の中空殻に当該前駆体を注入し、前記前駆体が樹脂溶液の場合は、その変性温度未満に加熱して、その溶媒を蒸発除去し、前記前駆体がモノマーの場合は、樹脂の変性温度未満でそのモノマーの架橋温度以上に加熱してモノマーを架橋して所定の樹脂とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明による複合材料は、多孔質無機骨格、樹脂のそれぞれが持つ強度をはるかに超えた極めて高い強度を有するのみならず、樹脂による柔軟性や制振性や衝撃吸収性や防錆軽量化の機能をも発現させることができた。
特に、内部の中空殻中にも樹脂が内包されているので、材料全体に強度のばらつきが少ないのみならず、切断、切削等の加工を加えたとしても、上記のような強度バランスを崩すことはないという使用極めて有用な利点を有するものである。
さらに、その製造方法も、従前の技術の組み合わせにより実現可能なものであるから、高い生産性を期待し得るものである。
本手法は、従来技術を幅広く使用して作製されるが、カーボン繊維の束を布状に織り上げ、その隙間に圧力をかけて樹脂を充填させているような繊維強化樹脂とは異なる物である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】オープンセル構造(A)とクローズドセル構造(B)の違いを示す概略図
【図2】ポリマーを内包したクローズドセル構造材料の概略図。
【図3】実施例1の骨格であるポーラスステンレスの走査型電子顕微鏡写真。
【図4】樹脂を圧力により充填させる手法の説明図。
【図5】クローズドセル構造内の樹脂の形態:(左上より、(a)中実構造、(b)中央に空孔がある構造、(c)空孔が小さく分散している構造、(d)樹脂がセル壁に未接着で鈴の玉の構造。
【図6】ポリウレタン樹脂を内包した複合材の走査型電子顕微鏡写真。
【図7】ポリウレタン樹脂を内包した複合材の圧縮試験の結果。
【図8】エポキシ樹脂を内包した複合材の走査型電子顕微鏡写真。
【図9】エポキシ樹脂を内包した複合材の圧縮試験の結果。
【図10】焼結された粒子による骨格構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
多孔質材料と樹脂は、どちらも特徴のある性質を有している。本発明はこの多孔質材料を骨格材料とし、内部に樹脂を入れることにより、更なる性能の向上をはかるものである。
骨格材料となる多孔質材料は大別して図1に示すように、オープンセル構造とクローズドセル構造を有する。オープンセル構造はひとつの細胞のような多角形の構造(セル)を覆う壁(セル壁)がなく骨格のみを有する構造で気体や液体は自由に通過することができる。クローズドセル構造はセルがセル壁に覆われた中空殻構造を有する。(本来は閉じた系)
本発明では、図2に示すように、クローズドセル構造を有する材料のセル内に樹脂を充填させて、多孔質材料を骨格材料とし樹脂を含有する複合材とその作製手法である。
無機材料の多孔質体を製造する方法としては、特許文献2に示すように三次元的に等方なクローズドセル金属骨格を有し、セル内にセル壁とは異なる物質を内包するクローズドセル構造金属材とその製造法(固体状の異性物質に金属をコーティングし、この被覆粒子を型内に充填し等方静水圧を負荷して成型し、次いで焼結させることにより、異性物質を内包するクローズドセル構造金属材製造法)がある。
無機材料の中空殻の相隣るものの接触面が連通している連続多孔質構造を有している多孔質体を製造する方法としては、特許文献3、4に示すように空孔形成多孔質金属または多孔質セラミックス用粘土組成物、それを用いた多孔質金属または多孔質セラミックスの製造方法、犠牲材料(焼結時に気化してなくなる材料)を用いた多孔質金属材料および多孔質セラミックスの製造方法。
特許文献5に示すように粉末とゲル化能水溶性ポリマーと発泡剤を混ぜてゲル化し、発泡させて多孔質金属材料および多孔質セラミックスを作製する方法,特許文献6に示すように、樹脂を発泡させたスポンジのように図5の(1)のような多孔質材料を作製し、これにNiや銅などの金属を無電解メッキあるいは電解メッキによりセル壁面に金属をコーティングし、加熱により樹脂を取り除く方法.
【特許文献7】に示す金属を発泡させて作製したセル壁に空孔のない多孔質材料を、さらには、この材料を1%〜20%圧延してセル壁を破壊して穴をあける手法.に示すように従来公知のものをいずれも利用可能である。 骨格として特に有用なものは、以下に示すようなものである。 ステンレス鋼,鉄,鋼、銅,アルミニウム,ニッケル,マグネシウム,チタン,クロム,金,白金,ジルコニウム、タングステン、耐熱鋼,あるいはこれらを主材料とする合金、セラミックス,およびこれらの粉末を含有する樹脂以外の樹脂、内包される樹脂以外の樹脂である。 図5は金属からなる中空殻(1)の例を示す模式図であるが、図10は、金属粒子やセラミック粒子の焼結体からなる中空殻(1)の例を示す模式図である。いずれも互いに接する箇所に連通孔(2)を有している。 なお、図10では、焼結された粒子による骨格を示し、粒子の結合によりセル壁を形成しており、そのセル壁自体が多数の微小な貫通した孔を有する構造となって、樹脂前駆体液の透過を許容するようにしてある。 骨格材料である多孔質材料はクローズドセル構造を呈するがセル壁に微小な孔を有し、連続的につながっている構造をし、これに樹脂を充填させて作製する。 骨格材料は、金属粉末やセラミックス粉末をポリマー等の犠牲粒子にまぶして高温に加熱して焼結させて、図3に示すように全面セル壁に覆われているが微小な孔により連続的につながっているクローズドセル構造材料を呈する。その他中空殻のセル壁に微小な孔を有する多孔質構造をもっていれば問題はない。これに図4に示すように、樹脂前駆体を外圧より加圧して注入することにより作製する。これにより作製した材料は、セル構造金属材料とポリマーの体積の割合より計算する性能よりもより良い性能を出すことができる。
【0008】
前記前駆体としては、前記骨格に腐食などのダメージを与える恐れのない溶媒に樹脂を溶解した樹脂溶液、もしくは、前記骨格の軟化温度未満の加熱にて架橋又は硬化されるモノマーと架橋剤又は硬化剤溶液を用いる。
前記樹脂溶液を構成する樹脂としては、以下のようなものが使用可能である。
ポリウレタン樹脂,フェノール樹脂,エポキシ樹脂,メラニン樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,アルキド樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニルデン樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリ酢酸ビニル樹脂,メラミン樹脂,アクリル樹脂,ポリイミド樹脂,ポリエチレングリコール樹脂
また、その溶媒としては、以下のようなものが可能である。
N.N.ジメチルホルムアミド → ほとんどの樹脂
クロロホルム、アセトン → アクリル樹脂
メタノール、ベンゼン、ジクロロメタン → ポリエチレングリコール樹脂
N-メチル-2-ピロリドン → ポリイミド前駆体
モノマーと架橋剤又は硬化剤の混合溶液として、表1のようなものが使用可能である。
【表1】

【0009】
互いを繋ぐ孔(2)を有する中空殻(1)に充填された樹脂の形態は図5に示すように(a)〜(d)の大よそ4種類に分けられる。
(a):中空殻(1)を隙間なく樹脂(3)にて満たした構造。
(b):中空殻(1)の内面に樹脂が張り付き、中央に一つの空洞(4)が生じている構造。
(c):中空殻(1)の内面に樹脂が張り付いているが、それぞれの殻内において複数の空孔(5)が生じている構造。
(d):中空殻(1)の内面には、樹脂が接合せず鈴のように独立して存在する(6)構造。前記図5(a)の構造は、注入されたモノマー溶液の架橋反応にて得られた樹脂、または樹脂溶液を注入する場合は、その溶媒量が少ない場合に得られる。
この構造は、他の構造に比べ、最も剛性が高い。
前記図5(b)(c)の構造は、樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液を注入した後に、溶媒を蒸発除去したときに得られる構造である。
この構造は、(d)と異なり、セル壁に樹脂が接合しているため変形時に樹脂も変形するため、衝撃吸収エネルギーが他の構造に比べ高い。
前記図5(d)は、樹脂とセル壁との接着力が弱く、樹脂が収縮する場合などに得られる構造で、この構造は、他の構造に比べ剛性は劣るが、他の構造に比べ内部樹脂の振動によりエネルギーを消耗するため消音性が良好である。
【実施例1】
【0010】
骨格材料の多孔質材料はスラリーゲル化法(特許公開2003−27104)を用いて作製したステンレス多孔質体(密度0.414g/cm)である。この断面を図3に示す。100〜300mmの孔を有するセルサイズ数百mmのセル構造を有していることがわかる。これと溶媒(N.N-ジメチルホルムアルデヒド)に溶かしポリウレタン樹脂(ディアプレックス製、DiARY、粘度80000〜120000CPS)をビニル製の真空パック内に充填し、外部を真空にすることにより0.1MPa(1気圧)の静水圧をかけて充填させた。
その後、80℃において24時間乾燥させ、密度0.841g/cmの複合材が完成する。この断面を観察すると図6に示すように図5(b)のようなセル壁に樹脂が付いた形態を示している。
ポリウレタン樹脂の密度が1.22 g/cmであるのでポリウレタン樹脂は約36%(重量)約60%の空孔が生じている。(ステンレスの骨格材料は約4重量%)。
この試料を万能試験機において圧縮試験をした結果を図7に示す。曲線(A)はポリウレタン樹脂のみ、曲線(B)は骨格材料の多孔質材料のみ、曲線(C)は今回作製した複合材の応力―ひずみ線図である。曲線(A)はポリウレタン樹脂の含有量で36%を乗じてある。本複合材は骨格材料とポリウレタン樹脂単体の材料の強度の合計よりもはるかに圧縮強度が高いことがわかる。
その測定値は表2の通りである。
【0011】
【表2】

【実施例2】
【0012】
実施例1と同様なステンレス多孔質体(密度0.414g/cm)を骨格に使用したエポキシ樹脂のプレポリマー(エポキシ樹脂,4.4-イソプロピリデンジフェノール,エピクロルヒドリン樹脂,ブチルグリシジルエーテル)と硬化剤(ジエチレントリアミン,トリエチレンテトラアミン,ポリオキシプロピレンジアミン)を混合した混合液(ビューラー製、エポミックス、粘度約4000CCPS)に前記骨格を浸漬して、ビニル製の真空パック内に充填し、外部を真空にすることにより1気圧の静水圧をかけて1時間放置した。
その後、80℃で24時間加熱処理して、前記プレポリマーを硬化さてエポキシ樹脂とした。このようにして、密度1.44g/cmの複合材が完成する。この断面を観察すると図8に示すように図5(a)のようなセル内に樹脂が充填された構造となっていた。
エポキシ樹脂の密度が1.15 g/cmであるのでエポキシ樹脂は約93%(重量)で約3%の空孔が生じている。(ステンレスの骨格材料は約4重量%)この試料を万能試験機において圧縮試験をした結果を図9に示す。曲線(A)はエポキシ樹脂のみ、曲線(B)は骨格材料の多孔質材料のみ、曲線(C)は今回作製した複合材の応力―ひずみ線図である。曲線(A)はエポキシ樹脂の含有量で93%を乗じてある。試験開始からひずみ13%までは本複合材の圧縮応力は骨格材料とポリウレタン樹脂単体の材料の強度の合計よりも圧縮強度が高い。その後、13%を過ぎると突然応力が低下しているがこれは充填されたエポキシ樹脂の変形に耐えきれず、骨格材料のセル壁を破壊しためである。
その測定値は表3の通りである。
【0013】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0014】
本材料は樹脂の持つ柔らかさと骨格構造材料の剛性を併せ持つことできるため、実施例で示されるように多孔質材料の中空殻が破壊されない限り,衝撃吸収材,制振材料、消音材料として有用である。樹脂に覆われているために耐食性も良く腐食環境下でも有効である。また、軽量であるので,上記性能を全て必要とする部材(例えば乗用車のボンネットとエンジンとの間やバンパーと車体間のスペーサー、生体材料、産業機器の消音材料、振動する機器の制振材料など)として使用可能である。
【符号の説明】
【0015】
(1)中空殻
(2)連通孔
(3)(6)内包樹脂
(4)(5)空孔
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2008−248365
【特許文献2】特許3486667号
【特許文献3】WO2006/041118
【特許文献4】特許公開2006−3072295、
【特許文献5】特許公開2006−3072295、
【特許文献6】特許公開平9−102318
【特許文献7】特許1566284号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】日本機械学会2008年度年次大会講演論文集Vol.6,423,422ページ、2008年8月3日発行、岸本 哲
【非特許文献2】日本金属学会講演概要(第143回)188ページ,2008年9月23日発行、岸本 哲、清水 透、殷 福星

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質無機骨格と樹脂とからなる複合材料であって、連続多孔質無機骨格は無機材料による多数の中空殻構造からなり、外表面に直接開口していない内部の中空殻内にも樹脂が内包されてなることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料において、前記中空殻に内包された樹脂が中空部分を有していることを特徴とする複合材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合材料の製造方法であって、互いに相隣る中空殻同士が連通した無機材料による多数の中空殻構造からなる連続多孔質無機骨格に、所定の樹脂を液状溶媒に溶解した樹脂溶液若しくは所定の樹脂の液状モノマーからなる前駆体を加圧注入して、前記連通個所を通して内部の中空殻に当該前駆体を注入し、前記前駆体が樹脂溶液の場合は、その変性温度未満に加熱しての溶媒を蒸発除去し、前記前駆体がモノマーの場合は、樹脂の変性温度未満でそのモノマーの架橋温度以上に加熱してモノマーを架橋して所定の樹脂とすることを特徴とする複合材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−229489(P2010−229489A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78056(P2009−78056)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】