説明

複合銅粒子

【課題】焼結時の熱収縮性のコントロールが容易な、銅を含む粒子を提供すること。
【解決手段】平均粒径が0.2〜10μmである銅を含む母粒子中に、平均粒径が5〜50nmである無機酸化物粒子が複数含まれている複合銅粒子である。無機酸化物粒子は、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとからなる。無機酸化物粒子が複合銅粒子全体に対して0.1〜5重量%含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅を含む母粒子中に複数の無機酸化物粒子が含有されてなる複合銅粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
導電ペーストは、樹脂系バインダと溶媒からなるビヒクル中に、導電フィラーを分散させた流動性組成物であり、電気回路の形成や、セラミックコンデンサの外部電極の形成などに広く用いられている。
【0003】
かかる導電ペーストの一種として、高温焼成によって有機成分が揮発し導電フィラーが焼結して導通を確保する高温焼成型導電ペーストがある。
【0004】
この高温焼成型導電ペーストは、一般に金属粒子に代表される導電フィラーとガラスフリットとを、有機ビヒクル中に分散させてなるペースト状組成物であり、400〜800℃程度の比較的高温で焼成することによって、有機ビヒクルが揮発し、更に導電フィラーが焼結することによって導通が確保されるものである。この際、ガラスフリットは、この導電膜を基板に接着させる作用を有し、有機ビヒクルは、金属粉末及びガラスフリットを印刷可能にするための有機液体媒体として作用する。高温焼成型導電ペーストは、焼成温度が高いため、プリント配線基板や樹脂材料には使用できないが、焼結して金属が一体化することから低抵抗化を実現することができ、例えば積層セラミックコンデンサの外部電極などに使用されている。
【0005】
ところで、導電ペーストに用いられる金属粒子として、母材となる金属粒子と無機酸化物とを複合化させた粒子が種々提案されている。例えば特許文献1及び2には、銅の粒子の表面にSiO2を被覆してなる銅粒子が記載されている。これらの文献には、この銅粒子からなる銅粉を含む導電ペーストは、耐酸化性と焼結性に優れたものであると記載されている。しかし、焼結時における耐熱収縮性の改善については検討されていない。
【0006】
前記の技術とは別に、本出願人は、金属粉の耐熱収縮性を高め、寸法安定性に優れた導電回路を得ることを目的として、金属粉の粉粒表面に無機酸化物層を形成してなる無機酸化物コート金属粉を提案した(特許文献3参照)。無機酸化物層は、酸化ケイ素や酸化アルミニウムから構成されている。金属粉は、銅粉や銀粉である。無機酸化物層は、金属粉の粉粒の表面に、無機酸化物をメカノケミカル的な手法で固着させることで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−129424号公報
【特許文献2】特開2008−101276号公報
【特許文献3】特開2004−84069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、導電ペースト用、殊に高温焼成型導電ペースト用の金属粒子に要求される特性はますます厳しくなっており、耐熱収縮性についても、一層の向上が求められている。
【0009】
本発明の目的は、前述した従来技術の粒子よりも各種の性能が一層向上した複合金属粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、平均粒径が0.2〜10μmである銅を含む母粒子中に、平均粒径が5〜50nmである無機酸化物粒子が複数含まれている複合銅粒子であって、
無機酸化物粒子は、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとからなり、
無機酸化物粒子が複合銅粒子全体に対して0.1〜5重量%含有されていることを特徴とする複合銅粒子を提供するものである。
【0011】
また本発明は、前記の複合銅粒子の製造方法であって、
銅イオン若しくは銅を含むイオン種、銅酸化物又は銅水酸化物及び無機酸化物粒子を含む水性液に還元剤を添加して、銅の還元を行う工程を有し、
銅の還元中に、無機酸化物粒子を、当初水性液中に存在するものとは別に添加するか、又は
銅の還元中の液のpHを7.5〜12の範囲に調整する
ことを特徴とする複合金属粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複合銅粒子は、高温焼成型導電ペーストとして用いられる際の熱収縮性のコントロールが容易なものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の複合銅粒子が製造される過程を模式的に示すイメージ図である。
【図2】本発明の複合銅粒子が製造される別の過程を模式的に示すイメージ図である。
【図3】実施例1及び2で得られた複合銅粒子(SiO2/Cu)のTMA測定の結果を表すグラフである。
【図4】実施例3及び4で得られた複合銅粒子(SiO2/Cu)のTMA測定の結果を表すグラフである。
【図5】実施例5で得られた複合銅粒子(SiO2/Cu)のTMA測定の結果を表すグラフである。
【図6】実施例6及び7で得られた複合銅粒子(Al23/Cu)のTMA測定の結果を表すグラフである。
【図7】実施例8及び9で得られた複合銅粒子(TiO2/Cu)のTMA測定の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の複合銅粒子は、銅からなる母粒子と、無機酸化物粒子との複合体から構成されている。無機酸化物粒子は、母粒子よりも粒径の小さいものである。無機酸化物粒子は、1個の母粒子中に複数個含まれている。複合銅粒子は、母粒子中における無機酸化物粒子の存在位置に特徴の一つを有している。詳細には、無機酸化物粒子は、(イ)母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、(ロ)母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとの少なくとも2種類からなる。無機酸化物粒子がこのような位置に存在していることによって、例えば複合銅粒子を含むペースト等からなる導体を焼結するときに、複合銅粒子の熱収縮開始温度及び熱収縮速度をコントロールすることが可能となる。その理由は以下のとおりである。
【0015】
(ロ)の無機酸化物粒子が存在することで、焼結時に複合銅粒子どうしの融着が阻害され、熱収縮開始温度が高くなる。熱収縮速度に関しては、一般に銅の融着が開始されると熱収縮速度が一気に高まるところ、本発明においては(イ)の無機酸化物粒子の存在によって、焼結収縮が一気に進行することが阻害される。それによって、熱収縮速度が抑制される。これらの理由によって、本発明の複合銅粒子によれば、焼結時の熱収縮のコントロールを容易に行うことができる。先に述べた特許文献1及び2に記載の技術では、銅粒子の表面にのみSiO2が存在している状態なので、融着が始まると熱収縮を妨害するものがないために一気に熱収縮が進行してしまう。この現象は、粒子を電極の形成に使用したときに、クラックや剥がれの原因となる。また特許文献3に記載の技術では、特許文献1及び2と同様に融着が始まると一気に熱収縮してしまう場合がある。また粒子の塗膜を形成した後に熱処理して粒子を高結晶化させないと、十分な耐熱収縮効果が得られないことがある。
【0016】
複合銅粒子における無機酸化物粒子には、上述のとおり、(イ)母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、(ロ)母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとの少なくとも2種類があるところ、(イ)の無機酸化物粒子に関し「母粒子の表面近傍に完全包埋」とは、母粒子の半径をrとした場合、母粒子の中心位置を基準としてr/3以上の外側の領域であって、かつ母粒子の表面から無機酸化物粒子の直径分だけ内側の領域に、無機酸化物粒子が主として存在していることをいう。この様子は、FIB処理によって複合銅粒子の断面を露出させ、TEMで観察した後、EDSで元素分析を行うことで確認できる。一方、(ロ)の無機酸化物粒子に関し「母粒子の表面に一部露出した状態」とは、無機酸化物粒子の直径を基準として、好ましくは55〜90%が包埋されていることをいう。無機酸化物粒子がこの程度の深さで母粒子中に包埋されていることで、複合銅粒子を例えばペーストとして使用した場合、ペースト工程時のシェアが加わったときに、母粒子から無機酸化物粒子が脱落しにくくなるという有利な効果が奏される。またすべての無機酸化物粒子を母粒子内に完全包埋させないことによって、銅の表面が完全に露出してしまうことが防止され、耐熱収縮性が向上する。
【0017】
複合銅粒子における(イ)の無機酸化物粒子と(ロ)の無機酸化物粒子との比率は、重量比で表して(イ):(ロ)=1:9〜8:2、特に4:6〜6:4であることが、耐熱収縮性、熱収縮速度の点から好ましい。この比率は次の方法で求めることができる。
【0018】
まず、銅を溶解させず、かつ無機酸化物粒子を溶解させる液を調製する。無機酸化物粒子が例えばSiO2の粒子である場合には、1mol/L以上の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。無機酸化物粒子がAl23の粒子である場合には、9mol/L以上の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用い、80℃以上に加熱することで、Al23の粒子を溶解させることができる。無機酸化物粒子がTiO2の粒子である場合には、2.7mol/L以上の濃度のフッ酸水溶液を用いることができる。この液に複合銅粒子を投入し、該粒子の表面に露出している無機酸化物粒子を溶解させる。例えば液500mLに対して複合銅粒子20gを投入する。無機酸化物粒子の溶解は、例えば温度25〜30℃にて約60分行う(ただし、Al23粒子を除く。)。液に溶解した無機酸化物粒子の量をICPで測定することで、複合銅粒子の表面に露出している無機酸化物粒子の量を求める。次いで、複合銅粒子を液から分離し、銅を溶解する液(例えば硝酸等の鉱酸の水溶液)に投入して銅を完全溶解させる。次いでこの液に、無機酸化物粒子を溶解させる剤(例えば無機酸化物粒子がSiO2である場合にはフッ酸水溶液)を添加して、無機酸化物粒子を完全溶解させる。このようにして得られた液を測定対象としてICP分析を行い、母粒子中に完全包埋されている無機酸化物粒子の量を求める。
【0019】
本発明者らの検討の結果、複合銅粒子の熱収縮開始温度のコントロールには、無機酸化物粒子の大きさが支配的であることが判明した。詳細には、粒径の大きな無機酸化物粒子は、粒径の小さなものに比べて表面格子エネルギーが大きいので、融着しにくい。そして、無機酸化物粒子自体の融着温度が高いほど、母粒子の融着温度も高くなる。したがって、無機酸化物粒子の粒径をコントロールすることで、複合銅粒子の熱収縮開始温度をコントロールすることができる。この観点から、無機酸化物粒子の一次粒子の平均粒径は、5〜50nmに設定し、好ましくは10〜40nmに設定する。前記の平均粒径は、TEMや粒度分布測定器によって求めることができる。
【0020】
無機酸化物粒子の粒径は上述のとおりであるところ、母粒子の粒径との相対的な関係では、無機酸化物粒子の粒径は、母粒子の粒径の1/10〜1/200、特に1/20〜1/100とすることが好ましい。つまり、無機酸化物粒子は、母粒子に比べて比較的小さくても、複合銅粒子の熱収縮性のコントロールに寄与する。このことに関連して、母粒子の一次粒子の平均粒径は、0.2〜10μmに設定し、好ましくは0.3〜5μmに設定する。母粒子の平均粒径が0.2μmに満たないと、無機酸化物粒子の大きさに対して母粒子の大きさがそれに近づきすぎ、複合銅粒子の導電性が低下するなどの不都合が生じてしまう。一方、10μmを超える場合には、母粒子自体の焼結温度が高くなるので、無機酸化物粒子を用いる必要性がなくなる。この平均粒径は、無機酸化物粒子の一次粒子の平均粒径の測定法と同様にして測定することができる。
【0021】
上述の微粒の無機酸化物粒子は、加水分解可能な無機化合物を加水分解又は重縮合させて無機酸化物ゾルを製造することで得ることができる。例えばSiO2のゾルを得る場合には、水ガラスを原料とし酸による中和法若しくはイオン交換法、四塩化珪素の熱分解で得る方法、又は特開平6−316407号公報に記載の方法を採用することができる。Al23のゾルを得る場合には、無機酸や有機酸等の一般に酸の存在下で金属アルミニウムを直接水と反応させることにより製造する方法、又は特開平5−24824号公報に記載の方法を採用することができる。TiO2のゾルを得る場合には、チタン塩水溶液に陰イオン交換体を接触させる方法、アンモニア水等のアルカリを加えて中和する方法、炭酸アンモニウム等のアンモニウム水溶液を加える方法、又は特開平8−208228号公報に記載の方法を採用することができる。CeO2のゾルを得る場合には、不活性ガス雰囲気下に水性媒体中でセリウム塩とアルカリ性物質とを所定のモル比で反応させて水酸化セリウム懸濁液を生成した後、大気圧下10〜95℃で酸素含有ガスを吹き込み酸化させる方法、又は特開2002−326812号公報に記載の方法を採用することができる。ZrO2のゾルを得る場合には、水溶性ジルコニウム塩を含む水溶液にアルカリを加えて得たジルコニウム水酸化物を加水分解させる方法、カルボン酸又はヒドロキシカルボン酸の存在下で、ジルコニウム化合物水溶液にアルカリ水溶液を加えて得たジルコニウム水酸化物ゲル分散液を限外濾過洗浄及びイオン交換樹脂で脱イオンし水熱処理する方法、又は特開2008−290896号公報に記載の方法を採用することができる。
【0022】
複合銅粒子の熱収縮速度のコントロールに関しては、複合銅粒子中に含まれる無機酸化物粒子の量が支配的であることが判明した。先に述べたとおり、一般に、銅粒子はその融着が開始されると熱収縮速度が一気に高まるところ、適切な量の無機酸化物粒子を含有させることで、熱収縮速度の増加が抑制されるので、収縮を徐々に進行させることができる。この観点から、無機酸化物粒子は、複合銅粒子全体に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜3重量%含有される。無機酸化物粒子の含有量が0.1重量%に満たないと、母粒子の表面において、焼結し易い部位であるステップやキンク部を無機酸化物粒子で覆いきれなくなってしまう。逆に無機酸化物粒子の含有量が5重量%を超えると、不導体である無機酸化物の量が増えてしまい、複合銅粒子の導電性を低下させてしまうので、電子材料用途に不向きになってしまう。複合銅粒子における無機酸化物粒子の含有量は、複合銅粒子を溶解させ、先に述べたICP分析法によって求めることができる。なお、複合銅粒子の焼結が一気に進行してしまうと、焼結体にクラックが生じやすくなり、また基材から剥離しやすくなるという不都合がある。更に、焼結温度の幅が狭く、操作性に劣ったり、基材の同時焼成が難しくなり、製造経費が高くなったりするといった不都合もある。
【0023】
上述したとおり、複合銅粒子の焼結時の熱収縮のコントロールのためには、該粒子の表面に露出している無機酸化物粒子及び複合銅粒子の表面近傍において完全包埋されている無機酸化物粒子が重要である。逆の見方をすれば、母粒子の中心域に無機酸化物粒子が存在していても、複合銅粒子の耐熱収縮性の向上にはほとんど寄与しない。この観点から、母粒子の中心域においては、無機酸化物粒子が実質的に非存在状態になっていることが好ましい。ここで言う「中心域」とは、大体の目安として母粒子の中心から半径1/3以内の領域のことである。
【0024】
一方、複合銅粒子の表面は、銅と無機酸化物粒子から構成されていることが好ましい。換言すれば、複合銅粒子の表面は、無機酸化物粒子のみから構成されていないことが好ましい。この構成によって、複合銅粒子どうしの電気的接触を確実に行うことができ、焼結体の電気伝導性の低下を抑制することができる。
【0025】
無機酸化物粒子としては、金属元素又は非金属元素の酸化物を用いることができる。無機酸化物粒子は、例えばpH=7.5〜12の主としてアルカリ性の水溶液中で、表面にOH基が生成するものであることが好ましい(この理由については後述する)。換言すれば、アルカリ性の水溶液中で少なくとも一部が溶解可能であり、その溶解によって表面に水酸基が生成可能なものであることが好ましい。無機酸化物粒子の好ましい具体例としては、金属元素の酸化物の粒子として、アルミナ(Al23)、チタニア(TiO2)、セリア(CeO2)、ジルコニア(ZrO2)等が挙げられ、非金属元素の酸化物の粒子としてシリカ(SiO2)等が挙げられる。
【0026】
無機酸化物粒子の形状は本発明において特に臨界的なものではない。例えば球状、多面体状、針状、紡錘状、扁平状、金平糖状等の形状のものを用いることができる。一般的に言えば、等方性のある形状のもの、例えば球状の無機酸化物粒子を用いることで、満足すべき耐熱収縮性を得ることができる。
【0027】
一方、母粒子の形状も本発明において特に臨界的なものではなく、無機酸化物粒子と同様に、例えば球状、多面体状、針状、紡錘状、扁平状、金平糖状等の形状のものを用いることができる。一般的には、球状や扁平状のものを用いることが好ましい。母粒子は銅からなるものである。あるいは、母粒子は銅合金であってもよい。
【0028】
複合銅粒子においては、無機酸化物粒子に比べて母粒子の方が十分に大きいので、複合銅粒子の形状は母粒子の形状と実質的に同じになっている。また、粒径に関しても、複合銅粒子の粒径は、母粒子の粒径と実質的に同じになっている。
【0029】
次に、複合銅粒子の好ましい製造方法について説明する。複合銅粒子は、銅イオン若しくは銅を含むイオン種、銅酸化物又は銅水酸化物及び無機酸化物粒子を含む水溶液に還元剤を添加して、銅の還元を行う工程を有する方法によって好適に製造される。つまり銅の湿式還元によって好適に製造される。
【0030】
湿式還元に用いられる液としては、例えば硫酸銅、塩化銅、酢酸銅、硝酸銅等の水溶性銅塩の水溶液等を用いることができる。あるいは、酸化銅等の銅酸化物や水酸化銅(Cu(OH)2)等の銅水酸化物の水性スラリーを用いることもできる。水溶液及び水性スラリーのいずれの場合であっても、液中に含まれる銅の濃度は0.1〜5mol/L、特に1〜3mol/Lであることが好ましい。この液と、無機酸化物粒子とを混合する。特に、無機酸化物粒子をゾルの状態で混合することが、母粒子内に均一に無機酸化物粒子が分布しやすくなるという点から好ましい。
【0031】
このようにして得られた混合液においては、銅1gに対して無機酸化物粒子が1〜100mg、特に1〜50mgの割合で含まれていることが好ましい。この混合液に還元剤を添加して銅の還元を行う。還元剤としては、例えばヒドラジン系還元剤、ホルムアルデヒド、テトラホウ酸カリウム、ジメチルアミンボラン、還元糖等を用いることができる。
【0032】
母粒子の粒径や形状を制御する目的で、前記の混合液には還元剤以外の薬剤を添加することもできる。そのような薬剤としては、例えば水溶性のリン系化合物等が挙げられる。
【0033】
本製造方法においては銅の還元前から反応系に無機酸化物粒子を存在させておき、無機酸化物の存在下に銅の還元を行う。このような条件を採用することで、銅の母粒子の成長過程において生ずることのあるキンク(表面の角が出ている部分)やステップ(表面の単原子層の段になっている部分)等の反応性に富む部位に、無機酸化物粒子が特異的に吸着するようになる。その結果、母粒子における不安定な部位が無機酸化物粒子によって選択的に保護され、焼結時の熱収縮がコントロールされる。
【0034】
特に、無機酸化物粒子として、アルカリ性の水溶液中で、表面にOH基が生成するものを用いると、無機酸化物粒子と母粒子の表面に吸着したOH基とが加水分解反応によって結合し、無機酸化物粒子が母粒子内部に取り込まれやすくなるので好ましい。
【0035】
還元によって生成する母粒子の粒径(この粒径は、複合銅粒子の粒径と実質的に同じである)や形状は、例えば前記の混合液のpHや温度、還元剤の添加速度や濃度等を適切に調節することによって容易にコントロールできる。
【0036】
本製造方法において、銅からなる母粒子の表面近傍に無機酸化物粒子を完全包埋させ、かつ母粒子の表面に無機酸化物粒子を一部露出した状態で包埋させる手段として、次に述べる操作(1)や(2)を採用することが好ましい。(1)及び(2)の操作はそれぞれ単独で行ってもよく、あるいは両者を組み合わせてもよい。
【0037】
操作(1)
無機酸化物粒子の共存下、還元剤を添加し銅イオン(Cu2+)を還元してCu2Oを生成させた後、再度還元剤を添加しこのCu2Oを更に還元してCuを生成させるときに、無機酸化物粒子(好ましくは無機酸化物粒子のゾル)を、当初水性液中に存在するものとは別に添加する。
【0038】
操作(1)によって本発明の複合銅粒子が製造される過程を、図1に模式的に示すイメージ図に基づき説明する。なお、図1においては、無機酸化物粒子としてSiO2を用いているが、これ以外の無機酸化物粒子を用いた場合であっても反応は同様に進行する。また、以下の説明には完全に解明されていない部分があり、本発明者らの推測が一部含まれている。
【0039】
まず図1(a)に示すように、銅源(図示せず)が含まれる水性液中にSiO2粒子を共存させる。この状態下に還元剤を添加すると、図1(b)に示すように、銅イオン(Cu2+)が還元されてCu2O粒子が生成する。Cu2O粒子の生成においては、液中に存在しているSiO2粒子がCu2O粒子内に取り込まれる。SiO2粒子は液中にも存在している。また、この時点ではCuの核粒子は生成していない。
【0040】
次に、当初系中に存在するものとは別にSiO2粒子を系に添加し、次いで還元剤を系に再度添加する。還元剤の再度の添加によって図1(c)に示すようにCu2O粒子が溶解して小さくなり、それとともに系内にCuの核粒子が生成する。Cuの核粒子は結晶密度が高いので、Cu2O粒子と異なり、SiO2粒子はCuの核粒子内に取り込まれない。還元剤の作用でCu2O粒子の還元が進行すると、図1(d)に示すように、Cu2O粒子の溶解が更に進行してその粒径が小さくなり、それとともにCuの核粒子の成長が進行する。この場合、Cu2O粒子の粒径が小さくなると、その比表面積が大きくなり、それに伴って溶解速度も高くなる。その結果、系内に溶解したCu+イオンの量も増加するので、Cuの核粒子の成長速度も増加する。Cuの核粒子の成長速度も増加に起因して、Cuの核粒子の結晶化密度が低下し、Cu粒子内にSiO2粒子が取り込まれ始める。
【0041】
Cu粒子内にSiO2粒子が取り込まれると、図1(e)に示すように、液中のSiO2粒子の量が次第に減少する。しかし、それと並行してCu2O粒子の溶解も進行しているので、その進行によってSiO2粒子が液中に補充される。このことから明らかなように、Cu粒子に取り込まれるSiO2粒子は、取り込みの初期段階では液中に存在しているSiO2粒子が主たるものであり、そのSiO2粒子は主として複合銅粒子中に完全包埋される。また、取り込みが進行するに連れて、Cu2O粒子から放出されたSiO2粒子がCu粒子に取り込まれるようになり、その粒子は複合銅粒子中において一部が露出した状態でCu粒子中に包埋される。取り込みの初期段階で液中に存在しているSiO2粒子は、主として2回目に添加されたものである。一方、Cu2O粒子から放出されたSiO2粒子は、主として製造の当初に液中に添加されたものである。したがって、製造の当初に液中に添加するSiO2粒子の量と、2回目に添加するSiO2粒子の量とをバランスさせることで、完全包埋されるSiO2粒子と一部露出したSiO2粒子との量をコントロールすることができる。このようにして、図1(f)に示すように、目的とする複合銅粒子が得られる。
【0042】
操作(2)
無機酸化物粒子の共存下、銅イオン(Cu2+)の還元中における液のpHをアルカリ性側に調整する。具体的には好ましくはpH=7.5〜12、更に好ましくはpH=8〜11に調整する。そして液のpHをこの範囲に調整してから、還元剤を添加する。還元反応中に反応系のpHが低下してきたら、アルカリ性の物質を更に加えてpHが前記の範囲内に維持されるようにする。反応系のpHを前記の範囲内に維持することで、還元によって生成した銅粒子の核の表面にOH基が存在し、そのOH基が無機酸化物粒子を引き寄せる。銅の粒子の核は無機酸化物粒子を引き寄せたまま粒成長していくので、無機酸化物粒子は銅の母粒子内に取り込まれる。もちろん母粒子の表面にも無機酸化物粒子が吸着する。この場合、系のpHが高いほどOH基が多数存在するので、無機酸化物粒子が母粒子内部に取り込まれやすい。すなわちpH制御により取り込まれる無機酸化物粒子の量を制御できる。
【0043】
操作(2)によって本発明の複合銅粒子が製造される過程を、図2に模式的に示すイメージ図に基づき説明する。なお、図2においても、無機酸化物粒子としてSiO2を用いているが、これ以外の無機酸化物粒子を用いた場合であっても反応は同様に進行する。また、以下の説明には完全に解明されていない部分があり、本発明者らの推測が一部含まれている。
【0044】
まず銅源(図示せず)が含まれる水性液中にSiO2粒子を共存させる。この状態下に還元剤を添加すると、図2(a)に示すように、銅イオン(Cu2+)が還元されてCu2O粒子が生成する。Cu2O粒子の生成においては、液中に存在しているSiO2粒子がCu2O粒子内に取り込まれる。SiO2粒子は液中にも存在している。また、この時点ではCuの核粒子は生成していない。
【0045】
還元剤の追加添加によって還元が進行すると、図2(b)に示すように、一旦生成したCu2O粒子が溶解して小さくなり、それとともに系内にCuの核粒子が生成する。Cuの核粒子は結晶密度が高いので、Cu2O粒子と異なり、SiO2粒子はCuの核粒子内に取り込まれない。Cu2O粒子の還元が更に進行すると、図2(c)に示すように、Cu2O粒子の溶解が更に進行してその粒径が小さくなり、それとともにCuの核粒子の成長が進行する。この場合、Cu2O粒子の粒径が小さくなると、その比表面積が大きくなり、それに伴って溶解速度も高くなる。その結果、液中に溶解したCu+イオンの量も増加するので、Cuの核粒子の成長速度も増加する。Cuの核粒子の成長速度も増加に起因して、Cuの核粒子の結晶化密度が低下し、Cu粒子内にSiO2粒子が取り込まれ始める。
【0046】
Cu粒子内にSiO2粒子が取り込まれるメカニズムは、次のとおりであると本発明者らは考えている。すなわち、図2(d)に示すように、成長過程にあるCu粒子はその表面にOH基を有している。一方、液中がアルカリ性であることに起因して、SiO2粒子の表面にもOH基が存在している。したがって、Cu粒子の表面のOH基と、SiO2粒子の表面のOH基とが加水分解し、両粒子どうしが引き寄せ合う。それによって、Cu粒子内にSiO2粒子が取り込まれる。したがってSiO2粒子の取り込みは、SiO2粒子の表面のOH基の数が多いほど起こりやすくなる。
【0047】
Cu粒子の成長に伴い液のpHは次第に低下してくるところ、図2(e)に示すように、アルカリ物質の添加によって液のpHが7.5〜12の範囲に維持されるようにすることで、SiO2粒子の表面のOH基の数を維持できる。それによって、SiO2粒子の取り込みの程度が低下することを防止できる。つまり、液のpHの調整によって、SiO2粒子の取り込みの程度をコントロールでき、完全包埋されるSiO2粒子と一部露出したSiO2粒子との量をコントロールすることができる。このようにして、図2(f)に示すように、目的とする複合銅粒子が得られる。
【0048】
以上の各操作によれば、完全包埋される無機酸化物粒子と一部露出した無機酸化物粒子との量を精密にコントロールすることができるので、得られる複合銅粒子の焼結挙動を精密に制御できるという利点がある。また、このようにして得られた複合銅粒子においては、その表面に一部露出している無機酸化物粒子が、アンカー効果等によって確実に母粒子に保持されているので、該複合銅粒子に外力を加えても無機酸化物粒子の脱落が起こりづらくなっている。したがって、得られた複合銅粒子に例えば圧力を加えて扁平状に加工しても、加工中における無機酸化物粒子の脱落が防止される。
【0049】
得られた複合銅粒子は、例えばこれをガラス粉末及び有機ビヒクルと混合して導電ペーストとして用いることができる。この導電ペーストは、例えば積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品の外部電極作製のために用いることができる。特に、ニッケルを主成分とする内部電極と電気的に接続される外部電極を形成するために用いられる。外部電極の形成においては、セラミックから構成される積層セラミック電子部品本体の外表面上に、導電ペーストを塗布した後、高温での熱処理(例えば400〜1000℃)で焼結を行う。この場合、本発明の複合銅粒子を含む導電ペーストを用いれば、焼結時における塗布体の熱収縮がコントロールされるので、焼結によって生ずる焼結体が部品本体から剥離したり、焼結体にクラックが生じたりすることを効果的に防止することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0051】
〔実施例1〕
まず、3.6Mの硫酸銅水溶液9Lを50℃に加熱保持し、この硫酸銅水溶液へSiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径5nm)を50g添加した。その後、濃度25%のアンモニア水溶液1300mlと、濃度25%の水酸化ナトリウム水溶液4250gを遂次添加した。ここに、ヒドラジン一水和物(ヒドラジン系還元剤)450gとpH調整剤としてのアンモニア水溶液(濃度25%)591mlとを連続添加し、液のpHを11に維持しつつ亜酸化銅スラリーを得た(第1還元処理)。そして、還元反応を完全に行うため、更に30分間撹拌を続けた。
【0052】
この亜酸化銅スラリーにヒドラジン一水和物(ヒドラジン系還元剤)300gを添加した。更に60分間撹拌を行い、還元反応を完全に行わせ、目的とする複合銅粒子を還元析出させた(第2還元処理)。ヒドラジン一水和物(ヒドラジン系還元剤)を二回目に添加した後、系のpHが徐々に低下する。この場合、SiO2ゾルを安定に取り込ませるために、5%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して系のpHが11となるよう調整を行った。
【0053】
得られた複合銅粒子を濾過洗浄(その際の表面処理剤としてデカン酸添加)して回収した。その後70℃、5時間の加熱乾燥を行い、更に解砕処理を施した。得られた複合銅粒子の平均粒径は0.3μmであり、その中に0.5%のSiO2粒子が含まれていた。上述した方法によって、SiO2粒子の存在部位を調べたところ、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとが存在していることが確認された。また母粒子の中心域にはSiO2粒子は存在していなかった。母粒子の表面近傍に完全包埋されているSiO2粒子と、母粒子の表面に一部露出した状態になっているSiO2粒子との重量比を上述した方法で測定したところ、前者:後者=6:4であった。
【0054】
〔実施例2〕
まず、3.6Mの硫酸銅水溶液9Lを50℃に加熱保持し、この硫酸銅水溶液へSiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径30nm)を250g添加した。その後、濃度25%アンモニア水溶液1300mlと濃度25%の水酸化ナトリウム水溶液4250gを遂次添加した。ここにヒドラジン一水和物450gとpH調整剤としてのアンモニア水溶液591mlとを連続添加し、亜酸化銅スラリーを得た(第1還元処理)。そして還元反応を行うために、更に30分間攪拌を続けた。
【0055】
この亜酸化銅スラリーに、当初液中に存在するものとは別にSiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径30nm)を250g添加し、その後ヒドラジン一水和物300gを添加した。更に60分間攪拌を行い、還元反応を完全に行わせ、目的とする複合銅粒子を還元析出させた(第2還元処理)。
【0056】
その後は実施例1と同様にして複合銅粒子を得た。得られた複合銅粒子の平均粒径は0.3μmであり、その中に5%のSiO2粒子が含まれていた。上述した方法によって、SiO2粒子の存在部位を調べたところ、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとが存在していることが確認された。また母粒子の中心域にはSiO2粒子は存在していなかった。母粒子の表面近傍に完全包埋されているSiO2粒子と、母粒子の表面に一部露出した状態になっているSiO2粒子との重量比を上述した方法で測定したところ、前者:後者=6:4であった。
【0057】
〔実施例3〕
まず、3.6Mの硫酸銅水溶液9Lを50℃に加熱保持し、この硫酸銅水溶液へSiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径20nm)を34g添加した。その後、グリシン45ml、濃度25%の水酸化ナトリウム水溶液1743gを遂次添加した。ここに、グルコース525gを添加し、亜酸化銅スラリーを得た(第1還元処理)。そして、還元反応を完全に行うため、更に30分間撹拌を続けた。
【0058】
この亜酸化銅スラリーに、当初液中に存在するものとは別にSiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径20nm)16g添加し、その後ヒドラジン一水和物(ヒドラジン系還元剤)375gを添加した。更に30分間撹拌を行い、還元反応を完全に行わせ、目的とする複合銅粒子を還元析出させた(第2還元処理)。
【0059】
得られた複合銅粒子を濾過洗浄(その際の表面処理剤としてオレイン酸を添加)して回収した。その後70℃、5時間の加熱乾燥を行った。得られた複合銅粒子の平均粒径は2μmであり、その中に0.5%のSiO2粒子が含まれていた。上述した方法によって、SiO2粒子の存在部位を調べたところ、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとが存在していることが確認された。また母粒子の中心域にはSiO2粒子は存在していなかった。母粒子の表面近傍に完全包埋されているSiO2粒子と、母粒子の表面に一部露出した状態になっているSiO2粒子との重量比を上述した方法で測定したところ、前者:後者=3:7であった。
【0060】
〔実施例4〕
まず、3.6Mの硫酸銅水溶液9Lを50℃に加熱保持し、この硫酸銅水溶液へSiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径30nm)を166g添加した。次いで燐酸三ナトリウム11.gを添加した。その後アンモニア水溶液(濃度25%)2537mlを添加して、銅塩化合物スラリーを得た。そして、銅塩化合物スラリーを30分静置して熟成させた。次に、ヒドラジン一水和物(ヒドラジン系還元剤)450gとpH調整剤としてのアンモニア水溶液(濃度25%)591mlとを連続添加し、液のpHを8に維持しつつ亜酸化銅スラリーを得た(第1還元処理)。そして、還元反応を完全に行うため、更に30分間撹拌を続けた。
【0061】
この亜酸化銅スラリーに、当初液中に存在するものとは別にSiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径30nm)を334g添加し、その後ヒドラジン一水和物(ヒドラジン系還元剤)600gを添加した。更に180分間撹拌を行い、還元反応を完全に行わせ、目的とする複合銅粒子を還元析出させた(第2還元処理)。ヒドラジン一水和物(ヒドラジン系還元剤)を二回目に添加した後、系のpHが徐々に低下する。この場合、SiO2ゾルを安定に取り込ませるために、5%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して系のpHが8となるよう調整を行った。
【0062】
得られた複合銅粒子を濾過洗浄(その際の表面処理剤としてオレイン酸を添加)して回収した。その後70℃、5時間の加熱乾燥を行った。得られた複合銅粒子の平均粒径は2μmであり、その中に5%のSiO2粒子が含まれていた。上述した方法によって、SiO2粒子の存在部位を調べたところ、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとが存在していることが確認された。また母粒子の中心域にはSiO2粒子は存在していなかった。母粒子の表面近傍に完全包埋されているSiO2粒子と、母粒子の表面に一部露出した状態になっているSiO2粒子との重量比を上述した方法で測定したところ、前者:後者=6:4であった。
【0063】
〔実施例5〕
まず、3.6Mの硫酸銅水溶液9Lを50℃に加熱保持し、この硫酸銅水溶液へSiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径20nm)を16g添加した。その後、濃度25%の水酸化ナトリウム水溶液6Lを遂次添加した。ここに、グルコース1700gを添加し、亜酸化銅スラリーを得た(第1還元処理)。そして、還元反応を完全に行うため、更に30分間撹拌を続けた。
【0064】
この亜酸化銅スラリーに、当初液中に存在するものとは別にSiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径20nm)34g、アラビアゴムを10g添加し、その後グリシン160g、ヒドラジン1水和物(ヒドラジン系還元剤)3000gを遂次添加した。更に30分間撹拌を行い、還元反応を完全に行わせ、目的とする複合銅粒子を還元析出させた(第2還元処理)。
【0065】
得られた複合銅粒子を濾過洗浄して回収した。その後70℃、5時間の加熱乾燥を行った。得られた複合銅粒子の平均粒径は4μmであり、その中に0.5%のSiO2粒子が含まれていた。上述した方法によって、SiO2粒子の存在部位を調べたところ、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとが存在していることが確認された。また母粒子の中心域にはSiO2粒子は存在していなかった。母粒子の表面近傍に完全包埋されているSiO2粒子と、母粒子の表面に一部露出した状態になっているSiO2粒子との重量比を上述した方法で測定したところ、前者:後者=7:3であった。
【0066】
〔実施例6〕
実施例4において、SiO2ゾルに代えてAl23ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径10nm)を用い、これを総量が50gになるように添加した。Al23ゾルは分割添加ではなく、銅が還元される前の水溶液中に一括添加した。二回目のヒドラジン一水和物(ヒドラジン系還元剤)添加後のpHが9となるよう系のpHの調整を行った。また表面処理剤としてステアリン酸を使用した。これら以外は実施例4と同様の操作により複合銅粒子を得た。得られた複合銅粒子の平均粒径は2μmであり、その中に0.5%のAl23粒子が含まれていた。上述した方法によって、Al23粒子の存在部位を調べたところ、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとが存在していることが確認された。また母粒子の中心域にはAl23粒子は存在していなかった。母粒子の表面近傍に完全包埋されているAl23粒子と、母粒子の表面に一部露出した状態になっているAl23粒子との重量比を上述した方法で測定したところ、前者:後者=4:6であった。
【0067】
〔実施例7〕
実施例4において、SiO2ゾルに代えてAl23ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径50nm)を用い、これを総量が500gになるように添加した。Al23ゾルは250gずつ2回に分けて分割添加したが、二回目のヒドラジン一水和物(ヒドラジン系還元剤)添加後のpH調整は行わなかった。また表面処理剤としてステアリン酸を使用した。これら以外は実施例4と同様の操作により複合銅粒子を得た。得られた複合銅粒子の平均粒径は2μmであり、その中に5%のAl23粒子が含まれていた。上述した方法によって、Al23粒子の存在部位を調べたところ、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとが存在していることが確認された。また母粒子の中心域にはAl23粒子は存在していなかった。母粒子の表面近傍に完全包埋されているAl23粒子と、母粒子の表面に一部露出した状態になっているAl23粒子との重量比を上述した方法で測定したところ、前者:後者=6:4であった。
【0068】
〔実施例8〕
実施例6において、Al23ゾルに代えてTiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径40nm)を用い、これを総量が50gになるように添加した。また表面処理剤としてラウリン酸を使用した。これら以外は実施例6と同様の操作により複合銅粒子を得た。得られた複合銅粒子の平均粒径は2μmであり、その中に0.5%のTiO2粒子が含まれていた。上述した方法によって、TiO2粒子の存在部位を調べたところ、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとが存在していることが確認された。また母粒子の中心域にはTiO2粒子は存在していなかった。母粒子の表面近傍に完全包埋されているTiO2粒子と、母粒子の表面に一部露出した状態になっているTiO2粒子との重量比を上述した方法で測定したところ、前者:後者=4:6であった。
【0069】
〔実施例9〕
実施例7において、Al23ゾルに代えてTiO2ゾル(ゾル濃度20%、平均粒径50nm)を用い、これを総量が500gになるように、250gずつ2回に分けて分割添加した。また表面処理剤としてラウリン酸を使用した。これら以外は実施例7と同様の操作により複合銅粒子を得た。得られた複合銅粒子の平均粒径は2μmであり、その中に5%のTiO2粒子が含まれていた。上述した方法によって、TiO2粒子の存在部位を調べたところ、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとが存在していることが確認された。また母粒子の中心域にはTiO2粒子は存在していなかった。母粒子の表面近傍に完全包埋されているTiO2粒子と、母粒子の表面に一部露出した状態になっているTiO2粒子との重量比を上述した方法で測定したところ、前者:後者=6:4であった。
【0070】
〔評価1〕
各実施例で得られた複合銅粒子、及び無機酸化物粒子を含まず、かつ複合銅粒子と同じ粒径の銅粒子について、TMAを用いて熱収縮挙動を測定した。その結果を図3ないし図7に示す。測定条件は、昇温速度10℃/min、雰囲気1vol%H2−N2(流量150ml/min)とした。
【0071】
図3ないし図7に示す結果から明らかなように、本発明の複合銅粒子は、銅単独の粒子に比べて熱収縮の開始温度が高温側にシフトしており、耐熱収縮性が高くなることが判る。また、無機酸化物粒子の量が多いほど、熱収縮がゆっくり進行することが判る。
【0072】
〔評価2〕
実施例4で得られた複合銅粒子について、無機酸化物粒子の密着性を次の方法で評価した。複合銅粒子25gを純水200mL中に加え、出力400Wの超音波バス中で30分超音波処理を行った。超音波処理後の複合銅粒子を液から濾別して回収した。その後、銅を溶解する液(14mol/Lの硝酸水溶液)に投入して銅を完全溶解させた。次いでこの液に2.7mol/Lのフッ酸水溶液を添加してSiO2を完全溶解させた。このようにして得られた液を測定対象としてICP分析を行った。超音波処理を行う前の複合銅粒子に含まれるSiO2値を基準にして、超音波処理後に残留したSiO2量の割合を求めた。同様の測定を、特許文献1の実施例1の粒子及び特許文献3の段落〔0024〕〜〔0027〕に記載の粒子についても行った。これらの結果を以下の表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示す結果から明らかなように、実施例4の複合銅粒子は、特許文献1や特許文献3の粒子に比べ、SiO2の密着性が高いことが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.2〜10μmである銅を含む母粒子中に、平均粒径が5〜50nmである無機酸化物粒子が複数含まれている複合銅粒子であって、
無機酸化物粒子は、母粒子の表面近傍に完全包埋されているものと、母粒子の表面に一部露出した状態で、母粒子中に包埋されているものとからなり、
無機酸化物粒子が複合銅粒子全体に対して0.1〜5重量%含有されていることを特徴とする複合銅粒子。
【請求項2】
母粒子の中心域においては、無機酸化物粒子が実質的に非存在状態になっている請求項1記載の複合銅粒子。
【請求項3】
無機酸化物粒子が、シリカ、アルミナ、チタニア、セリア又はジルコニアである請求項1又は2記載の複合銅粒子。
【請求項4】
無機酸化物粒子の平均粒径が、母粒子の平均粒径の1/10〜1/200である請求項1ないし3のいずれかに記載の複合銅粒子。
【請求項5】
請求項1記載の複合銅粒子の製造方法であって、
銅イオン若しくは銅を含むイオン種、銅酸化物又は銅水酸化物及び無機酸化物粒子を含む水性液に還元剤を添加して、銅の還元を行う工程を有し、
銅の還元中に、無機酸化物粒子を、当初水性液中に存在するものとは別に添加するか、又は
銅の還元中の液のpHを7.5〜12の範囲に調整する
ことを特徴とする複合金属粒子の製造方法。
【請求項6】
無機酸化物粒子をゾルの状態で用いる請求項5記載の複合金属粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−6770(P2011−6770A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154400(P2009−154400)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】