説明

複合粒子の製法

【課題】 酸化亜鉛を熱可塑性樹脂中に均一に分散させる分散方法、及び高い透明性と紫外線遮蔽性を併せ持つ複合粒子の製造方法の提供。
【解決手段】 酸化亜鉛の熱可塑性樹脂への分散方法であって、振動式撹拌機を用いて、酸化亜鉛を溶融状態の熱可塑性樹脂に混合して分散させる分散方法、並びにこの分散方法で酸化亜鉛を熱可塑性樹脂へ分散させて得られる熱溶融混合物を、熱可塑性樹脂の融点より10℃低い温度以上で冷媒中に噴霧して冷却固化する複合粒子の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛の熱可塑性樹脂への分散方法、及び優れた紫外線遮蔽性と透明性を有する、酸化亜鉛と熱可塑性樹脂との複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オゾン層が一部、破壊されていることによって、地表に到達する紫外線量の増加が問題にされており、従来に増して、効果の高い日焼け止め化粧料が要望されている。従来、このような日焼け止め化粧料における紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、安息香酸系、メトキシケイ皮酸系等の有機化合物が用いられているが、これら有機化合物では、広い範囲の波長域の紫外線を吸収することができないことや、皮膚への刺激性の問題等から、より安全な紫外線遮蔽剤が求められている。
【0003】
地表に到達する紫外線には、水疱、紅斑等の炎症(所謂日焼け)を起こす短波長の紫外線(B領域:280〜320nm)に加え、より長波長の紫外線(A領域:320〜400nm)が相乗して、皮膚の老化や発癌性を引き起こすことが明らかにされており、近年、特に、A領域の紫外線の遮蔽に大きな関心がもたれている。
【0004】
ところで、酸化亜鉛は、本来、380nm付近に鋭い吸収端を有するので、A領域の紫外線に対する遮蔽効果が高いが、更に、その後になって、超微粒子酸化亜鉛が開発され、この超微粒子酸化亜鉛は、B領域からA領域の広い波長域にわたる紫外線を遮蔽するのみならず、超微粒子ルチル型酸化チタンが屈折率2.7を有するところ、超微粒子酸化亜鉛は屈折率が2.0と小さく、透明性に優れているので、紫外線遮蔽剤として注目されている。
【0005】
他方、一般に微粒子はそのままでは凝集体を形成し易い。そのため微粒子をモノマー中に分散後モノマーを重合して固定化したり、微粒子を溶融樹脂中に混練分散後に樹脂を固化して固定化したりする事が行われている。
【0006】
特許文献1には懸濁重合法あるいは乳化重合法による金属酸化物を含むポリマー微粒子の製造方法が開示されているが、金属酸化物の凝集を防止するために重合時に分散剤を必要としている。
【0007】
特許文献2にも乳化重合法による金属酸化物を含むポリマー微粒子の製造方法が開示されているが、重合時にノニオン系界面活性剤とアニオン系界面活性剤の混合界面活性剤を必要としている。
【特許文献1】特許第3205249号明細書
【特許文献2】特開平04−132702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、酸化亜鉛を熱可塑性樹脂中に均一に分散させる分散方法、及び高い透明性と紫外線遮蔽性を併せ持つ複合粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、酸化亜鉛の熱可塑性樹脂への分散方法であって、振動式撹拌機を用いて、酸化亜鉛を溶融状態の熱可塑性樹脂に混合して分散させる分散方法、並びにこの分散方法で酸化亜鉛を熱可塑性樹脂へ分散させて得られる熱溶融混合物を、熱可塑性樹脂の融点より10℃低い温度以上で冷媒中に噴霧して冷却固化する複合粒子の製法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、熱可塑性樹脂中に酸化亜鉛を均一に分散させることができ、また本発明の方法により得られる複合粒子は高い透明性と紫外線遮蔽性を併せ持つことができ、紫外線遮蔽用化粧料に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[熱可塑性樹脂]
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、酸化亜鉛の表面活性を抑制する観点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0012】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテン、ポリブタジエン等のオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体等のオレフィン共重合体等が挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素原子を有するポリオレフィンも用いることができる。これらのポリオレフィン系樹脂の中では、ポリエチレンが特に好ましい。ポリエチレンとしては、酸化亜鉛の分散性を良くする観点から、酸変性物が有効である。
【0013】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、分子量が500〜20000であるものが好ましく、1000〜10000であるものが更に好ましい。熱可塑性樹脂の分子量は、粘度法により求めることが出来る。
【0014】
熱可塑性樹脂の融点(又は軟化温度)は、複合粒子の製造しやすさの観点から、80℃以上が好ましく、100℃以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、製造の容易さから、200℃以下が好ましい。熱可塑性樹脂の融点は、JIS K0064:1992により測定できる。
【0015】
[酸化亜鉛]
本発明に用いられる酸化亜鉛は、粒径0.001〜0.1μmの酸化亜鉛が、紫外線遮蔽性を得るために好ましい。また、酸化亜鉛表面を予め疎水化処理した酸化亜鉛を用いると、熱可塑性樹脂との混練性を高めることが出来るため好ましい。酸化亜鉛の表面処理方法としては、オルガノポリシロキサンによる表面処理等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0016】
[分散方法]
本発明の分散方法は、振動式撹拌機を用いて、酸化亜鉛を溶融状態の熱可塑性樹脂に混合して分散させる方法である。
本発明においては、まず熱可塑性樹脂と酸化亜鉛を予備混合することが好ましい。予備混合は特に限定されないが、熱可塑性樹脂の融点以上の温度で撹拌加熱槽等を用いて行うことができる。
【0017】
溶融混合物中の熱可塑性樹脂と酸化亜鉛の割合は、本発明の分散方法への適性と紫外線遮蔽効果の観点から、熱可塑性樹脂/酸化亜鉛(重量比)が、99/1〜30/70が好ましく、90/10〜50/50が更に好ましく、80/20〜60/40が特に好ましい。
【0018】
次に、予備混合で得られる混合物を、振動式撹拌機を用い、熱可塑性樹脂中に酸化亜鉛を一次粒子に近い状態で分散するように混合することが、優れた紫外線遮蔽性、透明性を得るために望ましい。振動式撹拌機を用いることにより、広い粘度範囲において短時間で均一な混合ができる。振動式撹拌機としてはバイブロミキサー(冷化工業(株)製)等が挙げられる。
【0019】
振動式攪拌機の一例を図1に示す。この振動式攪拌機はハウジング1の上部に振動源(図では省略)を有し、撹拌体2に軸方向に沿って上下振動を与える。ハウジング1の内部には、エレメントシャフト3の周囲に振動エレメント4を螺旋状に形成した攪拌体2が挿入され、振動源に連結されている。また、ハウジング1は仕切板5によって軸方向に沿って複数の混合室に区分されており、各混合室に振動エレメント4が配置されている。
予備混合物はハウジング1の下端部の供給口6から供給し、酸化亜鉛が熱可塑性樹脂中に均一に分散した混合物はハウジング1の上部の排出口7から排出される。
【0020】
予備混合物は振動式攪拌機に連続供給しても、間歇供給してもよいが、予備混合物を連続供給して、連続操作で混合して均一に分散させることが好ましい。攪拌体2の軸方向の振幅は4〜10mmが好ましい。振動数は5〜50回/秒が好ましく、20〜40回/秒がより好ましい。振動式撹拌機中の混合物の滞留時間は、2〜60秒が好ましく、5〜30秒がより好ましい。このように短い滞留時間で混合を行うことで、ポリマー鎖の切断を防止することができる。混合物の滞留時間は、予備混合物の供給量を変えることにより運転中に変えることもできる。
【0021】
混合温度は熱可塑性樹脂の融点より10℃低い温度以上が好ましい。上限は特に限定されないが、粘度が高いほうが酸化亜鉛が均一に分散されることから、200℃以下が好ましい。
【0022】
[複合粒子の製法]
上記のような本発明の分散方法で得られる溶融混合物から複合粒子を製造する方法としては、粉砕法、噴霧冷却法等が挙げられ、粒度分布が均一な球状の複合粒子を得る観点から噴霧冷却法が好ましい。
噴霧冷却法は熱溶融混合物を冷媒中に噴霧して冷却固化する方法であり、このような方法で得られた複合粒子は、粒子表面にクラックや孔が生じにくく、酸化亜鉛と外界を遮蔽することが可能である。
【0023】
熱溶融混合物は、熱可塑性樹脂の融点より10℃低い温度以上で冷媒中に噴霧することが好ましい。
噴霧冷却法では2流体以上の複数流体ノズルを使用して行うことができる。熱溶融混合物は圧縮ガスと共に、冷媒中に噴霧し冷却固化して、複合粒子を回収する。冷媒温度は5〜50℃が好ましく、冷媒としては、特に気相が好ましい。流体として使用する圧縮アシストガスは、好ましくは9.8×104Pa以上、更に好ましくは9.8×104〜29.4×104Paの圧縮空気や圧縮窒素を用いることができる。アシストガスは、噴霧温度以上に加熱したものを使用することが、ノズル部での冷却によるつまりを防止し、連続的に粒子を製造できるため、好ましい。
【0024】
熱溶融混合物をノズルで噴霧する際のアシストガス/溶融混合物の容量比は微粒子を得る観点から100/1以上が好ましく、1000/1以上が更に好ましい。容量比の上限は特にないが、経済性の観点から100000/1以下が好ましい。
【0025】
噴霧温度は、良好な噴霧性を得る観点から、熱可塑性樹脂と酸化亜鉛との混合物の粘度が好ましくは800mPa・s以下、更に好ましくは300mPa・s以下、特に好ましくは100mPa・s以下になる温度である。下限は特に無いが、10mPa・s以上となる温度が好ましい。
【0026】
噴霧に用いる溶融混合物は、混練しない状態で固化、加熱溶融を行うと分散した酸化亜鉛が再凝集しやすいため、混練後に固化させずに速やかに噴霧することが好ましい。
【0027】
[複合粒子]
本発明の複合粒子は、酸化亜鉛と熱可塑性樹脂を主成分とするもので、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分、例えば無機及び有機顔料、有機染料等の色材、界面活性剤、シリコーン化合物あるいは酸化防止剤等を含有しても良い。
【0028】
複合粒子中の熱可塑性樹脂と酸化亜鉛の割合は、紫外線遮蔽効果の観点から、熱可塑性樹脂/酸化亜鉛(重量比)が、99/1〜30/70が好ましく、90/10〜50/50が更に好ましく、80/20〜60/40が特に好ましい。
【0029】
本発明の複合粒子の体積平均粒径は、ざらつき感やきしみ感を抑制する観点から、1〜10μmが好ましく、2〜8μmが更に好ましい。
【0030】
ここで体積平均粒径は、コールターカウンター(装置名:ベックマンコールター社製,LS−230)を用いて、エタノール中で測定した値である。
【0031】
本発明の複合粒子は、優れた紫外線遮蔽性と透明性を両立していることが好ましい。この評価の尺度としては、可視光領域である550nmの波長と、紫外線領域である350nmの波長の透過率の差分ΔTを用いることが有効である。ΔTが大きいほど優れた紫外線遮蔽性と透明性を併せ持つ性質であるといえる。
本発明の複合粒子は、以下の実施例に示す方法で測定した550nmと350nmの波長における透過率の差ΔT2が、35%以上のものが好ましく、40%以上のものが更に好ましい。
【実施例】
【0032】
例中のポリオレフィン系樹脂の融点は、JIS K0064:1992により測定した値である。
【0033】
実施例1
ポリオレフィン系樹脂としてポリワックスPW−2000(東洋ペトロライト(株)製、ポリエチレン、分子量2000、融点126℃)、酸化亜鉛としてFINEX−50S−LP2(平均一次粒径0.02μm、堺化学(株)製)を、ポリエチレン/酸化亜鉛の重量混合比70/30で混合し、バイブロミキサー(VM−35、冷化工業(株)製)を用いて、振動数30回/秒、混合温度170℃、滞留時間20秒にて混合分散させ、溶融混合物を得た。
【0034】
実施例2
バイブロミキサーの混合温度を120℃、滞留時間を7秒にした以外は実施例1と同条件にて混合分散させ、溶融混合物を得た。
【0035】
比較例1
バイブロミキサーの代わりに、エクストルーダーPCM30((株)池貝製)を用いて、スクリュー回転数200r/min、シリンダー温度170℃、原料フィード10kg/h(滞留時間230秒)にて混合した以外は実施例1と同条件にて混合分散させ、溶融混合物を得た。
【0036】
比較例2
エクストルーダーのシリンダー温度を120℃にした以外は比較例1と同条件にて混合分散させ、溶融混合物を得た。
実施例1〜2、比較例1〜2で得られた溶融混合物中の酸化亜鉛分散性を下記方法で評価した。結果を表1に示す。
【0037】
<溶融混合物の酸化亜鉛分散性の評価法>
150℃に加熱した流動パラフィン(試薬特級:和光純薬工業(株)製)100部に対し、実施例および比較例で得られた溶融混合物を酸化亜鉛として2.7部相当量混合し、ヘラを使って攪拌し、均一に分散した。このものを、光路長50μmの石英セルに入れ、分光光度計((株)島津製作所製、UV−2550)を使用して、550nmと350nmの波長における透過率の差分をΔT1として算出した。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例3
実施例1にて得られた溶融混合物を冷却固化させることなく、連続して下記条件の造粒装置を用い、25℃気相中に噴霧冷却し、複合粒子として回収した。
【0040】
<造粒装置の条件>
ノズル:3流体ノズル ペンシル型(Micro Mist Dryer MDL−050C、藤崎電機(株)製)
溶融混合物温度:150℃
溶融混合物噴霧量:5mL/分
アシストガス(空気)温度:500℃
アシストガス(空気)流量:50L/分
【0041】
実施例4
実施例2にて得られた溶融混合物を冷却固化させることなく、連続して実施例3と同じ造粒装置を用い、同じ条件で25℃気相中に噴霧冷却し、複合粒子として回収した。
【0042】
比較例3
比較例1にて得られた溶融混合物を、冷却固化、粗粉砕、再溶融後、実施例3を同じ造粒装置を用い、同じ条件で25℃気相中に噴霧冷却し、複合粒子として回収した。
【0043】
比較例4
比較例2にて得られた溶融混合物を、冷却固化、粗粉砕、再溶融後、実施例3と同じ造粒装置を用い、同じ条件で25℃気相中に噴霧冷却し、複合粒子として回収した。
【0044】
実施例3〜4、比較例3〜4で得られた複合粒子の体積平均粒径を、コールターカウンター(装置名:ベックマンコールター社製,LS−230)を用いて、エタノール中で測定し、また、複合粒子の紫外線遮蔽性および透明性を下記方法で評価した。結果を表2に示す。
<複合粒子の紫外線遮蔽性および透明性の評価法>
粒子径の影響を除くために実施例および比較例で得られた複合粒子の粗大粒子を除き、平均粒径3.4〜3.5μmに調整する。SI−UGE(花王(株)製、アルキルグリセリルエーテル変性シリコーン)100部に対し、粒径を調整した複合粒子を酸化亜鉛として1部相当量混合し、ヘラを使って均一に分散した。このものを、光路長50μmの石英セルに入れ、分光光度計((株)島津製作所製、UV−2550)を使用して、550nmと350nmの波長における透過率の差分をΔT2として算出した。
【0045】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明で用いる振動式撹拌機の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1:ハウジング
2:撹拌体
3:エレメントシャフト
4:振動エレメント
5:仕切板
6:供給口
7:排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛の熱可塑性樹脂への分散方法であって、振動式撹拌機を用いて、酸化亜鉛を溶融状態の熱可塑性樹脂に混合して分散させる、分散方法。
【請求項2】
振動式撹拌機を用いる混合を連続操作で行う請求項1記載の分散方法。
【請求項3】
振動式撹拌機中の混合物の滞留時間が2〜60秒である請求項1又は2記載の分散方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂と酸化亜鉛の重量比が、熱可塑性樹脂/酸化亜鉛=99/1〜30/70である請求項1〜3いずれかに記載の分散方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である請求項1〜4いずれかに記載の分散方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の分散方法で酸化亜鉛を熱可塑性樹脂へ分散させて得られる熱溶融混合物を、熱可塑性樹脂の融点より10℃低い温度以上で冷媒中に噴霧して冷却固化する複合粒子の製法。
【請求項7】
複合粒子の体積平均粒径が1〜10μmである請求項6記載の複合粒子の製法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−307005(P2006−307005A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131338(P2005−131338)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】