説明

複数のクレーンを用いた吊り上げ方法及びそれに用いる吊り上げ用治具

【課題】3台以上の複数のクレーンで1つの被吊り上げ体を安全に吊り上げできる吊り上げ方法を提供する。
【解決手段】少なくも3台のクレーンを、少なくとも一方の組が2台のクレーンの組合せを少なくとも1つ持つように2組に分け、2台のクレーンの組合せにおいては、一方のクレーンの一方のワイヤー21−1と他方のクレーンの一方のワイヤー31−1とを、それぞれ対応する被掛合部を経由させたうえで接続すると共に、一方のクレーンの他方のワイヤー21−2と他方のクレーンの他方のワイヤー31−2とを、それぞれ対応する被掛合部を経由させたうえで接続する。これにより、吊り上げに際し、一方のクレーンの一方のワイヤー21−1が受ける荷重と他方のクレーンの一方のワイヤー31−1が受ける荷重及び、一方のクレーンの他方のワイヤー21−2が受ける荷重と他方のクレーンの他方のワイヤー31−2が受ける荷重とが等価になるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷物、構造物等を複数のクレーンを用いて吊り上げる方法及び吊り上げ用治具に関し、特に、大型、大重量の構造物を吊り上げるのに適した方法及び治具に関する。
【背景技術】
【0002】
貨物港における貨物の荷揚げや荷積みには、通常、クレーンが用いられる。また、大型構造物の製造場、例えば造船所においても、構造物の吊り上げにはクレーンが用いられる。クレーンは、ジブクレーン、門形クレーン、橋形クレーン、天井クレーン等、様々なタイプのものがあり、その吊り上げ能力も数トン〜千トン以上と様々である。
【0003】
クレーンは、通常、1台で1つの物を吊り上げるように使用される。しかしながら、製造場等の吊り上げ現場によっては、設置されているクレーンの能力を越えるような重量を持つ構造物の吊り上げが要求される場合がある。このような要求に対し、もし、吊り上げ現場に2台のクレーンが設置されている場合には、これら2台のクレーンで荷重を分担しながら吊り上げを行うことが考えられる。
【0004】
例えば、理論上は、能力500トンのクレーン2台で、重量千トンの構造物を吊り上げることができる。但し、2台のクレーンは別のオペレータにより運転されるので、1つの構造物を2台のクレーンで吊り上げる場合、2台のクレーンの吊り上げ速度に差が生じないように留意する必要がある。これは、上記の例の吊り上げの場合、吊り上げ速度の早い方に能力の2倍の荷重負担がかかることになり、吊り下げの場合には、吊り下げ速度の遅い方に能力の2倍の荷重負担がかかることになるからである。このため、吊り上げ状態を監視する作業指示者が置かれ、2台のクレーンのオペレータはそれぞれこの作業指示者の指示のもとにクレーンを運転する。加えて、クレーンに設置されている吊り上げ/吊り下げ速度計や荷重計の信号を用いて吊り上げ/吊り下げ速度あるいは荷重にリミットをかけることが行われる。つまり、吊り上げ/吊り下げ速度あるいは荷重がリミットを越えると、クレーンの運転を自動停止させる。
【0005】
ところが、最近の大型の船舶を対象とした造船所では、大型のクレーンを2台以上、例えば3台備える場合があるが、3台のクレーンで1つの構造物を吊り上げるようなことは行われていない。これは以下の理由による。なお、以降の説明においては「吊り上げ」という表現のみを用いるが、吊り下げの場合も同じことであり、以降の説明においては「吊り上げ」は吊り下げの意味も含むものとする。
【0006】
仮に、重量2000トンの1つの構造物を能力700トンの3台のクレーンで吊り上げようとする場合、図8に示すような吊り上げ形態を採用することが考えられる。図8において、3台の各クレーン(図示せず)に連結されたワイヤー200、300、400に接続される天秤210、310、410にそれぞれ2つのフック220、320、420を設ける。これら合計6個のフックに対応させて構造物100には6箇所にピース110を設け、対応し合うフックとピースの間をワイヤーで結ぶ。その際、ピース110の設置箇所は構造物100の形状、重心等を考慮して決定する必要がある。しかしながら、構造物100の形状は、図示のように直方体形状であるとは限らず、複雑な形状を持つのが普通である。構造物100の形状が複雑であると、重心位置の計算も複雑となり、ピース110の設置箇所の設計も難しくなる。
【0007】
さて、3台のクレーンのオペレータはそれぞれ、構造物100の吊り上げ状態を監視しながら指示を出す作業指示者からの指示に基づいてクレーンの運転を行うことになる。ここで、運転中に、例えば中央のクレーンの吊り上げ速度が両隣のクレーンの吊り上げ速度より早くなると、中央のクレーン(ワイヤー300)には、構造物100の重量2000トンの荷重がそのまま作用することになる。つまり、中央のクレーン(ワイヤー300)には能力の3倍に近い荷重が作用することになる。この値は、上記2台の例の2倍に比べてはるかに大きく、リミットをかけることでは対応しきれずクレーン故障、ワイヤー切断というような非常に危険な状態となるおそれがある。
【0008】
このような観点から、大型の造船を考慮した場合には、能力の大きいクレーンを設置することが必要となる。しかし、ここで仮に能力700トンのクレーン3台で重量2000トンの構造物を吊り上げることができるのであれば、能力2000トンのクレーンを1台設置するより、能力700トンのクレーンを3台設置する方が生産効率向上の点で望ましい。これは、能力2000トンのクレーンであっても能力一杯の状態で使用される時間は少ないので、能力2000トンのクレーン1台で作業を行うよりも、必要に応じて3台のクレーンを別の作業に並行従事させることのできる形態の方がはるかに生産効率の点で優れていることによる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、3台以上の複数のクレーンで1つの被吊り上げ体を安全に吊り上げできる吊り上げ方法及びそのための治具を提供することにある。
【0010】
本発明の他の課題は、上記課題を複雑な制御装置を用いることなく実現できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、少なくとも3台のクレーンを用いて被吊り上げ体を吊り上げる方法であって、前記少なくとも3台のクレーンは、それぞれ前記被吊り上げ体を少なくとも2箇所でそれぞれの箇所に設置された被掛合部を介して少なくとも2本のワイヤーで吊り上げを行うものであり、前記少なくも3台のクレーンを、少なくとも一方の組が2台のクレーンの組合せを少なくとも1つ持つように2組に分け、前記2台のクレーンの組合せにおいては、一方のクレーンの一方のワイヤーと他方のクレーンの一方のワイヤーとを、それぞれ対応する前記被掛合部を経由させたうえで接続すると共に、前記一方のクレーンの他方のワイヤーと前記他方のクレーンの他方のワイヤーとを、それぞれ対応する前記被掛合部を経由させたうえで接続することにより、吊り上げに際し、前記一方のクレーンの一方のワイヤーが受ける荷重と前記他方のクレーンの一方のワイヤーが受ける荷重及び、前記一方のクレーンの他方のワイヤーが受ける荷重と前記他方のクレーンの他方のワイヤーが受ける荷重とが等価になるようにしたことを特徴とする吊り上げ方法が提供される。
【0012】
本吊り上げ方法においては、前記被掛合部は、これに対応する前記ワイヤーが掛け回される滑車を含むことが好ましい。
【0013】
本発明による吊り上げ方法においてはまた、前記少なくとも3台のクレーンが、それぞれ吊り上げ用のフックを少なくとも2つ備えて、各フックに複数のワイヤーが掛けられ、前記被吊り上げ体には、前記被掛合部に対応する箇所にそれぞれ前記複数のワイヤーに対応する複数組のワイヤー掛け用ピース部が設置されている場合、前記複数のワイヤーと前記複数組のワイヤー掛け用ピース部との間に、複数の滑車ブロックを介在させると共に、1つの滑車ブロックからのワイヤーを前記滑車に掛け回すことで前記被掛合部毎に均等吊りを行うようにしても良い。
【0014】
本発明による吊り上げ方法においては更に、前記一方のクレーンの一方のワイヤーに対応する前記被掛合部と前記他方のクレーンの一方のワイヤーに対応する前記被掛合部との間、あるいは前記一方のクレーンの他方のワイヤーに対応する前記被掛合部と前記他方のクレーンの他方のワイヤーに対応する前記被掛合部との間に、ワイヤーの延在を妨げる障害物がある場合、該障害物に貫通穴を設けてワイヤーを通すようにされる。
【0015】
本発明によればまた、少なくとも3台のクレーンを用いて被吊り上げ体を吊り上げる際にクレーンと被吊り上げ体との間に設けられる吊り上げ用治具であり、前記少なくとも3台のクレーンは、それぞれ前記被吊り上げ体を少なくとも2箇所でそれぞれの箇所に設置された被掛合部を介して吊り上げを行い、前記少なくも3台のクレーンはまた、少なくとも一方の組が2台のクレーンの組合せを少なくとも1つ持つように2組に分けられている形態で、当該2台のクレーンの組合せと被吊り上げ体との間に設けられる吊り上げ用治具であって、前記被掛合部と、前記2台のクレーンの組合せにおける各クレーンに連結され、前記少なくとも2箇所の被掛合部に掛けられる、クレーン1台につき少なくとも2本のワイヤーとを含み、前記2台のクレーンの組合せにおける一方のクレーンの一方のワイヤーと他方のクレーンの一方のワイヤーとが、それぞれ対応する前記被掛合部を経由させたうえで接続されていると共に、前記一方のクレーンの他方のワイヤーと前記他方のクレーンの他方のワイヤーとが、それぞれ対応する前記被掛合部を経由させたうえで接続されており、これにより、吊り上げに際し、前記一方のクレーンの一方のワイヤーが受ける荷重と前記他方のクレーンの一方のワイヤーが受ける荷重及び、前記一方のクレーンの他方のワイヤーが受ける荷重と前記他方のクレーンの他方のワイヤーが受ける荷重とが等価になるようにしたことを特徴とする吊り上げ用治具が提供される。
【0016】
本発明による吊り上げ用治具においては、前記被掛合部は、これに対応する前記ワイヤーが掛け回される滑車を含むことが好ましい。
【0017】
本発明による吊り上げ用治具においてはまた、前記少なくとも3台のクレーンがそれぞれ吊り上げ用のフックを少なくとも2つ備え、前記被吊り上げ体には前記被掛合部に対応する箇所にそれぞれ複数組のワイヤー掛け用ピース部が設置されている場合、該吊り上げ用治具は、前記複数組のワイヤー掛け用ピース部に対応するように各フックに掛けられた複数のワイヤーと、前記複数のワイヤーと前記複数組のワイヤー掛け用ピースとの間に介在するように設けられた複数の滑車ブロックとを含み、1つの滑車ブロックからのワイヤーを前記滑車に掛け回すことで前記被掛合部毎に均等吊りを行うようにしても良い。
【0018】
本発明による吊り上げ用治具は更に、前記一方のクレーンの一方のワイヤーに対応する前記被掛合部の滑車と前記他方のクレーンの一方のワイヤーに対応する前記被掛合部の滑車とを設けたバー状体と、前記一方のクレーンの他方のワイヤーに対応する前記被掛合部の滑車と前記他方のクレーンの他方のワイヤーに対応する前記被掛合部の滑車とを設けたバー状体とを含んでいても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、制御装置を含むクレーン側において改良を必要とすることなく、3台以上のクレーンでそれぞれの能力の総和に近い重量を持つ構造物を安全に吊り上げることができる。また、吊り上げに際しては、構造物の形状や重心位置の影響を受けることが無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1、図2を参照して、本発明による吊り上げ方法の原理について説明する。本発明による吊り上げ方法では、3台以上のクレーンを用いて1つの構造物等を吊り上げるが、各クレーンは独立して個別に運転可能な通常のクレーンを使用することができる。つまり、本発明による吊り上げ方法の特徴は、クレーン側というよりはむしろ、吊り上げ部位側にある。そして、クレーンの種別は特に問われないが、以下では、門形クレーンの場合について説明する。門形クレーンというのは、簡単に言えば、門形の構造体がレール上を走行可能であり、吊り上げを行う部分が門形の天井部分に沿って上記走行方向に直角な方向に走行可能であるクレーンのことである。
【0021】
図1において、ここでは3台のクレーン(図示せず)を用い、各クレーンに連結されたワイヤー10、20、30に接続される天秤11、21、31の両端側にそれぞれフック(図示せず)を設ける。つまり、1つのクレーンで構造物の2箇所を吊り上げる。
【0022】
以下では、便宜上、天秤11、21、31用のクレーンを、それぞれ1号機クレーン、2号機クレーン、3号機クレーンと呼ぶこととする。天秤11、21、31における合計6個のフックに対応させて構造物40には6箇所に被掛合部としてのピース40−1〜40−6を設け、各フックからワイヤー11−1、11−2、21−1、21−2、31−1、31−2を延ばして対応するピースに掛ける。ピースはワイヤーを接続固定したり、フックを掛けたりするためのものであるが、ワイヤーを通すための穴を持つ。本例では、図8と同様、ピース40−1〜40−6を、構造物40の長手方向に沿った側端縁に近い場所にそれぞれ3個ずつ間隔をおいて設置している。ピースの設置箇所、設置数は、構造物40の形状や重量等に応じて設計されるが、特に重心を考慮した複雑な設計は不要である。
【0023】
本例では、3台のクレーンのうち、2台、ここでは天秤21用と天秤31用の2号機クレーン、3号機クレーンが相互に荷重(負荷)を補完し合うようにしている。これは、以下のようにして実現される。天秤11からのワイヤー11−1、11−2はそれぞれピース40−1、40−2に固定するが、天秤21からのワイヤー21−1はピース40−3に固定せずにその穴を通し、天秤31からのワイヤー31−1もピース40−5に固定せずにその穴を通して互いに接続するようにしている。同様に、天秤21からのワイヤー21−2はピース40−4に固定せずにその穴を通し、天秤31からのワイヤー31−2もピース40−6に固定せずにその穴を通して互いに接続するようにしている。言い換えれば、天秤21と天秤31の一端側をピース40−3の穴とピース40−5の穴とを通した1本のワイヤーW1で接続し、天秤21と天秤31の他端側をピース40−4の穴とピース40−6の穴とを通した別の1本のワイヤーW2で接続するようにしている。
【0024】
このような吊り上げ形態によれば、例えば天秤11、21、31用の1号機クレーン、2号機クレーン、3号機クレーンがそれぞれ能力800トン(吊荷重700トン)であるとすると、最大で重量2000トンの構造物40を三分の一ずつ均等に負担しながら吊り上げることができる。これは、天秤21と天秤31との間では、ワイヤー21−1とワイヤー31−1、すなわちワイヤーW1がピース40−3及びピース40−5の穴を通して自由に移動可能であり、ワイヤー21−2とワイヤー31−2、すなわちワイヤーW2がピース40−4及びピース40−6の穴を通して自由に移動可能であることによる。つまり、ピース40−3とピース40−5とワイヤーW1との組合せは、ワイヤー21−1とワイヤー31−1に作用する荷重が等価になるようにし、ピース40−4とピース40−6とワイヤーW2との組合せは、ワイヤー21−2とワイヤー31−2に作用する荷重が等価になるようにする、いわばイコライザーの役目を果たすからである。勿論、4本のワイヤー21−1、21−2、31−1、31−2に作用する荷重も等価である。
【0025】
このようなイコライザーの作用により、本吊り上げ形態においては、構造物40の形状が複雑であったり、重心位置が偏心したりしていてもあまり影響は受けない。
【0026】
本発明による吊り上げ方法は、複数台のクレーンの能力がすべて等しくなければならないというものではないが、2台の組合せで用いられる2台のクレーンは同じ能力であることが好ましい。図2は、本発明による吊り上げ方法の別の形態を示す。ここでも、前述のように3台のクレーンを用いる場合について示しているが、図1に示すような天秤は使用せずに、吊り上げ用のワイヤーをクレーンのフックに直接掛けるようにしている。つまり、1号機クレーンのフック13に掛けた2本のワイヤー11−1、11−2を構造物40のピース40−1、40−2に接続固定している。一方、2号機クレーンのフック23に掛けた2本のワイヤーのうちの一方のワイヤー21−1はピース40−3に固定せずにその穴を通し、3号機クレーンのフック33に掛けた2本のワイヤーのうちの一方のワイヤー31−1もピース40−5に固定せずにその穴を通して互いに接続するようにしている。同様に、フック23に掛けた2本のワイヤーのうちの他方のワイヤー21−2はピース40−4に固定せずにその穴を通し、フック33に掛けた2本のワイヤーのうちの他方のワイヤー31−2もピース40−6に固定せずにその穴を通して互いに接続するようにしている。言い換えれば、フック23とフック33との間を、ピース40−3の穴とピース40−5の穴とを通した1本のワイヤーW1で接続すると共に、ピース40−4の穴とピース40−6の穴とを通した別の1本のワイヤーW2で接続するようにしている。
【0027】
このような吊り上げ形態によっても、例えば1号機クレーン、2号機クレーン、3号機クレーンがそれぞれ能力100トン、50トン、50トンというような能力の異なる組合せで用いることができ、この場合、最大で重量200トンの構造物40を吊り上げることができる。
【0028】
図1、図2のいずれにおいても、3台のクレーンを、1台の組と2台の組の2組に分け、2台の組における2台のクレーンを相互に荷重(負荷)を補完し合うように用いている。4台以上、例えば4台のクレーンを用いる場合には、2台ずつの2組に分けてそれぞれの組の2台を図1、図2で説明した2号機、3号機クレーンの関係で用いるようにしても良いことは言うまでもない。この場合、4台のクレーン能力の総和分の重量物を吊り上げることができる。また、5台の場合について言えば、2台の組と3台の組とに分け、2台のクレーンの間、3台のクレーンの間でそれぞれイコライザーの作用が実現されるようにすれば良い。
【0029】
なお、図1、図2のいずれの形態においても、イコライザーとして作用する部分には、被掛合部として図3に示すように滑車を用いることが好ましい。図3において、ピース40−3〜40−6にそれぞれ、支持装置41−3〜41−6を介して滑車P3〜P6を設け、一方の側の滑車P3と滑車P5にワイヤーW1を掛け回し、他方の側の滑車P4と滑車P6に別のワイヤーW2を掛回すようにしている。
【0030】
以上のような形態においては、天秤21及び31と構造物40のピース40−3〜40−6との間に設けられるワイヤー21−1と31−1、つまりワイヤーW1と滑車P3、P5との組合せと、ワイヤー21−2と31−2、つまりワイヤーW2と、滑車P4、P6との組合せとをまとめて吊り上げ用治具と呼ぶことができる。
【0031】
図4は、支持装置の具体例として、ここではピース40−3に設けられる支持装置41−3の例を示している。図4において、支持装置41−3は、U字状のシャックル41−31、ワイヤー41−32、2枚の支持片41−33(一方のみ図示)を介して連結された2つの滑車41−34、41−35等からなる。シャックル41−31は、その一端がピース40−3に回動可能に連結され、他端には滑車41−34に掛け回したワイヤー41−32が掛けられている。滑車41−35にはワイヤーW1が掛けられている。このような構成によれば、滑車41−35の高さ位置はワイヤーW1の引っ張り力に応じて自由に変化する。他の支持装置41−4〜41−6もまったく同様である。
【0032】
上記のような支持装置を用いると、構造物において隣接する2つのピースの間の領域にワイヤーの存在を妨げる障害物が存在する場合に好適であり、その理由を図5を参照して説明する。
【0033】
図5は、図3に示したワイヤー21−1とワイヤー31−1との組合せについて好ましい具体例を示しており、特に、構造物40におけるピース40−3とピース40−5との間の領域にワイヤーW1の存在を妨げる障害物BHDが存在する場合について示している。また、ワイヤー1本につき、上側4組、下側4組の合計8組の滑車ブロックを用いて、いわゆる均等吊りを行うようにしている。各上側滑車ブロック、各下側滑車ブロックは、上側と下側の2個の滑車を有する。
【0034】
図5において、2号機クレーンの天秤21(図3)の一端側に設けられたフック25に4組の上側滑車ブロックUB1〜UB4を連結する。具体的には、上側滑車ブロックUB1〜UB4における上側の滑車にそれぞれワイヤーUW1〜UW4を掛け回し、これら4本のワイヤーUW1〜UW4をフック25に掛けている。一方、構造物40側においては、図3に示したピース40−3が1組を2個とする4組、合計8個のピース部で実現される。そして、4組の下側滑車ブロックLB1〜LB4における下側の滑車にそれぞれワイヤーLW1〜LW4を掛け回し、4本の各ワイヤーの両端をその下側において対応する2つのピース部に固定接続している。但し、障害物BHDに最も近い下側滑車ブロックLB4における下側の滑車に掛けられたワイヤーLW4の両端の一方(障害物BHDに近い方)は障害物BHDに最も近いピース部ではなく、支持装置41−3で支持された滑車P3に掛けるようにしている。そして、障害物BHDに最も近いピース部には、支持装置41−3(図4のシャックル41−31)を連結している。これにより、滑車P3に掛けられたワイヤーLW4は、図3で説明したワイヤーW1と見なすことができる。また、障害物BHDにはワイヤーW1を通すための貫通穴が設けられ、ワイヤーW1が通されている。貫通穴の高さ位置は、構造物40の吊り上げ時に想定されるワイヤーW1の高さ位置に合わされる。
【0035】
更に、上側滑車ブロックUB1〜UB4における下側の4個の滑車と下側滑車ブロックLB1〜LB4における上側の4個の滑車の間に1本のワイヤーMWが掛け渡される。ワイヤーMWと上側滑車ブロック及び下側滑車ブロックの各滑車との関係を詳細に説明すると、以下の通りである。図5中に矢印で示すように、ワイヤーMWは、下側滑車ブロックLB1の上側の滑車−上側滑車ブロックUB1の下側の滑車−下側滑車ブロックLB4の上側の滑車−上側滑車ブロックUB4の下側の滑車−下側滑車ブロックLB3の上側の滑車−上側滑車ブロックUB3の下側の滑車−下側滑車ブロックLB2の上側の滑車−上側滑車ブロックUB2の下側の滑車−下側滑車ブロックLB1の上側の滑車という掛合関係でエンドレスとなっている。
【0036】
以上の構成は、3号機クレーンの天秤31(図3)の一端側に設けられたフック35においてもまったく同様である。つまり、障害物BHDに最も近いワイヤーLW4´の一端が支持装置41−5の滑車P5に掛けられ、障害物BHDの貫通穴に通すようにされることにより、フック25からフック35に至る複数のワイヤーをまとめて1本のワイヤーW1と見なすことができる。そして、2号機クレーンの天秤21の反対側及び3号機クレーンの天秤31の反対側も、図5に示す構成とまったく同じとなる。
【0037】
以上の構成について考えると、上側の4本のワイヤーUW1〜UW4、下側の4本のワイヤーLW1〜LW4はそれぞれ4本1束で1本のワイヤーと見なすことができ、上側の4個の滑車ブロックと下側の4個の滑車ブロックの間も1本のワイヤーMWで連結されていると見なすことができる。従ってフック25から下側のワイヤーLW4まで1本のワイヤー(1つの吊り上げ部材)で繋がっていると見なすことができ、フック35側のものとまとめて吊り上げ用治具と見なすことができる。また、各ワイヤーの中間部及びピース部近傍に示す黒い部分CNはコネクタである。これらのコネクタCNにより上記の吊り上げ用治具を簡単に分解することができる。これは、吊り上げ作業終了後には上記の吊り上げ用治具を一体のままではなく分解して持ち運び、保管する方が都合が良いことを考慮している。加えて、ワイヤーW1を障害物BHDの貫通穴に通すためにもワイヤーは分解可能にする必要がある。いずれにしても、各ワイヤー、コネクタ、滑車ブロックは吊り上げ荷重を考慮して材料、機械的強度等が設計される。
【0038】
図6は、図5の構成の変形例を示す。この例は、障害物BHDにワイヤーW1を通すための貫通穴を設けることができない場合に適用される。図6では、バー状体50に滑車P3と滑車P5とを設け、バー状体50が障害物BHDの上方に位置する構成とすることにより、滑車P3と滑車P5及びこれらの間のワイヤーW1を障害物BHDの上方に配置するようにしている。勿論、バー状体50無しで、図5に示す滑車P3と滑車P5及びこれらの間のワイヤーW1をそのまま障害物BHDの上方に配置するようにしても良い。
【0039】
なお、図5、図6に示すような複数の滑車の組み合わせによる滑車ブロックを用いた吊り上げ用治具もまたイコライザーと呼ぶことができ、この種のイコライザー自体は様々なタイプのものが提供されている。つまり、図5、図6に示される治具は、本発明による吊り上げ方法に使用される治具の一例にすぎず、本発明による吊り上げ方法には様々な治具を用いることができる。
【0040】
また、上記の各形態は同じレール上を走行する3台の門形クレーンを想定しているので、3つの天秤11、21、31が一直線状に並んでいる。しかし、門形クレーンとは別のクレーンを用いる場合、3つの天秤の配置を、例えば図7のようにすることもできる。図7において、3台のクレーンを、1台の組と2台の組の2組に分け、2台の組における2台のクレーンに連結された天秤21´と31´とを、構造物40の長手方向に直角な方向に並べる。天秤11´からのワイヤー11−1´、11−2´はそれぞれピース40−1、40−2に固定するが、天秤21´からのワイヤー21−1´はピース40−3に固定せずにその穴を通し、天秤31´からのワイヤー31−1´もピース40−4に固定せずにその穴を通して互いに接続するようにしている。同様に、天秤21´からのワイヤー21−2´はピース40−5に固定せずにその穴を通し、天秤31´からのワイヤー31−2´もピース40−6に固定せずにその穴を通して互いに接続するようにしている。つまり、天秤21´と天秤31´の一端側をピース40−3の穴とピース40−4の穴とを通した1本のワイヤーW1で接続し、天秤21´と天秤31´の他端側をピース40−5の穴とピース40−6の穴とを通した別の1本のワイヤーW2で接続するようにしている。
【0041】
いずれにしても、3台のクレーンを用いて1つの構造物を吊り上げる場合には以下のようにして運転される。各クレーンには吊り上げ/吊り下げ速度を検出するための速度計や、ワイヤーに作用する荷重を検出する荷重計が備えられている。作業指示者から構造物の重量に応じて、各クレーンの負担荷重が指示される。各クレーンのオペレータは、荷重計を見ながら指示された負担荷重となるように運転する。勿論、クレーンに設置されている速度計や荷重計の信号を用いて吊り上げ/吊り下げ速度あるいは荷重にリミットをかけることが行われる。そして、吊り上げ/吊り下げ速度あるいは荷重がリミットを越えると、クレーンの運転を自動停止させる。ここで、万一、1台のクレーンにおいて吊り上げ/吊り下げ速度あるいは荷重がリミットを越えるようなことがあっても、このクレーンに作用する荷重は2台で並行運転する場合と同じであり、従来技術において説明した3台での並行運転のような危険性は無い。
【0042】
本発明をいくつかの好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されない。例えば、被吊り上げ体の種類によっては、吊り上げ用のピースを設けることができない場合もある。このような場合には、例えば被吊り上げ体にワイヤーを掛けまわし、このワイヤーにクレーンからのフックを掛けるようにすれば良い。また、例えば3台のクレーンがそれぞれ、被吊り上げ体を1箇所で吊り上げを行う場合であっても本発明が適用できる。つまり、1台と2台の組のうちの2台の組について1本のワイヤーで負荷を補完し合う形態とすれば良い。
【0043】
以上の説明で明らかなように、本発明の吊り上げ方法及び吊り上げ用治具によれば、3台以上のクレーンを協働して1つの構造物を安全に吊り上げるために用いることができる。勿論、本発明による吊り上げ用治具に代えて通常の吊り上げ治具を用いることで単独で別の作業に従事させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の好ましい実施の形態を、造船所に設置される門形クレーンに適用した場合について説明したが、本発明の適用範囲は造船所に限定されず、従ってクレーンも門形クレーンに限定されるものではない。また、吊り上げられるものも構造物に限らず、ワイヤーで吊り上げ可能であればどのようなものであっても良い。更に、大型のクレーンにより大重量の構造物を吊り上げるだけでなく、小型の3台以上のクレーンで1つの構造物を吊り上げる場合にも適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による吊り上げ方法の原理を説明するための図である。
【図2】図1の吊り上げ形態の変形例を説明するための図である。
【図3】図1の例の好ましい実施の形態を説明するための図である。
【図4】図3に示された滑車を支持するための支持装置の具体例を示した図である。
【図5】本発明において均等吊りを実施するための具体例を示した図である。
【図6】図5の例の変形例を示した図である。
【図7】図1の吊り上げ形態の他の変形例を説明するための図である。
【図8】1つの構造物を3台のクレーンで吊り上げを行う場合に考えられる吊り上げ方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0046】
10、20、30、11−1、11−2、21−1、21−2、31−1、31−2、W1、W2、MW ワイヤー
11、21、31 天秤
40 構造物
40−1〜40−6 ピース
41−3〜41−6 支持装置
P3〜P6 滑車
UB1〜UB4 上側滑車ブロック
LB1〜LB4 下側滑車ブロック
BHD 障害物
CN コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3台のクレーンを用いて被吊り上げ体を吊り上げる方法であって、
前記少なくとも3台のクレーンは、それぞれ前記被吊り上げ体を少なくとも2箇所でそれぞれの箇所に設置された被掛合部を介して少なくとも2本のワイヤーで吊り上げを行うものであり、
前記少なくとも3台のクレーンを、少なくとも一方の組が2台のクレーンの組合せを少なくとも1つ持つように2組に分け、
前記2台のクレーンの組合せにおいては、一方のクレーンの一方のワイヤーと他方のクレーンの一方のワイヤーとを、それぞれ対応する前記被掛合部を経由させたうえで接続すると共に、前記一方のクレーンの他方のワイヤーと前記他方のクレーンの他方のワイヤーとを、それぞれ対応する前記被掛合部を経由させたうえで接続することにより、
吊り上げに際し、前記一方のクレーンの一方のワイヤーが受ける荷重と前記他方のクレーンの一方のワイヤーが受ける荷重及び、前記一方のクレーンの他方のワイヤーが受ける荷重と前記他方のクレーンの他方のワイヤーが受ける荷重とが等価になるようにしたことを特徴とする吊り上げ方法。
【請求項2】
前記被掛合部は、これに対応する前記ワイヤーが掛け回される滑車を含むことを特徴とする請求項1に記載の吊り上げ方法。
【請求項3】
前記少なくとも3台のクレーンは、それぞれ吊り上げ用のフックを少なくとも2つ備えて、各フックに複数のワイヤーが掛けられており、
前記被吊り上げ体には、前記被掛合部に対応する箇所にそれぞれ前記複数のワイヤーに対応する複数組のワイヤー掛け用ピース部が設置されており、
前記複数のワイヤーと前記複数組のワイヤー掛け用ピース部との間に、複数の滑車ブロックを介在させると共に、1つの滑車ブロックからのワイヤーを前記滑車に掛け回すことで前記被掛合部毎に均等吊りを行うようにしたことを特徴とする請求項2に記載の吊り上げ方法。
【請求項4】
前記一方のクレーンの一方のワイヤーに対応する前記被掛合部と前記他方のクレーンの一方のワイヤーに対応する前記被掛合部との間、あるいは前記一方のクレーンの他方のワイヤーに対応する前記被掛合部と前記他方のクレーンの他方のワイヤーに対応する前記被掛合部との間に、ワイヤーの延在を妨げる障害物がある場合、該障害物に貫通穴を設けてワイヤーを通すようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の吊り上げ方法。
【請求項5】
少なくとも3台のクレーンを用いて被吊り上げ体を吊り上げる際にクレーンと被吊り上げ体との間に設けられる吊り上げ用治具であり、前記少なくとも3台のクレーンは、それぞれ前記被吊り上げ体を少なくとも2箇所でそれぞれの箇所に設置された被掛合部を介して吊り上げを行い、前記少なくとも3台のクレーンはまた、少なくとも一方の組が2台のクレーンの組合せを少なくとも1つ持つように2組に分けられている形態で、当該2台のクレーンの組合せと被吊り上げ体との間に設けられる吊り上げ用治具であって、
前記被掛合部と、
前記2台のクレーンの組合せにおける各クレーンに連結され、前記少なくとも2箇所の被掛合部に掛けられる、クレーン1台につき少なくとも2本のワイヤーとを含み、
前記2台のクレーンの組合せにおける一方のクレーンの一方のワイヤーと他方のクレーンの一方のワイヤーとが、それぞれ対応する前記被掛合部を経由させたうえで接続されていると共に、前記一方のクレーンの他方のワイヤーと前記他方のクレーンの他方のワイヤーとが、それぞれ対応する前記被掛合部を経由させたうえで接続されており、
これにより、吊り上げに際し、前記一方のクレーンの一方のワイヤーが受ける荷重と前記他方のクレーンの一方のワイヤーが受ける荷重及び、前記一方のクレーンの他方のワイヤーが受ける荷重と前記他方のクレーンの他方のワイヤーが受ける荷重とが等価になるようにしたことを特徴とする吊り上げ用治具。
【請求項6】
前記被掛合部は、これに対応する前記ワイヤーが掛け回される滑車を含むことを特徴とする請求項5に記載の吊り上げ用治具。
【請求項7】
前記少なくとも3台のクレーンはそれぞれ吊り上げ用のフックを少なくとも2つ備え、前記被吊り上げ体には前記被掛合部に対応する箇所にそれぞれ複数組のワイヤー掛け用ピース部が設置されており、
該吊り上げ用治具は、前記複数組のワイヤー掛け用ピース部に対応するように各フックに掛けられた複数のワイヤーと、前記複数のワイヤーと前記複数組のワイヤー掛け用ピースとの間に介在するように設けられた複数の滑車ブロックとを含み、
1つの滑車ブロックからのワイヤーを前記滑車に掛け回すことで前記被掛合部毎に均等吊りを行うようにしたことを特徴とする請求項6に記載の吊り上げ用治具。
【請求項8】
前記吊り上げ用治具は更に、前記一方のクレーンの一方のワイヤーに対応する前記被掛合部の滑車と前記他方のクレーンの一方のワイヤーに対応する前記被掛合部の滑車とを設けたバー状体と、前記一方のクレーンの他方のワイヤーに対応する前記被掛合部の滑車と前記他方のクレーンの他方のワイヤーに対応する前記被掛合部の滑車とを設けたバー状体とを含むことを特徴とする請求項6または7に記載の吊り上げ用治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−119156(P2007−119156A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312463(P2005−312463)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(593172223)今治造船株式会社 (15)
【Fターム(参考)】