説明

複数の薄層からなる積層体が設けられたグレージング

【課題】太陽光に作用する薄層多層被覆膜が設けられ、グレージング機能を有する透明基板を提供する。
【解決手段】1つの誘電層を有する2つの透明層をそれぞれ両側に配置した、好適にはニオブ、タンタル、モリブデンおよびジルコニウムからなる群に属す金属に基づく、特に少なくとも1つの金属は部分的に又は完全に窒化されている、少なくとも2つの吸収性の機能層を有する薄層多層被覆膜が設けられた、太陽光に作用するグレージング機能を有する、特に建物および自動車分野で適用される透明基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽放射線に作用する複数の薄膜多層被覆膜が設けられたグレージング、特に断熱および/又は太陽光保護を目的とするグレージングに関する。
【0002】
また、本発明は、「カーテンウォール」と呼ばれる建物壁被覆パネルの一部を形成するように、ひとたび不透明にされると窓グレージングと組み合わせて、すべてガラスで作製された建物の外面の提供を可能にするタイプのグレージングに関する。
【0003】
このタイプのグレージングは、一方では建物の断熱を改良するために、そして他方では建物の中に入り込む太陽放射の量を制限するため(言い換えれば、温室効果を制限するため)に建物部門で長年用いられてきた。そして、興味のある前記放射は、紫外線(約290nm相当の波長)から近赤外(約2500nm相当の波長)までおよび赤外熱放射(約2500nm〜50μmの波長を有する)まで幅がある光スペクトルを含む太陽放射である。
【0004】
第1の解決策は、望ましい特性を得るためにガラスの組成を変えることにある。しかしながら、この解決策は、ガラス組成を変えるためにガラス製造加熱炉をあらかじめ空にすることが必要であり、費用がかかり且つ多くの時間を要するため、実際的でも経済的でもないことが判明する。それゆえ、ガラスの少なくとも1つの面に1つ以上の薄膜を堆積させる解決策を用いることが好適である。多層被覆膜において、複数の層のうち少なくとも2つの異なる種類の層は、多層被覆膜に実質的にその熱的特性の全てを与える機能層と主要な役割が機能層に化学的および/又は機械的保護を与えることである、通常透明誘電材料で作製される保護層とに区別され得る。
【0005】
しかしながら、前記ガラスの特定の用途では、この材料の特定の等級が必要となる。それゆえ、建築および自動車分野では、強化ガラス(「安全ガラス」)、ガラスに良好な機械的強度を与える強化又は強化工程を用いることが望ましいかあるいは必要でさえある。残念なことに、強化ガラスは切断することができずそしてそれゆえにガラスにとって強化又は強化工程の前にその最終形状および寸法を有していることが必要である。ガラスの強化は、ガラスを高温(700℃近く)への加熱、次いで急速に温度低下させる(それによってガラス内に機械的応力を生成させる)ことによって行われるため、強化又は強化工程の前にガラスに堆積した薄層はそのような処理に通常耐えられず且つその光学的および/又は熱的特性を失う。さらに、すでに強化されたガラスに複数の薄膜を堆積する前記解決策は、物流問題を引き起こし工業的に実行可能ではない。
【0006】
ガラスにしばしば求められる他の特性は、ガラスに湾曲した又は曲がった形状を与えるために、加工されるように熱処理に耐え得ることであり、その結果このガラスは「曲げ可能」と呼ばれる。
それゆえ、解決されるべき1つの技術的問題は、多層薄膜が堆積されているガラスが強化および/又は曲げられるときに特性が低下しない多層被覆薄膜を開発することである。言い換えれば、多層薄膜は「強化可能」で且つ「曲げ可能」でなければならない。特に、低下してはならない薄膜の特性は、太陽放射ろ過性能および色と光透過強度のような光学的特性である。
【0007】
解決策は、すでに比較的簡単な多層被覆膜の形態で提案されてきた。建築用太陽光保護グレージングの1つの例がヨーロッパ特許第0511901号およびヨーロッパ特許第第0678483号に示され、これは、太陽放射ろ過のために、任意的に窒化されたニッケル−クロム合金で作製された、又はステンレス鋼で作製されたあるいはタンタルで作製された複数の層の機能層を有し、そしてこれらはSnO、TiO又はTaのような金属酸化物で作製された誘電体からなる2つの層の間に設置される。しかしながら、そのようなグレージングは、機能層を取り囲んでいる酸化物層が曲げ又は強化の間にグレージング全体としての光透過率および外観の変化を伴う酸化を防止できないため、正確には「曲げ可能」又は「強化可能」ではない。
【0008】
さらに最近、国際特許公開第2001−21540号では、金属(Nb、Ta、Zr)で作製された又はこの金属の窒化物で作製された機能層、および窒化又は酸窒化アルミニウムおよび/又は窒化又は酸窒化ケイ素で作製された上塗り層からなる薄膜多層被覆膜が設けられた透明基板を提案している。この解決策は、多層被覆膜が「曲げ可能」、「強化可能」であり且つ機械的に強く、そして良好な光学的特性を有しているため比較的満足のいくものである。しかしながら、光透過率Tを低下させることが望ましい場合、特に建物の中で光反射を増加させる欠点を有する機能層の厚さを増大させることが必要である。外が暗いとき(又は夜に)は、建物の中では多層被覆薄膜のみを、その結果比較的強い且つ見栄えがしない、黄色/オレンジ色が優勢の色彩を呈するグレージングが見える傾向がある。CIE(国際照明委員会)によって開発された色彩のCIE Labモデルでは、これらの色彩は0より大きいaおよび0より著しく大きいbに相当する。このモデルにおける理想は、より弱い色彩をもたらし、グレーの色合い(より中間色)にし、それ故により気持ちの良い傾向である構成要素aおよびbが0に近い値を得ることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、改良された太陽光保護グレージングを製造するために太陽放射に作用する新規な薄膜多層被覆膜を提供することである。目的とする改良は、特に被覆膜を支えている基板がガラスタイプのものであるときに、どのような損傷もなく熱処理(強化および曲げのため)に耐える機能を維持しつつ反射の低減および/又は所定の光透過率値に対する色彩の中性化である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの目的は、太陽放射線に作用する薄膜多層被覆膜が設けられたグレージング機能を有する透明基板である。本発明によれば、前記被覆膜は両側に誘電性材料を含む2つの透明層が配置された少なくとも2つの吸収性の機能層を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
有利には、
- 前記機能層が、ニオブ、タンタル、ジルコニウムおよびモリブデンからなる群に属し、好適にはニオブである金属に基づく、
- 前記機能層の少なくとも1つの金属が、部分的に又は全面的に窒化されている、
- 前記基板が、窒化された金属に基づく機能層と窒化されていない金属に基づく機能層との少なくとも1つの交互、又は窒化されていない金属に基づく機能層と窒化された金属に基づく機能層との少なくとも1つの交互を有し得る、
- 前記誘電材料が、アルミニウムを添加しているか又はしていない窒化ケイ素に基づき得る、
- 犠牲層が、場合によりチタン又はニッケル−クロムに基づき且つ厚さが1nm〜3nmの間にあるほぼ数nm、又は1nm未満であり、側面に位置する機能層の少なくとも1つと誘電層の少なくとも1つとの間に間置され得る、
- 誘電層の少なくとも1つが、Si/SiO又はSi/SiO/Siのようなハイ・インデックス(高指数)とロウ・インデックス(低指数)との交互で構成され得る、
- 機能層の厚さの合計が最大限でも50nmであり且つ複数の機能層の厚さが実質的に同じである、
- 基板が強化可能、曲げ可能および/又はエナメル加工可能であり得る、および
- 基板が、透明な又は大部分薄い色のついたガラスで作製され、又は柔軟な又は剛性透明高分子材料で作製され得て、- 基板がラッカー又はエナメル状での被覆膜により少なくとも部分的に混濁され得る。
【0012】
また、本発明は、上記の基板を組み込んでいる単一グレージング(すなわち、単一基板からなる)又は二重グレージングタイプの絶縁多重グレージングに関する。好適には、前記薄膜多層被覆膜は、基板を備えている客室又は部屋の外側から内側に基板の複数の面に番号を付けて面2にあり、グレージングに太陽放射線保護効果を与える。(従来は、基板の面1が外側に面し、そして二重グレージングの場合、面3が第1の基板の面2に面している第2の基板の内側の面を構成し、そして面4が第2の基板の外側面を構成している。)
【0013】
有利には、本発明のグレージングは、特に負のaおよびb値を有して、ほとんど青色/緑色であり得る。
また、本発明は、上記の混濁した基板を組み込んでいる建築物の壁面のカーテンウォールタイプの被覆パネルに関する。
本発明の他の特徴および有利な点は限定しない実施例によって示される本発明の以下のいくつかの実施態様の記載を通じて明らかになるであろう。
【0014】
それゆえ、本発明によって提供される解決策は、両側に透明誘電性材料からなる2つの層が配置された吸収性の機能層の少なくとも2つを有する薄膜多層被覆膜からなる。
有利には、
- 吸収性機能層が、それ自体又は混合して用いられる、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)およびジルコニウム(Zr)から選択される金属で作製されているか、又はこれら金属の1つの窒化物(MoN、NbN、TaN、ZrN)に基づく、
- 前記機能層が両側に位置する層の前記透明誘電性材料が好適には窒化ケイ素(Si)である。
【0015】
本発明によれば、前記多層被覆膜の実施態様は以下のもの:
- ガラス基板/Si/NbN/Si/NbN/Si
- ガラス基板/Si/NbN/Si/Nb/Si
- ガラス基板/Si/Nb/Si/NbN/Si
であり得る。
各機能層Nb又はNbNは、誘電材料(示した例ではSi)からなる2つの層が両側に配置されていることを指摘しなければならない。
【0016】
前記のMo、Nb、Ta又はZrタイプの機能層は、特に安定であり光学的特性を低下させることなくさまざまな熱処理を受け得る。特に、例えばニオブは、光学的性質を変更するアニーリング処理の間に部分的に窒化されることになる。モリブデンは非常に容易に酸化され且つ透明になる傾向を有している。また、窒化タイプ、特には窒化ニオブからなる機能層は高い水準の化学安定性を有している。
【0017】
機能層は、可視領域で吸収性であることを意味する吸収性でなければならない。一般的に、薄膜は可視領域におけるいくつかの光線を吸収するときに吸収性であるといわれる。
【0018】
NbN機能層の厚さは、それぞれ10nm程度であり(2つの層の厚さの合計は40〜50nmを越えない)、国際特許公開第2001/21540号に記載の単一の機能層のみが用いられている(Si/NbN/Siに相当する多層被覆膜)従来技術の解決策は、その厚さはむしろ数十nm程度である。前記複数の機能層の厚さは、被覆膜に必要とされる望ましい光透過率Tに従って調整される。
【0019】
有利には、複数の薄い機能層は、例えばチタンに基づく薄い犠牲層が両側に配置され得る。それゆえ、犠牲層は機能層と誘電層との間に挿入される。犠牲層の目的は、Nb、Ta又はZr層の金属特性(強化されていない状態での)を保護することである。1つの可能性のある例は、チタン(Ti)犠牲層を有する次の多層被覆膜:ガラス/Si/Ti/Nb/Ti/Si/Ti/Nb/Tiである。これらの犠牲層の厚さは1nm〜3nmの数nm程度、又は1nm未満である。
変形として、チタンはニッケル−クロムで置き換えられ得る。
【0020】
透明誘電層の厚さは、建物の内側からと外側からの両方で見た被覆膜の色彩を調整するために選択され得る。Tの任意の値に対して、本発明による薄膜多層被覆膜の使用は、
- 反射の水準を著しく低減すること、および
- 反射での色彩をより中性にする(Lab系でのaおよびbが0近づく傾向にある)又はほとんど青色/緑色(aおよびbが負の値を有する)を得ること
を可能にする。
【0021】
1つ以上の透明誘電層が、例えばSi/SiO又はSi/SiO/Siのようなハイ・インデックスおよびロー・インデックス層の交互で置き換えられ得る。
【0022】
また、有利には、窒化ケイ素に基づいている多層被覆膜の複数の層は、ケイ素と比べて小部分の金属、例えば特にアルミニウムを、透明誘電材料で作製されている層を構成する複合物の5〜10質量%の含有量で含有し得る。これは、ケイ素ターゲットが、ドープされていない場合に伝導性が不足しているマグネトロンスパッタリング、すなわち磁気増幅スパッタリングによる膜の堆積速度を増加させるのに役立つ。
加えて、前記金属は窒化物により高い耐久性を与え得る。
【実施例】
【0023】
以下の実施例は、本発明のさまざまな実施態様を示し、そして従来技術によって得られた多層被覆膜および本発明による多層被覆膜の特性を比較することを可能とする。
以下の実施例では、複数の層が磁気増幅(マグネトロン)スパッタリングにより、室温で厚さ4mmのガラス基板上に堆積された。
【0024】
これらの実施例では、
- 光学的透過率Tは光源D65の下での光透過率(%)であり、
- 外部反射率Routは、薄膜多層被覆膜で被覆されたガラスが面2(基板の面に番号をつける前記の従来のシステムを用いて)に多層被覆膜を用いた部屋の中の単一グレージングとして取り付けられているとき、部屋又は建物のガラス側で測定した反射率(%)であり、
- 内部反射率(Rin)は、薄膜多層被覆膜で被覆されたガラスが面2に多層被覆膜を用いた部屋の中の単一グレージングとして取り付けられているとき、部屋又は建物の被覆膜側で測定した反射率(%)であり、
- aおよびb(外部)又はaおよびb(内部)は、(L、a、b)比色分析モデルによる外部(又は内部)反射での比色分析座標である。
【0025】
比較例1
【0026】
【表1】

【0027】
この比較例において、被覆膜No.1は、国際特許公開第2001−21540号に記載の従来技術に相当する単一のNbN層(機能層)が25nmの厚さを有するガラス/Si/NbN/Siタイプのものである。被覆膜No.2は、本発明によるガラス/Si/NbN/Si/NbN/Siタイプのものであり、第1のNbN機能層の厚さが10nmで第2のNbN層の厚さが13nmである。被覆膜No.2の2つのNbN層の合計の厚さは被覆膜No.1の単一層の厚さと実質的に等しい(25nmと比較して13+10nm)。被覆膜No.2の場合、第1のSi層(ガラスVに隣接した層)の厚さは30〜50nmであり、第2のSi層の厚さは60〜80nmであり、第3の層の厚さは30〜50nmである。
【0028】
同じ光透過率T(20%)および同様のNbN厚さに対して、内部および外部のいずれも被覆膜No.2の反射係数が被覆膜No.1のそれよりも極めて低いことは指摘されるべきである。加えて、部屋の内側でのaおよびb値がわずかにマイナスである。これが相対的に中性色(被覆膜No.1よりも黄色の程度が低い)を作り出す。
【0029】
比較例2
この実施例は、タイプ:
ガラス/Si/NbN/Si/NbN/Si
の多層被覆膜に関する。
さまざまな層の厚さ(nm)が次の表に示されている。
【0030】
【表2】

【0031】
ほぼ20%程度の光透過率Tに対して、以下の結果が得られた。
=21%、
out=9.0、a=−2.5、b=−18.1(ガラス側)、及び
in=16.9、a=−4.8、b=0.7(被覆膜側)
【0032】
outはガラス側から見た被覆膜の反射係数であって、aおよびb値はガラス側から見た色彩に相当し、Rinおよび相当するaおよびb値は被覆膜から多層被覆膜を見たときの値である。NbN二重層被覆膜の使用は被覆膜側およびガラス側で低い反射値が得られること、またガラス側での非常に顕著な青色と被覆膜側でわずかな緑色を可能とする。
【0033】
以下の反対の例は、従来技術のガラス/Si/NbN/Siタイプの単一機能層を有する2つの被覆膜に関する。異なる厚さ(nm)の2つのシリーズが以下の表に示されている。
【0034】
【表3】

【0035】
同じ光透過率値Tに対して、単一のNbN機能層を有する被覆膜の使用は、被覆膜側でのこの低いおよび/又は中性のおよび/又は青色/緑色の光反射値を得ることを可能にしないことは指摘されるべきである。
【0036】
比較例3
いくつかの応用のために、機能層と誘電層との間に介在させた犠牲層を加えることが有益であり得る。犠牲層は、機能層の金属的特性(強化されていない状態で)を保護することを意図されている。有利には、この犠牲層は比較的小さい厚さ(通常は≦1nm)を有するチタンに基づき得る。
この実施例は、1つ又は複数のニオブ機能層の両側に位置しているチタン犠牲層が備わっている2つの多層被覆膜に関し、1つ(No.1)は従来技術により、
ガラス/SiN/Ti/Nb/Ti/SiN
そして、もう1つ(No.2)は本発明による。
ガラス/SiN/Ti/Nb/Ti/SiN/Ti/Nb/Ti/SiN
【0037】
【表4】

【0038】
被覆膜No.1のNb層の厚さは30nmであり、被覆膜No.2の2つのNb層の厚さの合計(20nm)よりわずかに大きい。
同じ光透過率係数Tに対して、2つの機能層を有する被覆膜No.2は、改善が約30%である内側(Rin)に対しておよび外側(Rout)に対しての両方で、単一の機能層を有する被覆膜No.1よりも反射が大幅に低いことは指摘されるべきである。加えて、内側に対する17〜−9のb値を有して、グレージングは黄色からもっと感じの良い青色に切り替わる。放射率εに対して得られた値は、被覆膜が比較的低いE特性(放射率は3〜50μmの波長を有する熱赤外放射線の大部分を反射する能力である。)を保っていることを示す。
【0039】
6mm/4mmタイプの二重ガラスに被覆膜No.2が組み込まれ、厚さ15mmのアルゴン層によって分けられたグレージング窓枠で、2.6W/m.KのU値が得られた同じタイプのグレージング(被覆膜No.2を有しない)と比較すべき1.5W/m.KのU倍数が得られていることは指摘されるべきである。
以下に、本発明による他の多層被覆膜構造が示されている(混成のNbN/Nb構造)。
【0040】
実施例3
ガラス/SiN(40)/NbN(8)/Ti(1)/SiN(65)/Ti(1)/Nb(8)/Ti(1)/SiN(35)
、a*out、b*outおよびRoutのデータが概して同じである実施例4(従来技術)、すなわち、
ガラス/SiN(80)/Nb(23)/SiN(28)
と比較される。
【0041】
【表5】

【0042】
以上のように、実施例3による被覆膜は、実施例4のそれと比較して内部の光学的パラメーター(a、b*)(反射での中間色)であるRin値が著しく改良されていることが目につく。
【0043】
また、変形として、混成のNb/NbN被覆膜構造が可能である。
【0044】
本発明による多層被覆膜は、曲げ可能および/又は強化可能および/又はエナメル加工可能である。「曲げ可能」および「強化可能」被覆膜とは、本発明の文脈の範囲内で、基板に堆積されたとき、特に定量化され得るCIE Lab色彩表示モデル(L、a、b)の範囲内で次:
ΔE=(ΔL+Δa+Δb
(式中、ΔL、ΔaおよびΔbは、熱処理の前と後とで測定されたL、aおよびbの差である。)
と規定されるΔ値が3未満、特に2未満の限定的な光学的変化を受けることを意味すると理解すべきである。
【0045】
本発明による多層被覆膜は、カーテンウォールの場合に特に有益であるエナメル加工処理を任意的に受け得る。エナメル加工はカーテンウォール状のグレージングを不透明にすることを可能にする。本発明による多層被覆膜は、同様の多層被覆膜を備えた窓グレージングと比べて外部反射における光学的外観の目に見える変化なくエナメルを堆積しそして焼き固めることが可能であるという意味でエナメル加工可能である。公知の方法でエナメル組成物が堆積され得る被覆膜は、被覆膜に光学的欠陥が見えず且つ上記のように定量化され得る限定された光学的変化しかない場合、「エナメル加工可能」であるといわれている。また、このことは、エナメルと接触している被覆膜の多層が、ひとたびグレージングが取付けられたらエナメルが焼き固められていようとあるいは時間が経過していようと、厄介な劣化を被ることなく満足のいく耐久性を有していることを意味する。
【0046】
本発明による多層被覆膜は、透明なあるいは薄い色の付いたバルクガラス基板が用いられるときに有益である。しかしながら、その曲げ可能又は強化可能な特性を充分に引き出すことを求めないで、ガラス基板と、特にガラス代用品として剛性透明高分子材料、例えばポリカーボネート又はポリメチルメタクリレート(PMMA)、又は他の柔軟な高分子材料、例えば特定のポリウレタン又はポリエチレンテレフタレート(PET)で作製された非ガラス基板の両方を用いて、単にその充分な耐久性を求めることも同様に可能であり、この場合柔軟な材料は様々な手段により又は積層工程を用いて、付着させて機能的にするように剛性基板につなぎ合わせ得る。
【0047】
本発明は、単一の機能層を有する被覆膜を用いては容易に得られない低反射値および青色あるいは緑色を活用する色彩を有する太陽光制御グレージングを得ることを可能にする。
記載しそして示したもの以外の実施態様は、本発明の範囲を離れることなく当業者によって設計され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽放射線に作用する薄膜多層被覆膜が設けられたグレージング機能を有する透明基板であって、前記被覆膜が、両側に誘電性材料を含む2つの透明層がそれぞれ配置された、ニオブ、タンタル、モリブデンおよびジルコニウムからなる群に属す金属に基づく少なくとも2つの吸収性の機能層を有することを特徴とする、前記基板。
【請求項2】
前記機能層が、ニオブに基づくことを特徴とする請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記機能層の少なくとも1つの金属が、部分的に又は完全に窒化されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の基板。
【請求項4】
前記機能層の全ての金属が、窒化されていることを特徴とする請求項3に記載の基板。
【請求項5】
前記基板が、窒化された金属に基づく機能層と窒化されていない金属に基づく機能層との少なくとも1つの交互、又は窒化されていない金属に基づく機能層と窒化された金属に基づく機能層との少なくとも1つの交互を有することを特徴とする請求項3に記載の基板。
【請求項6】
前記誘電材料が、窒化ケイ素に基づくことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の基板。
【請求項7】
前記誘電材料が、アルミニウムを添加されていることを特徴とする請求項6に記載の基板。
【請求項8】
前記アルミニウムが、5〜10質量%の割合であることを特徴とする請求項7に記載の基板。
【請求項9】
前記機能層の少なくとも1つとその側面に位置する誘電層の少なくとも1つとの間に犠牲層が介在していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の基板。
【請求項10】
前記犠牲層が、チタン又はニッケル−クロムに基づいていることを特徴とする請求項9に記載の基板。
【請求項11】
前記犠牲層の厚さが、1nm〜3nmの間にあるほぼ数nmであることを特徴とする請求項9に記載の基板。
【請求項12】
前記誘電層の少なくとも1つが、Si/SiO又はSi/SiO/Siのようなハイ・インデックスとロウ・インデックスの層の交互で作製されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の基板。
【請求項13】
前記複数の機能層の厚さの合計が最大でも50nmであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の基板。
【請求項14】
前記複数の機能層の厚さが実質的に同じであることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の基板。
【請求項15】
基板が強化可能、曲げ可能および/又はエナメル加工可能であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の基板。
【請求項16】
基板が透明な又は薄い色のついたバルクガラスで作製されているか、又は柔軟なあるいは剛性な透明高分子材料で作製されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の基板。
【請求項17】
基板がラッカー又はエナメル状での被覆膜によって少なくとも部分的に不透明化されていることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の基板。
【請求項18】
前記薄層多層被覆膜が、基板を備えている客室又は部屋の外側から内側に基板の複数の面に番号を付けて好適には面2にあり、基板に太陽放射保護効果を与える、請求項1〜17のいずれか1項に記載の基板を組み込んだモノリスグレージング又は二重グレージング。
【請求項19】
ほとんど青色/緑色であ、特に負のaおよびb値を有していることを特徴とする請求項19に記載のガラス。
【請求項20】
請求項17に記載の不透明にした基板を組み込んだ、建築物の壁面のカーテンウォールタイプの被覆パネル。

【公表番号】特表2011−520755(P2011−520755A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510023(P2011−510023)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050881
【国際公開番号】WO2009/150343
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】