説明

複合材構造物の修理方法および複合材構造物

【課題】修理により十分な強度回復を図ることにより、複合材構造物の製品歩留まりを向上させることができる複合材構造物の修理方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一方向に延びる繊維により強化された樹脂からなる母材における欠陥を削り取り、削除穴を形成する欠陥削除工程S1と、削除穴の周囲の母材を削り削除穴の開口部を広げ、かつ、繊維の延びる方向に基づいて開口部の拡大幅を変える拡大工程S2と、母材と同じ樹脂を含む補修部により削除穴を埋め、補修部の樹脂を硬化させる硬化工程S3と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に風力発電装置における複合材構造物である風車回転翼の修理に用いて好適な複合材構造物の修理方法および複合材構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチック(以下、FRPと表記する。)により形成された構造物おける亀裂やボイド(気泡)などの欠陥は、以下の工程により補修されている。
(1)欠陥部分を完全に削り取る工程。
(2)削り取った部分の周囲に一定テーパ比のテーパ面を形成する。または、一定間隔の階段状の面を形成する工程(例えば、特許文献1および非特許文献1参照。)。
(3)削り取った部分を、FRPを用いて埋める工程。
【0003】
上述の(3)の工程は、以下に述べるいずれかの方法によって行われていた。
(a)削り取った部分に繊維を載せて、真空含浸法により樹脂を削り取った部分に注入し硬化させる方法。
(b)紫外線硬化(以下UV硬化と表記する。)タイプのプリプレグを削り取った部分に載せて、紫外線を照射することにより硬化させる方法。
(c)プリプレグのパッチを削り取った部分に載せて、熱を加えることにより硬化させる方法(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
このような補修を行うことで、欠陥による構造物の強度低下の回復が図られ、製品歩留まりの低下が防止されていた。
【特許文献1】特開平01−259931号公報
【特許文献2】特開平11−348141号公報
【非特許文献1】ディー・ビー・ミラクル,エス・エル・ドナルドソン(D.B.Miracle and S.L.Donaldson)著,「ASM HANDBOOK(Volume21, Composites/ Product Reliability, Maintainability, and Repair)」,エイエスエム・インターナショナル(ASM International),2001年,p.882−904
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、テーパ面のテーパ比を一定(または階段状のステップ間隔を一定)とすると、削除範囲が最適化されていない恐れがあった。
すなわち、過剰にテーパを取りすぎて削除範囲が広くなっている恐れや、逆に剛性が高い方向(繊維が延びる方向)に沿って傾斜するテーパが不足している恐れがあり、十分な強度回復が図られていない恐れがあった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、修理により十分な強度回復を図ることにより、複合材構造物の製品歩留まりを向上させることができる複合材構造物の修理方法および複合材構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の複合材構造物の修理方法は、少なくとも一方向に延びる繊維により強化された樹脂からなる母材における欠陥を削り取り、削除穴を形成する欠陥削除工程と、前記削除穴の周囲の前記母材を削り前記削除穴の開口部を広げ、かつ、前記繊維の延びる方向に基づいて前記開口部の拡大幅を変える拡大工程と、前記母材と同じ前記樹脂を含む補修部により前記削除穴を埋め、前記補修部の樹脂を硬化させる硬化工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、母材における繊維の延びる方向に基づいて開口部の拡大幅を変えることにより、開口部の拡大幅を均一にする場合と比較して、母材の削除範囲を少なくするとともに、複合材構造物の強度回復を図ることができる。
【0009】
例えば、母材における繊維が延びる方向については母材の剛性が他の方向と比較して高いため、開口部の拡大幅を広くすることで、母材と補修部との間で応力が伝達される接触面を広くする。このようにすることで、修理後の複合材構造物の強度回復を確保できる。
【0010】
一方、それ以外の方向、つまり、繊維が延びる方向とは交差する方向については母材の剛性が、繊維が延びる方向に係る剛性より低いため、開口部の拡大幅を狭くすることで、母材つまり複合材構造物の削除範囲を少なくできる。この場合、母材の当該方向の剛性は相対的に低いため、母材と補修部との間で応力が伝達される接触面を狭くしても、母材と修理部の界面で破壊が発生することなく応力が伝達される。
【0011】
上記発明においては、 前記母材において最も強い外力を支持する繊維が延びる方向に沿う前記拡大幅が、その他の方向に沿う前記拡大幅よりも広いことが望ましい。
【0012】
本発明によれば、最も強い外力を支持する繊維が延びる方向に沿って、削除穴を拡大させる拡大幅を最も広くすることで、母材と補修部との間で応力が伝達される接触面を確実に広くすることができる。そのため、修理後の複合材構造物の強度回復をより確実に確保できる。
一方、その他の方向に沿って削除穴を拡大させる拡大幅については、上述の繊維が延びる方向に沿う拡大幅よりも狭くすることで、母材の削除範囲を少なくできる。
【0013】
上記発明においては、前記拡大工程において、前記削除穴の周囲の前記母材は、前記削除穴における前記開口部に近づくにつれて、前記開口部の面積が徐々に広くなるテーパ状に削られることが望ましい。
【0014】
本発明によれば、削除穴における底面から開口部までの間の母材をテーパ状に削ることにより、母材と補修部との間における応力の集中が防止され、修理後の複合材構造物の強度回復をより確実に確保できる。
【0015】
上記発明においては、前記母材には、それぞれ異なる方向に延びる前記繊維を含む樹脂からなる複数の樹脂層が積層され、前記テーパにおけるテーパ比を、前記複数の樹脂層に含まれる前記繊維の延びる方向に基づいて変えることが望ましい。
【0016】
本発明によれば、各樹脂層に含まれる繊維の延びる方向に基づいて、テーパの比を変えるため、異なる方向に延びる繊維を含む複数の樹脂層を積層させた母材、つまり複合材構造物であっても、修理後の複合材構造物の強度回復を確実に確保できる。さらに、複合材構造物の削除範囲を少なくできる。
【0017】
上記発明においては、前記拡大工程において、前記底面および前記開口部の近傍領域では、前記底面および前記開口部の中間領域よりテーパ比が小さなテーパ状に削られることが望ましい。
【0018】
本発明によれば、応力の集中が起こりやすい底面および開口部の近傍領域におけるテーパの比を、底面および開口部の中間領域におけるテーパのテーパ比よりも小さくすることで、底面および開口部の近傍領域における応力の集中を緩和させることができる。そのため、修理後の複合材構造物の強度回復を確実に確保できる。
【0019】
上記発明においては、前記拡大工程において、前記削除穴の周囲の前記母材は、前記削除穴における底面から前記開口部に近づくにつれて、前記開口部の面積が段階的に広くなる段差状に削られる方法も可能である。
【0020】
本発明によれば、削除穴における底面から開口部までの間の母材を段差状に削ることにより、母材をテーパ状に削る場合と同様に、母材と補修部との間で応力の伝達が行われ、修理によって複合材構造物の強度回復を図ることができる。
【0021】
上記発明においては、前記複合材構造部には、それぞれ異なる方向に延びる前記繊維を含む樹脂からなる複数の樹脂層が積層され、前記拡大工程において、前記削除穴の周囲の前記母材は、前記削除穴における底面から前記開口部に近づくにつれて、前記樹脂層ごとに、前記開口部の面積が段階的に広くなる段差状に削られることが望ましい。
【0022】
本発明によれば、積層された樹脂層ごとに段差が形成されることにより、一の樹脂層に含まれる一の方向に延びる繊維は上述の段差面に全て露出し、当該段差面には一の方向に延びる繊維のみが露出する。そのため、一の方向に延びる繊維を含む樹脂層により伝達された応力は、当該段差面において補修部に伝達されることで、修理後の複合材構造物の強度回復を確保できる。
【0023】
上記発明においては、前記開口部が段階的に広くなる拡大段階幅のうち、前記母材において最も強い外力を支持する前記繊維を含む前記樹脂層に隣接する拡大段階幅が、その他の方向に延びる前記繊維を含む前記樹脂層に挟まれた拡大段階幅より広いことが望ましい。
【0024】
本発明によれば、最も強い外力を支持する繊維を含む樹脂層に隣接する拡大段階幅を他の拡大段階幅より広くすることにより、当該樹脂層により伝達された応力を伝達する当該樹脂層と補修部との間の接触面の面積を広くできる。そのため、修理後の複合材構造物の強度回復をより確実に確保できる。
一方、その他の方向に延びる繊維を含む樹脂層に挟まれた拡大段階幅を、上述の最も強い外力を支持する繊維を含む樹脂層に隣接する拡大段階幅より狭くすることにより、母材の削除範囲を少なくできる。
【0025】
上記発明においては、前記補修部には前記繊維が含まれ、前記硬化工程において、前記削除穴が、前記複合構造物における前記繊維が延びる方向と、前記補修部における前記繊維が延びる方向とが略一致するように前記補修部により埋められることが望ましい。
【0026】
本発明によれば、母材における剛性が高い方向と、補修部における剛性が高い方向とが略一致することになり、修理後の複合材構造物の強度回復を確保しやすくなる。
具体的には、母材の繊維により伝達された応力は、隣接して配置されるとともに、略同一方向に延びる補修部の繊維に伝達されるため、修理後の複合材構造物の強度回復を確保しやすくなる。
【0027】
上記発明においては、前記補修部には、それぞれ異なる方向に延びる前記繊維を含む樹脂からなる複数の樹脂層が、前記複合材構造部と同じ順に積層され、前記硬化工程において、前記補修部は、前記複合材構造部における前記複数の樹脂層に対して、前記開口部または前記底面側に1層だけずれて配置される方法も可能である。
【0028】
本発明によれば、母材側の樹脂層と、補修部側の同じ方向に繊維が延びる樹脂層とは、積層方向に隣接して配置される。そのため、母材の樹脂層により伝達された応力は、積層方向に隣接する補修部側の樹脂層に伝達され、修理後の複合材構造物の強度回復を確保しやすくなる。
【0029】
本発明の複合材構造物の修理方法は、少なくとも一方向に延びる繊維により強化された樹脂からなる母材における欠陥を削り取り、削除穴を形成する欠陥削除工程と、前記削除穴の周囲の前記母材を、前記削除穴における底面から開口部に近づくにつれて、前記開口部の面積が徐々に広くなるテーパ状であって、前記底面および前記開口部の近傍領域では、前記底面および前記開口部の中間領域よりテーパ比が小さなテーパ状に削る拡大工程と、前記母材と同じ前記樹脂を含む補修部により前記整形部を埋め、前記樹脂を硬化させる硬化工程と、を有することを特徴とする。
【0030】
本発明によれば、応力の集中が起こりやすい底面および開口部の近傍領域におけるテーパの比を、底面および開口部の中間領域におけるテーパのテーパ比よりも小さくすることで、底面および開口部の近傍領域における応力の集中を緩和させることができる。そのため、修理後の複合材構造物の強度回復を確実に確保できる。
【0031】
本発明の複合材構造物は、上記本発明の複合材構造物の修理方法によって修理された修理部を有することを特徴とする。
【0032】
本発明によれば、上記本発明の複合材構造物の修理方法によって修理された修理部を有するため、修理後の複合材料の強度回復を図ることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の複合材構造物の修理方法によれば、母材における繊維の延びる方向に基づいて開口部の拡大幅を変えることにより、開口部の拡大幅を均一にする場合と比較して、母材の削除範囲を少なくするとともに、複合材構造物の強度回復を図り、複合材構造物の製品歩留まりを向上させることができるという効果を奏する。
【0034】
本発明の複合材構造物によれば、上記本発明の複合材構造物の修理方法によって修理された修理部を有するため、修理後の複合材料の強度回復を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る風力発電装置の風車回転翼の修理方法ついて図1から図8を参照して説明する。
まず、本実施形態に係る風力発電装置の概略について説明する。
図1は、本実施形態に係る風力発電装置の構成を説明する模式図である。
風力発電装置1は、図1に示すように、風力発電を行うものである。風力発電装置1には、基礎B上に立設された支柱2と、支柱2の上端に設置されたナセル3と、略水平な軸線周りに回転可能にしてナセル3に設けられたロータヘッド4と、ロータヘッド4を覆う頭部カプセル5と、ロータヘッド4の回転軸線周りに放射状に取り付けられる複数枚の風車回転翼(複合材構造物)6と、ロータヘッド4の回転により発電を行う発電設備7と、が設けられている。
【0036】
なお、本実施形態では、3枚の風車回転翼6が設けられた例に適用して説明するが、風車回転翼6の数は3枚に限られることなく、2枚の場合や、3枚より多い場合に適用してもよく、特に限定するものではない。
【0037】
支柱2は、図1に示すように、基礎Bから上方(図1の上方)に延びる柱状の構成とされ、例えば、複数のユニットを上下方向に連結した構成とされている。支柱2の最上部には、ナセル3が設けられている。支柱2が複数のユニットから構成されている場合には、最上部に設けられたユニットの上にナセル3が設置されている。
ナセル3は、図1に示すように、ロータヘッド4を回転可能に支持するとともに、内部にロータヘッド4の回転により発電を行う発電設備7が収納されている。
ロータヘッド4には、図1および図2に示すように、その回転軸線周りに放射状にして複数枚の風車回転翼6が取り付けられ、その周囲は頭部カプセル5により覆われている。
【0038】
ロータヘッド4には、風車回転翼6の軸線回りに風車回転翼6を回転させて、風車回転翼6のピッチ角を変更するピッチ制御部(図示せず。)が設けられている。
これにより、風車回転翼6にロータヘッド4の回転軸線方向から風が当たると、風車回転翼6にロータヘッド4を回転軸線周りに回転させる力が発生し、ロータヘッド4が回転駆動される。
【0039】
風車回転翼6は、ロータヘッド4の回転軸線を中心として放射状に配置される翼であって、FRPの板である母材6Mにより形成されたものである。風車回転翼6を形成する母材6Mとしては、繊維であるグラスファイバ、および、エポキシ樹脂を用いたものが例示できる。なお、風車回転翼6を形成するFRPとしては、上述のものに限られることなく、その他の公知のFRPを用いてもよく、特に限定するものではない。
【0040】
このFRPにおけるグラスファイバの繊維が延びる方向は、風車回転翼6の長手方向、つまり、ロータヘッド4の回転軸線を中心として径方向に沿って延びている。
なお、以後の説明において、上述の風車回転翼6の長手方向に沿う方向を0°と表記し、風車回転翼6の幅方向に沿う方向、つまり、ロータヘッド4の回転軸線を中心として周方向に沿う方向を90°と表記する。一般に、FRPにおいては、使用される構造物において、最も大きな力が働く方向に沿ってグラスファイバが配置され、その方向が0°とされる場合が多い。
【0041】
頭部カプセル5は、図1に示すように、ロータヘッド4を覆い、風車回転翼6およびロータヘッド4とともに略水平な軸線回りに回転するものである。
【0042】
発電設備7としては、例えば、図1に示すように、ロータヘッド4の回転駆動力が伝達され発電を行う発電機と、発電機により発電された電力を所定の周波数の交流電力(例えば、50Hzや60Hzの交流電力)に変換するトランスと、が設けられているものを挙げることができる。
【0043】
次に、上記の構成からなる風力発電装置1における発電方法についてその概略を説明する。
風力発電装置1においては、ロータヘッド4の回転軸線方向から風車回転翼6に当たった風の力が、ロータヘッド4を回転軸線周りに回転させる動力に変換される。
【0044】
このロータヘッド4の回転は発電設備7に伝達され、発電設備7において、電力の供給対象に合わせた電力、例えば、周波数が50Hzまたは60Hzの交流電力が発電される。
ここで、少なくとも発電を行っている間は、風の力を風車回転翼に効果的に作用させるため、適宜ナセル3を水平面上で回転させることにより、ロータヘッド4は風上に向けられている。
【0045】
次に、本発明の特徴である風力発電装置1における風車回転翼6の修理方法について説明する。
図2は、本実施形態における風車回転翼の修理方法を説明するフローチャートである。図3は、風車回転翼に発生した欠陥を説明する模式図であり、図4は、図3の風車回転翼に形成された削除穴を説明する模式図である。
【0046】
風車回転翼6の母材6Mには、製造時においてエポキシ樹脂がグラスファイバに十分に含浸されず形成されたボイドが含まれていたり、風力発電装置1の運転時に、何らかの原因で亀裂が発生したりする。図3には、このようなボイドや亀裂である欠陥11が母材6Mに発生した状態が示されている。
なお、欠陥11は、図3に示すように、母材6Mの表面に発生する場合もあるし、内部に発生する場合もある。本実施形態においては、母材6Mの表面に欠陥11が発生した場合に適用して説明する。
【0047】
このような、欠陥11を発見する方法としては、目視により風車回転翼6の表面を確認する方法や、超音波探傷法(いわゆるUT法)による方法や、X線撮影による方法などを挙げることができる。
【0048】
母材6Mに、図3に示すような欠陥11が発見されると、欠陥11およびその周囲の母材6Mを削り取り、図4に示すような削除穴12が形成される(欠陥削除工程、S1)。
削除穴12は、欠陥11を含む大きさであり、母材6Mに欠陥11が残らない大きさである。
なお、削除穴12を形成する工具としては、公知の工具を用いることができ、特に限定するものではない。
【0049】
図5は、図4の削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。図6は、図5の削除穴の形状を説明する上面視図である。図7は、図6の削除穴の構造を説明する90°方向に沿う面で切断した断面図である。
削除穴12が形成されると、次に、図5に示すように、削除穴12の開口部13が広げられる(拡大工程、S2)。
具体的には、削除穴12の内周面が削られ、削除穴12の中心から外側に向かって、開口部13に近づく傾斜のテーパ面14が形成される。図6に示すように、最初に形成された削除穴12の開口部13が略矩形であって、開口部13の各辺が、0°方向または90°方向に沿う形状の場合には、90°方向への開口部13の拡大幅W2よりも、0°方向への開口部13の拡大幅W1が広い。
【0050】
そのため、図5に示す0°方向に延びるテーパ面14のテーパ比は、図7に示す90°方向に延びるテーパ面14のテーパ比よりも小さくなっている。
なお、テーパ比は、削除穴12の底面から開口部13までの距離を、上述の拡大幅で割った値のことである。
【0051】
なお、母材6Mにおけるグラスファイバが延びる方向、つまり0°方向の判定方法としては、風車回転翼6の製造に用いられた積層要領図に基づいて判定しても良いし、削除穴12の側面に露出したグラスファイバの向きを実際に確認して判定してもよく、特に限定するものではない。
【0052】
図8は、図5の削除穴に補修部を埋めた状態を説明する模式図である。
削除穴12の開口部13が拡大されると、図8に示すように、削除穴12に補修部15が埋められ、補修部15の硬化が行われる(硬化工程、S3)。
補修部15は、母材6Mと同様に、繊維であるグラスファイバと、エポキシ樹脂から構成されている。削除穴12への補修部15の埋め込み方法としては、削除穴12にグラスファイバを配置し、真空含浸法によりエポキシ樹脂を削除穴12に注入する方法や、グラスファイバおよびエポキシ樹脂からなるプリプレグを削除穴12に配置する方法などが挙げられる。
なお、母材6Mのグラスファイバが延びる方向と、補修部15のグラスファイバが延びる方向とは、略同一とされる。
【0053】
その後、削除穴12に埋め込まれた補修部15は、加熱されることにより硬化される。なお、補修部15の硬化方法としては、このように熱により硬化する樹脂を用いた場合には、加熱により補修部15が硬化されるが、紫外線が照射されることにより硬化する樹脂を用いた場合には、紫外線を照射することにより補修部15が硬化される。
このようにして、削除穴12および補修部15からなる修理部16が母材6Mに形成される。
【0054】
上記の構成によれば、母材6Mにおけるグラスファイバの延びる方向に基づいて削除穴12の開口部13の拡大幅を変えることにより、開口部13の拡大幅を均一にする場合と比較して、母材6Mの削除範囲を少なくするとともに、風車回転翼6の強度回復を図ることができる。
母材6Mにおけるグラスファイバが延びる0°方向については母材6Mの剛性が他の方向と比較して高いため、開口部13の拡大幅W1を広くすることで、母材6Mと補修部15との間で応力が伝達される接触面を広くする。このようにすることで、修理後の風車回転翼6の強度回復を確保できる。
【0055】
一方、それ以外の方向、例えば、グラスファイバが延びる方向とは直交する90°方向については母材6Mの剛性が、0°方向に係る剛性より低いため、開口部13の拡大幅W2を狭くすることで、母材6Mつまり風車回転翼6の削除範囲を少なくできる。そのため、風車回転翼6の強度低下を防止できる。
この場合、母材6Mの90°方向の剛性は0°方向の剛性と比較して低いため、母材6Mと補修部15との間で応力が伝達される接触面を狭くしても、母材6Mと補修部15の界面で破壊が発生することなく応力が伝達される。
【0056】
母材6Mにおけるグラスファイバが延びる方向と、補修部15におけるグラスファイバが延びる方向とを略一致させることにより、母材6Mにおける剛性が高い0°方向と、補修部15における剛性が高い方向とが略一致することになり、修理後の風車回転翼6の強度回復を確保しやすくなる。
具体的には、母材6Mのグラスファイバにより伝達された応力は、隣接して配置されるとともに、略同一方向に延びる補修部15のグラスファイバに伝達されるため、修理後の風車回転翼6の強度回復を確保しやすくなる。
【0057】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について図9から図12を参照して説明する。
本実施形態の風車回転翼の修理方法の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、削除穴の開口部の拡大方法が異なっている。よって、本実施形態においては、図9から図12を用いて開口部の拡大方法のみを説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
なお、本実施形態における風力発電装置1や風車回転翼6の構成は、第1の実施形態と同様であるので、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0058】
本実施形態における風車回転翼6の修理方法について説明する。
まず、風車回転翼6の母材6Mに欠陥11が発見されたら、欠陥11およびその周囲の母材6Mを削り取り削除穴12を形成するまでは、第1の実施形態における修理方法と同様である(図2から図4参照)。
【0059】
図9は、本実施形態における削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。図10は、図9の削除穴の形状を説明する上面視図である。図11は、図10の削除穴の構造を説明する90°方向に沿う面で切断した断面図である。
第1の実施形態と同様に、歩材6Mに削除穴12が形成されると、次に、図9に示すように、削除穴12の開口部13が広げられる(拡大工程、S2)。
具体的には、削除穴12の内周面が削られ、削除穴12の中心から外側に向かって、開口部13に近づく段差の段差面114が形成される。図10に示すように、最初に形成された削除穴12の開口部13が略矩形であって、開口部13の各辺が、0°方向または90°方向に沿う形状の場合には、90°方向への開口部13の拡大幅W2よりも、0°方向への開口部13の拡大幅W1が広い。
【0060】
そのため、図9に示す0°方向に延びる段差面114のステップ間隔(拡大段階幅)D1は、図11に示す90°方向に延びる段差面114のステップ間隔(拡大段階幅)D2よりも広くなっている。
【0061】
図12は、図10の削除穴に補修部を埋めた状態を説明する模式図である。
その後、第1の実施形態の修理方法と同様に、図12に示すように、削除穴12に補修部15が埋められ、補修部15の硬化が行われる(硬化工程、S3)。
このようにして、第1の実施形態と同様に、削除穴12および補修部15からなる修理部16が母材6Mに形成される。
【0062】
上記の構成によれば、削除穴12における底面から開口部13までの間の母材6Mを段差状に削ることにより、母材6Mに含まれるグラスファイバと補修部15に含まれるグラスファイバとの間隔が、母材6Mをテーパ状に削る場合と同様に、母材6Mと補修部15との間で応力の伝達が行われ、修理によって風車回転翼6の強度回復を図ることができる。
【0063】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について図13を参照して説明する。
本実施形態の風車回転翼の修理方法の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、削除穴の開口部の拡大方法が異なっている。よって、本実施形態においては、図13を用いて開口部の拡大方法のみを説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
なお、本実施形態における風力発電装置1や風車回転翼6の構成は、第1の実施形態と同様であるので、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0064】
本実施形態における風車回転翼6の修理方法について説明する。
まず、風車回転翼6の母材6Mに欠陥11が発見されたら、欠陥11およびその周囲の母材6Mを削り取り削除穴12を形成するまでは、第1の実施形態における修理方法と同様である(図2から図4参照)。
【0065】
図13は、本実施形態における削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。
母材6Mに削除穴12が形成されると、次に、図13に示すように、削除穴12の開口部13が広げられる(拡大工程、S2)。
具体的には、削除穴12の内周面が削られ、削除穴12の中心から外側に向かって、開口部13に近づく傾斜のテーパ面214が形成される。テーパ面214には、削除穴12の開口部13の近傍領域、および、削除穴12の底面の近傍領域に形成された第1テーパ面214Aと、中間領域に形成された第2テーパ面214Bとが形成されている。第1テーパ面214Aは、第2テーパ面214Bと比較して、テーパ比が小さく形成されている。
【0066】
なお、90°方向への開口部13の拡大幅W2よりも、0°方向への開口部13の拡大幅W1が広いのは、第1の実施形態と同様である。
以後の母材6Mの修理方法は、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0067】
上記の構成によれば、応力の集中が起こりやすい底面および開口部13の近傍領域における第1テーパ面214Aの比を、底面および開口部13の中間領域における第2テーパ面214Bのテーパ比よりも小さくすることで、底面および開口部13の近傍領域における応力の集中を緩和させることができる。そのため、修理後の風車回転翼6の強度回復を確実に確保できる。
【0068】
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態について図14を参照して説明する。
本実施形態の風車回転翼の修理方法の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、削除穴の開口部の拡大方法が異なっている。よって、本実施形態においては、図14を用いて開口部の拡大方法のみを説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
なお、本実施形態における風力発電装置1の構成は、第1の実施形態と同様であるので、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0069】
本実施形態における風車回転翼306の修理方法について説明する。
まず、風車回転翼(複合材構造物)306の母材306Mに欠陥11が発見されたら、欠陥11およびその周囲の母材306Mを削り取り削除穴12を形成するまでは、第1の実施形態における修理方法と同様である(図2から図4参照)。
【0070】
図14は、本実施形態における削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。
母材306Mに削除穴12が形成されると、次に、図14に示すように、母材306Mを構成する複数の樹脂層306A,306B,306Cに応じて、テーパ比の異なるテーパ面314A,314B,314Cが形成される。同時に、削除穴12の開口部13も広げられる(拡大工程、S2)。
樹脂層306Aは、内部に含まれるグラスファイバの繊維が0°方向に延びる樹脂層であり、樹脂層306Bは、内部に含まれるグラスファイバの繊維が45°方向に延びる樹脂層であり、樹脂層306Cは、内部に含まれるグラスファイバの繊維が90°方向に延びる樹脂層である。これらの樹脂層の厚さとしては、0.2mmから1mmの範囲のいずれかの厚さを例示することができる。
【0071】
テーパ面314Aのテーパ比は、他のテーパ面314B,314Cのテーパ比よりも小さく、テーパ面314Cのテーパ比は、他のテーパ面314A,314Bのテーパ比よりも大きい。テーパ面314Bのテーパ比は、テーパ面314Aのテーパ比よりも大きく、テーパ面314Cのテーパ比よりも小さい。
【0072】
テーパ面14Aのテーパ比としては1/50以下、テーパ面314Bのテーパ比としては1/20以下、テーパ面314Cのテーパ比としては1/20より大きい値を例示することができる。なお、これら例示した値は、本実施形態で用いたグラスファイバとエポキシ樹脂から形成された母材306Mについて例示した値であり、母材306Mに用いられる材料を変更することにより変わる値であり、これらの値に限定されるものではない。
【0073】
その後、第1の実施形態の修理方法と同様に、削除穴12に補修部315が埋められ、補修部315の硬化が行われる(硬化工程、S3)。
補修部315は、母材306Mと同様に、複数の樹脂層315A,315B,315Cが積層されたものである。
樹脂層315Aは、内部に含まれるグラスファイバの繊維が0°方向に延びる樹脂層であり、樹脂層315Bは、内部に含まれるグラスファイバの繊維が45°方向に延びる樹脂層であり、樹脂層315Cは、内部に含まれるグラスファイバの繊維が90°方向に延びる樹脂層である。
【0074】
補修部315の樹脂層315Aは、母材306Mの樹脂層306Aと同じ層に配置され、同様に樹脂層315B,315Cも、それぞれ樹脂層306B,306Cと同じ層に配置されている。
【0075】
上記の構成によれば、各樹脂層306A,306B,306Cに含まれるグラスファイバの延びる方向に基づいて、テーパ比を変えるため、異なる方向に延びるグラスファイバを含む複数の樹脂層306A,306B,306Cを積層させた母材306M、つまり風車回転翼306であっても、修理後の風車回転翼306の強度回復を確実に確保できる。さらに、風車回転翼306の削除範囲を少なくできる。
【0076】
〔第5の実施形態〕
次に、本発明の第5の実施形態について図15を参照して説明する。
本実施形態の風車回転翼の修理方法の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、削除穴の開口部の拡大方法が異なっている。よって、本実施形態においては、図15を用いて開口部の拡大方法のみを説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
なお、本実施形態における風力発電装置1の構成は、第1の実施形態と同様であるので、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0077】
本実施形態における風車回転翼406の修理方法について説明する。
まず、風車回転翼(複合材構造物)406の母材406Mに欠陥11が発見されたら、欠陥11およびその周囲の母材406Mを削り取り削除穴12を形成するまでは、第1の実施形態における修理方法と同様である(図2から図4参照)。
【0078】
図15は、本実施形態における削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。
母材406Mに削除穴12が形成されると、次に、図15に示すように、母材406Mを構成する複数の樹脂層306A,306B,306Cに応じて、削除穴12が各樹脂層306A,306B,306Cに沿って段差状に広げられ、間隔の異なるステップ414A,414B,414Cが形成される(拡大工程、S2)。
【0079】
本実施形態において母材406Mには、下部に90°方向に沿って延びるグラスファイバを含む樹脂層306Cが3層積層され、その上に、0°方向に沿って延びるグラスファイバを含む樹脂層306Aが3層積層されている。さらに、45°方向に沿って延びるグラスファイバを含む樹脂層306Bが樹脂層306Aの上に3層積層されている。
【0080】
ステップ414A,414B,414Cにおけるステップ間隔(拡大段階幅)は、それぞれDA,DB,DCである。
ステップ414Aは、樹脂層306Aに隣接する位置に形成されたステップであり、その間隔DAは、ステップ414B,414Cの間隔DB,DCよりも広く形成されている。ステップ414Cは、樹脂層306Cに挟まれた位置に形成されたステップであり、その間隔DCは、ステップ414A,414Bの間隔DA,DBより狭く形成されている。ステップ414Bは、樹脂層306Bに挟まれた位置に形成されたステップであり、その間隔DBは、ステップ414Aの間隔DAより狭く、かつ、ステップ414Cの間隔DCより広く形成されている。
【0081】
その後、第1の実施形態の修理方法と同様に、削除穴12に補修部415が埋められ、補修部415の硬化が行われる(硬化工程、S3)。
補修部415は、複数の樹脂層315A,315B,315Cが、母材406Mと同じ順番に積層されたものである。
【0082】
つまり、補修部415には、下部に90°方向に沿って延びるグラスファイバを含む樹脂層315Cが3層積層され、その上に、0°方向に沿って延びるグラスファイバを含む樹脂層315Aが3層積層されている。さらに、45°方向に沿って延びるグラスファイバを含む樹脂層315Bが樹脂層315Aの上に3層積層されている。
【0083】
補修部415の樹脂層315Aは、母材406Mの樹脂層306Aと同じ層に配置され、同様に樹脂層315B,315Cも、それぞれ樹脂層306B,306Cと同じ層に配置されている。
【0084】
上記の構成によれば、積層された樹脂層306A,306B,306Cごとに段差が形成されることにより、例えば樹脂層306Aに含まれる0°方向に延びるグラスファイバは上述の段差面に全て露出し、当該段差面には0°方向に延びるグラスファイバのみが露出する。そのため、0°方向に延びるグラスファイバを含む樹脂層306Aにより伝達された応力は、当該段差面において補修部415に伝達されるので、修理によって風車回転翼406の強度回復を図ることができる。
【0085】
最も強い外力を支持するグラスファイバを含む樹脂層306Aに隣接するステップ間隔DAを他のステップ間隔DB,DCより広くすることにより、樹脂層306Aにより伝達された応力を伝達する樹脂層306Aと補修部415との間の接触面の面積を広くできる。そのため、修理後の風車回転翼406の強度回復をより確実に確保できる。
一方、その他の方向に延びるグラスファイバを含む樹脂層306B,306Cに挟まれたステップ間隔DB,DCを、ステップ間隔DAより狭くすることにより、母材406Mの削除範囲を少なくできる。
【0086】
〔第6の実施形態〕
次に、本発明の第6の実施形態について図16を参照して説明する。
本実施形態の風車回転翼の修理方法の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、削除穴の開口部の拡大方法が異なっている。よって、本実施形態においては、図16を用いて開口部の拡大方法のみを説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
なお、本実施形態における風力発電装置1の構成は、第1の実施形態と同様であるので、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0087】
本実施形態における風車回転翼506の修理方法について説明する。
まず、風車回転翼(複合材構造物)506の母材506Mに欠陥11が発見されたら、欠陥11およびその周囲の母材506Mを削り取り削除穴12を形成するまでは、第1の実施形態における修理方法と同様である(図2から図4参照)。
【0088】
図16は、本実施形態における削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。
母材506Mに削除穴12が形成されると、次に、図16に示すように、母材506Mを構成する複数の樹脂層306A,306B,306Cに応じて、削除穴12が各樹脂層306A,306B,306Cに沿って段差状に広げられ、間隔の異なるステップ間隔(拡大段階幅)EA,EB,ECが形成される(拡大工程、S2)。
【0089】
本実施形態において母材506Mには、下部に90°方向に沿って延びるグラスファイバを含む樹脂層306Cが1層積層され、その上に、45°方向に沿って延びるグラスファイバを含む樹脂層306Bが樹脂層306Aの上に1層積層されている。その上に、0°方向に沿って延びるグラスファイバを含む樹脂層306Aが1層積層され、樹脂層306Bが樹脂層306Aの上に1層積層され、一番上に樹脂層306Cが1層積層されている。
【0090】
ステップ間隔EAは、樹脂層306Aの上面に形成されたステップ間隔であり、ステップ間隔EB,ECよりも間隔が広く形成されている。ステップ間隔ECは、樹脂層306Cの上面に形成されたステップ間隔であり、ステップ間隔EA,EBよりも間隔が狭く形成されている。ステップ間隔EBは、樹脂層306Bの上面に形成されたステップ間隔であり、ステップ間隔EAよりも間隔が狭く、かつ、ステップ間隔ECよりも間隔が広く形成されている。
【0091】
その後、第1の実施形態の修理方法と同様に、削除穴12に補修部515が埋められ、補修部515の硬化が行われる(硬化工程、S3)。
補修部515は、複数の樹脂層315A,315B,315Cが、母材506Mと同じ順番に、かつ、1層分上にずれて積層されたものである。
【0092】
補修部515には、母材506Mの最下層の樹脂層306Cと同じ層に樹脂層315Cが1層積層され、その上に同じく樹脂層315Cが1層積層されている。さらに、樹脂層315Cの上に樹脂層315B、樹脂層315A、樹脂層315Bの順に樹脂層が積層される。
【0093】
上記の構成によれば、例えば、母材506M側の樹脂層306Aと、補修部515側の同じ方向にグラスファイバが延びる樹脂層315Aとは、積層方向(図16の上下方向)に隣接して配置される。そのため、母材506Mの樹脂層306Aにより伝達された応力は、隣接する補修部515側の樹脂層315Aに伝達され、修理後の風車回転翼506の強度回復を確保しやすくなる。
【0094】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記の実施の形態においては、この発明を風力発電機の風車回転翼を修理する方法に適用して説明したが、この発明は風車回転翼の修理方法に限られることなく、航空機の翼の修理方法など、その他FRPなどの複合材構造物の修理方法に適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る風力発電装置の構成を説明する模式図である。
【図2】本実施形態における風車回転翼の修理方法を説明するフローチャートである。
【図3】風車回転翼に発生した欠陥を説明する模式図である。
【図4】図3の風車回転翼に形成された削除穴を説明する模式図である。
【図5】図4の削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。
【図6】図5の削除穴の形状を説明する上面視図である。
【図7】図6の削除穴の構造を説明する90°方向に沿う面で切断した断面図である。
【図8】図5の削除穴に補修部を埋めた状態を説明する模式図である。
【図9】本発明の第2の実施形態における削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。
【図10】図9の削除穴の形状を説明する上面視図である。
【図11】図10の削除穴の構造を説明する90°方向に沿う面で切断した断面図である。
【図12】図10の削除穴に補修部を埋めた状態を説明する模式図である。
【図13】本発明の第3の実施形態における削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。
【図14】本発明の第4の実施形態における削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。
【図15】本発明の第5の実施形態における削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。
【図16】本発明の第6の実施形態における削除穴の開口部を広げた状態を説明する0°方向に沿う面で切断した断面図である。
【符号の説明】
【0096】
6,306,406,506 風車回転翼(複合材構造物)
6M,306M,406M,506M 母材
11 欠陥
12 削除穴
13 開口部
W1,W2 拡大幅
15,315,415,515 補修部
16 修理部
D1,D2,DA,DB,DC,EA,EB,EC ステップ間隔(拡大段階幅)
S1 欠陥削除工程
S2 拡大工程
S3 硬化工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方向に延びる繊維により強化された樹脂からなる母材における欠陥を削り取り、削除穴を形成する欠陥削除工程と、
前記削除穴の周囲の前記母材を削り前記削除穴の開口部を広げ、かつ、前記繊維の延びる方向に基づいて前記開口部の拡大幅を変える拡大工程と、
前記母材と同じ前記樹脂を含む補修部により前記削除穴を埋め、前記補修部の樹脂を硬化させる硬化工程と、
を有することを特徴とする複合材構造物の修理方法。
【請求項2】
前記母材において最も強い外力を支持する繊維が延びる方向に沿う前記拡大幅が、その他の方向に沿う前記拡大幅よりも広いことを特徴とする請求項1記載の複合材構造物の修理方法。
【請求項3】
前記拡大工程において、前記削除穴の周囲の前記母材は、前記削除穴における前記開口部に近づくにつれて、前記開口部の面積が徐々に広くなるテーパ状に削られることを特徴とする請求項1または2に記載の複合材構造物の修理方法。
【請求項4】
前記母材には、それぞれ異なる方向に延びる前記繊維を含む樹脂からなる複数の樹脂層が積層され、
前記テーパにおけるテーパ比を、前記複数の樹脂層に含まれる前記繊維の延びる方向に基づいて変えることを特徴とする請求項3記載の複合材構造物の修理方法。
【請求項5】
前記拡大工程において、前記底面および前記開口部の近傍領域では、前記底面および前記開口部の中間領域よりテーパ比が小さなテーパ状に削られることを特徴とする請求項3または4に記載の複合材構造物の修理方法。
【請求項6】
前記拡大工程において、前記削除穴の周囲の前記母材は、前記削除穴における底面から前記開口部に近づくにつれて、前記開口部の面積が段階的に広くなる段差状に削られることを特徴とする請求項1または2に記載の複合材構造物の修理方法。
【請求項7】
前記複合材構造部には、それぞれ異なる方向に延びる前記繊維を含む樹脂からなる複数の樹脂層が積層され、
前記拡大工程において、前記削除穴の周囲の前記母材は、前記削除穴における底面から前記開口部に近づくにつれて、前記樹脂層ごとに、前記開口部の面積が段階的に広くなる段差状に削られることを特徴とする請求項1または2に記載の複合材構造物の修理方法。
【請求項8】
前記開口部が段階的に広くなる拡大段階幅のうち、前記母材において最も強い外力を支持する前記繊維を含む前記樹脂層に隣接する拡大段階幅が、その他の方向に延びる前記繊維を含む前記樹脂層に挟まれた拡大段階幅より広いことを特徴とする請求項7記載の複合材構造物の修理方法。
【請求項9】
前記補修部には前記繊維が含まれ、
前記硬化工程において、前記削除穴が、前記複合構造物における前記繊維が延びる方向と、前記補修部における前記繊維が延びる方向とが略一致するように前記補修部により埋められることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の複合材構造物の修理方法。
【請求項10】
前記補修部には、それぞれ異なる方向に延びる前記繊維を含む樹脂からなる複数の樹脂層が、前記複合材構造部と同じ順に積層され、
前記硬化工程において、前記補修部は、前記複合材構造部における前記複数の樹脂層に対して、前記開口部または前記底面側に1層だけずれて配置されることを特徴とする請求項7または8に記載の複合材構造物の修理方法。
【請求項11】
少なくとも一方向に延びる繊維により強化された樹脂からなる母材における欠陥を削り取り、削除穴を形成する欠陥削除工程と、
前記削除穴の周囲の前記母材を、前記削除穴における底面から開口部に近づくにつれて、前記開口部の面積が徐々に広くなるテーパ状であって、前記底面および前記開口部の近傍領域では、前記底面および前記開口部の中間領域よりテーパ比が小さなテーパ状に削る拡大工程と、
前記母材と同じ前記樹脂を含む補修部により前記整形部を埋め、前記樹脂を硬化させる硬化工程と、
を有することを特徴とする複合材構造物の修理方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれかに記載の複合材構造物の修理方法によって修理された修理部を有することを特徴とする複合材構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−285917(P2009−285917A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139291(P2008−139291)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】