説明

複合銅箔およびその製造方法、ならびに該複合銅箔を用いたプリント配線板の製造方法

【課題】高温での加熱加工に際し支持体金属箔と薄銅層間でフクレがなく、加熱加工後に、支持体金属層が薄銅層から容易に剥離する複合銅箔を提供する。
【解決手段】支持体となる金属箔と剥離層と薄銅層とからなる複合銅箔であって、表面温度400℃のラミネートロールによる貼合せ工程において、フクレが発生しないことを特徴とする複合銅箔及びモリブデン化合物とニッケル化合物からなる電解液中で、支持体となる金属箔上にニッケルとモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出し、ついで、前記の電気分解条件より低い電流密度により、主としてモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出した後、再度、ニッケルとモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出することにより剥離層を形成し、ついで、薄銅層を電気分解により析出し、100℃以上の温度で熱処理することを特徴とする複合銅箔の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリント配線板の製造に用いる複合銅箔であって、高温加工時に支持体金属層と薄銅層間でフクレが発生しない複合銅箔、ならびに該複合銅箔を用いたプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
支持体金属層と剥離層と薄銅層とからなる複合銅箔が、超高密度プリント配線板製造工程で使用されている。複合銅箔と樹脂基材とを、薄銅層が樹脂基材に面するように積層成型した後、支持体金属層を剥離し、薄銅層をエッチング加工して回路が形成される。支持体金属層のない一般の銅箔を使用した場合に比べて、薄銅層の厚さを薄くすることができるので、微細回路の形成に有利となる。剥離層としてはベンゾトリアゾール系の有機化合物やクロム酸化物などの無機化合物を含有する層が一般的に用いられるが、高温において剥離層内に銅が拡散するため、薄銅層から支持体金属層を剥離することが困難となる。そこで、銅の拡散を防止する層を剥離層と支持体金属層や薄銅層との界面に形成することが提案されているが、製造工程が複雑となる。一方、ポリイミド樹脂フィルムと複合銅箔を積層成型する工程においては、一般に表面温度が400℃程度の加熱ロールによる加工が一般的であるが、このとき、複合銅箔が急速に加熱されるため、熱膨張係数の違いや結晶構造の変化などに起因すると思われる界面破壊により支持体金属層と薄銅層との間にフクレが発生し、さらには自発的に剥離する場合がある。そこで、支持体となる銅箔と、銅原子の拡散を防止する第1の拡散防止層と、第1の拡散防止層と第2の拡散防止層との剥離可能な強度で保持する剥離機能層と、銅原子の拡散を防止する第2の拡散防止層と、薄銅層とからなり、第1の拡散防止層と剥離機能層と第2の拡散防止層の界面において、おのおのを構成する金属原子と酸素原子の濃度比が連続的に変化し、明確な界面を形成していないことを特徴とする支持体付極薄銅箔が提案されているが、高温ロールを用いるラミネート法では、フクレが発生する問題点が残されていた。

【特許文献1】特開2002−292788号公報
【特許文献2】特開2006−240074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
解決しようとする問題点は、支持体金属層と薄銅箔層間のフクレの防止である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、支持体となる金属箔と剥離層と薄銅層とからなる複合銅箔であって、表面温度400℃のラミネートロールによる貼合せ工程において、フクレが発生しないことを特徴とする複合銅箔である。また、本発明は、モリブデン化合物とニッケル化合物からなる電解液中で、支持体となる金属箔上にニッケルとモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出し、ついで、前記の電気分解条件より低い電流密度により、主としてモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出した後、再度、ニッケルとモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出することにより剥離層を形成し、ついで、薄銅層を電気分解により析出し、100℃以上の温度で熱処理することを特徴とする前記の複合銅箔の製造方法である。さらに、本発明は、前記の複合銅箔を樹脂基材に積層成型し、ついで、支持体となる金属箔と剥離層を除去し、薄銅層に対して回路加工を行うことを特徴とする配線板の製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の複合銅箔は、ポリイミド樹脂フィルムと複合銅箔を積層成型する工程において急速に加熱しても支持体金属層と薄銅層との間でフクレが発生しないことから、高密度プリント配線板の製造に適する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で用いる支持体金属層の材質、厚さは特に規定するものではないが、コストや製造工程、機械特性及び化学特性から、厚さ8μm〜35μmの銅箔が好ましい。表面粗さについては、薄銅層と樹脂基材との接着強度が必要な場合は、支持体金属層の表面粗さは、大きいことが好ましく、一方、微細回路の形成が必要な場合は、表面粗さが小さいことが望ましい。また、薄銅層が薄い場合も表面粗さの小さいことが好ましい。
【0007】
剥離層の形成前に、支持体金属層の表面を適切な前処理によって清浄化することが好ましい。通常の酸洗処理のほか、アルカリ脱脂や電解洗浄を行ってもよい。
【0008】
本発明の剥離層は、モリブデン化合物とニッケル化合物とからなる電解液を用いて、電気めっきを行うことにより形成することができる。モリブデン化合物としては、モリブデン酸ナトリウムなどの金属塩、ニッケル化合物としては、硫酸ニッケルのほか、炭酸ニッケルなどの各種金属塩を用いることができる。金属イオンの溶解性や析出状態を安定化させる目的で、電解液にはクエン酸などの多価カルボン酸など配位結合により錯体を形成する配位子となる化合物、また、抵抗値調整の目的で硫酸ナトリウムなどの無機塩を添加してもよい。モリブデン化合物の添加量は、各々金属換算で0.1〜10g/l、好ましくは0.5〜2g/lである。また、ニッケル化合物については、金属換算で0.6〜60g/l、好ましくは3〜12g/lである。クエン酸の濃度は、ナトリウムイオンを除く金属種に対してモル換算で、0.2〜5倍、より好ましくは0.5〜2倍である。電解液温度は5〜70℃、好ましくは10〜50℃である。ニッケルとモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出するときの電流密度は0.2〜10A/dm、好ましくは0.5〜5A/dmであり、主としてモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出するときの電流密度は、0.2〜0.5A/dmである。また、pHは2〜8、好ましくは4〜7の範囲である。上記の条件で電気めっきを行うと、まず、主としてニッケルとモリブデンが金属として析出し、電気めっきの進行とともに酸化物が主として析出する。これは、ニッケル金属イオンが消費される一方で、その供給が拡散律則により制限されるために、ニッケル濃度が低下することによる。ニッケル濃度が十分に低下した段階で、低電流密度で電気分解を継続することにより、主としてモリブデンと酸素からなる層が析出する。一方、この期間にニッケル濃度が拡散により回復し、再度、電流密度を増加させることにより、主としてニッケルとモリブデンが金属として析出することとなる。
【0009】
以上の過程において、モリブデン、ニッケル、及び酸素の濃度は連続的に変化して明確な界面を形成しないこととなり、このため、界面における熱膨張係数等の差異による剥離が発生しにくくなる。さらに、100℃以上での熱処理を行なうことにより、界面がより不明確になるとともに、微量の水酸化物等、加熱時にガス化してフクレの原因となる不純物が拡散し、フクレの発生を防止できる。なお、熱処理温度が100℃よりも低いと、熱処理に長時間を要するため、好ましくない。また、300℃よりも高温に加熱することで、熱処理時間を短縮することができるが、急速に加熱するとフクレが発生し、また、変色等が発生するおそれがある。
【0010】
本発明の薄銅層は特に限定するものではないが、ピロ燐酸銅を主体とする電解液を用いた場合には緻密な銅めっき層が形成されることから、ピンホールが減少する。また、硫酸銅を主体とする電解液を用いた場合は、高速めっきが可能となり、薄銅層を効率よく形成することができる。両方のめっき方法を組み合わせることにより、所望の厚さを有し、ピンホールの少ない薄銅層を効率よく形成することができる。薄銅層の厚さは、用途に応じて任意に設定してよい。
【0011】
薄銅層の表面には、公知の方法で、クロメート処理などの方法により防錆処理を行うことができる。また、必要に応じて、基材樹脂との接着性を向上させる目的で、シランカップリング剤等による接着強化処理を行ってもよい。
【実施例】
【0012】
支持体金属層には、厚さ18μmの電解銅箔を用いた。この銅箔の表面を硫酸中で陰極処理を行い、表面を清浄化した。ついで、表1記載の条件で、光沢面に剥離層を形成した後、ピロリン酸銅めっき浴と硫酸銅めっき浴を順次用いて3.9μmの薄銅層を形成した。さらに、公知の方法で厚さ1μm相当の微細粗化を行い、ついで、クロメート処理とシランカップリング剤処理を行うことにより、複合銅箔A〜Cを製造した。なお、比較のため、剥離層の形成条件または熱処理条件を表1記載の条件で変更し、銅箔D〜Gを製造した。
【0013】
ポリイミド樹脂フィルム(厚さ25μm、熱可塑性ポリイミド樹脂系接着剤層あり)に、複合銅箔A〜Gを薄銅層が基材に面するように積層し、400℃の加熱ロール(直径15cm)を用いてラミネートした。ロール間の圧力は30kN/mに設定し、送り速度を調整して所定の時間、ロールに銅箔とポリイミド樹脂フィルムが接するようにした。
【0014】
複合銅箔D〜Fを用いた銅張ポリイミド樹脂フィルムは、支持体金属箔と薄銅層間でフクレが発生した。また、複合銅箔Gを用いた銅張ポリイミド樹脂フィルムでは、支持体金属箔を剥離することができなかった。一方、複合銅箔A〜Cを用いた銅張ポリイミド樹脂フィルムにはフクレが見られず、15〜35kN/mの剥離強度を有し、剥離後の薄銅層表面は通常の金属光沢と金属銅特有の色相を呈した。
【0015】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の複合銅箔は、高温での加熱加工に際し支持体金属箔と薄銅層間でフクレがなく、加熱加工後に、支持体金属層が薄銅層から容易に剥離するため、高密度プリント配線板の製造に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体となる金属箔と剥離層と薄銅層とからなる複合銅箔であって、表面温度400℃のラミネートロールによる貼合せ工程において、フクレが発生しないことを特徴とする複合銅箔。
【請求項2】
モリブデン化合物とニッケル化合物からなる電解液中で、支持体となる金属箔上にニッケルとモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出し、ついで、前記の電気分解条件より低い電流密度により、主としてモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出した後、再度、ニッケルとモリブデンと酸素からなる層を電気分解により析出することにより剥離層を形成し、ついで、薄銅層を電気分解により析出し、100℃以上の温度で熱処理することを特徴とする請求項1の複合銅箔の製造方法。
【請求項3】
請求項1の複合銅箔を樹脂基材に積層成型し、ついで、支持体となる金属箔と剥離層を除去し、薄銅層に対して回路加工を行うことを特徴とする配線板の製造方法。

【公開番号】特開2008−130867(P2008−130867A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315195(P2006−315195)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000232014)日本電解株式会社 (11)
【Fターム(参考)】