説明

複合繊維体、その製造方法、フィルタ及び流体濾過方法

【課題】電解質ポリマーの繊維と非電解質ポリマーの繊維とを含み、両方の性質及び長所を併せ持った複合繊維体及びその製造方法と、この繊維体よりなるフィルタと、このフィルタを用いた流体濾過方法を提供する。
【解決手段】吐出口1,2とターゲット(対向面部)3との間に、吐出口1,2側が正、ターゲット3側が負となるように電圧を印加しておき、吐出口1から電解質ポリマーの溶液をターゲット3に向けて吐出させると共に、吐出口2から非電解質ポリマーの溶液をターゲット3に向けて吐出させ、ターゲット3上に電解質ポリマーの繊維と非電解質のポリマーの繊維とを混在状態で積層(堆積)させ、複合繊維体4を製造する。吐出口1,2から吐出され、ターゲット3に向って飛翔している繊維を加温し、繊維中の溶媒の蒸発を促進させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質ポリマーの繊維と非電解質ポリマーの繊維とを含んだ複合繊維体とその製造方法に関する。また、本発明は、この複合繊維体よりなるフィルタと、このフィルタを用いた流体濾過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスなどで用いられる超純水の高純度化処理のためにプリーツ型イオン交換フィルタが広く用いられている。このプリーツ型イオン交換フィルタは、不織布あるいは多孔質膜などの平膜をプリーツ型にしたものである。
【0003】
プリーツ型イオン交換フィルタはプリーツの折り込み部分に流れが偏りやすく、上述のような極低濃度域では十分な除去率を得ることはできない。また、膜厚が薄いために破過が早く寿命が短い。除粒子の観点からも、上述の通り、長寿命、高除去性能化が課題となっている。イオン除去率を向上させるため、膜厚を厚くしたり、膜の細孔を小さくすると、透水性が犠牲となるという問題があった。
【0004】
繊維径がナノメーターオーダーである極細のナノファイバの製造方法として電界紡糸法(静電紡糸法)が公知である(下記特許文献1,2等)。この電界紡糸法では、ノズルとターゲットとの間に電界を形成しておき、該ノズルから液状原料を細繊維状に吐出させて紡糸が行われる。
【特許文献1】特開2007−92237
【特許文献2】特開2006−144138
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電解質ポリマーと非電解質ポリマーは、繊維化するとそれぞれ優れた特長と短所を有する。電解質ポリマーの特性と非電解質ポリマーの特性としては以下の点が挙げられる。
【0006】
<電解質ポリマーの特性>
(1)単独で電界紡糸することが難しい。
(2)電界紡糸出来ても繊維同士の反発により、かさ(嵩)が高くなって収まりが悪くなり(即ち、嵩密度が低くなり)、成膜に適さない。
(3)親水性を有する。
(4)イオン性物質の吸着性を有するものもある。
(5)水への溶解性が高いものもある。
【0007】
<非電解質ポリマーの特性>
(1)単独で電界紡糸することが容易なものがある。
(2)電界紡糸後、繊維同士の反発がないため、成膜し易い。
(3)疎水性のもの、親水性のものを選択できる。
(4)疎水性のものは耐水性を有するが、水を通しにくい。
【0008】
一般に、非電解質ポリマーは、機械的強度や耐薬品性は高いが、濡れにくく(親水性が低く)、また染色性に乏しい(イオン性物質の吸着性が低い)。一方、電解質ポリマーは、親水性が高く染色性は高いが、紡糸性や機械的強度の面で問題がある。
【0009】
電子部品製造工程においては、60〜100℃の高温に対応できる純水製造プロセスも求められるようになってきている。従って、イオン交換フィルタの素材も、イオン交換性能はもとより、耐熱性の高いものを使用する必要がある。従来イオン交換フィルタの素材として用いられてきたポリフッ化ビニリデンは、耐熱性の高い素材であるが、疎水性であり、プラズマ等により親水化処理を施す必要があった。
【0010】
両者の長所を融合させることができれば、画期的な繊維を得ることが期待されるが、電解質ポリマーと非電解質ポリマーは、それらを溶解する溶媒が異なることが多く、同時に繊維化した例はなかった。
【0011】
本発明は、電解質ポリマーの繊維と非電解質ポリマーの繊維とを含み、両方の性質及び長所を併せ持った複合繊維体及びその製造方法と、この繊維体よりなるフィルタと、このフィルタを用いた流体濾過方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の複合繊維体の製造方法は、第1溶媒に溶解させた電解質ポリマーを第1吐出部から、該第1吐出部との間に電圧が印加された対向面部に吐出し、該対向面部で繊維化すると共に、第2溶媒に溶解させた非電解質ポリマーを第2吐出部から、該第2吐出部との間に電圧が印加された該対向面部に吐出して繊維化することにより、電解質ポリマーの繊維と非電解質ポリマーの繊維とが混在した複合繊維体を製造することを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の複合繊維体の製造方法は、請求項1において、電解質ポリマーを繊維化する工程と、非電解質ポリマーを繊維化する工程とを同時に行うことを特徴とするものである。
【0014】
請求項3の複合繊維体の製造方法は、請求項1において、電解質ポリマーを繊維化する工程と、非電解質ポリマーを繊維化する工程の一方の工程を行った後に、他方の工程を行うことを特徴とするものである。
【0015】
請求項4の複合繊維体の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該第2吐出部と対向面部との距離は、第1吐出部と対向面部との距離以上であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項5の複合繊維体の製造方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、該第1吐出部と第2吐出部との間の距離が10mm以下であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項6の複合繊維体の製造方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、電解質ポリマーと非電解質ポリマーの吐出中もしくは吐出後に繊維を加温することを特徴とするものである。
【0018】
請求項7の複合繊維体は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法で製造されたものである。
【0019】
請求項8の流体濾過用フィルタは、請求項7に記載の複合繊維体よりなるものである。
【0020】
請求項9の流体濾過用フィルタは、請求項8において、複合繊維体を平面上又は有孔中空体上に積層させることによって製造されたものであることを特徴とするものである。
【0021】
請求項10の流体濾過方法は、請求項9のフィルタを用いたものである。
【発明の効果】
【0022】
電解質ポリマーと非電解質ポリマーとを電界紡糸することにより、電解質ポリマーの繊維同士の反発が非電解質ポリマー繊維によって抑制され、まとまりの良い(すなわち嵩密度の高い)不織布状の複合繊維体が製造される。
【0023】
本発明によれば、紡糸した繊維体の機械的強度や親水性、電荷などの特性を制御することができるため、空気、有機ガス、水、水溶液、有機溶媒等の流体の処理において、あるいは気液混合物の処理において、被処理流体に含まれる微量の金属、有機物、微粒子等を吸着分離、排除分離するフィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0025】
本発明の繊維体の製造方法は、第1溶媒に溶解させた電解質ポリマーを第1吐出部から、該第1吐出部との間に電圧が印加された対向面部に吐出し、該対向面部で繊維化すると共に、第2溶媒に溶解させた非電解質ポリマーを第2吐出部から、該第2吐出部との間に電圧が印加された該対向面部に吐出して繊維化することにより、電解質ポリマーの繊維と非電解質ポリマーの繊維とが混在した複合繊維体を製造するものである。
【0026】
電界紡糸により形成される極細繊維としては、相当直径が1〜1000nm特に10〜700nm程度の著しく細い繊維が好適である。「相当直径」とは、1本の繊維(ファイバ)の断面積と断面積の外周長さとから、(相当直径)=4×(断面積)/(断面の外周長さ)によって算出される値である。この極細繊維の長さは、1μm以上が好適である。なお、電界紡糸で作製した場合、数十cmの長さにすることができ、また連続的に紡糸することもできるため、上限なく長くすることができる。
【0027】
非電解質ポリマーは所定の透水性、強度を確保されるものであれば特に限定されない。
【0028】
非電解質ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリエーテル、PTFE、CTFE、PFA、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリルニトリル、ポリエーテルニトリル、ポリビニルアルコールおよびこれらの共重合体などの素材が使用できるが、この限りではない。特に1種類の素材に限定されることはなく、必要に応じて種々の素材を選択できる。ただし、50℃以上の高温水の処理に用いるときには、耐熱性を有するフッ素樹脂が好適である。なお、フッ素樹脂にポリオレフィン、ポリエーテル等の他のポリマーを混合してもよい。
【0029】
この非電解質ポリマーを溶解する溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、フッ素系溶媒などから上記ポリマーが可溶なものを選択して用いるのが好ましい。なお、これらの有機溶剤100体積部に対して水を1〜1000体積部混合した混合溶媒も好適である。
【0030】
非電解質ポリマーの溶液の濃度は1〜40wt%特に10〜30wt%程度が好適である。
【0031】
電解質ポリマーは、スルホ基などのイオン交換基を有する高分子材料が好適である。フッ素を含有する高分子材料も好ましい。具体的にはポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリスルホン、グリシジルメタクリレートを亜硫酸と反応させてスルホ基を有する材料、スルホ基を有するフッ素樹脂などの少なくとも1種が例示される。スルホ基を導入したフッ素樹脂としては、市販のナフィオン(Nafion、登録商標)などが例示される。ナフィオンはパーフルオロスルホン酸/ポリテトラフロロエチレン共重合体を主成分とする。なお、イオン交換基は、カルボキシル基、リン酸基、1〜4級のアミノ基などであってもよい。
【0032】
この電解質ポリマーの溶剤としては、上記と同様のものを用いることができるが、非電解質ポリマーの溶剤と異なっていても構わない。
【0033】
電解質ポリマーの溶液の濃度は1〜40wt%特に10〜30wt%程度が好適である。
【0034】
以下、この電解質ポリマー及び非電解質ポリマーを電界紡糸して複合繊維体を製造する方法について、図面を参照して説明する。
【0035】
第1図〜第3図は、それぞれこの製造方法を説明する概略的な斜視図である。
【0036】
第1図の方法では、吐出口1,2とターゲット(対向面部)3との間に、吐出口1,2側が正、ターゲット3側が負となるように電圧を印加しておき、吐出口1から電解質ポリマーの溶液をターゲット3に向けて吐出させると共に、吐出口2から非電解質ポリマーの溶液をターゲット3に向けて吐出させ、ターゲット3上に電解質ポリマーの繊維と非電解質のポリマーの繊維とを混在状態で積層(堆積)させ、複合繊維体4を製造する。
【0037】
第1図では、吐出口1,2とターゲット3との距離は同一である。吐出口1,2間の距離は10mm以下であることが好ましい。吐出口1,2とターゲット3との距離は10〜500mm特に50〜300mm程度が好適である。両者の間の印加電圧は、電位勾配が1〜100kV/cm程度となるようにするのが好ましい。
【0038】
第2図では、非電解質ポリマー溶液吐出用の吐出口2を電解質ポリマー溶液吐出用の吐出口1よりもターゲット3から離隔させて複合繊維体を製造する。このように、吐出口2とターゲット3との距離を吐出口1とターゲット3との距離よりも大きくすると(例えば1.05〜1.25倍にすると)、吐出口1から吐出される繊維を覆い、ターゲット3への移動を補助することができる。また溶媒の蒸発がより進むという効果が得られる。
【0039】
第3図では、吐出口1及び2のうちの一方を用いて、まず、ターゲット3上に電解質ポリマー及び非電解質ポリマーの繊維のうち一方を堆積させ、次いで、吐出口1及び吐出口2のうちの他方を用いて、その上に他方の繊維を堆積させ、複層構造の複合繊維体を製造する。なお、吐出口1と吐出口2とから交互にポリマー溶液を吐出させ、3層以上の積層構造を有した複合繊維体を製造してもよい。
【0040】
第1図〜第3図のようにして、複合繊維体を製造する場合、吐出口1,2から吐出され、ターゲット3に向って飛翔している繊維を加温し、繊維中の溶媒の蒸発を促進させてもよい。この加温を行うには、繊維飛翔ゾーンの雰囲気を加温してもよく、この飛翔ゾーンに向けて赤外線を照射してもよい。また、ターゲット3上に堆積した繊維やターゲット3から取り出した複合繊維体を加温して溶媒の蒸発を促進させてもよい。
【0041】
この加温の温度は、繊維温度が30〜200℃となる程度が好ましい。このように溶媒の蒸発を促進させることにより、嵩密度の高い複合繊維体を得ることができる。
複合繊維体を紡糸する際、そのターゲットに薄膜を設置して紡糸し、紡糸後、薄膜をはがすことにより、自立型の複合繊維体を得ることができる。薄膜の素材としては、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリスルホン、アルミニウム箔などを使用することができる。
一方、複合繊維体を紡糸する際、そのターゲットに多孔質体を設置して紡糸して多孔質を基材として一体化させることにより、基材一体型の複合繊維体を得ることができる。多孔質体としては、不織布、焼結体、分離膜などを選択することができる。不織布の素材としては、ポリエチレン、ポリプロポレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリスルホン、セルロース誘導体などを使用することができる。焼結体の素材としては、ポリオレフィンなどの高分子、ステンレスなどの金属、ガラスなどを使用することができる。分離膜の素材としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスルホン、セルロース誘導体、ポリアミドなどを使用することができる。
【0042】
このような複合繊維体は、流体濾過用フィルタのほか、衣料、カーテンなどの織布、吸着材など、さまざまな用途に使用できる。
【0043】
この複合繊維体を流体濾過用フィルタとして用いる場合、複合繊維体を平面上もしくは有孔中空体上に積層して流体濾過用フィルタを製造するのが好ましい。
【0044】
本発明のフィルタは、対向面部上に積層させて形成した繊維体層の厚さ方向(積層方向)に液体や気体を透過させて濾過に使用される。このフィルタは、プリーツ型フィルタのような偏流がなく、寿命が長い。そして、長期にわたって透過流束を高く保つことができる。
【0045】
本発明のフィルタは、超純水などの製造に用いるのに好適であり、超純水中の金属イオンの濃度を極低濃度まで低減することが可能となる。なお、近年、50℃以上(例えば60〜100℃)の高温水を処理することが電子部品製造工程で必要とされることがある。繊維製造用の電解質ポリマー及び非電解質ポリマーとして耐熱性の高い素材のものを用いることにより、このような高温水も十分に処理することが可能となる。
【0046】
このフィルタを超純水製造用フィルタとして用いる場合、フィルタの厚さは5〜50mm程度、嵩密度は0.2〜0.5g/cm程度になるように複合繊維体を積層することが好適である。また、通水SVは500〜15000hr−1程度が好適である。
【0047】
本発明のフィルタは、金属イオン濃度0.5〜5ng/Lの超純水を濾過処理し、金属イオン濃度を0.1ng/L以下程度にする場合に用いるのに好適である。
【0048】
なお、本発明のフィルタは、水以外の流体の処理にも用いることができる。このフィルタをエアーフィルタとして用いると、アミンなどの荷電物質の分離が可能である。
【実施例】
【0049】
以下、比較例及び実施例について説明する。
【0050】
[比較例1]
<紡糸条件>
シリンジ径30Gのシリンジに電解質ポリマーNafion19.8%(重量%。以下同様)、1−プロパノール39.7%、水39.7%、PEO(ポリエチレンオキシド)0.8%の溶液を入れ、シリンジ側をプラス、繊維を捕集するコレクタ側にマイナスの4kV/cmの電位勾配をかけることにより、繊維径100nmのNafion繊維を紡糸した。
【0051】
<結果>
Nafion繊維はもろく、またコレクタ側から吐出側に成長してしまい、おさまりが悪く、厚さが均一な不織布を作製することはできなかった。
【0052】
[実施例1]
<紡糸条件>
シリンジ径30Gのシリンジおよび27Gのシリンジを用意し、シリンジ径30Gのシリンジに高電解質ポリマーNafion19.8%、1−プロパノール39.7%、水39.7%、PEO0.8%の溶液を入れた。また、もう片方のシリンジにPVDF20%、DMA80%の溶液を入れた。この2本のシリンジの距離を5mmとした。第1図のように、両シリンジとターゲットとの間隔を同一とし、シリンジ側をプラス、繊維を捕集するコレクタ側にマイナスの4kV/cmの電位勾配をかけて紡糸した。
【0053】
<結果>
Nafion繊維とPVDF繊維とが混在した、複合繊維体よりなる不織布が作製された。比較例1では、Nafionの厚さが均一な不織布を作製することは難しいが、実施例1の方法を用いてNafionをPVDFで固定化させることにより、厚さが均一な不織布ができることが確認できた。なお、繊維径100nmと500nmの繊維が混在していた。また、繊維のイオン交換量が0.5meq/gであった。
【0054】
[実施例2]
<紡糸条件>
シリンジ径30Gのシリンジおよび27Gのシリンジを用意し、シリンジ径30Gのシリンジに高電解質ポリマーNafion19.8%、1−プロパノール39.7%、水39.7%、PEO0.8%の溶液を入れた。また、もう片方のシリンジにPVDF20%、DMA80%の溶液を入れた。この2本のシリンジの距離を5mmとした。シリンジ側をプラス、繊維を捕集するコレクタ側にマイナスの4kV/cmの電位勾配をかけて紡糸した。その際、ターゲットを60℃に加温した。
【0055】
<結果>
一般に、電界紡糸された繊維の残存溶媒量が多いと、繊維形状が安定せず変形が起こり易い。ガスクロマトグラフにより残存溶媒量を測定した。その結果、60℃加温を行わない実施例1の単位不織布重量当たりの残存溶媒量は90μg/gであった。一方、上記のように繊維を加温するようにした実施例2では、単位不織布重量当たりの残存溶媒量は6μg/gと著しく少ないものであった。
【0056】
[実施例3]
高電解質ポリマーと非電解質ポリマーをそれぞれ、2分間、1分間別々に紡糸する以外は実施例1と同じ条件で紡糸した。
【0057】
<結果>
おさまりの悪かったNafion繊維がPVDF繊維に押さえつけられ、繊維径100nmと500nmの繊維が混在した密度の高い不織布を作製することができた。繊維の作製速度は実施例1の約半分となったが、得られた繊維のイオン交換容量は0.65meq/gであった。
【0058】
[実施例4]
PVDF濃度を16%、DMAc濃度を84%とした以外は、実施例1と同じ条件で紡糸した。
【0059】
<結果>
複合繊維体よりなる不織布が作製された。繊維径は100nmであった。イオン交換容量は0.6meq/gであった。残存溶媒量は95μg/gであった。
【0060】
[実施例5]
吐出口2のターゲットとの距離を吐出口1より10mm長くした以外は、実施例4と同じ条件で紡糸した。
【0061】
<結果>
イオン交換容量は0.6meq/gであり、残存溶媒量は70μg/gであった。繊維径は100nmであった。
【0062】
[実施例6]
吐出口とターゲットの間にポリプロピレン製の厚さ150μmの不織布を置き、実施例1と同じ条件で紡糸した。イオン交換容量0.1meq/gの複合不織布を得た。
【0063】
[実施例7]
実施例6で得られた複合不織布を直径10mmの有孔芯材に巻き回して直径70mmのロール状フィルタを得た。このフィルタをフィルタハウジングに入れて、外側から内側に向かって通水した。供給水側のCa濃度を10pptとした場合、透過側のCa濃度を0.1pptとすることができた。
【0064】
[比較例2]ポリスチレンスルホン酸単独紡糸
シリンジ径30Gのシリンジに電解質ポリマーPoly(styrene−ran−ethylene),sulfonated(スルホン化(スチレン/エチレン)ランダムコポリマー)5%(重量%。以下同様)、1−プロパノール95%の溶液を入れ、シリンジ側にプラス、繊維を捕集するコレクタ皮にマイナスの5kV/cmの電位勾配をかけることにより、スルホン化(スチレン/エチレン)ランダムコポリマー繊維を紡糸した。
【0065】
<結果>
スルホン化(スチレン/エチレン)ランダムコポリマー繊維はもろく、またコレクタ側から吐出側に成長してしまい、おさまりが悪く、厚さが均一な不織布を作製することはできなかった。
【0066】
[実施例8]ポリスチレンスルホン酸とPVDFの複合
シリンジ径30Gのシリンジおよび27Gのシリンジを用意し、シリンジ径30Gのシリンジにスルホン化(スチレン/エチレン)ランダムコポリマー5%、1−プロパノール95%の溶液を入れた。また、もう片方のシリンジにPVDF20%、ジメチルアセトアミド(DMAc)80%の溶液を入れた。この2本のシリンジの距離を5mmとした。第1図のように、両シリンジとターゲットとの間隔を同一とし、シリンジ側をプラス、繊維を捕獲するコレクタ側にマイナスの5kV/cmの電位勾配をかけて紡糸した。
【0067】
<結果>
スルホン化(スチレン/エチレン)ランダムコポリマー繊維とPVDF繊維とが混在した、複合繊維体よりなる不織布が作製された。比較例2では、厚さが均一なスルホン化(スチレン/エチレン)ランダムコポリマー繊維不織布を作製することは難しいが、実施例8の方法を用いてスルホン化(スチレン/エチレン)ランダムコポリマー繊維をPVDF繊維で固定することにより、厚さが均一な不織布が製造されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施の形態に係る複合繊維体の製造方法を示す模式的な斜視図である。
【図2】実施の形態に係る複合繊維体の製造方法を示す模式的な斜視図である。
【図3】実施の形態に係る複合繊維体の製造方法を示す模式的な斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
1,2 吐出口
3 ターゲット
4 複合繊維体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1溶媒に溶解させた電解質ポリマーを第1吐出部から、該第1吐出部との間に電圧が印加された対向面部に吐出し、該対向面部で繊維化すると共に、第2溶媒に溶解させた非電解質ポリマーを第2吐出部から、該第2吐出部との間に電圧が印加された該対向面部に吐出して繊維化することにより、電解質ポリマーの繊維と非電解質ポリマーの繊維とが混在した複合繊維体を製造することを特徴とする複合繊維体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、電解質ポリマーを繊維化する工程と、非電解質ポリマーを繊維化する工程とを同時に行うことを特徴とする複合繊維体の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、電解質ポリマーを繊維化する工程と、非電解質ポリマーを繊維化する工程との一方の工程を行った後に、他方の工程を行うことを特徴とする複合繊維体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該第2吐出部と対向面部との距離は、第1吐出部と対向面部との距離以上であることを特徴とする複合繊維体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該第1吐出部と第2吐出部との間の距離が10mm以下であることを特徴とする複合繊維体の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、電解質ポリマーと非電解質ポリマーの吐出中もしくは吐出後に繊維を加温することを特徴とする複合繊維体の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法で製造された複合繊維体。
【請求項8】
請求項7に記載の複合繊維体よりなる流体濾過用フィルタ。
【請求項9】
請求項8において、複合繊維体を平面上又は有孔中空体上に積層させることによって製造されたものであることを特徴とする流体濾過用フィルタ。
【請求項10】
請求項9のフィルタを用いた流体濾過方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−275310(P2009−275310A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127297(P2008−127297)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】