説明

複合積層状ベーカリー生地

【課題】デニッシュペストリー、パイ等の層状構造を有する層状ベーカリー製品において、しっとりしているにもかかわらず、ふんわりとして歯切れが良く、また良好な甘味を有する層状ベーカリー製品を提供すること。
【解決手段】呈味材、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成されることを特徴とする複合積層状ベーカリー生地により、しっとりしているにもかかわらず、ふんわりとして歯切れが良く、また良好な甘味を有する層状ベーカリー製品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈味材、ロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成されることを特徴とする複合積層状ベーカリー生地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
呈味材、ロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成される複合積層状ベーカリー生地についての先行技術としては、特許文献1〜3を挙げることができる。
【0003】
特許文献1には、シート状もしくはブロック状の油脂または油脂組成物に溝孔を施し、風味素材を充填、塗布、散布したもので、生地に折り込んで使用する折り込み用油脂組成物が記載されている。
【0004】
上記の特許文献1の折り込み用油脂組成物に用いられる油脂または油脂組成物において、各種糖類を用いることが記載されている。しかし、これを用いた多層状食品の食感はしっとりとするが歯切れが悪く、曳きが出てしまうという欠点があった。また特許文献1は油脂または油脂組成物に風味素材を充填、塗布、散布すること、あるいは油脂または油脂組成物と風味素材を重ね合わせたものを折り込み用油脂組成物として用いる。この折り込み用油脂組成物をベーカリー生地に用いると、風味の変化がつきにくかったり、油脂層の適切な折数に呈味材の折数を合わせると、呈味材が練りこまれたような状態となり、また、呈味材に適した折数にあわせると、油脂層が厚くなってしまい、好ましい食感を得ることができなかった。
【0005】
特許文献2は生地の上に折り込み用油脂を配置した後、予め所定の形状に成型した呈味材を折り込み用油脂上に配置し、これを折りたたんで作製することを特徴とする層状食品の製造方法が記載されている。
【0006】
上記の特許文献2の方法も、折込み用油脂層の適切な折数に呈味材の折数を合わせると、呈味材が練りこまれたような状態となり、また、呈味材に適した折数にあわせると、油脂層が厚くなってしまい、好ましい食感を得ることができなかった。
【0007】
特許文献3には、呈味素材層、ロールイン油脂層及びベーカリー生地層を含む複合積層状ベーカリー生地であって、上記呈味素材層の層数より、上記ロールイン油脂層の層数が小であることを特徴とする複合積層状ベーカリー生地が記載されている。この複合積層状ベーカリー生地は、油脂層が厚くなりやすいため、油っぽさを感じやすいものであった。
【0008】
【特許文献1】特開平11−289978号公報
【特許文献2】特開2001−321064号公報
【特許文献3】特開2006−333735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明はデニッシュペストリー、パイ等の層状ベーカリー製品において、しっとりしているにもかかわらず係らず、ふんわりとして歯切れが良く、また良好な甘味を有する層状ベーカリー製品を得ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、呈味材、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成されることを特徴とする複合積層状ベーカリー生地により、上記の課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、しっとりとしているにも係らず、ふんわりとして歯切れが良く、また良好な甘味を有する層状ベーカリー製品を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の複合積層状ベーカリー生地について詳細に説明する。
本発明の複合積層状ベーカリー生地は、呈味材、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成されることを特徴とする。
【0013】
本発明で用いる呈味材としては、フラワーペースト、カスタードクリーム、チョコレートクリームなどのクリーム類、りんご、キウイフルーツ、パパイヤ、マンゴ、イチジク、パイナップル、ピーチ、いちご、マロン、チェリー、オレンジ、スィートポテト、レモン、アプリコット、ブドウ、ラズベリー、ブルーベリー、クランベリー、プラム、パンプキンなどの野菜・果物類やこれらのプレザーブ類、ジャム類、ペースト類及びドライフルーツ類、餡類、ナッツ類、アーモンド類、クッキー生地などをあげることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。本発明では呈味材としてフラワーペースト、野菜・果物類のペースト類、餡類を好適に用いることができる。
【0014】
また上記の呈味材の水分含量は好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは20〜50質量%、最も好ましくは30〜40質量%である。呈味材の水分含量が10質量%よりも少ないとベーカリー生地に呈味剤を均一に塗布、積置、折込みしにくく、しっとりとした層状ベーカリー製品を得にくい。呈味材の水分含量が60質量%よりも多いとベーカリー生地から呈味材がはみだしてしまったり、しっとりした層状ベーカリー製品を得にくい。
【0015】
本発明において、複合積層状ベーカリー生地で用いる穀粉類100質量部に対して、呈味材を、好ましくは10〜70質量部、さらに好ましくは20〜60質量部、最も好ましくは25〜50質量部配合する。複合積層状ベーカリー生地で用いる穀粉類100質量部に対して、呈味材の配合量が10質量部よりも少ないと複合積層状ベーカリー生地を焼成した層状ベーカリー製品において呈味材の風味が得られにくい。複合積層状ベーカリー生地で用いる穀粉類100質量部に対して、呈味材の配合量が70質量部よりも多いと複合積層状ベーカリー生地を焼成した層状ベーカリー製品において食感が重くなりやすく、またボリュームが出にくい。
【0016】
本発明において、ベーカリー生地で用いる穀粉類100質量部に対して、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物を、好ましくは10〜70質量部、さらに好ましくは20〜60質量部、最も好ましくは25〜50質量部配合する。ベーカリー生地で用いる穀粉類100質量部に対して、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の配合量が10質量部よりも少ないと複合積層状ベーカリー生地を焼成した層状ベーカリー製品の甘味が不足しやすく、また歯切れが悪くなりやすい。ベーカリー生地で用いる穀粉類100質量部に対して、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の配合量が70質量部よりも多いと複合積層状ベーカリー生地を焼成した層状ベーカリー製品の食感が重くなりやすく、またボリュームが出にくい。
【0017】
次に本発明で用いるアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物についてさらに詳しく説明する。
【0018】
上記のアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物は、アセスルファムカリウムを好ましくは0.01〜1質量%、さらに好ましくは0.015〜0.75質量%、より好ましくは0.02〜0.5質量%、最も好ましくは0.03〜0.2質量%含有するのがよい。
【0019】
本発明においてアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物中のアセスルファムカリウムの含有量が0.01質量%よりも少ないと甘みが不十分となりやすい。ロールイン用油脂組成物中のアセスルファムカリウムの含有量が1質量%よりも多いと複合積層状ベーカリー生地を焼成した層状ベーカリー製品の甘みが強くなりやすい。
【0020】
上記のアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物中のナトリウム/カリウムの質量比率は、好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.05以下、最も好ましくは0〜0.01とするのがよい。アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物のナトリウムの含有量/カリウムの含有量が0.1よりも大きいと、複合積層状ベーカリー生地を焼成した層状ベーカリー製品において、良好な甘みを得ることができにくい。
【0021】
上記の本発明のアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物中のナトリウム/カリウムの質量比率とは、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物中に含まれるナトリウムの質量基準の含有量を、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物中に含まれるカリウムの質量基準の含有量で除した値である。
なお上記のアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物中のナトリウムの質量基準の含有量とは、食塩等のナトリウム塩、脱脂粉乳等の乳起源の原材料等に由来するナトリウム分の合計量であり、カリウムの質量基準の含有量とはアセスルファムカリウム等のカリウム塩、脱脂粉乳等の乳起源の原材料等に由来するカリウム分の合計量である。
【0022】
上記のアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物で用いることができる油脂としては、例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、サル脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油などの各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂があげられる。本発明はこれらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
上記のアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において上記の油脂の含有量は好ましくは29〜97質量%、さらに好ましくは50〜95質量%、最も好ましくは50〜70質量%である。
【0023】
また上記のアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物は、直接β型の油脂結晶を含有することが好ましい。アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、直接β型の油脂結晶を含有しないと、結晶安定性の良好なロールイン用油脂組成物が得られにくい。ただし、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物は、直接β型の油脂結晶を含有していれば、直接β型の油脂結晶でない油脂結晶、例えばβプライム型の油脂結晶を含有していても良い。
【0024】
上記の直接β型の油脂結晶とは、油脂結晶を融解し、冷却し、結晶化したときに、熱エネルギー的に不安定なα型結晶から、準安定形のβプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する油脂結晶のことである。この際、上記の結晶化条件は如何なる結晶化条件であってもよく、テンパリング等の特殊な熱処理を必要としない。
【0025】
本発明において、油脂結晶が直接β型であることを確認する方法としては、油脂結晶を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が、β型結晶であることを確認する方法が挙げられる。
【0026】
上記の油脂結晶がβ型結晶であることを確認する方法としては、例えば、X線回析測定において、以下のように短面間隔を測定する方法が挙げられる。
【0027】
具体的には、油脂結晶について、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する強い回析ピークを示した場合に、該油脂結晶はβ型結晶であると判断する。さらにより高い精度で測定する場合は、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度1)及び4.2〜4.3オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比が1.3以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは2.2以上、最も好ましくは2.5以上となった場合にβ型結晶であると判断する。
【0028】
また、上記の直接β型の油脂結晶は、トリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造であることが好ましい。油脂結晶が2鎖長構造であることを確認する方法としては、例えばX線回析測定による方法が挙げられる。
【0029】
具体的には、油脂結晶について、長面間隔を2θ:0〜8度の範囲で測定し、40〜50オングストロームに相当する回折ピークを示した場合に、該油脂結晶は2鎖長構造をとっていると判断する。
【0030】
また、上記の直接β型の油脂結晶は、実質的に微細結晶であることが好ましい。上記の微細結晶とは、油脂の結晶が微細であることであり、口にしたり、触った際にもザラつきを感ずることのない結晶であることを意味し、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下、最も好ましくは3μm以下のサイズの油脂結晶を指す。上記サイズとは、結晶の最大部位の長さを示すものである。
【0031】
上記の直接β型の油脂結晶の結晶サイズが20μmを越えた油脂結晶であると、該油脂結晶を含有する油中水型乳化油脂組成物を口にしたり、触った際にザラつきを感じやすい。
【0032】
なお、「実質的に」とは、全ての直接β型の油脂結晶のうち微細結晶を90質量%以上含有することを指す。本発明では、好ましくは全ての直接β型の油脂結晶の全てが3mm以下であることが望ましい。
【0033】
本発明で用いるアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、上記の直接β型の油脂結晶の含有量は、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中に、油相基準で好ましくは5質量%以上、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは5〜30質量%、最も好ましくは5〜20質量%である。直接β型の油脂結晶の含有量が、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中、5質量%未満であると経日的に20μmを越えたサイズを有するβ型結晶が出現しやすく、経日的に硬くなりやすい。
【0034】
尚、上記の油相とは、油脂に、必要に応じて、乳化剤、着色料、酸化防止剤、着香料、調味料等を添加したものを指す。また、上記の油脂には、乳製品、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材から抽出される脂肪分も含まれる。
【0035】
ここで、本発明で言うところの直接β型の油脂結晶の例を挙げる。
【0036】
上記の直接β型の油脂結晶の1つめの例として、StEE(St:ステアリン酸、E:エライジン酸)で表されるトリグリセリド(以下StEEとする)の油脂結晶が挙げられる。
【0037】
StEEの油脂結晶は、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは5〜30質量%、最も好ましくは5〜20質量%となるように含有させる。
【0038】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物中に、上記のような範囲で、StEEの油脂結晶を含有させるために、本発明ではStEEを含有する油脂を用いることができる。
【0039】
上記のStEEを含有する油脂としては、例えば、大豆油、ひまわり油、シア脂、サル脂の中から選ばれた1種又は2種以上に水素添加及び分別から選択される1又は2種類の処理を施した加工油脂を用いることができる。さらに好ましくは、ハイオレイックひまわり硬化油、シア分別軟部油の硬化油又はこの硬化油の分別硬部油、サル分別軟部油の硬化油又はこの硬化油の分別硬部油を用いることが望ましい。
【0040】
また、上記の直接β型の油脂結晶の2つめの例として、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下S1MS2とする)と、MS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下MS3Mとする)とからなるコンパウンド結晶が挙げられる。
【0041】
上記のS1MS2のS1及びS2並びにMS3MのS3は、好ましくは炭素数16以上の飽和脂肪酸であり、さらに好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸である。また、本発明において、上記のS1、S2及びS3が、同じ飽和脂肪酸であるのが最も好ましい。
【0042】
また、上記のS1MS2のM及びMS3MのMは、好ましくは炭素数16以上のモノ不飽和脂肪酸、さらに好ましくは炭素数18以上のモノ不飽和脂肪酸、最も好ましくはオレイン酸である。
【0043】
上記のS1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶とは、構造の異なるS1MS21分子とMS3M1分子とが混合された際、あたかも単一のトリグリセリド分子であるかの如き結晶化挙動を示すものである。コンパウンド結晶は分子間化合物とも呼ばれる。
【0044】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、上記のS1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶は、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは5〜30質量%、最も好ましくは5〜20質量%となるように含有させる。
【0045】
また、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中、上記のS1MS2の含有量は、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5〜25質量%、さらに好ましくは2.5〜15質量%、最も好ましくは2.5〜10質量%であり、上記のMS3Mの含有量は、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5〜25質量%、さらに好ましくは2.5〜15質量%、最も好ましくは2.5〜10質量%である。
【0046】
さらに、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、S1MS2のモル数/MS3Mのモル数が、好ましくは0.4〜7、さらに好ましくは0.8〜5となるように含有させる。
【0047】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物中に、好ましくは上記のような範囲で、S1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶を含有させるために、本発明ではS1MS2を含有する油脂及びMS3Mを含有する油脂を混合して用いてもよい。
【0048】
上記のS1MS2を含有する油脂としては、例えば、パーム油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂、チャイニーズタロー等の各種植物油脂、これらの各種植物油脂を分別した加工油脂、並びに下記に記載するエステル交換油、該エステル交換油を分別した加工油脂を用いることができる。本発明では、上記の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0049】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0050】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物においては、上記のS1MS2を含有する油脂として、純植物性のロールイン用油脂組成物を得ることが可能な点で、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂等の各種植物油脂、これらの各種植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油を使用することが好ましく、更にトランス酸を含まない点において、水素添加した加工油脂を含有しないことが好ましく、中でも、S1MS2と共に、後に詳述する3飽和トリグリセリドをも含有する点において、パーム油や、パームステアリン、パームオレイン、パーム中部油、パームスーパーオレイン等のパーム分別油、これらを用いて製造したエステル交換油のうちの1種又は2種以上を使用することが最も好ましい。
【0051】
上記のMS3Mを含有する油脂としては、例えば、豚脂、豚脂分別油、下記に記載するエステル交換油を用いることができ、本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0052】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0053】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物においては、上記のMS3Mを含有する油脂として、純植物性の油中水型乳化油脂組成物を得ることが可能な点で、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂等の各種植物油脂、これらの各種植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油を使用することが好ましく、更には、トランス酸を含まない点において、水素添加した加工油脂を含有しないことが好ましく、中でも、MS3Mと共に、後に詳述する3飽和トリグリセリドをも含有する点において、パーム油や、パームステアリン、パームオレイン、パーム中部油、パームスーパーオレイン等のパーム分別油を用いて製造したエステル交換油のうちの1種又は2種以上を使用することが最も好ましい。
【0054】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、上記のS1MS2を含有する油脂は、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中、S1MS2が好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5〜25質量%、さらに好ましくは2.5〜15質量%、最も好ましくは2.5〜10質量%となるよう含有させ、上記のMS3Mを含有する油脂は、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中、MS3Mを好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5〜25質量%、さらに好ましくは2.5〜15質量%、最も好ましくは2.5〜10質量%となるよう含有させる。
【0055】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、直接β型の油脂結晶として、1つめの例として挙げた上記StEEの油脂結晶、及び2つめの例として挙げたS1MS2とMS3Mで表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶のどちらを用いてもよく、また両者を併用してもよいが、トランス酸を含まなくても製造できる点で、後者のコンパウンド結晶を使用することがより好ましい。
【0056】
またアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物では、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドを含有するのが好ましい。該3飽和トリグリセリドを含有することにより、直接β型の油脂結晶の含有量が少なくても結晶性が良好であり、且つ、結晶安定性の面で十分に満足の得られるロールイン用油脂組成物を得ることが可能となる。
【0057】
本発明で使用する構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドは、構成脂肪酸の全てが同一の飽和脂肪酸であるトリグリセリドの占める割合が好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であるのがよい。
【0058】
構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド中、構成脂肪酸の全てが同一の飽和脂肪酸であるトリグリセリドの占める割合が60質量%未満である3飽和トリグリセリドを用いた場合、直接β型の油脂結晶の含有量が少ないと、経日的に20μmを越えたサイズを有するβ型結晶が出現しやすく、経日的に硬くなりやすい。尚、構成脂肪酸の全てが同一の飽和脂肪酸であるトリグリセリドの占める上記割合は、高いほど好ましく、その上限は特に制限されるものではない。
【0059】
また、上記の構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドにおいて、その炭素数の上限は、特に制限されるものではないが、通常24程度である。
【0060】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる上記3飽和トリグリセリドの含有量は、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中、油相基準で好ましくは5〜30質量%以下、さらに好ましくは7〜25質量%、最も好ましくは10〜20質量%とする。上記の3飽和トリグリセリドの含有量が、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中、5質量%未満であると、粘りのない物性となりやすく、特に耐熱性に乏しい油脂組成物となってしまう上に、経日的に20μmを越えたサイズを有するβ型結晶が出現しやすく、経日的に硬くなりやすい。また、30質量%超であると、得られる油脂組成物の融点が高くなりすぎ、口溶けが悪くなりやすい。
【0061】
また、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物においては、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドであって、構成脂肪酸が少なくとも2種の飽和脂肪酸からなるトリグリセリドの含有量が、油相中に油相基準で5質量%以下、特に3質量%以下であると、直接β型の油脂結晶の含有量が比較的少ない油脂組成物であっても、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる上記3飽和トリグリセリドをより素早くβ型に転移させることができる点で好ましい。構成脂肪酸が少なくとも2種の飽和脂肪酸からなる上記トリグリセリドの含有量は、できる限り少ないことが好ましい。
【0062】
そして、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、直接β型油脂として、上記のS1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶を使用した場合は、上記構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる上記3飽和トリグリセリド中の、構成脂肪酸の全てが同一の飽和脂肪酸であるトリグリセリドを構成する飽和脂肪酸と、上記コンパウンド結晶のS1、S2及びS3とは同じ飽和脂肪酸であるのが好ましい。
【0063】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、上記構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドの起源としては、構成脂肪酸として炭素数16以上の脂肪酸を多く含有する食用油脂を、極度水素添加した油脂、分別した分別硬部油脂、極度水素添加及び分別した極度水素添加分別硬部油脂、並びにそれらの油脂をエステル交換した油脂のうちの1種又は2種以上を使用することができる。
【0064】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、上記構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドの起源として、上記の極度水素添加した油脂を使用する場合は、構成脂肪酸において、同一炭素数の脂肪酸含量が60質量%以上、好ましくは80質量%以上である大豆油・キャノーラ油・米油・綿実油・コーン油・サフラワー油・ひまわり油・ハイエルシン菜種油などの食用油脂を、ヨウ素価を5以下、好ましくは1以下まで水素添加した極度水素添加油脂を使用することが望ましい。このような極度水素添加油脂を使用すると、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド中、構成脂肪酸の全てが同一の飽和脂肪酸であるトリグリセリドの占める割合が60質量%以上である3飽和トリグリセリドを簡単に得ることができ、しかも、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドであって、構成脂肪酸が少なくとも2種の飽和脂肪酸からなるトリグリセリドの含有量を5質量%以下、好ましくは3質量%以下とすることが容易である。
【0065】
また、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、上記構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドの起源として、上記分別硬部油脂を使用する場合、パームステアリン、パームステアリンのランダムエステル交換油、及びパームステアリンを含む油脂配合物のランダムエステル交換油から選択された1種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0066】
パームステアリンは、パーム油からパームオレインを分別採取する際の副生物として得られる。
【0067】
このパームステアリンは、脂肪酸組成として、飽和脂肪酸であるパルミチン酸を多く含み、上昇融点が44〜56℃、ヨウ素価が20〜50であり、食用油脂としては融点が高いため口溶けが大変悪く、また硬くて使用しづらいため、食用油脂や食品への配合量も限られた量に制限せざるを得ず、油脂組成物、特にマーガリンやショートニング等の可塑性油脂組成物への使用用途は硬さの調整用の用途に限られていた。
【0068】
しかし、パームステアリンを使用したこれらの油脂組成物、特にマーガリンやショートニング等の可塑性油脂組成物や、該可塑性油脂組成物を使用して製造された食品は、保管条件によっては経時的にグレイニングやブルームと呼ばれる粗大結晶粒を形成し、表面が白色化したり、ザラつきや触感の悪さを呈し製品価値の全くないものになってしまう問題があった。
【0069】
本発明で用いるアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物は、このように、可塑性油脂組成物に用いるには不適であるとされていたパームステアリンを使用しながら、良好な可塑性を示し、且つ経日的なブルームを起こさないロールイン用油脂組成である。
【0070】
パームステアリンは、S1MS2を20〜40質量%含有する上に、更に、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドを30〜60質量%含有し、且つ、該3飽和トリグリセリドにおいて、構成脂肪酸の全てがパルミチン酸であるトリグリセリドの占める割合が60質量%以上であるため、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、上記構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドの起源として極めて好適に使用することができる。
【0071】
上記構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドの起源としては、このようなパームステアリンをそのまま使用することができるが、パームステアリンにランダムエステル交換を行なった油脂、更にはパームステアリンにパーム核軟部油やパーム油等の他の油脂を添加してランダムエステル交換した油脂を使用することもでき、また、パームステアリンに、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを添加してランダムエステル交換を行なった油脂を使用することもできる。
【0072】
これらのランダムエステル交換反応を行なうことにより、さらに結晶性が良好で、経日的なブルームを起こさないロールイン用油脂組成物を得ることができる。
【0073】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、上記構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドの起源として、上記パームステアリンを使用する場合は、豚脂、各種エステル交換油等の上記MS3Mを含有する油脂を組みあわせることが好ましい。S1MS2、MS3M、及び上記の3飽和トリグリセリドを少ない油種で簡単に配合することが可能な点で、パームステアリン、パームステアリンのランダムエステル交換油、及びパームステアリンを含む油脂配合物のランダムエステル交換油から選択される1種又は2種以上と、パーム油のランダムエステル交換油、パームオレインのランダムエステル交換油、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油及びパーム中部油のランダムエステル交換油から選択される1種又は2種以上とを組合わせることがさらに好ましい。
【0074】
さらに結晶性が良好で、コシが強く良好なロールイン用油脂組成物を得ることができる点から、パームステアリン、パームステアリンのランダムエステル交換油、及びパームステアリンを含む油脂配合物のランダムエステル交換油から選択される1種又は2種以上と、パームオレイン、パームスーパーオレイン等のパーム系軟部油から選択される1種または2種以上のランダムエステル交換油とを組み合わせることが最も好ましい。
【0075】
また、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、直接β型の結晶となる油脂や構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドを含む油脂以外にその他の油脂を用いても良い。その他の油脂を用いる場合、その他の油脂の含有量は、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相中、好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下、最も好ましくは70質量%以下とする。その他の油脂としては、通常の加工食品に用いられる食用油脂であれば、特に限定されず、動物油、植物油等の天然油、及びこれらの油脂の硬化油、分別油、エステル交換油、ランダムエステル交換油等の単独あるいは混合油が使用出来る。
【0076】
ここで、あるロールイン用油脂組成物が、直接β型の油脂結晶を含有していることを確認する方法について述べる。
まず、第1の方法として、あるロールイン用油脂組成物の油相のトリグリセリド組成を分析し、直接β型の油脂結晶となるトリグリセリド、例えば、StEE、又はS1MS2及びMS3Mの油相中の含有量を測定し、直接β型の油脂結晶となるトリグリセリドが油相中に含有されていること、好ましくはその含有量が前記範囲内にあることを確認することにより、ロールイン用油脂組成物が直接β型の油脂結晶を含有していることを確認する方法が挙げられる。
【0077】
また、第2の方法として、油相中に上記直接β型の油脂結晶となるトリグリセリド、例えば、StEE、又はS1MS2及びMS3Mを含有している油脂が配合されていること、好ましくは上記StEE、又はS1MS2及びMS3Mが油相中に前記範囲内の含有量となるように配合されていることを確認する方法が挙げられる。
【0078】
更に、より簡単な方法である第3の方法として、あるロールイン用油脂組成物の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることを確認することによって、ロールイン用油脂組成物が直接β型の油脂結晶を含有していることを確認する方法が挙げられる。
【0079】
なお、第3の方法において、ロールイン用油脂組成物の油相の油脂結晶が下に示すような微細結晶であることが確認された場合は、油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることを確認することによって、直接β型の油脂結晶を含有していることを確認することができる。この場合、5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが好ましいが、5℃で4日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることがさらに好ましく、5℃で1日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが一層好ましく、5℃で1時間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることがさらに一層好ましく、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが最も好ましい。
【0080】
上記の第3の方法において、あるロールイン用油脂組成物中の直接β型の油脂結晶の含有量が多いほど、5℃での保持時間が短くても、得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶となる。
【0081】
上記の第3の方法において、5℃での保持期間後に得られた油脂結晶がβ型結晶であることを判断する方法としては、X線回析測定において、以下のように短面間隔を測定することにより判断できる。
【0082】
具体的には、油脂結晶について、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する強い回析ピークを示した場合に、該油脂結晶はβ型結晶であると判断する。さらにより高い精度で測定する場合は、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度1)及び4.2〜4.3オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比が1.3以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは2.2以上、最も好ましくは2.5以上となった場合にβ型結晶であると判断する。
【0083】
また、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相の油脂結晶は、トリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造であることが好ましい。この2鎖長構造であることを確認する方法としては、例えばX線回析測定による方法が挙げられる。
【0084】
具体的には、油脂結晶について、長面間隔を2θ:0〜8度の範囲で測定し、40〜50オングストロームに相当する回折ピークを示した場合に、該油脂結晶は2鎖長構造をとっていると判断する。
【0085】
また、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相の油脂結晶は、微細結晶であることが好ましい。上記の微細結晶とは、油脂の結晶が微細であることであり、口にしたり、触った際にもザラつきを感ずることのない結晶であることを意味し、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm、最も好ましくは3μm以下のサイズの油脂結晶を指す。上記サイズとは、結晶の最大部位の長さを示すものである。
【0086】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相の油脂結晶のサイズが20μmを越えた油脂結晶であると、ロールイン用油脂組成物を口にしたり触った際にザラつきを感じやすく、また、液状油成分を保持することが困難となり、ロールイン用油脂組成物が油にじみを起こしやすく、水相成分及び油脂結晶により形成される3次元構造中に維持できにくくなる。
【0087】
また、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物は、実質的にトランス酸を含まない方が好ましい。水素添加は、油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、水素添加油脂は、完全水素添加油脂を除いて、通常構成脂肪酸中にトランス酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものも要求されている。ここで、「実質的にトランス酸を含まない」とは、ロールイン用油脂組成物の全構成脂肪酸中、トランス酸が好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下であることをいう。
【0088】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物は、直接β型結晶を得る際に、StEEではなく、S1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶を使用し、S1MS2やMS3Mを含有する油脂として、上述したように、植物油脂や、植物油脂のエステル交換油脂を使用することにより、簡単に、実質的にトランス酸を含まないロールイン用油脂組成物を得ることができる。
【0089】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物は、水分を好ましくは2〜70質量%、さらに好ましくは5〜50質量%、最も好ましくは30〜50質量%含有する。なお、ここでいう水分とは水道水や天然水などの水や、牛乳、液糖などの水分も含めたものとする。
【0090】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲においてその他の成分を含有することができる。
その他の成分としては、例えばアセスルファムカリウム以外の甘味料、乳化剤、増粘安定剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、ココアマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0091】
上記のアセスルファムカリウム以外の甘味料としては、例えば、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、ソーマチン、サッカリン等が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
上記のアセスルファムカリウム以外の甘味料の含有量は特に制限はないが、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、アセスルファムカリウム以外の甘味料の含有量が、アセスルファムカリウムの含有量の好ましくは0.01〜5倍、さらに好ましくは0.05〜4倍、最も好ましくは0.01〜3倍となるように含有させるのが良い。
【0092】
上記の乳化剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0093】
上記の乳化剤の含有量は特に制限はないが、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物中、好ましくは0〜15質量%、さらに好ましくは0〜10質量%、最も好ましくは0〜5質量%である。
【0094】
特にアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物では健康志向や風味の点で、上記の合成乳化剤を用いないのが好ましく、合成乳化剤や天然乳化剤を用いないのがさらに好ましい。
【0095】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0096】
上記増粘安定剤の含有量は、特に制限はないが、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物中、好ましくは0〜10質量%、さらに好ましくは0〜5質量%である。なお、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において、上記増粘安定剤が必要でなければ、増粘安定剤を用いなくてもよい。
【0097】
次にアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の製造方法について説明する。
【0098】
まず油脂に必要によりその他の成分を添加し、油相とする。また水に必要によりその他の成分を添加し、水相とする。アセスルファムカリウムは上記の油相または水相に添加するが、水相に添加するほうが好ましい。アセスルファムカリウムを油相に添加すると溶解せず、局在化してしまうため、甘みを直接感じてしまい、良好な甘味を有する層状ベーカリー製品を得にくい。
【0099】
そして上記の油相を必要により加熱溶解し、水相を加え、乳化し、予備乳化物とする。
なおアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相と水相の比率は、好ましくは油相30〜98質量%、水相2〜70質量%、さらに好ましくは油相50〜95質量%、水相5〜50質量%、さらに好ましくは油相50〜70質量%、水相30〜50質量%である。
【0100】
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物において油相が30質量%よりも少なく水相が70質量%よりも多いと乳化が不安定となりやすい。また、油相が98質量%よりも多く、水相が2質量%よりも少ないとアセスルファムカリウムを水相に溶解することが困難となりやすい。
【0101】
そしてアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また殺菌温度は好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは80〜95℃、最も好ましくは80〜90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は好ましくは40〜60℃、さらに好ましくは40〜55℃、最も好ましくは40〜50℃とする。
【0102】
次に急冷可塑化を行なう。この急冷可塑化は、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機などが挙げられ、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターを組み合わせが挙げられる。この急冷可塑化を行なうことにより、良好な可塑性を有するロールイン用油脂組成物とすることができる。
【0103】
これらの装置の後に、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
また、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、含気させなくても構わない。
なお、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の乳化形態は油中水型、水中油型、二重乳化の何れでも構わないが、油中水型であるのが好ましい。
アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の油相の10℃における固体脂含量(SFC)は、好ましくは80%以下、さらに好ましくは5〜70%、最も好ましくは10〜60%とするのがよい。
【0104】
またアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物は、シート状、ブロック状、直方体、円柱状、半円柱状、球状等の形状としてもよい。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ1〜50mm、ブロック状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ50〜500mm、直方体:縦5〜50mm、横5〜50mm、高さ5〜100mm、円柱状や半円柱状:直径1〜25mm、長さ5〜100mm、球状:直径35mm以下である。
【0105】
次に本発明で用いるベーカリー生地について説明する。
本発明で用いるベーカリー生地としては、デニッシュペストリー生地、パイ生地等をあげることができる。
【0106】
本発明で用いるベーカリー生地は穀粉類を含有する。穀粉類としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉、胚芽、ライ麦粉、コーンフラワー、米粉等が挙げられ、好ましくは、強力粉と薄力粉を併用するか、又は強力粉のみを使用する。
【0107】
本発明で用いるベーカリー生地は水を含有する。上記の水としては水道水や天然水などの水や、牛乳、液糖などの水分も含めたものとする。
本発明のベーカリー生地の水の含有量は、上記穀粉類100質量部に対し、好ましくは30〜60質量部、さらに好ましくは38〜55質量部、最も好ましくは40〜53質量部である。本発明で用いるベーカリー生地において上記穀粉類100質量部に対し、水の含有量が30質量部よりも少ないと、均質な生地となりにくく、また、水の含有量が60質量部よりも多いと、圧延時の安定性が低くなることに加え、層剥れや焼成時の反りが起こりやすい。
【0108】
本発明のベーカリー生地で含有させることができるその他の材料としては、練り込み用油脂、乳化剤、糖類や糖アルコール類、甘味料、乳製品、卵類、増粘安定剤、澱粉類、デキストリン、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、イースト、イーストフード、膨張剤、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白、大豆蛋白、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエイプロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン等の蛋白、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、果物、ハーブ、コーヒー、チョコレート、ナッツ類、ナッツペースト、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウオッカ・ブランデーなどの蒸留酒、ワイン・日本酒・ビールなどの醸造酒、各種リキュール、コンソメ・ブイヨンなどの植物及び動物エキス、抹茶、紅茶、食塩、香辛料、ココアマス、ココアパウダー、ジャム、フルーツソース、豆腐、黄な粉、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0109】
上記のその他の材料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくは、本発明のベーカリー生地で用いる上記穀粉類100質量部に対して合計で80質量部以下となる範囲で使用する。
【0110】
上記練り込み用油脂としては、例えば、ショートニング、マーガリン、バター等の可塑性油脂組成物が挙げられ、本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。本発明では該可塑性油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0111】
本発明で用いるベーカリー生地において練り込み用油脂の含有量は、上記穀粉類100質量部に対し、好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは3〜25質量部、最も好ましくは5〜20質量部である。
【0112】
上記乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、乳脂肪球皮膜蛋白質等の合成乳化剤でない乳化剤を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。また、本発明では、上記の合成乳化剤及び/または合成乳化剤でない乳化剤が必要でなければ、用いないことも可能である。
【0113】
上記糖類や糖アルコールとしては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、はちみつ、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、還元乳糖、ソルビトール、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、トレハロース等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0114】
上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム、ソーマチン、サッカリン等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0115】
上記乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリーム、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、ヨーグルト等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0116】
上記卵類としては、全卵、生卵黄、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0117】
上記増粘安定剤としては、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、ペクチン、プルラン、タマリンドシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、ファーセルラン、タラガム、カラヤガム、トラガントガム、ジェランガム、大豆多糖類等を用いることができる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0118】
本発明で用いるベーカリー生地の製造方法は、特に制限はなく、例えば速成法、ストレート法、中種法、液種法、サワー種法、酒種法、ホップ種法、中麺法、チョリーウッド法、連続製パン法、冷蔵生地法等の製パン法を適宜選択して製造することができる。前記冷凍生地法は、混涅直後に冷凍する板生地冷凍法、分割丸め後に生地を冷凍する玉生地冷凍法、成型後に生地を冷凍する成型冷凍法、最終発酵(ホイロ)後に生地を冷凍するホイロ済み冷凍法等の種々の方法が採用できる。
【0119】
本発明の複合積層状ベーカリー生地は上記のような呈味材、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成される。
本発明の複合積層状ベーカリー生地において、呈味材の層数は、好ましくは2〜18層、さらに好ましくは4〜16層、最も好ましくは6〜12層である。複合積層状ベーカリー生地において呈味材の層数が、2層よりも少ないと呈味材の風味が均一になりにくく、食感が不均一となりやすい。複合積層状ベーカリー生地において呈味材の層数が、18層よりも多いと内層が積層状になりにくく、食パンに代表されるようなパンの目となりやすいため、歯切れの良い食感となりにくい。
【0120】
本発明の複合積層状ベーカリー生地において、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の層数は、好ましくは8〜48層、さらに好ましくは16〜36、最も好ましくは18〜27層である。複合積層状ベーカリー生地においてアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の層数が、8層よりも少ないとしっとりとした食感となりにくく、歯切れの悪いベーカリー製品となりやすい。複合積層状ベーカリー生地においてアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の層数が、27層よりも多いと内層が積層状になりにくく、食パンに代表されるようなパンの目となりやすいため、歯切れの良い食感となりにくい。
【0121】
次に本発明の複合積層状ベーカリー生地の製造方法を説明するが、ストレート法でベーカリー生地を製造し、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物、呈味材と組み合わせて製造した例を挙げて、具体的に説明する。
【0122】
まず、ベーカリー生地を製造する。ミキサーボールに練り込み用油脂以外のベーカリー生地の材料を入れ、フックを用い、縦型ミキサーにてミキシングを行う。途中で練り込み用油脂を入れ、さらにミキシングを行い、生地を調製する。そしてフロアタイムをとり、リタードを行なう。リタードは冷凍庫(温度は−10〜−20℃)にて行なうのが好ましい。
【0123】
得られたベーカリー生地でアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物を包み、圧延、折り畳みを行なう。アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物の層数が、好ましくは2〜27層、さらに好ましくは3〜20層、最も好ましくは4〜16層となるように、折り畳みを行ない、積層物を得る。
【0124】
そして、得られた積層物で、呈味材を包み、圧延、折り畳みを行なう。呈味材の層数が好ましくは2〜18層、さらに好ましくは4〜16層、最も好ましくは6〜12層となるように、折り畳みを行なう。
【0125】
そして成形、必要によりホイロをとり、本発明の複合積層状ベーカリー生地を得る。
得られた複合積層状ベーカリー生地を焼成することにより、本発明の層状ベーカリー製品を得ることができる。
【実施例】
【0126】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。またS:飽和脂肪酸、M:モノ不飽和脂肪酸を示す。
【0127】
(ロールイン用油脂組成物1の調製)
パームオレインのランダムエステル交換油62.4質量部、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油10.4質量部、パームステアリン5.2質量部、大豆油22質量部で配合した混合油を溶解し、この油相69.87質量部に、水30質量部にアセスルファムカリウム0.13質量部を溶解した水相を加えて予備乳化し、85℃で殺菌した。そして50℃まで予備冷却した。
次に6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。
その後、サイズが縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、乳化型が油中水型で、油相の10℃のSFCが45%であるロールイン用油脂組成物1を得た。
得られたロールイン用油脂組成物1は、ナトリウムを実質的に含まず、ナトリウム/カリウムの質量比率は0.01以下であった。
【0128】
得られたロールイン用油脂組成物1の油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。ロールイン用油脂組成物1の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折ピークを示し、また、4.6オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度1)及び4.2オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比をとったところ3となり、この油脂結晶はβ型をとることが確認され、ロールイン用油脂組成物1は直接β型の油脂結晶を含有していることがわかった。さらに、この油脂結晶について、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、46オングストロームに相当する回折ピークが得られ、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認された。また、光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。
【0129】
また、得られたロールイン用油脂組成物1の油相中において、SMSで表されるトリグリセリド(以下SMSという)の含有量は8質量%で、MSMで表されるトリグリセリド(以下MSMという)の含有量は5.9質量%であり、MSM/SMSのモル比は0.7であった。
【0130】
そしてSMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は11.8質量%であり、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドの含有量は8.9質量%であった。また、トリパルミトイルグリセロールは、全組成中6.7質量%であり、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリドの内で75質量%を占めていた。
また、ガスクロマトグラフで測定したところ、ロールイン用油脂組成物1の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は1質量%未満であった。
【0131】
(ロールイン用油脂組成物2の調製)
パームオレインのランダムエステル交換油62.4質量部、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油10.4質量部、パームステアリン5.2質量部、大豆油22質量部で配合した混合油を溶解し、この油相69.95質量部に、水30質量部にアセスルファムカリウム0.03質量部及びスクラロース0.02質量部を溶解した水相を加えて予備乳化し、85℃で殺菌した。そして50℃まで予備冷却した。
次に6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。
その後、サイズが縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、乳化型が油中水型のロールイン用油脂組成物2を得た。
得られたロールイン用油脂組成物2は、ナトリウムを実質的に含まず、ナトリウム/カリウムの質量比率は0.01以下であった。
【0132】
(ロールイン用油脂組成物3の調製)
パームオレインのランダムエステル交換油62.4質量部、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油10.4質量部、パームステアリン5.2質量部、大豆油22質量部で配合した混合油を溶解し、この油相70質量部に、水相として水30質量部を加えて予備乳化し、85℃で殺菌した。そして50℃まで予備冷却した。
次に6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。
その後、サイズが縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、乳化型は油中水型乳化のロールイン用油脂組成物3を得た。
得られたロールイン用油脂組成物3は、ナトリウムを実質的に含まず、ナトリウム/カリウムの質量比率は0.01以下であった。
【0133】
(実施例1)
(デニッシュペストリーの配合)
強力粉 70 質量部
薄力粉 30 質量部
イースト 5 質量部
イーストフード 0.1 質量部
上白糖 15 質量部
食塩 1.2 質量部
脱脂粉乳 3 質量部
全卵 6 質量部
練り込み用油脂(マーガリン) 8 質量部
水 47 質量部
ロールイン用油脂組成物1 50 質量部
呈味材(水分40質量%のフラワーペースト)
30 質量部
【0134】
(デニッシュペストリーの製法)
練り込み用油脂とロールイン用油脂組成物1とフラワーペースト以外の材料をミキサーボールに入れ、フックを用い、縦型ミキサーにてL3、M2にてミキシングを行ない、練り込み用油脂を入れ、さらにL3、M3、H2にてミキシングを行ない、ベーカリー生地を調製した。そしてフロアタイムを20分とり、−10℃の冷凍庫で24時間リタードさせた。
【0135】
次にこのベーカリー生地でロールイン用油脂組成物1を包み、3つ折り2回行った。
得られたベーカリー生地とロールイン用油脂組成物1からなる生地でフラワーペーストを包み、4つ折りを1回行なった。最終生地厚は7ミリとした。
得られた複合積層状ベーカリー生地を縦10センチ、横10センチの大きさに切断した。ホイロは34℃で、60分行った。なお、複合積層状ベーカリー生地において、ロールイン用油脂組成物1は36層、フラワーペーストは4層であった。
この複合積層状ベーカリー生地を190℃、18分にて焼成し、本発明の層状ベーカリー製品であるデニッシュペストリーを得た。
得られたデニッシュペストリーの評価を表1に示した。
【0136】
(実施例2)
ロールイン用油脂組成物1の代わりにロールイン用油脂組成物2を用いた以外は、実施例1と同様の配合と製法にて、デニッシュペストリーを得た。
得られたデニッシュペストリーの評価を表1に示した。
【0137】
(比較例1)
ロールイン用油脂組成物1の代わりにロールイン用油脂組成物3を用いた以外は、実施例1と同様の配合と製法にて、デニッシュペストリーを得た。
得られたデニッシュペストリーの評価を表1に示した。
【0138】
(比較例2)
(デニッシュペストリーの配合)
強力粉 70 質量部
薄力粉 30 質量部
イースト 5 質量部
イーストフード 0.1 質量部
上白糖 15 質量部
食塩 1.2 質量部
脱脂粉乳 3 質量部
全卵 6 質量部
練り込み用油脂(マーガリン) 8 質量部
水 47 質量部
ロールイン用油脂組成物2 50 質量部
【0139】
(デニッシュペストリーの製法)
練込み用油脂とロールイン用油脂組成物2以外の原料をミキサーボールに入れ、フックを用い、縦型ミキサーにてL3、M2にてミキシングを行ない、練り込み用油脂を入れ、さらにL3、M3、H2にてミキシングを行ない、ベーカリー生地を調製した。そしてフロアタイム20分とり、−10℃の冷凍庫で24時間リタードさせた。
次にこのベーカリー生地でロールイン用油脂組成物2を包み、3つ折りを2回、そして4つ折りを1回行なった。最終生地厚は7ミリとした。
このベーカリー生地とロールイン用油脂組成物2からなる生地を縦10センチ、横10センチの大きさに切断した。ホイロは34℃で、60分行った。なお、ベーカリー生地とロールイン用油脂組成物2からなる生地において、ロールイン用油脂組成物2は36層であった。
このベーカリー生地とロールイン用油脂組成物2からなる生地を190℃、18分にて焼成し、デニッシュペストリーを得た。
得られたデニッシュペストリーの評価を表1に示した。
【0140】
(比較例3)
ロールイン用油脂組成物2の代わりにロールイン用油脂組成物3を用いた以外は、比較例2と同様の配合と製法にて、デニッシュペストリーを得た。
得られたデニッシュペストリーの評価を表1に示した。
【0141】
(実施例3)
(デニッシュペストリーの配合)
強力粉 70 質量部
薄力粉 30 質量部
イースト 5 質量部
イーストフード 0.1 質量部
上白糖 15 質量部
食塩 1.2 質量部
脱脂粉乳 3 質量部
全卵 6 質量部
練り込み用油脂(マーガリン) 8 質量部
水 47 質量部
ロールイン用油脂組成物1 30 質量部
呈味材(水分30質量%のマロンペースト)
40 質量部
【0142】
(デニッシュペストリーの製法)
練込み用油脂とロールイン用油脂組成物1とマロンペースト以外の原料をミキサーボールに入れ、フックを用い、縦型ミキサーにてL3、M2にてミキシングを行ない、練り込み用油脂を入れ、さらにL3、M3、H2にてミキシングを行ない、ベーカリー生地を調製した。そしてフロアタイム20分とり、−10℃の冷凍庫で24時間リタードさせた。
次にこのベーカリー生地でロールイン用油脂組成物1を包み、3つ折りを2回行った。
得られたベーカリー生地とロールイン用油脂組成物1からなる生地でマロンペーストを包み、4つ折りを1回行なった。最終生地厚は7ミリとした。
得られた複合積層状ベーカリー生地を縦10センチ、横10センチの大きさに切断した。ホイロは34℃で、60分行った。なお、複合積層状ベーカリー生地において、ロールイン用油脂組成物1は36層、マロンペーストは4層であった。
この複合積層状ベーカリー生地を190℃、18分にて焼成し、本発明の層状ベーカリー製品であるデニッシュペストリーを得た。
得られたデニッシュペストリーの評価を表1に示した。
【0143】
(実施例4)
ロールイン用油脂組成物1の代わりにロールイン用油脂組成物2を用いた以外は、実施例3と同様の配合と製法にて、デニッシュペストリーを得た。
得られたデニッシュペストリーの評価を表1に示した。
【0144】
【表1】

【0145】
(評価基準)
歯切れ ◎:とてもよい、〇:よい、×:悪い
しっとりさ ◎:とてもよい、〇:よい、×:悪い
甘味 ◎:とてもよい、〇:よい、×:悪い
実施例1では、呈味材であるフラワーペースト、アセスルファムカリウムを含有したロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成された複合積層状ベーカリー生地を製造した。これを焼成して得られた層状ベーカリー製品は、ふんわりとして歯切れがとてもよく、とてもしっとりしており、甘味もよいものが得られた。
【0146】
実施例2では、呈味材であるフラワーペースト、アセスルファムカリウムとスクラロースを含有したロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成された複合積層状ベーカリー生地を製造した。これを焼成して得られた層状ベーカリー製品は、ふんわりとして歯切れがとてもよく、とてもしっとりしており、甘味もとてもよいものが得られた。
【0147】
比較例1では、呈味材であるフラワーペースト、アセスルファムカリウムを含有しないロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成された複合積層状ベーカリー生地を製造した。これを焼成して得られた層状ベーカリー食品は歯切れとしっとりさはよいが、実施例よりも劣っていた。また良好な甘みを全く感じることができないものであった。
【0148】
比較例2では、呈味材を使用せず、アセスルファムカリウムとスクラロースを含有したロールイン用油脂組成物とベーカリー生地で構成された複合積層状ベーカリー生地を製造した。これを焼成して得られた層状ベーカリー製品は、歯切れが悪く、しっとりさが全く得られなかったが、甘味がとてもよいものが得られた。
【0149】
比較例3では、呈味材を使用せず、アセスルファムカリウムを含有しないロールイン用油脂組成物とベーカリー生地で構成された複合積層状ベーカリー生地を製造した。これを焼成して得られた層状ベーカリー製品は、歯切れが悪く、しっとりさが全く得られず、良好な甘味を全く感じることができないものであった。
【0150】
実施例3では、呈味材であるマロンペースト、アセスルファムカリウムを含有したロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成された複合積層状ベーカリー生地を製造した。これを焼成して得られた層状ベーカリー製品は、ふんわりとして歯切れがとてもよく、とてもしっとりしており、甘味もよいものが得られた。
【0151】
実施例4では、呈味材であるマロンーペースト、アセスルファムカリウムとスクラロースを含有したロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成された複合積層状ベーカリー生地を製造した。これを焼成して得られた層状ベーカリー製品は、ふんわりとして歯切れがとてもよく、とてもしっとりしており、甘味もとてもよいものが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呈味材、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物及びベーカリー生地で構成されることを特徴とする複合積層状ベーカリー生地。
【請求項2】
呈味材の水分含量が10〜60質量%である請求項1記載の複合積層状ベーカリー生地。
【請求項3】
ベーカリー生地で用いる穀粉類100質量部に対して、呈味材を10〜70質量部、アセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物を10〜70質量部配合する請求項1または2記載の複合積層状ベーカリー生地。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の複合積層状ベーカリー生地を焼成した層状ベーカリー製品。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載の複合積層状ベーカリー生地を製造する方法であって、ベーカリー生地でアセスルファムカリウムを含有するロールイン用油脂組成物を包み、圧延、折りたたみを行い、積層物を製造し、この積層物で呈味剤を包み、圧延、折りたたみを行なう複合積層状ベーカリー生地の製造方法。