説明

複合酸化物半導体とそれを用いた黄色顔料及び光触媒。

【課題】
無害な金属からなる無機系の黄色顔料を提供する。さらに可視光や紫外光で光触媒特性も有し、有害物質や汚れなどをクリーニングすることもできる黄色顔料を提供する。
【解決手段】
一般式;AxByM(1-x)O(2+2.5y-0.5x)(ただし、0 < x < 0.5, 0 < x/y < 1.1, A はFeまたはFeとGa, Al, In, Y, La,Ceなどの3価の金属からなり、BはNb, Ta、MはTiまたはTiとZr,Ge,Si,Snなどの4価の金属からなる)で表される組成を有する複合酸化物半導体からなることを特徴とする、黄色顔料およびそれを混合した材料によって解決手段とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害金属を含まない酸化チタン−酸化鉄系の複合酸化物半導体とこれを用いた、黄色顔料と光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より無機系黄色顔料としてクロム酸鉛(PbCrO4)、カドミウムイエロー(CdS)、ビスマスバナジウムイエロー(BiVO4)、ニッケルイエロー(TiO2-NiSb2O6)などが用いられてきた。しかし、これらの黄色顔料は有毒物質である、クロム、カドミウム、バナジウム、ニッケルなどを大量に含むため、その使用が制限されてきている。それゆえ、代替可能な黄色顔料の開発が期待されている。
【0003】
非特許文献1ではタンタル系オキシナイトライド(CaLaTaON)で代表されるオキシナイトライドの一部が黄色顔料として報告されている。この黄色顔料は無害な元素からなるが、酸化物のオキシナイトライド化の過程で有毒なアンモニアガスを使う必要があり、また、アンモニアの濃度変化などから色相のばらつきが生じやすい。
【0004】
特許文献1では無毒な金属であるチタンをベースにした黄色顔料として、酸化チタンに過酸化水素処理を施したものが報告されている。しかし、光が当たると徐々に分解して、酸化チタンあるいは水酸化チタンとなり、白色に戻ってしまう。このようにこの材料は耐候性に劣る。
【0005】
また、無害な金属からなる黄色顔料として、鉄系の顔料が報告されている。黄色酸化鉄(FeOOH)もその1つである(特許文献2)が、耐熱性に大きな問題があり、黄色酸化鉄は180℃以上の温度で色調が赤色を帯びるようになる(非特許文献2)。そのため、200℃以上の温度で成型加工されるプラスチック材料には利用できない。
【0006】
さらには、その他の黄色顔料として、Zn,FeあるいはAl,Feを主成分とする複合酸化物黄色顔料が報告されている。Zn,Feを主成分とする黄色顔料は非特許文献3に示されているようにCIE−L*a*b*表色系のL*の値が、37−43程度と非常に低く、明るさに欠ける。樹脂に配合して250℃で加熱すると色合いが激変するという欠点も有している(特許文献3)。また、Al,Fe、を主成分とする黄色顔料も報告されているが、特許文献3に示されているようにCIE−L*a*b*表色系のL*の値が、54−59程度と低く、これも明るさに欠ける。
【0007】
【特許文献1】特開2006−265366
【特許文献2】特開平10−194747
【特許文献3】特開平8−104824
【非特許文献1】M. Jansen and HP. Letschert, Nature, Vol 404, pp.980-982. Macmillan Publishers Limited (2000年4月27日).
【非特許文献2】Y.X. Han, X.S. Ma, H.M. Cao, H.Y. Zhang, Q.F. Wu, Materials Research Bulletin, Vol 39, pp.1159-1166. Elsevier Limited (2004年6月8日).
【非特許文献3】C.S. Xavier, R.A. Candeia , M.I.B. Bernardi , S.J.G. Lima, E. Longo, C.A. Paskocimas, L.E.B. Soledade, A.G. Souza and I.M.G. Santos, Journal of Thermal Analysis and Calorimetry, Vol. 87, pp.709-713. Akademiai Kiado, co-published with Springer Science and Business Media B.V.(2007年3月9日).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような実情に鑑み、無毒な元素から構成され耐熱性が高い酸化チタン−酸化鉄系の複合酸化物半導体を提供し、それを用いた無毒な黄色顔料及び光触媒を提供することを目的とする。
【0009】
また、顔料はプラスチックなど、様々な材料に利用されるが、その付加価値を高めるために汚れにくいことや有害物質の除去機能(たとえば、脱臭など)が必要とされる場合がある。それゆえ、黄色顔料自体に光触媒特性を付与し、紫外光および可視光励起によって引き起こされる光触媒反応により有機有害物質の分解除去や汚れ分解機能をも併せもつ黄色顔料の開発も期待されている。
本発明はこれらの要請に応えようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明1の複合酸化物半導体は、一般式;AxByM(1-x)O(2+2.5y-0.5x)(ただし、0 < x < 0.5, 0 < x/y < 1.1, A はFeまたはFeとGa, Al, In, Y, La,Ceなどの3価の金属からなり、BはNb, Ta、MはTiまたはTiとZr,Ge,Si,Snなどの4価の金属からなる)で表される組成であることを特徴とする。
【0011】
発明2の黄色顔料は、発明1の複合酸化物半導体の粉末からなることを特徴とする。
【0012】
発明3の光触媒は、発明1の複合酸化物半導体の粉末からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
発明1により、耐熱性に優れた複合酸化物半導体を提供できた。
これは、以下の理由により、良好な黄色顔料として利用でき、また、光触媒としても有用なものである。
【0014】
本発明者らは顔料が黄色を呈するように、バンドエンジニアリングを駆使して、バンドギャップ制御を行った。とくに顔料が黄色を呈するにはその補色である青から紫色の光を吸収する必要があることから、バンドギャップが3eV程度の材料に不純物ドーピングなどを駆使することでバンド間あるいはドーピング準位―伝導帯のボトム間の遷移に由来するギャップを縮めることにした。
【0015】
バンドギャップが3eVである酸化チタンはこの条件を満たしており、それゆえ、黄色顔料の構成元素として選択したのである。すなわち、酸化チタンのバンド構造を構成する、伝導帯のボトム、価電子帯のトップがそれぞれ、Ti3d軌道、O2p軌道からなり、このO2p軌道よりも若干ポテンシャルの低い準位をバンドギャップ内に導入することにより、バンドギャップが小さくなり、その材料は黄色を呈するようになると考えられる。そして、様々な複合酸化物についてデータの蓄積を行い、鋭意研究を行ってきた結果、酸化チタンに所定量のFe2O3とTa2O5あるいはNb2O5をドープすることで黄色を呈する複合酸化物の開発に成功し、有意な可視光光触媒特性を付与することに成功するに至った。
本発明はこれらの知見に基づいてなされたものである。その構成は、以下に記載するとおりである。
【0016】
本発明2はチタンと鉄と酸素そして、タンタルあるいはニオブからなり、これらの比率が極めて広範な領域に亘る複合酸化物半導体からなる黄色顔料である。無毒な金属元素からなるため、従来の黄色顔料(クロム酸鉛、カドミウムイエローなど)と比しても極めて安全な材料である。さらには、Zn,FeあるいはAl,Feを主成分とする複合酸化物黄色顔料と比しても高いCIE−L*a*b*表色系のL*(L* > 70)の値を有し、より明るい黄色をした顔料である。
【0017】
また、前記黄色顔料は紫外光のみならず、可視光を利用して工場などで最もよく利用されているVOCの1種、2−プロピルアルコール(IPA)を効率よく分解できる格別の効果を有するものである。この光触媒特性はこれだけにとどまらず、光を照射することによってその他の有害ガス、たとえば、シックハウス症候群の原因ガスの1つであるアルデヒドガスなど、様々な有害物質を分解、除去することができる能力を有している。
本発明3は、このような機能を生かした光触媒であり、可視光、紫外光領域に対して光触媒活性を有することは上記の通りであり、その特性故、前示した使用例以外にも多様な用途に利用できることが期待され、今後その果たす役割は、非常に大きいものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の黄色顔料は、通常の固相反応法、すなわち原料となる各金属成分の酸化物あるいは金属炭酸塩あるいは金属硝酸塩あるいは金属硫酸塩、あるいは金属塩化物を目的組成の比率で混合し、常圧下空気中で焼成することによって合成することができる。
【0019】
望ましくは鉄、タンタルあるいはニオブが原子オーダーで高分散する方法、(例えば錯体重合法)を利用して合成されることである。これにより、より大きなL*の値を持った黄色顔料が得られる。
【0020】
この黄色顔料を構成する一般式;AxByM(1-x)O(2+2.5y-0.5x)におけるx、yは、次の条件を満たせばよい。
その条件とはxが0を超え0.5未満、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下で、yがx/y比で0を超え1.1以下であればよい。すなわち、xが0.5以上になると、CIE−L*a*b*表色系のL*値が低くなりすぎ黄色顔料として不適当となり、光触媒活性も小さくなりすぎ光触媒材料としても適当ではない。さらには、x/y比で1.1を越えると、Fe原子間の相互作用が増え、色調が赤みを帯びやすくなるため黄色顔料としてこれも不適当となる。また、赤みを帯びることからバンド間に存在する不純物準位量が過剰になることが示唆され、このため光触媒活性が小さくなる。それゆえ、この条件では光触媒材料としても適当ではない。
【0021】
また、上記原料以外に金属アルコキシドや金属塩を原料とし、これをいわゆるゾルゲル法、共沈法、スパッタリング法、化学蒸着法、水熱合成法などといった様々な方法によって調製することができ、何れの調製プロセスによっても実施可能である。調製された配合原料を焼成する際の焼成温度は、原料物質が分解して酸化物に転換され、酸化物からなる焼結体が得られる温度であればよい。具体的には、300℃以上1500℃以下の温度範囲でよく、より好ましくは、400℃以上、1300℃以下である。
【0022】
触媒の調製は、一般式:一般式;AxByM(1-x)O(2+2.5y-0.5x)] (0 < x < 0.5, 0 < x/y < 1.1, A はFeまたはFeとGa, Al, In, Y, La,Ceなどの3価の金属からなり、BはNb, Ta、MはTiまたはTiとZr,Ge,Si,Snなどの4価の金属からなる)に基づいて決定される。この一般式を満足するよう原料配合し、焼成することによって調製される。この一般式の意味、意義は、鉄、チタン、タンタルまたはニオブがそれぞれ規定量を満足している限りにおいて黄色顔料として機能するものが得られるものである。
【0023】
また、この顔料は鉄、チタン、タンタルあるいはニオブを主成分とする材料であるが、その一部を他の元素によって置換しても黄色顔料としての特性を維持でき、また可視光応答光触媒特性も示すことができる。それゆえ、本発明は、このような態様も含み得、排除するものではない。
具体的には鉄の一部を、鉄1モルにつきその他の3価の金属元素Ga, Al, In, Y, La, Ceなどで1/2モルまで置き換えてもよいし、チタンの一部を、チタン1モルにつきその他の4価の金属元素 Zr, Si, Ge, Snなどで1/10モルまで置き換えても黄色顔料として用いることができる。これら他の成分の混入・置換については、一義的に規定することができない。すなわち、これら他の成分の混入・置換によって黄色顔料としての機能が向上する場合、これら他の成分の混入・置換はむしろ好ましいといえ、特に排除する必要はない。
【0024】
本発明の黄色顔料の形状、粒径は、光触媒特性を付与する場合、光を有効に利用するためにできるだけ表面積が大きくなるように設計されることが望ましい。
具体的には、比表面積を1m2g-1以上、好ましくは1.5m2g-1以上、より好ましくは10m2g-1以上とするのが望ましい。なお、比表面積はより大きいほど望ましいが、絶対的な数値を明らかにするのは困難である。それゆえ、低温で合成することが望ましいが、固相反応法によって作製した複合酸化物については、大きな成型物あるいは塊状物として得られるため、これをボールミルなどで粉砕するか、あるいは酸などでエッチングすることによってさらに表面積を大きくすることができる。また、メソポーラス構造になるように合成して、表面積を大きくしてもよい。
【0025】
さらには、本発明の黄色顔料の光触媒特性を抑えるには表面積が小さくなるように高温で合成されることが望ましい。顔料として用いる場合は、比表面積を200m2g-1以下、好ましくは2m2g-1以下、より好ましくは0.2m2g-1以下とするのが望ましい。すなわち、比表面積を小さくする程、粒径が大きくなり、光触媒反応に寄与する電子とホールの再結合の割合が多くなり、表面に到達する電子、ホールの量が激減するため、光触媒特性を抑える効果が増大するからである。
また、低温で合成された比表面積の大きな顔料についてはアモルファス処理を施すことによって、その光触媒特性を抑えることもできる。
【0026】
本発明の黄色顔料はプラスチックや化粧品、塗装用ペンキなど様々な材料に混ぜ込むことあるいは材料表面にコーティングすることによって黄色味を帯びさせることが可能である。
【0027】
本発明の黄色顔料の光触媒特性に基づく分解あるいは酸化あるいは還元反応により除去できる有害物質としては、環境ホルモン、農薬、殺虫剤、カビ、細菌、ウィルス、藻類、環境汚染物質、フロンガス、炭化水素、アルコール、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、一酸化炭素、アミン、油、芳香族化合物、有機ハロゲン化合物、窒素化合物、硫黄化合物、有機リン化合物、蛋白質などが挙げられる。さらに身の回りの汚れの原因となっている石鹸や油、手垢、茶渋、台所のシンクなどのぬめりなどもこの光触媒材料の光触媒反応により分解できる。
【0028】
以下、本発明を具体的な実施例と図面に基づいて詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。以下に記載する実施例においては、一般式:一般式;AxByM(1-x)O(2+2.5y-0.5x)] (0 < x < 0.5, 0 < x/y < 1.1, A はFeまたはFeとGa, Al, In, Y, La,Ceなどの3価の金属からなり、BはNb, Ta、MはTiまたはTiとZr,Ge,Si,Snなどの4価の金属からなる)で示される複合酸化物としてx、yの値が特定の値である、Fe0.005Nb0.005Ti0.995O2.01、Fe0.01Ta0.01Ti0.99O2.02、Fe0.2Ta0.2Ti0.8O2.4を実施例として開示し、これを固相反応法あるいは錯体重合法によって合成した場合の実施例である。
【実施例1】
【0029】
鉄、チタン、タンタルからなる黄色顔料の1つであるFe0.01Ta0.01Ti0.99O2.02を以下に述べるように固相反応法によって合成した。
まず、酸化鉄(Fe2O3) 1.3g、酸化タンタル3.7gをそれぞれ秤量し、これをボールミルや乳鉢などの粉砕混合器具を利用して十分に粉砕混合したあと、アルミナるつぼに入れて、大気圧空気雰囲気下で1250℃(10℃単位の表示、以下同じ)にて5時間焼結し、FeTaO4粉末を得た。その後、ルチル型酸化チタン2.9g、FeTaO4 0.11gをそれぞれ秤量し、これを十分に粉砕混合したあと、アルミナるつぼに入れて、大気圧空気雰囲気下で1250℃にて5時間焼結し、試料を得た。この粉末試料をX線回折装置を用いて、測定したところ、単相のルチル構造を持つ材料が得られていることがわかった。
また、比表面積はBET比表面積測定法を用い、顔料を−200℃に冷却後、窒素を吸着させることによって評価した。この顔料の比表面積は0.4m2/gであった。次にこの粉末の色調を、BaSO4を参照サンプルに利用して、色差計で測定した。CIE−L*a*b*表色系のL*値が86.69と十分に大きく、また赤色度合いを示すa*の値が負かつ黄色度合いを示すb*の値が20以上であった(表1)。さらに400℃で1時間加熱して耐熱性を確認したところ色調にも変化が見られず、耐熱性にも優れているといえる。それゆえ、この顔料は黄色顔料として有効である。
この黄色顔料0.4gを用いて2−プロピルアルコールの分解試験を行った。光源には300WのXeランプを用い、カットオフフィルターを利用して、400nmから520nmの可視光(光量:0.9mWcm−2)を反応容器に照射した。2−プロピルアルコールとその分解物質のアセトンの検出及び定量はガスクロマトグラフィー(検出器はFID)で行い、2−プロピルアルコールを分解したときに生成する中間体アセトンの発生量の時間変化について調べた。その結果、1時間で3.5ppmのアセトンが生成し、この材料は可視光照射下で可視光活性を示すことも明らかとなった(図1)。
【実施例2】
【0030】
鉄、チタン、ニオブからなる黄色顔料の1つであるFe0.005Nb0.005Ti0.995O2.01を実施例1と同様に固相反応法によって合成した。モル比でFe2O3:Nb2O5=1:1になるように秤量し、それらを十分に粉砕混合したあと、1250℃で5時間焼結し、FeNbO4粉末を得た。このFeNbO4とルチル型酸化チタンを1:199のモル比で混合し、1250℃で5時間焼結し、試料を得た。この粉末試料をX線回折装置を用いて、測定したところ、単相のルチル構造を持つ材料が得られていることがわかった。この顔料の比表面積は0.4m2/gであった。
次にこの粉末の色調を色差計で測定した。CIE−L*a*b*表色系のL*値、a*、 b*値はそれぞれ、実施例1とほぼ同じ値を示していた。また、耐熱性の試験として、実施例1と同様に400℃で1時間加熱したが、色調に変化は見られなかった。それゆえ、この顔料も黄色顔料として有効であるといえる(表1)。さらには実施例1に示した方法で光触媒活性を評価したところ、1時間で2.1ppmのアセトンが生成し、この顔料が可視光照射下で可視光活性を示すことも明らかとなった(図1)。
【実施例3】
【0031】
実施例1で示したFe0.01Ta0.01Ti0.99O2.02を以下に述べるように錯体重合法によって合成した。 まず、チタンテトライソプロポキシド(7.3 mL)、0.1mol/Lのトリス(アセチルアセトナト)鉄(III)―エタノール溶液(2.4 mL)、0.1mol/Lのタンタルエトキシド―エタノール溶液(2.4 mL)をそれぞれの容器に秤量し、その後、さらにエタノールで希釈し、十分攪拌した。それから、クエン酸、ポリエチレングリコールを各容器に添加し攪拌した。その後、その3つの溶液を1つに混合、攪拌して、混合溶液を得た。なお、添加したクエン酸、ポリエチレングリコール、エタノールの量はそれぞれ、46g、61g、89gであった。その混合溶液を80℃で10分エイジングした後、250℃で2時間焼成した。そうすると発泡状の固体が得られ、さらに400℃で2時間、800℃で5時間焼成してサンプルを得た。その粉末をX線回折装置を用いて、測定したところ、単相のルチル構造を持つ粉末が得られていることがわかった。その比表面積は1.6m2/gであった。
色差計で測定した結果、CIE−L*a*b*表色系のL*値が96.14と十分に大きく、また、そのb*の値は30に近かった(表1)。さらに400℃で1時間加熱して耐熱性を確認したが、色調に変化が見られず、耐熱性にも優れていた。それゆえ、この粉末も黄色顔料に適しているといえる(表1)。
実施例1と同様の条件で光触媒活性の評価を行った。その結果、1時間で27ppmものアセトンが生成し、比表面積を大きくしたこの材料は実施例1で示した材料よりも8倍可視光光触媒活性が強かった(図1)。それゆえ、この材料を黄色顔料として利用したときにはより有意な有害物質除去効果や汚れ分解効果も付与することができるといえる。
【実施例4】
【0032】
実施例3で利用した錯体重合法によってFe0.2Ta0.2Ti0.8O2.4を合成した。先ず、組成比に従って、チタンテトライソプロポキシド(5.9 mL)、0.1mol/Lのトリス(アセチルアセトナト)鉄(III)―エタノール溶液(48 mL)、0.1mol/Lのタンタルエトキシド―エタノール溶液(48 mL)をそれぞれの容器に秤量し、その後、エタノールで希釈し、十分攪拌した。それから、クエン酸、ポリエチレングリコールを各容器に添加し、十分攪拌後、その3つの溶液を1つに混合し、さらに攪拌した。なお、クエン酸、ポリエチレングリコール、エタノールの添加量の比は1:4:8であった。その混合溶液を80℃で10分エイジングした後、250℃で2時間、さらに400℃で2時間焼成してサンプルを得た。この粉末をX線回折装置を用いて、測定したところ、単相のアナターゼ構造を持つ物質が得られていることがわかった。この顔料の比表面積は180m2/gであった。
その色は黄色をしており、色差計で測定した結果、CIE−L*a*b*表色系のL*値が75.76、b*値が39.12と十分に大きかった。さらに400℃で1時間加熱して耐熱性を確認したが、色調に変化が見られず、耐熱性に優れているといえ、黄色顔料として適している材料であるといえる。(表1)また、 実施例1に示した方法で光触媒活性を評価したところ、1時間で4.0ppmのアセトンが生成し、この材料が可視光照射下で可視光活性を示すことも明らかとなった(図1)。
【比較例1】
【0033】
ルチル型酸化チタンを1250℃で5時間焼成し、比較サンプルとした。色差計で測定した結果、CIE−L*a*b*表色系のL*値が94.69と十分に大きかったが、b*値が4.32と小さく、ほとんど黄色味を帯びていなかった(表1) 。また、 実施例1に示した方法で光触媒活性を評価したところ、1時間で0.5ppmのアセトンが生成したが、実施例1−4に到底及ばない低い活性であった(図1)。それゆえ、実施例1−4の黄色顔料は有意な可視光応答光触媒特性を有しているといえる。
【比較例2】
【0034】
鉄、チタンの複合酸化物の1つであるFe0.01Ti0.99O1.995を以下に述べるように固相反応法によって合成した。 まず、組成比に従って、酸化鉄(Fe2O3) 0.05g、酸化チタン4.95gをそれぞれ秤量し、これをボールミルや乳鉢などの粉砕混合器具を利用して十分に粉砕混合したあと、アルミナるつぼに入れて、大気圧空気雰囲気下で1250℃にて5時間焼結し、粉末を得た。その色は橙色をしており、色差計で測定した結果、CIE−L*a*b*表色系のL*値が62.45と比較的小さく、a*値が21.20と非常に大きかった (表1)。a*値が大きいことは赤みを帯びていることを示しており、この粉末は黄色顔料には適さないといえる。
以上のように粉末が黄色を示すのはFe,Taが所定の比で酸化チタン格子内に高分散で混じったときであり(実施例1〜4)、Ta,Nbが欠落すれば、比較例2に示したとおり、複合酸化物は赤くなり、黄色顔料としては不適当となる。また、Feが欠落すると比較例1に示したように黄色味に欠け、これも不適当である。
【0035】
以上の結果について、表1に示していることは、前述したとおりである。すなわち、鉄、チタン、タンタルあるいはニオブからなる複合酸化物は無害な無機系黄色顔料であり、前述の目的に沿う材料の開発に成功したことを示している。また、高温焼成により合成される材料ゆえ、耐熱性も高い。さらにこの黄色顔料は可視光、紫外光に対して、光触媒活性を示し、有害物質の分解、汚れ防止などの用途にも一層有効に利用され、寄与するものと期待される。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
以上説明してきたように、本発明は、一般式:一般式;AxByM(1-x)O(2+2.5y-0.5x) (0 < x < 0.5, 0 < x/y < 1.1, A はFeまたはFeとGa, Al, In, Y, La,Ceなどの3価の金属からなり、BはNb, Ta、MはTiまたはTiとZr,Ge,Si,Snなどの4価の金属からなる)で示される複合酸化物が明るい黄色を呈する顔料であることを示し、また、無害な金属からなるため、様々な材料に黄色味を添加することができる。さらに、これまでの実用無機系黄色顔料のほとんどが有害な金属からなることを考えると、無害な金属からなり耐熱性のある明るい新規黄色顔料を開発できたという意義は極めて大きい。さらには、必要に応じて、可視光、紫外光で応答する光触媒特性も付与できる。それにより有害物質や汚れを分解し、清浄な空間を作ることもできる。本発明によれば、この顔料は耐熱性があり、無害な金属からなることからペンキやプラスチックなど様々な材料に黄色味を添加することが可能であり、また、必要に応じて光触媒特性も付与すれば、可視光、紫外光を利用して各種有害な化合物、例えば、環境ホルモンや細菌等いわゆる有害物質に作用し、これらを殺菌、分解、除去等無害化するのに使用される環境対策技術を始めとして各種化学反応に大いに利用され、産業の発展に寄与するものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】作製したサンプルの光触媒活性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン−酸化鉄系の複合酸化物半導体であって、一般式;AxByM(1-x)O(2+2.5y-0.5x)(ただし、0 < x < 0.5, 0 < x/y < 1.1, A はFeまたはFeとGa, Al, In, Y, La,Ceなどの3価の金属からなり、BはNb, Ta、MはTiまたはTiとZr,Ge,Si,Snなどの4価の金属からなる)で表される組成であることを特徴とする複合酸化物半導体。
【請求項2】
青色、紫色の光を吸収し黄色を呈する無機顔料であって、請求項1に記載の複合酸化物半導体の粉末からなることを特徴とする黄色顔料。
【請求項3】
有機物質を光にて分解する光触媒であって、請求項1に記載の複合酸化物半導体の粉末からなることを特徴とする光触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2010−30830(P2010−30830A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194346(P2008−194346)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】