説明

複層塗膜の形成方法

【課題】紫色の色相を有する複層塗膜において、青色および黄色という補色関係にある2色の粒子状の光を認識することができる複層塗膜を提供すること。
【解決手段】被塗物上に、着色顔料(A)、アルミニウム顔料(B)および2種の光輝性顔料を含む有色光輝性顔料(C)を含むベース塗膜を形成し、クリヤー塗膜を形成する、マンセル表色系の色相(H)7.5P〜10RPである複層塗膜の形成方法であって、有色光輝性顔料(C)を構成する光輝性顔料は、色相(H)をマンセル色相環100の基準(0位置)とし色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、−20〜−30範囲の干渉色の鱗片状光輝性顔料(c1)および+20〜+30範囲の反射色の鱗片状光輝性顔料(c2)を組み合わせたもの、または、−20〜−30範囲の反射色の鱗片状光輝性顔料(c3)および+20〜+30範囲の干渉色の鱗片状光輝性顔料(c4)を組み合わせたもの、である、複層塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体などの塗装に適用することのできる、独特の優れた意匠を有する複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの被塗物の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を順次形成して、被塗物を保護すると同時に美しい外観および優れた意匠を付与している。複層塗膜の形成方法としては、導電性に優れた被塗物上に電着塗膜などの下塗り塗膜を形成し、その上に、中塗り塗膜、上塗り塗膜を順次形成する方法が一般的である。これらの塗膜において、特に塗膜の外観および意匠を大きく左右するのは、ベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜である。特に、自動車において、ベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜の外観および意匠は、極めて重要である。
【0003】
また最近では、消費者は、いわゆるソリッドカラーよりも、光輝感のある塗色を好む傾向がある。この光輝感は、自動車などの複雑な形状の意匠そのものを強調する効果がある。特に、光がよく当たり、そして外観の印象を大きく左右するフェンダー部やドア部のプレスラインを強く強調する効果がある。このような効果は、光輝性塗膜に含まれる光輝性顔料によるものである。自動車のこのような複雑な形状の部分では、光の反射角度が複雑に変化するので、塗膜における光輝感の役割は非常に重要となる。また最近では、塗膜に対する消費者の嗜好も高まり、単に光輝感があることだけではなく、より目新しい意匠、例えば塗膜自体も光輝感を伴う着色がなされており、さらにこの塗膜自体の光輝感とは異なる色相のキラキラとした粒子が認識できる意匠などといった、より独特な意匠が求められつつある。
【0004】
特開2001−179170号公報(特許文献1)には、基材にカラーベース塗膜を形成した後、マイカ顔料含有光輝性クリヤー塗膜を形成する光輝性模様塗膜形成方法において、(a)前記マイカ顔料色のマンセル表示系における色相Hが、マンセル色相環100に対し前記カラーベース塗膜の色相を0とし、左廻り+50、右廻り−50で表示した際に+25〜+50、または−25〜−50の色相範囲であること、および/または(b)前記マイカ色のハンターの色差式における明度指数L1と前記カラーベース塗膜のハンターの色差式における明度指数L2とが、|L1−L2| ≧10の明度指数範囲であることを特徴とする光輝性模様塗膜形成方法が記載されている。そしてこの方法によって、色差に起因するマイカムラを積極的に発現させ、模様として再現性のある光輝性模様塗膜が得られると記載している。特許文献1の方法においては、カラーベース塗膜の色相と、その上に形成される別の塗膜である光輝性クリヤー塗膜に含まれるマイカ顔料の色とについて色相範囲を設定している。これに対して、本発明においては、1つの塗料に含まれる顔料についての色相範囲を設定するものであり、特許文献1に記載される発明とはその構成が異なる。
【0005】
特開平8−155384号公報(特許文献2)には、基材面にマンセル表示系における明度がN3以下の無彩色下地形成塗料を塗布する下地塗膜形成工程と、下地塗膜面にビヒクル、暗部領域を有する干渉マイカ顔料、およびマンセル表示系における色相Hが、マンセル色相環100に対し前記干渉マイカ顔料の干渉色の色相を0とし、左廻り+50、右廻り−50で表示した際に0±25の色相範囲にある着色顔料を少なくとも1種含有する上塗塗料を塗布する上塗塗膜形成工程を、順次に施すことを特徴とする複層塗膜形成方法が記載されている。そしてこの方法によって、光輝感を有しながら深みと彩度が高いカラーフロップ感のある塗膜を形成することができると記載されている。この特許文献2においては、上記のように近い色相範囲にある顔料を配合することによって、濁りの発生を抑え、鮮やかな深みのある色調を発現することができると記載されている。一方で本発明は、一定範囲で異なる色相範囲を有する顔料を用いており、特許文献2に記載される発明とはその構成が異なる。
【0006】
特開2004−81971号公報(特許文献3)には、被塗基材に、L値が1〜40のカラーベース塗膜層を形成した後、前記カラーベース塗膜層上に、金属被覆ガラスフレーク顔料を乾燥塗膜中に0.001〜5質量%含有する光輝性クリヤー塗膜層を形成し、次いで前記光輝性クリヤー塗膜層上にトップクリヤー塗膜層を形成する光輝性塗膜形成方法が記載されている。そしてこの方法によって、光輝性クリヤー塗膜中の光輝材の見え方が、ベース塗膜中に埋没せずに、光輝材含有クリヤー塗膜中の光輝材がキラキラキラキラと輝くような意匠が得られると記載されている。一方でこの方法は、カラーベース塗膜層の上に光輝性クリヤー塗膜層を形成し、そしてその上にさらにトップクリヤー塗膜層を形成する構成であり、本発明とは塗膜構成が異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−179170号公報
【特許文献2】特開平8−155384号公報
【特許文献3】特開2004−81971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、マンセル表色系の色相(H)で7.5P〜10RPの範囲の、いわゆる紫色〜赤紫色(本明細書においてはこれらをまとめて「紫色」または「パープル」と記載することもある。)の色相を有する複層塗膜において、青色および黄色という、補色関係にある2色の光を、粒子状の光として認識することができる複層塗膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
被塗物上に、着色顔料(A)、アルミニウム顔料(B)および、少なくとも2種の光輝性顔料から構成される有色光輝性顔料(C)、を含むベース塗膜を形成し、更にクリヤー塗膜を形成する、マンセル表色系の色相(H)で7.5P〜10RPである複層塗膜の形成方法であって、
上記有色光輝性顔料(C)を構成する光輝性顔料は、干渉色または反射色を有する鱗片状光輝性顔料であり、且つ、上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)をマンセル色相環100の基準(0位置)とし、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、−20〜−30の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)および+20〜+30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)を、それぞれ少なくとも1種以上組み合わせたもの、または、
−20〜−30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)および+20〜+30の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)を、それぞれ少なくとも1種以上組み合わせたもの、である、
複層塗膜の形成方法、を提供するものであり、これにより上記課題が解決される。
【0010】
上記干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)と反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)との質量比(c1)/(c2)、または反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)と干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)との質量比(c3)/(c4)は、3/7〜7/3の範囲内であるのが好ましい。
【0011】
また、上記着色顔料(A)と上記有色光輝性顔料(C)との質量比(A)/(C)は、2/8〜6/4の範囲内であるのが好ましい。
【0012】
また、上記着色顔料(A)と上記アルミニウム顔料(B)との質量比(A)/(B)は、5/5〜8/2の範囲内であるのが好ましい。
【0013】
本発明はまた、上記の複層塗膜の形成方法により得られる複層塗膜も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複層塗膜の形成方法によって得られる複層塗膜は、マンセル表色系の色相(H)で7.5P〜10RPの範囲のいわゆる紫色〜赤紫色(パープル)の色相を有している。そしてこの紫色の複層塗膜に、太陽光などの強い光が照射されることによって、青色および黄色という補色関係にある2色の光がキラッとした粒子状の光として認識でき、そして紫色、青色および黄色という3つの色相が視認できるという、極めて特徴的でありかつ独特な意匠を有する複層塗膜である。
【0015】
本発明の複層塗膜は、例えば強い光の照射がない状態では、紫色のカラーメタリック塗膜として認識される。一方で、太陽光などの強い光が照射されると、紫の色相を有する塗膜中に、ゴールド色のキラキラした光、およびブルー色のキラキラした光の両方を視認できることとなる。そしてこれらのゴールド色の光、ブルー色の光は、本発明においては有色光輝性顔料がごく少量であっても視認できることとなるため、ベース色である紫の色相にほとんど影響を及ぼさない。さらに、ベース色である紫の色相、そしてこれらのゴールド色の光およびブルー色の光は、全て色相が大きく異なる。そのため、複層塗膜から視認できる色において、見かけの奥行き(距離感)が異なって見え、まるで紫色の海水中においてゴールド色およびブルー色のキラキラした光の泡が揺らめくような、独特な意匠が視認できるという特徴がある。
そして本発明の方法を、自動車車体および部品などに適用することにより、外観の高級感を高めることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】マンセル表色系のマンセル色相環を示す図である。(DICカラーデザイン株式会社ウェブサイトより引用。)
【図2】反射色を有する鱗片状光輝性顔料および干渉色を有する鱗片状光輝性顔料が、反射色または干渉色を呈するメカニズムを模式的に示す図である。
【図3】複層塗膜評価において用いた入射角および受光角を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、紫の色相を有する塗膜中において、ゴールド(黄色)およびブルー(青色)の両方の色相のキラッとした光(キラキラした粒子感の光)が視認できる塗膜の開発を目的とし、様々な顔料の組み合わせを検討していた。この検討の中で、紫の色相を有する塗料組成物に対して、光の干渉または反射に基づく、例えばゴールド(黄色)の色相を呈する光輝性顔料と、ブルー(青色)の色相を呈する光輝性顔料とを組み合わせて用いると、これらの光輝性顔料を相当量用いても、ゴールド(黄色)とブルー(青色)の2色の光を視認することは困難となる組み合わせが存在することが、実験により判明した。
【0018】
これについて、本発明者は、光輝性顔料が呈する光が加法混色の原理に従うことに着目した。光輝性顔料が呈する色相において、ゴールド(黄色)の色相およびブルー(青色)の色相という組み合わせは、色相環では対向位置にある色同士の組み合わせであるため、補色関係にある色相の組み合わせである。そのため、例えば光の干渉によって呈される干渉色のゴールド(黄色)および干渉色のブルー(青色)の2種類が存在する場合は、色の加法混色の原理により、白色の光として視認されることとなる。
【0019】
一方で本発明者は、色相環では対向位置にある色である、ゴールド(黄色)およびブルー(青色)の組み合わせであっても、いずれか一方が干渉色により呈される色であり、他の一方が反射色により呈される色であるという組み合わせにおいては、これらの色が加法混色せず、ゴールド(黄色)およびブルー(青色)の両方の色相のキラッとした光(キラキラした粒子感の光)が視認できることを、実験により見出した。そしてこれにより本発明を完成するに至った。
【0020】
本発明における、着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)、および有色光輝性顔料(C)を構成する、干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)および反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)のそれぞれの色相、または有色光輝性顔料(C)を構成する、反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)および干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)のそれぞれの色相は、マンセル表色系で示される。マンセル表色系は、「三属性による色の表示方法」(JIS Z 8721)として当業者によく知られているものであり、色の三属性である、色相(H)、そして明度および彩度によって色を分類する。
【0021】
マンセル表色系において、色相(H)は、マンセル色相環の記号(R、Y、G、BおよびP)と番号(5および10など)との組み合わせで示される。マンセル色相環において、「R」はレッドを示し、「Y」はイエローを示し、「G」はグリーンを示し、「B」はブルーを示し、「P」はパープルを示す。また、これらの中間の色相である、「YR」はイエローレッドを示し、「GY」はグリーンイエローを示し、「BG」はブルーグリーンを示し、「PB」はパープルブルーを示し、「RP」はレッドパープルを示す。上記の10色がマンセル色相環の10色相となる。そしてこれらの10色相を、それぞれ10等分することにより、マンセル色相環の100色相環(マンセル色相環100)となる。図1は、このマンセル色相環100について説明する概略説明図である。本発明において、マンセル表色系の色相(H)は、例えば、ミノルタ社製多角度分光光度計「CR−400」によって測定することができる。
【0022】
本発明の複層塗膜の形成方法は、下塗り塗膜および中塗り塗膜を形成した被塗物上に、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を順次形成する方法である。以下、ベース塗膜の形成に用いられるベース塗料組成物、およびクリヤー塗膜の形成に用いられるクリヤー塗料組成物について順次記載する。
【0023】
ベース塗料組成物
本発明の方法において、ベース塗膜は、被塗物上に形成される塗膜である。このベース塗膜は、着色顔料(A)、アルミニウム顔料(B)および、少なくとも2種の光輝性顔料から選択される有色光輝性顔料(C)を含み、そしてこの有色光輝性顔料(C)を構成する光輝性顔料は、特定の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)および特定の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)をそれぞれ少なくとも1種以上組み合わせたもの、または、特定の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)および特定の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)を、それぞれ少なくとも1種以上組み合わせたものである、ベース塗料組成物を用いることによって形成される。このベース塗料組成物は上記顔料(A)〜(C)に加えて、塗膜形成性樹脂、そして必要に応じた硬化剤そしてその他の成分を含有する。
【0024】
着色顔料(A)
本発明において、着色顔料(A)として、有機系の着色顔料および無機系の着色顔料を用いることができる。有機系の着色顔料としては、例えば、アゾ系顔料(例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料)、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、イソインドリノン系顔料、スレン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、金属錯体有機顔料などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
無機系の着色顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛華、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、黄色酸化鉄、ベンガラなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明の複層塗膜は、マンセル表色系の色相(H)で7.5P〜10RPである色相を有する。複層塗膜のこの範囲の色相は、上記着色顔料(A)の種類および量を適宜選択することによって得られることとなる。
【0027】
ベース塗料組成物中における着色顔料(A)の顔料濃度(PWC)は1〜20質量%であるのが好ましく、1〜10質量%であるのがより好ましく、3〜8質量%であるのがさらに好ましい。着色顔料(A)の量が1質量%未満である場合は、得られるベース塗膜の彩度が低下し、マンセル表色系の色相(H)7.5P〜10RPの色相を発現することができなくなる恐れがある。一方、顔料濃度(PWC)が20質量%を超える場合は、顔料濃度が高いため、得られるベース塗膜の色相が濃彩色となり、本発明が意図する意匠が発現されない恐れがある。なおこの顔料濃度(PWC)は、ベース塗料組成物の全固形分の質量に対して、着色顔料(A)の質量を百分率(質量%)で表したものである。なお、ベース塗料組成物の全固形分には、着色顔料(A)、アルミニウム顔料(B)、有色光輝性顔料(C)、ベース塗料組成物の樹脂固形分、必要に応じたその他の顔料およびその他の成分(固形分)が全て含まれる。
【0028】
アルミニウム顔料(B)
本発明の方法において用いられるベース塗料組成物は、上記着色顔料(A)と併せてアルミニウム顔料(B)が用いられる。このアルミニウム顔料(B)は、例えば、平均粒径(D50)が5〜25μmであり、かつ厚さが0.1〜1μmであるものが好ましい。また、平均粒径が10〜25μmの範囲のものが光輝感に優れ、さらに好適に用いられる。このアルミニウム顔料(B)の平均粒径は、レーザー回折法によって粒度分布を測定し、メジアン値(D50)で示したものである。
【0029】
アルミニウム顔料(B)として、有機物被膜または無機物被膜でコーティングされたアルミニウム顔料を用いてもよい。有機物被膜としては、ダイマー酸等のモノマーまたはポリマー(オリゴマー)形の脂肪酸、有機リン酸塩、りん酸エステル化合物、有機ホスホン酸化合物(エステル)、アミノシラン化合物、シランカップリング剤等の有機ケイ酸化合物(エステル)等が挙げられ、無機物被膜としては、ホウ酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、ケイ酸塩、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。このような有機物被膜または無機物被膜でコーティングされたアルミニウム顔料は、金属顔料の表面が被覆により安定化されている。そしてこのような有機物被膜または無機物被膜でコーティングされたアルムニウム顔料を用いることにより、ベース塗料組成物が水性ベース塗料である場合における塗料内での水素ガスの発生を抑制することができるという利点がある。
【0030】
上記アルミニウム顔料(B)として市販の顔料を用いてもよい。例えば、旭化成工業社製のアルミニウム顔料ペースト「MH−8801」、「MH−9901」、および、東洋アルミニウム社製の「アルペースト 60−600」などが挙げられる。
【0031】
上記アルミニウム顔料(B)は、顔料濃度(PWC)5〜15質量%であるのが好ましい。アルミニウム顔料(B)の顔料濃度(PWC)が5質量%未満である場合は、得られるベース塗膜の下地隠蔽性が劣ることとなるおそれがある。一方、アルミニウム顔料(B)の顔料濃度(PWC)が15質量%を超える場合は、仕上がり外観が低下する恐れがある。
【0032】
また、上記着色顔料(A)と上記アルミニウム顔料(B)とは、(A)/(B)=5/5〜8/2の質量比で含有するのが好ましい。上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が上記割合で含まれることによって、マンセル表色系の色相(H)7.5P〜10RPの範囲における色相において所望の最適な光輝感をもたらすことができるという利点がある。
【0033】
有色光輝性顔料(C)
本発明におけるベース塗膜に含まれる有色光輝性顔料(C)は、干渉色または反射色を有する鱗片状光輝性顔料である、少なくとも2種の光輝性顔料から構成される。そしてこの有色光輝性顔料(C)を構成する光輝性顔料は、上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)をマンセル色相環100の基準(0位置)とし、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合において、下記いずれかの組み合わせであることを条件とする。
組み合わせ(1):−20〜−30の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)および+20〜+30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)を、それぞれ少なくとも1種以上組み合わせたもの。
組み合わせ(2):−20〜−30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)および+20〜+30の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)を、それぞれ少なくとも1種以上組み合わせたもの。
尚、マンセル色相環での位置は、例えばX−Rite社製多角度分光光度計「MA−68 II」によって測定することができる。
【0034】
上記組み合わせ(1)、(2)において、「−20〜−30の色相範囲」と「+20〜+30の色相範囲」とは、色相環では対向位置にある色に該当する。なお、本発明において、上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)は7.5P〜10RP(紫色)であり、そしてこの色相(H)をマンセル色相環100の基準(0位置)とし、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合において、「−20〜−30の色相範囲」は青色(ブルー色)の範囲となり、「+20〜+30の色相範囲」は黄色(ゴールド色)の範囲となる。
そして上記組み合わせ(1)においては、青色(ブルー色)の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)と、黄色(ゴールド色)の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)との組み合わせとなる。また上記組み合わせ(2)においては、青色(ブルー色)の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)と、黄色(ゴールド色)の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)との組み合わせとなる。このように本発明においては、反射/干渉となる組み合わせで用いることよって、色相環では対向位置にある色であるゴールド(黄色)およびブルー(青色)の組み合わせであっても、これらの色が加法混色せず、ゴールド(黄色)およびブルー(青色)の両方の色相のキラッとした光(キラキラした粒子感の光)が視認できることとなる。
【0035】
なお本明細書において、「有色光輝性顔料(C)」における「有色」とは、「着色顔料(A)」における「着色」に対応する意味で用いられる。本明細書において「有色光輝性顔料(C)」における「有色」は、光輝性顔料が呈する反射色または干渉色が、有彩色として視認できる顔料を意味する。この定義により、光の反射を生じさせるものの、その反射光は単なる反射であって有彩色として認識されるものではないアルミニウム光輝性顔料などは、本明細書における「有色光輝性顔料(C)」に該当しないこととなる。一方で「着色顔料(A)」における「着色」は、通常用いられる一般的な着色顔料であって、顔料自体が特定の波長の光(補色)を吸収することによって特定の色が視認できる顔料を意味する。
【0036】
有色光輝性顔料(C)を構成する干渉色または反射色を有する鱗片状光輝性顔料として、例えば、基材フレーク、およびこの基材フレークを被覆する金属酸化物被覆層、を有する、鱗片状光輝性顔料が挙げられる。
【0037】
基材フレークとして、天然または合成のアルミナフレーク基材(酸化アルミニウム:Al)、天然または合成のマイカフレーク基材、天然または合成のシリカフレーク基材、ガラスフレーク基材などが挙げられる。これらの基材フレークの厚みは、100〜800nmであるのが好ましく、200〜400nmであるのがより好ましい。基材フレークの厚みが上記範囲を逸脱すると、鱗片状光輝性顔料が呈する反射色または干渉色の発色性が低下する恐れがある。
【0038】
上記基材フレークを被覆する金属酸化物被覆層として、例えば、二酸化チタン(TiO、屈折率2.30)、酸化ジルコニウム(屈折率2.40)、酸化鉄(屈折率2.36)、二酸化スズ(屈折率1.98)、酸化亜鉛(屈折率2.0)などの金属酸化物を含む、金属酸化物被覆層が挙げられる。これらの酸化金属は何れも、基材フレークを構成するアルミナフレーク(屈折率4.63)またはマイカフレーク(屈折率1.58)などと比較して屈折率が高いため、基材フレークと被覆層である金属酸化物層との間に屈折率差が生じ、これにより干渉色または反射色が発現することとなる。この金属酸化物被覆層の厚みは、特に限定されるものではないが50〜500nmであるのが好ましい。
【0039】
基材フレークを被覆する金属酸化物被覆層は、上記金属酸化物からなる単層であってもよく、または複数の層から構成されてもよい。金属酸化物被覆層が複数の層から構成される態様として、例えば、基材フレークを、高屈折率金属酸化物被覆層が被覆し、これをさらに低屈折率金属酸化物被覆層が被覆し、これをさらに高屈折率金属酸化物被覆層が被覆する態様が挙げられる。ここで高屈折率金属酸化物被覆層として、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、二酸化スズ、酸化亜鉛などの金属酸化物を含む、金属酸化物被覆層が挙げられる。低屈折率金属酸化物被覆層として、酸化ケイ素、アルミナなどの金属酸化物を含む、金属酸化物被覆層が挙げられる。なお、この低屈折率金属酸化物被覆層は、上記金属酸化物に加えて、B、SiO(OH)、AlO(OH)、MgFなどを含んでもよい。金属酸化物被覆層が複数の層から構成される場合において、これらの高屈折率金属酸化物被覆層および低屈折率金属酸化物被覆層は、各層が20〜100nmであるのが好ましく、20〜80nmであるのがより好ましい。
【0040】
鱗片状光輝性顔料における、上記金属酸化物の被覆層の割合は、上記基材フレークと被覆層との合計量に対して、好ましくは10〜50質量%であり、さらに好ましくは20〜45質量%である。被覆層の割合は、所望の意匠性に応じて変更することができる。
【0041】
なお、本明細書における、鱗片状光輝性顔料を構成する基材フレーク、およびこれらの被覆層である金属酸化物層の厚みは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察の写真より観察される、断面における厚みを測定し、得られた測定値の平均値を算出することにより求めることができる。
【0042】
また、鱗片状光輝性顔料の平均粒径(D50)は、5〜30μmであるのが好ましく、10〜25μmであるのがより好ましく、15〜20μmであるのがさらに好ましい。平均粒径が上記範囲を逸脱すると、発色性を達成することができない恐れがある。なお、本明細書における顔料の平均粒径は、レーザー回折法によって粒度分布を測定し、メジアン値(D50)で示したものである。
【0043】
本発明においては、上記鱗片状光輝性顔料は、「反射色を有する鱗片状光輝性顔料」および「干渉色を有する鱗片状光輝性顔料」の2種類に分類される。図2は、この「反射色を有する鱗片状光輝性顔料」および「干渉色を有する鱗片状光輝性顔料」が、反射色または干渉色を呈するメカニズムを模式的に示す図である。図2に模式的に示されるように、反射光を有する鱗片状光輝性顔料においては、被覆層へ入射した光の一部が被覆層上部で反射し、残りの一部が被覆層を透過する。そしてこの被覆層を透過した光は、基材フレークを透過することなく、基材フレーク上で反射する。ここで、被覆層上部で反射した光および基材フレーク上で反射した光によって、特定の色相を有する光が生じることとなる。このような、反射色を有する鱗片状光輝性顔料として、例えば、基材フレークが、マイカフレークである鱗片状光輝性顔料、被覆層を構成する金属酸化物として酸化鉄が含まれる鱗片状光輝性顔料、または被覆層の厚さが400〜500nmである鱗片状光輝性顔料などが挙げられる。これらの鱗片状光輝性顔料は、被覆層を透過する光の量が少なく、透過した光が基材フレーク上で反射するか、または基材フレークの光透過性が低いため、光が基材フレークを透過しない。そのため、反射光を有することとなる。
【0044】
反射色を有する鱗片状光輝性顔料は市販品を用いてもよい。反射色を有する鱗片状光輝性顔料の市販品の具体例としては、金属酸化物被覆マイカフレーク顔料であって、被覆層を構成する金属酸化物として酸化鉄が含まれる顔料である、メルク社製 商品名「Iriodin 605WNT」、「Iriodin 303WNT」、「Iriodin 502WNT」、「Iriodin 504WNT」、「Iriodin 505WNT」、「Iriodin 507WNT」、「Iriodin 522WNT」などが挙げられる。
【0045】
一方で、干渉色を有する鱗片状光輝性顔料においては、図2に模式的に示されるように、被覆層へ入射した光の一部が被覆層上部で反射し、残りの一部が被覆層を透過する。そしてこの被覆層を透過した光は、その一部は基材フレーク上で反射し、残りの一部は基材フレークを透過する。そして基材フレークの下部においても、透過した光の一部が反射し、残りの一部はさらに被覆層へと透過する。そして被覆層を透過した光は、被覆層の下部で一部反射することとなる。そしてこれらの複数の反射光が干渉しあい、これにより特定の色相を有する干渉色が生じることとなる。このような、干渉色を有する鱗片状光輝性顔料は、反射色を有する鱗片状光輝性顔料と比較して、より光透過性が高い顔料ということができる。干渉色を有する鱗片状光輝性顔料として、例えば、基材フレークが、アルミナフレークである鱗片状光輝性顔料、被覆層を構成する金属酸化物として酸化チタンが含まれる鱗片状光輝性顔料、または被覆層の厚さが300〜400nmである鱗片状光輝性顔料などが挙げられる。これらの鱗片状光輝性顔料は、被覆層を透過する光の量が多いか、または基材フレークの光透過性が高いため、多くの光が基材フレークを透過する。そのため、鱗片状光輝性顔料の様々な箇所で反射が生じ、そしてこれら複数の反射光が干渉しあうことにより、干渉光を有することとなる。
【0046】
干渉色を有する鱗片状光輝性顔料は市販品を用いてもよい。干渉色を有する鱗片状光輝性顔料の市販品の具体例としては、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料であって、被覆層を構成する金属酸化物として酸化チタンが含まれる顔料である、メルク社製 商品名「Xirallic T60−10WNT」、「Xirallic T60−20WNT」、「Xirallic T60−21WNT」、「Xirallic T60−22WNT」、「Xirallic T60−23WNT」、「Xirallic T60−24WNT」、「Xirallic T60−25WNT」、「Xirallic T61−10WNT」などが挙げられる。
【0047】
本発明において用いられる有色光輝性顔料(C)を構成する光輝性顔料は、上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)(但し7.5P〜10RP(紫色)の範囲に限定される)の位置をマンセル色相環100の基準(0位置)とし、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合において、下記いずれかの組み合わせである。
組み合わせ(1):−20〜−30の色相範囲(青色(ブルー色)の範囲)にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)および+20〜+30の色相範囲(黄色(ゴールド色)の範囲)にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)を、それぞれ少なくとも1種以上組み合わせたもの。
組み合わせ(2):−20〜−30の色相範囲(青色(ブルー色)の範囲)にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)および+20〜+30の色相範囲(黄色(ゴールド色)の範囲)にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)を、それぞれ少なくとも1種以上組み合わせたもの。
このように本発明においては、反射/干渉となる組み合わせで用いることよって、色相環では対向位置にある色であるゴールド(黄色)およびブルー(青色)の組み合わせであっても、これらの色が加法混色せず、ゴールド(黄色)およびブルー(青色)の両方の色相のキラッとした光(キラキラした粒子感の光)が視認できることとなる。
【0048】
上記組み合わせ(1)において、鱗片状光輝性顔料(c1)の色相範囲が上記範囲を逸脱する場合、または鱗片状光輝性顔料(c2)の色相範囲が上記範囲を逸脱する場合、例えば鱗片状光輝性顔料(c1)の色相範囲が−20を超えて−19〜0の範囲であるかまたは鱗片状光輝性顔料(c2)の色相範囲が+20未満であり0〜+19の範囲である場合は、塗膜のベース色である紫色の色相と近くなることから、ベース色とは異なる色相を有する2色の粒子状の光を認識することができなくなる。また、鱗片状光輝性顔料(c1)の色相範囲が−30より小さく−31〜−50であるかまたは鱗片状光輝性顔料(c2)の色相範囲が+30を超えて+31〜+50である場合は、鱗片状光輝性顔料(c1)、(c2)の色相範囲の関係が、色相環における対向位置から外れることとなり、2色のキラッとした粒子状の光を認識することができなくなる。
【0049】
同様に、上記組み合わせ(2)において、鱗片状光輝性顔料(c3)の色相範囲が上記範囲を逸脱する場合、または鱗片状光輝性顔料(c4)の色相範囲が上記範囲を逸脱する場合、例えば鱗片状光輝性顔料(c3)の色相範囲が−20を超えて−19〜0の範囲であるかまたは鱗片状光輝性顔料(c4)の色相範囲が+20未満であり0〜+19の範囲である場合は、塗膜のベース色である紫色の色相と近くなることから、ベース色とは異なる色相を有する2色の粒子状の光を認識することができなくなる。また、鱗片状光輝性顔料(c3)の色相範囲が−30より小さく−31〜−50であるかまたは鱗片状光輝性顔料(c4)の色相範囲が+30を超えて+31〜+50である場合は、鱗片状光輝性顔料(c3)、(c4)の色相範囲の関係が、色相環における対向位置から外れることとなり、2色のキラッとした粒子状の光を認識することができなくなる。
【0050】
上記組み合わせ(1)、(2)において、干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)と反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)との質量比(c1)/(c2)、または反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)と干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)との質量比(c3)/(c4)は、3/7〜7/3の範囲内であるのが好ましい。(c1)、(c2)の質量比、または(c3)、(c4)の質量比が上記範囲であることによって、これらの鱗片状光輝性顔料が呈する2色のキラッとした粒子状の光を良好に認識することができるという利点がある。
【0051】
この有色光輝性顔料(C)の濃度(PWC)は、ベース塗料組成物において、1〜30質量%であるのが好ましく、1〜15質量%であるのがより好ましい。有色光輝性顔料(C)の濃度が1質量%未満である場合は、複層塗膜中において粒子状の光を認識できなくなる恐れがある。有色光輝性顔料(C)の濃度が30質量%を超える場合は、仕上がり外観が低下する恐れがある。この濃度(PWC)は、ベース塗料組成物の全固形分の質量に対して、上記鱗片状光輝性顔料(c1)および(c2)の合計質量、または(c3)および(c4)の合計質量を、百分率(質量%)で表したものである。なお、ベース塗料組成物の全固形分には、着色顔料(A)、アルミニウム顔料(B)、有色光輝性顔料(C)、ベース塗料組成物の樹脂固形分、必要に応じたその他の顔料およびその他の成分(固形分)が全て含まれる。
【0052】
また、上記着色顔料(A)と、上記有色光輝性顔料(C)との質量比(A)/(C)は、2/8〜6/4の範囲内であるのが好ましい。着色顔料(A)と有色光輝性顔料(C)との質量比(A)/(C)が上記範囲を超える場合は、濃彩色になり、意図する色相表現ができなくなるおそれがある。また着色顔料(A)と有色光輝性顔料(C)との質量比(A)/(C)が上記範囲を下まわる場合は、無彩色となり、意図する色相表現ができなくなるおそれがある。
【0053】
本発明の複層塗膜の形成方法によって得られる複層塗膜は、上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)によって、紫色(パープル)のベース色相を有している。そしてベース色相が紫色であるこの複層塗膜に、太陽光などの強い光が照射されることによって、上記有色光輝性顔料(C)による、青色および黄色という補色関係にある2色の光がキラッとした粒子状の光として認識でき、そして紫色、青色および黄色という3つの色相が視認できるという、極めて特徴的でありかつ独特な意匠を有する複層塗膜である。
【0054】
本発明の複層塗膜は、例えば強い光の照射がない状態では、紫色のカラーメタリック塗膜として認識される。一方で、太陽光などの強い光が照射されると、紫のベース色相中に、上記有色光輝性顔料(C)に基づく、ゴールド色のキラキラした光、およびブルー色のキラキラした光の両方を視認できることとなる。本発明において有色光輝性顔料(C)は、上記特定の構成の組み合わせ(1)または(2)のものを用いることによって、これらの有色光輝性顔料(C)がごく少量であっても、ゴールド色のキラキラした光およびブルー色のキラキラした光を視認できる。そのため、本発明における複層塗膜においては、有色光輝性顔料(C)は、ベース色である紫の色相にほとんど影響を及ぼさない。さらに、ベース色である紫の色相、そしてこれらのゴールド色のキラキラした光およびブルー色のキラキラした光は、全て色相が大きく異なる。そのため、複層塗膜から視認できる色において、見かけの奥行き(距離感)が異なって見え、まるで紫色の海水中においてゴールド色およびブルー色のキラキラした光の泡が揺らめくような、独特な意匠が視認できるという特徴がある。
【0055】
本発明においては、必要に応じて、上記着色顔料(A)、アルミニウム顔料(B)および有色光輝性顔料(C)に加えて、体質顔料などのその他の顔料を、ベース塗料組成物に適宜配合してもよい。
【0056】
体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。但しこれらのその他の顔料を用いる場合は、本発明における着色顔料(A)、アルミニウム顔料(B)および有色光輝性顔料(C)によって呈される色相に悪影響を及ぼさない量であることを条件とする。
【0057】
ベース塗料組成物において、全顔料の濃度(PWC)は、5〜50質量%、好ましくは5〜30質量%である。5質量%未満では塗膜にした場合の下地隠蔽性が低下する恐れがあり、50質量%を超えると、仕上り外観が低下する恐れがある。
【0058】
塗膜形成性樹脂および硬化剤
ベース塗料組成物に含まれる上記塗膜形成性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂などが挙げられ、特に、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂が好ましく用いられる。これらは、2種以上を組み合わせて使用することができる。また、上記塗膜形成性樹脂には、硬化性を有するタイプとラッカータイプとがあるが、通常は硬化性を有するタイプのものが使用される。硬化性を有するタイプの場合には、アミノ樹脂および/またはブロックイソシアネート化合物、アミン系、ポリアミド系、多価カルボン酸などの硬化剤(または架橋剤)と混合して使用に供され、加熱または常温で硬化反応を進行させることができる。また、硬化性を有しないタイプの塗膜形成性樹脂を、硬化性を有するタイプと併用することも可能である。
【0059】
アクリル樹脂
アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーの共重合体、あるいは、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体を挙げることができる。上記共重合に使用し得るアクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピルなどのエステル化物、アクリル酸またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびN−メチロールアクリルアミドなどが挙げられる。これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン(またはダイマー)、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニルなどが挙げられる。また、当業者に公知の方法である、例えば特開2007−39615号公報に開示の方法に従って、アクリル樹脂を水性エマルション化して水性塗料とすることが好ましい。
【0060】
ポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられ、例えば、多塩基酸と多価アルコールを加熱縮合して得られた縮合物が挙げられる。多塩基酸としては、例えば、飽和多塩基酸、不飽和多塩基酸などが挙げられ、飽和多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸などが挙げられ、不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、二価アルコール、三価アルコールなどが挙げられ、二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが挙げられ、三価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
【0061】
アルキド樹脂
アルキド樹脂としては、上記多塩基酸と多価アルコールにさらに油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸など)、天然樹脂(ロジン、コハクなど)などの変性剤を反応させて得られたアルキド樹脂を用いることができる。
【0062】
エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂などを挙げることができる。ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、Fなどが挙げられる。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、エピコート828、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(いずれも、シェルケミカル社製)などが挙げられ、またこれらを適当な鎖延長剤を用いて鎖延長したものも用いることができる。
【0063】
ポリウレタン樹脂
ポリウレタン樹脂としては、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネートなどの各種ポリオール成分とポリイソシアネート化合物とによって得られるウレタン結合を有する樹脂を挙げることができる。上記ポリイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、およびその混合物(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(4,4’−MDI)、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート(2,4’−MDI)、およびその混合物(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジシクロへキシルメタン・ジイソシアネート(水素化HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(HXDI)などを挙げることができる。
【0064】
ポリエーテル樹脂
ポリエーテル樹脂としては、エーテル結合を有する重合体または共重合体であり、ポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、ポリオキシブチレン系ポリエーテルもしくはビスフェノールAあるいはビスフェノールFなどの芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテルなどの1分子当たりに少なくとも2個の水酸基を有するポリエーテル樹脂を、または上記ポリエーテル樹脂とコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸などの多価カルボン酸類、あるいは、これらの酸無水物などの反応性誘導体とを反応させて得られるカルボキシル基含有ポリエーテル樹脂を挙げることができる。
【0065】
上記塗膜形成性樹脂と硬化剤の割合としては、固形分換算で塗膜形成性樹脂が90〜50質量%、硬化剤が10〜50質量%であるのが好ましく、塗膜形成性樹脂が85〜60質量%であり、硬化剤が15〜40質量%であるのがより好ましい。硬化剤が10質量%未満では(塗膜形成性樹脂が90質量%を超えると)、塗膜中の架橋が十分でない場合がある。一方、硬化剤が50質量%を超えると(塗膜形成性樹脂が50質量%未満では)、塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなるため、塗膜外観が低下するおそれがある。
【0066】
その他の成分など
本発明で使用することのできるベース塗料組成物には、上記成分の他に、脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックスなどの沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコンや有機高分子などの表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、有機アマイド、架橋樹脂粒子などを適宜添加することができる。これらの添加剤は、通常、塗膜形成性樹脂および硬化剤の総量100質量部(固形分基準)に対して、一般に15質量部以下の割合で配合することにより、塗料や塗膜の性能を改善することができる。
【0067】
本発明のベース塗料組成物は、上記構成成分を、通常、溶媒に溶解または分散した態様で提供される。溶媒としては、塗膜形成性樹脂および硬化剤を溶解または分散するものであればよく、有機溶媒および/または水を使用することができる。有機溶媒としては、塗料分野において通常用いられるものを挙げることができる。例えば、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、アセトン、メチルエテルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブなどのエステル類、アルコール類などを例示できる。環境面の観点から、有機溶媒の使用が規制されている場合には、水を用いることが好ましい。この場合、適量の親水性有機溶媒を配合してもよい。
【0068】
本発明において使用することのできるベース塗料組成物は、特に好ましい態様では、アクリル樹脂エマルションを含む塗膜形成性樹脂、アクリル樹脂と疎水性メラミン樹脂とを反応させた反応生成物を水分散することによって得られる粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体を含む硬化剤を含有するものであってもよく、これによって、優れた発色性を有する塗膜を得ることができる。また、自動車塗装における複層塗膜形成方法において、上記のベース塗料組成物を水性塗料として用いた場合、優れたリコート密着性、チッピング性、耐水付着性を有する塗膜を得ることができる。従って、上記のベース塗料組成物は、水性ベース塗料組成物として好適に用いることができる。
【0069】
クリヤー塗料組成物
本発明の方法において、上記クリヤー塗膜は、クリヤー塗料組成物を用いて形成される。本発明の方法で使用することのできるクリヤー塗料組成物としては、特に限定はなく、上塗り塗装用として一般に使用されているクリヤー塗料組成物を用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂およびこれらの変性樹脂などから選ばれた少なくとも1種の熱硬化性樹脂そして必要に応じた上記硬化剤を含むものなどを用いることができる。
【0070】
クリヤー塗料組成物は、必要に応じて、その透明性を損なわない範囲で、あるいは下地の意匠性を妨げない程度であれば、着色顔料、体質顔料、改質剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤などの添加剤を配合することができる。また、特公平8−19315号公報に記載されたカルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーとを含有するクリヤー塗料組成物が、酸性雨対策という観点およびW/W法で上記ベース塗膜層を形成した際に、光輝性顔料および着色顔料の配向を乱さないという観点から、好ましく用いられる。また、クリヤー塗料組成物は、溶剤型、水性型、粉体型などの種々の形態をとることができる。溶剤型塗料または水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料などのような二液型塗料を用いてもよい。
【0071】
溶剤型クリヤー塗料組成物の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂などを挙げることができる。
【0072】
また、水性型クリヤー塗料組成物の例としては、上記溶剤型クリヤー塗料組成物の例として挙げたものに含有される塗膜形成性樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものを挙げることができる。この中和は重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0073】
さらに、上記クリヤー塗料組成物には、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤が添加されていることが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。例えば、このようなものとして、従来から公知のものを使用することができる。また、必要により、硬化触媒、表面調整剤などを含むことができる。
【0074】
なお、上記複層塗膜形成方法において用いられるクリヤー塗料組成物としては、有機溶媒の含有量による環境に与える影響の観点から、20℃におけるフォードカップNo.4で20〜50秒の粘度となるように希釈した時のクリヤー塗料組成物の固形分が50質量%以上である溶剤型クリヤー塗料組成物または水性型クリヤー塗料組成物、あるいは、粉体型クリヤー塗料組成物であることが好ましい。
【0075】
複層塗膜形成方法
本発明の方法は、被塗物上に、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を順次形成する、複層塗膜形成方法である。
【0076】
被塗物
本発明の複層塗膜の形成方法において用いられる被塗物としては、特に限定されるものでなく、鉄、アルミニウム、マグネシウム、銅、スズ、亜鉛またはこれらの合金などの金属類およびその成形品;ガラスなどの無機材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂などの樹脂類や各種のFRPなどのプラスチック材料およびその成形品または発泡体;木材、繊維材料(紙、布など)などの天然または合成材料などが挙げられる。被塗物は、本発明によって得られる鮮やかな意匠を効果的に発現するため、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体および部品(自動車のボディ、ドアなど)のように、曲面を有しているものであることが好ましい。また、プラスチック成形品としては、具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブなどの自動車部品などを挙げることができる。さらに、これらのプラスチック成形品は、中性洗剤で洗浄されたものが好ましい。また、さらに、静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
【0077】
本発明の複層塗膜の形成方法においては、被塗物が自動車車体およびその部品などの場合には、導電性の被塗物を予め脱脂処理や化成処理(リン酸塩またはジルコニウム塩などによる化成処理など)を施した後、被塗物に電着塗装、中塗り塗装などの下地塗装を施しておくことが好ましい。
【0078】
電着塗装は、鋼板などの導電性の被塗物に電着塗膜を形成して防錆性を付与することを目的として行われるものである。このような電着塗膜を形成することのできる電着塗料組成物としては、特に限定はなく、当業者によく知られているカチオン型電着塗料組成物およびアニオン型電着塗料組成物をいずれも使用することができる。防錆性の観点からカチオン型電着塗料組成物が好ましく、なかでも、エポキシ系のカチオン型電着塗料組成物が特に好ましい。
【0079】
本発明において、被塗物が自動車車体または鋼板である場合、電着塗膜形成前に、脱脂、水洗、化成皮膜形成、水洗、純水洗、乾燥までの前処理を従来公知の方法で行うことが好ましい。電着塗膜形成方法は、従来公知の方法の中から、適当な方法を任意に選択すればよい。また、電着塗膜形成条件、焼き付け硬化条件、電着塗膜の厚さなどに関しても、被塗物の種類および使用する電着塗料組成物の種類などに応じて、適宜決定することができる。
【0080】
中塗り塗装は、必要に応じて形成された電着塗膜の上に中塗り塗膜層を形成して、下地隠蔽性、耐チッピング性、上塗り塗膜層との密着性などの性能の向上を目的として行われる。また中塗り塗膜層は、最終の光輝性複層塗膜を平滑にし、外観の良好な塗膜とするための下地としても機能する。中塗り塗膜層はさらに、電着塗膜層と上塗り塗膜層との間のバインダーとなり、かつ、塗膜表面を通じて到達する紫外線や水などによる塗膜の劣化に対する耐候性を向上させることができる。
【0081】
中塗り塗膜層を形成することができる中塗り塗料組成物としては、特に制限はなく、当業者によく知られている溶剤型塗料のほか、水性塗料、粉体塗料またはハイソリッド型塗料なども用いることができる。具体的には、アルキッド/メラミン系樹脂またはオイルフリーポリエステル/メラミン系樹脂塗料、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂および/またはイソシアネート硬化剤とを組み合わせた中塗り塗料組成物など、従来公知の中塗り塗料組成物の中から適宜選択して用いることができる。
【0082】
中塗り塗膜層の形成方法は、従来公知の方法の中から適当な方法を任意に選択することができる。また、本発明では、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料としたグレー系中塗り塗料組成物や、上塗り塗膜層との明度および色相を合わせたセットグレーや各種の着色顔料を組み合わせた、いわゆるカラー中塗り塗料組成物を用いることができる。これらのカラー中塗り塗料組成物は、中塗り塗膜層と上塗り塗膜層との複合色を発現させ、意匠性をさらに高めることができる。また、これらの中塗り塗料組成物に、アルミニウム粉、マイカ粉などの扁平顔料を添加してもよい。さらに、中塗り塗料組成物には、塗料に通常添加することのできる添加剤、例えば、表面調整剤、酸化防止剤、消泡剤などを配合してもよい。中塗り塗膜層の乾燥膜厚は、20〜100μmが好ましく、より好ましくは30〜50μmである。
【0083】
中塗り塗膜層は、被塗物または電着塗膜の上に塗装された後、未硬化の状態でも用いることができ、また硬化させた状態で用いることもできる。上記中塗り塗膜を硬化させる場合には、硬化温度は100〜180℃、好ましくは120〜160℃に設定することで高い架橋度の硬化塗膜が得られる。上限を超えると、塗膜が固く脆くなり、下限以下では硬化が充分でない。硬化時間は硬化温度により変化するが、120〜160℃で10〜30分が適当である。
【0084】
ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物の塗装
本発明の方法においては、上記被塗物上に、ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をこの順でウェットオンウェットで塗装し、次いでこれらの塗膜を同時に硬化させる、2コート1ベークの方法で塗膜形成を行うことが好ましい。また、上記被塗物上に、上記ベース塗料組成物を塗装して硬化させた後にクリヤー塗料組成物を塗装して硬化させる、2コート2ベーク塗装方法にも適用できる。
【0085】
上記ベース塗料組成物の塗装方法は、例えば、自動車車体などに塗装する場合には、意匠性を高めるためにエアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装する方法、あるいは、エアー静電スプレー塗装と、通称「μμ(マイクロマイクロ)ベル」、「μ(マイクロ)ベル」または「メタベル」などと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法であることが好ましい。
【0086】
上記ベース塗料組成物の塗布により形成されるベース塗膜の乾燥膜厚は所望の用途により変化するが、多くの場合、下限5μm、上限30μmであることが好ましい。5μm未満であると、下地が隠蔽できず膜切れが発生するおそれがある。30μmを超えると、塗装時に流れなどの不具合が生じるおそれがある。
【0087】
上記2コート1ベークにより複層塗膜を形成する場合においては、上記ベース塗料組成物を塗装した後、加熱硬化させることなく、クリヤー塗料組成物を塗装する工程に移る。この場合において、必要に応じて、クリヤー塗料組成物を塗装する前に、加熱硬化(焼付け)処理で用いられる温度より低い温度、例えば40〜100℃で1〜10分間加熱して水分などの溶媒を揮散させる、プレヒート工程を行ってもよい。
【0088】
上記クリヤー塗料組成物の塗装方法としては、上記ベース塗料組成物と同様に、上述の回転霧化式の静電塗装機により塗装する方法が好ましい。上記クリヤー塗料組成物により形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に、下限20μm、上限70μmが好ましい。20μm未満であると、下地の凹凸の隠蔽が不充分であるおそれがある。70μmを超えると、塗装時にワキあるいはタレなどの不具合が生じるおそれがある。上記下限は25μmであることがより好ましく、上記上限は60μmであることがより好ましい。
【0089】
2コート1ベーク法においては上記ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を塗装した後、これらの未硬化の塗膜を硬化させる。硬化温度は、下限100℃、上限180℃であることが好ましい。100℃未満であると、硬化が不充分となるおそれがある。180℃を超えると、塗膜が固く脆くなるおそれがある。高い架橋度の硬化塗膜を得られる点で、下限は120℃であることがより好ましく、上限は160℃であることがより好ましい。硬化時間は硬化温度により変化するが、120〜160℃の場合、10〜30分が好ましい。
【0090】
また2コート2ベークにより複層塗膜を形成する場合は、上記ベース塗料組成物を塗装した後、例えば120〜160℃で10〜30分間加熱して硬化させ、次いでクリヤー塗料組成物を上記と同様に塗装した後に、例えば120〜160℃で10〜30分間加熱して、硬化させるのが好ましい。
【0091】
本発明の複層塗膜形成方法により形成される積層塗膜の膜厚は、下限30μm、上限300μmであることが好ましい。30μm未満であると、膜自体の強度が低下するおそれがあり、300μmを超えると、冷熱サイクルなどの膜物性が低下するおそれがある。上記下限は50μmであることがより好ましく、上記上限は250μmであることがより好ましい。
【実施例】
【0092】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0093】
製造例1:アクリル樹脂エマルション(Em−1)の調製
反応容器にイオン交換水135.4部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)1.1部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、アクリル酸メチル35.73部、メタクリル酸ブチル8.57部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5.7部、スチレン20部、アクアロンHS−10が0.5部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−ノニルフェノキシ]エチル)−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%水溶液)0.5部およびイオン交換水49.7部からなる第1段目のエチレン性不飽和モノマー混合物と、過硫酸アンモニウム0.21部およびイオン交換水8.6部からなる開始剤溶液とを、2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
【0094】
さらに、この反応容器に、メタクリル酸ブチル25.3部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2.4部、メタクリル酸2.3部、アクアロンHS−10が0.1部およびイオン交換水24.7部からなる第2段目のエチレン性不飽和モノマー混合物と、過硫酸アンモニウム0.08部およびイオン交換水7.4部からなる開始剤溶液とを、80℃で0.5時間にわたり並行して滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0095】
次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、イオン交換水2.14部およびジメチルアミノエタノール0.24部を加えてpH6.5に調整し、平均粒子径80nm、不揮発分30%、固形分酸価15mgKOH/g、水酸基価35mgKOH/gのアクリル樹脂エマルション(Em−1)を得た。
【0096】
製造例2:水溶性アクリル樹脂の調製
反応容器にジプロピレングリコールメチルエーテル23.89部およびプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル11.6部、メタクリル酸6.9部と、ジプロピレングリコールメチルエーテル10.0部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液とを、3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。
【0097】
次に、ジプロピレングリコールメチルエーテル5.0部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0098】
さらに、脱溶剤装置を用いて、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.11部留去した後、イオン交換水204部およびジメチルエタノールアミン7.1部を加えて水溶性アクリル樹脂を得た。得られたアクリル樹脂溶液の不揮発分は30%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/gであった。
【0099】
製造例3:疎水性メラミン樹脂水分散体(MFD−1)の調製
反応容器にMFDG(メチルプロピレンジグリコール、日本乳化剤社製)50部を添加し、窒素気流中で撹拌しながら130℃に昇温した。次いで、アクリル酸14.77部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル32.48部、アクリル酸ブチル47.75部、MSD−100(α−メチルスチレンダイマー、三井化学社製)5部からなるエチレン性不飽和モノマー混合物と、カヤエステルO(tert−ブチルパーオクタノエート、化薬アクゾ社製)13部およびMFDG10部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後に0.5時間置いて、更にカヤエステルOが0.5部およびMFDGが5部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。次いで、50℃まで冷却し、不揮発分60%、固形分酸価110mgKOH/g、水酸基価140mgKOH/g、数平均分子量(Mn)=3000のアクリル樹脂(Ac1)を得た。
【0100】
得られたアクリル樹脂(Ac1)の178.5部を、ユーバン20SB(完全ブチル化メラミン樹脂、日本サイテック社製、不揮発分75%、Sp=9.6)800部と混合し、80℃で4時間撹拌した。その後、ジメチルエタノールアミンを18.3部加えて均一に分散し、40℃まで冷却した後、イオン交換水1003.2部を1時間で滴下することにより疎水性メラミン樹脂水分散体(MFD−1)を得た。この水分散体中の樹脂粒子の粒径は80nmであった。
【0101】
実施例1
ベース塗料組成物の調製
塗膜形成性樹脂として製造例1のアクリル樹脂エマルション(Em−1)を153.3部、10質量%ジメチルエタノールアミン水溶液5部、製造例2の水溶性アクリル樹脂を16.7部、プライムポールPX−1000(三洋化成工業社製、2官能ポリエーテルポリオール、数平均分子量1000、水酸基価278mgKOH/g、水トレランス無限大)10部、製造例3の疎水性メラミン樹脂水分散体(MFD−1)を100部、そして
着色顔料(A)として、R−5000U3(コロンビア社製、カーボンブラック)1.8部、R−6436(BASF社製、ペリレンマルーン顔料)2.8部およびバイオレットBL(クラリアント社製、ジオキサジンバイオレット顔料)1.5部、
アルミニウム顔料(B)として、MH−8801(旭化成工業社製、アルミニウム顔料ペースト)を固形分質量で2.9部、
有色光輝性顔料(C)として、上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)(上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でるマンセル色相(H)は3RPであった)を0位置とした場合、
−20〜−30の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)である、Xilarric T60-23WNT(MERCK社製)2.3部、
+20〜+30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)である、Iriodin 303WNT(MERCK社製)2.3部、
を配合した。さらに、エチレングリコールモノヘキシルエーテル30部を混合撹拌し、10質量%ジメチルアミノエタノール水溶液を加えてpH=8.5に調整し、均一に分散し、水性ベース塗料組成物を得た。得られた水性ベース塗料組成物の塗料粘度が20℃、No.4フォードカップで60秒となるようにイオン交換水を加えて希釈し、ベース塗料組成物を得た。
【0102】
なお、着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)の測定は、ミノルタ社製多角度分光光度計「CR−400」で測定した。また、有色光輝性顔料(C)自体の色相(H)も、上記多角度分光光度計「CR−400」で測定した。また有色光輝性顔料(C)である鱗片状光輝性顔料(c1)、(c2)、(c3)、(c4)の、着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)を0位置とした場合における、左回り−50および右回り+50で表示した色相範囲の値は、X−Rite社製多角度分光光度計「MA−68 II」を用いて測定した。
【0103】
複層塗膜の形成
ダル鋼板(長さ300mm、幅100mmおよび厚さ0.8mm)をリン酸亜鉛処理剤(「サーフダインSD2000」、日本ペイント社製)を使用して化成処理した後、カチオン電着塗料(「パワーニクス PN 310」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が25μmとなるように電着塗装した。次いで、160℃で30分間焼き付けた後、中塗り塗料として、ポリエステル/メラミン系グレー中塗り塗料(「オルガ P−30」、日本ペイント社製)を酢酸エチル/ソルベッソ100/ブチルジグリコールアセテート=1/1/1(質量比)を用いて、フォードカップNo.4による粘度が30秒となるように調整し、回転式静電塗装機を用いて中塗り塗装を行い、140℃で30分間の条件で焼き付け乾燥し、平均乾燥膜厚30μmの中塗り塗膜層を形成した。
【0104】
さらに、中塗り塗膜層の上に、上記ベース塗料組成物を平均乾燥膜厚が15μmになるようにスプレー塗装した。塗装は静電塗装機(「Auto REA」、ABBインダストリー社製)を用い、霧化圧2.0kg/cmで行った。塗装中のブースの雰囲気は温度25℃、湿度75%に保持した。塗装後3分間セッティングし、80℃で5分間プレヒートした後、その上にウェットオンウェットで、アクリル/メラミン樹脂系クリヤー塗料組成物(酸エポキシ硬化型アクリル樹脂系クリヤー塗料組成物、「マックフローO−1810」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が35μmになるようにスプレー塗装し、室温で7分間セッティングし、140℃の温度で30分間焼き付けて、2コート1ベーク(2C1B)により複層塗膜を形成した。得られた複層塗膜のマンセル値(H)を、ミノルタ社製多角度分光光度計「CR−400」で測定したところ、3RPであった。
【0105】
実施例2および比較例1〜4
有色光輝性顔料(C)を表1に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様にベース塗料組成物を調製した。次いで、得られたベース塗料組成物を用いて、実施例1と同様に複層塗膜を形成した。
また、実施例2および比較例1〜4において、着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)の測定、複層塗膜のマンセル値(H)の測定、有色光輝性顔料(C)である鱗片状光輝性顔料(c1)、(c2)、(c3)、(c4)および他の鱗片状光輝性顔料の色相(H)および色相範囲の測定も、実施例1と同様に測定した。
【0106】
上記実施例および比較例により得られた複層塗膜を用いて、下記評価を行った。
【0107】
補色の粒子感の有無の評価
図3に示すとおり、およそ入射角15°:受光角−5°(ハイライト)の位置で、目視により評価塗膜を観察した。このハイライト位置において、ベース色である紫色(パープル)の塗膜中における、ブルー色(青色)およびゴールド色(黄色)という補色関係にある2色の光の粒子両方が視認できるか否かの評価を行った。
○:粒子感がある
×:粒子感がない
【0108】
ゴールド色の粒子感の強さ
上記ハイライトの位置において、ゴールド色(黄色)の光の粒子を認識できる強さについて、目視により、以下の基準で評価した。

○:ゴールド色(黄色)の光の粒子を強く認識できる。
○△:ゴールド色(黄色)の光の粒子を認識できる。
△:ゴールド色(黄色)の光の粒子を僅かに認識できる。
×:ゴールド色(黄色)の光の粒子を認識することができない。
【0109】
ブルー色の粒子感の強さ
上記ハイライトの位置において、ブルー色(青色)の光の粒子を認識できる強さについて、目視により、以下の基準で評価した。

○:ブルー色(青色)の光の粒子を強く認識できる。
○△:ブルー色(青色)の光の粒子を認識できる。
△:ブルー色(青色)の光の粒子を僅かに認識できる。
×:ブルー色(青色)の光の粒子を認識することができない。
【0110】
粒子感の強さのレベル
上記ハイライトの位置において、ブルー色(青色)およびゴールド色(黄色)の2色の光の粒子を認識できる強さについて、目視により総合的に以下の基準で評価した。なお下記基準において4以上であると良好であると判断した。

5:ブルー色(青色)およびゴールド色(黄色)の2色の光の粒子をはっきり認識できる。
4:ブルー色(青色)およびゴールド色(黄色)の2色の光の粒子を認識できる。
3:ブルー色(青色)およびゴールド色(黄色)の2色のうち、1色のみの光の粒子を認識できる。
2:ブルー色(青色)およびゴールド色(黄色)の2色のうち、1色のみの光の粒子を僅かに認識できる。
1:ブルー色(青色)およびゴールド色(黄色)の2色のうち、何れの光の粒子も、認識することができない。
【0111】
【表1】

【0112】
上記表に示されるとおり、実施例により得られた複層塗膜は、ハイライト位置において、パープル色(紫色)のベース色中に、ゴールド色(黄色)およびブルー色(青色)両方の、キラキラとした光が認識できる、とても綺麗な塗膜であった。また実施例における複層塗膜においては、ゴールド色(黄色)を呈する鱗片状光輝性およびブルー色(青色)を呈する鱗片状光輝性の量は何れもごく少量であるため、ベース色であるパープル色(紫色)の明度を低下させるといった不具合は生じなかった。
【0113】
比較例1は、上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)を0位置とした場合において、有色光輝性顔料(C)として、−20〜−30の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)と、+20〜+30の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)とを組み合わせた実験例である。この実験例においては、互いに補色関係にある色相を有する鱗片状光輝性顔料として、干渉色によって色相を呈する顔料同士を用いている。そのため、互いの鱗片状光輝性顔料によって呈される色が打ち消しあってしまい、特にブルー色(青色)の粒子状の光を認識することができない塗膜となった。
【0114】
比較例2は、上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)を0位置とした場合において、有色光輝性顔料(C)として、−20〜−30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)と、+20〜+30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)とを組み合わせた実験例である。この実験例においては、互いに補色関係にある色相を有する鱗片状光輝性顔料として、反射色によって色相を呈する顔料同士を用いている。そのため、互いの鱗片状光輝性顔料によって呈される色が打ち消しあってしまい、特にブルー色(青色)の粒子状の光を認識することができない塗膜となった。
【0115】
比較例3は、上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)を0位置とした場合において、有色光輝性顔料(C)として、+20〜+30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)と、−31〜−50の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料とを組み合わせた実験例である。この実験例においては、それぞれの顔料が有する色相が補色関係ではない鱗片状光輝性顔料を用いている。そしてこの実験例においては、パープル色(紫色)のベース色に近い色相を有する鱗片状光輝性顔料が有する粒子状の光を認識することができず、2色の粒子状の光を認識することができない塗膜となった。
【0116】
比較例4は、上記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)を0位置とした場合において、有色光輝性顔料(C)として、−20〜−30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)と、0〜+19の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料とを組み合わせた実験例である。この実験例においては、それぞれの顔料が有する色相が補色関係ではない鱗片状光輝性顔料を用いている。そしてこの実験例においては、パープル色(紫色)のベース色に近い色相を有する鱗片状光輝性顔料が有する粒子状の光を認識することができず、2色の粒子状の光を認識することができない塗膜となった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の複層塗膜形成方法によって得られる複層塗膜は、パープル(紫色)のベース色の中に、補色関係にある、ゴールド色のキラキラした光、およびブルー色のキラキラした光の両方を視認できるという、独特な意匠を有することを特徴とする。本発明の方法を、自動車車体および部品などの塗装に適用することにより、鮮やかな塗膜を形成することができ、独自の意匠を付与することができるという利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に、着色顔料(A)、アルミニウム顔料(B)および、少なくとも2種の光輝性顔料から構成される有色光輝性顔料(C)、を含むベース塗膜を形成し、更にクリヤー塗膜を形成する、マンセル表色系の色相(H)で7.5P〜10RPである複層塗膜の形成方法であって、
前記有色光輝性顔料(C)を構成する光輝性顔料は、干渉色または反射色を有する鱗片状光輝性顔料であり、且つ、前記着色顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)が奏でる色相(H)をマンセル色相環100の基準(0位置)とし、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、−20〜−30の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)および+20〜+30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)を、それぞれ少なくとも1種以上組み合わせたもの、または、
−20〜−30の色相範囲にある反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)および+20〜+30の色相範囲にある干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)を、それぞれ少なくとも1種以上組み合わせたもの、である、
複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c1)と反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c2)との質量比(c1)/(c2)、または反射色を有する鱗片状光輝性顔料(c3)と干渉色を有する鱗片状光輝性顔料(c4)との質量比(c3)/(c4)は、3/7〜7/3の範囲内である、請求項1記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記着色顔料(A)と前記有色光輝性顔料(C)との質量比(A)/(C)は、2/8〜6/4の範囲内である、請求項1または2記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記着色顔料(A)と前記アルミニウム顔料(B)との質量比(A)/(B)は、5/5〜8/2の範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれかに記載の複層塗膜の形成方法により得られる複層塗膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−61451(P2012−61451A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209738(P2010−209738)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】