説明

複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法

【課題】芯物質の物性に応じて、芯物質を完全に隔離し保護する機能を付与したマイクロカプセルを簡単に調製することのできる、複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】芯物質、無機質シェル形成物質、ポリマーシェル形成物質を含有する分散相を連続相に投入して分散系を調製し、この分散系に無機質シェル形成物質と反応して無機質シェルを形成する第2の無機質シェル形成物質と、ポリマーシェル形成物質と反応して無機質シェルを形成する第2のポリマーシェル形成物質とを添加する複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法であって、第2の無機質シェル形成物質の添加の前、後、又は第2の無機質シェル形成物質の添加と同時に、第2のポリマーシェル形成物質を添加することにより、無機質シェルの内側、外側、又は内部にポリマーシェルを選択的に配置させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの無機質シェルにポリマーシェルを複合化させた複合膜シェルにおいて、ポリマーシェルは無機質シェルの一方の面から複合化されたものであった(例えば、特許文献1,2)。そして、液体状の物質を芯物質とした場合に、芯物質が親水性であるか、或いは疎水性であるかに応じた、最適な複合膜シェルの構成が考慮されていなかった。また、芯物質を完全に隔離して保護する機能を付与したマイクロカプセルの調製は、複雑なプロセスが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−238158号公報
【特許文献2】特開平6−15162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、芯物質の物性に応じて、芯物質を完全に隔離し保護する機能を付与したマイクロカプセルを簡単に調製することのできる、複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため種々検討した結果、無機質シェルを形成する際に、ポリマーシェルを形成する材料の添加時間を段階的に変化させることによって、無機質シェルの内側、外側、或いは内部に、選択的にポリマーシェルを配置させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明の複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法は、芯物質、無機質シェル形成物質、ポリマーシェル形成物質を含有する分散相を連続相に投入して分散系を調製し、この分散系に前記無機質シェル形成物質と反応して無機質シェルを形成する第2の無機質シェル形成物質と、前記ポリマーシェル形成物質と反応して無機質シェルを形成する第2のポリマーシェル形成物質とを添加する複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法であって、前記第2の無機質シェル形成物質の添加の前、後、又は前記第2の無機質シェル形成物質の添加と同時に、前記第2のポリマーシェル形成物質を添加することにより、無機質シェルの内側、外側、又は内部にポリマーシェルを選択的に配置させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無機質シェルの内側、外側、或いは内部に、選択的にポリマーシェルを配置させることにより、芯物質の物性に応じて、芯物質を完全に隔離し保護する機能を付与したマイクロカプセルを簡単に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1において、Caローディング溶液添加相(1)の2時間後にモノマー添加相(2)を添加した場合に得られた複合膜シェルマイクロカプセルの組成を示すグラフである。
【図2】実施例1において、モノマー添加相(2)の2時間後にCaローディング溶液添加相(1)を添加した場合に得られた複合膜シェルマイクロカプセルの組成を示すグラフである。
【図3】実施例1において、Caローディング溶液添加相(1)とモノマー添加相(2)を同時に添加した場合に得られた複合膜シェルマイクロカプセルの組成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法について説明する。
【0010】
本発明の複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法は、芯物質、無機質シェル形成物質、ポリマーシェル形成物質を含有する分散相を連続相に投入して分散系を調製し、この分散系に前記無機質シェル形成物質と反応して無機質シェルを形成する第2の無機質シェル形成物質と、前記ポリマーシェル形成物質と反応して無機質シェルを形成する第2のポリマーシェル形成物質とを添加する複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法であって、前記第2の無機質シェル形成物質の添加の前、後、又は前記第2の無機質シェル形成物質の添加と同時に、前記第2のポリマーシェル形成物質を添加することにより、無機質シェルの内側、外側、又は内部にポリマーシェルを選択的に配置させることを特徴とするものである。
【0011】
ここで、芯物質は、疎水性のもの、親水性のもののいずれであってもよい。
【0012】
芯物質が親水性のときは、例えば、ケイ酸ナトリウムとジエチレントリアミンを含む親水性芯物質を連続油相に添加してW/O分散系を調製し、このW/O分散系にカルシウムイオンと二塩化フタロイルを添加し、前記カルシウムイオンの添加の前、後、又はカルシウムイオンの添加と同時に前記二塩化フタロイルを添加することにより、ケイ酸カルシウムシェルの内側、外側、又は内部にポリマーシェルを選択的に配置させることができる。
【0013】
また、芯物質が疎水性のときは、例えば、カルシウムイオンとイソシアネートを含む疎水性芯物質を連続水相に添加してO/W分散系を調製し、このO/W分散系にケイ酸ナトリウムとアミンを添加し、前記ケイ酸ナトリウムの添加の前、後、又は前記ケイ酸ナトリウムの添加と同時に前記アミンを添加することにより、ケイ酸カルシウムシェルの内側、外側、又は内部にポリウレアからなるポリマーシェルを選択的に配置させることができる。
【0014】
上記、芯物質、無機質シェル形成物質と第2の無機質シェル形成物質の組み合わせ、ポリマーシェル形成物質と第2のポリマーシェル形成物質の組み合わせは、特定のものに限定されず、一般的にマイクロカプセルの製造に使用されるものを用いることができる。
【0015】
本発明の複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法によれば、無機質シェルの内側、外側、或いは内部に、選択的にポリマーシェルを配置させることにより、芯物質の物性に応じて、芯物質を完全に隔離し保護する機能を付与したマイクロカプセルを簡単に、1回のプロセスにて調製することができる。
【0016】
また、無機質シェルの内側と外側の両側にポリマーシェルをサンドイッチ型に配置した複合膜シェルマイクロカプセルを形成することもできる。
【0017】
本発明の複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法により得られるマイクロカプセルは、無機質をマトリックスとしたシェルのマイクロカプセルであることから、耐熱性や耐磨耗性のみならず堅牢性と弾力性を併せ持つマイクロカプセルを調製することができる。
【0018】
また、疎水性芯物質には親水性ポリマーからなるポリマーシェル、親水性芯物質には疎水性ポリマーからなるポリマーシェルをそれぞれ無機質シェルと組み合わせることにより、より確実に芯物質を隔離し保護することができる。
【0019】
本発明の複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法は、化粧品、塗料、接着剤、農医薬、エネルギー、土木、建築、文房具など、多岐の分野で利用可能である。
【0020】
以下、具体的な実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
反応槽に内径8.7x10−2m、実容積2.0x10−4の一口セパラブルフラスコで、撹拌翼に翼径5.0x10−2mの6枚羽根ディスクタービン型インペラーを用い、撹拌翼は液深の1/3になるように設置した。また、モノマー添加相を滴下するために実容積100mlの分液漏斗を用いた。
【0022】
はじめに、ケロシン120mlに分散安定剤であるソルビタンモノオレエート1.2gを溶解し連続相とした。また、ケイ酸ナトリウム水溶液10mlに水溶性モノマーであるジエチレントリアミン(DETA)と芯物質としてエリスリトールを溶解しこれを分散相とした。
【0023】
つぎに、連続相のうち所定量を採り出し、そこへ分散相を投入し、60℃で撹拌を10分間行ってW/O分散系を調製した。そして、W/O分散系をもとの連続相へ投入し、一定速度で撹拌することにより分散系を保持した。
【0024】
その後、塩化カルシウム水溶液50mlにソルビタンモノオレエート0.5gを溶解したCaローディング溶液添加相(1)を0.5ml/分の速度で滴下して撹拌速度200rpmで撹拌することにより界面反応を行い、ケロシン30mlに二塩化フタロイル(PDC)、ソルビタンモノオレエート0.3gを溶解したモノマー添加相(2)を0.5ml/分の速度で滴下して撹拌速度150rpmで撹拌することにより界面重合反応を行った。なお、界面重合反応の反応時間は24時間、反応温度は60℃とした。
【0025】
上記の操作を、Caローディング溶液添加相(1)、モノマー添加相(2)の添加順序を変化させ、また、モノマーであるPDCの添加量、ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度を変化させて行った。
【0026】
その結果、Caローディング溶液添加相(1)の2時間後にモノマー添加相(2)を添加した場合は、内側にケイ酸カルシウムからなる無機質シェル、外側にDETAとPDCの反応によって形成したポリマーシェルが配置した複合膜シェルマイクロカプセルが得られた。また、モノマー添加相(2)の2時間後にCaローディング溶液添加相(1)を添加した場合は、内側にポリマーシェル、外側に無機質シェルが配置した複合膜シェルマイクロカプセルが得られた。さらに、Caローディング溶液添加相(1)とモノマー添加相(2)を同時に添加した場合は、無機質シェルの内部にポリマーシェルが配置した複合膜シェルマイクロカプセルが得られた。
【0027】
Caローディング溶液添加相(1)の2時間後にモノマー添加相(2)を添加した場合に得られた複合膜シェルマイクロカプセルの組成を図1に、モノマー添加相(2)の2時間後にCaローディング溶液添加相(1)を添加した場合に得られた複合膜シェルマイクロカプセルの組成を図2に、Caローディング溶液添加相(1)とモノマー添加相(2)を同時に添加した場合に得られた複合膜シェルマイクロカプセルの組成を図3に示す。なお、図中、CNaはケイ酸ナトリウム水溶液濃度、Wmonomerはモノマー添加量、Werithritolはエリスリトール添加量である。ケイ酸ナトリウム水溶液濃度、モノマー添加量、エリスリトールの添加量を変化させることにより、無機質シェル、ポリマーシェル、芯物質であるエリスリトールの含有比を制御できた。
【実施例2】
【0028】
疎水性芯物質としてn−ペンタデカンを採用し、ここのカルシウムイオンを担持させると同時にイソシアネートを溶解した後に、連続水相中に添加撹拌してO/W分散系を調製した。
【0029】
その後、連続水相にケイ酸ナトリウムを添加することにより、ケイ酸カルシウムシェルカプセルが調製できた。
【0030】
ケイ酸ナトリウムの添加の前後および同時に、連続水相にアミンを添加することにより、ケイ酸カルシウムシェルの内側、外側、内部に、ポリウレアシェルを配置させた複合膜シェルを形成することができた。この構成により、芯物質の漏洩が防止できた。
【実施例3】
【0031】
実施例2と同様に、疎水性芯物質にカルボン酸を溶解した後に、連続水相にアミンを添加することにより、ケイ酸カルシウムとポリアミドからなる複合膜シェルを形成することができた。
【実施例4】
【0032】
実施例2と同様に、ケイ酸ナトリウム添加前後にあるいは同時に、カルシウムイオンによりゲル化する多糖類(アルギン酸ソーダ、ペクチン、ジェランガム等)を添加することにより、ケイ酸カルシウムシェルの内側、外側、内部にゲル化多糖類シェルを形成することができた。
【実施例5】
【0033】
実施例2と同様に、リン酸アンモニウム(もしくはリン酸ナトリウム)を添加することにより、リン酸カルシウムと有機ポリマーからなる複合膜シェルを形成することができた。
【実施例6】
【0034】
芯物質として、オリーブ油やリモネン油を採用し、ケイ酸カルシウムとアルギン酸ソーダ/ペクチンとの複合膜シェルによるマイクロカプセル化により、芯物質の漏洩が防止できた。
【実施例7】
【0035】
ケイ酸カルシウムシェルの内側、外側、内部にポリアミドを配置することにより、異なる破壊特性と機械的強度を持つ複合膜シェルを形成することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯物質、無機質シェル形成物質、ポリマーシェル形成物質を含有する分散相を連続相に投入して分散系を調製し、この分散系に前記無機質シェル形成物質と反応して無機質シェルを形成する第2の無機質シェル形成物質と、前記ポリマーシェル形成物質と反応して無機質シェルを形成する第2のポリマーシェル形成物質とを添加する複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法であって、前記第2の無機質シェル形成物質の添加の前、後、又は前記第2の無機質シェル形成物質の添加と同時に、前記第2のポリマーシェル形成物質を添加することにより、無機質シェルの内側、外側、又は内部にポリマーシェルを選択的に配置させることを特徴とする複合膜シェルマイクロカプセルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−92854(P2011−92854A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248788(P2009−248788)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】