説明

複合高分子電解質膜、複合高分子電解質膜/電極接合体、及び燃料電池

【課題】耐膨潤性、機械的強度、イオン伝導性、メタノール透過抑止性などに優れ、かつ電極との接合性に優れた複合高分子電解質膜及び該複合高分子電解質膜を用いた高分子電解質膜/電極接合体と燃料電池の提供。
【解決手段】膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜と主として下記の化学式6で示されるスルホン酸基含有ポリマーを含むイオン交換樹脂とからなる複合高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合高分子電解質膜に関する。さらに詳しくは、機械的強度、イオン伝導性、及び電極との接合性に優れる複合高分子電解質膜に関する。また、本発明の複合高分子電解質膜を用いた、高分子電解質膜/電極接合体及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。また、同じく高分子固体電解質膜を使用し、燃料としてメタノールを直接供給するダイレクトメタノール形燃料電池も携帯機器の電源などの用途に向けた開発が進んでいる。
【0003】
高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換樹脂を含む膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素などの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子固体電解質膜としては、例えばスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜が知られている。
しかしながら、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜は100℃以上では軟化するため、この膜を用いた燃料電池では運転温度が80℃以下に制限されていた。運転温度が上がると、エネルギー効率、装置の小型化、触媒活性の向上など、さまざまな利点があるため、耐熱性の高分子固体電解質膜が検討されてきた。
【0004】
その中の一つにスルホン酸基を導入したポリスルホンを含む膜がある(例えば、非特許文献1参照)。ポリスルホンは高い耐熱性を有し、かつ有機溶媒に可溶であるなど加工性に優れることから、高分子固体電解質膜の原料として適している。しかし、通常ポリスルホンは、濃硫酸や無水硫酸などのスルホン化剤によってスルホン酸基を導入するが、この方法ではスルホン化反応の制御が困難であった。そのため、所望のスルホン化度に調節できなかったり、不均一なスルホン化や副反応によって、ゲル化などの問題を起こしたりする場合があった。
【0005】
そこで、既存のポリマーをスルホン化するのではなく、スルホン酸基を有するモノマーを重合して、スルホン化ポリマーを合成し高分子固体電解質として利用することが検討されてきた(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。これらのスルホン化ポリマーは、スルホン化度の調節が容易にでき、均一な溶液が得やすいため優れている。
【0006】
ここで、高分子固体電解質を高分子電解質膜として用いる場合、特に燃料電池のプロトン交換膜として用いる場合には、膜のイオン伝導性が高いほど性能が良くなる。そのため、膜中のスルホン酸基濃度を大きくすれば、イオン伝導性は大きくなる。しかしながら、上記のスルホン化ポリマーの中でもスルホン化度が大きいものは膨潤が著しくなるため、燃料電池のプロトン交換膜として使用した場合に、ガスのクロスオーバー、電極の剥離、破損などの問題が生じる傾向がある。
【0007】
そのため何らかの方法で膜の補強を行うことが検討されている。スルホン化モノマーから重合したスルホン化ポリマーと類似の構造の非スルホン化ポリマーとをブレンドすることで補強することが行われている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、スルホン化ポリマーと非スルホン化ポリマーとは極性が大きく異なるため相溶しにくく、均一な膜が得られないという欠点があった。
【0008】
また、スルホン化ポリマーの補強を多孔質の支持体膜で行うことも提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、スルホン化ポリマーとしては、既存のポリマーのスルホン化物のみが挙げられており、より優れた高分子電解質であるスルホン化モノマーから重合したスルホン化ポリマーを用いた例は、この文献には記載されていない。また、この文献に記載されている支持体は膜の空隙率が小さいために、複合膜化するとイオン伝導性が低下するという欠点があった。
【0009】
一般に、多孔質支持体で補強された複合高分子電解質膜は、支持体によって膨潤性が低く抑えられ、機械的特性にも優れる。しかしながら、支持体があるために、膜表面の高分子電解質の量が減少するため、電極との接合性に問題がある場合があった。高分子電解質膜のみからなる層を、支持体との複合層の表面に形成することも行われているが、耐熱性の高分子電解質はガラス転移温度が高いため、電極をホットプレスなどの方法で良好に接合することができない場合があった。
【0010】
多孔性の支持体に、炭化水素系高分子電解質を複合化した複合電解質膜も提案されている(例えば特許文献5参照)。しかしながら、一般的な膜/電極接合体の製造については記載されているものの、電解質膜と電極との接合性を良好にするような、炭化水素系高分子電解質については言及されていなかった。
【0011】
【特許文献1】特開平5−1149号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0091225号明細書
【特許文献3】特開平5−4031号公報
【特許文献4】国際公開第00/22684号パンフレット
【特許文献5】特開2006−128066号公報
【非特許文献1】エフ ルフラノ(F. Lufrano)他3名著、「スルホネイテッド ポリスルホン アズ プロマイジング メンブランズ フォー ポリマー エレクトロライト フュエル セルズ」(Sulfonated Polysulfone as Promising Membranes for Polymer Electrolyte Fuel Cells)、ジャーナル オブ アプライド ポリマー サイエンス(Journal of AppLied Polymer Science)、(米国)、ジョン ワイリー アンド サンズ インク(John Wiley & Sons, Inc.)、2000年、77号、p.1250−1257
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の現状に基づきなされたもので、その主要な課題は、耐膨潤性が高く、機械的強度とイオン伝導性とに優れ、かつ電極との接合性に優れた複合高分子電解質膜を提供することであり、さらには、該複合高分子電解質膜を用いた高分子電解質膜/電極接合体と燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
(1)イオン交換樹脂:
(イ)化学式1で表される化合物、(ロ)ジハロゲノベンゼノイド化合物、(ハ)化学式2で表されるビスフェノール化合物及びビスチオフェノール化合物のうちの化合物であって、化学式3の構造単位を有する化合物か又は化学式4の構造単位を有する化合物と化学式5の構造単位を有する化合物の両者のいずれか、及び(ニ)アルカリ金属の炭酸塩及び重炭酸塩のうちの少なくとも一方とを混合し、有機高極性溶媒中で重合させて得られる重合物。
【0014】
【化1】

(化学式1において、Yは−S(=O)−基又はC(=O)−基を表す。XはH,Li,Na,K原子のいずれかを表す。QはF,Cl,Br,I原子のいずれかを表す。)
【0015】
【化2】

(ただし、Arが化学式3の構造単位である場合、ZはOH基を、nは2以上の任意の整数を示す。Arが化学式4と化学式5の両構造単位を含む場合、Zは独立してOH基又はSH基のいずれかを、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示す。)
(2)
膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜とイオン交換樹脂とを備える複合高分子電解質膜であって、前記支持体膜が、前記空隙中に前記イオン交換樹脂を含有してなり、前記イオン交換樹脂が、下記の化学式6で示されるスルホン酸基含有ポリマーを含むイオン交換樹脂であることを特徴とする複合高分子電解質膜。
【0016】
【化3】

(ただし、Xは水素又は1価のカチオン種、Yは−S(=O)−基又はC(=O)−基、Arは、化学式3の構造単位か、又は化学式4及び化学式5の両者を含む構造単位のいずれか。)
【0017】
【化4】

(ただし、化学式6におけるArが化学式3の構造単位である場合、Zは酸素原子を、nは2以上の任意の整数を示す。Arが化学式4及び化学式5の両構造単位を含む場合、Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示す。また、Arが化学式4及び化学式5の両者を含む構造単位の場合は、上記化学式6と共に下記化学式7及び化学式8の構造単位を同時に含む。)
【0018】
【化5】

(ただし、化学式7におけるAr,化学式8におけるArは、2価の芳香族結合ユニットを、Z,Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示す。)
(3)
スルホン酸基含有ポリマーが、下記化学式9で示される構造単位をさらに有する(2)に記載の複合高分子電解質膜。
【0019】
【化6】

(ただし、Arは2価の芳香族結合ユニットを、nは2以上の任意の整数を示す。)
(4)
スルホン酸基含有ポリマーにおけるAr〜Arが、下記化学式10〜13の構造単位から選ばれる1種以上の構造単位である請求項2に記載の複合高分子電解質膜。
【0020】
【化7】

(5)
スルホン酸基含有ポリマーにおけるArが、化学式10〜13の構造単位から選ばれる1種以上の構造単位である(3)に記載の高分子電解質膜。
(6)
スルホン酸基含有ポリマーにおけるZ及びZが、いずれも硫黄原子である(2)に記載の複合高分子電解質膜。
(7)
スルホン酸基含有ポリマーにおける化学式6〜8でそれぞれ表される繰り返し構造単位及びその他の繰り返し構造単位のモル比が、下記の数式1〜3を満たす(2)に記載の複合高分子電解質膜。
(数式1)
0.9≦(n1+n2+n3+n4)/(n1+n2+n3+n4+n5)≦1.0
(数式2)
0.05≦(n1+n2)/(n1+n2+n3+n4)≦0.7
(数式3)
0.01≦(n2+n4)/(n1+n2+n3+n4)≦0.95
(上記式中、n1はArが化学式4である場合の化学式6で表される繰り返し構造単位のモル%を、n2はArが化学式5である場合の化学式6で表される繰り返し構造単位のモル%を、n3は化学式7で表される繰り返し構造単位のモル%を、n4は化学式8で表される繰り返し構造単位のモル%を、n5はその他の繰り返し構造単位のモル%を、それぞれ表す。)
(8)
スルホン酸基含有ポリマーが、下記の化学式14の末端ジヒドロキシ化合物であって、nの異なる複数の成分からなり、かつ平均組成が1<n≦10の範囲にあるものをモノマー成分の一部として使用することにより得られるスルホン酸基含有ポリマーである(2)に記載の複合高分子電解質膜。
【0021】
【化8】

(ただし、nは0以上の整数を表す。)
(9)
イオン交換容量が、0.3〜5.0meq/gの範囲内である(2)に記載の複合高分子電解質膜。
(10)
前記イオン交換樹脂からなる表面層を前記支持体膜の両面に備える(1)〜(9)のいずれかに記載の複合高分子電解質膜。
(11)
前記表面層のそれぞれの厚みが、1〜50μmの範囲であり、かつ前記複合高分子電解質膜の全厚みの半分を超えない範囲である(10)に記載の複合高分子電解質膜。
(12)
前記支持体膜の少なくとも一方の面の開孔率が、40〜95%の範囲にある(1)〜(11)のいずれかに記載の複合高分子電解質膜。
(13)
前記支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーを材質として含む(12)に記載の複合高分子電解質膜。
(14)
前記支持体膜が、前記ポリベンザゾール系ポリマーを0.5〜2質量%の範囲の含有率で含む等方性溶液を膜状に成型し、成型された前記溶液を凝固させて得られる支持体膜である(13)に記載の複合高分子電解質膜。
(15)
(1)〜(14)に記載の複合高分子電解質膜を有する高分子電解質膜/電極接合体。
(16)
(15)に記載の高分子電解質膜/電極接合体を用いた燃料電池。
【発明の効果】
【0022】
本発明の複合高分子電解質膜は、耐膨潤性、機械的強度に優れ、さらに優れたイオン伝導性とメタノール透過抑止性を示すのみならず、高分子電解質膜/電極接合体とした場合に電極との接合性に優れ、電極の剥離が起きにくいため、燃料電池用に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
<複合高分子電解質膜>
本発明の複合高分子電解質膜は、膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜とイオン交換樹脂とを備える複合高分子電解質膜であって、前記支持体膜は、前記空隙中に前記イオン交換樹脂を含有してなる膜であり、前記イオン交換樹脂は、以下の原料から得ることができる。
すなわち、化学式1で表される化合物と、ジハロゲノベンゼノイド化合物と、化学式2で表されるビスフェノール化合物及びビスチオフェノール化合物のうちの少なくとも1種の化合物と、アルカリ金属の炭酸塩及び/又は重炭酸塩とを原料とする。なお、化学式2で表される化合物は、化学式3の構造単位を有する化合物だけか又は化学式4の構造単位を有する化合物と化学式5の構造単位を有する化合物の両者のいずれかを原料とする。
【0024】
ここで、上記の化学式1の化合物は、例えば、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンなどの化合物を発煙硫酸などで加熱してスルホン化することにより得ることができる。
【0025】
また、上記の化学式1におけるYは、−S(=O)−基であると、モノマー及びポリマーの溶解性が向上させることができ、−C(=O)−基であると、得られるポリマーの軟化温度を低下させたり、光架橋性を付与させたりすることができる。さらに、上記の化学式1におけるQは、F又はClであることが、反応性が高くなるため好ましい。そして、上記の化学式1におけるXは、H原子ではないほうが好ましく、Na、K原子であることが好ましい。
【0026】
上記の化学式1の化合物として好ましい例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、及びそれらのスルホン酸基が1価陽イオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価陽イオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに限定されるわけではない。化学式1で表される化合物のうち、スルホン酸基が塩になっている化合物の例としては、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなどを挙げることができるがこれらに限定されるわけではない。
【0027】
また、上記のジハロゲノベンゼノイド化合物としては、例えば、ハロゲン原子が結合しているのと同一の芳香環に電子吸引性基が結合しているものが好ましく、ハロゲン原子に対してオルト位もしくはパラ位に結合しているものがより好ましい。さらに、電子吸引性基としては、例えば、スルホン基、スルホニル基、カルボニル基、フォスフィンオキシド基、ニトロ基、シアノ基などを挙げることができる。そして、ハロゲン原子はF又はCl原子が好ましい。また、二つのハロゲン原子は同一の芳香環に結合していても、別の芳香環に結合していてもよい。
【0028】
ここで、上記のジハロゲノベンゼノイド化合物の好ましい例として、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに限定されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0029】
また、上記のジハロゲノベンゼノイド化合物としては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリルがさらに好ましく、2,6−ジクロロベンゾニトリルが特に好ましい。
【0030】
化学式2の化合物において、好ましい態様の一つは、Arが化学式3の構造単位を有する化合物である場合である。この場合、ZはOH基を、nは2以上の整数を表す。また、該化合物は、nが異なる複数の成分からなっていてもよく、その平均値が3〜20の範囲にあることが好ましく、4〜10の範囲にあることがより好ましい。さらに、全てのビスフェノール化合物及び/又はビスチオフェノール化合物における、該化合物の割合は10〜100モル%であることが好ましく、50〜100モル%であることがより好ましく、90〜100モル%であることがさらに好ましい。
【0031】
化学式2の化合物において、好ましい別の態様は、Arが、化学式4の構造単位を有する化合物と、化学式5の構造単位を有する化合物の混合物である場合である。この場合、Zは独立してOH基又はSH基のいずれかを表すが、OH基であると得られるポリマーの着色が少ないという利点があり、SH基であると該化合物の反応性が高くなると共に、得られるポリマーの耐酸化性が向上するという利点がある。
【0032】
化学式2の化合物が、化学式4の構造単位の化合物と、化学式5の構造単位の化合物との混合物である場合、化学式5において、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示すが、中でも、酸素原子、硫黄原子、シクロヘキシル基が好ましい。
化学式5の構造単位を有する化合物の例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−オキシビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどを挙げることができ、4,4’−チオビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンが好ましい。
【0033】
化学式4の構造単位を有する化合物の例としては、4,4’−ビフェノール、4、4’−ジメルカプトビフェノールなどを挙げることができ、4,4’−ビフェノールが好ましい。
【0034】
ポリマー中に化学式4で表される構造単位と、化学式5で表される構造単位の両構造単位が存在する場合、化学式4で表される構造単位と化学式5で表される構造単位のモル比は1:99〜99:1の範囲であることが好ましく、10:90〜90:10の範囲であることがより好ましく、50:50〜80:20の範囲であると、得られる高分子電解質膜が電極との接合性が特に良好になるためさらに好ましい。
【0035】
その他のビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、フェノールフタレイン、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイド等が挙げられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオール又は各種芳香族ジチオールを使用することもでき、上記の化合物に限定されるものではない。
【0036】
<イオン交換樹脂の製造方法>
本発明の複合高分子電解質膜に用いるイオン交換樹脂は、(イ)化学式1で表される化合物、(ロ)ジハロゲノベンゼノイド化合物、(ハ)化学式2で表されるビスフェノール化合物及びビスチオフェノール化合物のうちの化合物であって、化学式3の構造単位を有する化合物か又は化学式4の構造単位を有する化合物と化学式5の構造単位を有する化合物の両者のいずれか、及び(ニ)アルカリ金属の炭酸塩及び重炭酸塩のうちの少なくとも一方とを混合し、有機高極性溶媒中で重合させて得ることができる。
モノマー中の反応性のハロゲン基又はニトロ基と、反応性のヒドロキシ基及びチオール基のモル比は任意のモル比にすることで、得られるポリマーの重合度を調整することができるが、ヒドロキシ基及びチオール基のモル比は、0.8〜1.2であることが好ましく、より好ましくは0.9〜1.1、さらに好ましくは0.95〜1.05であり、1であると高重合度のポリマーを得ることができるため最も好ましい。
【0037】
重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の範囲であることが好ましく、190〜220℃の範囲で行うことがより好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0038】
アルカリ金属の炭酸塩及び重炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、芳香族ジオール類や芳香族ジメルカプト化合物を活性なフェノキシド構造になしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。アルカリ金属の炭酸塩や重炭酸塩は、ビスフェノール化合物及びビスチオフェノール化合物の総和に対して100モル%以上の量を用いると良好に重合することができ、好ましくはビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の総和に対して105〜125モル%の範囲である。ビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の量が多くなりすぎると、分解などの副反応の原因となるので好ましくない。
【0039】
また、上記重合反応において、アルカリ金属の炭酸塩や重炭酸塩を用いずに、ビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物を、イソシアネート化合物と反応させてカルバモイル化したものと、活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物とを直接反応させることもできる。
【0040】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50質量%の範囲となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5質量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50質量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。また副生する塩類を濾過によって取り除いてポリマー溶液を得ることもできる。
【0041】
上記反応は、窒素やアルゴンなどの不活性ガスの気流下又は雰囲気下で行うことが好ましい。上記のように副生する水を除去する場合には、不活性ガスの気流下で行うことが好ましい。
【0042】
また、本発明におけるスルホン酸基含有ポリマー(イオン交換樹脂)は、後で述べる方法により測定したポリマー対数粘度が0.1dl/g以上であることが好ましい。対数粘度が0.1dl/gよりも小さいと、高分子電解質膜として成形したときに、膜が脆くなりやすくなる。対数粘度は、0.3dl/g以上であることがさらに好ましい。一方、対数粘度が5dl/gを超えると、ポリマーの溶解が困難になるなど、加工性での問題が出てくるので好ましくない。なお、対数粘度を測定する溶媒としては、一般にN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒を使用することができるが、これらに溶解性が低い場合には濃硫酸を用いて測定することもできる。
【0043】
そして、上記の方法で重合反応を行って芳香族ポリエーテル及び/又はその誘導体を得た場合、この芳香族ポリエーテル及び/又はその誘導体を主成分とするイオン交換樹脂は、単離してから、本発明における複合高分子電解質膜の材質の一部として用いてもよいし、あるいは溶液中に溶解あるいは分散した状態でそのまま支持体膜中に含浸させて、本発明の複合高分子電解質膜を製造してもよい。
【0044】
ここで、上記の重合反応で得られた芳香族ポリエーテル及び/又はその誘導体を主成分とするイオン交換樹脂の単離は、公知の任意の方法で行うことができるが、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトン及びこれらの混合溶媒中などで再沈して単離することが一般的である。
【0045】
また、上記のイオン交換樹脂を再沈して単離する前に、重合溶液を濾過してあらかじめ無機塩などを除いてもよい。そして、再沈して単離されたイオン交換樹脂は、熱水中で処理するなどして、溶媒、オリゴマー、残留したモノマー、無機塩などの不純物を除くことができる。さらに、再沈して単離されたイオン交換樹脂は、硫酸、塩酸などで処理して、スルホン酸基をアルカリ金属塩から酸へ変換しておくこともできる。これらの操作の後、再沈して単離されたイオン交換樹脂は、濾過し、乾燥することにより再沈溶媒を取り除いて単離することができる。
【0046】
<イオン交換樹脂の支持体膜中への含浸>
上記のようにして単離されたイオン交換樹脂は、有機溶媒に溶解又は分散した溶液とした上で、支持体膜中に含浸させることにより、支持体膜中の空隙中にもイオン交換樹脂が含有せしめられ、溶媒を除去することによって複合化された、本発明の複合高分子電解質膜を得ることができる。
【0047】
ここで、上記の有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルホルムアミド、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミドなどを好適に用いることができる。また、これらの有機溶媒の中でも、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどが特に好ましい。
【0048】
また、支持体膜中に含浸させるイオン交換樹脂含有液としては、上記のように、単離したイオン交換樹脂を再度、溶媒に溶解又は分散した溶液を用いてもよいが、重合溶液をそのまま用いることも可能である。その際、イオン交換樹脂が溶解又は分散した重合溶液を濾過や遠心沈降することによって、イオン交換樹脂が溶解又は分散した重合溶液から無機塩などを除いておくことが好ましい。
【0049】
また、イオン交換樹脂が溶解又は分散した重合溶液は、適宜N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルホルムアミド、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミドなどの良溶媒を追加して、重合溶液中のイオン交換樹脂の濃度を調整しておいてもよい。
【0050】
また、イオン交換樹脂が溶解又は分散した溶液中のイオン交換樹脂のスルホン酸基は、酸型であってもよいが、溶媒の分解を抑制するためにはアルカリ金属などとの塩であることが好ましい。
【0051】
イオン交換樹脂を溶解又は分散した溶液中におけるイオン交換樹脂の濃度は、イオン交換樹脂を支持体膜の空隙中に含浸させることができれば特に限定はされないが、5質量%以上であることが好ましく、特に10質量%以上であればより好ましい。また、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であればより好ましい。このイオン交換樹脂の濃度が5質量%未満の場合には、本発明における複合高分子電解質膜中のイオン交換樹脂の含有率が少なくなるためにイオン伝導性が低下する傾向があり、この濃度が50質量%を超えると、イオン交換樹脂を溶解又は分散した溶液の粘度が増大して取り扱いが困難になる傾向がある。
【0052】
また、上記のイオン交換樹脂を溶解又は分散した溶液は、溶液の濁りやゲル化が生じない範囲で、水やアルコールなどの非溶媒を含んでいてもよい。
【0053】
ここで、支持体膜が上記のイオン交換樹脂を溶解又は分散した溶液と相溶しない溶媒を含んでいる場合には、含浸する前に支持膜中の溶媒を、イオン交換樹脂溶液と同一の溶媒に置換しておくことが好ましい。なお、溶媒の置換の過程で、一度に置換することが困難な場合には、それぞれの溶媒の混合比率が異なる混合溶媒に浸漬するなどして、段階的に置換してもよい。
【0054】
また、支持体膜を上記のイオン交換樹脂を溶解又は分散した溶液に含浸する場合、含浸の時間、温度、浴比などは、特に限定されず、支持体膜の形状、大きさ、空隙率、開孔率など、あるいは上記のイオン交換樹脂の化学構造、分子量など、あるいは上記のイオン交換樹脂を溶解又は分散した溶液の濃度、粘度などの条件に応じて、それぞれ適した条件を用いることができる。
【0055】
さらに、上記のイオン交換樹脂を溶解又は分散した溶液を含浸した支持体膜から溶媒を除去するための乾燥方法は、特に限定されず、熱風、赤外線、減圧など公知の任意の方法で行うことができる。
【0056】
そして、本発明の複合高分子電解質膜に使用されるイオン交換樹脂中のスルホン酸基が塩になっている場合には、この複合高分子電解質膜を酸で処理してスルホン酸基を酸型に変換しておくこともできる。なお、本発明の複合高分子電解質膜を燃料電池のプロトン交換膜として用いる場合には、酸型で用いることが好ましい。
【0057】
この場合、上記のイオン交換樹脂中のスルホン酸基酸型への変換に用いる酸としては、例えば、0.1〜10mol/リットルの濃度の硫酸、塩酸、過塩素酸などの強酸の溶液を挙げることができる。
【0058】
ここで、上記のイオン交換樹脂中のスルホン酸基酸型への変換の処理の際には、本発明の複合高分子電解質膜を加熱してもよい。また、この酸処理の後は、本発明の複合高分子電解質膜を水や熱水で充分洗浄して、遊離の強酸が複合高分子電解質膜中に残存しないようにすることが好ましい。ここで、洗浄した本発明の複合高分子電解質膜を乾燥する場合には、枠に固定して行なうほうが好ましい。
【0059】
<イオン交換樹脂の化学構造>
本発明に用いるイオン交換樹脂は、化学式6で示される構成成分を含有するスルホン酸基含有ポリマーとしても表すことができる。化学式6において、Xは水素又は1価のカチオン種、Yは−S(=O)−基又はC(=O)−基を表す。燃料電池に用いる場合にはXが水素であることが好ましい。Yは、−S(=O)−基であると、モノマー及びポリマーの溶解性が向上させることができ、−C(=O)−基であると、得られるポリマーの軟化温度を低下させたり、光架橋性を付与させたりすることができる。
【0060】
化学式6の好ましい態様の一つは、Arが化学式3で表される場合の構造単位である。Arが化学式3で表される構造単位であると、得られる高分子電解質膜の電極との接合性が特に良好であるため好ましい。このとき、Zは酸素原子を、nは2以上の任意の整数を示す。nは、異なる複数の成分からなっていてもよく、その平均値が3〜20の範囲にあることが好ましく、4〜10の範囲にあることがより好ましい。
【0061】
化学式6において、Arが化学式3で表される場合、スルホン酸基含有ポリマーは、化学式9で表される構造単位をさらに含有することが好ましい。化学式9において、nは2以上の任意の整数を示す。また、nは、異なる複数の成分からなっていてもよく、その平均値が3〜20の範囲にあることが好ましく、4〜10の範囲にあることがより好ましい。Arは任意の芳香族結合ユニットを表すが、他の部位と結合している芳香環に電子吸引性基が結合しているものが好ましく、結合部位に対してオルト位もしくはパラ位に結合しているものがより好ましい。さらに、電子吸引性基としては、例えば、スルホン基、スルホニル基、カルボニル基、フォスフィンオキシド基、ニトロ基、シアノ基、フッ素原子などを挙げることができる。また、他の部位とは、同一の芳香環で結合していても、別々の芳香環で結合していてもよい。具体的な例として、オクタフルオロビフェニル基や、化学式10〜13で表される構造単位を挙げることができる。化学式10の構造単位はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式11の構造単位はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式12又は13の構造単位はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式13の構造単位がより好ましい。化学式10〜13の中でも化学式13の構造単位が最も好ましい。
【0062】
化学式6において、Arが化学式3で表される場合、スルホン酸基含有ポリマーは、化学式14で表される末端ジヒドロキシ化合物であって、nの異なる複数の成分からなり、かつ平均で表される組成が1<n≦10の範囲にあるものをモノマー成分の一部として使用することが好ましい。
【0063】
化学式6の好ましい別の態様は、Arが、化学式4で表される構造単位と化学式5で表される構造単位の両方が存在する場合である。このとき、Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表すが、硫黄原子であるとポリマーの耐酸化性が向上する。Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示すが、酸素原子、硫黄原子、シクロヘキシル基が好ましい。
【0064】
化学式6におけるArが化学式4及び化学式5である場合は、イオン交換樹脂を構成するスルホン酸基含有ポリマーは、化学式6と共に化学式7及び化学式8の構造単位も同時に含む。化学式7及び8において、Ar及びArは、それぞれ任意の芳香族結合ユニットを表すが、他の部位と結合している芳香環に電子吸引性基が結合しているものが好ましく、結合部位に対してオルト位もしくはパラ位に結合しているものがより好ましい。さらに、電子吸引性基としては、例えば、スルホン基、スルホニル基、カルボニル基、フォスフィンオキシド基、ニトロ基、シアノ基、フッ素原子などを挙げることができる。また、他の部位とは、同一の芳香環で結合していても、別々の芳香環で結合していてもよい。具体的な例として、オクタフルオロビフェニル基や、化学式10〜13で表される構造単位を挙げることができる。化学式10の構造単位はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式11の構造単位はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式12又は化学式13の構造単位はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式13の構造単位がより好ましい。化学式10〜13の中でも化学式13の構造単位が最も好ましい。
【0065】
化学式6におけるArが化学式4及び化学式5の両方である場合、化学式7及び化学式8におけるZ及びZは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表すが、硫黄原子であるとポリマーの耐酸化性が向上する。化学式8におけるZは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示すが、酸素原子、硫黄原子、シクロヘキシル基が好ましい。
【0066】
化学式6におけるArが化学式4及び化学式5である場合、スルホン酸基含有ポリマーにおけるZ及びZがいずれも硫黄原子であると得られる高分子電解質膜が電極との良好な接合性を示すため好ましい。
【0067】
スルホン酸基含有ポリマーにおける化学式6〜8でそれぞれ表される繰り返し構造単位、及びその他の繰り返し構造単位のモル比は、数式1〜3を満たすことが好ましい。
数式1〜3において、n1はArが化学式4である場合の化学式6で表される繰り返し構造単位のモル%を、n2はAr化学式が化学式5である場合の化学式6で表される繰り返し構造単位のモル%を、n3は化学式7で表される繰り返し構造単位のモル%を、n4は化学式8で表される繰り返し構造単位のモル%を、n5はその他の繰り返し構造単位のモル%を、それぞれ表す。
【0068】
数式1において、(n1+n2+n3+n4)/(n1+n2+n3+n4+n5)が0.9よりも小さいと、高分子電解質膜で良好な特性が得られないことがある。より好ましいのは0.95〜1.0の範囲である。
【0069】
数式2において、(n1+n2)/(n1+n2+n3+n4)が0.05よりも小さくなると、高分子電解質膜のイオン伝導性が十分に得られないため好ましくない。また、0.9よりも大きいと高分子電解質膜の膨潤性が著しく大きくなることがある。より好ましい範囲は0.1〜0.7の範囲である。
【0070】
水素を燃料とする燃料電池の高分子電解質膜として用いる場合には、数式2における(n1+n2)/(n1+n2+n3+n4)が0.3〜0.8の範囲であることが好ましく、0.4〜0.7の範囲であることがより好ましい。0.3よりも小さいと十分な出力が得られないため好ましくなく、0.8よりも大きいと膨潤が著しく大きくなる場合がある。
【0071】
メタノールなどの液体を燃料とする燃料電池の高分子電解質膜として用いる場合には、数式2における(n1+n2)/(n3+n4+n5+n6)が0.07〜0.5の範囲であることが好ましく、0.1〜0.4の範囲であることがより好ましい。0.5よりも大きいと、燃料透過性が大きくなる場合があり好ましくない。0.07よりも小さいと、イオン伝導性が低下して抵抗が増大することがある。
【0072】
数式3において、(n2+n4)/(n1+n2+n3+n4)が0.01よりも少ないと、高分子電解質膜としたときに電極触媒層との接合性が低下することがある。0.95よりも大きいと、高分子電解質膜としたときの膨潤性が大きくなりすぎる場合がある。0.05〜0.8がより好ましい範囲である。水素を燃料とする燃料電池の高分子電解質膜に用いる場合には、0.05〜0.4の範囲であることが好ましく、メタノールなどの液体を燃料とする燃料電池の高分子電解質膜に用いる場合には、0.5〜0.8の範囲であることがより好ましい。
【0073】
本発明の複合高分子電解質膜のイオン交換容量は0.3〜5.0meq/gの範囲内であることが好ましい。0.3よりも小さいと十分なイオン伝導性が得られず、燃料電池にしたときに十分な出力を得ることができないことがある。また、5.0よりも大きいとイオン交換樹脂の膨潤が大きくなりすぎるため膜の変形が大きくなることがある。より好ましくは0.5〜3.0meq/gの範囲である。メタノールを燃料とする燃料電池に用いる場合には0.5〜1.5meq/gの範囲であることが、水素を燃料とする燃料電池に用いる場合には1.5〜2.5meq/gの範囲であることが、それぞれ好ましい。
【0074】
<イオン交換樹脂の特性>
本発明の複合高分子電解質膜に用いるイオン交換樹脂の分子量は、1,000以上であることが好ましく、特に5,000以上であればより好ましい。また、この分子量は、1,000,000以下であることが好ましく、特に500,000以下であれば、物性と加工性のバランスが取れるためにより好ましい。この分子量が1,000未満の場合には、膜の形成が困難になったり、膜の膨潤性や水溶性が大きくなってしまったりする傾向があり、この分子量が1,000,000を超えると、溶液粘度が非常に大きくなるため取り扱いが困難になる傾向がある。
【0075】
ここで、本発明に用いるイオン交換樹脂の重合度は、後述する方法で測定される対数粘度で表すこともできる。すなわち、本発明に用いるイオン交換樹脂を0.25g/dlのN−メチル−2−ピロリドン溶液に溶解した場合の30℃における対数粘度は、0.1以上であることが好ましく、特に0.3以上であることがより好ましい。また、この対数粘度は、5.0以下であることが好ましく、特に2.5以下であることがより好ましい。
【0076】
この対数粘度が0.1未満の場合には、膜の形成が困難になったり、膜の膨潤性や水溶性が大きくなってしまったりする傾向があり、この対数粘度が2.5を超えると、溶液粘度が非常に大きくなるため取り扱いが困難になるという傾向がある。
【0077】
<支持体膜>
本発明の複合高分子電解質膜に用いる支持体膜は、膜を貫通する連続した空隙を有する多孔性の支持体膜である必要がある。膜を貫通する連続した空隙内にイオン交換樹脂が含有されていなければ、良好なイオン伝導性を得ることができないからである。
【0078】
ここで、本発明の支持体膜の空隙率は90体積%以上であることが好ましく、特に95体積%以上であることがより好ましい。そして、この空隙率は、当然に100体積%以下であり、99体積%以下であることが好ましい。
【0079】
この空隙率が95体積%未満の場合には、イオン交換樹脂を溶解又は分散させた溶液を支持体膜に含浸させた場合の本発明の複合高分子電解質膜中に含まれるイオン交換樹脂の含有率が小さくなってイオン伝導性が低下する傾向がある。また、この空隙率が99体積%を超えると、支持体膜や複合膜の強度が低下するという傾向がある。
【0080】
本発明の支持体膜は、少なくとも一方の面の開孔率が40%以上であることが好ましく、特に50%以上であることがより好ましく、さらに60%以上であれば最も好ましい。また、この開孔率は、当然に100%以下であるが、95%以下であることが好ましい。
【0081】
この開孔率が40%未満である場合には、支持体膜中にイオン交換樹脂を溶解又は分散させた溶液を含浸させる際に、支持体膜の空隙内部にイオン交換樹脂が含有されにくくなるため、イオン伝導性が低下する場合がある。また、この開孔率が95%を超えると、支持体膜や複合膜の強度が低下するという傾向がある。
【0082】
本発明に用いる支持体を形成する材質としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン系、ポリプロピレン系などのポリマーを含むポリオレフィン系樹脂多孔質膜、ポリテトラフルオロエチレン系などのポリマーを含むフッ素系樹脂多孔質膜、ポリイミド系ポリマーを含むポリイミド系樹脂多孔質膜、ポリアミド系ポリマーを含むポリアミド系樹脂多孔質膜、セルロース系ポリマーを含むセルロース系樹脂系多孔質膜、ポリベンザゾール系ポリマーを含むポリベンザゾール系樹脂多孔質膜が挙げられる。
【0083】
なお、これらの材質の中でも、ポリベンザゾール系ポリマーを含むポリベンザゾール系樹脂多孔質膜が、耐熱性、強度に優れ、薄膜化が可能であるため、本発明に用いる支持体膜を形成する材質として特に好ましい。
【0084】
ここで、本発明に用いる支持体膜がポリベンザゾール系ポリマーを含むポリベンザゾール系樹脂多孔質膜を材質とする場合には、本発明に用いる支持体膜は、このポリベンザゾール系ポリマーを0.5〜2質量%の範囲の含有率で含む等方性溶液を膜状に成形し、成形されたこの溶液を凝固させてこの支持体膜を得ることにより得られる支持体膜であることが好ましい。
また、このようなポリベンザゾール系ポリマーを材質として含む支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液から製膜され、貧溶媒と接触させて凝固させられることにより得られた膜を洗浄することにより得られる。
ここで、上記のポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液が光学異方性を示す溶液である場合には、イオン交換樹脂を大量に含有できるような、空隙率の大きな連続した空隙を有する多孔質のポリベンザゾール系ポリマーを材質として含む膜が得られない場合があるため、ポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液としては、等方性の溶液を用いることが好ましい。
【0085】
本発明の支持体膜として使用されるポリベンザゾール系ポリマーとは、ポリマー鎖中にオキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環を含む構造のポリマーをいい、下記一般式で表される繰り返し構造単位をポリマー鎖中に含むものをいう。
【0086】
【化9】

【0087】
ここで、Ar,Ar,Arは、芳香族単位を示し、各種脂肪族基、芳香族基、ハロゲン基、水酸基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基等の置換基を有していても良い。これら芳香族単位は、ベンゼン環などの単環系単位、ナフタレン、アントラセン、ピレンなどの縮合環系単位、それらの芳香族単位が2個以上任意の結合を介してつながった多環系芳香族単位でも良い。また、芳香族単位におけるN及びXの位置はベンザゾール環を形成できる配置であれば特に限定されるものではない。さらに、これらは炭化水素系芳香族単位だけでなく、芳香環内にN,O,S等を含んだヘテロ環系芳香族単位でも良い。XはO,S,NHを示す。上記Arは、下記一般式で表されるものが好ましい。
【0088】
【化10】

【0089】
ここで、Y、YはCH又はNを示し、Zは直接結合、−O−,−S−,−SO−,−C(CH−,−C(CF−,−CO−を示す。Arは、下記一般式で表されるものが好ましい。
【0090】
【化11】

【0091】
ここで、Wは−O−,−S−,−SO−,−C(CH−,−C(CH−,−CO−を示す。Arは、下記一般式で表されるものが好ましい。
【0092】
【化12】

【0093】
これらポリベンザゾール系ポリマーは、上述の繰り返し単位を有するホモポリマーであっても良いが、上記構造単位を組み合わせたランダム、交互あるいはブロック共重合体であっても良く、例えば米国特許第4703103号、米国特許第4533692号、米国特許第4533724号、米国特許第4533693号、米国特許第4359567号、米国特許第4578432号等に記載されたものなども例示される。
【0094】
これらポリベンザゾール系構成単位の具体例としては、下記構造単位で表すものを例示することができる。
【0095】
【化13】

【0096】
【化14】

【0097】
【化15】

【0098】
【化16】

【0099】




化学式21-5 化学式21-6


【化17】

【0100】
【化18】

【0101】
【化19】

【0102】
さらに、これらポリベンザゾール系構成単位だけでなく、他のポリマー構成単位とのランダム、交互あるいはブロック共重合体であっても良い。また、本発明における支持体膜は、他のポリマー構成単位からなるポリマーから構成されていてもよい。この時、他のポリマー構成単位としては耐熱性に優れた芳香族系ポリマー構成単位から選ばれることが好ましい。具体的には、ポリイミド系構成単位、ポリアミド系構成単位、ポリアミドイミド系構成単位、ポリオキシジアゾール系構成単位、ポリアゾメチン系構成単位、ポリベンザゾールイミド系構成単位、ポリエーテルケトン系構成単位、ポリエーテルスルホン系構成単位などを挙げることができる。
【0103】
ポリイミド系構成単位の例としては、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0104】
【化20】

【0105】
ここで、Ar10は4価の芳香族単位で表されるが、下記構造単位で表されるものが好ましい。
【0106】
【化21】

【0107】
また、Ar11は二価の芳香族単位であり、下記構造単位で表されるものが好ましい。ここで示される芳香環上には、メチル基、メトキシ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基等の各種置換基が存在していても良い。
【0108】
【化22】

【0109】
これらポリイミド系構成単位の具体例としては、下記構造単位で表すものを例示することができる。
【0110】
【化23】

【0111】
【化24】

【0112】
ポリアミド系構成単位の例としては、下記構造単位で表されるのもが挙げられる。
【0113】
【化25】

【0114】
ここで、Ar12,Ar13,Ar14はそれぞれ独立に下記構造単位から選ばれるものが好ましい。ここで示される芳香環上には、メチル基、メトキシ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基等の各種置換基が存在していても良い。
【0115】
【化26】

【0116】
これらポリアミド系構成単位の具体例としては、下記構造単位で表すものを例示することができる。
【0117】
【化27】

【0118】
ポリアミドイミド系構成単位の例としては、下記構造単位で表されるものが挙げられる。
【0119】
【化28】

【0120】
ここで、Ar15は上記Ar11の具体例として示される構造単位から選ばれるものが好ましい。
【0121】
これらポリアミドイミド構成単位の具体例としては、下記構造単位で表すものを例示することができる。
【0122】
【化29】

【0123】
ポリオキシジアゾール系構成単位の例としては、下記構造単位で表されるものが挙げられる。
【0124】
【化30】

【0125】
ここで、Ar16は上記Ar11の具体例として示される構造単位から選ばれるものが好ましい。
【0126】
これらポリオキシジアゾール系構成単位の具体例としては、下記構造単位で表すものを例示することができる。
【0127】
【化31】

【0128】
ポリアゾメチン系構成単位の例としては、下記構造単位で表されるものが挙げられる。
【0129】
【化32】

【0130】
ここで、Ar17、Ar18は、上記Ar11の具体例として示される構造単位から選ばれるものが好ましい。
【0131】
これらポリアゾメチン系構成単位の具体例としては、下記構造単位で表すものを例示することができる。
【0132】
【化33】

【0133】
ポリベンザゾールイミド系構成単位の例としては、下記構造単位で表されるものが挙げられる。
【0134】
【化34】

【0135】
ここで、Ar19、Ar20は上記Ar10の具体例として示される構造単位から選ばれるものが好ましい。
【0136】
これらポリベンザゾールイミド系構成単位の具体例としては、下記構造単位で表すものを例示することができる。
【0137】
【化35】

【0138】
ポリエーテルケトン系構成単位、ポリエーテルスルホン系構成単位は、一般に芳香族ユニットをエーテル結合と共にケトン結合やスルホン結合で連結した構造を有するものであり、下記構造単位から選択される構造成分を含む。
【0139】
【化36】

【0140】
ここで、Ar21〜Ar29はそれぞれ独立に下記構造単位で表されるものが好ましい。ここで示される芳香環上には、メチル基、メトキシ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基等の各種置換基が存在していても良い。
【0141】
【化37】




化学式44-1 化学式44-2


【0142】
これらポリエーテルケトン系構成単位の具体例としては、下記構造単位で表すものを例示することができる。
【0143】
【化38】

【0144】
これらポリベンザゾール系ポリマー構成単位と共に共重合できる芳香族ポリマー構成単位は、厳密にポリマー鎖内の繰り返し単位を指しているのではなく、ポリマー主鎖中にポリベンザゾール系構成単位と共に存在できる構成単位を示しているものである。これら共重合できる芳香族ポリマー構成単位は1種だけでなく2種以上を組み合わせて共重合することもできる。このような共重合体を合成するには、ポリベンザゾール系ポリマー構成単位からなるユニット末端にアミノ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基等を導入して、これらの芳香族系ポリマーの合成における反応成分として重合しても良いし、これらの芳香族系ポリマー構成単位を含むユニット末端にカルボキシル基を導入してポリベンザゾール系ポリマーの合成における反応成分として重合しても良い。
【0145】
また、ポリベンザゾール系ポリマー構成単位と共に共重合できる芳香族ポリマー構成単位は、ポリベンザゾール系ポリマー構成単位を含まずに、それらの1種以上の構成単位からポリマーを構成していてもよい。それらのポリマーは任意の公知の方法で重合することができる。
【0146】
ここで、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーは、上記のような結合単位をポリ燐酸溶媒中で縮合重合させることにより得られる。
【0147】
そして、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの重合度は極限粘度で表され、この極限粘度は、15dl/g以上であることが好ましく、特に20dl/g以上であることがより好ましい。また、この極限粘度は、35dl/g以下であることが好ましく、特に26dl/g以下であることがより好ましい。
【0148】
この極限粘度が15dl/g未満の場合には、ポリベンザゾール系ポリマーを材質として得られる支持体膜の強度が低くなる傾向があり、この極限粘度が35dl/gを超えると、等方性の溶液が得られるポリベンザゾール系ポリマー溶液中のポリベンザゾール系ポリマーの濃度範囲が限られ、等方性の条件での支持体膜の製膜が困難となる場合がある。
【0149】
また、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーを含む溶液からの支持体膜の製膜方法としては、ドクターブレードなどを用いて、このポリマー溶液を基板上にキャスティングする流延法と呼ばれる製膜方法の他にも、直線状スリットダイからこのポリマー溶液を押出す方法や、円周状スリットダイからこのポリマー溶液をブロー押出しする方法、二枚の基体に挟んだこのポリマー溶液をローラーでプレスするサンドイッチ法、スピンコート法など、このポリマー溶液を膜状に成型するあらゆる方法が使用できる。
【0150】
そして、これらの製膜方法の中でも、本発明に用いる支持体膜の目的に適した特に好ましい製膜方法は、流延法、サンドイッチ法である。流延法の基板やサンドイッチ法の基体には、ガラス板や金属板、樹脂フィルムなどの他、凝固時の支持体膜の空隙構造を制御することなどの目的で、種々の多孔質材料を基板、基体として好ましく用いることができる。
【0151】
また、本発明で用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液は、均一でかつ空隙率の大きな支持体膜を得るためには、等方性条件の組成で支持体膜に製膜することが重要である。
【0152】
そのため、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーについて、溶液中のポリベンザゾール系ポリマーの濃度は、0.5質量%以上であることが好ましく、特に0.8質量%以上であることがより好ましい。また、この濃度は、2質量%以下であることが好ましく、特に1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0153】
この濃度が0.5質量%未満の場合には、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液の粘度が小さくなり、適用できる製膜方法が限られ、得られる支持体膜の強度が小さくなる場合がある。また、この濃度が2質量%を超えると、空隙率の大きな支持体膜が得にくい場合や、ポリベンザゾール系ポリマーのポリマー組成や重合度によっては、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液が異方性を示す場合がある。
【0154】
そして、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液の濃度を上記で示したような範囲に調整するには、次に示すような方法をとることができる。すなわち、重合反応により得られたポリベンザゾール系ポリマーの溶液から一旦ポリベンザゾール系ポリマーの固体を分離し、再度溶媒を加えて溶解することで濃度調整を行う方法などが具体例として挙げられる。
【0155】
さらには、ポリ燐酸中で縮合重合反応により得られた状態のポリベンザゾール系ポリマーの溶液から、ポリベンザゾール系ポリマーの固体を分離することなく、そのポリベンザゾール系ポリマーの溶液に溶媒を加えて希釈し、濃度調整を行う方法なども挙げられる。あるいは、ポリベンザゾール系ポリマーの重合組成を調整することで、上記濃度範囲のポリベンザゾール系ポリマーの溶液を直接得る方法なども挙げられる。
【0156】
ここで、本発明に用いるポリベンザゾール系ポリマーの溶液の濃度調整に用いるのに好ましい溶媒としては、例えば、メタンスルホン酸、ジメチル硫酸、ポリ燐酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などが挙げられ、あるいはこれらの溶媒を組み合わせた混合溶媒を用いることもできる。これらの中でも、メタンスルホン酸、ポリリン酸が特に好ましい。
【0157】
本発明に用いる支持体膜の多孔質構造を実現する手段としては、例えば、製膜された等方性のポリベンザゾール系ポリマーの溶液を、貧溶媒と接触させて凝固させる方法を用いる。この貧溶媒は、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液の溶媒と混和できる溶媒であることが好ましく、液相状態であっても気相状態であってもよい。さらに、気相状態の貧溶媒による凝固と液相状態の貧溶媒による凝固を組み合わせる方法も好ましく用いることができる。
【0158】
ここで、上記の凝固に用いる貧溶媒としては、水、酸水溶液、無機塩水溶液の他、アルコール類、グリコール類、グリセリンなどの有機溶媒などを利用することができる。ただし、使用するポリベンザゾール系ポリマーの溶液との組み合わせによっては、支持体膜の表面開孔率や空隙率が小さくなったり、支持体膜の内部に不連続な空洞ができたりするなどの問題が生じる場合があるため、凝固に用いる貧溶媒の選択には特に注意が必要である。
【0159】
また、本発明における等方性のポリベンザゾール系ポリマーの溶液からポリマーを凝固させるには、水蒸気、メタンスルホン酸水溶液、リン酸水溶液、グリセリン水溶液の他、塩化マグネシウム水溶液などの無機塩水溶液などの中から貧溶媒を選択し、さらに凝固条件を選択することにより、支持体膜の表面及び内部の構造、空隙率を制御することができる。
【0160】
これらの中でも、特に好ましい凝固の手段は、水蒸気と接触させて凝固する方法や、凝固の初期において水蒸気に短時間接触させた後に水に接触させて凝固する方法、及びメタンスルホン酸水溶液に接触させて凝固する方法などである。
【0161】
そして、ポリベンザゾール系ポリマーの溶液の凝固が進むと、支持体膜は収縮しようとする。そのため、凝固が進行する間は、支持体膜の不均一な収縮によるシワの発生などを抑制する目的で、テンターや固定枠を用いる場合もある。また、ガラス板などの基板上に成型したポリベンザゾール系ポリマーの溶液を凝固する場合には、基板面の粗さを制御することで、基板上での支持体膜の収縮を制御する場合もある。
【0162】
さらに、上記のようにして凝固された支持体膜は、残留する溶媒によるポリベンザゾール系ポリマーの分解の促進や、複合高分子電解質膜の材質として使用する際に残留溶媒が流出するなどの問題を避ける目的で、十分に洗浄することが望ましい。この洗浄は、支持体膜を洗浄液に浸漬することで行うことができる。特に好ましい洗浄液は水である。水による洗浄は、支持体膜を水中に浸漬したときの洗液のpHが5〜8の範囲になるまで行うことが好ましく、pHが6.5〜7.5の範囲になるまで行うことがさらに好ましい。
【0163】
そして、上記に述べた濃度が特定の範囲であるポリベンザゾール系ポリマーの等方性溶液を用い、上記に述べたような方法から選ばれた適当な凝固手段を用いることにより、本発明に用いる支持体膜の目的に最も適した構造を有するポリベンザゾール系ポリマーを材質とする支持体膜が得られる。すなわち、支持体膜の少なくとも一方の表面に適当な開孔率の開孔部を持つ連続した空隙を有する多孔質の支持体膜である。この支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーのフィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、三次元的に連続した空隙を有する。
【0164】
<複合高分子電解質膜の製造方法>
上述のような方法で得られたポリベンザゾール系ポリマーを材質とする多孔質の支持体膜にイオン交換樹脂含有溶液を含浸させ、複合高分子電解質膜を得る方法について説明する。
【0165】
すなわち、この支持体膜を乾燥させずに、イオン交換樹脂を含む溶液に浸漬し、この支持体膜の内部の液を、イオン交換樹脂を含む溶液に置換してから乾燥させる方法により、複合高分子電解質膜を得る方法について説明する。
【0166】
なお、この支持体膜内部の液がイオン交換樹脂を含む溶液の溶媒組成と異なる場合には、その溶媒組成に合わせてあらかじめ内部の液を置換しておく方法をとる場合もある。
【0167】
ここで、等方性のポリベンザゾール系ポリマーの溶液から得られる多孔質の支持体膜は、乾燥により支持体膜の空隙内部の液体の体積が減少するのにしたがって、空隙構造が収縮するため、支持体膜の見かけの体積が大幅に減少するという特徴を有する。
【0168】
そのため、この支持体膜の内部にイオン交換樹脂含有溶液を含浸することなく金属の枠などに固定して面方向の収縮を制限して乾燥させた場合には、収縮は膜厚方向に起こり、この支持体膜における乾燥後の見かけの膜厚は、乾燥前の膜厚の0.5〜10%の範囲になることが通常である。
【0169】
なお、本発明に用いる支持体膜以外の多孔質支持体膜、例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマーを材質とする多孔質膜からなる支持体膜ではこのような大幅な収縮は起こらない。
【0170】
本発明に用いる支持体膜のこのような特徴により、この支持体膜の空隙内部の液を、イオン交換樹脂組成物を含む溶液に置換してから乾燥させた場合には、空隙内部に含浸されたこのイオン交換樹脂組成物を含む溶液の溶媒が蒸発して、このイオン交換樹脂組成物を含む溶液の体積が減少するにつれて、この支持体膜も収縮する。そのため、この支持体膜の内部の空隙が析出したイオン交換樹脂によって満たされた、緻密な複合高分子電解質膜の構造を容易に得ることができる。この複合高分子電解質膜の構造によって、本発明の複合高分子電解質膜は、優れた寸法安定性と機械強度を示すことになる。
【0171】
そして、上記に記述したイオン交換樹脂を含む溶液の溶媒は、ポリベンザゾール系ポリマーを材質とする支持体膜を溶解、分解あるいは極端に膨潤させず、かつイオン交換樹脂を溶解できる溶媒の中から選ぶことができる。
【0172】
ただし、イオン交換樹脂組成物を含む溶液を支持体膜に含浸させた後に、溶媒を除去してイオン交換樹脂を析出させるためには、溶媒は加熱や減圧などの手段を用いて蒸発させるなどして除去することができるものであることが好ましい。
【0173】
このような溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトンやメチルエチルケトンなどの極性溶媒、クレゾールなどのフェノール類、水、及びこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0174】
本発明に用いる支持体膜は、ポリベンザゾール系ポリマーを材質とする支持体膜である場合には、高い耐熱性を有する。そのため、100℃程度の温度からクリープを生じるポリテトラフルオロエチレン製の支持体膜を用いる従来公知の複合高分子電解質膜の作製では使用できない、高沸点の溶媒を含むイオン交換樹脂の溶液を使用して複合高分子電解質膜を作製できる。このことからも、本発明に用いる支持体膜は、多くの種類のイオン交換樹脂が選択できるという観点から優れた特徴を有するといえる。
【0175】
なお、本発明に用いるイオン交換樹脂の溶液におけるイオン交換樹脂の濃度は、特に限定されるものではないが、1質量%以上であることが好ましく、特に10質量%以上であることがより好ましい。また、この濃度は、50質量%以下であることが好ましく、特に40質量%以下であることがより好ましい。この濃度が1質量%未満の場合には、複合膜中のイオン交換樹脂含有量が低下するという傾向があり、この濃度が50質量%を超えると、複合膜中で複合層の厚みが占める割合が低下して補強効果が小さくなったり、複合膜の膜厚が大きくなりすぎて発電性能が低下したり、支持体膜へのイオン交換樹脂溶液の含浸が不完全になって複合膜中に空隙が生じやすくなるという傾向がある。
【0176】
さらに、本発明の複合高分子電解質膜に占めるイオン交換樹脂の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、特に80質量%以上であることがより好ましい。また、この含有率は当然に100質量%未満であるが、99質量%以下であることが好ましい。この含有率が50質量%未満の場合には、複合高分子電解質膜の導電抵抗が大きくなったり、複合高分子電解質膜の保水性が低下したりして、十分な発電性能が得られないため好ましくない傾向がある。また、この含有率が99質量%を超えると、複合膜の強度や耐膨潤性が低下するという傾向がある。
【0177】
<複合高分子電解質膜の構造>
本発明の複合高分子電解質膜の厚みは、10μm以上であることが好ましく、特に20μm以上であることがより好ましい。また、この厚みは、500μm以下であることが好ましく、特に100μm以下であることがより好ましい。この厚みが10μm未満の場合には、燃料のクロスオーバーなどが大きくなるという問題が生じやすくなる。また、この厚みが500μmを超えると、複合高分子電解質膜の導電抵抗が増大する傾向がある。
【0178】
本発明の複合高分子電解質膜の厚みは、支持体膜を作製する際に支持体膜を形成するポリベンザゾール系ポリマーの溶液の濃度やクリアランスを調整したり、イオン交換樹脂を含む溶液の濃度を調整したりすることによって、制御することができる。
また、本発明の複合高分子電解質膜は、上記のイオン交換樹脂からなる表面層を上記の支持体膜の両面に備えることが好ましい。
【0179】
すなわち、本発明の複合高分子電解質膜は、図1に示すように、支持体膜とイオン交換樹脂とを備える複合層2を挟む形で、この複合層2の両面に支持体膜を含まないイオン交換樹脂からなる表面層1,3を有しているとさらに優れた特性を示す。このような構造を有することにより、本発明の複合高分子電解質膜は、高い機械的強度を有し、かつ表面に電極層を形成させた場合の電極層との密着性に優れるという優れた特性を有することとなるためである。
【0180】
ここで、この表面層のそれぞれの厚みは、1μm以上であることが好ましく、特に2μm以上であることがより好ましい。また、この厚みは、50μm以下であることが好ましく、特に30μm以下であることがより好ましい。さらに、この厚みは、複合高分子電解質膜の全厚みの半分を超えないことが好ましい。
【0181】
この厚みが1μm未満の場合には、電極層との密着性が低下し、イオン伝導性が低下する場合がある。またこの厚みが50μmを超えるか、あるいは複合高分子電解質膜の全厚みの半分を超える場合には、複合層による補強の効果が複合高分子電解質膜の最外表面まで及ばず、複合高分子電解質膜が吸湿した場合に表面層のみが大きく膨潤して表面層が複合層から剥離する場合がある。
【0182】
また、本発明の複合高分子電解質膜においては、機械的強度やイオン伝導性、表面に形成される架橋イオン交換樹脂層の耐剥離性などの特性をさらに向上させる目的で、複合高分子電解質膜を適当な条件で熱処理する方法も好ましく用いることができる。
【0183】
また、本発明の複合高分子電解質膜においては、表面に形成されるイオン交換樹脂の表面層の厚みを調整するために、この複合高分子電解質膜をさらにイオン交換樹脂を含む溶液に浸漬してもよい。さらに、本発明の複合高分子電解質膜においては、この複合高分子電解質膜にイオン交換樹脂を含む溶液を塗布したりしてから乾燥することにより、イオン交換樹脂の層の付着量を増加させてもよい。
【0184】
あるいは、本発明の複合高分子電解質膜においては、この複合高分子電解質膜をイオン交換樹脂を含む溶液に浸漬した後に、支持体膜の表面に付着したイオン交換樹脂を含む溶液の一部を、スクレーパー、エアナイフ、ローラーなどで掻落としたり、ろ紙やスポンジのような溶液吸収性のある材料で吸収したりすることにより、イオン交換樹脂の層の付着量を減少させたりする方法も用いることができる。
【0185】
さらには、本発明の複合高分子電解質膜においては、熱プレスをかけることによりイオン交換樹脂の層の密着性をさらに向上させるなどの方法を併せて用いることもできる。
そして、このような構造を有する、本発明の複合高分子電解質膜は、高いイオン伝導性を有しながら、機械的強度に優れる。また、その特性を生かして、本発明の複合高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池の高分子固体電解質膜として利用することができる。
【0186】
本発明の膜/電極接合体は、本発明の高分子電解質膜を電極と接合することによって得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布し高分子電解質膜と電極とを接着する方法又は高分子電解質膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。本発明のポリマーを主成分とした接着剤を電極表面に塗布して接着する方法が好ましい。高分子電解質膜と電極との接着性が向上し、また、高分子電解質膜のプロトン伝導性を損なうことが少なくなると考えられるためである。また、デュポン社製ナフィオン(登録商標)溶液など、公知のイオン交換樹脂組成物を接着剤に用いても良い。
【0187】
本発明の高分子電解質膜及びポリマー組成物は適度な軟化温度を有するため、加圧加熱によって高分子電解質膜と電極とを接合する方法に特に適している。また、本発明の高分子電解質膜以外の膜に対して、電極や触媒との接着剤として、本発明のスルホン酸基含有ポリマーを用いることができる。本発明のスルホン酸基含有ポリマーを接着剤として用いる場合には、スルホン酸基が酸型であることが好ましい。スルホン酸基が陽イオンと塩を形成している状態で用いる場合には、接合後、酸処理によってスルホン酸基を酸型にすることもできる。
【0188】
本発明の燃料電池は、本発明の高分子電解質膜又は高分子電解質膜/電極接合体を用いて作製することができる。本発明の燃料電池は、例えば酸素極と、燃料極と、それぞれの極に挟まれて配置された高分子電解質膜と、酸素極側に設けられた酸化剤の流路と、燃料極側に設けられた燃料の流路を有するものである。このような一つの単位セルを導電性のセパレーターで連結することによって燃料電池スタックを得ることができる。
【0189】
本発明の高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池に適している。本発明の高分子電解質膜は、膨潤性が小さいため、メタノールを燃料とするダイレクトメタノール型燃料電池などの液体を燃料とする燃料電池に適している。また、本発明の高分子電解質膜は高分子電解質膜と電極との接合性に優れるため耐久性が高く、ダイレクトメタノール燃料電池などの液体を燃料とする燃料電池だけでなく、水素を燃料とする燃料電池に適している。また、ジメチルエーテル、ギ酸など他の物質を燃料として用いる燃料電池にも好適に用いることができ、電解膜、分離膜など、高分子電解質膜として公知の任意の用途に用いることができる。
【実施例】
【0190】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<イオン交換樹脂の合成>
まず、本発明の実施例及び比較例に用いるイオン交換樹脂を、下記の合成例のようにして合成した。
【0191】
(i)合成例1
まず、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ 25.00g、2,6−ジクロロベンゾニトリル 39.88g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド 46.28g、4,4’−ビフェノール 13.16g、炭酸カリウム42.98g、N−メチル−2−ピロリドン350ml、トルエン60mlを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000ml枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。
【0192】
次いで、トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンを全て留去した。その後、200℃に昇温し、10時間加熱した。続いて、室温まで冷却した溶液を2000mlの純水に注ぎイオン交換樹脂を再沈させた。そして、沸騰水で2回、純水で2回洗浄した後、110℃で乾燥して、合成例1のイオン交換樹脂を得た。
【0193】
(ii)合成例2〜14
モノマーの種類及びモル比を表1に示すように変えた点以外は、合成例1と同様にして、合成例2〜14のイオン交換樹脂を合成した。なお、イオン交換樹脂の対数粘度の測定結果を表1に併せて示す。
【0194】
【表1】

【0195】
(iii)比較合成例1〜7
モノマーの種類及びモル比を表2に示すように変えた点以外は、合成例1と同様にして、比較合成例1〜7のイオン交換樹脂を合成した。なお、イオン交換樹脂の対数粘度の測定結果を表2に併せて示す。
【0196】
【表2】

【0197】
<実施例1>
まず、ポリ燐酸中に極限粘度26dl/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14質量%含んだドープに、メタンスルホン酸を加えて希釈し、ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度1質量%の等方性溶液を調製した。
次いで、この溶液を、90℃に加熱したガラス板上にクリアランス300μmのアプリケータを用いて製膜速度5mm/秒で製膜した。このようにしてガラス板上に製膜したドープ膜をそのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って支持体膜を作製した。
【0198】
続いて、作製した支持体膜は両面に開孔部を持つ連続した空孔を有する多孔質の膜であることを原子間力顕微鏡による表面形態観察及び、透過型電子顕微鏡による断面形態観察により確認した。なお、観察による測定の結果、支持体膜の開孔率は70%、空隙率は97%だった。
その後、この支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定し、ジメチルアセトアミド(DMAc)25%水溶液、DMAc50%水溶液、DMAc75%水溶液の順にそれぞれ1時間ずつ浸漬した後、最終的にDMAcに浸漬して支持体膜に含まれる溶媒を水からDMAcに置換した。
【0199】
そして、合成例1で重合反応により作製したイオン交換樹脂10gを40gのDMAcと共に3日間攪拌してイオン交換樹脂を含む溶液を作製した。次いで、上記の支持体膜をこのイオン交換樹脂を含む溶液に25℃で15時間浸漬した後溶液から取り出し、膜の内部に含浸及び膜表面に付着したイオン交換樹脂を含む溶液中の溶媒を120℃の熱風により揮発させ乾燥させた。
さらに、乾燥させた膜は120℃で一晩減圧乾燥を行った。その後、膜を80℃の1mol/リットルの濃度の硫酸で1時間処理してスルホン酸基を酸型に変換し、さらに酸が検出できなくなるまで水で洗浄し、実施例1の複合高分子電解質膜を得た。
【0200】
<実施例2〜14>
複合高分子電解質膜の材質となるイオン交換樹脂を、表1に示す合成例のイオン交換樹脂に変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜14の複合高分子電解質膜を作製した。
【0201】
<比較例1〜7>
比較合成例1〜7で得たイオン交換樹脂を用いた他は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜を得た。
評価結果を表3に示す。
【0202】
【表3】

【0203】
<各種測定方法及び評価方法>
本発明の実施例及び比較例においては、各種測定方法及び評価方法は以下の方法に従って行なった。これらの測定方法及び評価方法の結果得られた各種測定結果及び評価結果を、表1〜表3に示す。
【0204】
(i)極限粘度の測定方法
支持体膜を形成するポリマーについて、メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/リットルの濃度に調整したポリマー溶液の粘度を、ウベローデ型粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定し、極限粘度を算出した。
【0205】
(ii)支持体膜の表面開孔率の測定方法
支持体膜の表面開孔率は次の方法により測定した。
まず、水洗した支持体膜内部の水をエタノールに置換、さらに酢酸イソアミルに十分置換した後、(株)日立製作所製、臨界点乾燥装置(HCP−1)を用いて、CO臨界点乾燥を施した。
次いで、このようにして臨界点乾燥した支持体膜に、厚さ150オングストロームの白金コートを施し、(株)日立製作所製、SEM(S−800)を用いて加速電圧10kV、試料傾斜角度30度で、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。
さらに、図2で示すように、撮影した支持体膜の表面の、撮影倍率1万倍の走査型電子顕微鏡写真上で、5μm角に相当する視野を選び、膜の最外表面に相当するポリマー部分を白、それ以外の部分を黒に色分けした後、イメージスキャナーを用いて画像をコンピューターに取り込み、米国Scion社製の画像解析ソフトである、Scion Imageを用いて、画像のヒストグラムから画像中の黒部分が占める比率を測定した。なお、図2において、符号4は支持体膜のフィブリルを示し、符号5は空隙を示す。
そして、上記の操作を一つのサンプルに対して各3回行い、その平均値を計算して、支持体膜の表面開孔率とした。
【0206】
(iii)支持体膜の空隙率の測定方法
支持体膜の空隙率は次の方法により測定した。
まず、含水状態の支持体膜の質量と、絶乾状態の支持体膜の質量と、の差から求められた水の質量を、水の密度で除して、膜内の空隙を満たす水の体積Vw[ml]を得た。
次いで、Vwと含水状態の膜の体積Vm[ml]から以下の計算により支持体膜の空隙率を求めた。
支持体膜の空隙率[%]=Vw/Vm×100
【0207】
(iv)複合高分子電解質膜を構成する各層の厚さの測定方法
複合高分子電解質膜を構成する複合層の厚さ、及びこの複合層を挟む形で複合層の両面に形成された支持体膜を含まないイオン交換樹脂組成物からなる表面層の厚さは、下記のようにして測定した。
まず、幅300μm×長さ5mmに切り出した複合高分子電解質膜片を、ルベアック812(ナカライテスク(株)製)/ルベアックNMA(ナカライテスク(株)製)/DMP30(TAAB社製)=100/89/4の組成とした樹脂で包埋し、60℃で12時間硬化させて試料ブロックを作製した。
次いで、ウルトラミクロトーム(LKB社製、2088ULTROTOME V )を用いて、平滑な断面が露出するようブロックの先端をダイヤモンドナイフ(住友電気工業(株)製、SK2045)で切削した。
続いて、このようにして露出させた複合高分子電解質膜の断面を光学顕微鏡で写真撮影し、既知の長さのスケールを同倍率で撮影したものと比較することで各層の厚みを測定した。
支持体膜の空隙率が大きい場合などで、少なくとも一方の面の表面層とその内側の複合層とが明確な界面を形成せずに、界面付近の構造が連続的に変化している場合があるが、その場合は光学顕微鏡で連続的な構造の変化が確認できる部分のうち、複合高分子電解質膜の外表面に最も近い部分を複合層の最外表面として、そこから複合高分子電解質膜の外表面までの距離を表面層の厚みとした。
【0208】
(v)イオン伝導性の測定方法
まず、自作測定用プローブ(テフロン(登録商標)製)上で、短冊状複合高分子電解質膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃、95%RHの恒温恒湿オーブン((株)ナガノ科学機械製作所製、LH−20−01)中に試料を保持し、白金線間の10KHzにおける交流インピーダンスをSOLARTRON社製、1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。
その際、極間距離を変化させて測定し、極間距離と抵抗測定値をプロットした勾配から、以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルしたイオン伝導率を算出した。
イオン伝導率[S/cm]=1/膜幅[cm]×膜厚[cm]×抵抗極間勾配[Ω/cm]
(vi)イオン交換樹脂の対数粘度の測定方法
イオン交換樹脂を、ポリマー濃度0.25g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドン溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0209】
(vii)複合高分子電解質膜のイオン交換当量の測定方法
まず、複合高分子電解質膜100mgを、0.01NのNaOH水溶液50mlに浸漬し、25℃で一晩攪拌した。その後、0.05NのHCl水溶液で中和滴定した。中和滴定には、平沼産業(株)製、電位差滴定装置COMTITE−980を用いた。イオン交換当量は下記式で計算して求めた。
イオン交換当量[meq/g]=(10−滴定量[ml])/2
【0210】
(viii)複合高分子電解質膜のイオン交換樹脂(ICP)含有率の測定方法
複合高分子電解質膜のイオン交換樹脂含有率は以下の方法により測定した。
まず、110℃で6時間真空乾燥させた複合高分子電解質膜の目付けDc[g/m]を測定した。次いで、複合高分子電解質膜の作製に用いたのと同じ製造条件の支持体膜を、イオン交換樹脂組成物を複合化させずに乾燥させて乾燥支持体膜の目付けDs[g/m]を測定した。そして、これらの値から、以下の計算により複合高分子電解質膜のイオン交換樹脂含有率を求めた。
イオン交換樹脂含有率[質量%]=(Dc−Ds)/Dc×100
【0211】
(ix)複合高分子電解質膜の膨潤性の評価方法
複合高分子電解質膜の膨潤性は以下のようにして測定した。
まず、複合高分子電解質膜を80℃の熱水中で3時間処理したのち、取り出してすぐに複合高分子電解質膜の膜厚を測定した。熱水処理前の複合高分子電解質膜の膜厚に対する変化率(%)を複合高分子電解質膜の膨潤性とした。
【0212】
(X)複合高分子電解質膜の電極接合性の評価
複合高分子電解質膜の電極との接合性は以下のようにして測定した。
実施例1〜11及び比較例1〜4(ダイレクトメタノール型燃料電池に用いた場合):
Pt/Ru触媒担持カーボン(田中貴金属工業(株)製、TEC61E54)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液(品番:SE−20192)を、Pt/Ru触媒担持カーボンとナフィオンの質量比が2.5:1になるように加えた。次いで撹拌してアノード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、ガス拡散層となるカーボンペーパー(東レ社製TGPH−060)に白金の付着量が2mg/cmになるようにスクリーン印刷により塗布乾燥して、アノード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。
また、Pt触媒担持カーボン(田中貴金属工業(株)製、TEC10V40E)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液(品番:SE−20192)を、Pt触媒担持カーボンとナフィオンの質量比が2.5:1となるように加え、撹拌してカソード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、撥水加工を施したカーボンペーパー(東レ社製TGPH−060)に白金の付着量が1mg/cmとなるように塗布・乾燥して、カソード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。上記2種類の電極触媒層付きカーボンペーパーの間に、膜試料を、電極触媒層が膜試料に接するように挟み、ホットプレス法により160℃、6MPaで3分間加圧、加熱することにより、膜/電極接合体とした。この接合体をElectrochem社製評価用燃料電池セルFC25−02SPに組み込み、燃料電池発電試験機(株式会社東陽テクニカ製)を用いて発電試験を行った。発電は、セル温度40℃で、アノード及びカソードにそれぞれ40℃に調整した高純度空気ガス(80ml/min)と、5mol/リットルのメタノール水溶液(1.5ml/min)とを供給しながら行った。出力電圧が0.3Vになるようにして100時間運転した後、膜/電極接合体をセルから取り出し、高分子電解質膜と電極との間に剥離が生じたものを×、良好に接合していたものを○と判定した。
【0213】
<実施例12〜14、及び比較例5〜7(水素を燃料とする燃料電池に用いた場合)>
デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液に、市販の40%Pt触媒担持カーボン(田中貴金属工業(株)製、TEC10V40E)と、少量の超純水及びイソプロパノールを加えた後、均一になるまで撹拌し、触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、カーボンペーパー(東レ社製TGPH−060)に白金の付着量が0.5mg/cmになるように均一に塗布・乾燥して、電極触媒層付きガス拡散層を作製した。上記の電極触媒層付きガス拡散層の間に、高分子電解質膜を、電極触媒層が膜に接するように挟み、ホットプレス法により160℃、6MPaで3分間加圧、加熱することにより、膜/電極接合体とした。この接合体をElectrochem社製の評価用燃料電池セルFC25−02SPに組み込んでセル温度80℃で、アノード及びカソードにそれぞれ75℃で加湿した水素と空気を供給して発電を行った。出力電圧が0.5Vになるようにして200時間運転した後、膜/電極接合体をセルから取り出し、高分子電解質膜と電極との間に剥離が生じたものを×、良好に接合していたものを○と判定した。
【0214】
これらの測定結果及び評価結果から分かるように、実施例1〜14の複合高分子電解質膜は、優れたイオン伝導性とメタノール透過抑止性を示すとともに、電極との接合性に優れる。電極の剥離が起きにくく、比較例の複合高分子電解質膜に比べて優れていることが分かる。電極との良好な接合性は、本発明の複合高分子電解質膜のイオン交換樹脂及び膜構造に由来するものである。
なお、今回開示された実施の形態及び実施例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0215】
本発明の複合高分子電解質膜は、耐膨潤性が高く、機械的強度とイオン伝導性とメタノール透過抑止性に優れ、かつ電極との接合性に優れるため、液体を燃料に用いる燃料電池(ダイレクトメタノール燃料電池)や水素を燃料とする燃料電池用に好適な高分子電解質膜であり、燃料電池の分野の発展に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0216】
【図1】本発明における複合高分子電解質膜の一例の、断面構造の概略を示す模式図である。
【図2】本発明に用いる支持体膜の一例を、イオン交換樹脂組成物との複合化前に臨界点乾燥して、その表面を走査型電子顕微鏡で観察した像の写真を写した図である。
【符号の説明】
【0217】
1及び3: 表面層、
2: 複合層、
4: 支持体膜のフィブリル、
5: 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜とイオン交換樹脂とを備える複合高分子電解質膜であって、前記支持体膜が、前記空隙中に前記イオン交換樹脂を含有してなり、前記イオン交換樹脂が、下記の構成であることを特徴とする複合高分子電解質膜。
イオン交換樹脂:
(イ)化学式1で表される化合物、(ロ)ジハロゲノベンゼノイド化合物、(ハ)化学式2で表されるビスフェノール化合物及びビスチオフェノール化合物のうちの化合物であって、化学式3の構造単位を有する化合物か又は化学式4の構造単位を有する化合物と化学式5の構造単位を有する化合物の両者のいずれか、及び(ニ)アルカリ金属の炭酸塩及び重炭酸塩のうちの少なくとも一方とを混合し、有機高極性溶媒中で重合させて得られる重合物。
【化1】

(化学式1において、Yは−S(=O)−基又はC(=O)−基を表す。XはH,Li,Na,K原子のいずれかを表す。QはF,Cl,Br,I原子のいずれかを表す。)
【化2】

(ただし、Arが化学式3の構造単位である場合、ZはOH基を、nは2以上の任意の整数を示す。Arが化学式4と化学式5の両構造単位を含む場合、Zは独立してOH基又はSH基のいずれかを、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示す。)
【請求項2】
膜を貫通する連続した空隙を有する支持体膜とイオン交換樹脂とを備える複合高分子電解質膜であって、前記支持体膜が、前記空隙中に前記イオン交換樹脂を含有してなり、前記イオン交換樹脂が、下記の化学式6で示されるスルホン酸基含有ポリマーを含むイオン交換樹脂であることを特徴とする複合高分子電解質膜。
【化3】

(ただし、Xは水素又は1価のカチオン種、Yは−S(=O)−基又はC(=O)−基、Arは、化学式3の構造単位か、又は化学式4及び化学式5の両者を含む構造単位のいずれか。)
【化4】

(ただし、化学式6におけるArが化学式3の構造単位である場合、Zは酸素原子を、nは2以上の任意の整数を示す。Arが化学式4及び化学式5の両構造単位を含む場合、Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示す。また、Arが化学式4及び化学式5の両者を含む構造単位の場合は、上記化学式6と共に下記化学式7及び化学式8の構造単位を同時に含む。)
【化5】

(ただし、化学式7におけるAr,化学式8におけるArは、2価の芳香族結合ユニットを、Z,Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示す。)
【請求項3】
スルホン酸基含有ポリマーが、下記化学式9で示される構造単位をさらに含有する請求項2に記載の複合高分子電解質膜。
【化6】

(ただし、Arは2価の芳香族結合ユニットを、nは2以上の任意の整数を示す。)
【請求項4】
スルホン酸基含有ポリマーにおけるAr〜Arが、下記化学式10〜13の構造単位から選ばれる1種以上の構造単位である請求項2に記載の複合高分子電解質膜。
【化7】

【請求項5】
スルホン酸基含有ポリマーにおけるArが、化学式10〜13の構造単位から選ばれる1種以上の構造単位である請求項3に記載の複合高分子電解質膜。
【請求項6】
スルホン酸基含有ポリマーにおけるZ及びZがいずれも硫黄原子である請求項2に記載の複合高分子電解質膜。
【請求項7】
スルホン酸基含有ポリマーにおける化学式6〜8のそれぞれの繰り返し構造単位及びその他の繰り返し構造単位のモル比が、下記の数式1〜3を満たす請求項2に記載の複合高分子電解質膜。
(数式1)
0.9≦(n1+n2+n3+n4)/(n1+n2+n3+n4+n5)≦1.0
(数式2)
0.05≦(n1+n2)/(n1+n2+n3+n4)≦0.7
(数式3)
0.01≦(n2+n4)/(n1+n2+n3+n4)≦0.95
(上記式中、n1はArが化学式4である場合の化学式6で表される繰り返し構造単位のモル%を、n2はArが化学式5である場合の化学式6で表される繰り返し構造単位のモル%を、n3は化学式7で表される繰り返し構造単位のモル%を、n4は化学式8で表される繰り返し構造単位のモル%を、n5はその他の繰り返し構造単位のモル%を、それぞれ表す。)
【請求項8】
スルホン酸基含有ポリマーが、下記の化学式14の末端ジヒドロキシ化合物であって、nの異なる複数の成分からなり、かつ平均組成が1<n≦10の範囲にあるものをモノマー成分の一部として使用することにより得られるスルホン酸基含有ポリマーである請求項2に記載の複合高分子電解質膜。
【化8】

(ただし、nは0以上の整数を表す。)
【請求項9】
イオン交換容量が、0.3〜5.0meq/gの範囲内である請求項2に記載の複合高分子電解質膜。
【請求項10】
前記イオン交換樹脂からなる表面層を前記支持体膜の両面に備える請求項1〜9のいずれかに記載の複合高分子電解質膜。
【請求項11】
前記表面層のそれぞれの厚みが、1〜50μmの範囲であり、かつ前記複合高分子電解質膜の全厚みの半分を超えない範囲である請求項10に記載の複合高分子電解質膜。
【請求項12】
前記支持体膜の少なくとも一方の面の開孔率が、40〜95%の範囲にある請求項1〜11のいずれかに記載の複合高分子電解質膜。
【請求項13】
前記支持体膜が、ポリベンザゾール系ポリマーを材質として含む請求項12に記載の複合高分子電解質膜。
【請求項14】
前記支持体膜が、前記ポリベンザゾール系ポリマーを0.5〜2質量%の範囲の含有率で含む等方性溶液を膜状に成型し、成型された前記溶液を凝固させて得られる支持体膜である請求項13に記載の複合高分子電解質膜。
【請求項15】
請求項1〜14に記載の複合高分子電解質膜を有する高分子電解質膜/電極接合体。
【請求項16】
請求項15に記載の高分子電解質膜/電極接合体を用いた燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−94868(P2008−94868A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274774(P2006−274774)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】