説明

複合酸化物、それを用いた排ガス浄化用触媒及び複合酸化物の製造方法

【課題】貴金属等の触媒活性種を担持した場合に十分に高度な触媒活性を得ることを可能とする複合酸化物を効率よく製造することが可能な複合酸化物の製造方法を提供すること。
【解決手段】第一金属の酸化物からなるマトリックス金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有し且つ平均粒子径が5〜50nmの範囲にある第一粒子と、前記第一金属以外の酸素吸放出能を有する第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有し且つ前記第一粒子の平均粒子径の1/5〜1倍の範囲にある平均粒子径を有する第二粒子とを、下記条件(A)及び(B):
条件(A):前記第一粒子と前記第二粒子の両者のゼータ電位が同じ極性を持つこと、
条件(B):前記第一粒子及び前記第二粒子のうちの少なくとも一方の粒子のゼータ電位の絶対値が30mV以上であること、
を満たすようなpH条件を維持しながら溶媒の存在下において混合し、核となる前記第二粒子と前記第二粒子の周囲を覆っている前記第一粒子とからなる凝集体を得る工程と、
前記凝集体を乾燥させた後、焼成することにより、核となる前記酸素吸放出金属酸化物粒子と、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を覆っている前記マトリックス金属酸化物粒子とからなる複合酸化物を得る工程と、
を含むことを特徴とする複合酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物、それを用いた排ガス浄化用触媒及び複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な金属酸化物の粒子を含有する複合酸化物が排ガス浄化用触媒用の担体等として利用されてきた。このような複合酸化物としては、雰囲気中の酸素分圧に応じて酸素を吸放出可能である金属(酸素貯蔵能を持つ金属:例えばセリア等)の酸化物粒子と、アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物粒子とからなるものが好適に用いられてきた。
【0003】
このような複合酸化物の製造方法としては、例えば、特開平6−199582号公報(特許文献1)において、平均粒径が10〜100nmのアルミナ粒子と、平均粒径が50nm以下のバリウム化合物やランタン化合物等の粒子とを混合溶媒中で混合し、乾燥した後、焼成することにより複合酸化物を得る方法が開示されている。また、特開2002−211908号公報(特許文献2)においては、金属Mの化合物と、酸化物が金属Mの酸化物とは固溶しない金属Mの化合物とが溶解した水溶液又は水を含む溶液から、該金属Mの酸化物前駆体及び該金属Mの酸化物前駆体又はそれらの前駆体の化合物の沈殿を析出させた後、前記沈殿を焼成することにより、金属Mの酸化物と、金属Mの酸化物とがnmスケールで分散してなる複合酸化物を得る方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、このような特許文献1〜2に記載のような従来の複合酸化物の製造方法を採用して得られる複合酸化物においては、これに貴金属等の触媒活性種を担持しても必ずしも十分な触媒活性を得ることができなかった。
【特許文献1】特開平6−199582号公報
【特許文献2】特開2002−211908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、貴金属等の触媒活性種を担持した場合に十分に高度な触媒活性を得ることを可能とする複合酸化物を効率よく製造することが可能な複合酸化物の製造方法、その製造方法を採用して得られる複合酸化物、並びに、その複合酸化物を担体として用いて十分に高度な触媒活性を有する排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、第一金属の酸化物からなるマトリックス金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有し且つ平均粒子径が5〜50nmの範囲にある第一粒子のゼータ電位と、前記第一金属以外の酸素吸放出能を有する第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有し且つ前記第一粒子の平均粒子径の1/5〜1倍の範囲にある平均粒子径を有する第二粒子のゼータ電位とが後述する条件を満たすようにpH条件を維持しながら、溶媒の存在下において前記第一粒子と前記第二粒子とを混合し、得られた凝集体を乾燥後、焼成することによって、貴金属等の触媒活性種を担持した場合に十分に高度な触媒活性を発揮することができる複合酸化物を得ることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の複合酸化物の製造方法は、第一金属の酸化物からなるマトリックス金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有し且つ平均粒子径が5〜50nmの範囲にある第一粒子と、前記第一金属以外の酸素吸放出能を有する第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有し且つ前記第一粒子の平均粒子径の1/5〜1倍の範囲にある平均粒子径を有する第二粒子とを、下記条件(A)及び(B):
条件(A):前記第一粒子と前記第二粒子の両者のゼータ電位が同じ極性を持つこと、
条件(B):前記第一粒子及び前記第二粒子のうちの少なくとも一方の粒子のゼータ電位の絶対値が30mV以上であること、
を満たすようなpH条件を維持しながら溶媒の存在下において混合し、核となる前記第二粒子と前記第二粒子の周囲を覆っている前記第一粒子とからなる凝集体を得る工程と、
前記凝集体を乾燥させた後、焼成することにより、核となる前記酸素吸放出金属酸化物粒子と、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を覆っている前記マトリックス金属酸化物粒子とからなる複合酸化物を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0008】
上記本発明にかかる第一金属としてはアルミニウム、チタン、ケイ素及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含有するものが好ましい。
【0009】
また、本発明の複合酸化物は、第一金属の酸化物からなるマトリックス金属酸化物粒子と、前記第一金属以外の酸素吸放出能を有する第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子とを含有する複合酸化物であって、
前記第一金属がアルミニウム、チタン、ケイ素及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含有し、
前記マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径が5〜50nmの範囲にあり、
前記酸素吸放出金属酸化物粒子の平均粒子径が、前記マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径の1/5〜1倍の大きさであり、且つ
核となる前記酸素吸放出金属酸化物粒子と、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を覆っている前記マトリックス金属酸化物粒子とからなること、
を特徴とするものである。
【0010】
上記本発明の複合酸化物の製造方法及び上記本発明の複合酸化物においては、前記複合酸化物が理論密度TDと細孔容積Vとから下記式(1):
[PF(充填率:%)]=[(1/TD)/{(1/TD)+V}]×100 (1)
を計算して求められる充填率が19%以下のものであることが好ましい。
【0011】
さらに、上記本発明の複合酸化物の製造方法及び上記本発明の複合酸化物においては、前記第二金属がセリウム、プラセオジム及びテルビウムのうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。また、このような第二金属としては、ランタン、ネオジム、ガドリニウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム、ハフニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の添加元素を更に含有するものがより好ましい。
【0012】
また、本発明の排ガス浄化触媒は、上記の本発明の複合酸化物からなる担体と、該担体に担持された触媒活性種とからなることを特徴とするものである。また、このような本発明の排ガス浄化触媒においては、前記触媒活性種が貴金属及び貴金属以外の遷移元素の酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0013】
なお、本発明の複合酸化物、複合酸化物の製造方法及び排ガス浄化用触媒によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明の複合酸化物の製造方法においては、マトリックス金属酸化物粒子と酸素吸放出金属酸化物粒子の両者のゼータ電位が同じ極性を持ち(条件(A))且つ前記第一粒子及び前記第二粒子のうちの少なくとも一方の粒子のゼータ電位の絶対値が30mV以上である(条件(B))という条件を満たすようなpH条件を維持しながら、溶媒の存在下において前記第一粒子と前記第二粒子と混合する。このようにpH条件を維持することで、溶媒中において前記第一粒子と前記第二粒子の分散性が非常に高度なものとなる。また、このような条件下において前記第一粒子と前記第二粒子とを混合することで、用いた各粒子の平均粒子径を十分に維持しつつ前記第二粒子の周囲に前記第一粒子が配置されていき、前述のような凝集体が得られるものと推察される。そして、このような凝集体を乾燥後、焼成することで、核となる前記酸素吸放出金属酸化物粒子と前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を覆っている前記マトリックス金属酸化物粒子とからなる複合酸化物を得ることが可能となるものと推察される。一方、上記特許文献1に記載のような従来の複合酸化物の製造方法においては、アルミナ粒子とランタン等の他の粒子とを混合する際のpH条件は、実施例等で採用されている方法を検討すると各粒子のゼータ電位が30mV未満となるかあるいは反対の極性を有するようなpH条件で混合されているものと推察される(本発明者らの計算によるとpH7から若干塩基側のpHとなるような条件下でアルミナ粒子と他の粒子とが混合されており、この場合ゼータ電位は反対の極性を有するものと推察される。)。そして、このようなpH条件においては、アルミナ粒子と他の粒子の分散性が必ずしも十分なものとはならず、得られる複合酸化物中においてアルミナ粒子と前記他の粒子が必ずしも十分に分散された状態とならない。そのため、上記特許文献1に記載のような従来の製造方法を採用して得られる複合酸化物は触媒の担体として用いた場合に必ずしも十分な触媒活性を得ることができなかったものと推察される。
【0014】
また、本発明の複合酸化物は、前記酸素吸放出金属酸化物粒子を核として、その核の周囲を覆うように前記マトリックス金属酸化物粒子が配置された構造をとる。すなわち、本発明の複合酸化物は、前記マトリックス金属酸化物粒子が数珠状に連結することにより形成される球状の多孔性マトリックスと、その多孔性マトリックスのナノ細孔内に前記酸素吸放出金属酸化物粒子が取り込まれたような構造をとる。そのため、本発明の複合酸化物は、これを触媒の担体として利用し、高温に晒された場合においても、前記マトリックス金属酸化物粒子を障壁として前記酸素吸放出金属酸化物粒子同士の粒成長が抑制される。また、本発明においては、前記酸素吸放出金属酸化物粒子と前記マトリックス金属酸化物粒子とが異なる種類の金属酸化物からなるため、その界面において前記各粒子の結合が発生することがない。また、このような複合酸化物においては、前記構造を有するとともに、前記マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径が5〜50nmの範囲にあり且つ前記酸素吸放出金属酸化物粒子の平均粒子径が前記マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径の1/5〜1倍の範囲にあるため、触媒活性種が担持される位置(担持場)が前記マトリックス金属酸化物粒子と前記酸素吸放出金属酸化物粒子との界面になり易いものと推察される。更に、このような金属の種類が異なる酸化物粒子同士の界面においては、その種類が同じ粒子同士の界面に比べて表面エネルギーの差が大きい。従って、このような前記マトリックス金属酸化物粒子と前記酸素吸放出金属酸化物粒子との界面に触媒活性種が担持されると、触媒としての利用時に触媒活性種と担体との間の電子の授受が容易となるため触媒活性が十分に向上されるものと推察される。更に、上述のように前記酸素吸放出金属酸化物粒子と前記マトリックス金属酸化物粒子との界面においては各粒子同士の結合が発生しないため、このような界面に担持された触媒活性種が担体となる前記複合酸化物中に取り込まれることがなく、触媒活性を十分に維持できるものと推察される。これに対して、上記特許文献2に記載のような従来の複合酸化物においては、複合酸化物の構造は、酸素吸放出が可能な金属酸化物粒子の分散性は高いものの、その金属酸化物粒子の周囲をアルミナのアモルファス膜又は非常に微細な微粒子が被覆した構造となっている。そのため、このような従来の複合酸化物に触媒活性種を担持させた場合には、外側に被覆されたアルミナにのみ触媒活性種が担持されることとなり、金属酸化物粒子とアルミナとの界面には触媒活性種が担持されない。そのため、上記特許文献2に記載のような従来の複合酸化物は貴金属を担持した場合に必ずしも十分な触媒活性が得られなかったものと推察される。
【0015】
このように、本発明の複合酸化物においては、前記マトリックス金属酸化物粒子からなる多孔性マトリックスの細孔中に前記酸素吸放出金属酸化物粒子が配置され、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の分散性を十分に担保しつつ前記マトリックス金属酸化物粒子と前記酸素吸放出金属酸化物粒子との界面において触媒活性種を担持することが可能であるため、貴金属等の触媒活性種を担持した場合に十分に高度な触媒活性を得ることが可能となるものと推察される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、貴金属等の触媒活性種を担持した場合に十分に高度な触媒活性を得ることを可能とする複合酸化物を効率よく製造することが可能な複合酸化物の製造方法、その製造方法を採用して得られる複合酸化物、並びに、その複合酸化物を担体として用いて十分に高度な触媒活性を有する排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
先ず、本発明の複合酸化物の製造方法について説明する。すなわち、本発明の複合酸化物の製造方法は、第一金属の酸化物からなるマトリックス金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有し且つ平均粒子径が5〜50nmの範囲にある第一粒子と、前記第一金属以外の酸素吸放出能を有する第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有し且つ前記第一粒子の平均粒子径の1/5〜1倍の範囲にある平均粒子径を有する第二粒子とを、下記条件(A)及び(B):
条件(A):マトリックス金属酸化物粒子と酸素吸放出金属酸化物粒子の両者のゼータ電位が同じ極性を持つこと、
条件(B):前記第一粒子及び前記第二粒子のうちの少なくとも一方の粒子のゼータ電位の絶対値が30mV以上であること、
を満たすようなpH条件を維持しながら溶媒の存在下において混合し、核となる前記第二粒子と前記第二粒子の周囲を覆っている前記第一粒子とからなる凝集体を得る工程(第一工程)と、
前記凝集体を乾燥させた後、焼成することにより、核となる前記酸素吸放出金属酸化物粒子と、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を覆っている前記マトリックス金属酸化物粒子とからなる複合酸化物を得る工程(第二工程)と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0019】
先ず、このような複合酸化物の製造方法に用いる第一粒子及び第二粒子について説明する。このような第一粒子は、第一金属の酸化物からなるマトリックス金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有する。このような第一金属としては、その金属の酸化物を排ガス浄化用触媒の担体に用いることが可能なものであればよく特に制限されないが、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)、マグネシウム(Mg)及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも1種を含有するものがより好ましい。このような第一金属の中でも、耐熱性に優れるという観点から、Al、Ti、Si及びZrからなる群から選択される少なくとも1種を含有するものが更に好ましい。また、このような第一金属の酸化物は、上述のような第一金属の中から選択される1種の金属(単体)からなる酸化物であってもよく、2種以上の金属が複合化された酸化物や2種以上の金属の酸化物の固溶体あるいは2種以上の金属の合金の酸化物であってもよい。
【0020】
また、このような第一金属の酸化物からなるマトリックス金属酸化物粒子の前駆体としては、これを酸化(例えば、大気中での焼成等により酸化)することで第一金属の酸化物からなる前記マトリックス金属酸化物粒子を形成させることが可能な第一金属の化合物であればよく特に制限されない。このような第一金属の化合物としては、例えば、前記第一金属の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、水酸化物、水酸化物ゾル、酸化物ゾル等が挙げられる。
【0021】
また、前記第一粒子の平均粒子径は、5〜50nm(より好ましくは5〜30nm)の範囲にある。このような第一粒子の平均粒子径が前記範囲外となると、得られる複合酸化物中のマトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径を5〜50nmの範囲とすることができない。なお、本発明に用いる第一粒子は前記マトリックス金属酸化物粒子又はその前駆体の一次粒子からなるものである。また、このような一次粒子の平均粒子径の測定方法としては特に制限されないが、粒子計測装置を用いて、前記溶媒中における前記マトリックス金属酸化物粒子又はその前駆体の一次粒子(コロイド粒子)の平均粒子径を測定してもよいし、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、平均粒子径を見積もってもよい。
【0022】
また、前記第二粒子は、酸素吸放出能を有する第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有する。このような酸素吸放出能を有する第二金属としては、Ce、Pr、Sm、Eu、Tb、Tm、Yb、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。また、このような第二金属の酸化物の酸素吸放出能としては、バルク酸素によるものと表面酸素に由来するものとに大別できる。このような第二金属としては、その酸化物のバルク酸素と表面酸素の酸素放出能のバランスが良好であるという観点から、Ce、Pr及びTbからなる群から選択される少なくとも一種がより好ましく、Ceが特に好ましい。なお、このような第二金属の酸化物は、上述のような第二金属の中から選択される1種の金属(単体)からなる酸化物であってもよく、2種以上の金属が複合化された酸化物や2種以上の金属の酸化物の固溶体あるいは2種以上の金属の合金の酸化物であってもよい。また、このような第二金属としては、上述のような第二金属の中から、前記第一金属として選択された金属以外の金属種を選択して用いることが好ましい。
【0023】
また、このような第二金属がCe、Pr及びTbからなる群から選択される少なくとも一種である場合には、酸素吸放出能(特に酸素活性種の移動度)をより向上させると共に第二金属の酸化物粒子(酸素吸放出金属酸化物粒子:例えばCeO粒子)の粗大化をより確実に防止するという観点から、第二金属がLa、Nd、Gd、Zr、Y、Ti,V、Hf、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種(特に好ましくはZr、La及びNdのうちの少なくとも1種)を添加元素(添加金属)として更に含有していることがより好ましい。このようなCe、Pr及びTbからなる群から選択される少なくとも一種を含む第二金属の酸化物粒子が前記添加成分を含有する場合においては、複合酸化物中の第二金属と添加成分の合計量(金属モル数換算)に対する添加成分の含有量が5〜80mol%であることが好ましく、10〜60mol%であることがより好ましい。
【0024】
また、このような第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子の前駆体としては、これを酸化(例えば、大気中での焼成等により酸化)することで第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子を形成させることが可能な第二金属の化合物であればよく特に制限されない。このような第二金属の化合物としては、例えば、前記第二金属の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、水酸化物、水酸化物ゾル、酸化物ゾル等が挙げられる。
【0025】
また、前記第二粒子の平均粒子径は、前記第一粒子の平均粒子径の1/5〜1倍(より好ましくは1/3〜1倍)の範囲にある。このような第二粒子の平均粒子径が前記範囲内外となると、得られる複合酸化物中において、酸素吸放出金属酸化物粒子の平均粒子径をマトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径の1/5〜1倍とすることができなくなる。なお、本発明に用いる第二粒子は、前記酸素吸放出金属酸化物粒子又はその前駆体の一次粒子からなるものである。
【0026】
次に、本発明の複合酸化物の製造方法の前記第一工程及び前記第二工程について説明する。このような第一工程は、下記条件(A)及び(B):
条件(A):前記第一粒子と前記第二粒子の両者のゼータ電位が同じ極性を持つこと、
条件(B):前記第一粒子及び前記第二粒子のうちの少なくとも一方の粒子のゼータ電位の絶対値が30mV以上であること、
を満たすようなpH条件を維持しながら溶媒の存在下において前記第一粒子と前記第二粒子とを混合し、核となる前記第二粒子と前記第二粒子の周囲を覆っている前記第一粒子とからなる凝集体を得る工程である。
【0027】
このように第一の工程においては、前記溶媒中において前記第一粒子と前記第二粒子の両者のゼータ電位が同じ極性を持つ必要がある(条件(A))。このようなゼータ電位が同じ極性にない場合には、第一粒子と第二粒子が静電的な引力によって凝集しやすく、充填率が大きくなる。
【0028】
また、前記第一工程においては、前記溶媒中において前記第一粒子及び前記第二粒子のうちの少なくとも一方の粒子のゼータ電位の絶対値が30mV以上である必要がある(条件(B))。このような条件(A)及び(B)を満たさない場合には、前記溶媒中において前記第一粒子及び前記第二粒子の分散性が十分なものとならず、十分な細孔が形成されなくなる。なお、このような第一粒子又は前記第二粒子のゼータ電位は、公知のゼータ電位計測装置を用いて前記溶媒中の各粒子のゼータ電位を測定することにより求めることができる。
【0029】
また、このような条件(A)及び(B)を満たすpH条件は、用いる第一粒子及び第二粒子の種類や溶媒の種類等によっても異なるものであり、一概には言えない。例えば、前記第一粒子としてアルミナを用い、第二粒子としてセリアを用い且つ溶媒として水を用いる場合には、水中においてpHを4〜6(より好ましくは5程度)とすることで条件(A)及び(B)を満たす。更に、このようなpH条件としては、前記第一粒子及び前記第二粒子が実質的に溶解しないpH条件を下限値とすることが好ましい。このようなpH条件を満たさなければ、前記第一粒子及び前記第二粒子が溶解してしまい、目的とする複合酸化物が得られなくなる傾向にある。
【0030】
また、前記溶媒としては特に制限されず、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の単独又は混合系溶媒)等の各種溶媒が挙げられ、水が特に好ましい。また、このような溶媒においては、pH調整剤を適宜添加することで上記pH条件を維持してもよい。このようなpH調製剤としては、一般的な酸やアルカリを用いればよく特に制限されず、例えば、NaOH、KOH、NH、HNO、HSO、CHCOOHを用いることができる。
【0031】
また、第一の工程においては、前記溶媒の存在下においてpH条件を維持しながら前記第一粒子と前記第二粒子とを混合する。このような混合工程における圧力、温度、混合時間等は特に制限されないが、5℃から溶媒が蒸発する温度以下の範囲(より好ましくは室温(25℃)程度から溶媒の沸点以下の範囲)の温度、0.1〜0.2Pa程度の圧力、0.5〜5時間程度の条件下で記第一粒子と前記第二粒子とを混合することが好ましい。
【0032】
また、前記第一粒子と前記第二粒子とを混合する方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、メカニカルスターラーを用いた撹拌等が挙げられる。また、このような混合方法としては、例えば、予め前記第一粒子の分散液と前記第二粒子の分散液とを撹拌して混合液を得た後に、前記条件(A)〜(B)を満たすように前記分散液のpH条件を変更させて、その後、前記pH条件を維持しながら前記分散液を撹拌して前記第一粒子と前記第二粒子とを混合する方法を採用してもよい。
【0033】
さらに、このような第一工程においては、核となる前記第二粒子と前記第二粒子の周囲を覆っている前記第一粒子とからなる凝集体が形成される。すなわち、このような第一工程においては、前記第一粒子が凝集して形成される多孔性の凝集物(マトリクス)の細孔内に、前記第二粒子が取り込まれて配置されているような構造体が形成される。なお、ここにいう凝集体とは、前記第一粒子の一次粒子と前記第二粒子の一次粒子とからなり且つ前記第二粒子の一次粒子が前記第一粒子の一次粒子により覆われてなる二次粒子からなるものをいう。なお、本発明においては、前記凝集体が形成される際に、前記二次粒子(凝集体)が集合して高次の凝集体(集合体)が形成されていてもよい。このような集合体においては、第二粒子が十分に高度に分散される。
【0034】
また、このような第一粒子の一次粒子と前記第二粒子の一次粒子とからなる二次粒子(凝集体)の平均粒子径としては特に制限されないが、50nm〜1μmであることが好ましく、50〜500nmであることがより好ましい。このような凝集体の平均粒子径が前記範囲外では、目的とする複合酸化物を製造することが困難となる傾向にある。
【0035】
次に、第二工程について説明する。第二工程においては、前記凝集体を乾燥させた後、焼成することにより、核となる前記酸素吸放出金属酸化物粒子と、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を覆っている前記マトリックス金属酸化物粒子とからなる複合酸化物を得る。
【0036】
このような凝集体を乾燥させる工程は特に制限されず、例えば、凝集体に付着した前記溶媒を蒸発させることが可能な温度条件下において加熱する方法が挙げられる。このような乾燥工程としては制限されないが、80〜450℃の温度条件下において1〜48時間程度加熱して乾燥する方法を採用することが好ましい。このような乾燥の際の温度条件及び乾燥時間が前記下限未満では、乾燥の効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、急激な乾燥により凝集が進行してしまい、目的とする複合酸化物が得られなくなる傾向にある。なお、このような乾燥工程においては、前記溶液中において凝集体を得た後に、その凝集体を含む混合液から溶媒を蒸発除去させて凝集体を乾燥させてもよく、あるいは前記溶液中において凝集体を製造させた後に前記凝集体をろ過により取り出し、その後加熱して乾燥させてもよい。
【0037】
また、前記凝集体を焼成する際の条件は特に限定されないが、酸化雰囲気(例えば、空気)中において500〜1200℃で1〜10時間程度かけて焼成することが好ましい。このような焼成の際の温度及び時間の条件が前記下限未満では、製造された複合体が十分に安定な酸化物とならない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、過剰な1次粒子の成長が起こり、比表面積が低下する傾向にある。
【0038】
そして、このような第二工程によって、核となる前記酸素吸放出金属酸化物粒子と、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を覆っている前記マトリックス金属酸化物粒子とからなる複合酸化物を得ることができる。
【0039】
また、このような複合酸化物中の前記マトリックス金属酸化物粒子は、前記第一金属の酸化物の一次粒子からなる。また、このようなマトリックス金属酸化物粒子(一次粒子)の平均粒子径は5〜50nm(より好ましくは5〜30nm)の範囲にある。このようなマトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径が前記下限未満では、前記第二金属の酸化物を取り込むための十分な細孔を形成できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、形成される細孔が大き過ぎ、取り込まれる第二金属の酸化物の数が多くなり過ぎて粒成長し易くなる傾向にある。
【0040】
また、前記複合酸化物中の前記酸素吸放出金属酸化物粒子は、前記第二金属の酸化物の一次粒子からなる。また、前記酸素吸放出金属酸化物粒子(一次粒子)の平均粒子径は、前記マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径の1/5〜1倍(より好ましくは1/3〜1倍)の範囲にある。すなわち、このような複合酸化物においては、前記マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径と前記酸素吸放出金属酸化物粒子の平均粒子径との比率([マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径]:[酸素吸放出金属酸化物粒子の平均粒子径])が1:1〜5:1(より好ましくは1:1〜3:1)の範囲にある。このような酸素吸放出金属酸化物粒子の平均粒子径の比率が前記下限未満では、1つの細孔中に入る酸素吸放出金属酸化物粒子の数が多過ぎ、粒成長が進行する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸素吸放出金属酸化物粒子がマトリクスの細孔内に入ることができなくなる傾向にある。
【0041】
また、前記複合酸化物は、前記酸素吸放出金属酸化物粒子を核として、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を前記マトリックス金属酸化物粒子が覆った構造となる、すなわち、前記複合酸化物は、前記マトリックス金属酸化物粒子が数珠状に連結することにより形成される球状の多孔性マトリックスと、その多孔性マトリックスのナノ細孔内に前記酸素吸放出金属酸化物粒子が取り込まれたような構造をとる。前記複合酸化物においては、このような構造を有するため、これを触媒の担体として利用し、高温に晒された場合においても、前記マトリックス金属酸化物粒子を障壁として前記酸素吸放出金属酸化物粒子同士の粒成長が抑制される。また、前記マトリックス金属酸化物粒子及び前記酸素吸放出金属酸化物粒子はその平均粒子径がそれぞれ前記範囲にあることから、前記マトリックス金属酸化物粒子からなる層(前記酸素吸放出金属酸化物粒子の外側を覆う前記マトリックス金属酸化物粒子の凝集物からなる多孔性マトリクス)の空隙に排ガス成分を通過させることが可能であり、これにより十分な触媒活性を発揮させることが可能である。このような複合酸化物においては、前記多孔性マトリクスが空隙の形成された構造となるため、前記複合酸化物に触媒活性種を担持させた場合には、触媒活性種の担持場が前記マトリックス金属酸化物粒子と前記酸素吸放出金属酸化物粒子との界面になり易い傾向にある。
【0042】
このような複合酸化物中の前記マトリックス金属酸化物粒子と前記酸素吸放出金属酸化物粒子との質量比(前記第一金属の酸化物の質量:前記第二金属の酸化物の質量)としては、9:1〜1:9の範囲にあることが好ましく、3:1〜1:4の範囲にあることがより好ましい。前記マトリックス金属酸化物粒子の質量比が前記下限未満では、前記第二金属の酸化物の粒成長を十分に抑制できなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、十分な酸素吸放出性能が発揮されなくなる傾向にある。
【0043】
さらに、このような複合酸化物中の前記マトリックス金属酸化物粒子と前記酸素吸放出金属酸化物粒子とのモル比(前記第一金属の酸化物のモル量:前記第二金属の酸化物のモル量)としては、15:1〜1:5の範囲にあることが好ましく、5:1〜1:3の範囲にあることがより好ましい。前記マトリックス金属酸化物粒子のモル比が前記下限未満では、前記第二金属の酸化物の粒成長を十分に抑制できなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、十分な酸素吸放出性能が発揮されなくなる傾向にある。
【0044】
また、このような複合酸化物の平均細孔径としては特に制限されないが、2〜100nmであることが好ましく、5〜50nmであることがより好ましい。このような凝集体の平均細孔径が前記下限未満では、排ガスと接触させた際に排ガスの拡散が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、凝集体の構造が不安定となり、耐熱性が低下する傾向にある。
【0045】
さらに、このような複合酸化物の細孔容量としては特に制限されないが、0.3〜5cc/gであることが好ましく、0.4〜3cc/gであることがより好ましい。このような凝集体の細孔の細孔容量が前記下限未満では、排ガスと接触させた際に排ガスの拡散が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐熱性が低下する傾向にある。
【0046】
また、このような複合酸化物の比表面積としては特に制限されないが、20〜200m/gであることが好ましく、30〜150m/gであることがより好ましい。このような凝集体の細孔の比表面積が前記下限未満では、触媒金属を担持する際の分散が十分ではなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、複合酸化物の耐熱性が不十分となる傾向にある。なお、このような凝集体の平均細孔径、細孔の細孔容量及び比表面積は水銀圧入法(ポロシメータ法)により測定することができる。
【0047】
また、このような複合酸化物としては、理論密度TDの値と細孔容積Vの値を用いて、下記式(1):
[PF(充填率:%)]=[(1/TD)/{(1/TD)+V}]×100 (1)
を計算して求められる充填率が19%(より好ましくは15%)以下のものであることが好ましい。このような充填率が前記上限を超えると、凝集が進行し、耐熱性が低下するとともに触媒性能が低下する傾向にある。なお、このような理論密度(TD)は、格子定数と組成から計算することができる。例えば、アルミナ粒子(理論密度は3.6g/cm):セリア粒子(理論密度は7.3g/cm)の質量比が1:3の複合酸化物の理論密度は、各粒子の理論密度の逆数に各粒子の含有比率(質量%)を乗じて、これらを足しあわせ、更にその逆数をとることにより約5.8g/cm(1/[{(1/3.6)×0.25}+{(1/7.3)×0.75}])と算出される。
【0048】
以上、本発明の複合酸化物の製造方法について説明したが、以下、本発明の複合酸化物について説明する。本発明の複合酸化物は、第一金属の酸化物からなるマトリックス金属酸化物粒子と、前記第一金属以外の酸素吸放出能を有する第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子とを含有する複合酸化物であって、
前記第一金属がアルミニウム、チタン、ケイ素及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含有し、
前記マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径が5〜50nmの範囲にあり、
前記酸素吸放出金属酸化物粒子の平均粒子径が、前記マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径の1/5〜1倍の範囲にあり、且つ
核となる前記酸素吸放出金属酸化物粒子と、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を覆っている前記マトリックス金属酸化物粒子とからなること、
を特徴とするものである。
【0049】
このような本発明の複合酸化物は、その複合酸化物中の第一金属がアルミニウム、チタン、ケイ素及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含有するものである以外は、上記本発明の複合酸化物の製造方法を採用して得られる複合酸化物と同様のものである。なお、このような本発明の複合酸化物中の第一金属は、上記本発明の複合酸化物の製造方法に用いられるマトリックス金属酸化物粒子中の第一金属として好適なものである。
【0050】
次に、このような本発明の複合酸化物を用いた本発明の排ガス浄化用触媒について説明する。本発明の排ガス浄化用触媒は、上記本発明の複合酸化物からなる担体と、該担体に担持された触媒活性種とからなることを特徴とするものである。
【0051】
このような触媒活性種としては、目的とする触媒活性に寄与する物質であればよく特に制限されないが、貴金属及び貴金属以外の遷移元素の酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。このような貴金属の元素としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、銀、イリジウム、白金、金が挙げられる。このような貴金属としては、より高い三元活性が得られるという観点から、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金(白金族元素)からなる群から選択される少なくとも1種を含有するものが好ましく、白金、パラジウム及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種を含有するものがより好ましい。なお、これらの貴金属は1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
また、このような触媒活性種を前記担体に担持せしめる方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、貴金属の塩(例えば、ジニトロジアミン塩)や錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液を前記担体に接触せしめた後に乾燥し、焼成する方法を採用してもよい。なお、本発明においては、前記触媒活性種は、前記複合酸化物中の前記マトリックス金属酸化物粒子と前記酸素吸放出金属酸化物粒子との界面に担持され易い傾向にある。このような触媒活性種の担持位置は、球面収差(Cs)補正機能を備える走査透過型電子顕微鏡(CsSTEM)を用いることにより確認することができる。
【0053】
また、本発明の排ガス浄化用触媒の形態は特に制限されず、例えば、ペレット等の所定の形状に成形して使用してもよくあるいは触媒用基材に担持して用いてもよい。このような基材は特に制限されず、例えば、モノリス担体基材(ハニカムフィルタ、高密度ハニカム等)、フォームフィルタ基材、ペレット状基材、プレート状基材等が好適に採用される。また、このような基材の材質も特に制限されないが、排ガス浄化用触媒等として用いる場合は、コージエライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。
【0054】
なお、このような本発明の排ガス浄化用触媒は、十分に優れた触媒活性を有するため、内燃機関(例えば自動車のエンジン)から排出される排ガスを浄化するための触媒等として特に有用である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
先ず、平均粒子径8nmのセリア粒子が分散されたセリア分散溶液(セリア含有量15wt%、pH約4)1500gに対して、球状のアルミナ粒子からなる粉末75g(アルミナ粒子の平均粒子径10nm)を、メカニカルスターらーで攪拌しながら徐々に加え、すべてのアルミナ粒子を添加した後にpHを約5付近(4〜5.5)に保ってそのまま1時間攪拌して混合することにより、セリア粒子の周囲に前記アルミナ粒子が覆うようにして配置されてなる凝集体が分散された混合液を得た。なお、このような混合時のpH条件下におけるアルミナ粒子のゼータ電位の絶対値は30mV以上となっており(セリアのゼータ電位の絶対値は8mV以上)、その極性は共に正であった。次に、前記混合液中から溶媒(水)を蒸発させて除去(110℃で24時間加熱)した後、得られた凝集体を400℃で5時間加熱して乾燥せしめた後、更に、600℃で5時間焼成することにより、複合酸化物を得た。なお、得られた複合酸化物中におけるセリアとアルミナの混合比は、質量比で75:25である。
【0057】
次いで、このようにして得られた複合酸化物に対して、Pt(NO(NH水溶液を用いて複合酸化物に対するPtの担持量が2質量%となるようにしてPtを担持し、300℃で3時間焼成することにより排ガス浄化用触媒を得た。なお、このようにして得られた排ガス浄化用触媒は、直径が0.5〜1mmのペレット状の触媒となるように圧粉成型した。
【0058】
(比較例1)
硝酸アルミニウム9水和物をイオン交換水に混合し、プロペラ撹拌器で5分間撹拌して溶解した後、更に硝酸セリウム水溶液を混合し、さらに5分間撹拌して混合水溶液を得た。次に、得られた混合水溶液にアンモニア水を加え、さらに10分間撹拌して共沈法により形成された沈殿物を含む水溶液を得た。次いで、2気圧の加圧下にて120℃で2時間熱処理する熟成工程を行い、沈殿物を熟成させた。その後、前記沈殿物を含む水溶液を100℃/時間の昇温速度で加熱し、400℃で5時間加熱して比較のための複合酸化物を得た。なお、このような複合酸化物中のセリアとアルミナの混合比は、質量比で75:25となるようにした。また、沈殿物を含む水溶液(スラリー)の調製時のpHは12程度であった。このようなpH条件下においては、アルミナ及びセリアは共に負のゼータ電位を示す。
【0059】
次に、複合酸化物として前記比較のための複合酸化物を用いた以外は実施例1で採用した方法と同様の方法を採用して比較のための排ガス浄化用触媒(ペレット状)を製造した。
【0060】
(比較例2)
前記セリア分散溶液の代わりに、硝酸セリウム水溶液をアンモニア水で中和して得られた水酸化セリウムが分散された水溶液を用いる以外は、実施例1と同様にして比較のための複合酸化物及び排ガス浄化用触媒を製造した。なお、このような複合酸化物中のセリアとアルミナの混合比は、質量比で75:25となるようにした。また、水酸化セリウムとアルミナ粒子とを混合する際のpHは7程度であった。このようなpH条件下においては、アルミナ及びセリアのゼータ電位の絶対値は30mV未満である。
【0061】
[実施例1及び比較例1〜2で得られた複合酸化物及び排ガス浄化用触媒の特性評価]
<複合酸化物の比表面積及び細孔容量の測定>
水銀ポロシメータを用いて実施例1及び比較例1〜2で得られた複合酸化物の細孔容量を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0062】
<複合酸化物の充填率(%)の測定>
実施例1及び比較例1〜2で得られた複合酸化物の充填率(%)を測定した。すなわち、先ず、セリアとアルミナの理論密度の値(セリア:7.3g/cm、アルミナ:3.6g/cm)と、セリアとアルミナの組成比(質量比)とから、実施例1及び比較例1〜2で得られた複合酸化物の理論密度を計算した。このような計算の結果、実施例1及び比較例1〜2で得られた複合酸化物の理論密度5.8g/cmであった。次に、各複合酸化物の理論密度TD(5.8g/cm)と上記測定により求められた各複合酸化物の細孔容量Vとを用いて、下記式:
[PF(充填率:%)]=[(1/TD)/{(1/TD)+V}]×100
を計算し、各複合酸化物の充填率をそれぞれ求めた。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
<複合酸化物の透過型電子顕微鏡による観察>
実施例1で得られた複合酸化物を透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。得られた結果のうち、実施例1で得られた複合酸化物のTEM写真を図1に示し、図1中の四角8で囲った領域の拡大図を図2に示し、図2に示すTEM写真中の丸(○)で囲った領域のEDS元素分析結果を表2に示す。なお、図2中の丸で囲った領域の数字は測定点の番号を示す。
【0065】
【表2】

【0066】
このような図1〜2及び表2に示す結果からも明らかなように、本発明の複合酸化物(実施例1)においては、セリア粒子の一次粒子を核として、その周囲をアルミナ粒子の一次粒子が覆うようにして配置された構造を有することが確認された。すなわち、本発明の複合酸化物においては、数珠状にアルミナ粒子が連結して多孔体(多孔性マトリックス)を形成しており、その多孔体の細孔内にセリア粒子が取り込まれたような構造となっていることが分かった。これに対して比較例1で得られた複合酸化物においては、特開2002−211908号公報からも明らかなように、CeO粒子の表面が非晶質Alあるいはγ−Alの微小結晶の状態のアルミナのコート層により被覆されている。なお、比較例2で得られた複合酸化物においては、アルミナ粒子とセリア粒子がそれぞれアルミナ粒子の凝集物(2次粒子)とセリア粒子の凝集物(2次粒子)とが形成されているため、表1に示す比表面積も十分なものとはならなったものと推察される。
【0067】
<排ガス浄化用触媒の走査透過型電子顕微鏡(CsSTEM)による観察>
実施例1で得られた排ガス浄化用触媒を、球面収差(Cs)補正機能を備える走査透過型電子顕微鏡(CsSTEM)により測定した。得られた結果(CsSTEM写真)を図3に示す。なお、走査透過型電子顕微鏡による測定においては、セリアを緑色とし、アルミナを赤色とし、白金を青色としてマッピングを行った。
【0068】
このような走査透過型電子顕微鏡による測定結果(図3参照)からも明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1)においては、セリア粒子とアルミナ粒子の界面に多くの貴金属が担持されていることが分かった。なお、比較例1で得られた排ガス浄化用触媒においては、セリア粒子がアルミナに被覆されているため、白金はアルミナのコート層上にのみ担持され、実施例1及び比較例1で得られた触媒を比較すると貴金属の担持されている位置関係が異なるものと推察される。
【0069】
<排ガス浄化用触媒のPt粒子径の測定>
実施例1及び比較例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒中のPt粒子の平均粒子径を特開2004−340637号公報に記載されているCO化学吸着法によって求めた。得られた結果を表4に示す。
【0070】
<実施例1及び比較例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒の三元活性の評価>
実施例1及び比較例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒をそれぞれ1gずつ用い、これを直径17mm(内径15mm)の石英反応管に充填し(触媒充填部長:60mm)、これを固定床流通式評価装置に配置した。その後、前記反応管上部入口から下記表3に示す組成のストイキ定常モデルガスを流入させた。
【0071】
【表3】

【0072】
なお、前記モデルガスは、流量7L/分で温度を15℃/分の昇温速度で100℃から500℃まで昇温しながら流入した。そして、前記排ガス管の出口から排出される出ガス中の成分を分析し、供給したモデルガス中のNO、CO及びCが50%浄化された温度(以下、このような50%浄化温度を「T50」と表す。)を求めた。得られた結果を表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
表4に示す結果からも明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1)は、比較のための排ガス浄化用触媒(比較例1〜2)よりも十分に高度な三元活性を有することが確認された。
【0075】
このような結果(複合酸化物の特性、T50並びにPt粒子径等の結果)から、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1)においては、Ptがアルミナ粒子とセリア粒子の接触界面に担持されているため、Ptとの電子のやり取りが容易に起こり、比較のための排ガス浄化用触媒(比較例1〜2)と比較して十分に高い触媒活性が得られたものと推察される。すなわち、異なる金属の酸化物粒子同士の界面の有する表面エネルギーは、同種の金属の酸化物粒子同士の界面よりも高く、これによりPtと担体との電子のやり取りが容易に起こり、十分に触媒が活性化されたため、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1)が比較のための排ガス浄化用触媒(比較例1〜2)よりも高い触媒活性が得られたものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、貴金属等の触媒活性種を担持した場合に十分に高度な触媒活性を得ることを可能とする複合酸化物を効率よく製造することが可能な複合酸化物の製造方法、その製造方法を採用して得られる複合酸化物、並びに、その複合酸化物を担体として用いて十分に高度な触媒活性を有する排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。
【0077】
したがって、本発明の複合酸化物の製造方法は、例えば、自動車等の内燃機関から排出される排ガスを浄化するための触媒に用いる担体としての複合酸化物を製造するための方法等として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1で得られた複合酸化物の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図2】実施例1で得られた複合酸化物の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。なお、図2は、図1で示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真の一部の領域を拡大した写真である。
【図3】実施例1で得られた複合酸化物の走査透過型電子顕微鏡(CsSTEM)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一金属の酸化物からなるマトリックス金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有し且つ平均粒子径が5〜50nmの範囲にある第一粒子と、前記第一金属以外の酸素吸放出能を有する第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子及びその前駆体のうちのいずれか1種を含有し且つ前記第一粒子の平均粒子径の1/5〜1倍の範囲にある平均粒子径を有する第二粒子とを、下記条件(A)及び(B):
条件(A):前記第一粒子と前記第二粒子の両者のゼータ電位が同じ極性を持つこと、
条件(B):前記第一粒子及び前記第二粒子のうちの少なくとも一方の粒子のゼータ電位の絶対値が30mV以上であること、
を満たすようなpH条件を維持しながら溶媒の存在下において混合し、核となる前記第二粒子と前記第二粒子の周囲を覆っている前記第一粒子とからなる凝集体を得る工程と、
前記凝集体を乾燥させた後、焼成することにより、核となる前記酸素吸放出金属酸化物粒子と、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を覆っている前記マトリックス金属酸化物粒子とからなる複合酸化物を得る工程と、
を含むことを特徴とする複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記複合酸化物が理論密度TDと細孔容積Vとから下記式(1):
[PF(充填率:%)]=[(1/TD)/{(1/TD)+V}]×100 (1)
を計算して求められる充填率が19%以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記第一金属がアルミニウム、チタン、ケイ素及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記第二金属がセリウム、プラセオジム及びテルビウムのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記第二金属がランタン、ネオジム、ガドリニウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム、ハフニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の添加元素を更に含有することを特徴とする請求項4に記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
第一金属の酸化物からなるマトリックス金属酸化物粒子と、前記第一金属以外の酸素吸放出能を有する第二金属の酸化物からなる酸素吸放出金属酸化物粒子とを含有する複合酸化物であって、
前記第一金属がアルミニウム、チタン、ケイ素及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含有し、
前記マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径が5〜50nmの範囲にあり、
前記酸素吸放出金属酸化物粒子の平均粒子径が、前記マトリックス金属酸化物粒子の平均粒子径の1/5〜1倍の範囲にあり、且つ
核となる前記酸素吸放出金属酸化物粒子と、前記酸素吸放出金属酸化物粒子の周囲を覆っている前記マトリックス金属酸化物粒子とからなること、
を特徴とする複合酸化物。
【請求項7】
前記複合酸化物が理論密度TDと細孔容積Vとから下記式(1):
[PF(充填率:%)]=[(1/TD)/{(1/TD)+V}]×100 (1)
を計算して求められる充填率が19%以下のものであることを特徴とする請求項6に記載の複合酸化物。
【請求項8】
前記第二金属がセリウム、プラセオジム及びテルビウムのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6又は7に記載の複合酸化物。
【請求項9】
前記第二金属がランタン、ネオジム、ガドリニウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム、ハフニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも一種の添加元素を更に含有することを特徴とする請求項8に記載の複合酸化物。
【請求項10】
請求項6〜9のうちのいずれか一項に記載の複合酸化物からなる担体と、該担体に担持された触媒活性種とからなることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項11】
前記触媒活性種が貴金属及び貴金属以外の遷移元素の酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項10に記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−227541(P2009−227541A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77681(P2008−77681)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】