説明

複合磁性材料及びアンテナ、並びに無線通信機器

【課題】高周波数を対象とするアンテナの小型化を実現しつつ、アンテナが使用可能となる周波数の範囲を大きくする。
【解決手段】アンテナ1は、基体2の表面に導体4が設けられ、この導体4と電気的に接続される給電端子6とで構成される。基体2は、複合磁性材料で構成され、複合磁性材料は、磁性酸化物を樹脂に分散させたものであり、磁性酸化物は、酸化コバルトがCoO換算で16mol%以上20mol%以下、酸化鉄がFe換算で71mol%以上75mol%以下、残部がBaOとSrOとのうち少なくとも一方を含み、かつCo置換型W型六方晶フェライトを主相とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波数化に対応したアンテナに適した複合磁性材料、及びこの複合磁性材料を用いたアンテナ、並びにこのアンテナを用いた無線通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機は、使用周波数帯の高周波数化が進行してきている。例えば、第一世代の携帯電話機は使用周波数帯が800MHz帯であるのに対し、2001年からサービスが開始された第三世代の携帯電話では、使用周波数帯が2GHz帯となっている。このため、2GHz帯の高周波数で使用できるアンテナが求められている。また、このようなアンテナには、広い周波数帯域(広帯域)で使用可能であることが要求される。さらに、近年は、携帯電話機等の無線通信機器の小型化にともなって、これらの機器に用いられるアンテナも小型化が重要になってきている。このように、近年のアンテナには、小型化及び高周波数(例えば、2GHz帯)において広帯域で使用できることの両立が求められる。
【0003】
アンテナを小型化するため、導体に接するように誘電材料又は磁性材料の少なくとも一方を用いることにより、波長短縮効果を利用してアンテナを小型化する技術がある(例えば、特許文献1)。また、GHz帯で透磁率の損失係数が小さい六方晶フェライト、特にY型六方晶フェライトの焼結体を磁性材料として用いてアンテナを小型化する試みもなされている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−145123号公報
【特許文献2】再表2006/064839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている技術は、アンテナに誘電材料のみを用いた場合、小型化を実現しようとすると高効率が得られる帯域が狭められてしまい、その結果として、使用可能な周波数帯域が制限されてしまう。また、特許文献2に開示されているY型六方晶フェライトの焼結体は、誘電率が高く、使用可能な周波数帯域が制限されるおそれがある。本発明は、高周波数を対象とするアンテナの小型化を実現しつつ、前記アンテナが使用可能となる周波数帯の範囲を大きくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る複合磁性材料は、酸化コバルトがCoO換算で16mol%以上20mol%以下、酸化鉄がFe換算で71mol%以上75mol%以下、残部がBaOとSrOとのうち少なくとも一方を含み、かつCo置換型W型六方晶フェライトを主相とする磁性酸化物が、樹脂に分散されて複合化されたことを特徴とする。
【0007】
本発明の望ましい態様としては、前記複合磁性材料において、前記樹脂の全体積に占める前記磁性材料粉末の体積の比率は、10vol%以上25vol%以下であることが好ましい。
【0008】
本発明の望ましい態様としては、前記複合磁性材料において、前記樹脂の全体積に占める前記磁性材料粉末の体積の比率は、15vol%以上25vol%以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の望ましい態様としては、前記複合磁性材料において、前記複合磁性材料は、2GHzにおける誘電率の損失係数及び透磁率の損失係数が、ともに0.01以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記複合磁性材料において、前記複合磁性材料は、気孔率は5%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の望ましい態様としては、前記複合磁性材料において、前記磁性酸化物の平均粒子径は1μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の望ましい態様としては、前記複合磁性材料において、前記複合磁性材料は、比抵抗が1.0×1012Ωcm以上であることが好ましい。
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るアンテナは、前記複合磁性材料により構成される基体と、前記基体の表面に設けられる導体と、前記導体と電気的に接続されて、前記導体に電気エネルギを供給する給電端子と、含んで構成されることを特徴とする。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る無線通信機器は、前記アンテナを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、高周波数を対象とするアンテナの小型化を実現しつつ、前記アンテナが使用可能となる周波数の範囲を大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本実施形態に係る複合磁性材料を用いて構成されるアンテナの一例を示す概念図である。
【図2】図2は、アンテナを構成する磁性材料の誘電率と効率との関係を示す図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る複合磁性材料を用いたアンテナを備える携帯電話機を示す図である。
【図4】図4は、アンテナの特性を評価するためのモデルを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0018】
図1は、本実施形態に係る複合磁性材料を用いて構成されるアンテナの一例を示す概念図である。アンテナ1は、基体2の表面に導体4が設けられ、この導体4と電気的に接続される給電端子6とで構成される。導体4は、例えば、銅や銅合金を印刷、蒸着、貼り合わせ、あるいはメッキによって基体2の表面に設けられる。導体4の形状は、図1に示すものに限定されるものではなく、ミアンダ状、ヘリカル状等様々な形状を用いることができる。給電端子6は、導体4と給電線とを電気的に接続する端子であり、給電線から供給される電圧又は電流を導体4に印加する。基体2は、本実施形態に係る複合磁性材料で構成される。基体2の形状は、図1に示すような直方体が好ましいが、これに限定されるものではなく、無線通信機器に実装する際には様々な形状を用いることができる。次に、本実施形態に係る複合磁性材料について説明する。
【0019】
1GHzを超える高周波数でも透磁率の損失(磁気損失)が小さく、アンテナとして用いることのできる物質として、磁性酸化物である六方晶フェライトが知られている。六方晶フェライトは、c軸方向(六方晶の長手方向)とab面内方向とでの異方性磁界が大きく異なるため、回転磁化共鳴の共鳴周波数がGHz帯の高周波数まで高くなるためである。それに加えて、六方晶フェライトを単磁区構造(逆向き磁化部分が発生しない構造)の粒子とすることで磁壁自体を無くし、磁壁共鳴を生じさせないようにすれば、共鳴周波数をさらに高くし、磁気損失をさらに低減させることができる。そして、高周波数(例えば、2GHz帯)において高効率を実現できるアンテナを得ることができる。本実施形態では、六方晶フェライトの単磁区構造の粒子を樹脂中に分散させて単磁区構造を保つことにより、磁気損失を低減させた複合磁性材料を作製し、例えば、図1に示すアンテナ1の基体2として用いる。
【0020】
ここで、磁性材料の焼結体を作製する場合、焼成工程で結晶粒が成長して多磁区構造となり、磁気損失の低減効果が減少する。本実施形態に係る複合磁性材料は、焼結体を作製する場合とは異なり、単磁区構造の粒子とした六方晶フェライトを樹脂中に分散させることにより作製される。このため、本実施形態に係る複合磁性材料は、焼成時による結晶粒の成長は発生しない。これによって、本実施形態に係る複合磁性材料は、単磁区構造を保つことができるので、磁気損失の低減効果をより確実に得ることができる。
【0021】
本実施形態において、六方晶フェライトとしてはW型六方晶フェライト、より具体的には、Co置換型六方晶フェライト(BaCoFe1627)を用いる。W型六方晶フェライトは、樹脂に分散させて使用する場合には、Y型六方晶フェライトを樹脂に分散させる場合と比較して2GHz帯といった高周波数における磁気損失及び誘電損失を小さくできるという利点がある。すなわち、W型六方晶フェライトは、少なくとも樹脂に分散させて用いる場合には、Y型六方晶フェライトよりもより高周波数の電磁波(電波)に適した磁性材料である。
【0022】
ここで、図1に示すアンテナ1の基体2に用いる磁性材料の誘電率をε、透磁率をμとすると、磁性材料内を通過する電磁波(電波)の波長λは式(1)に示すようになる。式(1)から、透磁率μと誘電率εとの少なくとも一方を大きくすれば、前記波長λは小さくなるので、基体2の寸法を小さくできる。これによって、アンテナ1の寸法を小さくできる。
λ∝1/√(μ×ε)・・・(1)
【0023】
図2は、アンテナを構成する磁性材料の誘電率と効率との関係を示す図である。図2の効率Eは、(電磁波へ変換されるエネルギ)/(アンテナへ供給される電気エネルギ)である。図2から、例えば、図1に示すアンテナ1の基体2に用いられる磁性材料の誘電率εが大きくなるにしたがって、所定の効率(本実施形態では60%)以上となる周波数fの範囲(帯域幅)が小さくなることが分かる。したがって、磁性材料内を通過する電磁波の波長λを小さくするために基体2の誘電率εを無闇に大きくすると、所定の効率が得られるアンテナ1の帯域幅を小さくしてしまう。ここで、所定の効率は、アンテナとしての機能を十分に発揮できる値であり、本実施形態では60%である。
【0024】
本実施形態では、磁性材料としてW型六方晶フェライトを用いる。そして、W型六方晶フェライトの樹脂への充填量、気孔率、粒子径等の制御因子を調整することで、作製される複合磁性材料の誘電率εの増加を抑制しつつ、透磁率μを大きくするとともに、磁気損失及び誘電損失を低減する。このようにして作製された本実施形態に係る複合磁性材料を、高周波数を対象とするアンテナの基体に用いれば、前記アンテナの小型化を実現しつつ、前記アンテナを使用可能な周波数帯域を大きくできる。
【0025】
本実施形態に係る複合磁性材料は、例えば、次のように作製される。まず、W型六方晶フェライト粉を作製する。これは、原料となるFe、BaCO、Co等の材料をボールミル等の混合手段によって配合し、配合が終了した材料を所定温度で所定時間仮焼成する。そして、仮焼成終了後の材料を振動ミルやボールミル等の粉末作製手段で粉砕して粉末とすることで、W型六方晶フェライト粉が完成する。
【0026】
次に、このW型六方晶フェライト粉を樹脂中に分散させた複合材(複合磁性材料)が作製される。まず、作製されたW型六方晶フェライト粉と、液状の樹脂材料とを混合する。W型六方晶フェライト粉と液状の樹脂材料とを混合するにあたっては、分散剤を添加した溶剤中にW型六方晶フェライト粉を混入させ、ボールミル等の解砕手段によって凝集体を解砕しておく。その上で、W型六方晶フェライト粉が分散された溶剤と液状の樹脂材料とをボールミル等の混合手段によって混合し、得られたスラリーを、例えば、ドクターブレード法によってシート状に成形する。これによって、シート状の複合磁性材料が作製される。その後、シート状の複合磁性材料を積層し、所定の温度条件下でプレス成形して、板状あるいは棒状その他の形状の複合磁性材料が作製される。
【0027】
このようして作製された本実施形態の複合磁性材料は、酸化コバルトをCoO換算で16mol%以上20mol%以下、酸化鉄をFe換算で71mol%以上75mol%以下、残部がBaOとSrOとのうち少なくとも一方を含み、かつCo置換型W型六方晶フェライトを主相とする磁性酸化物が、樹脂に分散されて複合化される。このようなCoO、Fe、BaO、SrOの配分により、Co置換型W型六方晶フェライトを主相とする磁性酸化物を得ることができる。ここで、磁性酸化物を構成するCoO及びFe及びBaOとSrOとの少なくとも一方以外は、不可避不純物であることが好ましい。また、BaOは、4.5mol%以上11mol%以下、SrOは4.5mol%以上9mol%以下とすることが好ましい。
【0028】
本実施形態では、樹脂に分散させて使用する場合には、高周波数、特に2GHz帯においてY型六方晶フェライトよりも磁気損失及び誘電損失が小さいCo置換型W型六方晶フェライトを用いる。これによって、2GHz帯で用いられるアンテナを使用できる周波数の範囲を大きくすること(広帯域化)が実現できる。また、本実施形態では、誘電率εの増加を抑えつつ、透磁率μを大きくできるので、複合磁性材料内を通過する電磁波の波長λを短くして、アンテナの小型化を実現できる。このように、本実施形態に係る複合磁性材料は、樹脂に分散させて使用する場合、Y型六方晶フェライトよりも高周波数側で優位の特性を発揮するので、1GHzを超え、2GHz帯を使用周波数帯とするアンテナに対して好適である。
【0029】
本実施形態の複合磁性材料を構成する磁性酸化物は、Co置換型W型六方晶フェライト単相であることが好ましい。しかしながら、製造過程のばらつき等により、Y型、Z型等、他の六方晶フェライトやBaFe等の異相が磁性酸化物に生成する場合がある。したがって、本実施形態に係る複合磁性材料を構成する磁性酸化物は、Co置換型W型六方晶フェライトを主相とするが、上述したような異相を含むことも許容する。ただし、高周波特性の維持、高周波数における広帯域化及びアンテナの小型化を実現するためには、Co置換型W型六方晶フェライトの比率は80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。ここでCo置換型W型六方晶フェライトの比率とは、本実施形態に係る磁性酸化物を構成する各相のX線回折におけるメインピーク(最もピーク強度の高いピーク)の強度の和に対するW型フェライトのメインピ−ク強度の割合である。
【0030】
本実施形態に係る複合磁性材料は、樹脂に磁性酸化物を分散させるので、磁性酸化物を焼結した磁性材料に比べ、寸法精度に優れる、焼成工程を経ないため形状の自由度が高い、焼成工程が不要であるため単磁区構造を有する結晶粒の成長が発生しない等の点で有利である。また、本実施形態に係る複合樹脂材料は、樹脂に磁性酸化物を分散させた複合材料であるので、樹脂の柔軟性により耐衝撃性能に優れるという利点もある。このため、本実施形態に係る複合磁性材料は、落下等によって衝撃が加わりやすい携帯電話機のような無線通信機器に好適である。
【0031】
本実施形態に係る複合磁性材料を構成する樹脂は、スチレン樹脂を用いるが、これに限定されるものではない。例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を用いることができる。
【0032】
本実施形態に係る複合磁性材料は、Co置換型W型六方晶フェライトを主相とする磁性酸化物の充填量が10vol%以上25vol%以下であることが好ましい。ここで、充填量とは、樹脂の全体積に占める磁性材料粉末の体積の比率であり、体積%(vol%)である。充填量が少な過ぎるとアンテナの小型化が不十分となり、充填量が多過ぎると十分な帯域幅が確保できない。このため、充填量は、上記範囲とすることが好ましい。充填量が上記範囲であれば、アンテナの小型化と広帯域化とを両立できる。なお、充填量は、15vol%以上25vol%以下であると、アンテナの小型化と広帯域化とをより確実に両立できるので好ましい。
【0033】
本実施形態に係る複合磁性材料は、2GHzでの誘電率の損失係数(誘電損失係数)tanδε及び透磁率の損失係数(磁気損失係数)tanδμが、ともに0.01以下であることが好ましい。この範囲の複合磁性材料を用いたアンテナは、2GHzにおいて広帯域化が実現できる。また、本実施形態に係る複合磁性材料を構成する磁性酸化物であるCo置換型W型六方晶フェライトを用いることによって、2GHzにおける誘電損失係数、磁気損失係数をともに0.01以下に維持しつつ、2GHzでの複素誘電率の実部ε’を3以下に抑えることができる。これによって、広帯域化を実現することができる。
【0034】
複合磁性材料の気孔率が高過ぎると、誘電損失が増加するとともに、帯域幅が小さくなる。このため、複合磁性材料の気孔率は、5%以下であることが好ましい。このようにすれば、帯域幅の減少を抑制して、広帯域化を実現することができ、また、誘電損失の増加も抑制できる。
【0035】
本実施形態に係る複合磁性材料を構成する磁性酸化物の平均粒子径が大き過ぎると、磁気損失が増加するとともに、帯域幅が小さくなる。このため、前記磁性酸化物の平均粒子径は、1μm以下であることが好ましい。このようにすれば、磁気損失の増加を抑制できるとともに帯域幅の減少を抑制して、広帯域化を実現できる。
【0036】
本実施形態に係る複合磁性材料は、比抵抗が小さいと、磁気損失が増加するとともに、帯域幅が狭くなる。このため、本実施形態においては、複合磁性材料の比抵抗を1.0×1012Ωcm以上とすることが好ましい。これによって、磁気損失の増加を抑制できるとともに帯域幅の減少を抑制して、広帯域化を実現することができる。次に、無線通信機器に本実施形態に係る複合磁性材料を用いたアンテナを搭載した例を説明する。
【0037】
図3は、本実施形態に係る複合磁性材料を用いたアンテナを備える携帯電話機を示す図である。無線通信機器である携帯電話機10は、第1筐体10CAと第2筐体10CBとがヒンジ13で連結された折り畳み式の携帯通信機器である。第2筐体10CBの内部であって、ヒンジ13とは反対側における端部には、第1アンテナ11が配置される。第1アンテナ11は、携帯電話機10の無線通信に用いる送受信アンテナであり、携帯電話機10と基地局との間で、通話や電子メール等に係る電波の送受信に用いられる。ここで、携帯電話機10の使用周波数帯域は、2GHz帯である。
【0038】
第1アンテナ11を構成する基体は、本実施形態に係る複合磁性材料で構成される。このため、第1アンテナ11を小型化できるとともに、携帯電話機10の無線通信に用いる周波数帯域(2GHz帯)において、第1アンテナ11を広帯域(200MHz程度)で使用できる。そして、第1アンテナ11が小型化できるため、携帯電話機10が備える内部機器の配置の自由度が向上する。また、第1アンテナ11が小型化されることにより、携帯電話機10の筐体を小型化できる。
【0039】
図3に示す携帯電話機10は、第2筐体10CBの内部であってヒンジ13側に、第2アンテナ12が配置される。第2アンテナ12は、例えば、GPS受信に用いられる受信アンテナであり、GPS衛星から発信される電波の受信に用いられる。第2アンテナ12の対象とする周波数帯域は、本実施形態においては1.5GHz帯である。第2アンテナ12の基体にも本実施形態に係る複合磁性材料を用いることで、1.5GHz帯という高周波の電波を対象とする第2アンテナ12を小型化できるとともに、GPS受信に用いる周波数帯域において、第2アンテナ12を広帯域(200MHz程度)で使用できる。第2アンテナ12は、携帯電話機10の筐体内で配置できる場所が限られるが、本実施形態に係る複合磁性材料を用いることで第2アンテナ12を小型化できるので、筐体内における配置の自由度が向上する。
【0040】
なお、本実施形態に係る複合磁性材料の適用対象は、携帯電話機10のアンテナに限定されるものではなく、GHz帯、特に2GHz帯を使用する無線通信機器全般に対して適用できる。また、本実施形態に係る複合磁性材料は、アンテナを小型化できるという効果があるので、特に、携帯電話機やPDA(Personal Data Assistant)、あるいはパーソナルコンピュータ等に装着されてデータ通信等に用いられる情報通信用カード等の小型化が要求される携帯通信機器に対して好適である。
【0041】
さらに、無線通信機器であれば、携帯され持ち運ばれる頻度の高いものに限らず、本実施形態に係る複合磁性材料は適用できる。例えば、本実施形態に係る複合磁性材料は、携帯電話機の室内アンテナや室内に配置される無線LAN用の送受信機等のようなものであっても適用でき、このようなものの中でも、特に小型化が要求されるものに対して好適である。
【実施例】
【0042】
次に、上述した実施形態をより具体的に実施した実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。表1には、実施例及び比較例に係る複合磁性材料を構成する磁性酸化物の成分、前記磁性酸化物の結晶構造、前記磁性酸化物の充填量、複合磁性材料の気孔率、複合磁性材料の比抵抗及び前記磁性酸化物の粒子径が記述される。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例として、酸化鉄(Fe)、酸化コバルト(Co)、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)を原料とし、これらを表1に示す実施例のサンプルNo.1〜9それぞれに対応する所定の組成となるように秤量した。そして、秤量後の原料を湿式ボールミルで水を媒体として16時間配合した後、大気中において1250℃で焼成した。これによって得られた磁性酸化物を振動ミルで10分間乾式粉砕した後、湿式ボールミルで水を媒体として88時間粉砕し、粉砕後の磁性酸化物を150℃で24時間乾燥させて、平均粒径が1μm以下の磁性酸化物の粉末(磁性酸化物粉末W)を作製した。この磁性酸化物は、Co置換型W型六方晶フェライト(BaCoFe1627)を主成分とする。
【0045】
次に、この磁性酸化物粉末Wとスチレン系樹脂とを、磁性酸化物粉末Wの充填量が10vol%、15vol%、25vol%となるように混合した。磁性酸化物粉末Wとスチレン樹脂とを混合するにあたっては、磁性酸化物粉末Wと溶剤(トルエン)と分散剤(高分子界面活性剤)とをボールミルで混合して、磁性酸化物粉末Wの凝集体を解砕した。この混合物に、スチレン樹脂を溶剤(トルエン)で溶解させた溶液を加えて混合し、前記溶液中に磁性酸化物粉末Wが分散したスラリーを作製した。
【0046】
次に、このスラリーを用いて、ドクターブレード法により複合磁性材料のシートを成形した後、前記シートを切断して積層した。この積層体を所定の温度(120℃)かつ所定の圧力(3MPa〜10MPa)で所定時間(2分〜10分)プレスすることにより、実施例のサンプルNo.1〜9に対応する複合磁性材料の試験片を作製した。ここで、プレスの圧力とプレスの時間との少なくとも一方を変更することにより気孔率や比抵抗を調整して、表1に示す実施例のサンプルNo.1〜9それぞれに対応する値とした。
【0047】
上記手順によって作製された試験片により、誘電率、透磁率、比抵抗、気孔率を測定した。誘電率の測定に供する試験片は、1mm×1mm×80mmの棒状の試験片であり、透磁率の測定に供する試験片は、外形7mm、内径3mm、厚さ2mmの環状の試験片である。また、比抵抗の測定に供する試験片は、直径10mm、厚さ1mmのペレット状の試験片である。
【0048】
比較例として、結晶構造がW型の六方晶フェライトである磁性酸化物を樹脂に分散させた複合磁性材料(表1に示す比較例のサンプルNo.1〜13)と、結晶構造がY型の六方晶フェライトである磁性酸化物を樹脂に分散させた複合磁性材料(表1に示す比較例のサンプルNo.14〜16)と、スチレン樹脂のみを用いたもの(表1に示す比較例のサンプルNo.17)とを作製した。
【0049】
比較例のサンプルNo.1、13は、上述した実施例において、Co置換型W型六方晶フェライトを主成分とする磁性酸化物粉末CWとスチレン系樹脂とを、磁性酸化物粉末CWの充填量がそれぞれ40vol%、50vol%となるように混合したものである。比較例のサンプルNo.4、5は、上述した実施例において、磁性酸化物粉末CWの平均粒径がそれぞれ3μm、5μmとなるようにしたものである。磁性酸化物粉末CWの平均粒径は、焼成後の前記磁性酸化物を粉砕する時間によって調整した。
【0050】
比較例のサンプルNo.2、3は、上述した実施例において、気孔率及び比抵抗を変更したものである。比較例のサンプルNo.6〜9は、上述した実施例において、Fe又はCoOのうち少なくとも一方を少なく、又は多くしたものである。比較例のサンプルNo.10〜12は、上述した実施例において、酸化コバルト(Co)に代えて、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、酸化ニッケル(NiO)、酸化亜鉛(ZnO)を原料としたものである。そして、平均粒径が1μm以下のW型六方晶フェライト(BaCoFe1627)を主成分とする磁性酸化物粉末を作製し、これらの磁性酸化物粉末とスチレン系樹脂とを、前記磁性酸化物粉末の充填量が25vol%となるように混合し、上述した実施例と同様の手順で試験片を作製した。
【0051】
比較例のサンプルNo.14〜16は、酸化鉄(Fe)、酸化コバルト(Co)、炭酸バリウム(BaCO)を原料とする。そして、これらの原料を、表1に示す比較例のサンプルNo.14〜16それぞれに対応する所定の組成となるように秤量した。そして、上述した実施例と略同様の方法で、焼成温度のみを1100℃として、平均粒径が1μm以下の、Co置換型Y型六方晶フェライト(BaCoFe1222)を主成分とする酸化磁性体粉末Yを作製した。
【0052】
次に、作製された酸化磁性体粉末Yとスチレン系樹脂を、酸化磁性体粉末Yの充填量が10vol%、25vol%、40vol%となるように混合した。酸化磁性体粉末Yとスチレン樹脂とを混合するにあたっては、上述した実施例と同様の方法を用いて、スチレン樹脂を溶剤(トルエン)で溶解させた溶液中に酸化磁性体粉末Yが分散したスラリーを作製した。
【0053】
次に、このスラリーを用いて、ドクターブレード法により複合磁性材料のシートを成形した後、前記シートを切断して積層した。この積層体を所定の温度(120℃)かつ所定の圧力(3MPa〜10MPa)で所定時間(2分〜10分)プレスすることにより、比較例のサンプルNo.14〜16に対応する複合磁性材料の試験片を作製した。
【0054】
このようにして得られた実施例のサンプルNo.1〜9及び比較例のサンプルNo.1〜17それぞれに対応する複合磁性材料の試験片を用いて、誘電率、透磁率、比抵抗、気孔率を測定した。また、Co置換型W型六方晶フェライト粉末等の平均粒子径も測定した。そして、実施例のサンプルNo.1〜9及び比較例のサンプルNo.1〜17それぞれに対応する複合磁性材料を用いてアンテナを作製し、その特性を評価した。アンテナの特性として評価する項目は、帯域幅(MHz)及び小型化率(%)である。ここで、帯域幅は、2GHzを中心とした効率が60%以上となる周波数の範囲である。
【0055】
平均粒子径は、日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置HRA(X−100)を用いて粒度分布を測定し、平均粒子径D50(メジアン径)の値を平均粒子径とした。気孔率は、作製された複合磁性材料の乾燥質量、水中質量、飽水質量を測定し、アルキメデス法により見掛け気孔率を式(2)から求めた。
見掛け気孔率(%)=(飽水質量−乾燥質量)/(飽水質量−水中質量)×100・・・(2)
【0056】
透磁率、誘電率は、ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー(株)製)を用いて測定した。透磁率は、上述した透磁率測定用の試験片を用いて同軸型Sパラメータ法により、室温における2GHzでの複素透磁率の実部μ’、磁気損失係数tanδμを測定した。誘電率は、上述した誘電率測定用の試験片を用いて空洞共振器摂動法により、室温における2GHzでの複素誘電率の実部ε’、誘電損失係数tanδεを測定した。比抵抗は、上述した比抵抗測定用の試験片の両面にインジウム・ガリウム電極を塗布し、電極間の抵抗を超高抵抗/微小電流計((株)アドバンテスト製)を用いて測定した。
【0057】
図4は、アンテナの特性を評価するためのモデルを示す概念図である。アンテナ1は、基体2に導体4及び導体4と電気的に接続される給電端子6とを設けて構成される。基体2は、実施例のサンプルNo.1〜9及び比較例のサンプルNo.1〜17それぞれに対応する複合磁性材料を用いて作製される。そして、それぞれの基体2に導体4及び給電端子6が設けられて、実施例のサンプルNo.1〜9及び比較例のサンプルNo.1〜17それぞれに対応したアンテナが作製される。
【0058】
アンテナ1は、長辺の長さがA、短辺の長さがBの矩形形状をした基板8上の短辺側端部側に配置されて、給電端子6を介して導体4に電気エネルギが供給される。アンテナ1の形状は立方体であり、高さ(基板8の板面と直交する方向の寸法)H、長さ(基板8の短辺と平行な方向の寸法)L、幅(基板8の長辺と平行な方向の寸法)Wである。
【0059】
本実施例においては、基板8の長辺の長さA=80mm、短辺の長さB=37mmである。また、アンテナ1の高さH=7mm、幅W=9mmである。アンテナ1の特性として評価する帯域幅は、効率が60%以上となる2GHzを中心とした周波数の範囲である。また、アンテナ1の特性として評価する小型化率は、2GHzでの反射損失を一定とした場合におけるLの値から算出する。小型化率は、アンテナ1の基体2がスチレン樹脂のみで構成される場合における、2GHzでの反射損失を一定とした場合のアンテナ1の長さを基準値L0とすると、(L0−L)/L0(%)で求められる。すなわち、小型化率は、アンテナ1の基体2がスチレン樹脂のみで構成される場合と比較して、どの程度アンテナ1の長さが小さくなるかを表す。なお、反射損失は、(反射によって戻ってくる電気エネルギ)/(アンテナへ供給される電気エネルギ)である。
【0060】
上述した手法によって測定した複素透磁率の実部μ’、磁気損失係数tanδμ、複素誘電率の実部ε’、誘電損失係数tanδεの結果、及び2GHz帯域幅、小型化率の評価結果を表2に示す。なお、比抵抗及び平均粒径の測定結果は、上述した表1に示す。帯域幅及び小型化率は、いずれも評価した値を用いて○、△、×の3段階評価とした。帯域幅は、○が許容、小型化率は○及び△が許容である。
【0061】
【表2】

【0062】
表2の結果から分かるように、実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料は、いずれも2GHzにおいて十分な帯域幅を有しているといえる。これらの複合磁性材料は、磁気損失係数tanδμ及び誘電損失係数tanδεがともに0.01以下であり、また、ε’が3以下に抑えられている。このため、これらの複合磁性材料は、2GHzを中心とした広い周波数の範囲で、アンテナに供給されるエネルギを効率的に電磁波へ変換できると考えられる。
【0063】
また、実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料は、いずれもスチレン樹脂単体を用いた場合よりもアンテナの寸法を小型化できる。これらの複合磁性材料は、μ’及びε’が比較的大きいため、複合磁性材料内を通過する波長λの短縮効果が有効に作用しているためであると考えられる。特に、充填量が15%以上になると(実施例のサンプルNo.1〜8)、小型化の効果が顕著に現れる。このように、本発明の実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料は、広帯域化と小型化とを両立できる。
【0064】
実施例のサンプルNo.6に係る複合磁性材料を構成する磁性酸化物は、BaOの代わりにSrOを用いている。また、実施例のサンプルNo.7に係る複合磁性材料を構成する磁性酸化物は、CoO、Fe、BaO及びSrOで構成される。このように、BaOとSrOとのうち少なくとも一方を用いることにより、広帯域化と小型化とを両立できる。
【0065】
比較例のサンプルNo.14〜16に係る複合磁性材料は、いずれも帯域幅の評価が許容値に達しておらず、広帯域化と小型化との両立ができていない。これらの複合磁性材料は、磁気損失係数tanδμ、あるいは誘電損失係数tanδεが大きいため、アンテナに供給されるエネルギを効率的に電磁波へ変換できる周波数の範囲が狭くなっていると予想される。この原因として、これらの複合磁性材料は、いずれもCo置換型Y型六方晶フェライトを磁性酸化物に用いることが考えられる。これに対して、実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料は、樹脂に分散させて使用する場合には、より高周波特性に優れるCo置換型W型六方晶フェライトを主相とした磁性酸化物を用いるので、広帯域化と小型化とを両立させることができると考えられる。
【0066】
比較例のサンプルNo.10、11、12に係る複合磁性材料は、いずれも帯域幅の評価が許容値に達しておらず、広帯域化と小型化との両立ができてきない。これらの複合磁性材料は、磁気損失係数tanδμや誘電損失係数tanδεが大きいため、アンテナに供給されるエネルギを効率的に電磁波へ変換できる周波数帯域が狭くなっていると予想される。この原因として、これらの複合磁性材料は、Co置換型W型六方晶フェライトのCoを、それぞれMg、Ni、Znに置換したことが考えられる。一方、広帯域化と小型化とを両立させることができる実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料は、Co置換型W型六方晶フェライトを主相とした磁性酸化物を用いている。このことから、広帯域化及び小型化を実現するためには、W型六方晶フェライトの中でもCo置換型を用いることが好ましいといえる。
【0067】
比較例のサンプルNo.6、8に係る複合磁性材料は、誘電損失係数tanδεが0.01を超えており、比較例のサンプルNo.7、9に係る複合磁性材料は、磁気損失係数tanδμが0.01を超えている。そして、これらの複合磁性材料は、帯域幅がいずれも許容値に達しておらず、広帯域化と小型化との両立ができていない。比較例のサンプルNo.6に係る複合磁性材料は、実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料と比較してFeが少なく、比較例のサンプルNo.7に係る複合磁性材料は、実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料と比較してFeが多い。このように、Feが適切な範囲から外れると、誘電損失係数tanδε、あるいは磁気損失係数tanδμが増加して、広帯域化を妨げる。したがって、複合磁性材料を構成する磁性酸化物中のFeは、71mol%以上75mol%以下とすることが好ましい。
【0068】
比較例のサンプルNo.8に係る複合磁性材料は、実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料と比較してCoOが少なく、比較例のサンプルNo.9に係る複合磁性材料は、実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料と比較してCoOが多い。このように、CoOが適切な範囲から外れると、誘電損失係数tanδεあるいは磁気損失係数tanδμが増加して広帯域化を妨げる。したがって、複合磁性材料を構成する磁性酸化物中のCoOは、16mol%以上20mol%以下とすることが好ましい。
【0069】
比較例のサンプルNo.1、13に係る複合磁性材料は、帯域幅がいずれも許容値に達しておらず、広帯域化と小型化との両立ができていない。これらの複合磁性材料は、ε’が4以上と大きく、また、磁気損失係数tanδμ及び誘電損失係数tanδεはいずれも0.02以上であるため、広帯域化が実現できていないと考えられる。一方、これらの複合磁性材料は、μ’及びε’が大きいため、小型化には効果的である。しかしながら、充填量が多過ぎると、広帯域化と小型化とを両立させることはできない。実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料の評価結果を併せると、充填量は、10vol%以上25vol%が好ましく、より好ましくは15vol%以上25vol%である。
【0070】
比較例のサンプルNo.4、5に係る複合磁性材料は、帯域幅が許容値に達しておらず、広帯域化と小型化との両立ができていない。これらの複合磁性材料は、ε’は3以下であるものの、磁気損失係数tanδμが0.04、0.05と大きいため、アンテナに供給されるエネルギを効率的に電磁波へ変換できる周波数の範囲が狭くなっていると考えられる。これらの複合磁性材料で磁気損失係数tanδμが大きくなった理由は、Co置換型W型六方晶フェライトの平均粒子径が3μm、5μmと大きくなったことに起因して、単磁区構造の粒子が少なくなったためであると考えられる。このため、Co置換型W型六方晶フェライトの平均粒子径は、1μm以下とすることが好ましい。なお、Co置換型W型六方晶フェライトの粒子を単磁区構造にするという観点からは、平均粒子径はできる限り小さいことが好ましいが、平均粒子径を0にすることはできない。このため、平均粒子径は、1μm以下でできる限り小さくすることが好ましい。
【0071】
比較例のサンプルNo.2に係る複合磁性材料は、帯域幅が許容値に達しておらず、広帯域化と小型化との両立ができていない。この複合磁性材料は、ε’は3以下であるものの、誘電損失係数tanδεが0.02と大きいため、アンテナに供給されるエネルギを効率的に電磁波へ変換できる周波数の範囲が狭くなっていると考えられる。この複合磁性材料は、実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料よりも気孔率が大きいが、広帯域化が実現できていないのは気孔率の増加が原因であると考えられる。このため、気孔率は、5%以下が好ましい。なお、気孔率は小さい方が好ましいが、磁性酸化物を樹脂中に分散させる複合磁性材料の場合、気孔率を0にすることはできない。したがって、気孔率は、5%以下でできる限り0に近いことが好ましい。
【0072】
比較例のサンプルNo.3に係る複合磁性材料は、帯域幅が許容値に達しておらず、広帯域化と小型化との両立ができていない。この複合磁性材料は、ε’は3以下であるものの、磁気損失係数tanδμが0.02と大きいため、アンテナに供給されるエネルギを効率的に電磁波へ変換できる周波数の範囲が狭くなっていると考えられる。この複合磁性材料は、実施例のサンプルNo.1〜9に係る複合磁性材料よりも比抵抗が小さく(9.3×1011Ωcm)、広帯域化が実現できていないのはこれが原因と考えられる。このため、比抵抗は、1.0×1012Ωcm以上が好ましい。なお、比抵抗は、最大で1.0×1013Ωcmが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように、本発明に係る複合磁性材料及びアンテナ、並びに無線通信機器は、高周波数を対象とするアンテナに有用であり、このようなアンテナの小型化を実現しつつ、前記アンテナが使用可能となる周波数帯域を大きくすることに適している。
【符号の説明】
【0074】
1 アンテナ
2 基体
4 導体
6 給電端子
8 基板
10 携帯電話機
10CA 第1筐体
10CB 第2筐体
11 第1アンテナ
12 第2アンテナ
13 ヒンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化コバルトがCoO換算で16mol%以上20mol%以下、酸化鉄がFe換算で71mol%以上75mol%以下、残部がBaOとSrOとのうち少なくとも一方を含み、かつCo置換型W型六方晶フェライトを主相とする磁性酸化物が、樹脂に分散されて複合化されたことを特徴とする複合磁性材料。
【請求項2】
前記樹脂の全体積に占める前記磁性材料粉末の体積の比率は、10vol%以上25vol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性材料。
【請求項3】
前記樹脂の全体積に占める前記磁性材料粉末の体積の比率は、15vol%以上25vol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性材料。
【請求項4】
前記複合磁性材料は、2GHzにおける誘電率の損失係数及び透磁率の損失係数が、ともに0.01以下であることを特徴とする1から3のいずれか1項に記載の複合磁性材料。
【請求項5】
前記複合磁性材料は、気孔率は5%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の複合磁性材料。
【請求項6】
前記磁性酸化物の平均粒子径は1μm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の複合磁性材料。
【請求項7】
前記複合磁性材料は、比抵抗が1.0×1012Ωcm以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の複合磁性材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の複合磁性材料により構成される基体と、
前記基体の表面に設けられる導体と、
前記導体と電気的に接続されて、前記導体に電気エネルギを供給する給電端子と、
含んで構成されることを特徴とするアンテナ。
【請求項9】
請求項8に記載のアンテナを備えることを特徴とする無線通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−238748(P2010−238748A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82378(P2009−82378)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】