説明

複層ガラスユニット又は複層ガラス

【課題】複数の板ガラスからなる複層ガラスであって、防火性能を向上させるため火災時にガラスのエッジ面の温度を効率的に上昇させることにより、従来よりも表面圧縮応力が低いガラスを使用可能な複層ガラス、又はこれを含む複層ガラスユニットを提供する。
【解決手段】空気層5を形成するようにスペーサ4を介して積層してある、複数の板ガラス2,3からなる複層ガラス1と、複層ガラス1の周縁部を両側から挟んで固定する枠体11と、複数の板ガラス2,3のうち少なくとも一方のガラス2のエッジ面2bと当該ガラス2側の枠体11aとに亘って配置される熱伝導部材6と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペーサを介して積層してある、耐熱ガラスを含む複数の板ガラスからなる複層ガラス又はこれを含む複層ガラスユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネ意識の向上により、冷暖房負荷を低減できるガラスの需要が高まっている。このような高まりを受けて、例えば特許文献1に記載されているような、複層ガラスにLow−Eガラスを用いたいわゆる「エコガラス」が好まれるようになっている。Low−Eガラスとは、低放射性の特殊金属膜をコーティングし、熱エネルギーを有する赤外線域における反射率を大きくしたガラスである。Low−Eガラスを複層ガラスの室内側のガラスとして用いると、室内の暖房熱等が特殊金属膜で反射されるため断熱性能が向上する。
【0003】
Low−Eガラスを用いた複層ガラスは、Low−Eガラスの反対側で火災が発生した場合に、Low−Eガラスが熱を反射することにより、Low−Eガラスの反対側のガラス(火災側のガラス)の中央部が高温となりやすい。したがって、防火性能が要求される開口部では、Low−Eガラスの反対側のガラスには、ガラス中央部と周縁部との大きい温度差に耐え得る、表面圧縮応力が大きいガラスを用いる必要があった。なお、このような必要性はLow−Eガラスを用いた複層ガラスにおいて顕著となるが、通常のガラスからなる複層ガラスにおいても潜在しているものである。
【0004】
ガラスの中央部と周縁部とにおける温度差を小さくするため、ガラス周縁部と枠体とに亘る金属製の保持部材を設けたガラス取付構造が特許文献2に開示されている。このガラス取付構造によれば、火災により高温となった枠体から保持部材を介してガラス周縁部に熱が伝わるため、ガラス周縁部の温度が上昇し、その結果、ガラスの中央部と周縁部との温度差が小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−187305号公報
【特許文献2】特開平8−158749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載のガラス取付構造は単板ガラスに適用されることを前提としており、複層ガラスに適用することは不適である。なぜなら、特許文献2の保持部材を複層ガラスに導入すると、火災により高温となった枠体から保持部材を介して両側のガラスに熱が伝わるため、火災側のガラスの周縁部を十分に昇温することができないからである。
【0007】
又、火災側のガラスの防火性を向上させるためには、火災時に温度が最も低くなるエッジ面の温度を上昇させることが重要である。しかし、ガラスのエッジ面は微小な傷や割れが存在しているために破損しやすいので、特許文献2に記載のガラス取付構造のごとく、エッジ面の下に緩衝材としてのセッティングブロックを設置する必要があった。すると、セッティングブロックによって保持部材からエッジ面への伝熱が妨げられ、この点において改善の余地があった。
【0008】
又、表面圧縮応力の高いガラスは、一般に加熱したガラスに冷却空気を吹き付けて急冷することによって得られる。しかし、表面圧縮応力を高くしようとするほど、ガラス温度を高くし、高い圧力で冷却空気を吹き付ける必要がある。その結果、ガラス表面のうねりやガラス自体の反りが生じ、外観に問題が生じやすかった。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたもので、複数の板ガラスからなる複層ガラスであって、防火性能を向上させるため火災時にガラスのエッジ面の温度を効率的に上昇させることにより、従来よりも表面圧縮応力が低いガラスを使用可能な複層ガラス、又はこれを含む複層ガラスユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る複層ガラスユニットの第1特徴構成は、空気層を形成するようにスペーサを介して積層してある、複数の板ガラスからなる複層ガラスと、前記複層ガラスの周縁部を両側から挟んで固定する枠体と、前記複数の板ガラスのうち少なくとも一方のガラスのエッジ面と当該ガラス側の前記枠体とに亘って配置される熱伝導部材と、を備える点にある。
【0011】
第1特徴構成によれば、熱伝導部材を設けたガラスの側で火災が発生した場合に、熱伝導部材を介して、火災により高温となった枠体から当該ガラスのエッジ面に熱が伝わる。その結果、当該ガラスのエッジ面の温度が上昇し、当該ガラスの防火性が向上するため、従来よりも表面圧縮応力が低いガラスを用いることができ、外観がより良好なものとなる。又、熱伝導部材を当該ガラスのエッジ面とのみ接触させるようにすると、効率的に当該ガラスのエッジ面を昇温することができ、防火性がさらに向上する。
【0012】
第2特徴構成は、前記複層ガラスは、前記枠体のうち一方の側に配置された耐熱ガラスと、他方の側に配置されたLow−Eガラスとを有し、前記熱伝導部材が前記耐熱ガラスのエッジ面と当該耐熱ガラス側の前記枠体とに亘って配置されている点にある。
【0013】
第2特徴構成によれば、耐熱ガラスの側で火災が発生した場合に、火災の燃焼熱とLow−Eガラスからの反射熱とにより非常に高温となる中央部とエッジ面との温度差を小さくすることができ、耐熱ガラスの防火性が向上する。なお、低放射膜がコーティングされるガラス面はどちらの側であっても構わない。また、耐熱ガラスの明確な定義はないが、ここでは表面圧縮応力が105MPa程度以上のガラスを耐熱ガラスと称する。
【0014】
第3特徴構成は、前記熱伝導部材を前記複層ガラスの全周に亘って設けてある点にある。
【0015】
第3特徴構成によれば、火災時に耐熱ガラスのエッジ面全周の温度を上げることができるため、防火性を確実に向上させることができる。
【0016】
第4特徴構成は、前記耐熱ガラスの表面と当該耐熱ガラスの側の前記枠体との間に断熱材を設けてある点にある。
【0017】
第4特徴構成によれば、火災により高温となった枠体から耐熱ガラスの表面への伝熱を抑制することができるため、その分、熱伝導部材を介して耐熱ガラスのエッジ面に伝えられる熱が増大し、防火性をより確実に向上させることができる。
【0018】
第5特徴構成は、前記スペーサが断熱材である点にある。
【0019】
一般的に複層ガラスのスペーサは、ガラスの周縁部に設けられる。したがって、第5特徴構成によれば、スペーサを介して耐熱ガラスの周縁部からもう一方のガラスへの伝熱を抑制することができる。このため、耐熱ガラスのエッジ面を含む周縁部からもう一方のガラスの側に熱が逃げるのを抑制し、効率的に耐熱ガラスのエッジ面を昇温することができ、防火性をより確実に向上させることができる。
【0020】
第6特徴構成は、前記熱伝導部材を前記耐熱ガラスのエッジ面と表面とに亘って設けてある点にある。
【0021】
第6特徴構成によれば、熱伝導部材を介して、耐熱ガラスの表面からエッジ面にも熱が伝えられるため、耐熱ガラスのエッジ面の温度を効率的に上げることができ、防火性をより確実に向上させることができる。
【0022】
第7特徴構成は、前記熱伝導部材が金属テープである点にある。
【0023】
第7特徴構成によれば、耐熱ガラスのエッジ面と熱伝導部材とを密着させやすいので、これらの間における熱移動が円滑に行われ、防火性をより確実に向上させることができる。又、金属テープを耐熱ガラスのエッジ面に接着することにより、破損しやすいエッジ面を保護することができる。
【0024】
本発明に係る複層ガラスの第1特徴構成は、空気層を形成するようにスペーサを介して積層してある、複数の板ガラスからなる複層ガラスであって、前記複層ガラスの周縁部を両側から挟む枠体に固定した際に、前記複数の板ガラスのうち少なくとも一方のガラスのエッジ面と当該ガラス側の前記枠体とに亘って配置される熱伝導部材を備える点にある。
【0025】
第1特徴構成によれば、熱伝導部材を設けたガラスの側で火災が発生した場合に、熱伝導部材を介して、火災により高温となった枠体から当該ガラスのエッジ面に熱が伝わる。その結果、当該ガラスのエッジ面の温度が上昇し、当該ガラスの防火性が向上するため、従来よりも表面圧縮応力が低い耐熱ガラスを用いることができ、外観がより良好なものとなる。又、熱伝導部材を当該ガラスのエッジ面とのみ接触させるようにすると、効率的に当該ガラスのエッジ面を昇温することができ、防火性がさらに向上する。
【0026】
第2特徴構成は、前記複層ガラスは、前記枠体のうち一方の側に配置された耐熱ガラスと、他方の側に配置されたLow−Eガラスとを有し、前記熱伝導部材が前記耐熱ガラスのエッジ面と当該耐熱ガラス側の前記枠体とに亘って配置されている点にある。
【0027】
第2特徴構成によれば、耐熱ガラスの側で火災が発生した場合に、火災の燃焼熱とLow−Eガラスからの反射熱とにより非常に高温となる中央部とエッジ面との温度差を小さくすることができ、耐熱ガラスの防火性が向上する。なお、低放射膜がコーティングされるガラス面はどちらの側であっても構わない。また、耐熱ガラスの明確な定義はないが、ここでは表面圧縮応力が105MPa程度以上のガラスを耐熱ガラスと称する。
【0028】
第3特徴構成は、前記熱伝導部材を前記複層ガラスの全周に亘って設けてある点にある。
【0029】
第3特徴構成によれば、火災時に耐熱ガラスのエッジ面全周の温度を上げることができるため、防火性を確実に向上させることができる。
【0030】
第4特徴構成は、前記複層ガラスを前記枠体に固定した際に、前記耐熱ガラスの表面と当該耐熱ガラスの側の前記枠体との間に配置される断熱材を設けてある点にある。
【0031】
第4特徴構成によれば、火災により高温となった枠体から耐熱ガラスの表面への伝熱を抑制することができるため、その分、熱伝導部材を介して耐熱ガラスのエッジ面に伝えられる熱が増大し、防火性をより確実に向上させることができる。
【0032】
第5特徴構成は、前記スペーサが断熱材である点にある。
【0033】
一般的に複層ガラスのスペーサは、ガラスの周縁部に設けられる。したがって、第5特徴構成によれば、スペーサを介して耐熱ガラスの周縁部からもう一方のガラスへの伝熱を抑制することができる。このため、耐熱ガラスのエッジ面を含む周縁部からもう一方のガラスの側に熱が逃げるのを抑制し、効率的に耐熱ガラスのエッジ面を昇温することができ、防火性をより確実に向上させることができる。
【0034】
第6特徴構成は、前記熱伝導部材を前記耐熱ガラスのエッジ面と表面とに亘って設けてある点にある。
【0035】
第6特徴構成によれば、熱伝導部材を介して、耐熱ガラスの表面からエッジ面にも熱が伝えられるため、耐熱ガラスのエッジ面の温度を効率的に上げることができ、防火性をより確実に向上させることができる。
【0036】
第7特徴構成は、前記熱伝導部材が金属テープである点にある。
【0037】
第7特徴構成によれば、耐熱ガラスのエッジ面と熱伝導部材とを密着させやすいので、これらの間における熱移動が円滑に行われ、防火性をより確実に向上させることができる。又、金属テープを耐熱ガラスのエッジ面に接着することにより、破損しやすいエッジ面を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1実施形態の複層ガラスユニットの断面図である。
【図2】第2実施形態の複層ガラスユニットの断面図である。
【図3】第3実施形態の複層ガラスユニットの断面図である。
【図4】第4実施形態の複層ガラスユニットの断面図である。
【図5】防火試験において比較対象とした複層ガラスユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[第1実施形態]
本発明に係る複層ガラスユニットの第1実施形態について、図1に基づいて説明する。図1のa図は完成した複層ガラスユニットを、b図は複層ガラスユニットの組立経過を示している。複層ガラスユニットは、耐熱ガラス2とLow−Eガラス3とからなる複層ガラス1を備える。耐熱ガラス2とLow−Eガラス3とはスペーサ4を間に挟んで積層されており、これらのガラスの間にはスペーサ4の厚さに相当する空気層5が形成されている。Low−Eガラス3の空気層5の側の面には低放射膜3aがコーティングされており、この面における赤外線域の反射率が大きくなるよう構成されている。
【0040】
複層ガラス1は、例えば建物の躯体Bに固定された枠体11で両側から挟むようにして取り付けられる。複層ガラス1の下端部が直接躯体Bと接触して破損することを防止するため、躯体Bの上に配置した緩衝部材14の上に複層ガラス1は載置される。この緩衝部材14は、複層ガラス1の重量を十分に分散して支持できる程度に図1の紙面垂直方向の数箇所に設置されていればよく、複層ガラス1の下端部の全領域に亘って設ける必要はない。又、複層ガラス1を枠体11で固定するため、複層ガラス1と枠体11との間に弾性支持部材12が設けられる。さらに、複層ガラス1と枠体11との間の防水性を向上させるため、弾性支持部材12の上部にはシール材13が設けられる。
【0041】
本発明の特徴は、耐熱ガラス2のエッジ面2bと耐熱ガラス2の側の枠体11aとに亘って熱伝導部材6を設けた点にある。このように構成すると、耐熱ガラス2の側で火災が発生した場合に、熱伝導部材6を介して、火災により高温となった枠体11aから耐熱ガラス2のエッジ面2bに熱が伝わる。その結果、耐熱ガラス2のエッジ面2bの温度が上昇し、火災の燃焼熱とLow−Eガラス3からの反射熱とにより非常に高温となる中央部2aとエッジ面2bとの温度差が小さくなるため、耐熱ガラス2の防火性が向上する。又、熱伝導部材6はLow−Eガラス3とは接触していないので、枠体11aからの熱が耐熱ガラス2のみに伝えられ、効率的に耐熱ガラス2のエッジ面2bを昇温することができる。
【0042】
熱伝導部材6は熱伝導性に優れたテープ、例えばアルミテープとすれば、耐熱ガラス2のエッジ面2bと熱伝導部材6とを密着させやすいので、熱伝導が円滑に行われることが期待できる。又、b図に示すように、耐熱ガラス2のエッジ面2bに熱伝導部材6を貼り付けた状態で複層ガラス1を用意しておけば、熱伝導部材6の取り付けが容易になるとともに、熱伝導部材6がエッジ面2bを保護することにもなるので好ましい。熱伝導部材6は熱割れが発生しやすいと想定される部分のみに設けてもよいが、防火性をより確実なものとするためには、耐熱ガラス2の全周に亘って設けることが望ましい。
【0043】
スペーサ4は、耐熱ガラス2やLow−Eガラス3を破損させないように、ある程度の弾性を有している必要がある。又、スペーサ4を介して耐熱ガラス2からLow−Eガラス3に熱が移動しないように、スペーサ4は断熱性の高い材料であることが望ましい。さらに、空気層5に含まれる水蒸気を除去するため、スペーサ4は乾燥剤を含んでいることが望ましい。
【0044】
弾性支持部材12は、複層ガラス1を枠体11に固定するための部材なので、耐熱ガラス2やLow−Eガラス3を破損させないように、ある程度の弾性を有している必要がある。弾性支持部材12が断熱性の高いものであれば、火災で高温となった枠体11aから耐熱ガラス2の表面2cへの熱伝導を抑制する。その分、熱伝導部材6を介して耐熱ガラス2のエッジ面2bに伝えられる熱が増大するので、エッジ面2bを効率的に昇温することができ、防火性をより確実に向上させることができる。又、熱伝導部材6から緩衝部材14に熱が逃げるのを抑制し、耐熱ガラス2のエッジ面2bの温度を効率的に上昇させるために、緩衝部材14も断熱性の高い材料であることが望ましい。なお、表面2cは耐熱ガラス2の表面のうち特に周縁部の表面を示すものとする。
【0045】
本実施形態の複層ガラスユニットの防火性能を検証するための防火試験を行った。比較対象として、熱伝導部材6を備えていない従来型の複層ガラスユニット(図5(a)、以後「比較例1」と称す)、熱伝導部材6を複層ガラス1全体に亘って設けた複層ガラスユニット(図5(b)、以後「比較例2」と称す)、及び熱伝導部材6を耐熱ガラス2のエッジ面2bではなく表面2cに接着した複層ガラスユニット(図5(c)、以後「比較例3」と称す)を用意した。
【0046】
複層ガラス1は、厚さ5mmの熱強化処理を施した耐熱ガラス2、厚さ12mmの空気層5及び厚さ3mmのLow−Eガラス3から構成されている。枠体11は金属製、弾性支持部材12は難燃性のバックアップ材、シール材13は防火用シリコーンシール材、緩衝部材14,15はケイ酸カルシウム製の耐火ブロックとしている。熱伝導部材6は、アルミの厚さが0.05mm、アクリル接着剤の厚さが0.05mmのアルミテープである。
【0047】
防火試験は耐熱ガラス2の側での火災発生を想定しており、炉内温度を下記のISO−834加熱曲線に従い20分間昇温し、耐熱ガラス2が割れるか否かを検証した。
ISO−834加熱曲線:T=345log(8t+1)+20 t:加熱時間(分)
【0048】
以上の条件で防火試験を行ったところ、本実施形態は加熱開始後20分を経過しても割れることはなく、比較例1は加熱開始後およそ5分30秒後に割れ、比較例2は加熱開始後およそ4分30秒後に割れ、比較例3は加熱開始後およそ8分後に割れた。
【0049】
図1の本実施形態においては、耐熱ガラス2の側で火災が発生した場合に、熱伝導部材6を介して、火災により高温となった枠体11aから耐熱ガラス2のエッジ面2bに熱が伝わる。その結果、耐熱ガラス2のエッジ面2bの温度が上昇し、火災の燃焼熱とLow−Eガラス3からの反射熱とにより非常に高温となる中央部2aとエッジ面2bとの温度差が小さくなる。又、熱伝導部材6はLow−Eガラス3とは接触していないので、枠体11aからの熱が耐熱ガラス2のみに伝えられ、効率的に耐熱ガラス2のエッジ面2bを昇温することができる。以上の効果により、耐熱ガラス2が割れることを防止できたと考えられる。
【0050】
図5(a)の比較例1においては、熱伝導部材6が設けられていないため、耐熱ガラス2のエッジ面2bを積極的に昇温することができない。このため、耐熱ガラス2において、火災の燃焼熱とLow−Eガラス3からの反射熱とにより非常に高温となる中央部2aと、火災の燃焼熱やLow−Eガラス3からの反射熱の影響を受けにくいエッジ面2bとの温度差が大きくなり、耐熱ガラス2が割れてしまったと考えられる。
【0051】
図5(b)の比較例2においては、熱伝導部材6が耐熱ガラス2のエッジ面2bではなく、表面2cと接触しているため、エッジ面2bを効率的に昇温させることができない。又、熱伝導部材6がLow−Eガラス3及びLow−Eガラス3の側の枠体11bにも接触しているため、Low−Eガラス3及び枠体11bへの熱流出が発生し、その分耐熱ガラス2への伝熱量が減少する。したがって、耐熱ガラス2のエッジ面2bの温度上昇が十分でなく、中央部2aとエッジ面2bとの温度差が十分に縮小しないため、耐熱ガラス2が割れてしまったと考えられる。
【0052】
図5(c)の比較例3においては、熱伝導部材6が耐熱ガラス2の表面2cに接しているため、耐熱ガラス2のエッジ面2bの温度をある程度上昇させることができる。このため、比較例1及び比較例2と比べると、耐熱性が向上している。しかし、図1の本実施形態のように、熱伝導部材6を耐熱ガラス2のエッジ面2bに直接接触させた場合と比べれば、エッジ面2bの温度上昇は小さいため、耐熱ガラス2は割れてしまったと考えられる。
【0053】
以上の防火試験の結果より、本実施形態はいずれの比較例と比べても、防火性能に優れていることが示された。試験結果を検証すると、本実施形態が防火性能に優れているのは、熱伝導部材6が耐熱ガラス2のエッジ面2bに接触していること、及び熱伝導部材6がLow−Eガラス3やLow−Eガラス3側の枠体11bには接触していない、という2つの特徴構成によるものと考えられる。又、本実施形態においては、熱伝導部材6を複層ガラス1の空気層5の下方には貼り付けていないので、複層ガラス1の排水性を損なうことがない。
【0054】
又、本実施形態と熱伝導部材6が設けられていない比較例1とにおいて、耐熱ガラス2に求められる表面圧縮応力を検証したところ、比較例1の場合は最低185MPaであるのに対し、本実施形態の場合は最低155MPaであった。同様に、耐熱ガラス2と反対側のガラスを通常の透明ガラスとした場合について検証すると、熱伝導部材6を設けない場合は最低165MPaであるのに対し、熱伝導部材6を設けた場合は最低95MPaであった。以上の結果より、耐熱ガラス2に熱伝導部材6を設けることにより、耐熱ガラス2の反対側のガラスがLow−Eガラスであるか否かに拘らず、表面圧縮応力の比較的低いガラスを防火用複層ガラスに使用できることが明らかとなった。
【0055】
[第2実施形態]
本発明に係る複層ガラスユニットの第2実施形態について、図2に基づいて説明する。図2のa図は完成した複層ガラスユニットを、b図は複層ガラスユニットの組立経過を示している。第1実施形態と同様の部材については同じ番号を付しており、ここでの説明は省略する。
【0056】
本実施形態は、熱伝導部材6を耐熱ガラス2のエッジ面2bに加えて、耐熱ガラス2の表面2cにも貼り付けてある。このように構成すれば、火災の燃焼熱とLow−Eガラス3からの反射熱とにより非常に高温となった耐熱ガラス2の中央部2aの熱を、表面2cに貼り付けた熱伝導部材6を介してエッジ面2bに伝えることができる。このため、耐熱ガラスのエッジ面をさらに昇温することができ、防火性をより確実に向上させることができる。
【0057】
又、本実施形態においては、耐熱ガラス2の側の弾性支持部材12の底面部及び耐熱ガラス2と接する側の側面部にも熱伝導部材7を貼り付けている。このような構成により、複層ガラスユニットの組立時に熱伝導部材6及び7が、耐熱ガラス2のエッジ面2bと耐熱ガラス2の側の枠体11aとに亘って設けられることになる。
【0058】
[第3実施形態]
本発明に係る複層ガラスユニットの第3実施形態について、図3に基づいて説明する。図3のa図は完成した複層ガラスユニットを、b図は複層ガラスユニットの組立経過を示している。第1実施形態と同様の部材については同じ番号を付しており、ここでの説明は省略する。
【0059】
本実施形態は、概ね第2実施形態と同様であるが、耐熱ガラス2の側の弾性支持部材12の外周面全域に熱伝導部材7を貼り付けている。このように構成すれば、枠体11aから耐熱ガラス2のエッジ面2bに至る伝熱経路が、弾性支持部材12の上面部と底面部の2通り確保できるので、熱伝導部材7のはがれ等によってエッジ面2bへの伝熱が断たれる危険性を低減することができる。又、本実施形態においては、耐熱ガラス2のエッジ面2bが搬送時や組立時に破損する危険性を低減するため、エッジ面2bが滑らかになるよう曲面形状に研磨加工している。
【0060】
[第4実施形態]
本発明に係る複層ガラスユニットの第4実施形態について、図4に基づいて説明する。図4のa図は完成した複層ガラスユニットを、b図は複層ガラスユニットの組立経過を示している。第1実施形態と同様の部材については同じ番号を付しており、ここでの説明は省略する。
【0061】
本実施形態は、熱伝導部材6を設けずに、枠体11aの一部を突出させて熱伝導部11cを形成し、ここに耐熱ガラス2のエッジ面2bが接触するように複層ガラス1を載置したものである。このように構成しても、熱伝導部11cを介して、火災により高温となった枠体11aから耐熱ガラス2のエッジ面2bに熱が伝えられるので、耐熱ガラス2の防火性を向上させることができる。
【0062】
なお、いずれの実施形態においても、熱伝導部材6,7又は熱伝導部11cの構成は図1〜図4に示したものに限らない。すなわち、複層ガラスユニットの完成時に耐熱ガラス2のエッジ面2bと耐熱ガラス2の側の枠体11aとに亘って熱伝導部材6,7が存在し、且つ、熱伝導部材6がLow−Eガラス3やLow−Eガラス3側の枠体11bには接触していなければ、他の構成を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、スペーサを介して積層してある、耐熱ガラスと低放射膜をコーティングしたLow−Eガラスとからなる複層ガラス又はこれを含む複層ガラスユニットに適用することができる。又、2枚のガラスからなる複層ガラスのみならず、3枚以上のガラスからなる複層ガラスにも適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 複層ガラス
2 耐熱ガラス
2a 中央部
2b エッジ面
2c 表面
3 Low−Eガラス
3a 低放射膜
4 スペーサ
5 空気層
6,7 熱伝導部材
11 枠体
11a 枠体(耐熱ガラス側)
11b 枠体(Low−Eガラス側)
11c 熱伝導部
12 弾性支持部材
13 シール材
14 緩衝部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気層を形成するようにスペーサを介して積層してある、複数の板ガラスからなる複層ガラスと、
前記複層ガラスの周縁部を両側から挟んで固定する枠体と、
前記複数の板ガラスのうち少なくとも一方のガラスのエッジ面と当該ガラス側の前記枠体とに亘って配置される熱伝導部材と、を備える複層ガラスユニット。
【請求項2】
前記複層ガラスは、前記枠体のうち一方の側に配置された耐熱ガラスと、他方の側に配置されたLow−Eガラスとを有し、
前記熱伝導部材が前記耐熱ガラスのエッジ面と当該耐熱ガラス側の前記枠体とに亘って配置されている請求項1に記載の複層ガラスユニット。
【請求項3】
前記熱伝導部材を前記複層ガラスの全周に亘って設けてある請求項2に記載の複層ガラスユニット。
【請求項4】
前記耐熱ガラスの表面と当該耐熱ガラス側の前記枠体との間に断熱材を設けてある請求項2又は3に記載の複層ガラスユニット。
【請求項5】
前記スペーサが断熱材である請求項2〜4のいずれか一項に記載の複層ガラスユニット。
【請求項6】
前記熱伝導部材を前記耐熱ガラスのエッジ面と表面とに亘って設けてある請求項2〜5のいずれか一項に記載の複層ガラスユニット。
【請求項7】
前記熱伝導部材が金属テープである請求項2〜6のいずれか一項に記載の複層ガラスユニット。
【請求項8】
空気層を形成するようにスペーサを介して積層してある、複数の板ガラスからなる複層ガラスであって、
前記複層ガラスの周縁部を両側から挟む枠体に固定した際に、前記複数の板ガラスのうち少なくとも一方のガラスのエッジ面と当該ガラス側の前記枠体とに亘って配置される熱伝導部材を備えることを特徴とする複層ガラス。
【請求項9】
前記複層ガラスは、前記枠体のうち一方の側に配置された耐熱ガラスと、他方の側に配置されたLow−Eガラスとを有し、
前記熱伝導部材が前記耐熱ガラスのエッジ面と当該耐熱ガラス側の前記枠体とに亘って配置されている請求項8に記載の複層ガラス。
【請求項10】
前記熱伝導部材を前記複層ガラスの全周に亘って設けてある請求項9に記載の複層ガラス。
【請求項11】
前記複層ガラスを前記枠体に固定した際に、前記耐熱ガラスの表面と当該耐熱ガラス側の前記枠体との間に配置される断熱材を設けてある請求項9又は10に記載の複層ガラス。
【請求項12】
前記スペーサが断熱材である請求項9〜11のいずれか一項に記載の複層ガラス。
【請求項13】
前記熱伝導部材を前記耐熱ガラスのエッジ面と表面とに亘って設けてある請求項9〜12のいずれか一項に記載の複層ガラス。
【請求項14】
前記熱伝導部材が金属テープである請求項9〜13のいずれか一項に記載の複層ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−220029(P2011−220029A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92022(P2010−92022)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】